RustにおけるRcとWeakの依存関係設計を徹底解説

Rustにおけるメモリ管理は、その安全性と効率性が高く評価されていますが、所有権システムがあるため、複数の箇所で同じデータを参照するには工夫が必要です。特に、複数の所有者が同じデータを共有する場合や、依存関係が複雑になる場合、参照カウント型スマートポインタのRc<T>と、循環参照を防ぐためのWeak<T>が重要な役割を果たします。

Rc<T>は複数の所有者が参照するデータを管理し、Weak<T>は所有権を持たない弱い参照を提供します。これらのツールをうまく活用することで、Rustで安全かつ効率的に依存関係を設計できます。

本記事では、Rc<T>Weak<T>の基本的な使い方から、循環参照を回避する具体的な設計方法、実践的な依存関係管理の例、パフォーマンス考慮点まで徹底的に解説します。Rustで複雑な依存関係管理を行うための知識を身につけ、メモリ管理の課題を解決しましょう。

目次

`Rc`とは何か


Rc<T>は「Reference Counted」の略で、Rustにおける参照カウント型スマートポインタです。複数の所有者が同じデータを共有する必要がある場合に使用されます。通常、Rustの所有権システムではデータに対して一つの所有者しか存在できませんが、Rc<T>を使うことで複数の所有者が安全にデータを共有できます。

`Rc`の特徴

  • 参照カウント管理Rc<T>は内部で参照カウントを管理し、参照がなくなったタイミングで自動的にデータを解放します。
  • 共有可能なデータ:複数の変数が同じデータを指し示し、所有権を共有できます。
  • スレッド非安全Rc<T>はスレッド間で安全に共有できません。マルチスレッド環境ではArc<T>を使います。

`Rc`の使用例

use std::rc::Rc;

fn main() {
    let data = Rc::new(String::from("Hello, world!"));

    let ref1 = Rc::clone(&data);
    let ref2 = Rc::clone(&data);

    println!("ref1: {}", ref1);
    println!("ref2: {}", ref2);
    println!("参照カウント: {}", Rc::strong_count(&data));
}

出力結果:

ref1: Hello, world!  
ref2: Hello, world!  
参照カウント: 3

用途

  • ツリー構造:複数のノードが同じ子ノードを参照する場合。
  • グラフ構造:複数のエッジが同じノードを指すようなデータ構造。
  • 複数箇所でデータを共有する必要があるケース

Rc<T>を適切に使うことで、複数の所有者が安全にデータを共有し、効率的な依存関係管理が可能になります。

`Weak`の役割と仕組み

Weak<T>は、Rustにおける「弱い参照」を提供するスマートポインタです。Rc<T>による参照カウント管理では、複数の所有者がデータを共有できますが、これだけでは循環参照(メモリリーク)が発生するリスクがあります。Weak<T>を使うことで、所有権を持たずにデータを参照し、循環参照を回避できます。

`Weak`の特徴

  • 弱い参照Weak<T>は参照カウントに影響を与えません。
  • 循環参照の回避Weak<T>を使うことで、所有権を持たない弱い参照を作成し、循環参照を防ぎます。
  • 有効性の確認が必要Weak<T>は参照先が解放されると無効になります。データを参照する前にupgrade()メソッドでRc<T>に変換し、データがまだ存在するか確認する必要があります。

`Weak`の基本的な使い方

use std::rc::{Rc, Weak};
use std::cell::RefCell;

#[derive(Debug)]
struct Node {
    value: i32,
    parent: RefCell<Weak<Node>>,
    children: RefCell<Vec<Rc<Node>>>,
}

fn main() {
    let leaf = Rc::new(Node {
        value: 3,
        parent: RefCell::new(Weak::new()),
        children: RefCell::new(vec![]),
    });

    let branch = Rc::new(Node {
        value: 5,
        parent: RefCell::new(Weak::new()),
        children: RefCell::new(vec![Rc::clone(&leaf)]),
    });

    *leaf.parent.borrow_mut() = Rc::downgrade(&branch);

    println!("Leaf's parent: {:?}", leaf.parent.borrow().upgrade());
    println!("Branch: {:?}", branch);
}

出力結果

Leaf's parent: Some(Node { value: 5, parent: RefCell { value: (Weak) }, children: RefCell { value: [Node { value: 3, parent: RefCell { value: (Weak) }, children: RefCell { value: [] }] }] })
Branch: Node { value: 5, parent: RefCell { value: (Weak) }, children: RefCell { value: [Node { value: 3, parent: RefCell { value: (Weak) }, children: RefCell { value: [] }] }] }

用途

  • 木構造における親子関係:子ノードが親ノードへの弱い参照を保持することで、循環参照を防ぎます。
  • キャッシュや一時的な参照:強い参照を保持せず、必要に応じて一時的にデータを参照する場合。

Weak<T>を使用することで、Rc<T>による循環参照の問題を回避し、安全に複雑な依存関係を管理することができます。

`Rc`と`Weak`の使い方

ここでは、Rc<T>Weak<T>を用いた依存関係管理の基本的な使い方を解説します。具体的なコード例を通して、それぞれのスマートポインタの使用方法を理解しましょう。

`Rc`の基本的な使い方

Rc<T>は複数の所有者がデータを共有する際に使用します。以下の例は、複数の変数が同じデータを参照するシンプルな例です。

use std::rc::Rc;

fn main() {
    let data = Rc::new(String::from("Hello, Rust!"));

    let ref1 = Rc::clone(&data);
    let ref2 = Rc::clone(&data);

    println!("ref1: {}", ref1);
    println!("ref2: {}", ref2);
    println!("参照カウント: {}", Rc::strong_count(&data));
}

出力結果:

ref1: Hello, Rust!  
ref2: Hello, Rust!  
参照カウント: 3

ポイント

  • Rc::new()でデータを生成します。
  • Rc::clone()で新たな参照を作成します(cloneはデータ自体を複製するのではなく、参照を増やします)。
  • Rc::strong_count()で現在の強い参照の数を確認できます。

`Weak`の基本的な使い方

Weak<T>は循環参照を防ぐために使用されます。以下の例では、木構造における親子関係でWeak<T>を使用しています。

use std::rc::{Rc, Weak};
use std::cell::RefCell;

#[derive(Debug)]
struct Node {
    value: i32,
    parent: RefCell<Weak<Node>>,
    children: RefCell<Vec<Rc<Node>>>,
}

fn main() {
    let leaf = Rc::new(Node {
        value: 3,
        parent: RefCell::new(Weak::new()),
        children: RefCell::new(vec![]),
    });

    let branch = Rc::new(Node {
        value: 5,
        parent: RefCell::new(Weak::new()),
        children: RefCell::new(vec![Rc::clone(&leaf)]),
    });

    // 子ノードが親ノードへの弱い参照を保持する
    *leaf.parent.borrow_mut() = Rc::downgrade(&branch);

    println!("Leaf's parent: {:?}", leaf.parent.borrow().upgrade());
    println!("Branch: {:?}", branch);
}

ポイント

  • Rc::downgrade(&rc)Rc<T>からWeak<T>を作成します。
  • Weak::new():無効な弱い参照を初期化します。
  • upgrade()Weak<T>Rc<T>に戻します。データが既に解放されていればNoneになります。

`Rc`と`Weak`を組み合わせる設計例

親子関係のあるツリー構造では、以下のようにRc<T>Weak<T>を組み合わせることで安全に循環参照を回避できます。

  • 親ノード:子ノードをRc<T>で参照します。
  • 子ノード:親ノードをWeak<T>で参照します。

図解

Parent (Rc) ------> Child (Rc)
   ↑                  ↓
   |--------(Weak)----|

これにより、親子間の依存関係を安全に管理し、メモリリークを防ぐことができます。

まとめ

  • Rc<T>はデータを共有するために使用し、参照カウントで管理します。
  • Weak<T>は所有権を持たない弱い参照で、循環参照を回避するために使用します。

これらを適切に組み合わせることで、Rustにおける依存関係管理を効果的に設計できます。

循環参照が発生するケース

Rustにおける循環参照は、Rc<T>同士が相互に参照し合うことで発生します。これが起こると、参照カウントがゼロにならず、メモリが解放されなくなります。以下で具体的なケースと、なぜ循環参照が問題となるのかを解説します。

循環参照の具体例

以下のコードは、親ノードと子ノードが互いにRc<T>で参照し合うことで循環参照が発生する例です。

use std::rc::Rc;
use std::cell::RefCell;

#[derive(Debug)]
struct Node {
    value: i32,
    parent: RefCell<Option<Rc<Node>>>,
    child: RefCell<Option<Rc<Node>>>,
}

fn main() {
    let parent = Rc::new(Node {
        value: 1,
        parent: RefCell::new(None),
        child: RefCell::new(None),
    });

    let child = Rc::new(Node {
        value: 2,
        parent: RefCell::new(Some(Rc::clone(&parent))),
        child: RefCell::new(None),
    });

    *parent.child.borrow_mut() = Some(Rc::clone(&child));

    println!("Parent: {:?}", parent);
    println!("Child: {:?}", child);
}

出力結果

Parent: Node { value: 1, parent: RefCell { value: None }, child: RefCell { value: Some(Node { value: 2, parent: RefCell { value: Some(...) }, child: RefCell { value: None }) }) } }
Child: Node { value: 2, parent: RefCell { value: Some(Node { value: 1, ... }) }, child: RefCell { value: None } }

このコードでは、parentchildを参照し、childparentを参照しています。これによって循環参照が発生し、どちらのノードも参照カウントがゼロにならないため、メモリが解放されません。

循環参照が引き起こす問題

  1. メモリリーク
    循環参照が発生すると、参照カウントが減らないため、不要なメモリが解放されません。これによりプログラムのメモリ使用量が増大し、パフォーマンスの低下やクラッシュの原因になります。
  2. 予期しない動作
    プログラムのリソースが解放されず、システムが不安定になる可能性があります。

循環参照の原因

  • Rc<T>同士の相互参照:親と子が互いにRc<T>で所有し合うと循環が発生します。
  • ツリーやグラフ構造:双方向リンクや複雑な依存関係がある場合に起こりやすいです。

循環参照の確認方法

  • 参照カウントの確認Rc::strong_count(&data)で参照カウントを確認し、予期しない増加がないかチェックします。

まとめ

Rc<T>は強力なスマートポインタですが、相互参照による循環参照のリスクが伴います。循環参照が発生するとメモリリークの原因になるため、次のステップではWeak<T>を用いた循環参照の回避方法を解説します。

`Weak`を使った循環参照の回避

RustではRc<T>を使うことで複数の所有者が同じデータを共有できますが、Rc<T>同士が相互に参照し合うと循環参照が発生し、メモリリークの原因になります。これを回避するためには、Weak<T>を使って弱い参照を作成することで循環参照を防ぐことができます。

`Weak`を使った循環参照回避の例

以下は、Rc<T>Weak<T>を組み合わせて親子ノードの関係を安全に管理する例です。

use std::rc::{Rc, Weak};
use std::cell::RefCell;

#[derive(Debug)]
struct Node {
    value: i32,
    parent: RefCell<Weak<Node>>,     // 親ノードへの弱い参照
    children: RefCell<Vec<Rc<Node>>>, // 子ノードへの強い参照
}

fn main() {
    // 親ノードを作成
    let parent = Rc::new(Node {
        value: 1,
        parent: RefCell::new(Weak::new()),
        children: RefCell::new(vec![]),
    });

    // 子ノードを作成
    let child = Rc::new(Node {
        value: 2,
        parent: RefCell::new(Weak::new()),
        children: RefCell::new(vec![]),
    });

    // 子ノードを親ノードの子供リストに追加
    parent.children.borrow_mut().push(Rc::clone(&child));

    // 子ノードが親ノードへの弱い参照を持つ
    *child.parent.borrow_mut() = Rc::downgrade(&parent);

    println!("Parent: {:?}", parent);
    println!("Child's parent: {:?}", child.parent.borrow().upgrade());
}

出力結果

Parent: Node { value: 1, parent: RefCell { value: (Weak) }, children: RefCell { value: [Node { value: 2, parent: RefCell { value: (Weak) }, children: RefCell { value: [] }] }] }
Child's parent: Some(Node { value: 1, parent: RefCell { value: (Weak) }, children: RefCell { value: [Node { value: 2, parent: RefCell { value: (Weak) }, children: RefCell { value: [] }] }] })

コード解説

  1. 親ノード (parent) は子ノード (children) をRc<T>で強い参照として保持します。
  2. 子ノード (child) は親ノードをWeak<T>で弱い参照として保持します。
  3. Rc::downgrade(&parent)Rc<T>からWeak<T>を生成し、循環参照を防ぎます。
  4. upgrade()Weak<T>Rc<T>に戻し、親ノードがまだ有効かどうかを確認できます。

循環参照が回避される仕組み

  • Weak<T>は参照カウントを増やさないため、親ノードと子ノードが相互参照しても、参照カウントがゼロになるとメモリが正しく解放されます。
  • Weak<T>で参照しているデータが解放された場合、upgrade()Noneを返すため、無効な参照を防げます。

循環参照回避のポイント

  • 親ノードをWeak<T>で参照することで、強い参照による循環を防ぐ。
  • 子ノードはRc<T>で管理し、親から子への関係は強い参照で保持する。

まとめ

Rc<T>を使う際には、循環参照が発生しないように注意が必要です。Weak<T>を活用することで、所有権を持たない弱い参照を作成し、メモリリークを防ぎつつ安全に依存関係を管理できます。これにより、Rustの強力な所有権システムを維持しながら、柔軟なデータ構造を設計できます。

実践的な依存関係管理の設計例

ここでは、Rc<T>Weak<T>を活用した実践的な依存関係管理の設計例を紹介します。Rustで循環参照を回避しつつ、複数の所有者がデータを効率的に共有するシナリオを考えます。

シナリオ: ファイルシステムのディレクトリ構造

ファイルシステムのディレクトリ構造をモデル化する場合、親ディレクトリが子ディレクトリを持ち、子ディレクトリが親ディレクトリへの参照を持つ必要があります。このとき、親から子への参照はRc<T>で、子から親への参照はWeak<T>で管理することで循環参照を防ぎます。

ディレクトリ構造の定義

use std::rc::{Rc, Weak};
use std::cell::RefCell;

// ディレクトリの定義
#[derive(Debug)]
struct Directory {
    name: String,
    parent: RefCell<Weak<Directory>>,         // 親ディレクトリへの弱い参照
    children: RefCell<Vec<Rc<Directory>>>,    // 子ディレクトリへの強い参照
}

fn main() {
    // ルートディレクトリを作成
    let root = Rc::new(Directory {
        name: String::from("root"),
        parent: RefCell::new(Weak::new()),
        children: RefCell::new(vec![]),
    });

    // サブディレクトリを作成
    let home = Rc::new(Directory {
        name: String::from("home"),
        parent: RefCell::new(Weak::new()),
        children: RefCell::new(vec![]),
    });

    let user = Rc::new(Directory {
        name: String::from("user"),
        parent: RefCell::new(Weak::new()),
        children: RefCell::new(vec![]),
    });

    // 親ディレクトリと子ディレクトリをリンク
    root.children.borrow_mut().push(Rc::clone(&home));
    *home.parent.borrow_mut() = Rc::downgrade(&root);

    home.children.borrow_mut().push(Rc::clone(&user));
    *user.parent.borrow_mut() = Rc::downgrade(&home);

    // ディレクトリ構造を表示
    println!("Root: {:?}", root);
    println!("Home's parent: {:?}", home.parent.borrow().upgrade());
    println!("User's parent: {:?}", user.parent.borrow().upgrade());
}

出力結果

Root: Directory { name: "root", parent: RefCell { value: (Weak) }, children: RefCell { value: [Directory { name: "home", parent: RefCell { value: (Weak) }, children: RefCell { value: [Directory { name: "user", parent: RefCell { value: (Weak) }, children: RefCell { value: [] }] }] }] } }
Home's parent: Some(Directory { name: "root", parent: RefCell { value: (Weak) }, children: RefCell { value: [Directory { name: "home", parent: RefCell { value: (Weak) }, children: RefCell { value: [Directory { name: "user", parent: RefCell { value: (Weak) }, children: RefCell { value: [] }] }] }] })
User's parent: Some(Directory { name: "home", parent: RefCell { value: (Weak) }, children: RefCell { value: [Directory { name: "user", parent: RefCell { value: (Weak) }, children: RefCell { value: [] }] }] })

設計のポイント

  1. 親から子への参照
  • 親ディレクトリは子ディレクトリへの強い参照としてRc<T>を使用します。
  1. 子から親への参照
  • 子ディレクトリは親ディレクトリへの弱い参照としてWeak<T>を使用します。
  • これにより、循環参照が発生せず、親ディレクトリが解放されたときにメモリリークが起きません。
  1. upgrade()メソッド
  • Weak<T>からRc<T>に変換する際、親ディレクトリがまだ有効であればSome(Rc<T>)が返り、解放されていればNoneが返ります。

応用例

この設計パターンは、他の依存関係管理にも応用できます。例えば:

  • GUIツリー構造:ウィンドウとその子コンポーネント。
  • グラフ構造:ノードが親と子のリンクを持つ場合。
  • タスク依存関係:親タスクと子タスクの依存関係。

まとめ

  • Rc<T> で強い参照を作り、データを共有します。
  • Weak<T> で弱い参照を作り、循環参照を回避します。
  • これにより、安全で効率的な依存関係管理が可能となります。

パフォーマンスの考慮点

Rc<T>Weak<T>を使うことで安全に依存関係を管理できますが、パフォーマンスに影響を及ぼす要素もあります。ここでは、これらのスマートポインタを使用する際に考慮すべきパフォーマンスのポイントを解説します。

`Rc`のパフォーマンスに関する考慮点

  1. 参照カウントのオーバーヘッド
    Rc<T>は参照カウントを管理するため、各Rc::clone()操作でカウントのインクリメント、Rcのドロップ時にはデクリメントが発生します。この処理にはコストがかかります。 例: 参照カウントの増減によるオーバーヘッド
   use std::rc::Rc;

   fn main() {
       let data = Rc::new(String::from("Performance Test"));
       let clone1 = Rc::clone(&data);
       let clone2 = Rc::clone(&data);

       println!("参照カウント: {}", Rc::strong_count(&data));
   }

参照カウントの管理が頻繁に行われる場合、パフォーマンスが低下する可能性があります。

  1. シングルスレッド専用
    Rc<T>はシングルスレッド環境でしか使用できません。マルチスレッド環境でデータを共有する必要がある場合は、Arc<T>(Atomic Reference Counted)を使用しますが、Arc<T>は内部でアトミック操作を行うため、Rc<T>よりもオーバーヘッドが大きくなります。

`Weak`のパフォーマンスに関する考慮点

  1. upgrade()のコスト
    Weak<T>Rc<T>に変換するためのupgrade()は、参照先がまだ有効かどうか確認する必要があり、わずかなコストが発生します。
   use std::rc::{Rc, Weak};

   let strong = Rc::new(5);
   let weak = Rc::downgrade(&strong);

   if let Some(strong_ref) = weak.upgrade() {
       println!("参照は有効: {}", strong_ref);
   } else {
       println!("参照は無効");
   }
  1. 循環参照回避のトレードオフ
    Weak<T>を使うことで循環参照を防げますが、その分コードが複雑になります。Weak<T>を適切に管理しないと、不要なNoneチェックやupgrade()の失敗処理が頻繁に発生し、コードのパフォーマンスが低下する可能性があります。

メモリ使用量の考慮

  1. Rc<T>のメモリコスト
  • Rc<T>は参照カウントを保持するため、追加のメモリが必要です。
  • 多数のRc<T>インスタンスが存在すると、参照カウントの管理がメモリ使用量を増大させる可能性があります。
  1. Weak<T>のメモリ管理
  • Weak<T>Rc<T>と同じくメモリブロックにメタデータを保持しますが、弱い参照が多いと不要なメモリが占有されることがあります。

パフォーマンス改善のヒント

  1. 必要な場合のみRc<T>を使用する
  • 参照カウントが必要ない場合は、Box<T>や標準の所有権システムを使うことでオーバーヘッドを避けられます。
  1. 参照のライフタイムを適切に設計
  • 短期間の参照であれば、Weak<T>を使わずにライフタイムを工夫することでシンプルに設計できます。
  1. マルチスレッドではArc<T>を最適化
  • Arc<T>を使う場合、可能な限りアトミック操作を最小化し、不要なクローンを避けることでパフォーマンスを改善できます。

まとめ

  • Rc<T>はシングルスレッド環境での参照共有に適していますが、参照カウントのオーバーヘッドに注意が必要です。
  • Weak<T>は循環参照を防ぎますが、upgrade()のコストやコードの複雑化が考慮点です。
  • 適切なデータ構造やライフタイム管理を行うことで、Rustにおける依存関係管理のパフォーマンスを最適化できます。

よくあるエラーとトラブルシューティング

Rc<T>Weak<T>を使った依存関係管理は便利ですが、使い方を誤るとエラーや予期しない動作が発生します。ここでは、よくあるエラーとその対処法について解説します。


1. 循環参照によるメモリリーク

問題:
Rc<T>同士が相互に参照し合うと、循環参照が発生し、メモリが解放されません。

例:

use std::rc::Rc;
use std::cell::RefCell;

struct Node {
    value: i32,
    next: RefCell<Option<Rc<Node>>>,
}

fn main() {
    let node1 = Rc::new(Node {
        value: 1,
        next: RefCell::new(None),
    });

    let node2 = Rc::new(Node {
        value: 2,
        next: RefCell::new(Some(Rc::clone(&node1))),
    });

    *node1.next.borrow_mut() = Some(Rc::clone(&node2));

    println!("Node1: {}", node1.value);
    println!("Node2: {}", node2.value);
}

対処法:
親から子への参照はRc<T>で、子から親への参照はWeak<T>で管理しましょう。

use std::rc::{Rc, Weak};
use std::cell::RefCell;

struct Node {
    value: i32,
    next: RefCell<Option<Rc<Node>>>,
    parent: RefCell<Weak<Node>>,
}

2. `Weak`の参照が無効になる

問題:
Weak<T>は参照先が解放されると無効になります。無効なWeak<T>upgrade()するとNoneが返ります。

例:

use std::rc::{Rc, Weak};

fn main() {
    let strong_ref = Rc::new(42);
    let weak_ref = Rc::downgrade(&strong_ref);

    drop(strong_ref); // 参照が解放される

    match weak_ref.upgrade() {
        Some(value) => println!("参照はまだ有効: {}", value),
        None => println!("参照は無効です"),
    }
}

対処法:
upgrade()を使う際は必ずNoneのケースを考慮し、エラーハンドリングを行いましょう。


3. 参照カウントの確認ミス

問題:
強い参照が残っているため、データが解放されない場合があります。

確認方法:

use std::rc::Rc;

fn main() {
    let data = Rc::new("Rust".to_string());
    let ref1 = Rc::clone(&data);

    println!("参照カウント: {}", Rc::strong_count(&data));
}

対処法:

  • 不要な参照をdropして、メモリを解放しましょう。
  • スコープを明確にすることで、参照が残らないように管理します。

4. `RefCell`による借用違反

問題:
RefCellを使っている場合、同時に複数の可変借用を行うとパニックが発生します。

例:

use std::rc::Rc;
use std::cell::RefCell;

fn main() {
    let data = Rc::new(RefCell::new(5));

    let borrow1 = data.borrow_mut();
    let borrow2 = data.borrow_mut(); // ここでパニック
}

対処法:

  • 借用が終了するまで新たな借用を作成しないようにします。
  • 借用の範囲を最小限にしましょう。

5. `Rc`と`Arc`の混同

問題:
シングルスレッド環境でRc<T>を使うべきところにマルチスレッド向けのArc<T>を使用すると、パフォーマンスが低下します。

対処法:

  • シングルスレッドならRc<T>
  • マルチスレッドならArc<T>

まとめ

  • 循環参照Weak<T>で回避する。
  • Weak<T>の無効な参照upgrade()で確認する。
  • 借用違反に注意し、RefCellの可変借用は適切に管理する。
  • 参照カウントを確認し、不要な参照を解放する。

これらのポイントを押さえておけば、Rc<T>Weak<T>を使った依存関係管理が安全かつ効果的になります。

まとめ

本記事では、Rustにおける依存関係管理に役立つRc<T>Weak<T>について詳しく解説しました。Rc<T>は複数の所有者でデータを共有するための参照カウント型スマートポインタであり、Weak<T>は循環参照を回避するために使われる弱い参照です。

具体的には、Rc<T>Weak<T>の基本的な使い方、循環参照が発生するケース、Weak<T>を使った循環参照の回避方法、実践的な依存関係設計例、そしてパフォーマンス上の考慮点とトラブルシューティングについて解説しました。

これらの知識を活用すれば、Rustで安全かつ効率的に複雑な依存関係を管理できるようになります。適切なツールを選択し、メモリ管理の問題を回避しながら堅牢なプログラムを設計しましょう。

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