TypeScriptにおける静的メソッドの利用は、クラスのインスタンスを生成せずにメソッドを呼び出すことができる便利な方法です。オブジェクト指向プログラミングでは、通常クラスのインスタンスを生成してからそのメソッドを呼び出すのが一般的ですが、静的メソッドを使えばクラスそのものを通して直接メソッドを呼び出すことが可能です。本記事では、TypeScriptでクラスをインスタンス化せずに静的メソッドを利用する方法を詳しく解説し、その利点や実際の使用例について見ていきます。
静的メソッドとは
静的メソッドとは、クラスのインスタンスを生成せずにクラス自体を通じて呼び出すことができるメソッドのことです。通常、クラスメソッドはそのクラスのインスタンスに関連付けられていますが、静的メソッドはクラス全体に関連付けられており、インスタンス固有の状態に依存しない機能を提供します。TypeScriptや他の多くのオブジェクト指向言語では、static
キーワードを用いて静的メソッドを定義します。
通常のメソッドとの違い
通常のメソッドは、クラスのインスタンス化後に、そのインスタンスを通じて呼び出されますが、静的メソッドはクラス自体で呼び出すため、インスタンスを必要としません。具体的には、以下のような違いがあります:
- インスタンスメソッドは、インスタンス固有のデータ(プロパティ)を操作します。
- 静的メソッドは、インスタンスに依存しない共通の処理やユーティリティ的な機能を提供します。
この特性により、静的メソッドはデータを持たず、計算や汎用的な処理を行う場面で利用されます。
クラスの設計における静的メソッドの利点
静的メソッドは、クラス設計において特定のシナリオで非常に役立つ機能です。静的メソッドの最大の利点は、インスタンスを必要としないため、クラスが直接共通の処理や汎用的な機能を提供できることです。これにより、シンプルかつ効率的な設計が可能になります。
コードの再利用性と管理のしやすさ
静的メソッドは、インスタンス固有のデータに依存しないため、他のクラスやモジュールからも簡単に再利用することができます。例えば、計算や変換の処理、ユーティリティ関数などは、静的メソッドとして定義することで、広く使い回せるようになります。また、静的メソッドはクラス全体に対して共通の動作を提供するため、メソッドの動作が一貫性を保ちやすく、コードの保守性が向上します。
インスタンスの不要な生成を回避
静的メソッドを使うことで、クラスのインスタンスを生成する必要がなくなり、無駄なオブジェクトの生成を避けることができます。特に、大量のインスタンスを作成することなくクラスの機能を利用したい場合、静的メソッドは効率的です。例えば、ユーティリティクラスやヘルパー関数を持つクラスにおいて、毎回インスタンス化する必要がない場合に非常に有用です。
シンプルなAPIの提供
静的メソッドを使用することで、クラスの外部からシンプルなAPIとして機能を提供できます。ユーザーはクラスの内部構造を意識せず、ただクラス名とメソッドを呼び出すだけで機能を利用できるため、直感的でわかりやすいインターフェースを実現できます。
TypeScriptで静的メソッドを定義する方法
TypeScriptで静的メソッドを定義するのは非常にシンプルで、static
キーワードを使うだけで実現できます。静的メソッドはインスタンスに依存しないため、クラスをインスタンス化せずにクラス名を通して直接呼び出します。ここでは、具体的な定義方法を紹介します。
静的メソッドの基本的な定義
以下の例は、TypeScriptで静的メソッドを定義し、使用する基本的な方法を示しています。
class MathUtils {
// 静的メソッドの定義
static add(a: number, b: number): number {
return a + b;
}
static multiply(a: number, b: number): number {
return a * b;
}
}
// 静的メソッドの呼び出し
console.log(MathUtils.add(5, 10)); // 15
console.log(MathUtils.multiply(5, 10)); // 50
このコードでは、MathUtils
というクラスにadd
とmultiply
という2つの静的メソッドを定義しています。これらのメソッドはクラスのインスタンスを必要とせず、クラス名を通じて直接呼び出すことができます。
静的メソッドを使ったユーティリティクラスの例
静的メソッドは、共通の処理を持つユーティリティクラスに適しています。以下の例では、文字列処理を行うStringUtils
クラスを定義しています。
class StringUtils {
// 文字列の空白を除去する静的メソッド
static trimWhitespace(str: string): string {
return str.trim();
}
// 文字列を大文字に変換する静的メソッド
static toUpperCase(str: string): string {
return str.toUpperCase();
}
}
// 静的メソッドの使用例
console.log(StringUtils.trimWhitespace(" Hello World ")); // "Hello World"
console.log(StringUtils.toUpperCase("hello")); // "HELLO"
このStringUtils
クラスも、インスタンスを生成する必要がなく、直接クラス名を使ってメソッドを呼び出せます。
クラス内での静的メソッドの呼び出し
クラス内で別の静的メソッドを呼び出す際も、インスタンスを経由せずにthis
キーワードの代わりにクラス名
を用いて呼び出します。
class Example {
static methodOne() {
console.log("Method One");
}
static methodTwo() {
// 同じクラスの静的メソッドを呼び出す
Example.methodOne();
console.log("Method Two");
}
}
Example.methodTwo();
// 出力:
// Method One
// Method Two
このように、TypeScriptでは簡単に静的メソッドを定義でき、クラスの設計をより効率的に行うことが可能です。
インスタンス化せずに静的メソッドを使う利点
クラスのインスタンス化をせずに静的メソッドを利用することには、さまざまな利点があります。これは特に、複数のインスタンスを生成する必要がない場面で非常に有効です。静的メソッドは効率性やコードの簡潔さに寄与し、プロジェクトの設計をシンプルかつ強力にします。
メモリの節約
静的メソッドはクラスのインスタンスを生成しないため、インスタンスごとのメモリ使用を回避できます。これは、大量のインスタンスを生成する必要がない場合や、ただ単に共通の処理を提供するだけの場合に非常に有効です。たとえば、単純な計算や文字列操作など、状態を保持する必要がない処理を行う場合、静的メソッドで十分です。
クラスの意図を明確にできる
静的メソッドを利用することで、そのクラスがどのように使われるべきかを明確に表現することができます。クラスが主にユーティリティ的な役割を果たす場合、そのクラスをインスタンス化せずに使えることは、開発者にとって意図を理解しやすく、設計もシンプルになります。例えば、計算や変換を行うクラスであれば、その目的は「状態を持たずに処理を提供する」ことにあり、静的メソッドを用いることでその目的がはっきりします。
効率的なメソッド呼び出し
静的メソッドはクラス自体を通して直接呼び出されるため、インスタンス生成にかかるオーバーヘッドを省けます。特に、繰り返し何度も同じメソッドを呼び出す場合、毎回インスタンスを生成する必要がないことで、処理のパフォーマンスが向上します。静的メソッドは、一貫した動作を保証し、外部からは常に同じ振る舞いを提供します。
クリーンで読みやすいコード
静的メソッドを使うことで、コードをクリーンで簡潔に保つことができます。インスタンスの作成や管理が不要になるため、コードが煩雑になるのを防ぎます。以下の例では、静的メソッドを使うことで無駄なインスタンス化が省かれ、コードがシンプルになります。
class MathUtils {
static square(x: number): number {
return x * x;
}
}
// インスタンス化せずに直接呼び出し
console.log(MathUtils.square(5)); // 25
この例では、MathUtils
クラスをインスタンス化する必要がなく、直接クラス名を使ってメソッドを呼び出しています。
ユーティリティクラスでの活用
インスタンスを生成せずに使える静的メソッドは、特にユーティリティクラスで有効です。ユーティリティクラスは、共通の処理や関数を提供するために設計されており、インスタンスごとに異なる状態を保持する必要がない場合がほとんどです。静的メソッドを使うことで、クラスを呼び出すたびに新しいオブジェクトを作成する無駄が省け、効率的に処理を行えます。
これらの利点により、静的メソッドは特定の用途において非常に強力なツールであり、効率的で読みやすいコードを実現する手助けとなります。
実際の使用例
TypeScriptで静的メソッドを活用する際の具体的な使用例をいくつか紹介します。ここでは、静的メソッドがどのようなシーンで役立つかを実際のコードを通して解説します。
数値計算用ユーティリティクラス
まず、基本的な数値計算を行うためのユーティリティクラスを考えてみます。このクラスには静的メソッドを用いて、加算、減算、乗算、除算などの一般的な数学演算を提供します。
class MathUtils {
// 加算メソッド
static add(a: number, b: number): number {
return a + b;
}
// 減算メソッド
static subtract(a: number, b: number): number {
return a - b;
}
// 乗算メソッド
static multiply(a: number, b: number): number {
return a * b;
}
// 除算メソッド
static divide(a: number, b: number): number {
if (b === 0) {
throw new Error("Division by zero is not allowed.");
}
return a / b;
}
}
// 使用例
console.log(MathUtils.add(10, 5)); // 15
console.log(MathUtils.subtract(10, 5)); // 5
console.log(MathUtils.multiply(10, 5)); // 50
console.log(MathUtils.divide(10, 5)); // 2
この例では、MathUtils
クラスは加算、減算、乗算、除算といった共通の数学処理を提供しています。これらは静的メソッドとして定義されているため、クラスをインスタンス化せずに直接利用でき、シンプルで効率的です。
文字列操作のユーティリティクラス
次に、文字列操作を行うための静的メソッドを備えたユーティリティクラスの例を見てみましょう。これは、アプリケーションのさまざまな部分で再利用される基本的な文字列操作を提供します。
class StringUtils {
// 文字列を大文字に変換
static toUpperCase(str: string): string {
return str.toUpperCase();
}
// 文字列を逆にする
static reverse(str: string): string {
return str.split('').reverse().join('');
}
// 文字列の空白を除去
static trim(str: string): string {
return str.trim();
}
}
// 使用例
console.log(StringUtils.toUpperCase("hello")); // "HELLO"
console.log(StringUtils.reverse("hello")); // "olleh"
console.log(StringUtils.trim(" hello ")); // "hello"
このStringUtils
クラスは、文字列を操作するための汎用的なメソッドを提供します。静的メソッドを使うことで、これらの処理をどこからでも簡単に呼び出すことができ、インスタンスを生成する手間が省けます。
日付操作のユーティリティクラス
日付や時刻の操作も、静的メソッドを活用する場面の一つです。以下は、日付に関する一般的な操作を行うクラスです。
class DateUtils {
// 今日の日付を取得
static getToday(): string {
const today = new Date();
return today.toISOString().split('T')[0];
}
// 年が閏年かどうかを確認
static isLeapYear(year: number): boolean {
return (year % 4 === 0 && year % 100 !== 0) || year % 400 === 0;
}
// 特定の日付から指定された日数を加算
static addDays(date: Date, days: number): Date {
const result = new Date(date);
result.setDate(result.getDate() + days);
return result;
}
}
// 使用例
console.log(DateUtils.getToday()); // 今日の日付 (例: "2023-09-22")
console.log(DateUtils.isLeapYear(2024)); // true
console.log(DateUtils.addDays(new Date(), 10)); // 今日から10日後の日付
この例では、DateUtils
クラスが静的メソッドとして日付操作に関する便利な関数を提供しています。日付を操作する際にもインスタンス化の手間がなく、効率的に利用できます。
設定や定数を扱うクラス
また、設定値や定数を一元的に管理するクラスにも静的メソッドは有効です。以下の例では、アプリケーションの設定を取得するためのクラスを定義しています。
class Config {
// デフォルト設定を取得
static getDefaultSettings() {
return {
theme: "light",
language: "en",
notifications: true
};
}
// 言語設定を取得
static getSupportedLanguages(): string[] {
return ["en", "es", "fr", "de", "jp"];
}
}
// 使用例
console.log(Config.getDefaultSettings()); // { theme: "light", language: "en", notifications: true }
console.log(Config.getSupportedLanguages()); // ["en", "es", "fr", "de", "jp"]
このように、静的メソッドは設定や定数など、インスタンス化する必要がない機能に適しています。設定値を一元管理し、必要な時にすぐにアクセスできるため、アプリケーションの設定管理が容易になります。
これらの例を通じて、静的メソッドは、クラスのインスタンス化を避けつつ、シンプルかつ効率的な方法で機能を提供できる強力なツールであることがわかります。
静的メソッドを使用する際の注意点
静的メソッドは便利で強力な機能ですが、使用する際にはいくつかの制約や注意点があります。これらを理解しておくことで、静的メソッドの適切な使用が可能となり、予期せぬ問題を回避できます。
インスタンスメンバへのアクセス制限
静的メソッドはクラスのインスタンスに依存しないため、インスタンスメンバ(プロパティやインスタンスメソッド)に直接アクセスすることができません。これは、静的メソッドがクラス全体に関連しており、個別のインスタンスの状態に依存しない設計となっているためです。
class Example {
instanceProperty: number = 42;
static staticMethod() {
// this.instanceProperty; // エラー: 静的メソッドではインスタンスのプロパティにアクセスできない
console.log("Static method called");
}
}
const ex = new Example();
Example.staticMethod(); // "Static method called"
この例では、静的メソッドからinstanceProperty
にアクセスしようとするとエラーが発生します。インスタンスに関連するデータを操作する必要がある場合は、通常のインスタンスメソッドを使用する必要があります。
適切な使用場面を見極める
静的メソッドは、クラスのインスタンスに依存しない処理を実装する場合に最も効果的です。例えば、計算処理や文字列操作のような状態を持たない処理には適していますが、状態を持つオブジェクトの管理や、インスタンス間で異なる動作をする必要がある処理には適していません。
クラス設計において、静的メソッドを多用しすぎると、クラスのインスタンスに関連する責任範囲が不明確になる可能性があります。そのため、静的メソッドは、特定のユーティリティ機能や共通処理を提供するために限って使用するのが望ましいです。
テストのしにくさ
静的メソッドはテストがしにくいという欠点があります。理由としては、静的メソッドはクラス全体に関連付けられており、動的にモック(模擬オブジェクト)を作成することが困難だからです。テスト環境で柔軟に処理を変更したい場合、インスタンスメソッドのほうが適しているケースもあります。
class Utility {
static processData(data: string): string {
return data.trim().toUpperCase();
}
}
// テストしにくい: 静的メソッドをモック化するのが難しい
静的メソッドをテスト可能にするためには、テスト対象のクラスをモジュール単位で分割したり、依存性注入(DI)パターンを導入するなど、設計レベルでの工夫が必要です。
継承時の制限
静的メソッドはクラスのインスタンスに依存しないため、継承するクラスからも直接利用できますが、オーバーライド(再定義)することはできません。これは、静的メソッドがインスタンスの状態や振る舞いに依存せず、クラス全体で共有される性質を持っているためです。
class ParentClass {
static greet() {
console.log("Hello from Parent");
}
}
class ChildClass extends ParentClass {
// static greet() { // オーバーライドできない
// console.log("Hello from Child");
// }
}
ChildClass.greet(); // "Hello from Parent"
このように、静的メソッドは継承クラスでオーバーライドすることができないため、継承したクラスごとに異なる振る舞いを持たせる必要がある場合は、インスタンスメソッドを使うべきです。
過剰な使用による設計の複雑化
静的メソッドを多用すると、設計が複雑になり、クラス間の依存関係が見えづらくなることがあります。静的メソッドは便利ですが、あくまで共通処理や状態に依存しない操作を行うために設計されているため、複雑なロジックや大量の処理を含むべきではありません。適切にクラス設計を行い、必要に応じてインスタンスメソッドとのバランスを取ることが大切です。
以上のような注意点を理解した上で、静的メソッドを適切に活用することで、クリーンで効率的なコードを書くことができるようになります。
他のプログラミング言語との比較
TypeScriptにおける静的メソッドの概念は、他の多くのオブジェクト指向プログラミング言語と共通する点が多いです。しかし、言語によって実装や動作の細部に違いがあります。ここでは、JavaやPythonといった他の主要なプログラミング言語との比較を通して、TypeScriptにおける静的メソッドの特徴をより深く理解していきます。
Javaでの静的メソッド
Javaでは、TypeScriptと同様にstatic
キーワードを使用して静的メソッドを定義します。Javaにおける静的メソッドも、クラス全体に関連付けられており、インスタンスに依存しない処理を提供します。TypeScriptとJavaでの静的メソッドの使い方は非常に似ていますが、Javaはコンパイル型の言語であり、型情報が厳密に扱われる点で異なります。
public class MathUtils {
public static int add(int a, int b) {
return a + b;
}
}
// 使用例
System.out.println(MathUtils.add(10, 5)); // 15
Javaでは、静的メソッドは主にユーティリティクラスや汎用機能を提供するクラスで使用され、TypeScriptと同様にインスタンスを生成することなくクラス名を通じて呼び出されます。ただし、Javaはコンパイル時に厳密な型チェックを行うため、TypeScriptよりも型安全性が高く、エラー検出が早期に行える点が特徴です。
Pythonでの静的メソッド
Pythonでも静的メソッドを使用することができますが、少し異なる構文を取ります。Pythonでは@staticmethod
デコレータを使用して静的メソッドを定義し、メソッドがクラスに属し、インスタンス化されなくても利用できることを明示します。
class MathUtils:
@staticmethod
def add(a, b):
return a + b
# 使用例
print(MathUtils.add(10, 5)) # 15
Pythonの静的メソッドは、TypeScriptやJavaに比べて、より柔軟な型付けを持ちます。Pythonは動的型付けの言語であり、型チェックが実行時に行われるため、静的メソッドの定義や呼び出しにおいても型に関する制約が少なくなっています。この柔軟性はPythonの強みですが、逆に型エラーが実行時まで検出されないというリスクもあります。
TypeScriptとの比較
TypeScriptは、JavaScriptをベースに型システムを強化した言語であり、静的メソッドに対するサポートは、JavaScriptの動的な性質を補完するように設計されています。他の言語に比べて、TypeScriptでは次のような特徴があります。
- 型安全性: TypeScriptは静的型付け言語であり、Javaと同様に静的メソッドの引数や戻り値に対して型を定義することで、開発中に型エラーを検出できます。これはPythonとは異なり、型の明示が強制されるため、静的メソッドの設計において厳密な型チェックが行えます。
- 構文の簡潔さ: TypeScriptの静的メソッドの定義はシンプルで、
static
キーワードを使用するだけで簡単に定義できます。Pythonの@staticmethod
デコレータに比べると、TypeScriptの構文はより簡潔です。 - ブラウザとの親和性: TypeScriptで静的メソッドを使う利点の一つは、最終的にJavaScriptにトランスパイルされ、WebブラウザやNode.js上で実行できることです。この点は、TypeScriptを他のプログラミング言語と区別する大きな特徴であり、Webアプリケーションやフロントエンド開発での静的メソッドの利用が広がる理由でもあります。
他言語との違いのまとめ
TypeScript、Java、Pythonの静的メソッドを比較すると、それぞれの言語に特有の強みと制約があります。
- Java: 強力な型安全性とパフォーマンスを持つが、TypeScriptよりも構文が堅苦しく、設定や記述が多い。
- Python: 動的型付けによる柔軟性が高いが、型安全性が低く、エラーが実行時にしか発見されないリスクがある。
- TypeScript: 型システムによる安全性を確保しつつ、軽量な構文でJavaScript互換の柔軟な開発が可能。
これらの比較を踏まえ、TypeScriptの静的メソッドは、軽量でありながら型安全性を提供し、特にWeb開発の分野で大きな力を発揮します。他の言語での静的メソッドの利用方法を参考にすることで、TypeScriptでもより効率的な設計が可能になります。
静的メソッドの応用例
TypeScriptの静的メソッドは、インスタンスに依存しない処理を行う場面で強力に活用できます。ここでは、実際のプロジェクトでどのように静的メソッドを応用できるかをいくつかのケースで紹介します。これにより、静的メソッドの幅広い使い方を理解し、プロジェクトに役立つ実践的な知識を身につけられます。
ケース1: ユーティリティクラスの作成
静的メソッドは、ユーティリティ的な処理を提供するクラスに最適です。これにより、アプリケーション全体で一貫した操作が可能になります。たとえば、データの検証処理や文字列フォーマットを行うクラスが考えられます。
class Validator {
// 静的メソッドでEメールのフォーマットを検証
static isEmail(email: string): boolean {
const emailRegex = /^[^\s@]+@[^\s@]+\.[^\s@]+$/;
return emailRegex.test(email);
}
// 静的メソッドでパスワードの強度を検証
static isStrongPassword(password: string): boolean {
return password.length >= 8 && /[A-Z]/.test(password) && /[0-9]/.test(password);
}
}
// 使用例
console.log(Validator.isEmail("test@example.com")); // true
console.log(Validator.isStrongPassword("P@ssw0rd")); // true
この例では、Validator
クラスが静的メソッドを使って、Eメールやパスワードの検証を行っています。このクラスはアプリケーション全体で再利用でき、データの入力チェックを統一的に行うことが可能です。
ケース2: 設定管理クラス
アプリケーションの設定や定数を一元管理するクラスも静的メソッドで実装できます。これにより、設定を取得する際にクラスをインスタンス化する必要がなく、効率的に設定値を取得できます。
class ConfigManager {
private static settings = {
apiUrl: "https://api.example.com",
timeout: 5000,
};
// 静的メソッドで設定値を取得
static getSetting(key: string): any {
return ConfigManager.settings[key];
}
// 静的メソッドで設定値を更新
static updateSetting(key: string, value: any): void {
ConfigManager.settings[key] = value;
}
}
// 使用例
console.log(ConfigManager.getSetting("apiUrl")); // "https://api.example.com"
ConfigManager.updateSetting("timeout", 10000);
console.log(ConfigManager.getSetting("timeout")); // 10000
この例では、ConfigManager
クラスを利用して、アプリケーションの設定を静的メソッドで管理しています。設定値の取得や更新がクラス全体で簡単に行えるため、効率的な設定管理が可能になります。
ケース3: ログ出力クラス
アプリケーション全体で一貫したログを出力するために、静的メソッドを使用してログ機能を提供することができます。これにより、どの場所からでも統一された方法でログを記録できます。
class Logger {
// 静的メソッドでログを出力
static log(message: string): void {
console.log(`[LOG]: ${message}`);
}
// 静的メソッドでエラーログを出力
static error(message: string): void {
console.error(`[ERROR]: ${message}`);
}
}
// 使用例
Logger.log("Application started"); // [LOG]: Application started
Logger.error("An unexpected error occurred"); // [ERROR]: An unexpected error occurred
このLogger
クラスは、アプリケーション内のどこからでもログ出力を行うことができ、インスタンスを必要としないため、汎用的なロギングシステムを簡単に実装できます。
ケース4: シングルトンクラスの構築
静的メソッドを利用して、クラスをシングルトンパターンとして実装することができます。シングルトンは、インスタンスが一度しか作成されず、どこからでもアクセス可能な設計パターンです。
class Singleton {
private static instance: Singleton;
private constructor() {
// プライベートコンストラクタで外部からのインスタンス化を防ぐ
}
// 静的メソッドでインスタンスを取得
static getInstance(): Singleton {
if (!Singleton.instance) {
Singleton.instance = new Singleton();
}
return Singleton.instance;
}
doSomething(): void {
console.log("Singleton instance is doing something");
}
}
// 使用例
const singleton = Singleton.getInstance();
singleton.doSomething(); // Singleton instance is doing something
このSingleton
クラスは、インスタンスを一度だけ作成し、どこからでもアクセスできるように設計されています。静的メソッドを使うことで、インスタンスの管理がシンプルになり、シングルトンパターンを容易に実装できます。
ケース5: ファクトリメソッドの利用
静的メソッドを使用して、特定の条件に基づいてオブジェクトを生成するファクトリメソッドを実装することもできます。ファクトリメソッドは、複雑なオブジェクト生成ロジックを隠蔽し、シンプルなインターフェースを提供します。
class Animal {
name: string;
constructor(name: string) {
this.name = name;
}
static createAnimal(type: string): Animal {
if (type === "dog") {
return new Animal("Dog");
} else if (type === "cat") {
return new Animal("Cat");
} else {
return new Animal("Unknown");
}
}
}
// 使用例
const dog = Animal.createAnimal("dog");
console.log(dog.name); // Dog
const unknown = Animal.createAnimal("elephant");
console.log(unknown.name); // Unknown
この例では、Animal
クラスがファクトリメソッドを使って、条件に基づいて異なるオブジェクトを生成しています。ファクトリメソッドは、オブジェクト生成に関する複雑なロジックをクラス内に隠蔽し、クライアント側のコードを簡潔に保ちます。
これらの応用例を通して、静的メソッドはさまざまな場面で強力なツールとして活用でき、設計を簡素化しながら再利用可能なコードを実現できます。
演習問題
TypeScriptで静的メソッドを使うスキルを身につけるために、以下の演習問題に取り組んでみましょう。各問題では、静的メソッドを使って特定の処理を実装することを目的としています。解答とコード例を作成することで、静的メソッドの使い方をより深く理解できます。
問題1: 数値変換ユーティリティクラスを作成
数値をさまざまな形式に変換するユーティリティクラスNumberUtils
を作成してください。このクラスには以下の静的メソッドを含めます。
toCurrency(value: number)
: 引数の数値を通貨表記(例: ¥1,000.00)に変換するメソッド。toPercentage(value: number)
: 引数の数値をパーセンテージ表記(例: 85%)に変換するメソッド。
class NumberUtils {
// 実装するメソッド
static toCurrency(value: number): string {
return `¥${value.toFixed(2).replace(/\B(?=(\d{3})+(?!\d))/g, ",")}`;
}
static toPercentage(value: number): string {
return `${(value * 100).toFixed(2)}%`;
}
}
// 使用例
console.log(NumberUtils.toCurrency(1000)); // ¥1,000.00
console.log(NumberUtils.toPercentage(0.85)); // 85.00%
問題2: 日付操作クラスを作成
日付を操作するための静的メソッドを含むクラスDateHelper
を作成してください。このクラスには次の静的メソッドを実装します。
getCurrentDate()
: 現在の日付を「YYYY-MM-DD」形式で返すメソッド。addDays(date: Date, days: number)
: 指定した日数を加算した日付を返すメソッド。
class DateHelper {
static getCurrentDate(): string {
const today = new Date();
return today.toISOString().split('T')[0];
}
static addDays(date: Date, days: number): Date {
const result = new Date(date);
result.setDate(result.getDate() + days);
return result;
}
}
// 使用例
console.log(DateHelper.getCurrentDate()); // 今日の日付 (例: "2024-09-22")
console.log(DateHelper.addDays(new Date(), 5)); // 今日から5日後の日付
問題3: ログ管理クラスを作成
アプリケーションで使用されるログメッセージを管理する静的メソッドを含むクラスAppLogger
を作成してください。このクラスには、次の静的メソッドを含めます。
logInfo(message: string)
: 情報ログを出力するメソッド。logError(message: string)
: エラーログを出力するメソッド。
class AppLogger {
static logInfo(message: string): void {
console.log(`[INFO]: ${message}`);
}
static logError(message: string): void {
console.error(`[ERROR]: ${message}`);
}
}
// 使用例
AppLogger.logInfo("Application started"); // [INFO]: Application started
AppLogger.logError("An error occurred"); // [ERROR]: An error occurred
問題4: シングルトンパターンを実装
シングルトンパターンを用いたクラスAppConfig
を作成してください。このクラスは、アプリケーション設定を管理するために1つのインスタンスのみを生成します。
getInstance()
: クラスのインスタンスを取得する静的メソッドを実装。- 設定オブジェクトを保持し、他の場所からもアクセス可能にする。
class AppConfig {
private static instance: AppConfig;
private config = { apiUrl: "https://api.example.com" };
private constructor() {}
static getInstance(): AppConfig {
if (!AppConfig.instance) {
AppConfig.instance = new AppConfig();
}
return AppConfig.instance;
}
getConfig(): object {
return this.config;
}
}
// 使用例
const config = AppConfig.getInstance();
console.log(config.getConfig()); // { apiUrl: "https://api.example.com" }
これらの演習問題に取り組むことで、TypeScriptの静的メソッドに関する理解が深まり、実際のプロジェクトでの活用に役立つでしょう。
まとめ
本記事では、TypeScriptにおける静的メソッドの定義方法から、その利点、他言語との比較、実際の使用例、応用例までを詳しく解説しました。静的メソッドを使うことで、クラスのインスタンス化を避けながら共通の処理を提供でき、効率的で読みやすいコードが書けます。これにより、ユーティリティ関数や設定管理、ログ出力、シングルトンパターンなど、さまざまな場面で役立ちます。静的メソッドを活用し、プロジェクトの設計をよりシンプルかつ効果的に進めていきましょう。
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