Android版Microsoft Edgeのグラフィック描画問題と対策

スマートフォンでMicrosoft Edgeを利用していると、一部のサイトでグラフが重複表示されたり、細かいラインが二重に描画されたりして混乱するケースがあります。本記事では、Android端末で起こりやすいこのグラフィック描画問題の原因や対処法をわかりやすく解説します。

Microsoft Edgeで発生するグラフィック描画問題の概要

Microsoft EdgeはChromiumベースのブラウザであり、Chromeと同じエンジンを採用しています。しかし、同じエンジンを使用していても、なぜかAndroid版Edgeだけでチャートやグラフが重複表示される、あるいはちらつくといった問題が報告されています。特にPixelシリーズを中心としたAndroid 14搭載端末で頻出しており、ChromeやFirefoxでは発生しないため原因が分かりにくいのが現状です。

こうした描画問題は、ハードウェアアクセラレーションやGPU関係の設定に起因することが少なくありません。Edgeの設定やフラグを調整することで暫定的に解決できるケースがある一方で、ベータ版でも同様の不具合が見られ、根本原因は完全には解明されていません。

具体的な症状

  • グラフやチャートが二重に描画される
  • スクロール時に表や画像が部分的に重なったまま残像のように表示される
  • ページの更新をしても表示が乱れたまま修正されない
  • ピンチ操作(拡大・縮小)によって、画面が急に再描画される

影響を受けるサイトの例

  • 統計サイト(Statista など)のチャート
  • Composerなどで制作したインフォグラフィックやダッシュボード
  • Wikipediaの一部のグラフや図表
  • その他、CanvasやSVGを多用しているサイト

Edgeで起こる描画問題の特徴を整理

以下の表に、Android版Microsoft Edgeで報告されている主な描画不具合をまとめました。問題の傾向を把握することで、どのような設定変更が有効かを見極める助けになります。

不具合の種類具体的な症状発生条件
重複表示グラフやチャートが二重になって表示され、重なった部分が濃くなるCanvasやSVGを使用した動的コンテンツを表示したとき
ちらつきスクロール操作やタップ操作のたびに、チャートの一部が一瞬だけ消える・ずれるページ内に複数のグラフィカル要素があるとき
残像スクロール後にチャートの一部が画面に張り付いたように残るハードウェアアクセラレーションが有効なとき
再描画の遅延拡大・縮小やページ再読み込み時に、描画が追いつかず白い空白が数秒残る端末のGPUが高負荷状態のとき

原因と考えられる要素

グラフィック描画の問題は、端末のGPUとアプリ(Edge)のやり取りで生じる場合が大半です。Edgeだけで起きる不具合は、Chromiumエンジンの実装差やデフォルトのGPU設定、VulkanなどのAPIの扱い方が影響していると考えられています。

GPU rasterizationによるレンダリング

GPU rasterization(ラスター化)は、描画パフォーマンスを向上させるためにGPUを積極的に利用する機能です。Chrome系列のブラウザには標準で備わっており、複雑なページでもスムーズに描画できるメリットがあります。しかし、一部の端末や特定のバージョンでは、GPU rasterizationを有効にすると表示が乱れることが報告されています。
Edgeにはフラグとして「GPU rasterization」を制御する項目があり、これを無効化することで重複表示などの問題が解消される事例があります。

Vulkanを利用したレンダリング

Vulkanは次世代のグラフィックスAPIで、従来のOpenGL ESに比べて描画効率が高く、高度なグラフィック処理を可能にします。Androidの一部端末ではVulkanが標準的にサポートされており、Chromeでも設定や端末環境に応じてVulkanが用いられることがあります。
EdgeではデフォルトでVulkanが有効化されていない端末があるようで、ユーザーによっては「edge://flags/#enable-vulkan」を「Enabled」に変更することで、描画問題が解決したとの報告があります。Vulkanの実装が端末によって異なるため、Pixelシリーズを含む一部の端末でEdgeの描画に影響を与えている可能性が考えられます。

Android OSバージョンとの相性

多くの不具合報告はAndroid 14にアップデートしたPixelシリーズを中心に寄せられています。Android 14は描画処理周りの最適化やセキュリティ強化が行われており、従来のグラフィックスドライバやAPIとの相性問題が発生しやすいタイミングと言えます。
ChromeやFirefoxは更新頻度が高く、かつVulkanサポートなど最新機能を逐次取り入れるため問題が起きにくい一方、Edgeは一部の設定がデフォルトオフになっている可能性があります。

対処法:フラグ設定による暫定的な回避策

問題を根本的に解決するには、Microsoft側の修正が必要と見られます。しかし、現時点でユーザーができる暫定対処としては、フラグ設定を変更する方法がもっとも効果的です。以下の二つのフラグを試してみて、どちらかが有効であれば、その設定を継続して使うことを推奨します。

1. GPU rasterizationを無効化する

  1. Edgeのアドレスバーにedge://flags/#enable-gpu-rasterizationと入力してアクセスする
  2. 「GPU rasterization」の設定を「Disabled」に変更する
  3. ブラウザを再起動する

GPU rasterizationを無効化すると、高度なGPU処理を抑えるため多少パフォーマンスに影響が出る可能性がありますが、複数のユーザーからは「グラフの重複表示が直った」「ページのチラつきがなくなった」といった報告があります。

2. Vulkanを有効化する

  1. Edgeのアドレスバーにedge://flags/#enable-vulkanと入力してアクセスする
  2. 「Vulkan」の設定を「Enabled」に変更する
  3. ブラウザを再起動する

Vulkanを有効化すると、端末の持つ最新のグラフィックAPIを活用できるようになります。Chromeではデフォルトで有効になっている端末も多いため、「Chromeでは問題ないのにEdgeだけで描画がおかしい」という場合は、この設定が有効であるかどうかを確認してみましょう。

解決策を実行する際の注意点

フラグ設定は、通常のブラウザ設定とは異なる実験的な機能を扱うため、トラブルシューティングやベータテスト時に使われます。そのため、設定変更によってほかの機能が予期せず動作しなくなるリスクもないわけではありません。特に業務でMicrosoft Edgeを使っている場合は、設定変更後の挙動をよく確認し、必要に応じて元に戻すことをおすすめします。

設定の戻し方

  • 変更したフラグを再度開き、「Default」または「Disabled / Enabled」の逆設定に切り替えてブラウザを再起動します。
  • フラグ一覧をまとめてリセットしたい場合は、edge://flagsのページ下部にある「Reset all to default」ですべて初期状態に戻せます。

キャッシュやストレージ削除が効果を発揮しない理由

キャッシュやストレージ削除はブラウザの基本的なトラブルシューティング手法ですが、今回のようなGPUレンダリング絡みの不具合にはあまり効果を示さない傾向があります。これは、描画処理そのものを担当するGPUドライバやブラウザの内部設定が問題を引き起こしているためであり、ユーザーデータの消去では根本的な解決に至らないからです。

フィードバックを送信して問題を報告する

複数のユーザーが同じ不具合を報告していることから、開発チームが修正を検討している可能性は高いと考えられます。公式チャンネルを通じて多くのユーザーから同様の報告が寄せられるほど、対応の優先度が上がる傾向にあります。以下の方法でフィードバックを送ることができます。

1. Microsoft Edgeから直接フィードバックを送信

Edgeのアプリを開き、右上の「…」メニューから「フィードバックを送信」を選び、不具合の詳細をできるだけ具体的に報告します。画面キャプチャなどを添付できる場合は、問題が発生している画面のスクリーンショットを送付すると開発チームに伝わりやすくなります。

2. GitHubのwebcompatリポジトリ

ウェブ全般の互換性問題を報告・共有するためのリポジトリがGitHub上にあり、MicrosoftやGoogleといったブラウザベンダーの開発者も確認しています。

例:https://github.com/webcompat/web-bugs/issues/134128

具体的なサイトURLや発生状況を記載することで、原因究明や修正対応の参考になる場合があります。

今後の展望と注意点

EdgeはChromiumをベースにしているため、将来的に他のChromium系ブラウザと同程度のグラフィック設定が標準化されることが期待されます。実際に、開発版(Canary版)やベータ版では機能が試験的に実装されているケースがあるため、日々のアップデートによって問題が改善される可能性があります。
ただし、端末メーカーやOSのバージョンによる違い、またドライバ周りの要素によって、同じ設定でも症状に差が出ることがある点には注意が必要です。例えば、メーカー独自のGPU最適化機能が干渉している場合、特定の端末だけが不具合を抱えることもあります。

拡張機能との相性

Edgeの拡張機能がグラフィックライブラリの動作に影響するケースは少ないと考えられますが、いくつかの拡張機能ではCanvasやSVG、WebGLをフックして機能を提供しているものが存在します。もし特定の拡張機能を導入している場合には、一度オフにしてから再度表示を試してみるのもよいでしょう。

暫定対処を継続するリスク

GPU rasterizationを無効化したり、Vulkanを有効化したりする変更は、端末やブラウザの動作に微妙な影響を与えることがあります。たとえば、Vulkanを有効化して描画問題が解決されたとしても、別の要素でパフォーマンスが低下する可能性も否定できません。
そのため、アップデートで問題が解消されたら、設定を元に戻してEdgeのデフォルト状態で再テストしてみることをおすすめします。

まとめ:安定したブラウジング環境を目指すには

Android版Microsoft Edgeで報告されているグラフィック描画問題は、GPUやVulkanの設定が深く関与している可能性が高いです。今すぐできる対処法としては、GPU rasterizationの無効化またはVulkanの有効化を試してみることが効果的です。
また、フィードバックを積極的に送ることで、開発チームがより早く問題を認知し、修正の優先度を上げる手助けになります。今後のアップデートで正式に修正が行われれば、他のChromiumブラウザ同様に高い安定性を保てるようになるでしょう。問題を抱えている方は、フラグ設定による暫定的な回避策を試しながら、アップデート情報を注視してみてください。

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