最近のPCゲームでは、高解像度やリアルな描画表現を実現するためにDirectX 12を活用するケースが増えています。しかし、ノートPCなどでグラフィック性能が十分でない環境の場合、DX12によるエラーでゲームが起動しないことも。そんなときに役立つ解決策をまとめました。
DirectX 12が求められる背景
ゲーミングタイトルが進化するにつれ、より高度なグラフィックスAPIが必要とされるようになりました。その中でも、Windows環境で主流となりつつあるのがDirectX 12です。DX12はマルチスレッド最適化や低レイテンシ、高効率のリソース管理などに優れていますが、一方で対応GPUやOSバージョンなど、要求仕様が高まるというデメリットもあります。特にノートPCのオンボードグラフィックスでは対応が難しいケースが多く、ゲームを起動した途端に「DirectX 12がサポートされていません」というエラーが表示されることがあります。
Marvel RivalsにおけるDX12エラーの背景
最近注目を集めている「Marvel Rivals」でも、DX12を前提としているために、互換性のない環境ではエラーが発生することが報告されています。具体的には「DirectX 12はサポートされていません。-dx12または-d3d12のコマンドライン引数を外して起動してください」というメッセージが出ることがあります。
しかし、いざゲームフォルダを探してみても、「m_enableDX12=True」といったそれらしい記述が見つからない場合も多いです。このようなケースでは「どこでDX12をオフにすればいいのか分からない」と戸惑うことになります。
公式要件とオンボードGPUの問題
まずはゲームの公式要件をチェックしましょう。多くのゲームではWindows 10 64ビット(バージョン1909以降)、DirectX 12対応GPU(NVIDIA GTX 1060やAMD RX 580クラスなど)を最低要件として指定しています。これはオンボードGPUのみの環境では動作が厳しい可能性が高いことを意味します。
ゲームによってはDirectX 11でも起動可能な場合がありますが、エラーを解消してもパフォーマンスが極端に低下したり、そもそも起動すらしないケースもあります。
DirectX 12を無効化するための基本的なアプローチ
DX12が原因でゲームが起動しない場合、いくつかの定石があります。ここでは、その中でも代表的な方法を紹介します。
1. 設定ファイルを探す
多くのゲームは、ユーザー設定ファイルを用意しています。名前の例としては以下のようなものがあります。
- GameUserSettings.ini
- Engine.ini
- DefaultEngine.ini
- Scalability.ini
これらのファイルは、主にゲームのインストールフォルダやユーザープロファイル内の「AppData」「Documents」フォルダなどに配置されることが多いです。たとえば、下記のような場所にある場合があります。
C:\Users\<ユーザー名>\AppData\Local\MarvelRivals\Saved\Config\WindowsNoEditor\
あるいは
C:\Users\<ユーザー名>\Documents\My Games\MarvelRivals\Config\
ゲームによっては微妙にパスが異なるので、手動で探してみるか、ネット検索などで情報を探すとよいでしょう。
これらのファイルを開き、「DX12」「DirectX12」「RenderAPI」「m_enableDX12」などのキーワードを探してみます。もし該当する記述があれば、True
を False
に変えるなどしてDX12を無効化できる可能性があります。
設定ファイル編集の例
例えば、Engine.ini内に以下のような記述があった場合:
[SystemSettings]
r.EnableDX12=True
これを
[SystemSettings]
r.EnableDX12=False
のように書き換え、保存してゲームを再起動します。すると、DirectX 11やVulkanなど、DX12以外のレンダリングパスを使おうとする挙動が期待されます。ただし、そもそもDX12専用に最適化されているゲームでは、この方法だけではうまく動かない可能性もあります。
2. コマンドライン引数(起動オプション)での指定
「-dx12」や「-d3d12」のように、起動時にDX12を強制的に有効にするためのオプションが付与されているケースがあります。このようなゲームでは、コマンドライン引数を編集することでDX11モードで起動できるかを試してみましょう。
たとえば、ショートカットのリンク先を以下のように変更します。
"<ゲームのインストールフォルダ>\MarvelRivals.exe" -dx11
こうすることで、DX12ではなくDX11モードでゲームが起動するようになります。SteamやEpic Games Launcherなどのランチャーを使っている場合は、「プロパティ」や「起動オプション」の項目から同様の設定が可能な場合があります。
ランチャー別の起動オプション設定
- Steam: ライブラリでゲームを右クリック → 「プロパティ」 → 「起動オプション」を設定
- Epic Games Launcher: 設定画面 → 該当ゲームの追加コマンドライン引数
- Origin/EA App: ゲームの詳細設定 → 起動オプション
これらの場所に「-dx11」と入力して保存すれば、次回起動時からDX11で実行されるようになることがあります。もしデフォルトで「-dx12」や「-d3d12」が設定されていた場合、それらを削除するか書き換える必要があります。
DirectX 12をオフにしてもエラーが続く場合
DX12を無効化しても、ゲームが起動しない・エラーが消えないケースがあります。その場合は、別の要因が疑われるため、以下の点をチェックしてみましょう。
1. グラフィックドライバとOSバージョン
DirectX 12の有無に関わらず、グラフィックドライバやOSが古いとゲームが起動できない場合があります。特にWindows Updateを長期間していない環境だと、最新のランタイムやドライバがインストールされていない可能性があります。
dxdiag コマンドでDirectXのバージョンやドライバの詳細を確認し、必要に応じてWindows Updateや公式サイトからドライバを更新してみてください。
2. ゲーム自体の互換モード
Windowsには「互換モード」があり、Windows 8や7といった過去バージョン用の設定でゲームを実行することができます。ただし、DX12が必要なゲームをWindows 7互換モードなどで起動すると、DX12がそもそも利用できない状態になり不具合を引き起こす可能性があります。
こちらは状況によっては逆効果になるため、まずは互換モードを解除しておくことをおすすめします。
3. ハードウェアが要件をそもそも満たしていない
オンボードGPU(内蔵グラフィックス)は、最新ゲームをプレイするうえで性能や機能の面で大きな制限があります。DX12を無効化すればとりあえず起動する場合もありますが、まともにフレームレートが出ない、頻繁にクラッシュするといった問題が発生しがちです。
このような場合は、やはり推奨されるディスクリートGPUを搭載したPCを用意するか、外付けGPUボックスを使うなどの根本的なハードウェア強化を検討する必要があります。
スペックとパフォーマンスの目安
例えば、ゲームが公式に「GTX 1060以上」を推奨している場合は、下記のような比較表を参考にすると良いでしょう。
GPU | 3DMark Time Spy (Graphics) スコア目安 | DX12対応 | ゲーム動作の快適度 |
---|---|---|---|
Intel HD 620 | 400前後 | 一部対応 | 低 (起動不可または極端に低FPS) |
GTX 1050 | 1600前後 | 対応 | 中 (設定を落とせば遊べる) |
GTX 1060 | 3700前後 | 対応 | 高 (標準設定で快適) |
RTX 3060 | 8000前後 | 対応 | 非常に高 (余裕のあるプレイ) |
このように、オンボードGPUのスコアはディスクリートGPUと比較すると大きく劣り、DX12のメリットを十分に活かせないだけでなく、ゲーム自体の起動可否も怪しくなります。
DirectX 12無効化によるメリット・デメリット
DX12を無効にすることでゲームのエラーを回避できる場合もあれば、パフォーマンス上の問題が生じることもあります。ここではその代表的なメリットとデメリットを整理します。
メリット
- 起動エラーの回避: ゲームがDX12にのみ対応する場合を除き、DX11モードならエラーなく起動できる可能性が高まる。
- 互換性の向上: やや古いPCやオンボードGPUでも、比較的動作しやすいDX11を利用できる。
- トラブルシューティング: 何が原因かを切り分ける際に、DX12を無効化することは有効な手段。
デメリット
- パフォーマンスの低下: DX12の機能を活かせないため、フレームレートや描画品質が落ちる可能性がある。
- 機能制限: 一部のエンジン機能(レイトレーシングなどの最新技術)が利用できなくなる場合がある。
- サポート外のリスク: ゲームによってはDX11モードのサポートが正式ではなく、予期しないバグや不具合が起こる可能性もある。
DX12を無効化しても起動できないときの追加対策
DirectX 12をオフにしたり、DX11を強制指定しても、なおかつゲームが起動しない場合は、さらにいくつか試しておきたい対処法があります。
1. 管理者権限での起動
ゲームによっては、OSレベルの権限不足やファイルアクセス権の問題が原因でエラーを吐くことがあります。ショートカットや実行ファイルを右クリックし、「管理者として実行」を選んで起動してみてください。これで解決することも少なくありません。
2. ゲームのファイル検証
SteamやEpic Games Launcherなどでは、ゲームファイルが破損していないか検証する機能があります。特にアップデートやインストール時にトラブルがあった場合、ゲーム本体のファイルが不完全になっている場合があります。
ファイル検証後に修復が行われると、DX12関連の設定ファイルや依存ファイルが正しく再配置されることもあります。
3. 互換性トラブルをテストする
Windowsのイベントビューアを確認すると、ゲームがクラッシュした理由や関連するログが残っていることがあります。「アプリケーション」ログや「システム」ログにエラーが出ていないかを確認してみましょう。DX12だけが問題ではないケースも多々あります。
イベントビューアの簡単な使い方
- スタートメニューで「イベントビューア」と入力し起動。
- 左ペインで「Windowsログ」の「アプリケーション」または「システム」を選択。
- エラーや警告のイベントをチェックし、日時・ソースを確認する。
ここでDirectX関連、グラフィックス関連のエラーがあるかどうかを探ると、問題解決のヒントが得られます。
DirectX 12が本当に必要か再考する
近年のゲームではDX12やVulkanといった新しいAPIへの移行が進んでいますが、すべてのタイトルがDX12前提というわけではありません。一部のゲームではオプションとしてDX11や他のAPIでのプレイが可能であり、実際にDX12よりも安定することも珍しくありません。
一方で、DX12に最適化されたゲームは、DX11で起動した場合には大きなパフォーマンス低下や画質低下を招くこともあります。「Marvel Rivals」のように新しめのタイトルだと、DX12専用である可能性が高く、そもそも無効化しても非対応のGPUではプレイが難しいかもしれません。
ゲームの推奨要件と手持ちのPCスペックをしっかり突き合わせ、どこを妥協するかを検討することも大切です。
外付けGPUという選択肢
もしノートPCを使っていてGPU性能を上げたいという場合は、外付けGPUボックス(eGPU)を検討してみるのも手です。Thunderbolt 3/4やUSB4対応のノートPCであれば、外部にGPUを接続し、大幅にグラフィックス性能を向上させられます。
ただし、外付けGPUは本体やThunderboltドック、GPUカード自体が高価であること、またノートPC側の帯域幅の制限によってデスクトップPCほどのパフォーマンスは期待できないことなど、デメリットもあります。
外付けGPU導入の注意点
- ノートPCのThunderboltバージョン確認: Thunderbolt 3以上が推奨。
- 電力供給と排熱: 外付けGPUは消費電力が大きく、ボックスにもファンや電源が必要。
- 互換性問題: すべてのノートPCが外付けGPUをサポートしているわけではないので、事前調査が重要。
まとめ: DX12を無効化しても根本的解決にならない可能性
「DirectX 12がサポートされていません」というエラーに直面したとき、設定ファイルの編集や起動オプションの変更でDX12をオフにすることは、ひとつの解決策にはなります。しかし、ゲームがDX12を前提として最適化されている場合や、ハードウェア自体が推奨要件を満たしていない場合には、単なる設定変更だけでは問題を解決できない可能性も高いです。
ゲーム側がDX11モードを正式にサポートしているかどうか、ハードウェアの性能は十分か、ドライバやOSは最新かといった複数の要素を総合的にチェックしましょう。そのうえで、どうしてもプレイが難しい場合はPCを新調するか外付けGPUなどの手段を検討することが賢明です。
チェックリストで最終確認
下記のチェックリストを活用し、DX12が原因のエラーかどうかを切り分けてください。
- 公式推奨要件を満たしているか
- OSバージョンはWindows 10 64ビット以上か
- GPUはDirectX 12対応か
- メモリやストレージ容量は十分か
- 最新のグラフィックドライバとWindows Updateを適用しているか
- Intel、NVIDIA、AMD公式サイトからドライバを手動更新
- Windows Updateでセキュリティパッチやサービススタック更新
- ゲーム起動オプションの確認
- 既定で「-dx12」や「-d3d12」が付与されていないか
- 試しに「-dx11」「-d3d11」で起動してみる
- 設定ファイルの編集
GameUserSettings.ini
やEngine.ini
などでDX12関連の項目を探す- あれば「True→False」の変更、または該当記述削除
- ランチャーのファイル整合性チェック
- Steam/Epic等でファイルの整合性を検証
- ファイル破損があれば修復を行う
- 管理者権限の付与や互換モードのオフ
- 管理者権限での起動を試す
- 互換モードが原因になっていないか確認
これらをすべて試しても改善しない場合、PC環境のスペック不足やDX12専用ゲームである可能性が高くなります。その場合は大きなトラブルを回避するためにも、素直に要件を満たすハードウェア環境を用意することが最善策です。
最終的にたどり着く選択
DirectX 12は、ゲームの高品質化や高パフォーマンス化に大きく貢献する技術です。一方で、対応ハードウェアやドライバが整わない環境下では、エラーの原因となってしまうこともあります。どうしてもゲームをプレイしたいけれどDX12エラーが出てしまう場合は、まずはここで紹介した方法を試してみてください。
もし起動できても、快適なフレームレートや画質を維持できない場合には、本格的にPCのアップグレードを検討する必要があるでしょう。DX12を無効化すれば一時的に回避できるエラーもありますが、ゲーム体験全体を大きく損なう可能性があります。プレイしたいゲームがDX12前提のものであるならば、やはりDX12に対応した環境を整えることが最終的な解決策となるのです。
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