PHPでクラウド対応アーキテクチャを設計してスケーラビリティを確保する方法

PHPを活用してクラウド対応アーキテクチャを設計する際、スケーラビリティの確保は非常に重要です。クラウド環境では、リソースの増減を動的に行えるため、急激なアクセス増加にも柔軟に対応できますが、そのためには適切な設計が必要です。この記事では、PHPを使ってクラウド上で拡張性を持たせるための基本原則から、ロードバランシング、データベース設計、キャッシュの活用、サーバレスアーキテクチャなどの具体的な技術まで詳しく解説します。クラウド環境でのセキュリティ対策や効率的なCI/CDパイプラインの構築方法、ECサイトの事例を通して、実践的なスケーラビリティ確保の方法を学びましょう。

目次
  1. クラウド対応アーキテクチャの基本概念
  2. PHPのスケーラブルな設計の基本構成
  3. ロードバランシングの設定と導入
    1. ラウンドロビン方式とIPハッシュ方式
    2. ロードバランサー設定のポイント
  4. クラウドストレージの選択と実装方法
    1. クラウドストレージの選択基準
    2. PHPからのクラウドストレージ利用
  5. データベースのスケーラビリティ設計
    1. 垂直スケーリングと水平スケーリング
    2. データベースシャーディングとレプリケーション
    3. PHPでのデータベーススケーラビリティ対応
  6. キャッシュ技術の活用と効果
    1. 主なキャッシュ技術
    2. PHPでのキャッシュ導入例
  7. クラウド上でのセキュリティ対策
    1. アクセス制御と認証・認可
    2. ネットワークセキュリティ
    3. データの保護
  8. サーバレスアーキテクチャとPHP
    1. サーバレス環境の選択肢
    2. サーバレスアーキテクチャのメリットと課題
    3. PHPでのサーバレス実装例
  9. CI/CDパイプラインの構築による運用効率化
    1. CI/CDパイプラインの基本構成
    2. 主要なCI/CDツールの紹介
    3. CI/CDパイプラインの構築例(GitHub Actions)
  10. モニタリングとログ管理
    1. 主要なモニタリングツール
    2. ログ管理の実践方法
    3. モニタリングとログ管理の設定例
  11. 応用例:ECサイトのスケーラビリティ確保
    1. 1. ロードバランシングによるリクエスト分散
    2. 2. キャッシュの活用
    3. 3. データベースのスケーラビリティ設計
    4. 4. オートスケーリングとサーバレス機能
    5. 5. セキュリティとモニタリングの強化
  12. まとめ

クラウド対応アーキテクチャの基本概念


クラウド対応アーキテクチャとは、リソースの自動拡張や負荷分散に対応できる柔軟な設計を指します。これにより、アプリケーションは利用者数やトラフィックの増減に応じて動的にリソースを調整し、安定したサービスを提供することが可能です。クラウド環境に最適化されたアーキテクチャ設計では、PHPコードの実行環境やデータベース、ストレージの選択を通じて、パフォーマンスとコスト効率を両立する必要があります。

PHPのスケーラブルな設計の基本構成


PHPでスケーラブルなシステムを設計するためには、コードとインフラの両面で柔軟性と拡張性を確保することが重要です。まず、アプリケーションをマイクロサービスアーキテクチャに分割することで、各サービスが独立してスケールできるようにします。また、依存関係を最小限に抑えることで、サービスごとに個別の拡張が可能です。さらに、非同期処理やバックグラウンドジョブの活用により、リクエストごとの処理負荷を軽減し、応答時間を短縮することが可能です。

ロードバランシングの設定と導入


クラウド環境での負荷分散には、ロードバランサーを利用して、複数のサーバーにトラフィックを均等に分配する方法が効果的です。PHPアプリケーションにおけるロードバランシングでは、ユーザーリクエストを複数のアプリケーションサーバーに分散し、各サーバーが過負荷にならないように調整します。これにより、サーバーダウンや応答遅延を防ぎ、ユーザーに安定したサービスを提供することができます。

ラウンドロビン方式とIPハッシュ方式


ラウンドロビン方式は、リクエストを順番にサーバーへ振り分ける単純な方法で、負荷の均等化が容易です。一方、IPハッシュ方式では、ユーザーのIPアドレスに基づいて特定のサーバーへリクエストを振り分けるため、同一ユーザーが同じサーバーにアクセスしやすくなり、セッション管理が簡単になります。

ロードバランサー設定のポイント


ロードバランサーの設定では、以下の点に注意が必要です:

  • セッション管理:ロードバランサーを設定する際にセッション情報を維持する方法を考慮します。セッションがある場合、Sticky Sessionsを有効にするか、外部セッションストア(例:Redis)を使用します。
  • ヘルスチェック:各サーバーの状態をリアルタイムで監視し、異常があれば自動的にリクエストから外す設定が推奨されます。

これにより、PHPアプリケーションは負荷分散を通じて、スケーラビリティと高可用性を実現できるようになります。

クラウドストレージの選択と実装方法


クラウドストレージは、アプリケーションのデータ保存を分散し、アクセス性能やスケーラビリティを向上させるための重要な要素です。PHPアプリケーションでクラウドストレージを使用する際には、Amazon S3やGoogle Cloud Storage、Azure Blob Storageなど、主要なクラウドプロバイダーのサービスが一般的です。これにより、ファイルやデータをクラウド上で安全に管理しつつ、必要に応じて自動的に拡張することが可能です。

クラウドストレージの選択基準


クラウドストレージを選択する際には、以下のポイントを考慮します:

  • データの可用性と耐久性:クラウドプロバイダーによっては、99.999999999%の耐久性を保証するストレージもあります。高可用性が求められるデータには、耐障害性の高いストレージを選ぶことが推奨されます。
  • コスト効率:アクセス頻度に応じて、データの保存コストが変わるため、頻繁に使用するデータはスタンダードストレージに、長期間使用しないデータは低価格のインフリーストレージに保存するのが効果的です。

PHPからのクラウドストレージ利用


PHPでクラウドストレージにアクセスするには、各クラウドプロバイダーが提供するSDKを利用するのが一般的です。例えば、Amazon S3の場合、AWS SDK for PHPを利用し、データの保存や取得が簡単に行えます。以下に簡単なS3ファイルアップロードのコード例を示します:

require 'vendor/autoload.php';

use Aws\S3\S3Client;

$s3 = new S3Client([
    'region'  => 'us-west-2',
    'version' => 'latest',
    'credentials' => [
        'key'    => 'your-access-key',
        'secret' => 'your-secret-key',
    ],
]);

$result = $s3->putObject([
    'Bucket' => 'your-bucket-name',
    'Key'    => 'file.txt',
    'Body'   => fopen('/path/to/file.txt', 'r'),
    'ACL'    => 'public-read',
]);

これにより、PHPアプリケーションはクラウドストレージを簡単に操作できるようになり、大量のデータを扱う際にもスケーラブルに対応できる環境が整います。

データベースのスケーラビリティ設計


データベースのスケーラビリティは、クラウド対応アーキテクチャにおいて、データ量やトラフィックが増加しても安定したパフォーマンスを維持するための重要な要素です。PHPアプリケーションでは、水平・垂直スケーリングやデータベースシャーディングを活用することで、スケーラブルなデータベース構成が可能です。

垂直スケーリングと水平スケーリング


データベースのスケーリング方法には、垂直スケーリング(スケールアップ)と水平スケーリング(スケールアウト)の2種類があります:

  • 垂直スケーリング:既存のデータベースサーバーのCPUやメモリを増強し、単一のサーバーで処理能力を向上させる方法です。ただし、ハードウェアの性能上限があるため、大規模システムには限界があります。
  • 水平スケーリング:データベースを複数のサーバーに分散し、データ量やトラフィックを分割して処理する方法です。クラウド環境では、水平スケーリングをサポートするRDS(Amazon Auroraなど)やNoSQLデータベース(DynamoDB、MongoDBなど)が効果的です。

データベースシャーディングとレプリケーション

  • シャーディング:データを複数のサーバーに分割して保存する方法で、特に大量データや高トラフィックが予想されるアプリケーションに適しています。ユーザーIDなどの特定の属性に基づいてデータを分けることで、各サーバーの負荷を分散させます。
  • レプリケーション:データベースを複製し、複数のサーバーで同じデータを保持することで、データの可用性と冗長性を高めます。マスタースレーブ構成を取ることで、書き込み処理はマスターに、読み取り処理はスレーブに分けることが可能です。

PHPでのデータベーススケーラビリティ対応


PHPでデータベースのスケーラビリティを向上させるには、PDOやmysqli拡張を使ってデータベース接続を動的に管理します。また、分散データベースを使用する場合、クエリや接続先をプログラム内で動的に指定することで、各データベースへの負荷を分散させることができます。これにより、データベースの負荷を最小限に抑え、アプリケーションのパフォーマンスを最適化できます。

キャッシュ技術の活用と効果


キャッシュ技術は、サーバーのリクエスト負荷を軽減し、アプリケーションの応答速度を大幅に向上させるために不可欠な要素です。PHPアプリケーションでは、頻繁にアクセスされるデータやコンテンツをキャッシュすることで、データベースのアクセス回数を減らし、パフォーマンスを最適化することが可能です。

主なキャッシュ技術

  • オブジェクトキャッシュ:MemcachedやRedisなどのインメモリデータストアを利用して、頻繁に参照されるデータ(例:ユーザーセッション、クエリ結果など)をキャッシュします。これにより、データベースへのアクセス頻度が減少し、リクエストの処理速度が向上します。
  • ページキャッシュ:生成済みのHTMLをキャッシュすることで、次回以降のアクセス時には再生成を行わずに済むようにします。特に動的コンテンツのないページでは、静的ファイルとしてキャッシュすることで大きな効果が期待できます。
  • OPcache:PHPで利用可能なキャッシュ技術で、PHPコードのバイトコードをキャッシュし、次回のリクエスト時に再コンパイルせずに済むため、処理が高速化されます。

PHPでのキャッシュ導入例


MemcachedやRedisを用いた簡単なキャッシュ導入例を以下に示します。以下の例では、データベースのクエリ結果をキャッシュし、次回アクセス時にキャッシュから直接取得する構成です。

$redis = new Redis();
$redis->connect('127.0.0.1', 6379);

// キャッシュキーの定義
$cacheKey = 'user_data_' . $userId;
$data = $redis->get($cacheKey);

if (!$data) {
    // キャッシュにない場合はデータベースから取得
    $data = fetchDataFromDatabase($userId);
    // キャッシュに保存
    $redis->set($cacheKey, $data);
    $redis->expire($cacheKey, 3600); // キャッシュ有効期限1時間
}

// キャッシュまたはデータベースから取得したデータを使用
echo $data;

このようにキャッシュ技術を活用することで、リクエスト負荷を分散し、ユーザー体験を向上させるとともに、サーバー資源を効果的に利用できるようになります。

クラウド上でのセキュリティ対策


クラウド環境におけるセキュリティ対策は、クラウド特有のリスクに対応するために非常に重要です。PHPアプリケーションをクラウドで運用する際、ネットワークやデータの保護、アクセス制御、監視体制の構築など、多岐にわたるセキュリティ施策が求められます。

アクセス制御と認証・認可

  • 多要素認証(MFA):ユーザー認証時に追加のセキュリティレイヤーを設けることで、アカウントへの不正アクセスを防止します。
  • アクセスキーとシークレット管理:クラウドサービスやデータベースにアクセスする際のキーやシークレットは、AWSのSecrets ManagerやGoogle Cloud Secret Managerなどを使用し、安全に管理します。
  • ロールベースアクセス制御(RBAC):クラウド環境でのアクセスは、必要最低限の権限のみを付与する「最小権限の原則」に基づき設定し、各ユーザーの権限を適切に管理します。

ネットワークセキュリティ


クラウド上のサーバーは、外部アクセスから守るためにネットワークセキュリティの設定を強化します。

  • ファイアウォールとセキュリティグループ:ファイアウォールやセキュリティグループの設定により、特定のIPアドレスやポートからのみアクセスを許可するよう制御します。
  • VPNやVPCの活用:インターネット経由でのアクセスが必要な場合は、仮想プライベートネットワーク(VPN)や仮想プライベートクラウド(VPC)を利用し、内部ネットワークでの通信を保護します。

データの保護

  • 暗号化:データの転送や保存時に暗号化を施すことで、不正アクセスに対する防御を強化します。HTTPSを使用して通信を暗号化し、S3やGoogle Cloud Storageなどのクラウドストレージもデータ暗号化を有効にします。
  • バックアップとリカバリ計画:定期的にデータバックアップを行い、データの損失に備えます。自動バックアップ機能やスナップショット機能を利用し、必要に応じて迅速なデータリストアが行える体制を整えます。

これらの対策を組み合わせることで、PHPアプリケーションがクラウド環境でも安全に稼働できるセキュリティ体制を構築できます。

サーバレスアーキテクチャとPHP


サーバレスアーキテクチャは、インフラ管理をクラウドプロバイダーに任せ、コードの実行にのみ専念できる利点を持つアーキテクチャです。PHPを利用してサーバレス環境でアプリケーションを展開することで、柔軟なスケーリングとコスト効率の良い運用が可能になります。サーバーレス環境では、リクエストに応じて自動的にリソースが調整されるため、アクセス量が変動するアプリケーションにも最適です。

サーバレス環境の選択肢


PHPで利用できるサーバレス環境の選択肢として、以下が挙げられます:

  • AWS Lambda:AWSのサーバレスコンピューティングサービスで、Node.jsやPythonと同様にPHPもカスタムランタイムを利用することで動作可能です。
  • Google Cloud Functions:公式サポートはないものの、Google Cloud Runを使用すればコンテナ化したPHPアプリケーションをサーバレスで運用できます。
  • Azure Functions:Azure上でPHPを実行するには、Dockerコンテナを使用してサーバレス環境にデプロイすることが可能です。

サーバレスアーキテクチャのメリットと課題

  • メリット:サーバレスアーキテクチャでは、リクエストの増加に応じてリソースが自動的にスケールするため、負荷が高まっても性能が維持され、アクセスの少ない時間帯にはコストを抑えられます。また、インフラの運用管理が不要になるため、開発者はビジネスロジックの実装に専念できます。
  • 課題:サーバレスアーキテクチャでは、アプリケーションが長時間実行される場合や一定以上のリクエストが発生する場合には、実行コストが増加する可能性があります。また、短時間での頻繁な起動(コールドスタート)が必要な場合、応答遅延が発生しやすくなるため、特にリアルタイム性が求められるサービスでは注意が必要です。

PHPでのサーバレス実装例


AWS LambdaでPHPを利用する簡単な実装例を以下に示します。LambdaでPHPアプリケーションを実行するには、Lambda LayersにPHPのランタイムを追加し、関数ハンドラを指定して利用します。

<?php
// AWS Lambda handler
function lambdaHandler($event, $context) {
    // リクエストパラメータ取得
    $name = $event['name'] ?? 'Guest';
    return [
        'statusCode' => 200,
        'body' => "Hello, $name! Welcome to the serverless PHP application."
    ];
}

このように、PHPをサーバレス環境で運用することで、スケーラビリティと効率的なリソース利用が可能になります。

CI/CDパイプラインの構築による運用効率化


CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)パイプラインを導入することで、PHPアプリケーションの開発からデプロイまでのプロセスを効率化し、品質向上と迅速なリリースが可能になります。CI/CDは、コードの変更が発生するたびに自動でテストやデプロイを行うため、人為的なミスを減らし、安定した運用を実現します。

CI/CDパイプラインの基本構成


CI/CDパイプラインでは、以下のプロセスを自動化します:

  • コードのビルド:新しいコードがリポジトリにプッシュされると、自動でビルドプロセスが開始し、エラーの有無をチェックします。
  • 自動テスト:ビルドが完了すると、ユニットテストや統合テストなどのテストが自動的に実行され、コードの品質が検証されます。
  • デプロイ:テストに合格したコードは、ステージング環境または本番環境に自動でデプロイされ、迅速なリリースが行われます。

主要なCI/CDツールの紹介


PHPアプリケーションで使用される代表的なCI/CDツールには、次のものがあります:

  • GitHub Actions:GitHubリポジトリに統合され、コードのビルドからテスト、デプロイまでをカスタムワークフローで設定できます。
  • Jenkins:オープンソースのCI/CDツールで、柔軟なカスタマイズが可能です。プラグインの豊富さが特徴で、PHPアプリケーションに特化したプラグインも多数提供されています。
  • GitLab CI/CD:GitLabに内蔵されているCI/CD機能で、リポジトリに統合され、簡単に自動化が行えます。

CI/CDパイプラインの構築例(GitHub Actions)


以下は、GitHub Actionsを使ってPHPアプリケーションのビルド、テスト、デプロイを自動化する簡単な例です:

name: CI/CD Pipeline

on:
  push:
    branches:
      - main

jobs:
  build:
    runs-on: ubuntu-latest

    steps:
    - name: チェックアウトコード
      uses: actions/checkout@v2

    - name: PHPセットアップ
      uses: shivammathur/setup-php@v2
      with:
        php-version: '8.0'

    - name: 依存関係のインストール
      run: composer install

    - name: テストの実行
      run: php artisan test

  deploy:
    runs-on: ubuntu-latest
    needs: build

    steps:
    - name: デプロイ
      run: |
        # デプロイコマンドを記述

このようにCI/CDパイプラインを導入することで、開発・デプロイフローが標準化され、リリースの速度と品質が大幅に向上します。

モニタリングとログ管理


クラウド環境でPHPアプリケーションを安定して稼働させるためには、継続的なモニタリングとログ管理が不可欠です。モニタリングにより、アプリケーションのパフォーマンスやエラーの発生状況をリアルタイムで把握し、障害の早期発見と解決を支援します。また、ログ管理はトラブルシューティングやユーザー行動の分析に役立ちます。

主要なモニタリングツール

  • Amazon CloudWatch:AWSのサービスで、メトリクス監視やログ収集が可能です。サーバーのリソース利用率やエラーログを一元管理でき、警告アラートも設定できます。
  • New Relic:PHPアプリケーションのパフォーマンス監視に特化したツールで、リクエストごとのレスポンスタイムやエラー発生率を可視化します。詳細なトレース機能により、ボトルネックの特定が容易です。
  • Datadog:サーバー、アプリケーション、データベースを含む総合的なモニタリングができ、複数のクラウドプラットフォームにも対応しています。

ログ管理の実践方法


PHPアプリケーションでは、ログ管理を適切に行うことで、障害発生時の迅速な対応が可能になります。以下に代表的なログ管理方法を示します:

  • ログレベルの設定:デバッグ、情報、警告、エラーなど、ログに適切なレベルを設定し、必要な情報のみを記録します。Laravelなどのフレームワークでは、ログレベルを設定することで、重要なエラーのみを通知するよう調整できます。
  • ログの外部保存:クラウド環境では、ファイルシステムでのログ保存に加え、CloudWatch LogsやElastic Stackなどの外部サービスにログを転送して、検索や分析を行うのが一般的です。
  • エラートラッキング:エラー発生時に通知を行うことで、リアルタイムに障害対応が可能です。Sentryなどのエラートラッキングツールを使用することで、エラーの発生状況や頻度を管理できます。

モニタリングとログ管理の設定例


例えば、AWS CloudWatchを用いてPHPアプリケーションのエラーログを監視する設定例は以下の通りです:

// CloudWatch Logs SDKを使用
use Aws\CloudWatchLogs\CloudWatchLogsClient;

$client = new CloudWatchLogsClient([
    'region' => 'us-west-2',
    'version' => 'latest'
]);

// ロググループとストリームの指定
$logGroup = 'php-app-log-group';
$logStream = 'error-log-stream';

// ログの送信
$client->putLogEvents([
    'logGroupName' => $logGroup,
    'logStreamName' => $logStream,
    'logEvents' => [
        [
            'timestamp' => round(microtime(true) * 1000),
            'message' => 'エラーメッセージの内容'
        ],
    ],
]);

適切なモニタリングとログ管理により、PHPアプリケーションの安定性とパフォーマンスを維持し、迅速な障害対応が可能になります。

応用例:ECサイトのスケーラビリティ確保


クラウド対応アーキテクチャをPHPで構築する際の実践例として、ECサイトのスケーラビリティ確保について解説します。ECサイトは、アクセス集中時やキャンペーンなどによるトラフィック急増に対応するため、スケーラブルな設計が不可欠です。この例では、ロードバランシング、キャッシュ、データベース設計などの技術を組み合わせたスケーラブルな構成を実装します。

1. ロードバランシングによるリクエスト分散


ECサイトは、ユーザーのアクセスが一部のページや商品に集中するため、負荷分散が重要です。AWSのElastic Load BalancerやGoogle Cloud Load Balancingを使用し、複数のPHPアプリケーションサーバーにリクエストを分散させることで、サーバーの負荷を平準化し、安定したアクセスを実現します。

2. キャッシュの活用


ECサイトでは、商品情報やカテゴリページ、ユーザーのカート情報など、頻繁にアクセスされるデータをキャッシュすることで、データベースへの負荷を軽減できます。RedisやMemcachedを使用してキャッシュサーバーを構築し、PHPアプリケーションからこれらのデータを呼び出すことで、応答速度を向上させます。

キャッシュの具体例


例えば、ユーザーのカート情報をキャッシュに保存することで、データベースへの問い合わせを削減し、パフォーマンスを向上させます。

$redis = new Redis();
$redis->connect('127.0.0.1', 6379);

$cartKey = 'user_cart_' . $userId;
$cartData = $redis->get($cartKey);

if (!$cartData) {
    $cartData = fetchCartDataFromDatabase($userId);
    $redis->set($cartKey, $cartData);
    $redis->expire($cartKey, 3600); // 1時間のキャッシュ期限
}

3. データベースのスケーラビリティ設計


ECサイトでは、多数の製品やユーザー情報を管理するため、データベースのスケーラビリティも重要です。データベースの負荷分散には、リードレプリカやシャーディングを活用します。例えば、読み取り専用のクエリはリードレプリカで処理し、書き込みはマスターデータベースで行うことで、スケーラブルなデータベース構成を実現します。

4. オートスケーリングとサーバレス機能


ECサイトは、トラフィックの変動が激しいため、オートスケーリング機能を活用します。AWS Auto ScalingやGoogle Cloud’s Auto Scalingを利用し、アクセス量に応じてサーバー数を自動で増減させることで、コストを最適化しつつ、急激なアクセス増加にも対応できます。また、特定の機能をサーバレス化(例:画像処理やメール送信)することで、リソース効率をさらに向上させます。

5. セキュリティとモニタリングの強化


ユーザーの個人情報や購入履歴を扱うため、セキュリティ対策が必須です。ファイアウォール、データ暗号化、多要素認証などを実装し、ログ管理ツール(例:CloudWatch、New Relic)でアクティビティを監視することで、不正アクセスや異常を早期発見します。

このように、PHPを活用したクラウド対応のECサイトでは、スケーラビリティとセキュリティを強化するための技術が組み合わさり、ユーザーの満足度とサイトの信頼性を向上させることができます。

まとめ


本記事では、PHPを用いたクラウド対応アーキテクチャの設計方法と、スケーラビリティ確保のための実践的な手法について解説しました。クラウド環境での負荷分散、キャッシュ、データベース設計、サーバレス機能、そしてセキュリティ対策により、アクセスの増加にも柔軟に対応できる堅牢なシステム構築が可能です。適切なモニタリングとログ管理を行い、常に安定したサービスを提供することで、ユーザーの信頼を獲得し、長期的な運用の成功を目指しましょう。

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目次
  1. クラウド対応アーキテクチャの基本概念
  2. PHPのスケーラブルな設計の基本構成
  3. ロードバランシングの設定と導入
    1. ラウンドロビン方式とIPハッシュ方式
    2. ロードバランサー設定のポイント
  4. クラウドストレージの選択と実装方法
    1. クラウドストレージの選択基準
    2. PHPからのクラウドストレージ利用
  5. データベースのスケーラビリティ設計
    1. 垂直スケーリングと水平スケーリング
    2. データベースシャーディングとレプリケーション
    3. PHPでのデータベーススケーラビリティ対応
  6. キャッシュ技術の活用と効果
    1. 主なキャッシュ技術
    2. PHPでのキャッシュ導入例
  7. クラウド上でのセキュリティ対策
    1. アクセス制御と認証・認可
    2. ネットワークセキュリティ
    3. データの保護
  8. サーバレスアーキテクチャとPHP
    1. サーバレス環境の選択肢
    2. サーバレスアーキテクチャのメリットと課題
    3. PHPでのサーバレス実装例
  9. CI/CDパイプラインの構築による運用効率化
    1. CI/CDパイプラインの基本構成
    2. 主要なCI/CDツールの紹介
    3. CI/CDパイプラインの構築例(GitHub Actions)
  10. モニタリングとログ管理
    1. 主要なモニタリングツール
    2. ログ管理の実践方法
    3. モニタリングとログ管理の設定例
  11. 応用例:ECサイトのスケーラビリティ確保
    1. 1. ロードバランシングによるリクエスト分散
    2. 2. キャッシュの活用
    3. 3. データベースのスケーラビリティ設計
    4. 4. オートスケーリングとサーバレス機能
    5. 5. セキュリティとモニタリングの強化
  12. まとめ