グローバル状態を避けた設計は、Rustプログラムの安全性と保守性を向上させる重要な手法です。グローバル状態とは、プログラム全体からアクセス可能なデータのことを指し、無秩序に共有されることで予期しない挙動やバグの原因となります。特に並行処理やマルチスレッド環境では、データ競合や一貫性の問題が発生しやすくなります。
Rustは「安全性」と「所有権」の概念を通じて、これらの問題を防ぐための強力なツールを提供しています。本記事では、Rustでグローバル状態を回避するためのモジュール設計の基本から、依存性注入や状態管理パターン、具体的な実装例までを詳しく解説します。これにより、エラーが少なく、安全で効率的なプログラムを設計する方法を習得しましょう。
グローバル状態とは何か
グローバル状態とは、プログラム全体のどこからでもアクセス可能な変数やデータのことを指します。たとえば、Rustのstatic
変数やlazy_static!
マクロを使って定義される値は、グローバル状態として扱われます。
グローバル状態の特徴
- アクセス可能範囲が広い
どのモジュールや関数からでも直接アクセスできるため、予期しない変更が発生しやすいです。 - データ競合が発生しやすい
マルチスレッド環境では、複数のスレッドが同時にグローバル状態を変更しようとするため、データ競合が発生しやすくなります。 - デバッグが困難
変更の追跡が難しく、バグの原因を特定するのが困難です。
グローバル状態の例
以下は、Rustでのシンプルなグローバル状態の例です:
use std::sync::Mutex;
use lazy_static::lazy_static;
lazy_static! {
static ref GLOBAL_COUNT: Mutex<i32> = Mutex::new(0);
}
fn increment() {
let mut count = GLOBAL_COUNT.lock().unwrap();
*count += 1;
}
fn main() {
increment();
println!("Count: {:?}", *GLOBAL_COUNT.lock().unwrap());
}
このコードでは、GLOBAL_COUNT
という変数がグローバル状態として存在し、複数の関数からアクセス・変更可能です。
グローバル状態が引き起こす問題
- 予測困難な挙動:他の部分がいつデータを書き換えるか分からないため、挙動が予測しづらいです。
- テストが難しい:グローバル状態をテストするとき、毎回状態をリセットする必要があり、テストの独立性が失われます。
- 並行処理の問題:複数のスレッドが同時にグローバル状態にアクセスすると、競合やクラッシュが起こりやすくなります。
グローバル状態を適切に管理し、可能な限り回避することで、Rustプログラムの安全性や保守性が向上します。
Rustでグローバル状態を避ける利点
Rustでは、グローバル状態を避けることでプログラムの安全性や保守性が向上します。グローバル状態は便利ですが、設計に悪影響を与えることが多いため、回避することで得られる利点が多数あります。
1. 安全性の向上
Rustの特徴である「所有権」と「借用」の仕組みは、データ競合やメモリ安全性の問題を防ぎます。グローバル状態を避けることで、以下の問題を回避できます:
- データ競合:複数のスレッドが同時にデータを変更しようとする際に発生する問題。
- 予期しない変更:どこからでもデータが変更可能なため、意図しないデータの変更が発生するリスク。
2. テスト容易性の向上
グローバル状態があると、テストが独立して行えなくなります。各テストケースでグローバル状態を初期化する必要があるため、テストが複雑になります。グローバル状態を避けることで、次の利点があります:
- 独立したテスト:各関数やモジュールが独立しているため、テストがしやすくなります。
- データの初期化不要:毎回状態をリセットする必要がなく、テストがシンプルになります。
3. モジュール間の依存性を減らす
グローバル状態はモジュール間の依存関係を強め、コードの再利用性を低下させます。グローバル状態を回避することで:
- 疎結合:モジュール間の依存関係が減り、柔軟な設計が可能になります。
- 再利用性向上:依存関係が少ないため、モジュール単体での再利用がしやすくなります。
4. 並行処理の安全性
Rustは並行処理に強い言語ですが、グローバル状態があるとデータ競合が発生しやすくなります。グローバル状態を避ければ:
- スレッド間の安全な操作:データを各スレッドに明示的に渡すことで安全性が保たれます。
- ロックの不要化:データへのアクセスにロックが不要になり、パフォーマンスが向上します。
5. デバッグと保守の容易化
グローバル状態を使用しないことで、バグの原因が特定しやすくなります:
- 変更箇所の追跡が容易:データの変更が局所的になるため、原因がすぐに特定できます。
- コードの可読性向上:状態の流れが明確になるため、コードが理解しやすくなります。
グローバル状態を避けることで、Rustの強みである安全性やパフォーマンスを最大限に引き出すことができます。次章では、具体的なモジュール設計の方法について解説します。
モジュール設計の基本
Rustにおけるモジュール設計は、コードを整理し、再利用性や保守性を高めるために重要です。モジュールを適切に設計することで、グローバル状態を避け、安全で分かりやすいプログラムを作成できます。
Rustにおけるモジュールの概念
Rustのモジュールは、関連する関数、構造体、定数などを1つにまとめる仕組みです。モジュールを使うことで、コードを論理的に分割し、名前空間を管理できます。
基本的なモジュールの定義
mod math_utils {
pub fn add(a: i32, b: i32) -> i32 {
a + b
}
}
モジュール内の関数やデータを外部で使用するには、pub
キーワードで公開する必要があります。
モジュール設計の原則
1. 関心の分離(Separation of Concerns)
各モジュールは特定の役割を持つように設計します。例えば、データ処理、入出力処理、エラーハンドリングなどの役割ごとにモジュールを分けます。
2. 高凝集・低結合
- 高凝集:モジュール内の関数やデータは密接に関連するものにします。
- 低結合:モジュール同士の依存関係を最小限にし、独立性を保ちます。
3. インターフェースを明確にする
外部からアクセス可能な関数やデータを限定し、内部の詳細は隠蔽します。
モジュールの構成例
以下は、ファイルシステムを活用したモジュール構成の例です。
my_project/
│-- src/
│ │-- main.rs
│ │-- lib.rs
│ │-- utils/
│ │-- mod.rs
│ │-- math.rs
│ └-- string.rs
mod.rs
(モジュール宣言ファイル)
pub mod math;
pub mod string;
math.rs
(数学処理モジュール)
pub fn add(a: i32, b: i32) -> i32 {
a + b
}
string.rs
(文字列処理モジュール)
pub fn to_uppercase(s: &str) -> String {
s.to_uppercase()
}
main.rs
(エントリーポイント)
mod utils;
fn main() {
let sum = utils::math::add(2, 3);
let upper = utils::string::to_uppercase("hello");
println!("Sum: {}", sum);
println!("Uppercase: {}", upper);
}
グローバル状態を避けるためのポイント
- データの明示的な引数渡し
グローバル変数の代わりに、関数に必要なデータを引数として渡します。 - 構造体とメソッドを活用
データを構造体にカプセル化し、メソッドで操作することで状態管理が容易になります。 - 依存性注入
関数や構造体に依存データを注入することで、柔軟性とテスト容易性を高めます。
これらのモジュール設計の基本原則を活用すれば、Rustで安全かつ保守しやすいコードを作成できます。次章では、データの依存関係を適切にモジュール化する方法について解説します。
データの依存関係をモジュール化する方法
Rustにおいてデータの依存関係を適切にモジュール化することで、コードの安全性と保守性が向上します。依存関係を整理し、明確にモジュールに分けることで、グローバル状態を回避しやすくなります。
1. データの責務を明確にする
データの責務を明確にして、関連する処理を特定のモジュールにまとめましょう。以下は、データをモジュールごとに分ける例です。
例:ユーザーデータの管理
// user.rs
pub struct User {
pub id: u32,
pub name: String,
}
impl User {
pub fn new(id: u32, name: &str) -> Self {
User {
id,
name: name.to_string(),
}
}
pub fn display(&self) {
println!("User ID: {}, Name: {}", self.id, self.name);
}
}
2. モジュール間でデータを共有する方法
データの共有が必要な場合は、モジュール同士で明示的に依存関係を定義しましょう。グローバル状態ではなく、関数や構造体に依存データを渡す形を取ります。
例:データベース操作モジュールとユーザーモジュールの連携
// db.rs
pub mod db {
use crate::user::User;
pub fn save_user(user: &User) {
println!("Saving user: {} to the database.", user.name);
}
}
// main.rs
mod user;
mod db;
fn main() {
let user = user::User::new(1, "Alice");
user.display();
db::db::save_user(&user);
}
3. データ型を構造体や列挙型で管理する
データの依存関係が複雑な場合、構造体や列挙型でデータを管理し、モジュールごとに分けることでコードが整理されます。
例:注文システムのデータ管理
// order.rs
pub struct Order {
pub order_id: u32,
pub user_id: u32,
pub amount: f64,
}
// payment.rs
pub enum PaymentStatus {
Pending,
Completed,
Failed,
}
4. モジュールの公開範囲を制御する
モジュールごとにデータの公開範囲を制御し、外部モジュールに必要なものだけを公開しましょう。
例:pub
キーワードの使い方
mod customer {
pub struct Customer {
pub id: u32,
name: String, // 非公開フィールド
}
impl Customer {
pub fn new(id: u32, name: &str) -> Self {
Customer {
id,
name: name.to_string(),
}
}
pub fn get_name(&self) -> &str {
&self.name
}
}
}
5. 依存関係をテストする
モジュールごとに依存関係が正しく機能するかテストを行いましょう。テストはモジュール内に#[cfg(test)]
ブロックを追加して行います。
例:シンプルなテスト
#[cfg(test)]
mod tests {
use super::*;
#[test]
fn test_user_creation() {
let user = User::new(1, "Bob");
assert_eq!(user.id, 1);
assert_eq!(user.name, "Bob");
}
}
これらの手法を活用することで、データの依存関係を明確に整理し、グローバル状態を避けた安全なRustプログラムを構築できます。次章では、依存性注入の方法について解説します。
依存性注入を活用する
Rustで依存性注入(Dependency Injection, DI)を活用すると、グローバル状態を避けつつ、柔軟でテストしやすいコードを実現できます。依存性注入とは、モジュールや関数が必要とする依存関係を外部から注入する設計パターンです。
依存性注入の基本概念
依存性注入では、必要なデータや機能を直接内部で生成するのではなく、外部から渡すことで依存関係を柔軟に管理します。これにより、次の利点があります:
- テストが容易:依存するデータやサービスをモック化してテストできます。
- 疎結合:モジュール間の依存が少なくなり、保守性が向上します。
- 柔軟な設計:異なる依存関係を簡単に切り替えることができます。
Rustでの依存性注入の例
1. 構造体への依存性注入
依存する機能を構造体に渡して注入するシンプルな例です。
struct Logger;
impl Logger {
pub fn log(&self, message: &str) {
println!("[LOG]: {}", message);
}
}
struct App<'a> {
logger: &'a Logger,
}
impl<'a> App<'a> {
fn new(logger: &'a Logger) -> Self {
App { logger }
}
fn run(&self) {
self.logger.log("アプリケーションが開始されました。");
}
}
fn main() {
let logger = Logger;
let app = App::new(&logger);
app.run();
}
解説:
Logger
はログ機能を提供する依存関係です。App
構造体はLogger
を依存関係として受け取り、run
メソッドでログを記録します。
2. 関数への依存性注入
関数に依存関係を注入することで、関数の柔軟性が向上します。
fn process_data(data: &str, logger: &Logger) {
logger.log(&format!("データ処理中: {}", data));
}
fn main() {
let logger = Logger;
process_data("サンプルデータ", &logger);
}
依存性注入とトレイトを組み合わせる
トレイトを使用すると、依存関係のインターフェースを定義でき、柔軟性が高まります。
trait Notifier {
fn notify(&self, message: &str);
}
struct EmailNotifier;
impl Notifier for EmailNotifier {
fn notify(&self, message: &str) {
println!("Email通知: {}", message);
}
}
struct SMSNotifier;
impl Notifier for SMSNotifier {
fn notify(&self, message: &str) {
println!("SMS通知: {}", message);
}
}
struct Alert<'a, T: Notifier> {
notifier: &'a T,
}
impl<'a, T: Notifier> Alert<'a, T> {
fn new(notifier: &'a T) -> Self {
Alert { notifier }
}
fn send_alert(&self, message: &str) {
self.notifier.notify(message);
}
}
fn main() {
let email_notifier = EmailNotifier;
let sms_notifier = SMSNotifier;
let email_alert = Alert::new(&email_notifier);
let sms_alert = Alert::new(&sms_notifier);
email_alert.send_alert("サーバーダウン");
sms_alert.send_alert("ネットワーク障害");
}
解説:
Notifier
トレイトで通知のインターフェースを定義。EmailNotifier
とSMSNotifier
が異なる通知方法を実装。Alert
構造体にNotifier
トレイトを持つ依存関係を注入し、柔軟に通知方法を切り替え可能。
依存性注入の利点まとめ
- テストしやすい:依存関係をモック化し、個別にテストできます。
- コードの再利用性:同じ構造体や関数を異なる依存関係と組み合わせて使用できます。
- 柔軟な設計:依存関係を外部から渡すことで、コードの変更が少なくて済みます。
次章では、Rustでよく使われる状態管理パターンについて解説します。依存性注入と組み合わせることで、より安全で効率的な状態管理が可能になります。
状態管理におけるパターン
Rustでグローバル状態を避けるには、効果的な状態管理パターンを利用することが重要です。ここでは、Rustでよく使われる状態管理パターンをいくつか紹介し、それぞれの特徴と実装例を解説します。
1. 構造体を活用した状態管理
構造体を利用して状態をカプセル化し、明示的に所有権や借用を管理することで、安全な状態管理が可能です。
例:構造体で状態を管理する
struct Counter {
value: i32,
}
impl Counter {
pub fn new() -> Self {
Counter { value: 0 }
}
pub fn increment(&mut self) {
self.value += 1;
}
pub fn get_value(&self) -> i32 {
self.value
}
}
fn main() {
let mut counter = Counter::new();
counter.increment();
println!("Counter value: {}", counter.get_value());
}
特徴:
- 明示的な所有権:状態の所有者が明確で安全。
- 借用と可変性の管理:
&mut self
で安全に可変操作が可能。
2. RefCell
と内部可変性
RefCell
を使用すると、コンパイル時に不変参照として扱いながら、実行時に可変性を持たせることができます。
例:RefCell
を使った内部可変性
use std::cell::RefCell;
struct SharedState {
value: RefCell<i32>,
}
fn main() {
let state = SharedState {
value: RefCell::new(0),
};
*state.value.borrow_mut() += 1;
println!("State value: {}", state.value.borrow());
}
特徴:
- 実行時に可変性をチェック:
borrow_mut()
で実行時に可変参照を取得。 - シングルスレッド向け:
RefCell
はシングルスレッド環境で使用する。
3. Rc
とArc
による参照カウント
複数の所有者が同じデータを共有する場合、Rc
やArc
を使用します。Rc
はシングルスレッド用、Arc
はマルチスレッド用です。
例:Rc
を使った状態の共有
use std::rc::Rc;
struct Data {
value: i32,
}
fn main() {
let shared_data = Rc::new(Data { value: 42 });
let clone1 = Rc::clone(&shared_data);
let clone2 = Rc::clone(&shared_data);
println!("Value from clone1: {}", clone1.value);
println!("Value from clone2: {}", clone2.value);
}
特徴:
- 参照カウント:複数の所有者が同じデータを安全に共有可能。
- シングルスレッド用:マルチスレッドの場合は
Arc
を使用。
4. Mutex
とRwLock
による並行処理
並行処理環境で安全に状態を共有するには、Mutex
やRwLock
を使用します。
例:Mutex
を使ったスレッド間での状態管理
use std::sync::{Arc, Mutex};
use std::thread;
fn main() {
let counter = Arc::new(Mutex::new(0));
let mut handles = vec![];
for _ in 0..5 {
let counter = Arc::clone(&counter);
let handle = thread::spawn(move || {
let mut num = counter.lock().unwrap();
*num += 1;
});
handles.push(handle);
}
for handle in handles {
handle.join().unwrap();
}
println!("Final counter value: {}", *counter.lock().unwrap());
}
特徴:
- スレッド間の安全な共有:
Arc
で共有し、Mutex
で排他制御。 - ロックの管理:ロックの取得・解放が必要。
5. 状態管理のパターンまとめ
パターン | 使用シーン | 特徴 |
---|---|---|
構造体 | 単純な状態管理 | 明示的な所有権と借用 |
RefCell | シングルスレッドでの内部可変性 | 実行時の可変性チェック |
Rc /Arc | 複数の所有者が状態を共有する場合 | 参照カウントによる共有 |
Mutex /RwLock | 並行処理で状態を安全に共有する場合 | 排他制御による安全な操作 |
これらのパターンを使い分けることで、Rustでグローバル状態を回避し、安全で効率的な状態管理が可能になります。次章では、シングルトンを避ける具体的な設計例について解説します。
実装例:シングルトンを避ける
シングルトンパターンは、アプリケーション全体で1つのインスタンスだけを持つ設計ですが、グローバル状態を伴うため、Rustでは推奨されません。ここでは、シングルトンの代替として、依存性注入やモジュール設計を活用した安全な設計方法を解説します。
シングルトンパターンの問題点
シングルトンは次のような問題を引き起こします:
- グローバル状態の依存:予測しづらい副作用が発生する。
- テストが難しい:状態が共有されるため、テストケースごとに状態をリセットする必要がある。
- 並行処理の問題:複数のスレッドが同時にアクセスするとデータ競合が発生しやすい。
シングルトンの代替案
シングルトンを避けるために、以下のアプローチを使用します:
- 依存性注入
- スレッドごとの状態管理
- 構造体を使った明示的なインスタンス管理
1. 依存性注入による代替
依存性注入を用いることで、必要なインスタンスを関数や構造体に注入します。
例:ロガーの依存性注入
struct Logger;
impl Logger {
pub fn log(&self, message: &str) {
println!("[LOG]: {}", message);
}
}
struct App<'a> {
logger: &'a Logger,
}
impl<'a> App<'a> {
fn new(logger: &'a Logger) -> Self {
App { logger }
}
fn run(&self) {
self.logger.log("アプリケーションが開始されました。");
}
}
fn main() {
let logger = Logger;
let app = App::new(&logger);
app.run();
}
ポイント:
- シングルトン不要:
Logger
インスタンスを明示的に渡すことで、グローバル状態を避けます。 - 柔軟性:異なるロガーを簡単に切り替え可能です。
2. スレッドごとの状態管理
各スレッドが独立した状態を持つことで、シングルトンの必要性を排除します。
例:スレッドごとの設定管理
use std::thread;
struct Config {
id: u32,
}
fn main() {
let config1 = Config { id: 1 };
let config2 = Config { id: 2 };
let handle1 = thread::spawn(move || {
println!("Thread 1 Config ID: {}", config1.id);
});
let handle2 = thread::spawn(move || {
println!("Thread 2 Config ID: {}", config2.id);
});
handle1.join().unwrap();
handle2.join().unwrap();
}
ポイント:
- 状態の分離:各スレッドが独立した
Config
インスタンスを使用。 - データ競合の回避:共有状態を持たないため安全です。
3. 構造体による明示的なインスタンス管理
シングルトンの代わりに、必要なときにインスタンスを作成・管理します。
例:データベース接続の管理
struct DatabaseConnection {
url: String,
}
impl DatabaseConnection {
pub fn new(url: &str) -> Self {
DatabaseConnection {
url: url.to_string(),
}
}
pub fn connect(&self) {
println!("Connecting to database at {}", self.url);
}
}
fn main() {
let db_connection = DatabaseConnection::new("localhost:5432");
db_connection.connect();
}
ポイント:
- 明示的な管理:必要なタイミングでインスタンスを生成。
- 依存性の注入も可能:インスタンスを他の構造体や関数に渡せます。
シングルトンを避ける利点まとめ
- 安全性:グローバル状態を避け、データ競合を回避。
- テスト容易性:状態を簡単にモック化でき、テストが独立して実行可能。
- 柔軟性:異なる依存関係を容易に切り替えられる。
次章では、グローバル状態を避けた際のエラーハンドリングについて解説します。
効果的なエラーハンドリング
Rustでは、グローバル状態を避けた設計を行うことで、安全かつ保守性の高いエラーハンドリングが可能になります。ここでは、Rustにおける効果的なエラーハンドリングの方法と、グローバル状態を使わずにエラー処理を行うパターンを解説します。
1. Result
とOption
を活用する
Rustの標準的なエラーハンドリングにはResult
型とOption
型を使用します。
Result
型:成功またはエラーを表現するために使用します。
fn divide(a: f64, b: f64) -> Result<f64, &'static str> {
if b == 0.0 {
Err("ゼロで割ることはできません")
} else {
Ok(a / b)
}
}
fn main() {
match divide(10.0, 0.0) {
Ok(result) => println!("結果: {}", result),
Err(e) => println!("エラー: {}", e),
}
}
Option
型:値が存在するかしないかを表現します。
fn find_even(numbers: &[i32]) -> Option<i32> {
numbers.iter().find(|&&n| n % 2 == 0).copied()
}
fn main() {
let numbers = vec![1, 3, 5, 7];
match find_even(&numbers) {
Some(num) => println!("最初の偶数: {}", num),
None => println!("偶数は見つかりませんでした"),
}
}
2. エラーを伝播する ?
演算子
エラー処理を簡潔に記述するために、?
演算子を活用します。これにより、エラーを呼び出し元に伝播できます。
use std::fs::File;
use std::io::{self, Read};
fn read_file_content(path: &str) -> io::Result<String> {
let mut file = File::open(path)?;
let mut content = String::new();
file.read_to_string(&mut content)?;
Ok(content)
}
fn main() {
match read_file_content("example.txt") {
Ok(content) => println!("ファイル内容:\n{}", content),
Err(e) => println!("エラー: {}", e),
}
}
ポイント:
?
演算子を使うことで、Result
のErr
が返された場合に即座に関数を終了し、エラーを呼び出し元に伝播します。
3. カスタムエラー型の定義
複数のエラー種別を扱う場合、カスタムエラー型を定義することで、エラー管理がしやすくなります。
use std::fmt;
#[derive(Debug)]
enum AppError {
IOError(std::io::Error),
ParseError(std::num::ParseIntError),
}
impl fmt::Display for AppError {
fn fmt(&self, f: &mut fmt::Formatter) -> fmt::Result {
match self {
AppError::IOError(e) => write!(f, "IOエラー: {}", e),
AppError::ParseError(e) => write!(f, "パースエラー: {}", e),
}
}
}
fn read_and_parse_number(path: &str) -> Result<i32, AppError> {
let content = std::fs::read_to_string(path).map_err(AppError::IOError)?;
let number = content.trim().parse::<i32>().map_err(AppError::ParseError)?;
Ok(number)
}
fn main() {
match read_and_parse_number("number.txt") {
Ok(num) => println!("読み取った数字: {}", num),
Err(e) => println!("エラー: {}", e),
}
}
4. エラーのログ出力
エラーをログとして記録する場合、依存性注入でロガーを渡すとグローバル状態を避けられます。
例:ロガーを使ったエラーハンドリング
struct Logger;
impl Logger {
pub fn log_error(&self, message: &str) {
eprintln!("[ERROR]: {}", message);
}
}
fn perform_action(logger: &Logger) -> Result<(), &'static str> {
Err("何らかのエラーが発生しました")
}
fn main() {
let logger = Logger;
if let Err(e) = perform_action(&logger) {
logger.log_error(e);
}
}
5. エラーハンドリングのポイントまとめ
Result
とOption
の活用:安全にエラーや欠損値を処理する。?
演算子でエラー伝播:シンプルにエラーを呼び出し元に返す。- カスタムエラー型:複数のエラーを一元管理。
- 依存性注入でロガーを使用:グローバル状態を避け、エラーをログに記録。
これらの手法を活用することで、グローバル状態を使わずに、安全で柔軟なエラーハンドリングが実現できます。次章では、これまでの内容を振り返り、まとめを行います。
まとめ
本記事では、Rustにおけるグローバル状態を回避するためのモジュール設計と実装例について解説しました。グローバル状態は便利な反面、データ競合や予測しづらいバグの原因となるため、避けることで安全性と保守性が向上します。
記事のポイント
- モジュール設計の基本:責務を明確に分け、疎結合・高凝集を意識した設計を行う。
- データの依存関係をモジュール化:構造体や関数に依存関係を明示的に渡し、グローバル状態を回避する。
- 依存性注入:依存する機能やデータを外部から注入し、柔軟な設計を実現する。
- 状態管理パターン:
RefCell
、Rc
/Arc
、Mutex
などを使い分け、状態を安全に管理する。 - シングルトンを避ける:シングルトンの代わりに依存性注入や構造体を活用する。
- 効果的なエラーハンドリング:
Result
やOption
、カスタムエラー型を用いて安全にエラーを処理する。
これらの手法を活用すれば、グローバル状態に依存しない安全で効率的なRustプログラムを構築できます。設計の工夫により、並行処理やテストのしやすさが向上し、堅牢なシステムを実現できるでしょう。
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