TypeScriptのデコレーター機能を使用すると、クラスのメソッドやプロパティに対して追加の振る舞いや情報を付与することができます。特にプロパティデコレーターを使うことで、オブジェクトのプロパティにメタデータを付与し、後からその情報を利用して様々な操作を行うことが可能です。この記事では、プロパティデコレーターを用いたメタデータの付与方法と、実際の開発シーンでの活用方法について詳しく解説します。TypeScriptを使用した高度な機能を活かし、より柔軟で拡張性の高いコードを作成するための第一歩として役立つでしょう。
TypeScriptにおけるデコレーターの概要
デコレーターは、TypeScriptの強力なメタプログラミング機能の一つで、クラスやそのメンバーに対して動的に振る舞いを付与できる仕組みです。デコレーターを使うことで、コードの構造や動作に対して追加の操作や変更を行うことができます。これは、クラスやメソッド、プロパティ、アクセサ、パラメーターなどに対して適用可能です。
TypeScriptにおけるデコレーターは、以下のような特徴を持っています。
デコレーターの種類
デコレーターには、主に以下の4種類が存在します。
- クラスデコレーター:クラス全体に対して動作を追加する。
- メソッドデコレーター:特定のメソッドに対して動作を追加する。
- アクセサデコレーター:getterやsetterに対して動作を追加する。
- プロパティデコレーター:クラスのプロパティに対してメタデータや動作を付与する。
この記事では、プロパティデコレーターに焦点を当てて、メタデータの付与方法を解説します。デコレーターは特定のフレームワークやツールとの連携で特に有効で、クラスベースのコードをより強化する手段として活用されています。
プロパティデコレーターとは
プロパティデコレーターは、TypeScriptのクラスプロパティに対してメタデータや振る舞いを追加するための機能です。これにより、プロパティ自体に特定の情報を付与し、その情報を後から参照したり、動的に操作することが可能になります。
プロパティデコレーターの主な用途
プロパティデコレーターは、以下のような場面で役立ちます。
- メタデータの付与:オブジェクトのプロパティに追加情報を持たせ、後でその情報を使って操作や処理を行うことができる。
- バリデーション:データのバリデーション処理を容易にし、例えば特定のプロパティに特定の型や値の制約を設定する。
- シリアライズ・デシリアライズ:オブジェクトをJSONなどのフォーマットに変換する際に、特定のプロパティを含めるかどうかなどを管理する。
実用例
例えば、データベースモデルのクラスでプロパティデコレーターを使用し、特定のプロパティがデータベースのカラムとして扱われることを示すメタデータを付与することができます。このように、プロパティデコレーターはクラス設計の柔軟性を高め、再利用可能なコードの作成に役立ちます。
メタデータの役割とメリット
メタデータとは、データに関する追加情報を指し、プロパティデコレーターを使ってオブジェクトのプロパティに付与することができます。メタデータは、通常のデータと区別され、プログラム実行時にさまざまな処理を行うための補助的な情報として活用されます。
メタデータの役割
プロパティデコレーターを使って付与されるメタデータの役割は、次のようなものがあります。
- 補足情報の付加:プロパティに関する補足的な情報を記録し、そのプロパティがどのように扱われるべきかを示します。
- 動的な振る舞いの変更:特定のプロパティに付与されたメタデータに基づいて、動的に動作を変更したり、処理を加えることが可能です。
- コンポーネント間のデータ共有:フレームワークやライブラリが、プロパティに付与されたメタデータを利用して、コンポーネントやモジュール間でデータを共有することができます。
メタデータを利用するメリット
プロパティにメタデータを付与することには、次のようなメリットがあります。
- コードの簡潔化:プロパティに直接メタデータを付与することで、コードが整理され、冗長な処理を避けることができます。たとえば、データバリデーションや変換処理を一元化できます。
- 再利用性の向上:メタデータを活用することで、特定の処理を汎用的に扱うことができ、異なる場所でも簡単に適用できます。
- 拡張性の向上:新しい要件が追加された場合、メタデータを活用して柔軟にシステム全体の挙動を変更することができます。これにより、クラスやプロパティの振る舞いを簡単にカスタマイズできます。
このように、メタデータを活用することで、より柔軟でメンテナンスしやすいシステム設計が可能となり、長期的な開発においても大きな利点をもたらします。
プロパティデコレーターの基本構文
TypeScriptにおけるプロパティデコレーターの構文は比較的シンプルで、関数として定義され、対象のプロパティに適用されます。プロパティデコレーターは、クラスのプロパティに対して追加の処理を行うために使用され、関数の形で定義されます。
プロパティデコレーターの基本的な構文
プロパティデコレーターは以下のように定義されます。
function プロパティデコレーター(target: Object, propertyKey: string | symbol) {
// デコレーターのロジック
}
- target:デコレーターが適用されるオブジェクト、つまりクラスのインスタンスを指します。
- propertyKey:デコレーターが適用されるプロパティの名前を表します。
プロパティデコレーターの実装例
以下は、プロパティにログを出力する簡単なプロパティデコレーターの例です。
function logProperty(target: any, propertyKey: string) {
console.log(`${propertyKey} プロパティにデコレーターが適用されました`);
}
class User {
@logProperty
name: string;
constructor(name: string) {
this.name = name;
}
}
const user = new User('Taro');
// "name プロパティにデコレーターが適用されました" がコンソールに表示される
この例では、logProperty
というデコレーターを作成し、User
クラスのname
プロパティに適用しています。@logProperty
によって、name
プロパティにアクセスする際にログが出力されます。
プロパティデコレーターの実装手順
- デコレーター関数を作成する。
- クラスのプロパティにデコレーターを適用する。
- 実際にプロパティにアクセスする際、デコレーターの処理が実行される。
このように、プロパティデコレーターはシンプルな構文で柔軟にプロパティの動作を拡張することができます。次のステップでは、このデコレーターを使ってメタデータを付与する方法を詳しく解説します。
Reflect Metadataライブラリの導入
TypeScriptでプロパティデコレーターを使ってメタデータを付与するためには、Reflect Metadata
ライブラリが非常に便利です。このライブラリは、TypeScriptデコレーターと共に使用され、メタデータを扱うための標準的な方法を提供します。メタデータの定義、取得、操作を簡単に行えるため、デコレーターの有用性が大幅に向上します。
Reflect Metadataライブラリのインストール
まず、Reflect Metadata
をプロジェクトに導入する必要があります。次のコマンドを実行してライブラリをインストールします。
npm install reflect-metadata
また、tsconfig.json
でexperimentalDecorators
とemitDecoratorMetadata
を有効にしておく必要があります。
{
"compilerOptions": {
"experimentalDecorators": true,
"emitDecoratorMetadata": true
}
}
これにより、TypeScriptでデコレーターとメタデータの機能を利用できるようになります。
Reflect Metadataの基本的な使い方
Reflect Metadataを使用すると、プロパティやメソッドにメタデータを付与したり、後から取得したりすることができます。以下に簡単な例を示します。
import 'reflect-metadata';
function metadataDecorator(metadataKey: string, metadataValue: any) {
return function (target: Object, propertyKey: string | symbol) {
Reflect.defineMetadata(metadataKey, metadataValue, target, propertyKey);
};
}
class User {
@metadataDecorator('role', 'admin')
name: string;
constructor(name: string) {
this.name = name;
}
}
この例では、metadataDecorator
というデコレーターを使って、User
クラスのname
プロパティに対してrole
というメタデータを付与しています。
Reflect Metadataの主要メソッド
Reflect Metadataライブラリには、メタデータを操作するための重要なメソッドがいくつかあります。
Reflect.defineMetadata(metadataKey, metadataValue, target, propertyKey)
メタデータを定義します。metadataKey
でメタデータの識別子を設定し、metadataValue
に対応する値を指定します。Reflect.getMetadata(metadataKey, target, propertyKey)
定義されたメタデータを取得します。metadataKey
で指定したメタデータに対応する値が返されます。Reflect.hasMetadata(metadataKey, target, propertyKey)
指定したメタデータが存在するかどうかを確認します。
これらのメソッドを使うことで、プロパティに対してメタデータを簡単に追加、取得、管理することが可能になります。次のセクションでは、実際にプロパティにメタデータを付与する具体的なコード例を見ていきます。
プロパティにメタデータを付与する実装例
Reflect Metadataを使用して、TypeScriptのプロパティにメタデータを付与する実装例を見ていきます。このセクションでは、具体的なコードを用いてメタデータをプロパティにどのように適用するかを説明します。
実装手順
Reflect Metadataを利用したメタデータの付与は、次のような手順で行います。
- デコレーター関数を定義する:メタデータを定義するデコレーターを作成します。
- プロパティにデコレーターを適用する:クラスのプロパティにデコレーターを付与します。
- メタデータを取得する:Reflect Metadataのメソッドを使って、メタデータを取り出します。
では、具体的な実装を見ていきましょう。
メタデータを付与するデコレーターの作成
以下のコードは、プロパティに対してメタデータを付与するためのデコレーターを作成する例です。このデコレーターは、プロパティにカスタムメタデータを設定します。
import 'reflect-metadata';
// メタデータを付与するデコレーター
function addMetadata(metadataKey: string, metadataValue: any) {
return function (target: Object, propertyKey: string | symbol) {
Reflect.defineMetadata(metadataKey, metadataValue, target, propertyKey);
};
}
class User {
@addMetadata('role', 'admin')
name: string;
constructor(name: string) {
this.name = name;
}
}
この例では、addMetadata
というデコレーターを作成しています。このデコレーターをUser
クラスのname
プロパティに適用し、メタデータとしてrole
というキーに対してadmin
という値を付与しています。
メタデータの取得
プロパティに付与したメタデータを取得するには、Reflect.getMetadata
を使用します。以下にそのコードを示します。
const user = new User('Taro');
const roleMetadata = Reflect.getMetadata('role', user, 'name');
console.log(roleMetadata); // 'admin' が出力される
このコードでは、user
インスタンスのname
プロパティに付与されたrole
メタデータを取得し、コンソールに出力しています。このようにして、任意のプロパティに付与したメタデータを簡単に取得できます。
メタデータを使用する利点
このようにプロパティにメタデータを付与することで、次のような利点があります。
- 動的な振る舞いの追加:クラスやプロパティに応じて動的に処理を変更できる。
- コードの柔軟性:再利用可能なデコレーターを作成することで、コード全体のメンテナンス性が向上します。
- 簡単なメタデータ管理:Reflect Metadataを利用することで、メタデータの定義や取得が一貫した方法で行えるため、コードが読みやすくなります。
この実装例をもとに、次はメタデータの取得やその応用方法についてさらに詳しく解説していきます。
メタデータの取得と活用方法
Reflect Metadataを使用してプロパティに付与したメタデータは、実行時に取得し、さまざまな形で活用することが可能です。ここでは、付与したメタデータの取得方法と、それをどのように活用できるかについて詳しく解説します。
メタデータの取得方法
メタデータはReflect.getMetadata
メソッドを使用して取得します。以下の例では、前に付与したメタデータを取得し、活用する様子を示しています。
import 'reflect-metadata';
// メタデータを取得する
const user = new User('Taro');
const roleMetadata = Reflect.getMetadata('role', user, 'name');
console.log(roleMetadata); // 'admin' と表示される
このコードでは、User
クラスのname
プロパティに付与されたrole
メタデータを取得し、その値をコンソールに出力しています。このように、プロパティに付与されたメタデータを簡単に取得することができます。
メタデータの活用例
メタデータは、実際の開発シーンでさまざまな形で活用できます。以下にいくつかの具体的な活用例を示します。
1. バリデーションに活用
メタデータを活用して、オブジェクトのプロパティが特定の条件を満たしているかどうかをチェックするバリデーションロジックを実装できます。以下は、メタデータを使った簡単なバリデーションの例です。
function validateUser(user: User) {
const roleMetadata = Reflect.getMetadata('role', user, 'name');
if (roleMetadata !== 'admin') {
throw new Error('許可されていないユーザーです');
}
}
const user = new User('Taro');
validateUser(user); // メタデータが 'admin' なのでエラーは発生しない
この例では、validateUser
関数がrole
メタデータを取得し、それに基づいてユーザーの権限をチェックしています。メタデータが特定の値に合致しない場合、エラーを発生させることで、簡単なバリデーションを実現しています。
2. シリアライズ/デシリアライズに活用
メタデータを使用して、オブジェクトをシリアライズやデシリアライズする際に、特定のプロパティを含めるかどうかを制御することも可能です。例えば、以下のように特定のプロパティだけをシリアライズ対象にすることができます。
function serializeUser(user: User) {
const keys = Object.keys(user);
const serializedData: any = {};
keys.forEach(key => {
if (Reflect.getMetadata('serializable', user, key)) {
serializedData[key] = user[key];
}
});
return JSON.stringify(serializedData);
}
class User {
@addMetadata('serializable', true)
name: string;
@addMetadata('serializable', false)
password: string;
constructor(name: string, password: string) {
this.name = name;
this.password = password;
}
}
const user = new User('Taro', 'secret');
console.log(serializeUser(user)); // {"name":"Taro"} が出力される
この例では、name
プロパティのみがシリアライズ対象となり、password
プロパティは含まれません。メタデータを活用することで、柔軟なシリアライズロジックを実現できます。
メタデータ活用のメリット
メタデータを活用することで、以下のようなメリットがあります。
- 柔軟な処理のカスタマイズ:メタデータに基づいてプロパティの動作を動的に変更することが可能です。これにより、コードの汎用性と再利用性が向上します。
- コードの見通しが良くなる:デコレーターを利用することで、メタデータを付与する処理が明確になり、コードの可読性が向上します。
- 複雑な処理の簡略化:シリアライズやバリデーションなどの処理が、メタデータを用いることで簡単に行えるようになります。
次のセクションでは、メタデータを利用した応用例として、データバリデーションの実装を紹介します。これにより、さらにメタデータの強力な活用方法を理解できるでしょう。
応用例: データバリデーションでの活用
メタデータを使った応用例として、データバリデーションの実装を見ていきます。メタデータを用いることで、クラスのプロパティにバリデーションルールを付与し、実行時にそのルールを基にデータの正当性をチェックすることが可能です。このような仕組みは、入力の検証やフォームのデータチェックなど、多くの場面で活用できます。
バリデーションデコレーターの作成
まず、プロパティにバリデーションルールを付与するためのデコレーターを作成します。このデコレーターは、メタデータとしてバリデーションルールを設定します。
import 'reflect-metadata';
// バリデーションルールを追加するデコレーター
function required(target: Object, propertyKey: string | symbol) {
Reflect.defineMetadata('required', true, target, propertyKey);
}
function minLength(length: number) {
return function(target: Object, propertyKey: string | symbol) {
Reflect.defineMetadata('minLength', length, target, propertyKey);
};
}
このコードでは、required
デコレーターとminLength
デコレーターを作成しています。required
デコレーターは、プロパティが必須であることを示し、minLength
デコレーターはプロパティの値が指定された最小の文字数を満たすかどうかをチェックします。
バリデーションロジックの実装
次に、メタデータを基に実際のバリデーションを行うロジックを実装します。メタデータを利用して、プロパティの値がルールに従っているかをチェックします。
function validate(object: any) {
const keys = Object.keys(object);
let isValid = true;
keys.forEach(key => {
const requiredMeta = Reflect.getMetadata('required', object, key);
const minLengthMeta = Reflect.getMetadata('minLength', object, key);
if (requiredMeta && !object[key]) {
console.log(`${key} は必須項目です`);
isValid = false;
}
if (minLengthMeta && object[key].length < minLengthMeta) {
console.log(`${key} は最低 ${minLengthMeta} 文字必要です`);
isValid = false;
}
});
return isValid;
}
このvalidate
関数は、対象のオブジェクトに対してメタデータを参照し、required
やminLength
のルールに基づいてバリデーションを行います。
実際のバリデーションの実装例
最後に、バリデーションを適用するクラスを定義し、バリデーション処理を実行します。
class User {
@required
@minLength(5)
username: string;
constructor(username: string) {
this.username = username;
}
}
const user = new User('Tom');
if (!validate(user)) {
console.log('バリデーションに失敗しました');
} else {
console.log('バリデーションに成功しました');
}
このコードでは、User
クラスのusername
プロパティに対してrequired
とminLength(5)
のバリデーションルールを設定しています。validate
関数が実行されると、username
が必須であること、また5文字以上であることをチェックします。
実行結果として、username
が5文字に満たない場合は、コンソールに以下のメッセージが表示されます。
username は最低 5 文字必要です
バリデーションに失敗しました
一方、条件を満たしていれば、バリデーションが成功したメッセージが表示されます。
バリデーションの拡張性
このバリデーションシステムは、簡単に拡張することが可能です。例えば、maxLength
やpattern
といった新しいルールを追加することで、さらなるバリデーション要件に対応できます。また、実際のアプリケーションに応じて、バリデーション結果をエラーメッセージとしてUIに表示することも可能です。
まとめ
メタデータを使ったバリデーションは、コードの再利用性と可読性を高め、オブジェクトの検証ロジックを簡潔に保つことができます。このような応用例は、ユーザー入力の検証やデータ処理の安全性を確保するための強力な手段となります。次のセクションでは、Reflect Metadataを他のライブラリと連携して使う方法について解説します。
Reflect Metadataと他のライブラリとの連携
Reflect Metadataは、他のライブラリと連携してより強力な機能を提供することが可能です。特に、クラスベースのフレームワークやツールで、メタデータを活用して柔軟な処理を行うシーンが多く見られます。ここでは、Reflect Metadataを使用して他のライブラリと組み合わせる方法を紹介し、実際の開発における応用例を示します。
1. クラスバリデーションライブラリとの連携
TypeScriptでは、バリデーションライブラリとしてclass-validator
が広く使用されています。このライブラリは、デコレーターを使ってクラスのプロパティに対してバリデーションルールを簡単に追加できるものです。Reflect Metadataと組み合わせることで、データバリデーションを非常に効率的に実装できます。
以下は、class-validator
とReflect Metadataを利用した連携例です。
import 'reflect-metadata';
import { validate, IsEmail, MinLength } from 'class-validator';
class User {
@IsEmail()
email: string;
@MinLength(5)
username: string;
constructor(email: string, username: string) {
this.email = email;
this.username = username;
}
}
const user = new User('invalid-email', 'Tom');
validate(user).then(errors => {
if (errors.length > 0) {
console.log('バリデーションエラー:', errors);
} else {
console.log('バリデーションに成功しました');
}
});
この例では、class-validator
のデコレーターでemail
フィールドに対してメールアドレス形式かどうか、username
フィールドに対して最低5文字というバリデーションルールを適用しています。Reflect Metadataが裏で動作しており、簡潔なバリデーションロジックを実現しています。
2. ORMライブラリとの連携
TypeScriptのオブジェクトリレーショナルマッピング(ORM)ライブラリであるTypeORM
でも、Reflect Metadataを利用してデータベースのエンティティ(テーブル構造)とクラスのプロパティをマッピングすることができます。これにより、データベースのテーブルに対応するクラスを簡単に定義し、データ操作を行うことが可能です。
以下は、TypeORM
とReflect Metadataを使用してエンティティを定義する例です。
import { Entity, Column, PrimaryGeneratedColumn } from 'typeorm';
@Entity()
class User {
@PrimaryGeneratedColumn()
id: number;
@Column()
username: string;
@Column()
password: string;
}
この例では、User
クラスがデータベースのusers
テーブルに対応しています。各プロパティには@Column()
デコレーターを適用しており、Reflect Metadataがこれを元にデータベースとクラスのプロパティをマッピングしています。
3. IoC(依存性注入)ライブラリとの連携
Reflect Metadataは、依存性注入(IoC: Inversion of Control)ライブラリとも密接に連携します。例えば、InversifyJS
などのIoCコンテナライブラリを使うと、クラスに対して依存性を動的に注入し、メタデータを活用して依存性の管理を行うことができます。
import 'reflect-metadata';
import { injectable, inject, Container } from 'inversify';
@injectable()
class DatabaseService {
connect() {
console.log('データベースに接続しました');
}
}
@injectable()
class UserService {
constructor(@inject(DatabaseService) private dbService: DatabaseService) {}
createUser() {
this.dbService.connect();
console.log('ユーザーを作成しました');
}
}
const container = new Container();
container.bind(DatabaseService).to(DatabaseService);
container.bind(UserService).to(UserService);
const userService = container.get(UserService);
userService.createUser();
この例では、InversifyJS
を使ってUserService
にDatabaseService
を依存性として注入しています。Reflect Metadataがクラスとその依存性を管理し、インスタンスの生成を効率化しています。
Reflect Metadataと連携する利点
Reflect Metadataを他のライブラリと連携して使用することで、次のような利点があります。
- コードの簡潔化:デコレーターを使った設定により、複雑な設定や依存性の管理をシンプルに行えます。
- 動的な機能拡張:クラスやプロパティに対するメタデータを元に、動的に機能を追加することが可能です。
- 再利用性の向上:メタデータを利用した処理は抽象化され、異なるライブラリやフレームワークでも再利用できます。
Reflect Metadataは、TypeScriptのエコシステムにおいて重要な役割を果たしており、他のライブラリと組み合わせることで、強力で柔軟な開発環境を提供します。次のセクションでは、Reflect Metadataやプロパティデコレーターを使ったコードのテスト方法と注意点について解説します。
テスト方法と注意点
Reflect Metadataやプロパティデコレーターを使用したコードのテストは、通常のTypeScriptコードとほぼ同じ方法で行えますが、デコレーターによってメタデータがどのように影響を与えるかを確認するためにいくつかの特別な注意が必要です。このセクションでは、プロパティデコレーターを使ったコードのテスト方法と、その際に気をつけるべきポイントを解説します。
プロパティデコレーターのテスト方法
プロパティデコレーターを使用したコードのテストでは、メタデータが正しく付与され、期待通りに動作するかを確認することが重要です。以下は、Jestを使用したテストの例です。
import 'reflect-metadata';
import { User } from './User';
describe('User class metadata tests', () => {
it('should have "role" metadata with value "admin"', () => {
const user = new User('Taro');
const roleMetadata = Reflect.getMetadata('role', user, 'name');
expect(roleMetadata).toBe('admin');
});
});
このテストでは、Reflect.getMetadata
を使ってUser
クラスのname
プロパティに付与されたrole
メタデータが"admin"
であるかどうかを確認しています。メタデータが正しく定義されていれば、このテストは成功します。
メタデータのテストにおける注意点
- メタデータが定義されているかを確認する
メタデータはデコレーターによって付与されるため、Reflect.hasMetadata
を使って特定のプロパティにメタデータが存在するかをチェックするテストも有効です。
it('should have metadata for the name property', () => {
const user = new User('Taro');
const hasMetadata = Reflect.hasMetadata('role', user, 'name');
expect(hasMetadata).toBe(true);
});
- テストの順序依存に注意
デコレーターによってメタデータはクラスやプロパティに付与されるため、テストの順序が依存することがないように注意しましょう。各テストは独立して実行されるべきです。 - デコレーターの副作用に注意
デコレーターを使うと、クラスやプロパティに動的な変更が加わるため、テスト中に意図しない副作用が発生することがあります。例えば、デコレーターがプロパティの初期化に影響を与える場合、テスト対象のクラスやプロパティの状態が予期せぬものになる可能性があります。このような場合、適切なモックやスタブを使ってテスト環境を整えることが重要です。
Reflect Metadataのテストに関する注意点
- Reflect Metadataの依存
Reflect Metadataを使用する場合、reflect-metadata
ライブラリのインポートが必要です。テスト環境でもこれを忘れずにインポートする必要があります。メタデータが利用できない場合、テストが失敗する可能性があります。 - 依存性の注入のテスト
他のライブラリと組み合わせて使用する場合(例えば、依存性注入を行うInversifyJSなど)、テスト環境では依存性のモックを適切に設定することが重要です。依存するクラスやメソッドが実際のテストに影響を与えないように、依存性を管理します。
テストを行う際のベストプラクティス
- テストの粒度を保つ:デコレーターによって追加される機能が、他のロジックに影響を与えないか確認するために、デコレーターの効果だけを検証するユニットテストを行うことが推奨されます。
- メタデータの存在を確認する:特にバリデーションやシリアライズなど、メタデータに依存する処理を行う際には、正しいメタデータが付与されているかどうかを逐一確認するテストが必要です。
Reflect Metadataやプロパティデコレーターを使ったコードのテストは、デコレーターによってメタデータがどのように扱われているかを意識しながら行う必要があります。テストが通ることで、メタデータを利用したロジックが正しく動作していることを確認できます。
まとめ
本記事では、TypeScriptにおけるプロパティデコレーターを使用して、オブジェクトのプロパティにメタデータを付与する方法について解説しました。Reflect Metadataを使うことで、プロパティに追加情報を付与し、柔軟なバリデーションやシリアライズ、他のライブラリとの連携が可能となります。さらに、デコレーターを活用したコードのテスト方法や注意点についても紹介しました。これにより、開発において拡張性と再利用性の高いコードを実現できるでしょう。
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