新しい機能を取り入れて業務効率を高めようとするとき、ソフトウェアの権限設定や承認フローが思いのほか複雑で足止めを食らってしまうことがあります。特にCopilot Studioで外部REST APIを利用するカスタムプラグインを作成する際には、管理者承認やOAuth設定など越えなければならないハードルが多く、開発者を悩ませがちです。しかし、正しいステップを踏んで整理していけば、外部APIとの連携は決して不可能ではありません。今回はCopilot StudioとPower Automateを中心に、外部REST APIを利用する上での具体的なポイントやトラブルシューティングをまとめてご紹介します。最後までお読みいただき、安心してカスタムプラグインを開発できるようになりましょう。
Copilot Studioで外部REST APIを使うための全体像
Copilot Studioで外部REST APIを呼び出す場合、基本的にはMicrosoft Power Automateと連携させることが前提になります。外部APIへの認証設定やエンドポイントの登録は、Power AutomateのカスタムコネクタやHTTPリクエストアクションを活用するのが一般的な流れです。さらに、Teams上でCopilotを有効活用するためには、組織全体にアプリやコネクタをデプロイできるように管理者による設定が求められます。
構成イメージ
以下は、Copilot Studioと外部REST APIを連携する際の構成を概念的に示したイメージ図です。
要素 | 役割 |
---|---|
Copilot Studio | ユーザーインターフェースおよびプラグイン管理機能を提供 |
Power Automate | カスタムコネクタやフローを作成し、外部APIへ安全にアクセスする手段を提供 |
外部REST API | データを取得・更新するサービスのエンドポイントを公開 |
OAuth認証プロバイダ | 認証トークンを発行し、外部APIへの安全なアクセスを制御 |
Azure AD (場合によって) | 組織レベルのSSO・管理者承認を行うためのディレクトリサービス |
このように、Copilot Studio単独ですべてを完結するわけではなく、Power Automate側でカスタムコネクタやHTTPリクエストの設定を行い、それをCopilotが「呼び出し先」として参照する形になります。外部REST API側でOAuthやSSOが必須になっている場合は、必然的にAzure ADや認証プロバイダとの連携が必要になり、管理者権限の有無が大きなカギを握ることになります。
最大の壁:OAuth認証と管理者権限
外部REST APIがOAuth認証(特にSSOを伴うもの)を採用している場合、開発者自身が管理者権限を持っていないと作業が難航するケースが非常に多いです。たとえば、以下のような問題が起こりがちです。
- アプリ登録:外部サービス(またはAzure AD)上でのアプリケーション登録が管理者にしか許可されていない
- 承認ポリシー:外部サービス利用を組織ポリシーで制御しており、ユーザーごとに権限承認が必要
- リダイレクトURIの設定:Power Automate側でのリダイレクトURI設定が行えない
こうした問題に直面したら、早めにテナント管理者と連携を取り、OAuthのクライアントID・クライアントシークレットといった機密情報を正しく設定してもらうことが重要です。また、設定完了後でもポリシーが影響してアクションが失敗するケースがありますので、テストと設定の見直しを繰り返すことが欠かせません。
Power Automateでのカスタムコネクタ作成
カスタムコネクタを作成することで、Power Automate上から外部REST APIをシンプルに呼び出せるようになります。手順は以下のとおりです。
1. API仕様書の確認
外部REST APIが提供するエンドポイント、リクエストパラメータ、レスポンス形式、認証要件などをしっかりと把握します。APIドキュメントに記載されているスキーマやサンプルレスポンスを確認しておくと、後ほどコネクタの定義を作りやすくなります。
2. Power Automateで新規カスタムコネクタを作成
「データ」→「カスタムコネクタ」→「新しいカスタムコネクタ」から作成ウィザードを起動します。ウィザードに沿って以下を入力します。
- APIエンドポイントURL
- ホスト名
- ベースURL
さらに、Swagger/OpenAPI仕様書を持っている場合は、それを読み込む形でコネクタを自動生成することもできます。
3. 認証設定
外部REST APIがOAuth2.0を要求する場合には、「OAuth 2.0」を選択し、クライアントID、クライアントシークレット、リダイレクトURI、トークン取得用URLなどを入力します。ここで管理者権限の操作が必要になるケースが多いため、事前に権限を確認しておきましょう。
4. アクションとトリガーの定義
カスタムコネクタは「アクション(endpointの呼び出し)」と「トリガー(イベント発生に対するフック)」を定義できます。一般的に以下のような流れで設定します。
- アクションの追加:HTTPメソッド(GET, POST, PATCH, DELETE など)やエンドポイントパス、クエリパラメータ、ボディの構造を指定
- レスポンスの設定:APIから返ってくるJSONなどのデータ形式を定義
作成完了後に「テスト」タブから動作確認を行い、実際に認証フローが成功するか、レスポンスが期待どおりかをチェックします。
カスタムフローの作成とHTTPリクエストアクション
カスタムコネクタを使わなくても、Power Automateのフロー内で「HTTPリクエストアクション」を直接設定することも可能です。
ただし、OAuth認証が必要な場合には「Azure AD OAuth」や「Generic OAuth 2.0」などの事前構成が必要で、結局は管理者承認が必要になることが多いです。
HTTPリクエストアクション例
- name: Invoke REST API
type: Http
inputs:
method: GET
uri: https://api.example.com/v1/data
headers:
Authorization: "Bearer @{variables('OAuthToken')}"
上記のようにHTTPリクエストを記述し、トークンを取得してから呼び出す手順をフロー内で実装することになります。トークンの取得自体も別のHTTPリクエストアクションで行うなど、一連のステップをまとめる形です。この場合も管理者にアプリ登録をしてもらい、クライアントシークレットを取得し、それを安全に保管・利用しなければなりません。
Copilot Studioでの連携設定と注意点
Power Automate側でカスタムコネクタやカスタムフローを作成した後、Copilot Studioでプラグインとして設定します。具体的には以下のようなフローになります。
1. Copilot Studioにて新規プラグイン作成
Copilot Studioの画面で「プラグインを作成」もしくは「新しいAIプラグイン」を選択して、カスタムプラグインのウィザードを進めます。その途中で「外部データから情報を取得または更新」や「カスタムフローを利用」といった項目を選びます。
2. 既存のコネクタやフローを選択
Power Automateで作成済みのコネクタやフローがあれば、ドロップダウンリストなどに表示されるはずです。ここで該当するカスタムコネクタやフローを選択します。
- 表示されない場合
- コネクタの認証設定が完了していない
- テナント管理者による承認が未完了
- CopilotやPower Automateのライセンス制限が原因
何も表示されない、または「追加」ボタンがグレーアウトしている場合は、これらの要因を確認しましょう。
3. Copilotスタジオ内での権限設定
プラグインを組織全体で利用可能にするには、組織のアプリポリシーに従って公開する必要があります。個人利用の範囲を超えて他ユーザーに使ってもらう場合、Teams管理センターなどでアプリの公開設定を行います。
Teams環境下でのCopilot導入とプラグイン配布
Copilot for Teamsは、組織全体、あるいは限定的なグループに対してアプリを一括で配信・管理できる仕組みがあります。複数のユーザーにプラグインを使ってもらう場合は、以下のステップを意識しましょう。
1. Teams管理センターでのアプリ設定
管理者アカウントでTeams管理センターにアクセスし、「Teamsアプリ」から「アプリの権限ポリシー」や「セットアップポリシー」を設定します。
特定のアプリ(今回作成したCopilotプラグイン)を組織全体にピン留めする、特定ユーザーのみに配布するなどの細かい制御が可能です。
2. Microsoft 365管理センターでの追加承認
Teamsだけでなく、Microsoft 365管理センターやAzureポータルでの承認が必要となることもあります。たとえば、外部アプリへのアクセス権やアプリケーション登録の承認などです。組織のセキュリティポリシーが厳格な場合は、必要なすべての承認を受けるまでプラグインが利用できない場合があります。
トラブルシューティングのポイント
実際に外部REST APIを呼び出そうとしてエラーが発生したとき、どこでトラブルが起きているのかを切り分けるのは簡単ではありません。以下のポイントを確認しながら、一つずつ原因を探ってみてください。
1. Power Automate側のログ確認
Power Automateの「アクション履歴」や「テスト」機能を使って、実際にHTTPリクエストが成功しているかをチェックします。認証関連のエラーが出ている場合は、401(Unauthorized)や403(Forbidden)のステータスコードが返ってきているはずです。
2. カスタムコネクタのエンドポイントと認証設定
OAuth設定が正しく行われていないと、リダイレクトURIの不一致やトークン期限切れなどでエラーになることがあります。クライアントシークレットやトークンURLが誤っていないか再度チェックしてみましょう。
3. Copilot Studio側の設定ミス
Copilot Studioでのプラグイン作成時に、誤ったフロー名やコネクタ名を指定していると、一覧に表示されなかったりプラグイン登録が失敗したりします。設定画面に戻り、正しいフローやコネクタを選択しているか確認しましょう。
4. テナント管理者による制限
組織ポリシーによって外部API接続が制限されている場合は、管理者に確認しない限り解決できません。特にSSOを必要とするAPIでは、ユーザーが勝手にアプリ登録できないよう厳格な管理がされているケースがあります。
具体例:Azure AD上でアプリ登録し、カスタムコネクタを作成する流れ
より明確にイメージしていただくために、Azure AD上でのアプリ登録からPower Automateのカスタムコネクタ設定までの例を示します。
- Azureポータルに管理者がサインインし、「Azure Active Directory」→「アプリの登録」を選択
- 「新規登録」をクリックし、アプリ名とリダイレクトURIを入力して登録
- 「認証」タブでプラットフォームをWebに設定し、リダイレクトURIをPower Automate側で指定されたURIに合わせる
- 「証明書とシークレット」タブで「新しいクライアントシークレット」を発行し、メモを取る(このときシークレットの有効期限に注意)
- Power Automateに戻り、カスタムコネクタのOAuth2.0設定画面で上記のアプリID(クライアントID)とクライアントシークレットを入力
- テストを実行して、正常にトークンが取得できるか確認
この一連の流れは、管理者権限を持たないユーザーが一人で進めるのは難しい場合があります。開発担当者とテナント管理者が密に連携して進めることで、外部REST APIとのセキュアな接続が実現できます。
Copilot Studioのカスタムプラグインを活用するメリット
Copilot Studioは、単にチャットインターフェースでの問い合わせ対応を行うだけでなく、自社システムや外部サービスと連携しながら、より高度な自動化やデータ利活用を実現する大きな可能性があります。例えば、以下のようなメリットが考えられます。
- 業務効率化:Copilot上からのチャット操作だけで外部システムのデータ取得や更新ができる
- ユーザー体験の向上:Teamsなどの既存インターフェースに統合されているため、新たな画面を覚える必要がない
- 自動応答の高度化:自然言語処理機能を生かして、ユーザーの要望や問い合わせに沿ったAPI呼び出しをバックエンドで行い、即時に回答できる
カスタムプラグインの作り込み次第では、複雑な業務シナリオでもユーザーが直感的に利用できるサービス提供が可能になります。
まとめ:管理者との連携がカギ
Copilot Studioで外部REST APIを利用するカスタムプラグインを作成する際に最も大きな障壁となるのは、OAuth認証の設定やテナント管理者の承認フローです。特にSSOが必須の外部APIを扱う場合、個人の権限では対処しきれない場面が多々あります。
- Power Automateでのカスタムコネクタ作成やHTTPリクエスト設定
- Azure ADなどでのアプリ登録と認証ポリシー確認
- Copilot Studioへのコネクタ・フロー取り込み
- TeamsやMicrosoft 365管理センターでのプラグイン公開設定
これら一連のプロセスをスムーズに行うには、やはりテナント管理者の協力が欠かせません。外部APIの呼び出しに失敗する場合は、まずPower Automateのログをチェックし、認証設定が正しく機能しているかどうかを確認することが近道です。
Copilot Studioをフル活用することで、組織のデジタル化をさらに推し進め、情報の一元化や業務効率化につなげることができるでしょう。ぜひ、管理者との連携を取りながら、一歩ずつカスタムプラグイン開発を進めてみてください。
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