仮想マシンを削除して運用コストを下げたいと考えているものの、バックアップの運用費がどの程度かかり続けるのか、意外と分からない点が多いと感じていませんか。この記事では、削除後も保持するバックアップの料金体系や、不要なコストを削減するための具体的なアプローチについて詳しく解説します。
VM削除後のバックアップ運用を最適化する重要性
仮想マシンは稼働している間、CPUやメモリ、OSライセンス、ネットワークなど多方面のリソースを使用します。VMを削除すれば、それらのコンピュートリソース分は削減できますが、バックアップを続ける場合はストレージ費や転送コストなどが引き続き発生します。したがって、バックアップの容量や取得頻度、保持期間を見直すことでさらなるコスト削減の余地があるのです。
1. VMを削除してもバックアップデータが残る理由
VMを削除する際、意図的にバックアップデータを削除しなければ、クラウドサービスやオンプレミス環境などのバックアップ先に保存されたファイルは引き続き存在します。これにより、不要なバックアップが存在したり、長期間にわたって使われないデータを保持している可能性があります。
バックアップのライフサイクルを理解する
クラウドベースのバックアップの場合、「ライフサイクルポリシー」や「リテンションポリシー」と呼ばれる設定によって、データをいつまで保持するかをコントロールできます。VM削除後にもう不要なバックアップを自動的に削除する設定があれば管理が容易になりますが、適切に設定されていなければ不要なコストがかかり続けることになります。
バックアップコストを構成する主な要素
バックアップにはさまざまなコスト要素があるため、まずは「どの部分にどれだけ費用が発生しているのか」を明確にすることが重要です。以下に主な費用項目を挙げます。
1. ストレージ容量に応じた従量課金
バックアップ先がクラウドストレージの場合、多くのサービスで保存しているデータの容量に応じて料金が発生します。例えばAzure BackupやAWS Backup、Google Cloud Storageなどでは、標準的に月額の従量課金制が採用されています。
- 例)1GBあたり数円〜数十円/月
- 大規模データになると数TB〜数十TB規模になり、月額料金が高額になりがち
2. データ転送コスト
クラウドへバックアップをアップロードする際、もしくは復元時にデータをダウンロードする際に発生するネットワーク転送コストがあります。
- 上り(クラウドへの転送)が無料でも、下り(クラウドからのダウンロード)は有料になるケースが多い
- 頻繁に大容量のバックアップを復元する場合は、この転送料が大きくなる
3. バックアップソフトやサービスのライセンス費
バックアップ管理ツール、エージェントなどを利用している場合、ライセンス費やサブスクリプション費用がかかることがあります。
- ソフトウェアライセンスの初期費用
- サブスクリプションやサポート更新費用
4. オンプレミス環境への保管コスト
ローカル環境(オンプレミス)にバックアップデータをダウンロードしたりマウントしたりする場合、ローカルのストレージ設備やテープ保管などの設備投資、運用費が必要になります。
- テープやNASなどの初期購入費用
- メンテナンス費用、保管費用
バックアップコスト削減のための具体的施策
コストを下げるためには、「不要なバックアップを削除する」「バックアップ頻度や保持期間を見直す」「データの重複排除や圧縮を活用する」といった工夫が考えられます。ここでは、より実践的な方法を見ていきましょう。
1. バックアップの要不要を見極める
VMを削除するとき、そのVM上のアプリケーションやデータが今後必要になるのかどうかを明確にすることが第一歩です。
- すでに別の環境へ移行済みのデータや、テスト用途のみで使われたデータであれば、今後利用しない可能性が高い
- 万が一に備えてバックアップを保持する場合でも、保持期間を短縮することでコストを圧縮できる
具体的な判断基準の例
データ種別 | 必要性 | 推奨アクション |
---|---|---|
本番稼働に関係する重要データ | 高 | 長期保管や冗長化を検討 |
テスト/検証用の一時データ | 低 | 短期保管または削除を検討 |
アーカイブ目的で保存するデータ | 中 | 安価なストレージ層への移行 |
2. バックアップ頻度の見直し
バックアップの取得頻度が高いほど、ストレージ使用量は増加しやすくなります。VMを削除した後でもバックアップジョブが継続的に走っている場合、無用なデータが積み重なってしまう可能性があります。
- 日次でバックアップが必要か、週次や月次で十分ではないか再検討する
- すでに削除したVMのバックアップジョブが残っていないか確認する
3. リテンションポリシーの調整
リテンションポリシー(保持期間)は長ければ長いほど、バックアップデータが蓄積します。VMを削除した後に必要な保持期間を明確にし、不要なデータを定期的に削除するルールを整備しましょう。
- 30日、90日、1年などの区切りを設定し、段階的に削除する
- 監査や規制要件で必要な期間のみ確実に保持し、それ以外は削除
4. 重複排除や圧縮の有効活用
重複排除(デデュープ)や圧縮機能を備えたバックアップソフトウェアやストレージを利用すれば、実効的なデータ量を減らすことが可能です。
- 例)重複排除によって50〜90%以上の容量削減が見込めるケースもある
- 圧縮率が高くなるデータ(テキストやログなど)を優先的に扱う
5. バックアップストレージの階層化
クラウドストレージには「ホット」「クール」「アーカイブ」など異なるアクセス頻度に応じた階層が存在します。頻繁にアクセスしないバックアップは、クールまたはアーカイブ層に移動することで、ストレージ単価を大幅に下げられます。
- アクセス頻度がほぼないバックアップデータ→アーカイブ層へ移動
- 定期的に復元テストが必要なデータ→ホットやクール層に保存
削除後もバックアップをローカル環境にマウントする場合の注意点
VMを削除しても、バックアップデータをローカル環境にマウントして利用するケースがあります。このときには、クラウド上のストレージに保存されたバックアップを定期的に取り出すことになるため、転送コストやサブスクリプション費用が引き続き発生する点に留意しましょう。
1. ネットワーク転送コストの管理
ローカル環境にデータをマウントする場合、クラウド側からの転送が発生します。頻繁に大容量のファイルをダウンロードすると、意外と高額な費用になることがあります。
- 大規模ファイルの場合は帯域幅制限機能を利用して段階的にダウンロードする
- 必要なファイルだけ部分的にダウンロードすることで転送量を抑制
2. キャッシュやレプリカの活用
ローカル側にキャッシュやレプリカを作成しておき、頻繁にアクセスするデータに関しては都度クラウドから取得しないように工夫します。
- キャッシュポリシーを設定し、一定期間はローカルデータをそのまま使用する
- クラウド上のバックアップをフルスキャンせずに、差分更新だけ受け取れる仕組みを導入する
3. バックアップ管理スクリプトの活用例
例えばPowerShellやPythonなどを利用して、バックアップサイズや転送量を定期的にモニタリングするスクリプトを作成する方法があります。以下は簡単なPowerShellスクリプト例です。
# バックアップ対象のストレージアカウントとコンテナを指定
$storageAccountName = "mystorageaccount"
$containerName = "backupcontainer"
# Azure CLIを用いてバックアップサイズを取得
$storageSize = az storage blob list `
--account-name $storageAccountName `
--container-name $containerName `
--query "[].properties.contentLength" -o tsv | Measure-Object -Sum
Write-Host "Current backup size (bytes): " $storageSize.Sum
# 同時にダウンロード転送料や更新頻度を確認するロジックを組み込むことで
# 定期的なレポートを生成できる
このように、自動でバックアップ容量を可視化する仕組みを組み込むことで、不要なデータが増大していないか、コストが急増していないかを早期に把握できます。
VM削除前後でのコスト差額を把握するためのステップ
実際にどの程度コストが下がるのか、仮想マシンの削除前後で比較する場合には、以下のステップを参考にしてください。
1. VM稼働に関わる費用の洗い出し
- VMのコンピュート料金:vCPU数、メモリ容量、使用した時間
- OSライセンス料金(Windows Serverライセンスなど)
- ネットワーク通信費(送信/受信)
- ディスクストレージ費(ローカルディスクやマネージドディスク)
2. バックアップ関連費用の洗い出し
- バックアップの保存容量:月ごとにどの程度のデータが増減するか
- バックアップソフトやクラウドのライセンス費用
- 復旧テストにかかるダウンロード費用
- ローカル保管の設備・運用費
3. 比較する期間の設定
仮想マシンの削除前と削除後、それぞれ1ヶ月単位や四半期単位でのコストを試算すると分かりやすいです。
- 1ヶ月あたりのVM運用コスト
- 1ヶ月あたりのバックアップコスト
4. 削除後に残るコストと削除前との比較
削除前は「VM稼働コスト + バックアップコスト」、削除後は「バックアップコスト (必要であれば転送コストも含む)」となります。
- 削除による削減額=削除前コスト合計 − 削除後コスト合計
- バックアップを保持する必要性がなく、データを完全に削除できるならさらに削減可能
クラウドベンダーごとの料金体系を理解する重要性
バックアップのコストは利用するクラウドベンダーやサービスの種類によって大きく異なります。たとえばMicrosoft Azureでは「Azure Backup」「Azure Blob Storage」などのサービスがあり、AWSでは「AWS Backup」「Amazon S3(Glacier含む)」などを組み合わせるケースがあります。それぞれストレージクラスやAPIリクエスト料金が異なるため、慎重に比較検討する必要があります。
1. Azure Backupの例
- VMごとのバックアッププランを細かく設定できる
- 長期保持のバックアップは自動で拡張され、保持期間が長い場合のコストに注意
- スナップショットとVaultの両方の料金モデルを理解する必要あり
2. AWS Backupの例
- EC2、EBS、RDSなどAWSサービス全体を一元的にバックアップ管理できる
- バックアップの保存先がS3やGlacierになるため、クラスや取り出し頻度に応じて課金体系が変動
- 別リージョンへレプリカを作成する際の転送コストも考慮
3. Google Cloud Storageの例
- Standard、Nearline、Coldline、Archiveといったストレージクラスが存在
- アクセス頻度やデータ取得のスピード要件に応じてクラスを選ぶ必要がある
- APIリクエスト数が増えると課金が上積みされる点に注意
ケーススタディ:テスト用VMの削除とバックアップ運用
ここでは具体的な例として、テスト用のVMを削除するケースを考えてみましょう。
シナリオ概要
- 開発チームがテスト検証用に3台のVMをAzure上に立ち上げていた
- テスト完了後、実運用する必要がないためVMを削除することを検討
- しかしバックアップが毎日取得されており、3ヶ月間はデータを保持しておく要件がある
対策と結果
- VMを削除し、仮想マシンのコンピュートコストとOSライセンス費を削減
- バックアップのリテンション期間を90日から30日に短縮し、不要なバックアップを自動削除する設定に変更
- 重複排除と圧縮機能をフル活用し、データ量を50%削減
- 毎日実行していたバックアップを週次に変更し、バックアップが増加する速度を抑制
結果として、月額で50%以上のコスト削減に成功。これは「テスト環境のコンピュートリソース費用の削減 + バックアップのストレージ費用圧縮」による相乗効果が大きかった例です。
運用監視の徹底でコスト最適化を継続
一時的にコストを削減できたとしても、運用を続けているうちに環境が複雑化し、思わぬところでコストが膨らむ場合があります。定期的な監視と見直しが重要です。
1. 定期レポートの作成
毎月や四半期ごとにバックアップの利用状況を可視化したレポートを発行することで、容量増加トレンドや費用の変化を把握できます。
- 前月比や前年同月比で比較し、急激な増減がないかチェック
- バックアップが適切に削除されているか、不要なジョブが残っていないか確認
2. アラートの設定
クラウドサービスでは、使用量や課金額が一定の閾値を超えた際に通知を送る機能があります。
- Azure Cost Management & Billingのアラート設定
- AWS BudgetsやCost Anomaly Detectionなどの利用
- Google Cloud Billingアラートの活用
3. 継続的な改善策の検討
- 新しいバックアップ技術やサービスの導入(例:より強力な重複排除)
- アプリケーション側でのログ削除や圧縮ルールの見直し
- アーカイブストレージへの移動時期や取り出し頻度の最適化
まとめ:VM削除後もバックアップは見直しが肝心
VMを削除すると、仮想マシン本体のコストは大きく削減できますが、バックアップデータに対しての費用は引き続き発生します。不要になったバックアップデータや過度な保持期間を放置すると、長期的には大きな負担となり得ます。ローカル環境にマウントして使う場合も、転送コストやライセンス費用がかかる点に要注意です。
最終的な削減額を算出するには、削除前後のコストを細かく比較し、バックアップ運用全体を最適化することが重要です。定期的に監査し、不要データの削除や保持期間の短縮、ストレージ階層化などを組み合わせてコスト削減を図りましょう。
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