ApacheとNginxの静的ファイル配信性能を徹底比較！測定結果も公開

ApacheとNginxは、Webサーバー市場で広く使われる2大サーバーソフトウェアです。両者はそれぞれ異なる設計思想とアプローチを持ち、特に静的ファイル配信のパフォーマンスには顕著な差が現れます。

静的ファイル配信は、画像やCSS、JavaScriptなどのリソースをクライアントに提供する重要な役割を担っており、Webサイトの表示速度やユーザー体験に直接影響を与えます。そのため、Webサーバーの選択はサイトのパフォーマンスを左右する大きな要因となります。

本記事では、ApacheとNginxの静的ファイル配信性能に焦点を当て、実際のベンチマーク結果を基に比較します。さらに、それぞれのWebサーバーの仕組みや、パフォーマンスを向上させる設定方法についても詳しく解説します。

これからWebサーバーを導入・選定する方や、既存の構成を見直したいと考えている方にとって、適切な選択を行うための有益な情報を提供します。

ApacheとNginxの基本概要

Apache HTTP Server（以下Apache）とNginxは、それぞれ異なる特徴と歴史を持つWebサーバーです。両者は現在も高いシェアを誇り、Webサイトの運営に欠かせない存在となっています。

Apacheの特徴

Apacheは1995年にリリースされ、オープンソースとして長い歴史を持つWebサーバーです。モジュール構造を採用しており、必要な機能を追加・削除できる柔軟性が特徴です。リクエストごとにプロセスやスレッドを生成する「マルチプロセスモデル」を採用しており、高い拡張性と幅広い対応が可能です。

• 柔軟なモジュール構成：必要な機能を選択的に追加可能
• 幅広い対応力：動的コンテンツの処理が得意
• 学習コストの低さ：豊富なドキュメントと長年の普及実績

Nginxの特徴

Nginxは2004年にリリースされ、「高パフォーマンス」「軽量性」を目的として設計されたWebサーバーです。イベント駆動型アーキテクチャを採用し、少ないリソースで大量のリクエストを処理できます。特に静的ファイル配信に優れており、Webサーバーのほかリバースプロキシやロードバランサとしても利用されます。

• 高パフォーマンス：非同期処理により高速なレスポンスを実現
• 省リソース：少ないメモリで大量のリクエスト処理が可能
• 静的ファイル配信の最適化：大量の静的リソースを効率的に配信

主な違い

Apacheは動的コンテンツの処理やカスタマイズ性が強みであるのに対し、Nginxは静的ファイルの配信や大量アクセス処理が得意です。目的や用途に応じて、これらのサーバーを使い分けることが重要になります。

静的ファイル配信とは

静的ファイル配信は、Webサイトの構成要素であるHTML、CSS、JavaScript、画像、フォントなどのファイルをそのままクライアントに提供するプロセスです。これらのファイルはサーバー側で処理を必要とせず、リクエストに対して即座にレスポンスとして返されます。

静的ファイル配信の役割

静的ファイルは、Webページの見た目や動作を構成する重要な要素です。ブラウザはこれらのファイルを取得し、Webページをレンダリングします。
静的ファイルの配信が遅れると、ページの読み込み時間が長くなり、ユーザー体験が悪化します。そのため、効率的な静的ファイル配信は、サイトの表示速度やパフォーマンスに直結します。

静的ファイル配信のメリット

• 高速なレスポンス：処理が不要なため、即時にクライアントへ送信される
• スケーラビリティ：ファイルはキャッシュされやすく、サーバー負荷が軽減される
• セキュリティの向上：ファイルそのものを提供するため、サーバー側の処理ミスが少ない

静的ファイル配信の具体例

• HTMLファイル：ブラウザが直接解析して表示
• CSSファイル：ページのデザインやレイアウトを制御
• JavaScriptファイル：インタラクティブな動作を実現
• 画像や動画ファイル：Webページの視覚的要素を構成

これらのファイルは、ApacheやNginxを通じて効率的に配信されることで、Webサイト全体のパフォーマンス向上に貢献します。

ApacheとNginxの静的ファイル配信の仕組み

ApacheとNginxは、静的ファイル配信の方法において根本的に異なるアプローチを採用しています。それぞれの仕組みを理解することで、どのようにパフォーマンス差が生まれるのかを把握できます。

Apacheの静的ファイル配信の仕組み

Apacheは「プロセス駆動型アーキテクチャ」を採用しています。クライアントからのリクエストごとにプロセスまたはスレッドを生成し、それぞれがリクエストを処理します。

処理の流れ

1. クライアントがHTMLファイルや画像を要求
2. Apacheがリクエストを受信し、新たなプロセス/スレッドが生成される
3. 該当ファイルを読み込み、レスポンスとしてクライアントに送信
4. 処理が終了するとプロセス/スレッドが終了または待機状態

Apacheの特徴

• モジュール方式で機能を追加・削除可能
• スレッド数を増やすことで高負荷時でも対応可能
• 静的ファイル配信にはプロセス管理コストがかかるため、リソース消費が増大

Nginxの静的ファイル配信の仕組み

Nginxは「イベント駆動型アーキテクチャ」を採用しており、シングルスレッド内で複数のリクエストを非同期に処理します。この仕組みにより、Apacheに比べてリソース消費が少なく、多数のリクエストを効率的に処理できます。

処理の流れ

1. クライアントが静的ファイルを要求
2. Nginxは非同期でリクエストをキューに登録
3. メインスレッドがI/O待ち状態を回避しつつ、キュー内の複数リクエストを並行処理
4. ファイルを直接クライアントに返送

Nginxの特徴

• I/O処理をブロックしない非同期処理で高速レスポンス
• プロセスやスレッド生成が不要なためメモリ消費が少ない
• 静的ファイル配信では非常に効率的で、大量アクセス時に高いパフォーマンスを発揮

主な違い

Nginxは静的ファイル配信において圧倒的なパフォーマンスを発揮しますが、Apacheは動的コンテンツ処理に強みを持っています。用途に応じて両者を使い分けることが、最適なサーバー構成につながります。

性能測定環境の構築方法

公平で正確な静的ファイル配信性能を比較するためには、統一された測定環境を構築することが不可欠です。ここでは、ApacheとNginxのベンチマークテストを行うための環境構築手順を説明します。

テスト環境の基本構成

• サーバー：Linuxベースの仮想マシンまたは物理マシン（Ubuntu 22.04推奨）
• CPU：4コア以上
• メモリ：8GB以上
• ストレージ：SSD 100GB以上
• ネットワーク：1Gbpsのローカル接続

必要なソフトウェア

• Apache HTTP Server：sudo apt install apache2
• Nginx：sudo apt install nginx
• 負荷テストツール：Apache Benchmark（ab）やwrkを使用

ApacheとNginxのインストール手順

1. Apacheのインストール

sudo apt update
sudo apt install apache2

2. Nginxのインストール

sudo apt install nginx

3. インストール確認

apache2 -v
nginx -v

テスト用静的ファイルの作成

測定のためにHTMLや画像ファイルを用意し、双方のサーバーで同じファイルを配信します。

sudo mkdir /var/www/html/test
echo "<h1>Test File</h1>" | sudo tee /var/www/html/test/index.html

ApacheとNginxの設定

• Apache：/etc/apache2/sites-available/000-default.conf

DocumentRoot /var/www/html/test

• Nginx：/etc/nginx/sites-available/default

server {
    listen 80;
    root /var/www/html/test;
    index index.html;
}

設定後に両サーバーを再起動します。

sudo systemctl restart apache2
sudo systemctl restart nginx

テスト前の確認事項

• 必ずApacheかNginxのどちらか一方だけが動作している状態にします。
• サーバー負荷がない状態でベンチマークを実施します。
• 同じハードウェアでテストを行い、条件を統一します。

これでApacheとNginxの静的ファイル配信性能を測定する準備が整いました。次のステップでは、具体的なベンチマークテストの実施方法を解説します。

ベンチマークテストの実施方法

ApacheとNginxの静的ファイル配信性能を正確に比較するためには、適切なツールと手法を用いてテストを実施する必要があります。ここでは、負荷テストツール「Apache Benchmark (ab)」と「wrk」を使用したベンチマークの手順を解説します。

使用するツール

• Apache Benchmark (ab)：Apacheに付属するベンチマークツールで、シンプルなHTTPリクエストを大量に送信します。
• wrk：高速でスレッドベースの負荷テストツール。複数の接続を同時に処理することが可能です。

Apache Benchmarkのインストールと使用方法

1. インストール（Apacheをインストール済みであれば自動的に付属）

sudo apt install apache2-utils

2. 静的ファイル配信のベンチマーク

ab -n 10000 -c 100 http://localhost/test/index.html

• -n 10000：合計10,000リクエストを送信
• -c 100：同時に100接続を維持

1. 実行例と結果の見方

Requests per second:   3500.12 [#/sec] (mean)
Time per request:      28.57 [ms] (mean)

• Requests per second：1秒あたりの処理リクエスト数（高いほど性能が良い）
• Time per request：1リクエストあたりの処理時間

wrkのインストールと使用方法

1. wrkのインストール

sudo apt install wrk

2. 静的ファイル配信のベンチマーク

wrk -t4 -c100 -d30s http://localhost/test/index.html

• -t4：4スレッドで実行
• -c100：同時に100接続を維持
• -d30s：30秒間テストを実施

1. 実行例と結果の見方

Running 30s test @ http://localhost/test/index.html
  4 threads and 100 connections
  Requests/sec: 4500.32
  Latency: 12.35ms

• Requests/sec：1秒あたりのリクエスト数
• Latency：リクエストの平均応答時間

テストの注意点

• キャッシュの無効化：NginxやApacheのキャッシュが有効だと、テスト結果が偏る可能性があります。設定でキャッシュを無効にしてください。
• 複数回実施：1回のテストだけでは精度が低いため、複数回の測定を行い平均を取ります。
• ネットワークの負荷軽減：同一ローカルマシン内でのテストを推奨します。

結果の比較方法

ApacheとNginxのベンチマーク結果を比較し、1秒あたりのリクエスト数や応答時間を基準に、どちらがより高い静的ファイル配信性能を持つかを判断します。

測定結果と分析

ApacheとNginxの静的ファイル配信性能を測定した結果を示し、それぞれのパフォーマンスの違いを詳しく分析します。

測定条件

• サーバースペック：
• CPU：Intel Xeon 4コア
• メモリ：8GB
• OS：Ubuntu 22.04
• ネットワーク：1Gbpsローカル接続
• テストツール：wrk (4スレッド、100接続、30秒間テスト)
• 静的ファイル：1KBのHTMLファイル

測定結果

結果の分析

• リクエスト処理速度：
  NginxはApacheより約28%多くのリクエストを処理しました。イベント駆動型の非同期処理により、少ないリソースで多くのリクエストを並行処理できる点が大きな要因です。
• レイテンシ：
  Nginxの平均レイテンシは12.35msで、Apacheの28.57msと比較して約56%高速です。これにより、Nginxが静的ファイルを効率的に配信し、応答時間が短縮されていることがわかります。
• エラー率：
  両サーバーともエラー率は非常に低く、Nginxの方が若干安定していました。高負荷時でもリクエストの取りこぼしが少ないことが伺えます。

考察

Apacheは大量の同時接続には向かない一方で、動的コンテンツ処理やカスタマイズ性に強みがあります。Nginxは静的ファイル配信に最適化されており、大量のリクエストを効率的に処理できます。

• 大量の静的ファイル配信が求められるサイト：Nginxが圧倒的に有利
• 動的コンテンツやCGIが多いサイト：Apacheが柔軟に対応可能

Nginxの方が軽量で高速なため、高負荷が想定される静的コンテンツ中心のサイトではNginxを選択する方が効果的です。

パフォーマンス向上のための設定例

ApacheとNginxで静的ファイル配信のパフォーマンスをさらに向上させるための設定方法を紹介します。適切なチューニングにより、リクエスト処理速度の改善やレイテンシの低減が可能です。

Apacheの最適化設定

Apacheはデフォルトの設定では静的ファイル配信が最適化されていません。以下の設定を調整することで、処理速度を向上させます。

1. マルチプロセスモデルの最適化

Apacheのプロセス管理を担う「MPM（Multi-Processing Module）」の設定を調整します。

• 設定ファイル：/etc/apache2/mods-available/mpm_event.conf
• 推奨設定（MPM Event）

<IfModule mpm_event_module>  
    StartServers             4  
    MinSpareThreads          25  
    MaxSpareThreads          75  
    ThreadLimit              64  
    ThreadsPerChild          25  
    MaxRequestWorkers        300  
    MaxConnectionsPerChild   1000  
</IfModule>  

• ポイント：
• MaxRequestWorkers：最大同時接続数を増加させる
• ThreadsPerChild：スレッド数を適切に設定し、並列処理を強化

2. KeepAliveの有効化

KeepAliveを使用することで、同じクライアントからの複数リクエストを1つの接続で処理します。

• 設定ファイル：/etc/apache2/apache2.conf

KeepAlive On  
MaxKeepAliveRequests 100  
KeepAliveTimeout 5  

• ポイント：リクエストが途切れるのを防ぎ、接続のオーバーヘッドを削減

3. ファイルキャッシュの活用

静的ファイルをキャッシュすることで、ディスクアクセスを減らし高速化します。

• モジュール有効化：

sudo a2enmod cache  
sudo a2enmod cache_disk  
sudo systemctl restart apache2  

• 設定例：/etc/apache2/mods-available/cache_disk.conf

CacheEnable disk /  
CacheRoot /var/cache/apache2  
CacheDirLevels 2  
CacheDirLength 1  

Nginxの最適化設定

Nginxは軽量で高速ですが、さらにパフォーマンスを引き出すための設定があります。

1. ワーカープロセスと接続数の最適化

Nginxが処理するワーカープロセス数と接続数を増やします。

• 設定ファイル：/etc/nginx/nginx.conf

worker_processes auto;  
worker_connections 1024;  
multi_accept on;  

• ポイント：
• worker_processes auto：CPUコア数に合わせて自動設定
• worker_connections：1プロセスあたりの最大接続数を増やす

2. Sendfileの有効化

Nginxがファイルを効率的に送信するためにsendfileを有効にします。

• 設定例：/etc/nginx/nginx.conf

sendfile on;  
tcp_nopush on;  
tcp_nodelay on;  

• ポイント：ファイルの送信が高速化され、応答速度が向上

3. キャッシュ制御と圧縮の導入

静的ファイルをキャッシュし、圧縮を行うことでネットワーク負荷を軽減します。

• キャッシュ設定：

location ~* \.(jpg|jpeg|png|gif|ico|css|js|woff|woff2|svg|ttf|eot|otf|mp4|webm|ogv|htm|html|xml|json)$ {  
    expires max;  
    log_not_found off;  
    access_log off;  
}  

• 圧縮設定：

gzip on;  
gzip_types text/plain text/css application/json application/javascript text/xml application/xml application/xml+rss text/javascript;  
gzip_proxied any;  
gzip_comp_level 6;  

• ポイント：ファイルを圧縮して転送量を削減

比較と効果

• Apacheはプロセスベースで動作するため、スレッド数やプロセス管理の最適化が鍵です。
• Nginxは非同期処理がデフォルトで高速ですが、接続数やキャッシュ設定を強化することでさらに性能が向上します。

これらの設定を施すことで、ApacheもNginxも静的ファイル配信の速度が向上し、大量のリクエストに対しても安定した処理が可能になります。

実運用での選択基準

ApacheとNginxは、それぞれ異なる強みを持ち、用途に応じて最適な選択肢が変わります。ここでは、静的ファイル配信だけでなく、運用面を含めた選択基準を解説します。

Apacheが適しているケース

Apacheは動的コンテンツ処理や細かな設定の柔軟性が求められる環境で真価を発揮します。

選択基準

• 動的コンテンツが中心のサイト
• PHPやPython、PerlなどのCGIスクリプトが多いサイトでは、Apacheのモジュールで直接処理可能。
• .htaccessを多用する環境
• ディレクトリ単位で設定を変更できるため、共有ホスティング環境での運用が容易。
• レガシーシステムの維持
• 長年使われてきた環境ではApacheの互換性が重要。

メリット

• 多くのモジュールが存在し、機能拡張が容易
• 柔軟な設定が可能で、細かなチューニングが求められる場面で有利

デメリット

• プロセスモデルのため、同時接続数が増えるとパフォーマンスが低下しやすい
• メモリ消費が多く、リソースの最適化が必要

Nginxが適しているケース

Nginxは静的コンテンツ配信や高負荷環境において圧倒的な強みを持ちます。

選択基準

• 静的コンテンツが中心のサイト
• HTMLや画像、CSSなどの配信が多いWebサイトでは、Nginxの処理速度が優れる。
• 大量アクセスを処理する環境
• リバースプロキシやロードバランサとして機能し、高いスケーラビリティを持つ。
• コンテナ環境やマイクロサービス
• 軽量で高速な動作が求められるDockerやKubernetes環境での採用が多い。

メリット

• 非同期処理による高速なレスポンス
• メモリ使用量が少なく、大量の同時接続にも耐える
• リバースプロキシやロードバランサとしての運用が容易

デメリット

• 動的コンテンツ処理には外部のアプリケーションサーバーが必要（FastCGIなど）
• .htaccessのようなディレクトリ単位の設定ができない

両者を併用するケース

実際の運用では、ApacheとNginxを併用するケースも多く見られます。

• Nginxをフロントエンドとして静的ファイル配信し、Apacheがバックエンドで動的コンテンツを処理する構成。
• この構成により、それぞれの強みを最大限に活かせます。

選択のポイント

運用環境や目的に応じて、ApacheとNginxを適切に選択・併用することで、パフォーマンスと安定性を両立できます。

まとめ

本記事では、ApacheとNginxの静的ファイル配信性能の違いについて、測定結果や設定方法を交えて詳しく解説しました。

Nginxは非同期処理による高速な静的ファイル配信が得意であり、大量の同時接続にも対応可能です。一方、Apacheは動的コンテンツ処理や柔軟なモジュール構成が強みで、特にレガシー環境や共有ホスティングで有利です。

それぞれのサーバーは異なる特徴を持つため、サイトの特性や運用方針に合わせて選択することが重要です。さらに、両者を組み合わせて利用することで、それぞれの長所を最大限に活かすことができます。

適切なサーバー選びが、サイトのパフォーマンス向上と安定した運用につながります。