PHPプログラミングにおいて、クラスの設計はソフトウェアの品質に大きな影響を与えます。特に、アクセス指定子(public、protected、private)の使い方を理解し、適切に活用することで、コードの保守性、拡張性、そしてセキュリティを高めることが可能です。アクセス指定子は、クラス内のプロパティやメソッドの可視性を制御し、不必要な外部からのアクセスを制限することで、クラスの設計をより安全で管理しやすいものにします。本記事では、アクセス指定子の基本概念から、それらを使ったクラスの安全設計のベストプラクティスについて詳しく解説します。
アクセス指定子の基本概念
アクセス指定子は、クラス内のプロパティやメソッドへのアクセスを制御するためのキーワードです。PHPには主に3つのアクセス指定子があり、それぞれ異なるレベルの可視性を提供します。
public
publicは、クラスの外部からも自由にアクセスできるアクセスレベルを示します。これにより、オブジェクトを通じてプロパティやメソッドを直接操作できるようになります。
protected
protectedは、クラス自身およびその継承クラスからのみアクセスできる指定子です。外部からのアクセスは制限され、クラスの継承構造の中での利用が想定されています。
private
privateは、クラス内部からのみアクセス可能な指定子です。これにより、クラス外部や継承クラスからのアクセスは完全に遮断され、クラス内でのデータの安全性が確保されます。
アクセス指定子を理解し適切に使うことで、プログラムの設計がより堅牢になり、不要なエラーや予期せぬ動作を防ぐことができます。
publicの利用場面と注意点
publicはクラス外部から直接アクセスできるため、開発者がプロパティやメソッドに対して自由に操作できるメリットがあります。クラスの外部から簡単にデータを取得したり、メソッドを呼び出したりする必要がある場合に適しています。
publicを使用する場面
- クラスのメイン機能を提供するメソッドを公開したい場合。
- クラスの外部で値の変更が必要なプロパティがある場合(例えば設定クラスなど)。
- APIのように、外部からアクセスされることを前提としたメソッドを公開したい場合。
publicを使う際の注意点
- データの整合性の確保が困難になる可能性:外部からプロパティに直接アクセスできるため、予期せぬ値の設定や変更が発生し、データの整合性を保つことが難しくなることがあります。
- クラスの実装に依存する設計になる可能性:publicなメソッドやプロパティを多用すると、クラスの外部からの依存が増え、内部構造を変更しにくくなります。
- セキュリティのリスク:公開されたプロパティやメソッドを外部から悪用される可能性があり、不正アクセスや意図しないデータ改変のリスクが高まります。
publicの使用にはメリットとデメリットがあり、適切な場面での使用が重要です。必要に応じて他のアクセス指定子と組み合わせることで、より安全で柔軟なクラス設計を実現できます。
protectedの役割と適切な使用例
protectedは、クラス自身およびその継承クラスからアクセス可能なアクセス指定子です。外部からは直接アクセスできず、クラス階層の中でのみ利用されるため、データの保護と柔軟性を両立する設計が可能です。
protectedの使用目的
protectedを使用することで、クラスの内部構造を部分的に外部から隠蔽しつつ、クラス階層の中でデータやメソッドを再利用できます。特に、サブクラスで親クラスのデータやメソッドにアクセスする必要があるが、外部からのアクセスは避けたい場合に有効です。
適切な使用例
- 抽象クラスやベースクラスでの利用:基底クラスでprotectedなメソッドやプロパティを定義し、サブクラスで具体的な実装を行う際に利用します。これにより、共通の機能を持つクラス階層を作成できます。
- テンプレートメソッドパターンの実装:親クラスにprotectedなメソッドを持たせ、サブクラスでそのメソッドをカスタマイズすることで、特定の処理の流れを柔軟に制御できます。
- 部分的なデータの共有:クラス間で特定のプロパティを共有する必要がある場合、protectedを使うことで、データの安全性を確保しつつ再利用が可能です。
protectedを使う際の注意点
- 過度な使用による複雑化:protectedを多用すると、クラス間の依存関係が複雑になり、コードの可読性やメンテナンス性が低下する可能性があります。
- テストが難しくなる:protectedなメソッドやプロパティはクラス外からアクセスできないため、ユニットテストを行う際に工夫が必要です。
- 継承クラスの制約:protectedを使った設計に依存すると、サブクラスの実装が制約を受ける場合があります。
protectedは、クラス階層内での適切なデータ共有と再利用を促進するために効果的な指定子ですが、使用の際は設計のバランスを考慮する必要があります。
privateの使用による情報隠蔽の効果
privateは、クラスの内部でのみアクセスできるアクセス指定子です。外部や継承クラスからは一切アクセスできず、クラス内部のデータやメソッドを厳格に保護するために使用します。これにより、情報隠蔽の効果が高まり、クラスの設計がより安全で一貫性のあるものになります。
privateの使用目的
- 内部データの保護:クラス外部からアクセスされることのないデータを保持し、他の部分からの影響を受けないようにします。これにより、データの整合性が保たれ、予期せぬ改変を防ぐことができます。
- 内部ロジックの隠蔽:クラス内部のメソッドが特定の処理に使用される場合、そのメソッドをprivateにすることで外部からの呼び出しを防ぎ、内部の処理が他の部分に影響されないようにします。
- 安定したインターフェースの提供:クラスの外部に対してはpublicなインターフェースのみを提供し、内部の実装を自由に変更できるようにします。
適切な使用例
- データ処理の中間計算:内部でのみ使用される計算処理や補助的なメソッドをprivateにすることで、外部からの不正使用を防ぎます。
- 構築時の初期化処理:コンストラクタでのみ使用される初期化メソッドをprivateにすることで、意図しないタイミングでの呼び出しを防ぎます。
- シングルトンパターンの実装:シングルトンパターンを実装する際に、コンストラクタをprivateにすることで、外部からのインスタンス化を制限します。
privateを使う際の注意点
- テストの困難さ:privateなメソッドやプロパティは、クラスの外部からアクセスできないため、直接テストすることが難しくなります。テスト可能な設計を考慮する必要があります。
- 過度な情報隠蔽:全てをprivateにすると、クラスの再利用性が低下し、他のクラスとの連携が難しくなることがあります。
- 必要なアクセス性の制限:場合によっては、protectedの方が適切なケースもあり、無条件にprivateを使用すると、クラスの拡張性を損なうことがあります。
privateを効果的に利用することで、クラスの内部構造を安定させ、予期せぬバグやデータ不整合を防止できます。情報隠蔽の強化は、コードの品質向上に直結する重要な設計方針です。
継承時のアクセス指定子の動作
継承を利用する際、アクセス指定子は親クラスからサブクラスへと受け継がれ、そのアクセス制限に応じて動作が異なります。アクセス指定子の理解は、適切なオブジェクト指向設計に不可欠であり、継承時の挙動を把握することでクラス設計の柔軟性と安全性を高めることができます。
publicの継承時の動作
publicなプロパティやメソッドは、親クラスからサブクラスへそのままのアクセスレベルで引き継がれます。サブクラスからも、クラスの外部からも同様にアクセス可能です。これにより、オブジェクトのインターフェースを共通化しやすくなりますが、外部からの不正操作を防ぐために適切な使用が求められます。
protectedの継承時の動作
protectedなプロパティやメソッドは、サブクラスにも引き継がれますが、クラスの外部からはアクセスできません。これにより、サブクラスでの再利用が可能な一方で、外部からの干渉を防ぐことができます。継承クラス間で共有されるべき機能やデータをprotectedとして設計することで、再利用性と安全性のバランスを取ることができます。
privateの継承時の動作
privateなプロパティやメソッドは、サブクラスには引き継がれず、親クラスの内部でのみ使用可能です。サブクラスからアクセスすることはできません。そのため、クラスの内部ロジックを隠蔽しつつ、外部のクラス設計には影響を与えないようにする際に利用されます。
アクセス修飾子の変更
継承時には、アクセス指定子を変更することも可能です。親クラスから受け継いだメソッドのアクセスレベルを、サブクラスで変更することができます(例:protectedなメソッドをpublicにする)。ただし、アクセスレベルをより厳しくする(例:publicをprotectedにする)ことは推奨されません。
継承時の注意点
- クラス設計の一貫性の維持:アクセス指定子の変更が過度になると、クラス設計の一貫性が失われ、コードの可読性が低下する恐れがあります。
- 親クラスの責務を理解する:親クラスで定義されたアクセスレベルには設計意図があるため、それを尊重することが重要です。
- アクセス指定子の適切な選択:サブクラスでの再利用を考慮し、アクセス指定子を選択することで、コードのメンテナンス性を高めることができます。
継承時のアクセス指定子の理解は、オブジェクト指向プログラミングの基本であり、クラス間の関係を適切に構築するために重要です。
アクセス指定子を使ったデータの保護とカプセル化
アクセス指定子を使用することで、クラス内のデータやメソッドを適切に管理し、外部からの不正アクセスを防ぐことができます。これにより、データの保護とカプセル化を実現し、クラス設計の安全性を高めることができます。
カプセル化の役割
カプセル化とは、オブジェクト指向プログラミングの基本原則の一つであり、クラス内のデータとメソッドを一つにまとめ、外部からのアクセスを制限することを指します。これにより、以下の効果が得られます:
- データの保護:不正なデータの変更を防ぎ、データの整合性を保ちます。
- 実装の隠蔽:内部ロジックを隠し、クラスの使用者には必要最小限のインターフェースのみを公開します。
- 変更の影響を最小化:クラス内部の実装を変更しても、外部のコードに影響を与えずに済みます。
アクセス指定子によるカプセル化の実現方法
- privateによる完全な保護:データメンバやメソッドをprivateに設定することで、クラス内部からのみアクセス可能にし、外部からの不正アクセスを防ぎます。データの安全性を確保するための基本的な方法です。
- protectedによる部分的な公開:protectedを使って、クラスの継承関係の中で共有すべきデータやメソッドを公開します。これにより、親クラスとサブクラス間で必要な情報だけを共有し、その他の外部からのアクセスは制限できます。
- publicを使ったインターフェースの提供:クラスの外部に公開すべきメソッドやデータをpublicに設定することで、使用者が必要とする機能を提供します。ただし、公開範囲を最小限にとどめ、過剰なインターフェース公開を避けることが重要です。
実装の例:カプセル化されたクラス
以下は、アクセス指定子を使ったカプセル化の例です。
class User {
private $name;
private $email;
public function __construct($name, $email) {
$this->name = $name;
$this->email = $email;
}
// publicなメソッドを使ってデータへの安全なアクセスを提供
public function getName() {
return $this->name;
}
public function getEmail() {
return $this->email;
}
// データを設定するためのメソッド
public function setEmail($email) {
if (filter_var($email, FILTER_VALIDATE_EMAIL)) {
$this->email = $email;
} else {
throw new Exception("Invalid email address");
}
}
}
この例では、ユーザーの名前とメールアドレスがprivateで保護され、外部から直接変更することはできません。publicなメソッドを通じてのみアクセスが許可されるため、データの整合性が保たれます。
アクセス指定子によるデータ保護のメリット
- 誤操作の防止:外部からの不要なデータ変更を防ぐことで、誤操作によるバグを減らします。
- 一貫したインターフェースの提供:クラスの内部実装に依存しない、統一された操作方法を提供できます。
- セキュリティ強化:重要なデータを外部から隠蔽することで、セキュリティリスクを低減できます。
アクセス指定子を活用したカプセル化は、クラス設計における基本であり、ソフトウェアの信頼性と保守性を高めるための重要な手法です。
アクセス修飾子を変更するリファクタリング手法
既存のコードに対してアクセス修飾子を変更することで、クラスの設計を改善し、コードの保守性や安全性を向上させることができます。アクセス修飾子のリファクタリングは、クラスの使用方法を見直し、適切なレベルの可視性を再設定するプロセスです。
リファクタリングの目的
- データの保護強化:外部からの不正アクセスを防ぐために、重要なデータやメソッドの可視性を制限します。
- コードの可読性向上:クラスのインターフェースを整理し、クラス内部でのみ使用するメソッドを非公開にすることで、コードの見通しを良くします。
- 継承関係の見直し:protectedやprivateを活用して、親クラスとサブクラス間のデータ共有を適切に管理し、依存関係を減らします。
リファクタリング手法
- privateへの変更
クラス外部からアクセスする必要のないプロパティやメソッドをprivateに変更することで、データを保護します。例えば、内部でのみ使われるヘルパーメソッドや計算処理はprivateにするべきです。
class Order {
private $orderId;
private $items = [];
public function __construct($orderId) {
$this->orderId = $orderId;
}
private function calculateTotal() {
$total = 0;
foreach ($this->items as $item) {
$total += $item['price'];
}
return $total;
}
}
- protectedへの変更
クラス階層内での再利用が必要な場合、publicからprotectedに変更します。これにより、サブクラスからアクセスできる一方で、クラスの外部からのアクセスを制限できます。
class BaseUser {
protected $name;
public function __construct($name) {
$this->name = $name;
}
}
class AdminUser extends BaseUser {
public function getAdminName() {
return "Admin: " . $this->name;
}
}
- publicメソッドの再配置
クラス内部でのみ使うprivateメソッドを作成し、publicメソッドから呼び出すようにして、クラスのインターフェースをシンプルに保ちます。これにより、外部に公開する必要のないロジックを隠蔽できます。
リファクタリング時の注意点
- 既存コードの影響を把握する:アクセス指定子を変更すると、既存のコードに影響を与える可能性があります。変更後のテストを十分に行い、問題が発生しないことを確認します。
- 適切なエラーハンドリング:privateやprotectedに変更した場合、外部からのアクセスを試みた際にエラーが発生する可能性があるため、エラーハンドリングを適切に行います。
- リファクタリングの目的を明確にする:何を目的としてアクセス指定子を変更するのかを明確にし、それに基づいた設計を行います。
リファクタリングのメリット
- クラス設計の向上:アクセス指定子を適切に見直すことで、クラス設計が整理され、可読性やメンテナンス性が向上します。
- バグの予防:データの保護を強化することで、予期せぬデータ改変やバグを未然に防ぐことができます。
- セキュリティの向上:重要なデータやロジックを外部から隠すことで、セキュリティリスクを低減します。
アクセス修飾子を変更するリファクタリングは、コードの品質を向上させるための効果的な手法であり、定期的に見直すことが重要です。
実践的な例:アクセス指定子を使ったクラス設計
アクセス指定子を正しく活用することで、クラスの安全性、保守性、および再利用性を向上させることができます。ここでは、具体的なクラス設計の例を通じて、アクセス指定子の効果的な使い方を紹介します。
ユーザー管理システムの例
ユーザーを管理するシステムを考えます。このシステムでは、ユーザー情報を保持するクラスを設計し、データの保護と適切なアクセスを実現します。
class User {
private $id;
private $name;
private $email;
protected $role;
public function __construct($id, $name, $email, $role = 'user') {
$this->id = $id;
$this->name = $name;
$this->email = $email;
$this->role = $role;
}
// ユーザーのIDを取得する
public function getId() {
return $this->id;
}
// ユーザー名を取得する
public function getName() {
return $this->name;
}
// メールアドレスの取得と設定
public function getEmail() {
return $this->email;
}
public function setEmail($email) {
if (filter_var($email, FILTER_VALIDATE_EMAIL)) {
$this->email = $email;
} else {
throw new Exception("Invalid email address");
}
}
// ユーザーのロールを取得する
public function getRole() {
return $this->role;
}
// ロールの設定はサブクラスで実装される
protected function setRole($role) {
$this->role = $role;
}
}
このクラスでは、id
、name
、およびemail
プロパティがprivateで保護されており、外部から直接アクセスできません。一方、role
はprotectedとして定義され、継承クラスでのみアクセスや変更が可能です。
管理者クラスを追加する
ユーザー管理システムには、管理者専用のクラスも必要です。User
クラスを継承し、管理者特有の機能を追加する例を示します。
class AdminUser extends User {
public function __construct($id, $name, $email) {
parent::__construct($id, $name, $email, 'admin');
}
// ロールの設定を可能にする
public function changeUserRole(User $user, $newRole) {
$user->setRole($newRole);
}
// ユーザーの情報をすべて表示する
public function displayUserInfo() {
return "ID: " . $this->getId() . ", Name: " . $this->getName() . ", Email: " . $this->getEmail() . ", Role: " . $this->getRole();
}
}
AdminUser
クラスでは、親クラスのsetRole
メソッドを利用して他のユーザーのロールを変更することができます。displayUserInfo
メソッドは、ユーザーのすべての情報を表示するためにpublicメソッドを活用しています。
アクセス指定子の効果
- データ保護の徹底:
User
クラスでは、重要なプロパティをprivateで保護しており、クラス外からの不正な変更を防いでいます。 - クラス階層の柔軟性:protectedな
setRole
メソッドにより、管理者クラスでのみロール変更を許可する設計が可能です。 - インターフェースの統一:publicなメソッドを通じてデータアクセスを行うため、クラス使用者には統一されたインターフェースを提供できます。
アクセス指定子を使った設計のベストプラクティス
- 最も制限の厳しい指定子をデフォルトとする:まずprivateで設計し、必要に応じてprotectedやpublicに変更します。
- 外部インターフェースは最小限にする:必要なメソッドのみpublicにし、他のメソッドはprotectedやprivateで保護します。
- カプセル化を意識した設計:データの整合性を保つため、直接プロパティにアクセスするのではなく、メソッドを通じて操作するようにします。
アクセス指定子を使ったクラス設計の実践的な例は、ソフトウェアの安全性とメンテナンス性を向上させるための重要なポイントです。正しい指定子の選択と組み合わせにより、柔軟で保守しやすいクラス構造を実現できます。
アクセス指定子を用いたセキュリティ強化
アクセス指定子は、クラスの設計においてセキュリティを強化するための重要なツールです。適切なアクセス制御を行うことで、クラス内のデータやメソッドが不正に利用されるリスクを軽減できます。ここでは、アクセス指定子を使ったセキュリティ対策について詳しく説明します。
データの不正なアクセス防止
アクセス指定子を活用することで、外部から直接アクセスできるプロパティやメソッドを制限し、不正な操作を防ぎます。
- privateの活用
privateを使用することで、クラス内部のデータが外部から操作されるのを防ぎます。例えば、ユーザーのパスワードや重要なIDなど、機密情報を保持するプロパティをprivateに設定し、getterメソッドでのみ適切に取得するようにします。
class SecureUser {
private $password;
public function __construct($password) {
$this->password = password_hash($password, PASSWORD_BCRYPT);
}
// パスワードを外部から取得することは許可しない
public function verifyPassword($password) {
return password_verify($password, $this->password);
}
}
この例では、$password
プロパティがprivateであるため、クラス外部から直接アクセスすることはできません。パスワードの検証はverifyPassword
メソッドを通じて行い、セキュリティを高めています。
protectedによる内部処理の制限
protectedを使用することで、サブクラスからのアクセスを許可しつつ、クラスの外部からのアクセスを制限できます。たとえば、内部でのデータ処理を行うメソッドをprotectedに設定し、サブクラスでのみその処理を拡張できるようにします。
class Transaction {
protected $amount;
public function __construct($amount) {
$this->amount = $amount;
}
// 継承クラスでのみ利用する計算メソッド
protected function applyDiscount($percentage) {
$this->amount -= $this->amount * ($percentage / 100);
}
}
class DiscountedTransaction extends Transaction {
public function applyDiscountCode($code) {
// 割引コードに基づいたディスカウントを適用
if ($code === "SAVE10") {
$this->applyDiscount(10);
}
}
}
この例では、applyDiscount
メソッドはprotectedであり、DiscountedTransaction
クラスからのみ利用可能です。クラス外部からはアクセスできないため、無関係な操作が行われるリスクを排除できます。
publicアクセスの管理とセキュリティ
publicメソッドはクラスの外部からも自由にアクセスできるため、慎重に設計する必要があります。以下の点を考慮することで、セキュリティを強化できます。
- 入力値のバリデーション
公開されたメソッドでは、入力されるデータを厳格に検証し、不正な値が処理されないようにします。これにより、インジェクション攻撃やデータ不整合のリスクを軽減できます。
class FormHandler {
public function submitForm($input) {
if (empty($input)) {
throw new Exception("Input cannot be empty");
}
// サニタイズして保存処理などを行う
$cleanInput = htmlspecialchars($input, ENT_QUOTES, 'UTF-8');
// 保存ロジックなど
}
}
- 副作用のないメソッドの公開
できるだけ副作用のない(データを変更しない)メソッドを公開するように設計します。たとえば、データの取得のみを行うgetterメソッドや計算を行う関数などです。
アクセス指定子の組み合わせによるセキュリティ強化の例
複数のアクセス指定子を組み合わせて使用することで、さらに強固なセキュリティを実現できます。
class Account {
private $balance;
public function __construct($initialBalance) {
$this->balance = $initialBalance;
}
// 外部から直接アクセスできないようにする
private function updateBalance($amount) {
$this->balance += $amount;
}
public function deposit($amount) {
if ($amount > 0) {
$this->updateBalance($amount);
} else {
throw new Exception("Deposit amount must be positive");
}
}
public function getBalance() {
return $this->balance;
}
}
この例では、updateBalance
メソッドをprivateにすることで、バランスの変更がクラス内部でのみ行われるようにし、セキュリティを強化しています。
アクセス指定子を用いたセキュリティ強化のメリット
- 不正アクセスの抑制:クラス外からの操作を制限することで、意図しないデータ改変を防ぎます。
- セキュリティポリシーの明確化:アクセス制御を通じて、どのメソッドやデータが外部に公開されるべきかを明確にできます。
- 堅牢なシステム設計:複雑なシステムでも、セキュリティリスクを軽減しつつ、データの整合性を保ちやすくなります。
アクセス指定子を適切に活用し、セキュリティを意識した設計を行うことで、より安全なPHPアプリケーションの開発が可能となります。
演習問題:アクセス指定子を使ったクラス設計
ここでは、アクセス指定子の使い方を深く理解するための演習問題を提供します。これらの問題を通じて、実際にクラス設計を行い、アクセス指定子の効果的な使用方法を学びましょう。
問題1:銀行口座クラスの設計
以下の仕様に基づいて、銀行口座を管理するクラスBankAccount
を設計してください。
- プロパティ:
accountNumber
(口座番号):外部からアクセスできないようにする(private)。balance
(残高):外部から読み取り可能だが、直接変更できないようにする。
- メソッド:
__construct($accountNumber, $initialBalance)
:口座番号と初期残高を設定する。deposit($amount)
:金額を預け入れる。預け入れ金額が正の数であることを検証する。withdraw($amount)
:金額を引き出す。引き出し金額が正の数であり、かつ残高を超えないことを検証する。getBalance()
:残高を取得する。
解答例
class BankAccount {
private $accountNumber;
private $balance;
public function __construct($accountNumber, $initialBalance) {
$this->accountNumber = $accountNumber;
$this->balance = $initialBalance;
}
public function deposit($amount) {
if ($amount > 0) {
$this->balance += $amount;
} else {
throw new Exception("Deposit amount must be positive");
}
}
public function withdraw($amount) {
if ($amount > 0 && $amount <= $this->balance) {
$this->balance -= $amount;
} else {
throw new Exception("Insufficient balance or invalid amount");
}
}
public function getBalance() {
return $this->balance;
}
}
問題2:ユーザークラスの継承とアクセス制御
以下の仕様を満たすUser
クラスとそのサブクラスAdminUser
を設計してください。
- Userクラス
- プロパティ:
username
(外部から読み取り可能)、password
(外部からアクセス不可) - メソッド:
__construct($username, $password)
、checkPassword($password)
- AdminUserクラス(Userクラスを継承)
- メソッド:
resetPassword($newPassword)
(新しいパスワードを設定できる)
解答例
class User {
public $username;
private $password;
public function __construct($username, $password) {
$this->username = $username;
$this->password = password_hash($password, PASSWORD_BCRYPT);
}
public function checkPassword($password) {
return password_verify($password, $this->password);
}
}
class AdminUser extends User {
public function resetPassword($newPassword) {
$this->password = password_hash($newPassword, PASSWORD_BCRYPT);
}
}
問題3:アクセス指定子のリファクタリング
以下のクラスProduct
には、設計上の問題がいくつかあります。このクラスをリファクタリングし、適切なアクセス指定子を設定してください。
class Product {
public $name;
public $price;
public $discount;
public function __construct($name, $price) {
$this->name = $name;
$this->price = $price;
$this->discount = 0;
}
public function applyDiscount($percentage) {
$this->discount = $percentage;
}
public function getFinalPrice() {
return $this->price - ($this->price * ($this->discount / 100));
}
}
リファクタリング解答例
class Product {
private $name;
private $price;
private $discount;
public function __construct($name, $price) {
$this->name = $name;
$this->price = $price;
$this->discount = 0;
}
public function applyDiscount($percentage) {
if ($percentage >= 0 && $percentage <= 100) {
$this->discount = $percentage;
} else {
throw new Exception("Discount percentage must be between 0 and 100");
}
}
public function getFinalPrice() {
return $this->price - ($this->price * ($this->discount / 100));
}
public function getName() {
return $this->name;
}
}
演習の目的
これらの演習を通じて、アクセス指定子を適切に設定することで、クラスの設計がどのように改善されるかを体感できます。データの保護、インターフェースの整理、セキュリティの向上を意識した設計を心がけましょう。
まとめ
本記事では、PHPにおけるアクセス指定子を使ったクラスの安全設計のベストプラクティスについて解説しました。アクセス指定子(public、protected、private)を適切に使い分けることで、データの保護、カプセル化、セキュリティの強化が可能です。クラス設計においては、アクセス指定子を慎重に選び、最も制限の厳しい指定子をデフォルトとすることで、コードの安全性と保守性を高めることができます。演習問題を通じて、アクセス指定子の効果的な使い方を学び、より堅牢なシステム設計を目指しましょう。
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