Kotlin Multiplatformは、Android、iOS、Web、デスクトップといった複数のプラットフォームで効率的にアプリケーションを開発するための強力な手段です。Kotlinの特長を活かしつつ、共通コードを共有し、必要な部分のみプラットフォーム固有の実装を行うことで、開発の重複を減らし、メンテナンスの効率を大幅に向上させます。
本記事では、Kotlin Multiplatformを使用してコード共有を最大化するためのベストプラクティスを解説します。導入の基本概念から、プロジェクト構成、依存関係管理、テストの実装、デバッグ方法、そして実際の応用例に至るまで、実践的なアプローチを紹介します。Kotlin Multiplatformを効果的に活用し、マルチプラットフォーム開発の生産性を高めましょう。
Kotlin Multiplatformとは何か
Kotlin Multiplatform(KMP)は、JetBrainsが開発したKotlin言語を使用し、複数のプラットフォーム向けに共通コードを作成できる仕組みです。Kotlin Multiplatformを利用すると、ビジネスロジックやデータ処理といったロジック部分を共通化し、UIやプラットフォーム固有の処理のみを個別に実装できます。
対応するプラットフォーム
Kotlin Multiplatformは、以下のプラットフォームをサポートしています。
- Android:KotlinネイティブでAndroidアプリ開発
- iOS:Kotlinネイティブを使ったiOSアプリ開発
- Web:Kotlin/JSを用いたWebフロントエンド開発
- デスクトップ:Kotlin/JVMやKotlinネイティブを用いたデスクトップアプリ開発
仕組みと構成
Kotlin Multiplatformでは、以下の2つのコード層を構成します。
- 共通コード:ビジネスロジック、データモデル、ネットワーク処理など、各プラットフォームで共有できるコード。
- プラットフォーム固有コード:UIやOS固有のAPIを呼び出すコード。
これにより、共通部分は一度書くだけで済み、プラットフォームごとの差異を最小限に抑えながら開発を進められます。
ビルドとコンパイル
Kotlin Multiplatformでは、Gradleを用いてビルドや依存関係を管理します。プラットフォームごとに適したコンパイルターゲットを選択でき、ネイティブバイナリやJavaScriptとして出力可能です。
コード共有の利点とKotlin Multiplatformの特徴
Kotlin Multiplatformを使用すると、複数のプラットフォーム向けの開発を効率化でき、開発コストやメンテナンス負担を大幅に軽減できます。以下では、コード共有の主な利点とKotlin Multiplatformの特徴を解説します。
コード共有の利点
- 開発時間の短縮
共通ロジックを一度書けば、Android、iOS、Webなど複数のプラットフォームで再利用でき、重複した作業を減らせます。 - バグ修正と保守の効率化
共有コードにバグが見つかった場合、一箇所で修正すれば全てのプラットフォームに反映されます。これにより、修正漏れや一貫性の問題を防げます。 - 一貫性のあるビジネスロジック
複数プラットフォームで同じビジネスロジックを使用するため、データの処理や振る舞いに一貫性を保つことができます。 - 学習コストの削減
チームがKotlinに習熟していれば、複数のプラットフォームに対応するための新しい言語を学ぶ必要がありません。
Kotlin Multiplatformの特徴
- 柔軟なプラットフォーム対応
Kotlin Multiplatformは、Android、iOS、Web、デスクトップなど、さまざまなプラットフォームに対応しています。 - プラットフォーム固有コードとの連携
共通コードだけでなく、必要に応じてプラットフォーム固有のAPIやUIコードを実装できるため、柔軟な開発が可能です。 - Gradleによる依存関係管理
Kotlin MultiplatformプロジェクトではGradleを用いて、複数のプラットフォーム向けの依存関係を効率的に管理できます。 - 効率的なコンパイルとビルド
各プラットフォーム向けに適切なコンパイルターゲット(JVM、JS、ネイティブ)を選択し、効率的にビルドが可能です。
適用シーン
- 業務アプリ:Android、iOS両方で使える業務ツールの開発。
- クロスプラットフォームゲーム:ロジックを共有し、プラットフォームごとのUIをカスタマイズ。
- Webとモバイルの統合サービス:バックエンド処理やモデルを共通化し、Webとモバイルで一貫した体験を提供。
Kotlin Multiplatformを活用することで、開発の生産性が向上し、品質の高いソフトウェアを迅速に提供できます。
共通コードとプラットフォーム固有コードの分離
Kotlin Multiplatformでは、効率的にコードを共有するために「共通コード」と「プラットフォーム固有コード」を適切に分離することが重要です。これにより、ビジネスロジックやデータ処理は共通化し、UIやOS固有の処理は各プラットフォームに最適化できます。
共通コードの役割と管理
共通コードは、各プラットフォームで再利用可能なコードで構成されます。主に以下の処理を共通コードとして扱います:
- ビジネスロジック:
アプリケーションのデータ処理やビジネスルールなど、共通の振る舞いを実装します。 - データモデル:
データの構造やクラス定義を共通化し、プラットフォームごとに同じモデルを使用します。 - ネットワーク通信:
HTTPリクエストやデータ取得処理を共通コードとして作成し、Ktor
やKotlinx.serialization
を使用します。 - ユーティリティ関数:
文字列処理、日付処理、ログ出力など、複数のプラットフォームで利用できる関数を共通化します。
共通コードのディレクトリ例
shared/
├── src/
│ └── commonMain/
│ ├── kotlin/
│ │ └── com/example/shared/
│ │ ├── BusinessLogic.kt
│ │ └── DataModel.kt
プラットフォーム固有コードの役割と管理
プラットフォーム固有コードは、特定のOSやデバイスに依存する処理を記述します。主な役割は以下の通りです:
- UIの実装:
AndroidではJetpack Compose、iOSではSwiftUIやUIKitを使用してUIを構築します。 - デバイス機能の呼び出し:
カメラ、センサー、ローカルストレージ、位置情報など、プラットフォーム固有のAPIにアクセスします。 - OS固有のエラーハンドリング:
各OSで異なる例外処理やエラーメッセージを実装します。
プラットフォーム固有コードのディレクトリ例
shared/
├── src/
│ ├── androidMain/
│ │ └── kotlin/
│ │ └── com/example/shared/PlatformSpecific.kt
│ └── iosMain/
│ └── kotlin/
│ └── com/example/shared/PlatformSpecific.kt
共通コードと固有コードの連携方法
Kotlin Multiplatformでは、expect
/actual
キーワードを使用して、共通コードからプラットフォーム固有コードを呼び出せます。
共通コード(expect宣言)
// shared/src/commonMain/kotlin/com/example/shared/Platform.kt
expect fun getPlatformName(): String
プラットフォーム固有コード(actual実装)
// shared/src/androidMain/kotlin/com/example/shared/Platform.kt
actual fun getPlatformName(): String = "Android"
// shared/src/iosMain/kotlin/com/example/shared/Platform.kt
actual fun getPlatformName(): String = "iOS"
分離戦略のベストプラクティス
- ビジネスロジックを共通コードに集中させる
ビジネスルールやデータ処理を共通コードに集約し、UIの違いを気にせずにロジックを再利用します。 - プラットフォーム固有APIは最小限に抑える
可能な限り共通コードを活用し、固有コードは必要な処理のみに限定します。 - モジュール化を意識する
共通コードと固有コードを明確に分けることで、保守性と可読性が向上します。
共通コードと固有コードを適切に分離することで、Kotlin Multiplatformの利点を最大限に引き出し、効率的で柔軟なマルチプラットフォーム開発を実現できます。
Kotlin Multiplatformでのプロジェクト構成
Kotlin Multiplatformプロジェクトでは、効率的な開発を行うために適切な構成が重要です。共通コードとプラットフォーム固有コードを整理し、ビルドや依存関係をスムーズに管理するためのベストプラクティスを紹介します。
基本的なプロジェクト構成
Kotlin Multiplatformのプロジェクトは、以下のようなディレクトリ構造で整理されます:
MyKMPProject/
├── build.gradle.kts // ルートビルドファイル
├── settings.gradle.kts // プロジェクト設定ファイル
├── shared/ // 共通モジュール
│ ├── build.gradle.kts // 共通モジュールのビルドファイル
│ └── src/
│ ├── commonMain/ // 共通コード
│ ├── androidMain/ // Android固有コード
│ └── iosMain/ // iOS固有コード
├── androidApp/ // Androidアプリのモジュール
│ └── build.gradle.kts
└── iosApp/ // iOSアプリのモジュール
└── Xcodeプロジェクトファイル
モジュールの詳細
shared
モジュール
共通ロジックやビジネスロジックを含むモジュールです。AndroidやiOSで共通して使うコードをここに記述します。androidApp
モジュール
Android固有のコードとUIを実装するモジュールです。Jetpack ComposeやAndroidのAPIを利用します。iosApp
モジュール
iOS固有のコードとUIを実装するモジュールです。SwiftやSwiftUI、UIKitを利用します。
Gradleの設定例
shared/build.gradle.kts
plugins {
kotlin("multiplatform")
}
kotlin {
android()
iosX64()
iosArm64()
iosSimulatorArm64()
sourceSets {
val commonMain by getting {
dependencies {
implementation("io.ktor:ktor-client-core:2.0.0")
implementation("org.jetbrains.kotlinx:kotlinx-coroutines-core:1.6.4")
}
}
val androidMain by getting {
dependencies {
implementation("io.ktor:ktor-client-android:2.0.0")
}
}
val iosMain by getting {
dependencies {
implementation("io.ktor:ktor-client-ios:2.0.0")
}
}
}
}
androidApp/build.gradle.kts
plugins {
id("com.android.application")
kotlin("android")
}
android {
compileSdk = 33
defaultConfig {
applicationId = "com.example.mykmpproject"
minSdk = 24
targetSdk = 33
}
}
dependencies {
implementation(project(":shared"))
}
iOSプロジェクトの設定
iOS側では、Xcodeを使用してshared
モジュールを統合します。iosApp
ディレクトリ内で、Xcodeプロジェクトにshared.framework
をリンクします。
iosApp/iosApp.xcodeproj
設定例
- Xcodeの「Frameworks, Libraries, and Embedded Content」に
shared.framework
を追加 - SwiftコードからKotlinコードを呼び出す
import shared
func greet() {
print(Greeting().greeting())
}
プロジェクト構成のベストプラクティス
- フォルダ命名の明確化
共通コードとプラットフォーム固有コードのフォルダ名を明確にし、管理しやすくします。 - 依存関係の最適化
各プラットフォームに必要な依存関係のみを追加し、不要なライブラリは含めないようにします。 - ビルドスクリプトの管理
Gradleビルドスクリプトを整理し、再利用可能な設定はbuildSrc
やGradleのKotlin DSLでまとめます。
Kotlin Multiplatformでプロジェクトを適切に構成することで、複数のプラットフォームにわたる開発が効率的になり、保守性と拡張性が向上します。
依存関係管理とビルドツールの活用
Kotlin Multiplatformプロジェクトにおいて、依存関係管理とビルドツールの設定は効率的な開発の鍵です。Gradleを活用することで、複数のプラットフォーム向けの依存関係やビルドタスクを一元管理できます。ここでは、Kotlin Multiplatformでの依存関係管理の方法とビルドツールの活用について解説します。
Gradleを使用した依存関係管理
GradleはKotlin Multiplatformプロジェクトの依存関係管理を効率化するビルドツールです。Gradle Kotlin DSL(build.gradle.kts
)を使用することで、可読性が高く、メンテナンスしやすいビルド設定が可能です。
基本的な依存関係の設定
shared/build.gradle.kts
で依存関係を設定する例です。
kotlin {
android()
iosX64()
iosArm64()
iosSimulatorArm64()
sourceSets {
val commonMain by getting {
dependencies {
// 共通で使用する依存関係
implementation("org.jetbrains.kotlinx:kotlinx-coroutines-core:1.6.4")
implementation("io.ktor:ktor-client-core:2.0.0")
}
}
val androidMain by getting {
dependencies {
// Android固有の依存関係
implementation("io.ktor:ktor-client-android:2.0.0")
}
}
val iosMain by getting {
dependencies {
// iOS固有の依存関係
implementation("io.ktor:ktor-client-ios:2.0.0")
}
}
}
}
プラットフォームごとの依存関係
- 共通依存関係:
commonMain
で定義し、複数のプラットフォームで利用するライブラリを追加します。 - Android固有依存関係:
androidMain
でAndroid向けのライブラリを追加します。 - iOS固有依存関係:
iosMain
でiOS向けのライブラリを追加します。
Gradleタスクの活用
Gradleタスクを活用することで、ビルドやテストを効率化できます。
主要なGradleタスク
- ビルドタスク
./gradlew build
プロジェクト全体をビルドします。
- Androidアプリのビルド
./gradlew :androidApp:assembleDebug
Androidアプリをデバッグビルドします。
- iOSフレームワークのビルド
./gradlew :shared:linkDebugFrameworkIos
iOS向けのフレームワークをビルドします。
依存関係管理のベストプラクティス
- バージョン管理の統一
依存ライブラリのバージョンはbuildSrc
やgradle.properties
で一元管理しましょう。 例:gradle.properties
ktor_version=2.0.0
coroutines_version=1.6.4
build.gradle.kts
implementation("io.ktor:ktor-client-core:$ktor_version")
implementation("org.jetbrains.kotlinx:kotlinx-coroutines-core:$coroutines_version")
- マルチプラットフォーム対応ライブラリの選定
マルチプラットフォームで動作するライブラリ(例:Ktor、Kotlinx.Serialization)を選び、共通コードで使用します。 - 依存関係の軽量化
必要最低限の依存関係に絞り込み、ビルド時間を短縮し、アプリのサイズを抑えます。
Gradleの設定キャッシュと並列ビルド
Gradleのビルド時間を短縮するために、以下の設定を活用しましょう。
- 設定キャッシュの有効化
./gradlew build --configuration-cache
- 並列ビルド
gradle.properties
で並列ビルドを有効化:
org.gradle.parallel=true
Kotlin MultiplatformでGradleを活用することで、依存関係の管理が効率化され、ビルドパフォーマンスも向上します。適切な依存関係管理とビルドツールの設定で、開発の生産性を最大化しましょう。
テストの実装と共有テストコードの作成
Kotlin Multiplatformでは、共通コードに対してテストを記述し、複数のプラットフォームで同じテストを実行できます。これにより、ビジネスロジックやデータ処理の品質を効率的に確保できます。ここでは、テストの実装方法と共有テストコードの作成手順について解説します。
基本的なテスト構成
Kotlin Multiplatformのテストは、以下のようなディレクトリ構成で管理します:
shared/
├── src/
│ ├── commonMain/ // 共通コード
│ │ └── kotlin/
│ │ └── com/example/shared/
│ │ └── Calculator.kt
│ ├── commonTest/ // 共通テストコード
│ │ └── kotlin/
│ │ └── com/example/shared/
│ │ └── CalculatorTest.kt
│ ├── androidMain/ // Android固有コード
│ └── androidTest/ // Android固有テスト
└── build.gradle.kts
テスト依存関係の追加
shared/build.gradle.kts
にテストライブラリを追加します:
kotlin {
android()
iosX64()
iosArm64()
iosSimulatorArm64()
sourceSets {
val commonMain by getting
val commonTest by getting {
dependencies {
implementation(kotlin("test")) // 共通テストライブラリ
}
}
val androidTest by getting {
dependencies {
implementation("junit:junit:4.13.2") // Android用JUnit
}
}
val iosTest by getting
}
}
共通テストコードの作成
共通ロジックに対してテストコードを記述します。以下は、シンプルな計算機の例です。
共通コード:Calculator.kt
package com.example.shared
class Calculator {
fun add(a: Int, b: Int): Int = a + b
}
共通テストコード:CalculatorTest.kt
package com.example.shared
import kotlin.test.Test
import kotlin.test.assertEquals
class CalculatorTest {
@Test
fun testAddition() {
val calculator = Calculator()
assertEquals(5, calculator.add(2, 3))
}
}
プラットフォーム固有のテスト
プラットフォーム固有コードに対してテストを記述する場合、各プラットフォームのandroidTest
やiosTest
で実装します。
Android固有テスト:androidTest/kotlin/com/example/shared/PlatformTest.kt
package com.example.shared
import org.junit.Test
import org.junit.Assert.assertEquals
class PlatformTest {
@Test
fun testAndroidSpecificFunction() {
assertEquals("Android", getPlatformName())
}
}
テストの実行方法
Gradleタスクでテストを実行します。
- 共通テストの実行
./gradlew :shared:allTests
- Androidテストの実行
./gradlew :shared:connectedAndroidTest
- iOSテストの実行
./gradlew :shared:iosX64Test
テストのベストプラクティス
- 共通ロジックのテストを優先
ビジネスロジックやデータ処理のテストは、共通コードで実装し、効率的にテストカバレッジを向上させます。 - プラットフォーム固有のテストは最小限
UIやデバイス依存の処理のみプラットフォーム固有テストを作成し、共通コードでカバーできる部分は共通テストで対応します。 - モックやスタブの活用
依存関係のあるコードをテストする際は、モックやスタブを利用して、テストの独立性を保ちます。 - CI/CDでテストを自動化
GitHub ActionsやCircleCIを使って、複数のプラットフォームでのテストを自動化し、品質を維持します。
Kotlin Multiplatformでテストを効率的に実装することで、複数プラットフォームのアプリケーション品質を一貫して確保できます。
Kotlin Multiplatformでのデバッグとトラブルシューティング
Kotlin Multiplatformプロジェクトで開発を進める際には、プラットフォーム固有の問題や共通コードのバグに遭遇することがあります。効果的にデバッグし、問題を解決するための手法とトラブルシューティングのベストプラクティスを紹介します。
デバッグの基本手法
1. Android Studioでのデバッグ
Kotlin MultiplatformのAndroid部分は、Android Studioを使用して標準的なデバッグが可能です。
- ブレークポイントの設定:
共通コードやAndroid固有コードにブレークポイントを設置し、ステップ実行で変数や処理の流れを確認できます。 - Logcatでのログ確認:
Log.d("DEBUG", "変数の値: $value")
Logcatを活用して、デバッグ情報やエラーメッセージをリアルタイムで確認します。
2. XcodeでのiOSデバッグ
iOS部分はXcodeでデバッグできます。
- ブレークポイントの活用:
SwiftコードやKotlinネイティブのフレームワーク内にブレークポイントを設定し、デバッグ実行します。 - コンソール出力:
print("Debug message: \(value)")
コンソールでログを確認し、処理の流れやエラーの原因を特定します。
共通コードのデバッグ
共通コードのデバッグは、プラットフォームごとにデバッグツールを切り替えて行います。共通コードのロジックに問題がある場合、以下の手順で原因を特定します。
- ユニットテストの実行
共通コードのロジックをユニットテストで検証します。Gradleタスクでテストを実行:
./gradlew :shared:allTests
- 共有ロジックにブレークポイントを設定
Android StudioやXcodeで共通コードにブレークポイントを設置し、ステップ実行で挙動を確認します。 - ログを追加して動作確認
共通コードにログ出力を追加し、各プラットフォームで動作を比較します。
println("Debug message: $value")
よくあるエラーとトラブルシューティング
1. ビルドエラー
- エラーメッセージ:
Could not resolve dependency
解決策:
Gradleキャッシュをクリアし、再ビルドします。
./gradlew clean
./gradlew build
2. 依存関係の競合
- エラーメッセージ:
Multiple dependencies with different versions found
解決策:build.gradle.kts
で依存関係のバージョンを統一します。
3. iOSビルドエラー
- エラーメッセージ:
Undefined symbols for architecture x86_64
解決策:
iOSシミュレータ用と実機用のビルド設定が正しいか確認し、適切なアーキテクチャを選択します。
4. ランタイムエラー
- Androidの場合:
java.lang.NullPointerException
解決策:
変数の初期化やnullチェックが正しく行われているか確認します。
- iOSの場合:
Fatal error: Unexpectedly found nil
解決策:
Swiftコードでオプショナル変数の安全なアンラップを確認します。
デバッグのベストプラクティス
- 小さな変更を段階的に行う
一度に大きな変更をせず、少しずつ変更してテストすることでバグを特定しやすくします。 - エラーログを詳細に記録する
エラー発生時の状況を記録し、問題の再現性を高めます。 - 共通コードにテストケースを追加
バグが修正されたら、再発防止のためにテストケースを追加します。 - CI/CDで自動テストを実行
GitHub ActionsやCircleCIを使って、ビルドとテストを自動化し、エラーを早期に検出します。
Kotlin Multiplatformで効果的にデバッグとトラブルシューティングを行うことで、複数のプラットフォームに対応する高品質なアプリケーション開発を実現できます。
実践例:Kotlin Multiplatformのユースケース
Kotlin Multiplatform(KMP)は、複数のプラットフォームで共通コードを活用できるため、さまざまなアプリケーションで採用されています。ここでは、Kotlin Multiplatformを活用した具体的なユースケースを紹介し、効率的なコード共有の実例を示します。
1. **業務用ツールアプリの開発**
概要:
企業内で使用する業務用ツール(例:タスク管理、勤怠管理、在庫管理)をKotlin Multiplatformで開発します。AndroidとiOS向けに同じビジネスロジックを共有し、UIのみプラットフォームごとにカスタマイズします。
構成例:
- 共通コード:
- タスクの作成、更新、削除機能
- データベースアクセス(SQLDelightを利用)
- ネットワーク通信(Ktorを利用)
- Android固有コード:
- Jetpack Composeを使ったUI
- Androidの通知機能
- iOS固有コード:
- SwiftUIを使ったUI
- iOSのローカル通知
利点:
- ビジネスロジックを共有することで、修正や機能追加が一度で済む。
- 各プラットフォームでのUI/UXの最適化が可能。
2. **ニュースアプリの開発**
概要:
ニュースフィードを配信するアプリをKotlin Multiplatformで開発し、Android、iOS、Webに対応します。
構成例:
- 共通コード:
- 記事の取得・検索機能(Ktorを利用したAPI通信)
- 記事データのパース処理(Kotlinx.serializationを使用)
- ビジネスロジック(お気に入り機能、フィルタリング機能)
- Android固有コード:
- RecyclerViewやJetpack Composeでリスト表示
- マテリアルデザインのUI要素
- iOS固有コード:
- SwiftUIやUIKitでリスト表示
- iOSデザインガイドラインに準拠したUI
- Web固有コード:
- Kotlin/JSを利用してReactと連携
利点:
- 複数のプラットフォームで同じデータ取得とパース処理を共有。
- プラットフォームごとにUIの最適化が可能。
3. **クロスプラットフォームゲームの開発**
概要:
シンプルなパズルゲームやクイズゲームをKotlin Multiplatformで開発します。ロジックを共有し、Android、iOS、デスクトップに展開します。
構成例:
- 共通コード:
- ゲームのルールやスコア管理
- データ保存機能(Kotlinx.serializationやファイルI/O)
- Android固有コード:
- Android用の入力処理とサウンドエフェクト
- iOS固有コード:
- iOS用の入力処理とサウンドエフェクト
- デスクトップ固有コード:
- JVM向けのウィンドウ処理とキーボード入力
利点:
- ゲームロジックを共通化することで、一貫した動作を保証。
- 各デバイス向けの最適化が容易。
4. **Web・モバイル統合サービスの開発**
概要:
Webとモバイルアプリで同じサービスを提供するシステム(例:Eコマース、SNS)をKotlin Multiplatformで構築します。
構成例:
- 共通コード:
- 商品データの取得、ユーザー認証、データ同期処理
- 共通のビジネスロジックとモデル
- Web固有コード:
- Kotlin/JS + Reactを使用したWebフロントエンド
- Android・iOS固有コード:
- プラットフォームごとのUIとナビゲーション処理
利点:
- バックエンドとの通信やビジネスロジックを共通化し、Webとモバイルで統一された機能を提供。
Kotlin Multiplatformを選ぶ理由
- 開発効率の向上:
共通コードを再利用することで、開発時間とコストを削減。 - 保守性の向上:
バグ修正や機能追加が一箇所で済み、全プラットフォームに反映。 - 柔軟なカスタマイズ:
UIやデバイス固有の機能をそれぞれのプラットフォームに最適化。 - 高品質なコードベース:
一貫したビジネスロジックにより、品質を保ちやすい。
Kotlin Multiplatformのユースケースを活用することで、効率的にクロスプラットフォーム対応アプリを開発し、ビジネスニーズに応じた柔軟なソリューションを提供できます。
まとめ
本記事では、Kotlin Multiplatformを用いたコード共有を最大化するためのベストプラクティスについて解説しました。Kotlin Multiplatformの基本概念から、共通コードとプラットフォーム固有コードの分離、依存関係管理、テストの実装、デバッグ方法、そして具体的なユースケースまでを網羅しました。
Kotlin Multiplatformを活用することで、Android、iOS、Web、デスクトップなど複数のプラットフォームで効率よくコードを共有し、開発コストやメンテナンスの手間を削減できます。ビジネスロジックの一貫性を保ちつつ、各プラットフォーム固有のUIや機能も柔軟にカスタマイズできる点が大きな利点です。
Kotlin Multiplatformのベストプラクティスを取り入れ、マルチプラットフォーム開発を効率的かつ高品質に進めましょう。
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