サーバー環境を最新バージョンに保つことは、システムの安定性やセキュリティ強化に直結します。この記事では、Microsoft OEMライセンスからボリュームライセンス（オープンライセンス）への移行手順や注意点、そしてアクセスCALの取り扱いまでをわかりやすく解説します。
Microsoft OEMライセンスとオープンライセンスの違い
OEM版とボリュームライセンス（オープンライセンス含む）では、ライセンス形態やサポート内容、導入の柔軟性に違いがあります。まずは、それぞれの特徴を理解することが重要です。
OEMライセンスとは
OEM（Original Equipment Manufacturer）ライセンスは、ハードウェアとセットで提供されるライセンス形態です。サーバーメーカーや販売店で購入したサーバーにあらかじめWindows Serverがプリインストールされている場合、OEM版としてライセンスが付与されます。
- サーバー本体と一体扱いされるため、基本的に別ハードウェアへ移行はできません
- コストが比較的抑えられる
- セットアップが容易
ボリュームライセンス（オープンライセンス）とは
ボリュームライセンスは、企業や組織が複数台のライセンスを一括管理するために設計されたライセンスプログラムです。オープンライセンスはその中の一形態で、中小規模から大規模まで幅広いニーズに対応できます。
- 同一のライセンスを複数台のサーバーに適用しやすい（ただしライセンス数自体は必要台数分を購入）
- ソフトウェアアシュアランス（SA）などの保守契約が締結できる
- ライセンスの移行やバージョンダウンなどが柔軟
2019 Data Center版から2022 Server Editionへのアップグレード
本題であるWindows Server 2019 Data Center版のOEMライセンスを、Windows Server 2022へ移行したい場合のポイントを解説します。
アップグレードライセンスの考え方
Windows Serverの場合、メジャーバージョンアップ（2019 → 2022）の際は、対象バージョンに対応したライセンスが必要になります。OEMライセンスをそのまま次世代バージョンへ切り替えることはできないため、以下のようなステップが必要です。
- 新たにWindows Server 2022向けのボリュームライセンス（オープンライセンス）を購入
- 既存のOEMライセンス（2019 Data Center版）はハードウェアに紐づいたライセンスとして保持
なお、Data Center版 → Data Center版 という同じエディション間のアップグレードと、Data Center版 → Standard版 や Standard版 → Data Center版 といったエディション違いのアップグレードは考え方が異なる場合があります。本記事ではData CenterからData Centerへのバージョンアップを念頭に解説しますが、エディションが変わる場合は追加のライセンス要件やエディション変更規約に注意が必要です。
アップグレード手続きの流れ
アップグレードを計画する際は、以下のような手順が一般的です。
- サーバー構成と利用目的の整理 まずはサーバーの役割（ファイルサーバー、AD DS、RDSなど）や稼働中のアプリケーションを確認し、Windows Server 2022が必要とする最小ハードウェア要件もチェックします。
- 新規ライセンス（オープンライセンス）の手配 Microsoftの認定リセラーやボリュームライセンス販売店に連絡し、Windows Server 2022 Data Center版のオープンライセンスを購入します。
- CALの見直し 後述するアクセスCAL（Client Access License）のバージョン整合性を確認し、必要に応じて2022版のCALを手配します。
- テスト環境での検証 本番サーバーをいきなりアップグレードするのではなく、テスト環境を用意し互換性や動作確認を行うと安心です。
- 本番サーバーのアップグレードまたは新規インストール アップグレードインストールかクリーンインストールかを決め、適切な方法でWindows Server 2022を導入します。
アップグレードインストールのメリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 既存の設定やアプリケーションを引き継げる | 環境が複雑な場合、問題が発生するリスクがある |
| 時間やコストを抑えられる | クリーンな環境を用意できない |
クリーンインストールのメリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 新しいOS環境をゼロから構築できる | 再設定やデータ移行に工数がかかる |
| トラブルシューティングの手間が少ない | 切り替え時間が長くなることがある |
追加ライセンスは必要か？
多くの場合、OEMライセンスからボリュームライセンスへの移行では新たにライセンスを取得する必要があります。具体的には、Windows Server 2022のサーバーライセンスおよびCALが考慮の対象です。
サーバーライセンスの移行
OEM版の2019 Data Centerは、そのサーバー本体に紐づいています。一方で、Windows Server 2022をボリュームライセンスで購入した場合、そのライセンスは別のハードウェアに移行できる利点があります。OEMライセンスからのアップグレードというよりは、新規ライセンスの導入という位置付けが近いと考えたほうがよいでしょう。
アクセスCAL（Client Access License）の扱い
Windows Serverを利用するクライアント環境には、OSバージョンに合致したCALが必要です。例えば2022版のサーバーには、2022対応のCALが必要となります。
ユーザー数が多い場合はUser CAL、端末数が多い場合はDevice CALを選択します。既存のCALが2019版のみ対応であった場合、新たに2022版のCALを購入する必要があります。
External Connectorライセンス
もし、外部ユーザー（社外の顧客やパートナーなど）がアクセスするケースがあるなら、External Connectorライセンスの利用が選択肢になります。通常のUser CALやDevice CALでは管理しきれない大規模外部ユーザーに対して、External Connectorで対応できる場合があります。
ただし、バージョンごとにライセンスの適用範囲や利用条件が異なるため、詳細はMicrosoftのライセンスガイドやリセラーに確認しましょう。
アクセスCALのバージョン整合性
CALはサーバーOSのバージョンごとに揃えるのが原則です。例えば、Windows Server 2022を導入しているにもかかわらず、CALが2019のままではライセンス違反になる場合があります。一方で、上位バージョンのCALでは下位バージョンのサーバーへのアクセスを許可する「ダウングレード権」が存在します。これにより、ユーザーが持つCALが2022版の場合、2019や2016など、以前のバージョンのサーバーにもアクセスできるのです。
- 2022 CAL → 2019サーバーへのアクセス: 基本的にはOK
- 2019 CAL → 2022サーバーへのアクセス: 原則としてNG
このルールを誤解すると、ソフトウェア資産管理（SAM）の監査においてライセンス違反と見なされる恐れがあります。よくある誤認として「2019のCALを持っていれば2022サーバーにもアクセスできる」というものがあり、これは通常認められていないため注意が必要です。
費用対効果と導入メリット
アップグレードや新規ライセンス導入となるとコスト面が懸念されることも少なくありません。しかし、OSのバージョンを最新化するメリットは大きいです。
セキュリティ強化
Windows Server 2022では、ハードウェアベースのセキュリティ強化機能（Secured-coreサーバーなど）や新しい暗号化機能が実装されています。これらの機能は、古いOSでは利用できないため、サイバー攻撃対策や情報保護の観点からも重要です。
新機能やパフォーマンス向上
Windows Server 2022では、コンテナ関連機能の強化やEdgeブラウザの追加、最新のハードウェアとの親和性向上など、パフォーマンス面も改善されています。クラウドとの連携強化やハイブリッド運用を見据える企業にとっては、メリットが多いでしょう。
長期的なサポートの確保
一般に、サーバーOSにはサポートライフサイクルが設けられています。サポートが終了したOSを使い続けると、セキュリティ更新プログラムの提供も止まるため、脆弱性が残ったままになってしまいます。2022にアップグレードすることで、今後数年間のメインストリームサポートと延長サポートを享受できます。
実際の導入手順と注意点
ここでは、より具体的な導入時のフローを示します。
1. ライセンスインベントリの作成
まず、自社にどのライセンスが何台分存在し、どのユーザーや端末が利用しているかを明確にするインベントリを作成します。OEMライセンスは特定のサーバーに紐づいているため、混在環境になっていないかチェックしましょう。
2. ボリュームライセンスの契約方法選定
オープンライセンスには、Open LicenseやOpen Valueなど複数の契約形態があります。導入台数や将来的な増設見込み、ソフトウェアアシュアランスの要否などを踏まえて最適なプランを選びます。
| 契約形態 | 特徴 | 対象 |
|---|---|---|
| Open License | 比較的少数のライセンス購入に向いている | 中小規模の企業向け |
| Open Value | ソフトウェアアシュアランスがセットになった契約形態が多い | 長期的に更新が必要な企業 |
| EA(Enterprise Agreement) | 大規模向け。数百以上のライセンス契約に最適 | 大企業やグローバル企業 |
3. アップグレード計画の策定
実際にサーバーOSを切り替えるタイミングや停止期間、業務に与える影響を考慮しながら、段階的に作業を進めます。ミッションクリティカルなサーバーが含まれる場合は、フェイルオーバークラスタリングなどの冗長化構成を活用し、サービス停止のリスクを最小限に抑えます。
4. システムバックアップとテスト
OSアップグレードに失敗してしまうと、最悪の場合サーバー全体を初期化しなければならない可能性があります。重要データのバックアップやシステムイメージの取得は必須です。可能であれば、テスト環境でアップグレード手順をリハーサルし、不具合がないか検証しましょう。
5. 本番環境への導入
実際の導入手順は、以下のいずれかになることが多いです。
- インプレースアップグレード: 2019 Data Center上に2022のセットアップを実行し、OSのバージョンを切り替える
- クリーンインストール: 新規に2022をインストールし、既存データを移行
時間的余裕やテストリソースがある場合は、クリーンインストールを推奨します。クリーンな状態で最新OSを構築することは、予期せぬトラブルを減らし、長期運用の安定性を高めます。
CALとRDS CALの再確認
ファイルサーバーやプリントサーバーとしての利用だけならUser CALまたはDevice CALのみで十分な場合があります。一方で、リモートデスクトップサービス（RDS）を提供するサーバーとして利用する場合は、追加でRDS CALが必要です。RDS環境の有無もアップグレード計画時に必ずチェックしておきましょう。
RDS CALのバージョン要件
RDS CALも通常のCALと同様、サーバーOSのバージョンに合わせる必要があります。2019版RDS CALしか持っていない場合、2022上でRDSを提供するとライセンス違反となる恐れがあるため、2022版RDS CALを新たに取得する必要があります。
移行後のライセンス管理のポイント
いざアップグレードや新規導入が完了したら、ライセンス管理の仕組みを整備しておくことが重要です。特に、以下の点を意識しましょう。
ライセンス証書やキーの保管
ボリュームライセンスは、Microsoft 365管理センターやボリュームライセンスサービスセンター（VLSC）で管理する形になります。キーの受け取りや認証に必要な情報を安全に保管し、社内での共有ルールを決めておきましょう。
定期的な監査・レポート
ライセンスの過不足や、サポート終了近いOSが混在していないかを把握するために、定期的にソフトウェア資産管理（SAM）を行うことをおすすめします。社内監査を行い、必要に応じてライセンスを追加購入またはリプレースしていくことで、コンプライアンス上のリスクを回避できます。
ソフトウェアアシュアランス（SA）の活用
ボリュームライセンスには、追加コストを支払うことでソフトウェアアシュアランスを付与できる場合があります。SAを契約することで、メジャーバージョンアップ時のライセンス費用が軽減されることや、ダウングレード権の行使が容易になるなどのメリットがあります。長期運用を見据えるなら、導入コストと将来的なバージョンアップコストのバランスを考えて検討すると良いでしょう。
トラブルシューティングのヒント
アップグレード時にありがちなトラブルと、その回避策をいくつか紹介します。
ドライバやアプリケーションの互換性問題
2019から2022へ移行する際に、ドライバやアプリケーションが非対応である場合があります。事前にベンダーやMicrosoftの互換性リストを調べておき、アップデート可能なものは最新バージョンにしておくのが理想です。
ライセンス認証エラー
ボリュームライセンスキーの入力ミスや、KMS/MAKなどの認証方式の設定ミスが原因となることがあります。認証関連の手順を正しく把握し、ライセンス認証に必要なDNSレコードの設定やファイアウォール設定を確認しておくことが大切です。
CAL管理ミス
CALのバージョンがサーバーOSと合っていない、または必要数を超えている場合、ライセンス違反となるだけでなくクライアントからの接続トラブルも発生しやすくなります。ライセンス証書やVLSC上のCAL発行数と実際の利用状況を照合し、正確に管理してください。
まとめ：アップグレードで得られる価値
Windows Server 2019から2022へアップグレードすることで、セキュリティやパフォーマンス、クラウドとの連携機能などが大きく向上します。また、OEMライセンスからボリュームライセンス（オープンライセンス）へ移行することで、将来的なハードウェアの更新や仮想化戦略にも柔軟に対応できるメリットがあります。
ただし、サーバーOSのライセンスとCALのバージョン整合性はライセンス監査の観点からも非常に重要です。新規ライセンス導入と見なして計画的に行い、必要なCALやRDS CALの再手配を忘れず行いましょう。最終的には、Microsoftやリセラーのライセンス窓口に詳細を確認し、不明点や環境特有の要件がある場合は専門家のサポートを得ることが成功への近道です。
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