C++のstd::shared_ptrでカスタムアロケータを実装する方法

C++の標準ライブラリには、スマートポインタとして非常に便利なstd::shared_ptrがあります。しかし、デフォルトのアロケータを使用する場合、メモリ管理における柔軟性が制限されることがあります。この記事では、std::shared_ptrにカスタムアロケータを設定する方法について詳しく解説します。カスタムアロケータを使用することで、特定のメモリ管理ニーズに合わせた最適化が可能となり、パフォーマンスの向上やメモリ使用効率の改善が期待できます。これから、std::shared_ptrの基本からカスタムアロケータの実装方法、適用方法までをステップバイステップで説明していきます。

目次

std::shared_ptrの基本概念

std::shared_ptrは、C++の標準ライブラリで提供されるスマートポインタの一種で、動的に確保されたメモリの管理を容易にするために使用されます。主な特徴は、複数のstd::shared_ptrインスタンスが同じオブジェクトを共有し、最後のstd::shared_ptrが破棄される際に自動的にメモリが解放されることです。

基本的な使い方

std::shared_ptrは、std::make_shared関数や直接new演算子を使用して初期化できます。以下は、基本的な使用例です。

#include <memory>
#include <iostream>

int main() {
    std::shared_ptr<int> p1 = std::make_shared<int>(10);
    std::shared_ptr<int> p2 = p1; // p1とp2が同じメモリを共有
    std::cout << *p1 << std::endl; // 出力: 10
    std::cout << p2.use_count() << std::endl; // 出力: 2 (参照カウント)
    return 0;
}

参照カウント

std::shared_ptrは参照カウント方式を採用しており、同じオブジェクトを参照するすべてのstd::shared_ptrインスタンスの数を追跡します。オブジェクトが参照されなくなると、メモリが解放されます。参照カウントの管理は自動的に行われるため、プログラマが手動でメモリを解放する必要はありません。

弱参照: std::weak_ptr

std::shared_ptrと併用されることが多いのがstd::weak_ptrです。std::weak_ptrは、std::shared_ptrが所有するオブジェクトへの弱い参照を保持し、参照カウントには影響を与えません。循環参照を避けるために使用されます。

#include <memory>
#include <iostream>

int main() {
    std::shared_ptr<int> p1 = std::make_shared<int>(20);
    std::weak_ptr<int> wp = p1; // 弱参照
    if (auto sp = wp.lock()) { // std::shared_ptrに変換
        std::cout << *sp << std::endl; // 出力: 20
    }
    return 0;
}

以上が、std::shared_ptrの基本概念とその使用方法です。次に、カスタムアロケータの必要性について解説します。

カスタムアロケータの必要性

カスタムアロケータは、メモリ管理を最適化し、特定のニーズに合わせたメモリ割り当てを行うために非常に重要です。標準のメモリアロケータでは満たせない要求やパフォーマンスの最適化が必要な場合、カスタムアロケータの導入が有効です。

メモリ管理の柔軟性

カスタムアロケータを使用することで、特定のメモリ管理戦略を実装できます。例えば、リアルタイムシステムでは、メモリの割り当てと解放が確定的である必要があり、標準のアロケータでは対応できないことがあります。カスタムアロケータを使用することで、メモリ管理の挙動を細かく制御できます。

パフォーマンスの向上

特定の用途に最適化されたカスタムアロケータは、標準アロケータよりも高速なメモリ割り当てと解放を提供することができます。例えば、頻繁にメモリを割り当てたり解放したりするアプリケーションでは、カスタムアロケータを使うことで、メモリのフラグメンテーションを減らし、パフォーマンスを向上させることが可能です。

メモリ使用効率の改善

カスタムアロケータを使用することで、メモリの無駄を減らし、メモリ使用効率を向上させることができます。例えば、特定のサイズのオブジェクトのみを扱う場合、そのサイズに特化したカスタムアロケータを作成することで、メモリのオーバーヘッドを減少させることができます。

特定用途向けのメモリ管理

カスタムアロケータは、特定の用途に合わせたメモリ管理を可能にします。例えば、大規模なデータベースアプリケーションやゲームエンジンなど、特定のパターンでメモリを使用するシステムでは、カスタムアロケータを使用することでメモリ管理を最適化できます。

以上の理由から、カスタムアロケータは、特定の条件下でのメモリ管理を改善し、パフォーマンスや効率を向上させるために重要です。次に、カスタムアロケータの具体的な実装方法について説明します。

カスタムアロケータの実装方法

カスタムアロケータを実装するには、C++のアロケータ要求を満たすために、いくつかのメンバ関数を提供する必要があります。以下に、基本的なカスタムアロケータの実装方法を示します。

基本構造

カスタムアロケータは、メモリの割り当てと解放を管理するためのクラスとして実装します。このクラスは、テンプレートを使用して汎用的にすることができます。

#include <memory>
#include <cstddef>
#include <iostream>

template <typename T>
class CustomAllocator {
public:
    using value_type = T;

    CustomAllocator() = default;

    template <typename U>
    CustomAllocator(const CustomAllocator<U>&) {}

    T* allocate(std::size_t n) {
        if (n > std::size_t(-1) / sizeof(T)) {
            throw std::bad_alloc();
        }
        T* p = static_cast<T*>(::operator new(n * sizeof(T)));
        std::cout << "Allocating " << n * sizeof(T) << " bytes.\n";
        return p;
    }

    void deallocate(T* p, std::size_t n) {
        std::cout << "Deallocating " << n * sizeof(T) << " bytes.\n";
        ::operator delete(p);
    }
};

template <typename T, typename U>
bool operator==(const CustomAllocator<T>&, const CustomAllocator<U>&) { return true; }

template <typename T, typename U>
bool operator!=(const CustomAllocator<T>&, const CustomAllocator<U>&) { return false; }

メモリ割り当て

allocate関数は、指定された数のオブジェクトのメモリを割り当てます。これは、通常のnew演算子を使用してメモリを割り当てる操作です。

メモリ解放

deallocate関数は、以前に割り当てられたメモリを解放します。これは、通常のdelete演算子を使用してメモリを解放する操作です。

相互互換性

カスタムアロケータが異なる型に対して互換性を持つようにするために、==および!=演算子をオーバーロードします。これにより、異なる型のカスタムアロケータが同じであるかどうかを比較できるようになります。

使用例

以下に、カスタムアロケータを使用する例を示します。この例では、std::vectorにカスタムアロケータを適用しています。

#include <vector>

int main() {
    std::vector<int, CustomAllocator<int>> vec;
    vec.push_back(1);
    vec.push_back(2);
    vec.push_back(3);

    for (const auto& val : vec) {
        std::cout << val << std::endl;
    }

    return 0;
}

この例では、std::vectorCustomAllocatorを使用してメモリを割り当ておよび解放しています。次に、カスタムアロケータをstd::shared_ptrに適用する方法について説明します。

std::shared_ptrへのカスタムアロケータ適用

カスタムアロケータをstd::shared_ptrに適用するためには、カスタムアロケータを使用してオブジェクトを動的に割り当て、そのオブジェクトをstd::shared_ptrで管理する必要があります。以下に、その具体的な手順を示します。

手順1: カスタムアロケータの定義

前述の通り、カスタムアロケータを定義します。ここでは、既に定義したCustomAllocatorを使用します。

手順2: カスタムデリータの定義

std::shared_ptrは、オブジェクトを解放する際にカスタムデリータを使用することができます。カスタムデリータを使用して、カスタムアロケータによって割り当てられたメモリを適切に解放します。

template <typename T>
struct CustomDeleter {
    CustomAllocator<T> allocator;

    void operator()(T* ptr) const {
        if (ptr) {
            ptr->~T();
            allocator.deallocate(ptr, 1);
        }
    }
};

手順3: std::shared_ptrの作成

カスタムアロケータとカスタムデリータを使用して、std::shared_ptrを作成します。まず、カスタムアロケータを使用してメモリを割り当て、そのメモリにオブジェクトを構築します。その後、カスタムデリータを使用してstd::shared_ptrを作成します。

#include <memory>
#include <iostream>

class MyClass {
public:
    MyClass(int value) : value_(value) {
        std::cout << "MyClass constructed with value " << value_ << std::endl;
    }
    ~MyClass() {
        std::cout << "MyClass destructed" << std::endl;
    }
    int getValue() const {
        return value_;
    }

private:
    int value_;
};

int main() {
    CustomAllocator<MyClass> allocator;
    MyClass* rawPtr = allocator.allocate(1);
    new (rawPtr) MyClass(42); // placement newでオブジェクトを構築

    std::shared_ptr<MyClass> sptr(rawPtr, CustomDeleter<MyClass>{});

    std::cout << "Value: " << sptr->getValue() << std::endl;

    return 0;
}

このコードでは、次の手順を踏んでいます。

  1. カスタムアロケータを使用してメモリを割り当てます。
  2. placement newを使用して、そのメモリにオブジェクトを構築します。
  3. カスタムデリータを使用してstd::shared_ptrを作成します。

これにより、std::shared_ptrがカスタムアロケータを使用してメモリを管理するようになります。次に、カスタムアロケータを使用してメモリ管理の最適化方法について説明します。

使用例: メモリ管理の最適化

カスタムアロケータを使用することで、特定の状況においてメモリ管理の最適化が可能になります。ここでは、カスタムアロケータを使用した具体的な使用例と、そのメリットについて説明します。

メモリプールの利用

メモリプールは、同じサイズのオブジェクトを効率的に管理するための技法です。カスタムアロケータを使用してメモリプールを実装し、std::shared_ptrに適用することで、メモリ割り当てと解放のオーバーヘッドを減少させることができます。

メモリプールの実装

以下に、メモリプールを利用するカスタムアロケータの実装例を示します。

#include <vector>
#include <memory>
#include <iostream>

template <typename T>
class PoolAllocator {
public:
    using value_type = T;

    PoolAllocator() : pool_(), free_list_() {}

    T* allocate(std::size_t n) {
        if (n != 1) {
            throw std::bad_alloc();
        }
        if (free_list_.empty()) {
            pool_.emplace_back(::operator new(sizeof(T)));
            return static_cast<T*>(pool_.back());
        } else {
            T* ptr = free_list_.back();
            free_list_.pop_back();
            return ptr;
        }
    }

    void deallocate(T* p, std::size_t n) {
        if (n != 1) {
            throw std::invalid_argument("Invalid deallocate size");
        }
        free_list_.push_back(p);
    }

private:
    std::vector<void*> pool_;
    std::vector<T*> free_list_;
};

template <typename T, typename U>
bool operator==(const PoolAllocator<T>&, const PoolAllocator<U>&) { return true; }

template <typename T, typename U>
bool operator!=(const PoolAllocator<T>&, const PoolAllocator<U>&) { return false; }

カスタムアロケータを使用したstd::shared_ptr

上記のカスタムアロケータを使用して、std::shared_ptrを作成します。

template <typename T>
struct PoolDeleter {
    PoolAllocator<T> allocator;

    void operator()(T* ptr) const {
        if (ptr) {
            ptr->~T();
            allocator.deallocate(ptr, 1);
        }
    }
};

int main() {
    PoolAllocator<MyClass> allocator;
    MyClass* rawPtr = allocator.allocate(1);
    new (rawPtr) MyClass(42); // placement newでオブジェクトを構築

    std::shared_ptr<MyClass> sptr(rawPtr, PoolDeleter<MyClass>{});

    std::cout << "Value: " << sptr->getValue() << std::endl;

    // メモリプールを利用してメモリの再利用を最適化
    sptr.reset(); // MyClassのインスタンスが破棄され、メモリがプールに戻る

    MyClass* rawPtr2 = allocator.allocate(1);
    new (rawPtr2) MyClass(84);
    std::shared_ptr<MyClass> sptr2(rawPtr2, PoolDeleter<MyClass>{});

    std::cout << "Value: " << sptr2->getValue() << std::endl;

    return 0;
}

この例では、以下のようにメモリプールを利用することでメモリ管理を最適化しています。

  1. メモリプールを利用して新しいオブジェクトのメモリを割り当て。
  2. カスタムデリータを使用してstd::shared_ptrを作成。
  3. メモリが解放されると、メモリプールに戻す。
  4. メモリプールから再利用することで、メモリ割り当てのオーバーヘッドを削減。

この方法により、特に大量のオブジェクトの作成と破棄が頻繁に行われる場合に、パフォーマンスの向上が期待できます。次に、カスタムアロケータを適用した後のパフォーマンスの評価方法について説明します。

パフォーマンスの評価方法

カスタムアロケータを適用した後、パフォーマンスの評価を行うことは非常に重要です。これにより、実際にカスタムアロケータが期待通りの効果を発揮しているかを確認できます。以下に、パフォーマンスの評価方法について説明します。

パフォーマンステストの設定

パフォーマンステストを行う際には、カスタムアロケータを使用した場合と標準のアロケータを使用した場合の両方でテストを行い、比較することが必要です。以下のような基準を設定してテストを行います。

  1. メモリ割り当てと解放の速度
  2. メモリ使用量
  3. アプリケーション全体の実行速度

ベンチマークコードの例

以下に、カスタムアロケータと標準アロケータのパフォーマンスを比較するためのベンチマークコードの例を示します。

#include <chrono>
#include <vector>
#include <iostream>
#include <memory>

template <typename Allocator>
void benchmark_allocator(Allocator allocator, const std::string& allocator_name) {
    const int num_iterations = 100000;
    const int num_elements = 1000;
    std::vector<std::shared_ptr<int>> vec;

    auto start = std::chrono::high_resolution_clock::now();
    for (int i = 0; i < num_iterations; ++i) {
        for (int j = 0; j < num_elements; ++j) {
            int* rawPtr = allocator.allocate(1);
            new (rawPtr) int(j);
            vec.push_back(std::shared_ptr<int>(rawPtr, [allocator](int* ptr) mutable {
                ptr->~int();
                allocator.deallocate(ptr, 1);
            }));
        }
        vec.clear();
    }
    auto end = std::chrono::high_resolution_clock::now();
    std::chrono::duration<double> duration = end - start;
    std::cout << "Allocator: " << allocator_name << ", Duration: " << duration.count() << " seconds" << std::endl;
}

int main() {
    PoolAllocator<int> poolAllocator;
    std::allocator<int> stdAllocator;

    benchmark_allocator(poolAllocator, "PoolAllocator");
    benchmark_allocator(stdAllocator, "std::allocator");

    return 0;
}

このコードでは、カスタムアロケータと標準アロケータのパフォーマンスを比較しています。それぞれのアロケータを使用して、多数のオブジェクトを作成および破棄し、その所要時間を計測します。

メモリ使用量の評価

メモリ使用量の評価には、メモリプロファイラを使用することが有効です。メモリプロファイラを使用することで、アプリケーションがどのくらいのメモリを使用しているか、どの部分でメモリが使用されているかを詳細に分析できます。以下に、代表的なメモリプロファイラの例を示します。

  • Valgrind (Linux)
  • Visual Studio Profiler (Windows)
  • Instruments (macOS)

パフォーマンスの比較と分析

ベンチマーク結果を比較し、カスタムアロケータの効果を分析します。以下の点に注目します。

  1. メモリ割り当てと解放の速度: カスタムアロケータが標準アロケータよりも高速であるかどうかを確認します。
  2. メモリ使用量: カスタムアロケータを使用することでメモリ使用量が減少しているかどうかを確認します。
  3. アプリケーション全体のパフォーマンス: カスタムアロケータがアプリケーション全体のパフォーマンスに与える影響を評価します。

以上の方法を用いて、カスタムアロケータのパフォーマンスを評価し、最適化の効果を確認します。次に、カスタムアロケータを使用する際のトラブルシューティングとヒントについて説明します。

トラブルシューティングとヒント

カスタムアロケータを実装し、適用する過程で直面する可能性のある問題とその解決策について解説します。また、カスタムアロケータを効果的に活用するためのヒントも提供します。

一般的な問題と解決策

メモリリークの発生

カスタムアロケータを使用する際に最も一般的な問題の一つがメモリリークです。メモリリークが発生する原因としては、メモリが適切に解放されていない、あるいは参照カウントが正しく管理されていないことが挙げられます。

解決策:

  • すべてのメモリ割り当てに対して必ず対応するメモリ解放が行われているかを確認します。
  • カスタムデリータを正しく実装し、メモリ解放のロジックが漏れなく実行されるようにします。
  • メモリリーク検出ツール(Valgrind、Visual Studio Profilerなど)を使用してメモリリークを検出し、修正します。

パフォーマンスの劣化

カスタムアロケータの導入が必ずしもパフォーマンスの向上を保証するわけではありません。場合によっては、カスタムアロケータが標準アロケータよりも遅いことがあります。

解決策:

  • パフォーマンステストを行い、カスタムアロケータが実際に有効かどうかを確認します。
  • 特定の使用ケースに対してカスタムアロケータが適しているかどうかを再評価します。
  • 必要に応じて、カスタムアロケータの実装を最適化します。

アロケータ間の互換性の問題

異なるアロケータを使用するコンテナ間でデータをやり取りする場合、アロケータの互換性が問題になることがあります。

解決策:

  • 同じアロケータを使用するコンテナ間でのみデータをやり取りするようにします。
  • 異なるアロケータを使用する場合は、データのコピーを行うか、アロケータの互換性を確保するための変換ロジックを実装します。

ヒントとベストプラクティス

シンプルな設計を心がける

カスタムアロケータの実装は、できるだけシンプルに保つことが重要です。複雑なロジックはバグの温床となりやすいため、基本的なメモリ割り当てと解放の機能に焦点を当てます。

テストとデバッグを徹底する

カスタムアロケータは、標準アロケータと同様に厳密なテストとデバッグが必要です。ユニットテストを作成し、さまざまなシナリオでアロケータの動作を確認します。

ドキュメントを充実させる

カスタムアロケータの使用方法や制約、実装の詳細について十分なドキュメントを提供します。これにより、他の開発者がカスタムアロケータを正しく使用できるようになります。

リソースの効率的な管理

メモリ以外のリソース(例えばファイルハンドルやネットワークソケット)を管理する場合、カスタムアロケータの枠組みを拡張して管理することが可能です。この場合、リソースの効率的な管理を考慮した実装が必要です。

以上のトラブルシューティングとヒントを参考に、カスタムアロケータを効果的に実装し、利用することができます。次に、特定用途向けのカスタムアロケータの応用例について説明します。

応用例: 特定用途向けのカスタムアロケータ

カスタムアロケータは、特定の用途やシナリオに合わせて最適化されたメモリ管理を提供するために使用されます。以下に、特定用途向けのカスタムアロケータの応用例をいくつか紹介します。

リアルタイムシステム向けカスタムアロケータ

リアルタイムシステムでは、メモリ割り当てと解放の遅延が許容されないため、確定的なメモリ管理が必要です。このようなシステム向けにカスタムアロケータを実装することで、予測可能なメモリ管理を実現できます。

template <typename T>
class RealTimeAllocator {
public:
    using value_type = T;

    RealTimeAllocator() : current_(0) {
        // メモリプールを事前に確保
        for (auto& slot : pool_) {
            slot = reinterpret_cast<T*>(::operator new(sizeof(T)));
        }
    }

    ~RealTimeAllocator() {
        for (auto& slot : pool_) {
            ::operator delete(slot);
        }
    }

    T* allocate(std::size_t n) {
        if (n != 1 || current_ >= pool_.size()) {
            throw std::bad_alloc();
        }
        return pool_[current_++];
    }

    void deallocate(T* p, std::size_t n) {
        // リアルタイムシステムでは解放を行わず、システムリセット時に解放する
    }

private:
    static const std::size_t pool_size = 1000;
    std::array<T*, pool_size> pool_;
    std::size_t current_;
};

メモリ制約環境向けカスタムアロケータ

メモリが限られている組み込みシステムやIoTデバイスでは、メモリ使用量を最小限に抑えるためのカスタムアロケータが有効です。このアロケータは、必要最小限のメモリを使用するように最適化されています。

template <typename T>
class EmbeddedAllocator {
public:
    using value_type = T;

    EmbeddedAllocator() : memory_(nullptr), allocated_(false) {}

    T* allocate(std::size_t n) {
        if (n != 1 || allocated_) {
            throw std::bad_alloc();
        }
        memory_ = reinterpret_cast<T*>(::operator new(sizeof(T)));
        allocated_ = true;
        return memory_;
    }

    void deallocate(T* p, std::size_t n) {
        if (p == memory_ && n == 1) {
            ::operator delete(memory_);
            memory_ = nullptr;
            allocated_ = false;
        }
    }

private:
    T* memory_;
    bool allocated_;
};

並列処理向けカスタムアロケータ

並列処理が行われるシステムでは、スレッドごとにメモリプールを持つカスタムアロケータを使用することで、スレッド間のメモリ競合を減少させることができます。

template <typename T>
class ThreadLocalAllocator {
public:
    using value_type = T;

    ThreadLocalAllocator() {
        for (auto& pool : pools_) {
            pool.reserve(pool_size);
        }
    }

    T* allocate(std::size_t n) {
        if (n != 1) {
            throw std::bad_alloc();
        }
        auto& pool = pools_[std::this_thread::get_id()];
        if (pool.empty()) {
            pool.push_back(static_cast<T*>(::operator new(sizeof(T))));
        }
        T* ptr = pool.back();
        pool.pop_back();
        return ptr;
    }

    void deallocate(T* p, std::size_t n) {
        if (n == 1) {
            pools_[std::this_thread::get_id()].push_back(p);
        }
    }

private:
    static const std::size_t pool_size = 100;
    std::unordered_map<std::thread::id, std::vector<T*>> pools_;
};

応用例のまとめ

これらの特定用途向けのカスタムアロケータは、それぞれのシナリオに合わせてメモリ管理を最適化しています。リアルタイムシステム、メモリ制約環境、並列処理など、異なる要件に対応するカスタムアロケータを実装することで、効率的なメモリ管理が実現できます。

次に、読者が自身でカスタムアロケータを作成できるように、演習問題を提供します。

演習問題: 自分でカスタムアロケータを作成する

ここでは、カスタムアロケータを自分で実装し、その動作を確認するための演習問題を提供します。これらの演習を通じて、カスタムアロケータの理解を深め、自分のプロジェクトに適用できるスキルを習得しましょう。

演習1: 基本的なカスタムアロケータの実装

まず、以下の要件を満たす基本的なカスタムアロケータを実装してください。

  1. メモリの割り当てと解放を行うallocateおよびdeallocateメソッドを実装する。
  2. 10個のint型オブジェクトのメモリをプールする。
  3. プールされたメモリを再利用して、メモリ割り当てのオーバーヘッドを減らす。
#include <iostream>
#include <array>

template <typename T>
class BasicPoolAllocator {
public:
    using value_type = T;

    BasicPoolAllocator() : pool_(), free_list_(), free_index_(0) {
        for (std::size_t i = 0; i < pool_size; ++i) {
            free_list_[i] = &pool_[i];
        }
    }

    T* allocate(std::size_t n) {
        if (n != 1 || free_index_ >= pool_size) {
            throw std::bad_alloc();
        }
        return free_list_[free_index_++];
    }

    void deallocate(T* p, std::size_t n) {
        if (n == 1 && p >= &pool_[0] && p < &pool_[pool_size]) {
            free_list_[--free_index_] = p;
        }
    }

private:
    static const std::size_t pool_size = 10;
    std::array<T, pool_size> pool_;
    std::array<T*, pool_size> free_list_;
    std::size_t free_index_;
};

演習2: カスタムデリータとstd::shared_ptrの組み合わせ

次に、上記のカスタムアロケータを使用して、std::shared_ptrを作成するプログラムを実装してください。以下の要件を満たしてください。

  1. カスタムアロケータを使用してint型オブジェクトを割り当てる。
  2. カスタムデリータを実装して、割り当てられたメモリを適切に解放する。
  3. std::shared_ptrを使用してメモリ管理を行う。
#include <memory>

template <typename T>
struct BasicDeleter {
    BasicPoolAllocator<T> allocator;

    void operator()(T* ptr) const {
        if (ptr) {
            ptr->~T();
            allocator.deallocate(ptr, 1);
        }
    }
};

int main() {
    BasicPoolAllocator<int> allocator;
    int* rawPtr = allocator.allocate(1);
    new (rawPtr) int(100);

    std::shared_ptr<int> sptr(rawPtr, BasicDeleter<int>{});
    std::cout << "Value: " << *sptr << std::endl;

    return 0;
}

演習3: パフォーマンステストの実施

最後に、標準アロケータとカスタムアロケータのパフォーマンスを比較するプログラムを実装してください。以下の要件を満たしてください。

  1. 標準アロケータを使用してstd::shared_ptrを作成し、パフォーマンスを測定する。
  2. カスタムアロケータを使用してstd::shared_ptrを作成し、パフォーマンスを測定する。
  3. 両者の結果を比較し、カスタムアロケータの有効性を評価する。
#include <chrono>
#include <vector>

template <typename Allocator>
void benchmark_allocator(Allocator allocator, const std::string& allocator_name) {
    const int num_iterations = 10000;
    const int num_elements = 100;
    std::vector<std::shared_ptr<int>> vec;

    auto start = std::chrono::high_resolution_clock::now();
    for (int i = 0; i < num_iterations; ++i) {
        for (int j = 0; j < num_elements; ++j) {
            int* rawPtr = allocator.allocate(1);
            new (rawPtr) int(j);
            vec.push_back(std::shared_ptr<int>(rawPtr, [allocator](int* ptr) mutable {
                ptr->~int();
                allocator.deallocate(ptr, 1);
            }));
        }
        vec.clear();
    }
    auto end = std::chrono::high_resolution_clock::now();
    std::chrono::duration<double> duration = end - start;
    std::cout << "Allocator: " << allocator_name << ", Duration: " << duration.count() << " seconds" << std::endl;
}

int main() {
    BasicPoolAllocator<int> poolAllocator;
    std::allocator<int> stdAllocator;

    benchmark_allocator(poolAllocator, "BasicPoolAllocator");
    benchmark_allocator(stdAllocator, "std::allocator");

    return 0;
}

これらの演習問題を通じて、カスタムアロケータの実装とその利用方法を学び、実際のプロジェクトで効果的に使用できるようになることを目指してください。次に、本記事のまとめを行います。

まとめ

この記事では、C++のstd::shared_ptrにカスタムアロケータを適用する方法について解説しました。カスタムアロケータの必要性、実装方法、適用方法、使用例、パフォーマンスの評価方法、トラブルシューティングとヒント、特定用途向けの応用例、そして実際にカスタムアロケータを作成するための演習問題を紹介しました。

カスタムアロケータを使用することで、特定のメモリ管理ニーズに合わせた最適化が可能となり、システムのパフォーマンスやメモリ使用効率を向上させることができます。この記事を通じて得た知識を活用し、自身のプロジェクトにカスタムアロケータを効果的に適用してください。

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