C言語で学ぶリアルタイムシステムプログラミング入門

リアルタイムシステムは、タイミングが非常に重要なアプリケーションにおいて欠かせない存在です。例えば、航空機の制御システム、自動車のエンジン管理システム、ロボットの制御など、さまざまな分野で利用されています。本記事では、C言語を用いたリアルタイムシステムの基本概念とプログラミング手法について、初心者向けにわかりやすく解説します。リアルタイムシステムの基本から、実際のプログラミングテクニックまでをカバーし、実践的な知識を提供します。

目次
  1. リアルタイムシステムとは
    1. リアルタイムシステムの種類
    2. リアルタイムシステムの要件
  2. C言語の基本とリアルタイムシステムへの適用
    1. C言語の基本構文
    2. 低レベルハードウェアアクセス
    3. リアルタイムシステムでのC言語の役割
  3. リアルタイムOSの紹介
    1. 主要なリアルタイムOS
    2. RTOSの特徴
    3. RTOSの選定基準
  4. タイマーと割り込み処理
    1. タイマーの重要性
    2. 割り込み処理のメカニズム
    3. リアルタイム性を確保するためのポイント
  5. タスク管理とスケジューリング
    1. タスク管理の基本概念
    2. スケジューリングアルゴリズム
    3. 実装例:優先度ベースのスケジューリング
    4. タスク管理のポイント
  6. リアルタイムシステムでのメモリ管理
    1. メモリ管理の重要性
    2. メモリ管理の手法
    3. メモリ管理の具体例
    4. リアルタイムシステムでのメモリ管理のポイント
    5. リアルタイムシステムでの効果的なメモリ管理の実践
  7. 同期と通信
    1. タスク間の同期
    2. タスク間の通信
    3. 同期と通信のポイント
  8. 応用例: センサーデータの処理
    1. センサーデータの取得
    2. データの処理とフィルタリング
    3. リアルタイムシステムでのデータ送信
    4. 応用例のまとめ
  9. 演習問題: 簡単なリアルタイムアプリケーションの作成
    1. ステップ1: センサーデータの取得
    2. ステップ2: データのフィルタリング
    3. ステップ3: データの表示
    4. 演習のまとめ
  10. まとめ

リアルタイムシステムとは

リアルタイムシステムは、一定の時間内に処理を完了することが求められるシステムです。この「リアルタイム性」は、応答時間が遅れることが許されない状況で特に重要です。例えば、自動車のエアバッグシステムや医療機器など、タイミングが生命に直結するアプリケーションで使用されます。

リアルタイムシステムの種類

リアルタイムシステムは、以下のように分類されます。

ハードリアルタイムシステム

ハードリアルタイムシステムでは、全てのタスクが厳密に時間通りに実行される必要があります。例としては、航空機の飛行制御システムが挙げられます。

ソフトリアルタイムシステム

ソフトリアルタイムシステムでは、一定の遅れが許容されますが、遅延が発生してもシステム全体のパフォーマンスに重大な影響を及ぼさない場合が多いです。例として、ビデオストリーミングアプリケーションがあります。

リアルタイムシステムの要件

リアルタイムシステムの設計には、以下の要件を考慮する必要があります。

決定論的な応答

システムは、予測可能な応答時間を提供する必要があります。

高い信頼性と可用性

特定のタスクが確実に実行されることを保証する必要があります。

効率的なリソース管理

CPU、メモリ、I/Oなどのリソースを効率的に管理し、必要なタスクに優先的に割り当てる必要があります。

C言語の基本とリアルタイムシステムへの適用

リアルタイムシステムのプログラミングにおいて、C言語はそのパフォーマンスと低レベルハードウェアへのアクセスの容易さから、広く利用されています。このセクションでは、C言語の基本とリアルタイムシステムにおける具体的な適用方法について説明します。

C言語の基本構文

C言語は構造化プログラミング言語であり、基本的な構文は以下のようになります。

#include <stdio.h>

int main() {
    printf("Hello, World!\n");
    return 0;
}

この例では、標準ライブラリをインクルードし、メイン関数内で「Hello, World!」を出力しています。

低レベルハードウェアアクセス

リアルタイムシステムでは、直接ハードウェアを操作する必要があるため、C言語のポインタ操作やビット操作が役立ちます。例えば、特定のメモリアドレスに直接アクセスする場合は以下のようにします。

volatile int *ptr = (int *)0x40000000;
*ptr = 0x1;

このコードでは、メモリアドレス0x40000000に1を設定しています。

リアルタイムシステムでのC言語の役割

C言語は、リアルタイムシステムにおいて以下のような重要な役割を果たします。

効率的なメモリ管理

リアルタイムシステムでは、動的メモリ割り当てを避けるため、スタティックメモリ管理が一般的です。C言語の低レベルメモリ操作がこれを可能にします。

高いパフォーマンス

C言語はコンパイル時に最適化されるため、高速な実行速度を提供します。これにより、リアルタイム性を確保できます。

直接的なハードウェア制御

C言語を使用することで、ハードウェアリソースへの直接アクセスと制御が可能になります。これにより、システムの精密なタイミング制御が可能になります。

リアルタイムOSの紹介

リアルタイムオペレーティングシステム(RTOS)は、リアルタイムアプリケーションのために設計された専用のOSです。RTOSは、厳密なタイミング要件を満たすために、決定論的なスケジューリングと迅速なタスク切り替えを提供します。以下に、主要なRTOSの特徴とその利点を紹介します。

主要なリアルタイムOS

リアルタイムシステムで広く使用されているRTOSには、以下のものがあります。

FreeRTOS

FreeRTOSは、オープンソースの軽量なRTOSで、組み込みシステムで広く使用されています。マルチタスクのサポート、優先度ベースのスケジューリング、タイマー、キュー、セマフォなどの機能を提供します。

VxWorks

VxWorksは、商用のRTOSであり、航空宇宙、産業制御、医療機器などの厳格なリアルタイム要件があるシステムで使用されています。信頼性が高く、スケーラブルなアーキテクチャを提供します。

RTEMS (Real-Time Executive for Multiprocessor Systems)

RTEMSは、オープンソースのRTOSで、マルチプロセッサシステム向けに設計されています。多くのプロセッサアーキテクチャをサポートし、POSIX互換のAPIを提供します。

RTOSの特徴

リアルタイムシステムに特化したRTOSの特徴は以下の通りです。

決定論的スケジューリング

RTOSは、タスクの実行タイミングを予測可能にするための決定論的スケジューリングを提供します。これにより、特定のタスクが確実に時間内に完了することを保証します。

優先度ベースのプリエンプティブマルチタスク

RTOSは、タスクの優先度に基づいて実行順序を決定し、高優先度のタスクが即座に実行されるようにします。これにより、重要なタスクが遅延なく処理されます。

低レイテンシと高速コンテキストスイッチ

RTOSは、タスクのコンテキストスイッチが迅速に行われるように最適化されており、低レイテンシでタスク間の切り替えが行われます。

RTOSの選定基準

リアルタイムシステムに適したRTOSを選定する際には、以下の基準を考慮します。

リアルタイム性能

タスクの応答時間とスケジューリングの決定論性を評価します。

リソース要件

メモリ使用量やCPU負荷など、システムリソースへの影響を確認します。

サポートとコミュニティ

ドキュメントや技術サポート、ユーザーコミュニティの充実度を考慮します。

タイマーと割り込み処理

リアルタイムシステムにおいて、タイマーと割り込み処理は、決定論的な応答を実現するために重要な役割を果たします。このセクションでは、タイマーの基本と割り込み処理のメカニズムについて説明します。

タイマーの重要性

リアルタイムシステムでは、正確な時間管理が必要です。タイマーは、特定の時間間隔でタスクを実行するために使用されます。例えば、センサーのデータを定期的に取得する場合などです。

ハードウェアタイマー

ハードウェアタイマーは、リアルタイムクロック(RTC)やタイマーカウンタを利用して、特定の時間間隔で割り込みを発生させます。これにより、一定間隔で処理を行うことが可能です。

ソフトウェアタイマー

ソフトウェアタイマーは、RTOS内で管理されるタイマーです。タスクのディレイや周期的なタスク実行に使用されます。例えば、FreeRTOSでは xTimerCreate 関数を使用してソフトウェアタイマーを作成できます。

割り込み処理のメカニズム

割り込みは、外部または内部イベントに応じてプログラムの流れを変更するための重要な手法です。リアルタイムシステムでは、即時応答が必要な場合に割り込みが利用されます。

割り込みの種類

割り込みには以下の種類があります。

外部割り込み

外部割り込みは、センサー入力や通信の受信など、外部デバイスからの信号によって発生します。

内部割り込み

内部割り込みは、タイマーオーバーフローやソフトウェア例外など、内部イベントによって発生します。

割り込みハンドラの実装

割り込みハンドラは、割り込みが発生した際に実行される関数です。C言語では以下のように実装します。

#include <avr/interrupt.h>

ISR(TIMER1_COMPA_vect) {
    // タイマー1のコンペアマッチA割り込みハンドラ
    // ここに処理を書く
}

この例では、AVRマイクロコントローラ用のタイマー1コンペアマッチA割り込みハンドラを定義しています。

リアルタイム性を確保するためのポイント

リアルタイムシステムでタイマーと割り込み処理を効果的に利用するためのポイントを以下に示します。

割り込みハンドラの最適化

割り込みハンドラ内の処理は短く保ち、可能な限り迅速に終了するようにします。長時間の処理はメインタスクの遅延を引き起こす可能性があります。

優先度の管理

重要な割り込みには高い優先度を設定し、システム全体のタイミングを管理します。優先度の競合を避けるために慎重な設計が必要です。

タイミングの精度

タイマーの設定とクロックソースの選定により、正確なタイミングを維持することが重要です。

タスク管理とスケジューリング

リアルタイムシステムにおけるタスク管理とスケジューリングは、システム全体のパフォーマンスと応答性を確保するために重要です。このセクションでは、タスク管理の基本概念と代表的なスケジューリングアルゴリズムについて説明します。

タスク管理の基本概念

リアルタイムシステムでは、複数のタスクが並行して実行されます。これらのタスクは、システムのリソースを共有しながら、協調して動作する必要があります。

タスクの状態

タスクは以下の状態を持ちます。

実行状態 (Running)

現在CPU上で実行中のタスク。

準備状態 (Ready)

実行可能だが、他のタスクが実行中のため待機しているタスク。

待機状態 (Blocked)

特定のイベント(例:I/O操作の完了)を待機しているタスク。

スケジューリングアルゴリズム

タスクのスケジューリングは、タスクの実行順序を決定するプロセスです。リアルタイムシステムでは、以下のスケジューリングアルゴリズムが一般的に使用されます。

優先度ベースのスケジューリング

タスクに優先度を設定し、高優先度のタスクを優先的に実行します。優先度が同じ場合は、ラウンドロビン方式で実行されることが多いです。

ラウンドロビン方式

各タスクに同じ実行時間を割り当て、順番に実行します。この方式は、システム全体の応答性を均等にするのに適しています。

デッドラインモノトニックスケジューリング

各タスクにデッドラインを設定し、デッドラインが早いタスクを優先的に実行します。これにより、時間制約が厳しいタスクが確実にデッドライン内に完了することを保証します。

実装例:優先度ベースのスケジューリング

C言語での優先度ベースのスケジューリングの簡単な例を示します。

#include <stdio.h>
#include <stdlib.h>
#include <pthread.h>
#include <sched.h>
#include <unistd.h>

void *task1(void *arg) {
    while (1) {
        printf("Task 1 is running\n");
        sleep(1);
    }
    return NULL;
}

void *task2(void *arg) {
    while (1) {
        printf("Task 2 is running\n");
        sleep(1);
    }
    return NULL;
}

int main() {
    pthread_t thread1, thread2;
    struct sched_param param1, param2;

    pthread_create(&thread1, NULL, task1, NULL);
    pthread_create(&thread2, NULL, task2, NULL);

    param1.sched_priority = 10;
    param2.sched_priority = 20;

    pthread_setschedparam(thread1, SCHED_FIFO, ¶m1);
    pthread_setschedparam(thread2, SCHED_FIFO, ¶m2);

    pthread_join(thread1, NULL);
    pthread_join(thread2, NULL);

    return 0;
}

この例では、タスク1とタスク2を作成し、それぞれに優先度を設定しています。優先度が高いタスク2が優先的に実行されます。

タスク管理のポイント

リアルタイムシステムで効果的にタスクを管理するためのポイントを以下に示します。

優先度の設定

各タスクの重要性に応じて適切な優先度を設定し、重要なタスクが確実に実行されるようにします。

プリエンプションの管理

重要なタスクが実行中の場合、低優先度のタスクを一時停止し、システムの応答性を確保します。

デッドラインの遵守

各タスクのデッドラインを厳守し、システム全体のタイミングを管理します。

リアルタイムシステムでのメモリ管理

リアルタイムシステムにおけるメモリ管理は、システムの信頼性とパフォーマンスに大きな影響を与えます。このセクションでは、リアルタイムシステムでのメモリ管理の重要性と、そのための具体的な手法について説明します。

メモリ管理の重要性

リアルタイムシステムでは、メモリ管理が適切に行われないと、予期しない遅延やシステムクラッシュが発生する可能性があります。特に、動的メモリ割り当てはリアルタイム性を損なう可能性があるため、慎重な設計が求められます。

メモリ管理の手法

リアルタイムシステムでよく使用されるメモリ管理の手法には、以下のものがあります。

静的メモリ割り当て

静的メモリ割り当ては、プログラムのコンパイル時に必要なメモリをすべて確保する方法です。この方法は、メモリの確保が実行時に行われないため、リアルタイム性が保証されます。

動的メモリ割り当て

動的メモリ割り当ては、実行時に必要に応じてメモリを確保する方法です。しかし、リアルタイムシステムでは、メモリ確保にかかる時間が不確定であるため、使用を最小限に抑えるべきです。

メモリ管理の具体例

以下に、C言語での静的メモリ割り当てと動的メモリ割り当ての例を示します。

静的メモリ割り当ての例

#define BUFFER_SIZE 1024
char buffer[BUFFER_SIZE];

この例では、プログラムの実行前に固定サイズのバッファを確保しています。

動的メモリ割り当ての例

#include <stdlib.h>

char *buffer = (char *)malloc(BUFFER_SIZE);
if (buffer == NULL) {
    // メモリ割り当て失敗時の処理
}

この例では、実行時にバッファのメモリを動的に確保しています。

リアルタイムシステムでのメモリ管理のポイント

リアルタイムシステムにおいて、効果的なメモリ管理を行うためのポイントを以下に示します。

メモリフラグメンテーションの回避

メモリフラグメンテーションが発生すると、使用可能なメモリが断片化し、必要なメモリを確保できなくなる可能性があります。これを防ぐために、メモリ割り当てと解放の頻度を最小限に抑える設計が求められます。

ガーベジコレクションの管理

ガーベジコレクションは、不要になったメモリを自動的に解放する機能ですが、リアルタイムシステムでは予期しない遅延を引き起こす可能性があります。ガーベジコレクションを使用する場合は、その影響を最小限に抑えるための対策が必要です。

メモリリークの防止

メモリリークは、解放されないメモリがシステムリソースを枯渇させる問題です。リアルタイムシステムでは、メモリリークを防ぐための徹底したテストと検証が重要です。

リアルタイムシステムでの効果的なメモリ管理の実践

効果的なメモリ管理を実践するためには、以下のアプローチが推奨されます。

静的メモリの優先使用

可能な限り静的メモリを使用し、動的メモリの使用を最小限に抑える設計を行います。

メモリ使用の予測

システムのメモリ使用量を事前に予測し、必要なメモリを確保することで、実行時のメモリ不足を防ぎます。

リアルタイムガーベジコレクション

リアルタイムシステムに適したガーベジコレクションアルゴリズムを採用し、遅延を最小限に抑えます。

同期と通信

リアルタイムシステムにおけるタスク間の同期と通信は、システムの整合性と効率を維持するために不可欠です。このセクションでは、リアルタイムシステムにおける同期と通信の基本概念と、その実装方法について説明します。

タスク間の同期

同期とは、複数のタスクが協調して動作するための手法です。リアルタイムシステムでは、以下のような同期手法が使用されます。

ミューテックス

ミューテックスは、共有リソースへの同時アクセスを防ぐために使用されるロック機構です。以下は、C言語でのミューテックスの使用例です。

#include <pthread.h>

pthread_mutex_t mutex = PTHREAD_MUTEX_INITIALIZER;

void *task(void *arg) {
    pthread_mutex_lock(&mutex);
    // 共有リソースへのアクセス
    pthread_mutex_unlock(&mutex);
    return NULL;
}

この例では、ミューテックスを使用して共有リソースへのアクセスを制御しています。

セマフォ

セマフォは、特定のリソースを同時に複数のタスクが使用できる場合に使用される同期手法です。以下は、C言語でのセマフォの使用例です。

#include <semaphore.h>

sem_t semaphore;

void *task(void *arg) {
    sem_wait(&semaphore);
    // 共有リソースへのアクセス
    sem_post(&semaphore);
    return NULL;
}

int main() {
    sem_init(&semaphore, 0, 1);
    // タスクの作成と実行
    sem_destroy(&semaphore);
    return 0;
}

この例では、セマフォを使用して共有リソースへのアクセスを制御しています。

タスク間の通信

通信とは、タスク間でデータをやり取りするための手法です。リアルタイムシステムでは、以下のような通信手法が使用されます。

メッセージキュー

メッセージキューは、タスク間でメッセージを送受信するためのFIFO(先入れ先出し)キューです。以下は、C言語でのメッセージキューの使用例です。

#include <mqueue.h>

mqd_t mq;

void *sender_task(void *arg) {
    char message[] = "Hello";
    mq_send(mq, message, sizeof(message), 0);
    return NULL;
}

void *receiver_task(void *arg) {
    char buffer[128];
    mq_receive(mq, buffer, 128, NULL);
    // 受信したメッセージの処理
    return NULL;
}

int main() {
    struct mq_attr attr = {0, 10, 128, 0};
    mq = mq_open("/message_queue", O_CREAT | O_RDWR, 0644, &attr);
    // タスクの作成と実行
    mq_close(mq);
    mq_unlink("/message_queue");
    return 0;
}

この例では、メッセージキューを使用してタスク間でメッセージを送受信しています。

共有メモリ

共有メモリは、複数のタスクが同じメモリ空間を共有することでデータをやり取りする手法です。以下は、C言語での共有メモリの使用例です。

#include <sys/mman.h>
#include <fcntl.h>
#include <unistd.h>

int main() {
    int fd = shm_open("/shared_memory", O_CREAT | O_RDWR, 0644);
    ftruncate(fd, sizeof(int));
    int *shared_data = mmap(NULL, sizeof(int), PROT_READ | PROT_WRITE, MAP_SHARED, fd, 0);

    // タスク1
    *shared_data = 42;

    // タスク2
    printf("Shared data: %d\n", *shared_data);

    munmap(shared_data, sizeof(int));
    close(fd);
    shm_unlink("/shared_memory");
    return 0;
}

この例では、共有メモリを使用してタスク間でデータを共有しています。

同期と通信のポイント

リアルタイムシステムで効果的に同期と通信を行うためのポイントを以下に示します。

デッドロックの回避

デッドロックを防ぐために、リソースの取得順序を統一し、タイムアウト機能を活用します。

優先度の逆転の防止

優先度の逆転を防ぐために、優先度継承プロトコルを使用します。

効率的な通信

タスク間の通信は、オーバーヘッドを最小限に抑えるために、効率的な手法を選択します。

応用例: センサーデータの処理

リアルタイムシステムの具体的な応用例として、センサーデータの処理方法を紹介します。センサーデータは、多くのリアルタイムアプリケーションで重要な役割を果たします。例えば、環境モニタリング、産業制御、自動運転車などで使用されます。

センサーデータの取得

センサーデータを取得するためには、適切なインターフェースとプロトコルを使用する必要があります。以下に、一般的なセンサーとの通信方法を示します。

アナログセンサーの読み取り

アナログセンサーは、アナログ信号を出力します。この信号をデジタル値に変換するためには、ADC(アナログ・デジタル・コンバータ)が必要です。

#include <stdio.h>

int read_analog_sensor() {
    // 例: ADCから値を読み取る(ダミーコード)
    int sensor_value = 1023; // 最大値
    return sensor_value;
}

int main() {
    int sensor_value = read_analog_sensor();
    printf("Sensor Value: %d\n", sensor_value);
    return 0;
}

この例では、アナログセンサーの値を読み取り、コンソールに出力しています。

デジタルセンサーの読み取り

デジタルセンサーは、デジタル信号を出力します。I2CやSPIなどのプロトコルを使用して通信します。

#include <stdio.h>
#include <wiringPiI2C.h>

int main() {
    int fd = wiringPiI2CSetup(0x48); // I2Cアドレス
    int sensor_value = wiringPiI2CRead(fd);
    printf("Sensor Value: %d\n", sensor_value);
    return 0;
}

この例では、I2Cプロトコルを使用してデジタルセンサーから値を読み取っています。

データの処理とフィルタリング

取得したセンサーデータは、そのまま使用する前にフィルタリングや処理を行うことが一般的です。例えば、ノイズ除去や平均化などです。

移動平均フィルタ

移動平均フィルタは、データの平滑化に使用されます。

#include <stdio.h>

#define N 5

int moving_average_filter(int new_value) {
    static int values[N] = {0};
    static int index = 0;
    static int sum = 0;

    sum -= values[index];
    values[index] = new_value;
    sum += new_value;

    index = (index + 1) % N;

    return sum / N;
}

int main() {
    int raw_values[] = {10, 20, 30, 40, 50, 60, 70};
    for (int i = 0; i < sizeof(raw_values) / sizeof(raw_values[0]); i++) {
        int filtered_value = moving_average_filter(raw_values[i]);
        printf("Filtered Value: %d\n", filtered_value);
    }
    return 0;
}

この例では、移動平均フィルタを使用してセンサーデータを平滑化しています。

リアルタイムシステムでのデータ送信

処理されたセンサーデータは、必要に応じて他のシステムやデバイスに送信されます。以下に、データ送信の例を示します。

シリアル通信によるデータ送信

シリアル通信は、シンプルで広く使用されるデータ送信方法です。

#include <stdio.h>
#include <wiringPi.h>
#include <wiringSerial.h>

int main() {
    int fd = serialOpen("/dev/ttyS0", 9600);
    if (fd < 0) {
        fprintf(stderr, "Unable to open serial device\n");
        return 1;
    }

    int sensor_value = 42; // 例としてのセンサーデータ
    serialPrintf(fd, "Sensor Value: %d\n", sensor_value);

    serialClose(fd);
    return 0;
}

この例では、シリアル通信を使用してセンサーデータを送信しています。

ネットワーク通信によるデータ送信

ネットワーク通信は、より広範囲のデータ送信に適しています。

#include <stdio.h>
#include <stdlib.h>
#include <string.h>
#include <unistd.h>
#include <arpa/inet.h>

int main() {
    int sockfd = socket(AF_INET, SOCK_DGRAM, 0);
    if (sockfd < 0) {
        perror("socket creation failed");
        return 1;
    }

    struct sockaddr_in servaddr;
    memset(&servaddr, 0, sizeof(servaddr));

    servaddr.sin_family = AF_INET;
    servaddr.sin_port = htons(8080);
    servaddr.sin_addr.s_addr = inet_addr("192.168.1.100");

    int sensor_value = 42; // 例としてのセンサーデータ
    char buffer[128];
    snprintf(buffer, sizeof(buffer), "Sensor Value: %d", sensor_value);

    sendto(sockfd, buffer, strlen(buffer), 0, (const struct sockaddr *)&servaddr, sizeof(servaddr));

    close(sockfd);
    return 0;
}

この例では、UDPプロトコルを使用してネットワーク経由でセンサーデータを送信しています。

応用例のまとめ

リアルタイムシステムにおけるセンサーデータの処理は、センサーからのデータ取得、データのフィルタリング・処理、そしてデータ送信の3つのステップで構成されます。これらのプロセスを効率的に実行することで、信頼性の高いリアルタイムアプリケーションを構築することができます。

演習問題: 簡単なリアルタイムアプリケーションの作成

リアルタイムシステムの基本を理解したところで、実際に簡単なリアルタイムアプリケーションを作成してみましょう。この演習では、センサーデータの取得、処理、表示を行うリアルタイムアプリケーションを開発します。

ステップ1: センサーデータの取得

まず、センサーからデータを取得する部分を実装します。以下のコードを参考に、センサーデータを定期的に取得してください。

#include <stdio.h>
#include <pthread.h>
#include <unistd.h>

void *read_sensor(void *arg) {
    while (1) {
        int sensor_value = rand() % 100; // センサーのダミーデータを生成
        printf("Sensor Value: %d\n", sensor_value);
        sleep(1); // 1秒ごとにデータを取得
    }
    return NULL;
}

int main() {
    pthread_t sensor_thread;
    pthread_create(&sensor_thread, NULL, read_sensor, NULL);
    pthread_join(sensor_thread, NULL);
    return 0;
}

このコードでは、1秒ごとにセンサーデータを取得し、コンソールに出力しています。

ステップ2: データのフィルタリング

次に、取得したデータをフィルタリングします。移動平均フィルタを使用してデータを平滑化します。

#include <stdio.h>
#include <pthread.h>
#include <unistd.h>

#define N 5

int moving_average_filter(int new_value) {
    static int values[N] = {0};
    static int index = 0;
    static int sum = 0;

    sum -= values[index];
    values[index] = new_value;
    sum += new_value;

    index = (index + 1) % N;

    return sum / N;
}

void *read_sensor(void *arg) {
    while (1) {
        int sensor_value = rand() % 100; // センサーのダミーデータを生成
        int filtered_value = moving_average_filter(sensor_value);
        printf("Filtered Sensor Value: %d\n", filtered_value);
        sleep(1); // 1秒ごとにデータを取得
    }
    return NULL;
}

int main() {
    pthread_t sensor_thread;
    pthread_create(&sensor_thread, NULL, read_sensor, NULL);
    pthread_join(sensor_thread, NULL);
    return 0;
}

このコードでは、取得したセンサーデータを移動平均フィルタで平滑化しています。

ステップ3: データの表示

最後に、フィルタリングされたデータをリアルタイムで表示する部分を実装します。ここでは、簡単なテキスト表示を行いますが、GUIを使用して視覚的に表示することも可能です。

#include <stdio.h>
#include <pthread.h>
#include <unistd.h>

#define N 5

int moving_average_filter(int new_value) {
    static int values[N] = {0};
    static int index = 0;
    static int sum = 0;

    sum -= values[index];
    values[index] = new_value;
    sum += new_value;

    index = (index + 1) % N;

    return sum / N;
}

void *read_sensor(void *arg) {
    while (1) {
        int sensor_value = rand() % 100; // センサーのダミーデータを生成
        int filtered_value = moving_average_filter(sensor_value);
        printf("Filtered Sensor Value: %d\n", filtered_value);
        sleep(1); // 1秒ごとにデータを取得
    }
    return NULL;
}

void *display_data(void *arg) {
    while (1) {
        // データをリアルタイムで表示(ここではコンソールに出力)
        printf("Displaying data...\n");
        sleep(1);
    }
    return NULL;
}

int main() {
    pthread_t sensor_thread, display_thread;
    pthread_create(&sensor_thread, NULL, read_sensor, NULL);
    pthread_create(&display_thread, NULL, display_data, NULL);
    pthread_join(sensor_thread, NULL);
    pthread_join(display_thread, NULL);
    return 0;
}

このコードでは、センサーデータをフィルタリングし、リアルタイムで表示する2つのスレッドを作成しています。

演習のまとめ

この演習では、センサーデータの取得、フィルタリング、表示を行う簡単なリアルタイムアプリケーションを作成しました。これにより、リアルタイムシステムの基本的なプログラミング手法と概念を実践的に学ぶことができました。次のステップでは、さらに複雑なリアルタイムアプリケーションの開発に挑戦してみましょう。

まとめ

この記事では、C言語を用いたリアルタイムシステムプログラミングの基本概念と実装手法について学びました。リアルタイムシステムの重要性を理解し、C言語の基本からリアルタイムOSの紹介、タイマーと割り込み処理、タスク管理とスケジューリング、メモリ管理、同期と通信、センサーデータの処理まで、広範囲にわたる知識を得ることができました。最後に、実際に簡単なリアルタイムアプリケーションを作成し、実践的なスキルを習得しました。次のステップとして、より複雑なシステムに挑戦し、リアルタイムプログラミングのスキルをさらに向上させてください。

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目次
  1. リアルタイムシステムとは
    1. リアルタイムシステムの種類
    2. リアルタイムシステムの要件
  2. C言語の基本とリアルタイムシステムへの適用
    1. C言語の基本構文
    2. 低レベルハードウェアアクセス
    3. リアルタイムシステムでのC言語の役割
  3. リアルタイムOSの紹介
    1. 主要なリアルタイムOS
    2. RTOSの特徴
    3. RTOSの選定基準
  4. タイマーと割り込み処理
    1. タイマーの重要性
    2. 割り込み処理のメカニズム
    3. リアルタイム性を確保するためのポイント
  5. タスク管理とスケジューリング
    1. タスク管理の基本概念
    2. スケジューリングアルゴリズム
    3. 実装例:優先度ベースのスケジューリング
    4. タスク管理のポイント
  6. リアルタイムシステムでのメモリ管理
    1. メモリ管理の重要性
    2. メモリ管理の手法
    3. メモリ管理の具体例
    4. リアルタイムシステムでのメモリ管理のポイント
    5. リアルタイムシステムでの効果的なメモリ管理の実践
  7. 同期と通信
    1. タスク間の同期
    2. タスク間の通信
    3. 同期と通信のポイント
  8. 応用例: センサーデータの処理
    1. センサーデータの取得
    2. データの処理とフィルタリング
    3. リアルタイムシステムでのデータ送信
    4. 応用例のまとめ
  9. 演習問題: 簡単なリアルタイムアプリケーションの作成
    1. ステップ1: センサーデータの取得
    2. ステップ2: データのフィルタリング
    3. ステップ3: データの表示
    4. 演習のまとめ
  10. まとめ