VMware環境からAzureへ仮想マシンを移行する際、Azure Site Recoveryは便利なソリューションですが、エラーが発生してレプリケーションが失敗してしまうケースもあります。本記事では、考えられる原因と対処法を詳しく解説し、解決策の糸口を探ります。
Azure Site Recoveryとは
Azure Site Recovery(以下、ASR)はMicrosoftが提供するディザスタリカバリソリューションの一つで、オンプレミスの仮想マシンをAzureへレプリケーションし、災害時や緊急時に迅速な復旧を可能にします。VMwareの仮想マシンだけでなく、Hyper-Vや物理サーバーとの連携にも対応しており、企業のBCP(事業継続計画)を支援する強力なツールです。
主な機能とメリット
- ディザスタリカバリ: オンプレミス環境での障害が発生した際に、Azure上でサービスを素早く復旧できる
- テストフェイルオーバー: 本格的なフェイルオーバーを行う前に、テストとして復旧動作を検証できる
- 自動化: Azure PortalやPowerShellスクリプトを活用した操作自動化が可能
- 柔軟な構成: 運用のポリシーに合わせて簡単に拡張・縮小できる
VMwareからAzureへのレプリケーションが失敗するケース
ASRを用いてVMware環境からAzureへのレプリケーションを行う際、ときにエラーが発生してレプリケーションが正常に完了しない事象があります。特に、以下のような段階で問題が起こりやすいと報告されています。
- ASRエージェントのインストール
- WMI関連のサービス利用
- ネットワークやポート設定
- ライセンス・バージョンの不整合
このようなエラーは、単にソフトウェアの不具合というより、構成や環境要因に起因している場合が多いため、問題の切り分けと詳細なトラブルシューティングが必要です。
よくあるエラーメッセージの例
以下は、VMwareからAzureへのレプリケーションを行う際に遭遇しやすいエラーメッセージの例です。実際のエラーコードや文言は環境によって異なる場合がありますが、トラブルシューティングの参考になります。
エラー種類 | メッセージ例 | 主な原因 |
---|---|---|
エージェントインストール | ASR Agent installation failed with error code xyz | インストール権限不足、ファイル破損など |
WMI関連 | WMI connection error. Unable to query Winmgmt service | WMIサービスの停止、不完全インストール |
ネットワーク接続 | Unable to establish secure connection to Azure | ファイアウォールのブロック、ポート未開放 |
バージョン互換性 | The ESXi version is not supported | 非対応バージョンのESXi、エージェントが古いなど |
認証・ライセンス | License validation failed. Ensure you have the proper subscriptions | Azureサブスクリプションのライセンス不足 |
Azure Site Recoveryエージェントのチェックポイント
ASRエージェントは、VMwareの仮想マシンをAzureへレプリケーションするための要となるコンポーネントです。以下のポイントを確認することで、多くのエージェント関連のエラーを回避または解決できます。
エージェントのインストール状態を確認
- インストーラの整合性: ダウンロードしたインストーラが正しく展開されているかをチェックします。ダウンロード時にネットワーク障害などがあると、インストーラが破損し正常にインストールできない場合があります。
- インストール権限: Windows仮想マシン上にASRエージェントをインストールする場合は、管理者権限(Administrator権限)を持ったユーザーで実行する必要があります。
- 最新版の導入: 互換性の問題を回避するため、できるだけ最新バージョンのASRエージェントを入手しインストールすることが望ましいです。Microsoft公式ドキュメントで最新情報を確認しましょう。
PowerShellによるインストールの例
インタラクティブなGUIインストールが難しい場合や、多数のVMに一括配布する場合はPowerShellを利用するのも有効です。以下はあくまで一例となります。
# 例: Azure Site Recovery Provider のインストール
Start-Process -FilePath "ASRProviderInstaller.exe" -ArgumentList "/q" -Wait
# 例: Azure Site Recovery Mobility Service のインストール
Start-Process -FilePath "ASRMobilityServiceInstaller.exe" -ArgumentList "/q" -Wait
実際のインストーラ名やパラメーターは、ダウンロードしたバージョンや目的によって異なるため、公式ドキュメントやリリースノートを参照してください。
WMI関連のエラー回避
WMI(Windows Management Instrumentation)は、Windows上でシステム情報を取得・管理する仕組みです。ASRは内部でWMIを活用しているため、Winmgmtサービスが正常に動作していないとエラーが発生することがあります。
- Winmgmtサービスの確認:
以下のPowerShellコマンドを実行し、サービスが「Running」状態になっているかを確認します。
Get-Service -Name Winmgmt
状態が「Stopped」もしくは「Disabled」になっている場合は、サービスを起動して再度レプリケーションを試みます。
- WMIリポジトリの修復:
WMIが破損している場合、リポジトリ修復が必要になるケースがあります。具体的には以下のようなコマンドを使用して修復を試みますが、環境によってはサポート対象外の場合もあるため注意してください。
winmgmt /verifyrepository
winmgmt /salvagerepository
ネットワークとポート設定
ASRがオンプレミス側のVM情報をAzureへ送信するには、特定のポートが開放されている必要があります。ファイアウォールやネットワーク機器が原因でパケットが遮断されると、レプリケーションが失敗する恐れがあります。
主に必要とされるポート例
- HTTPS (TCP 443): 多くのAzureサービスへの通信に利用
- サーバー間通信 (TCP/UDP 9443など): ASRエージェントとASRコンポーネント間での通信に利用
実際にはAzure公式ドキュメントで、使用ポートの一覧や必要なエンドポイントが定義されています。セキュリティポリシーが厳しい環境では、必要最小限のポートのみを開放しつつ、適切にルール設定を行います。
ネットワークテストの例
ネットワークの疎通確認やポートの開放状況を確認するには、PowerShellのTest-NetConnectionコマンドやtelnetコマンドなどが役立ちます。
Test-NetConnection -ComputerName <Azure Endpoint> -Port 443
疎通が取れなかった場合は、ネットワーク機器やファイアウォールのルールを再調整します。
VMware環境の要件とライセンス
ASRがサポートするVMwareバージョンやWindows/LinuxゲストOSのバージョンは限定されているため、まずは自社環境が要件を満たしているかを確認することが重要です。また、Azureサブスクリプションのライセンス要件も見落とされがちなポイントです。
主な要件の例
- VMware ESXi: 6.0以降が推奨。古いバージョンはサポート対象外になっている可能性が高い
- Windows Server: 2012 R2、2016、2019など、公式にサポートされているOS
- Linux: Red Hat Enterprise LinuxやCentOS、Ubuntuなど特定のディストリビューションが対応対象
- Azureサブスクリプション: 復旧ポイントの保存にかかるストレージ料金や、レプリケーションライセンスの有無などを要確認
ライセンス違反や非対応バージョンを使用していると、エラー以前に動作保証されません。長期間利用する場合や商用利用の場合は、必ず正規のライセンスを取得しましょう。
トラブルシューティングのステップバイステップ
実際にエラーが発生した際の手順例を示します。以下はあくまで一般的な手順であり、実際の環境では適宜アレンジが必要です。
- エラーメッセージの確認
- ASRポータル上のステータスや、オンプレミス側のログファイル(例:
C:\ProgramData\ASRLogs\
)を詳細に確認します。 - Windowsのイベントビューア(Application、Systemログ)にも手掛かりがある場合があります。
- ASRエージェントの状態確認
- インストールが正しく完了しているか、サービスとして起動できているかをチェックします。
- バージョンが古い場合はアップデートします。
- VMware環境とネットワークの確認
- ESXiホストやvCenter Serverのバージョンが要件を満たしているか確認。
- ネットワークのルーティング、ポートの開放状態をテストツールなどで確認。
- WMI/Winmgmt関連サービスの確認
- Winmgmtサービスや依存サービスに問題がないか、PowerShellまたはサービス管理ツールでチェックします。
- 必要に応じてリポジトリ修復や再インストールを試みます。
- ライセンスやサブスクリプションの有効性
- サブスクリプションの利用上限に達していないか、支払い情報に問題がないかをAzure Portalで確認します。
- Azureクレジットや無料枠では対応できないケースもあるため注意します。
- ログ解析と追加ツールの利用
- Microsoftのサポートツール(Azure Log AnalyticsやAzure Monitor)を組み合わせると、より詳細な情報を把握できます。
- レプリケーション対象VMごとにログを確認し、共通点やエラー発生時刻の相違点を調べます。
Microsoft Q&Aフォーラムの活用
今回のように、手動インストールやWMIのチェックなどを試しても解決しない場合、より専門的なアドバイスを得ることが不可欠です。MicrosoftのQ&Aフォーラム(旧TechNetフォーラム)には、Azure Site Recoveryを含む幅広いトピックについて知見を持ったエンジニアが参加しています。
効果的な質問の投稿方法
- 詳細なログ情報を提供: 具体的なエラーメッセージやスクリーンショット、ログの抜粋を提示する
- 環境情報を明記: OSバージョン、VMwareバージョン、Azureサブスクリプションの種類などを正確に伝える
- 試した手順と結果: 手動インストール、WMI修復、ネットワークチェックなど、何を試してどうだったかを整理して記載する
- 適切なタグを付ける: 「Azure Site Recovery」「VMware」など、関連する技術タグを正確につける
これらの点を押さえて投稿することで、フォーラムの利用者からより具体的なアドバイスを得ることが期待できます。
他の考慮事項とまとめ
ASRでのレプリケーション失敗は、単独の原因ではなく複合的な要因が絡み合うことが多いです。
- オンプレミス環境のリソース不足: CPUやメモリが逼迫していると、インストールやレプリケーションに失敗しやすくなります。
- バックアップソリューションとの競合: 他のバックアップソフトウェアがリソースを大量に使用している場合、ASRの動作に影響が及ぶことがあります。
- セキュリティソフトとの干渉: ウイルス対策ソフトやエンドポイント保護ツールがASRの通信をブロックしてしまうケースも報告されています。
エラーが発生した場合は、まずは環境を小さく切り分け、特定のVMのみを対象にレプリケーションを試す、もしくはテスト用のサブスクリプションを用意して検証するなど、段階的に原因を切り分けていくのが有効です。
最終的に解決が難しい場合は、MicrosoftのQ&Aフォーラムやサポート窓口に詳細情報を提示し相談することで、早期解決に繋がりやすくなります。特に大規模な環境やミッションクリティカルなシステムの場合は、自己流のトラブルシューティングで時間を費やすよりも、専門家の知見を取り入れたほうがコスト面でもメリットが大きいでしょう。
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