PHPで実践するテスト駆動開発(TDD)の基本的な流れと手順

PHPでのテスト駆動開発(TDD)は、開発の品質を向上させ、コードの信頼性を高めるための手法として広く活用されています。TDDは「テストファースト」とも呼ばれ、まずテストケースを設計してからコードを実装し、テストを通過させるという独特の開発サイクルを特徴とします。これにより、要件に適合した堅牢なコードの開発が可能となり、後からコードを修正する際も安全に進められます。本記事では、PHPを用いたTDDの基本的な流れと、実践的な手順について解説し、開発の効率と品質を向上させるための手法を紹介します。

目次
  1. テスト駆動開発(TDD)とは
    1. 1. 失敗するテストを作成する
    2. 2. テストを通過するためのコードを書く
    3. 3. コードをリファクタリングする
  2. TDDにおけるテストケースの設計
    1. テストケース設計の基本原則
    2. テストケース作成時の注意点
  3. テストフレームワークの選択とセットアップ
    1. テストフレームワークの選択基準
    2. PHPUnitのセットアップ方法
  4. TDDの第一ステップ:失敗するテストを作成する
    1. 失敗するテストを作成する意義
    2. 失敗するテストの作成方法
    3. 失敗するテストの確認
  5. 必要な最小限のコードを書いてテストを通過させる
    1. 最小限のコードを実装する意義
    2. 最小限のコードの実装例
    3. テストの再実行と成功の確認
  6. コードのリファクタリングとテストの再実行
    1. リファクタリングの目的とポイント
    2. リファクタリングの実例
    3. リファクタリング後のテストの再実行
  7. 実例:簡単な計算機クラスのTDD実装
    1. ステップ1: 加算機能の失敗するテストを作成
    2. ステップ2: 最小限のコードを実装してテストを通過させる
    3. ステップ3: 減算機能の追加とテストの作成
    4. ステップ4: 減算機能の実装
    5. ステップ5: テストの再実行と確認
  8. 失敗するテストの増設と改善の繰り返し
    1. ステップ1: 掛け算機能の失敗するテストを追加
    2. ステップ2: 必要な最小限の実装でテストを通過させる
    3. ステップ3: リファクタリングとテストの再実行
    4. ステップ4: 新しいテストの増設と反復サイクルの継続
  9. TDDを活用した効果的なコード設計のポイント
    1. 1. 単一責任の原則に基づく設計
    2. 2. 拡張性を意識した構造
    3. 3. 明確で意図の伝わるコード
    4. 5. テストが設計に与える影響
  10. TDDで注意すべき落とし穴と対処法
    1. 1. テストが仕様と異なる場合の問題
    2. 2. 過度なテストケースの追加による複雑化
    3. 3. テストに依存した実装のリスク
    4. 4. リファクタリングを怠ることによるコードの劣化
    5. 5. エッジケースや例外処理の見落とし
  11. まとめ

テスト駆動開発(TDD)とは

テスト駆動開発(TDD)は、開発工程の中でまずテストケースを作成し、そのテストを満たすコードを書き、さらにリファクタリングを行うという反復的なプロセスです。TDDには「テストファースト」と呼ばれる概念があり、テストを書くことをコード実装の先に位置づけ、要件を満たすことを明確にしながら進める点が特徴です。以下の3つの主要ステップから成り立っています。

1. 失敗するテストを作成する

まず、実装前に「失敗するテスト」を作成し、開発する機能の要件を明確にします。このステップにより、実装すべき機能がまだ未完成であることを確認します。

2. テストを通過するためのコードを書く

次に、テストが成功するために必要な最小限のコードを実装します。ここでは、要件を満たすことだけに焦点を当て、コードの美しさや効率は後回しにします。

3. コードをリファクタリングする

最後に、コードを改善し、より読みやすく効率的にするためにリファクタリングを行います。この段階でもテストが通過していることを確認し、品質を維持します。

TDDは、上記のステップを何度も繰り返すことで、堅牢で理解しやすいコードを構築する手法です。

TDDにおけるテストケースの設計

TDDを効果的に進めるためには、的確なテストケースの設計が重要です。テストケースは、コードが期待通りに機能するかどうかを検証する手段であり、TDDの成功を左右する重要な要素です。ここでは、テストケースを設計する際の基本的な考え方と注意すべきポイントについて説明します。

テストケース設計の基本原則

テストケースを設計する際のポイントは、シンプルかつ正確であることです。以下の原則を念頭に置きながら設計を進めることで、テストの信頼性が高まります。

1. 単一の要件をテストする

各テストケースは、単一の機能や要件に焦点を絞ることが望ましいです。例えば、メソッドが返す値が正しいかどうか、例外が正しく発生するかといった個別の挙動をそれぞれのテストケースに分けることで、問題発生時に原因が特定しやすくなります。

2. 境界値やエッジケースを考慮する

プログラムが通常の入力だけでなく、境界値やエッジケースでも正しく動作するかを確認するために、テストケースには異常値や極端な値も含める必要があります。これにより、コードの堅牢性が高まり、潜在的なバグを未然に防げます。

テストケース作成時の注意点

TDDのテストケース設計では、具体的な動作を定義するために以下の点に注意しましょう。

1. 読みやすさを考慮する

他の開発者や未来の自分が理解しやすいように、テストケースの命名やコメントには配慮が必要です。テストケースが何をテストしているのかが直感的に分かるようにすることで、メンテナンス性が向上します。

2. テストケースの独立性を保つ

各テストケースは他のテストケースに依存しないように設計しましょう。これは、個別のテストが単独で実行されても正しく動作するようにするためであり、テストの信頼性を高めます。

TDDにおけるテストケースの設計は、信頼性の高いソフトウェア開発の基盤となります。精密なテストケースを作成することで、TDDサイクル全体がスムーズに進行します。

テストフレームワークの選択とセットアップ

PHPでTDDを行うためには、適切なテストフレームワークを選び、環境をセットアップすることが重要です。PHPにはいくつかのテストフレームワークが用意されていますが、その中でも広く利用されているのが「PHPUnit」です。ここでは、テストフレームワークの選択基準と、PHPUnitのセットアップ方法について解説します。

テストフレームワークの選択基準

PHPで利用できるテストフレームワークは複数存在しますが、TDDに適したフレームワークを選ぶ際には以下の点に注目しましょう。

1. シンプルで学習しやすいか

初めてTDDを行う場合は、学習コストが低く、使いやすいフレームワークを選ぶことが重要です。PHPUnitは公式ドキュメントが充実しており、学習リソースも豊富なため、初心者にも適しています。

2. 拡張性とサポートがあるか

長期的なプロジェクトでは、拡張性や豊富な機能があることが望まれます。PHPUnitは広く使われているため、プラグインや追加ツールのサポートも充実しており、大規模なプロジェクトでも柔軟に対応できます。

PHPUnitのセットアップ方法

PHPUnitを使用するには、Composerを用いてインストールするのが一般的です。以下にセットアップの手順を示します。

1. Composerのインストール

まず、Composerがインストールされていない場合は、公式サイトからComposerをインストールしてください。

2. PHPUnitのインストール

Composerを使ってプロジェクトにPHPUnitをインストールします。以下のコマンドを実行します。

composer require --dev phpunit/phpunit

これにより、プロジェクトのvendorディレクトリにPHPUnitがインストールされ、開発環境でのみ使用されるよう設定されます。

3. PHPUnitの設定ファイルの作成

プロジェクトのルートディレクトリにphpunit.xmlという設定ファイルを作成します。これにより、テストの実行設定やテストディレクトリの指定が簡単になります。

<phpunit bootstrap="vendor/autoload.php">
    <testsuites>
        <testsuite name="Application Test Suite">
            <directory>tests</directory>
        </testsuite>
    </testsuites>
</phpunit>

4. PHPUnitの実行確認

テストが正しく実行されるか確認するために、以下のコマンドを使ってテストを実行します。

vendor/bin/phpunit

これでPHPUnitが正しくセットアップされ、PHPでのTDDに必要なテスト環境が整いました。

TDDの第一ステップ:失敗するテストを作成する

TDDの最初のステップは、「失敗するテスト」を作成することです。このステップでは、まず実装する機能の要件を明確にし、それを検証するためのテストを準備します。ここでは、なぜ失敗するテストを最初に作成するのか、その意義と実際の作成方法について説明します。

失敗するテストを作成する意義

TDDにおいて最初にテストを作成し、それが失敗することを確認するのには重要な意味があります。失敗するテストは、まだ実装されていない機能があることを示し、その機能が正しく動作するために必要な要件を定義する役割を果たします。また、実装後にテストが成功することで、期待通りにコードが動いていることを確認する基準として機能します。

失敗するテストの作成方法

失敗するテストを作成する際には、まずどのような機能を実装するかを具体的に想定し、その機能が期待通りに動作しているかをチェックするためのテストを記述します。以下に例を示します。

例えば、簡単な「加算」機能を持つクラスを実装する場合、加算メソッドのテストを次のように記述します。

use PHPUnit\Framework\TestCase;

class CalculatorTest extends TestCase
{
    public function testAdd()
    {
        $calculator = new Calculator();
        $result = $calculator->add(2, 3);
        $this->assertEquals(5, $result);
    }
}

コードの説明

  • Calculatorクラスのaddメソッドが、引数23を受け取り、5を返すことを期待しています。
  • この時点ではCalculatorクラスやaddメソッドが実装されていないため、テストを実行すると失敗します。

失敗するテストの確認

作成したテストを実行し、以下のように失敗メッセージが表示されることを確認します。

1) CalculatorTest::testAdd
Error: Class 'Calculator' not found

このように、テストが失敗することで、まだ実装が完了していないことが明確に示されます。次のステップでは、このテストが通過するための最小限のコードを実装していきます。

必要な最小限のコードを書いてテストを通過させる

TDDの次のステップは、先ほど作成した「失敗するテスト」を通過させるために、必要最小限のコードを記述することです。この段階では、テストケースの条件を満たすために必要な最小限の実装に焦点を当て、複雑なロジックや最適化は避けます。ここでは、テストを通過するためのコードの作成方法とそのポイントについて解説します。

最小限のコードを実装する意義

テストを通過するために必要な最低限のコードを書くことは、TDDの基本的なルールです。このアプローチにより、コードをシンプルかつ確実に保ちながら、機能が要件に沿っていることを確認できます。また、過剰なコードや複雑な処理を避けることで、実装の進行がスムーズになり、後のリファクタリングも容易になります。

最小限のコードの実装例

前のステップで「失敗するテスト」を作成したので、ここではそれを通過するための最小限のコードを実装します。例えば、Calculatorクラスのaddメソッドを以下のように実装します。

class Calculator
{
    public function add($a, $b)
    {
        return $a + $b;
    }
}

コードの説明

  • Calculatorクラスを作成し、addメソッドを定義します。
  • addメソッドは、引数$a$bを加算し、その結果を返すようにしています。
  • これで、testAddのテスト条件を満たすための最低限の機能が備わりました。

テストの再実行と成功の確認

コードを実装したら、再度テストを実行して成功するか確認します。以下はテストが成功した場合の実行結果例です。

OK (1 test, 1 assertion)

テストが無事に通過した場合、実装したコードがテストケースで想定した機能を満たしていることが確認できます。ここでは必要な最低限のコードのみを書き、次のステップでリファクタリングによる改善を行います。

コードのリファクタリングとテストの再実行

TDDの最後のステップは、実装したコードをリファクタリングし、テストを再実行してすべてのテストが通過するかを確認することです。このプロセスによって、コードの可読性や保守性を高めつつ、機能が変わらないことを確かめます。ここでは、リファクタリングのポイントとテストの再実行方法について解説します。

リファクタリングの目的とポイント

リファクタリングは、機能を変更せずにコードを改善することを目的としています。実装段階では必要最小限のコードを記述しましたが、リファクタリングによってそのコードをより効率的かつ見やすく整えることができます。以下は、リファクタリングを行う際のポイントです。

1. 冗長なコードを削減する

重複した処理や無駄なコードを省略し、シンプルなコードにします。これにより、コードの保守性が向上し、理解しやすくなります。

2. 命名の改善

変数やメソッド名をわかりやすく、意味のあるものに変更することで、他の開発者や自分が後から読んでも理解しやすいコードにします。

3. コードの構造化

コードを機能ごとにメソッドに分割するなど、構造化することで、コードの読みやすさと再利用性を高めます。

リファクタリングの実例

ここでは、Calculatorクラスに別の機能を追加する場合や、コードの構造をわかりやすくするためにリファクタリングする例を示します。例えば、引数の数や型を確認する処理が必要な場合、追加のメソッドを用意することで、コードの見通しを良くします。

class Calculator
{
    public function add($a, $b)
    {
        return $this->validateAndAdd($a, $b);
    }

    private function validateAndAdd($a, $b)
    {
        if (!is_numeric($a) || !is_numeric($b)) {
            throw new InvalidArgumentException("引数は数値である必要があります");
        }
        return $a + $b;
    }
}

コードの説明

  • validateAndAddという新しいメソッドを追加し、引数の型チェックを行うようにしました。
  • addメソッドは、単にvalidateAndAddを呼び出すことで、コードが読みやすくなり、将来の拡張がしやすくなります。

リファクタリング後のテストの再実行

リファクタリング後は、テストを再実行してすべてのテストが通過するかを確認します。再び以下のコマンドを使用し、テストの成功を確認します。

vendor/bin/phpunit

すべてのテストが通過すれば、リファクタリングによってコードが改善されつつ、機能も保持されていることが確認できます。TDDのこの反復サイクルを繰り返すことで、保守性が高く信頼性のあるコードが完成します。

実例:簡単な計算機クラスのTDD実装

ここでは、PHPで計算機(Calculator)クラスをTDDの手法で実装する手順を解説します。この実例では、加算と減算の機能を追加しながら、TDDのサイクルである「失敗するテストの作成」「最小限のコード実装」「リファクタリングとテストの再実行」を実践します。これにより、TDDの流れを理解しやすくなります。

ステップ1: 加算機能の失敗するテストを作成

まず、計算機クラスに加算機能を追加するためのテストを作成します。このテストは、まだ実装されていないため失敗することが前提です。

use PHPUnit\Framework\TestCase;

class CalculatorTest extends TestCase
{
    public function testAdd()
    {
        $calculator = new Calculator();
        $result = $calculator->add(2, 3);
        $this->assertEquals(5, $result);
    }
}

テスト内容

  • Calculatorクラスにaddメソッドがあることを前提にしています。
  • addメソッドが引数23を受け取り、その合計5を返すことを期待しています。

ステップ2: 最小限のコードを実装してテストを通過させる

次に、addメソッドを最低限の実装で追加し、テストが通過するようにします。

class Calculator
{
    public function add($a, $b)
    {
        return $a + $b;
    }
}

これで、addメソッドが実装され、テストを通過する準備が整いました。テストを再度実行し、期待通りの結果が得られるか確認します。

ステップ3: 減算機能の追加とテストの作成

次に、減算機能を追加するためのテストケースを作成します。これもTDDの流れに従い、最初に失敗するテストから始めます。

public function testSubtract()
{
    $calculator = new Calculator();
    $result = $calculator->subtract(5, 3);
    $this->assertEquals(2, $result);
}

テスト内容

  • Calculatorクラスにsubtractメソッドがあることを前提にし、引数53を受け取って差の2を返すことを期待しています。

ステップ4: 減算機能の実装

次に、subtractメソッドを追加し、テストを通過するように実装します。

class Calculator
{
    public function add($a, $b)
    {
        return $a + $b;
    }

    public function subtract($a, $b)
    {
        return $a - $b;
    }
}

ステップ5: テストの再実行と確認

テストを再実行し、addおよびsubtractの両メソッドが期待通りに動作するかを確認します。

vendor/bin/phpunit

これで、計算機クラスに加算と減算の機能が実装され、両方のテストが通過することが確認できます。このように、TDDを活用することで、1つの機能を追加するごとにテストを通過させ、リファクタリングを行いながら信頼性の高いコードを作成できます。

失敗するテストの増設と改善の繰り返し

TDDでは、機能を拡張する際に「失敗するテストを追加 → 必要な実装 → リファクタリングとテスト再実行」を繰り返していきます。このサイクルにより、コードが新しい機能にも対応できるようになり、コードの整合性や品質を保ちながら開発を進めることができます。ここでは、新たな機能を追加しつつTDDサイクルを回す実例を紹介します。

ステップ1: 掛け算機能の失敗するテストを追加

新たに、計算機クラスに掛け算機能を追加するためのテストケースを作成します。最初に掛け算の期待値をテストケースとして設定し、実装がまだ存在しないためにテストが失敗することを確認します。

public function testMultiply()
{
    $calculator = new Calculator();
    $result = $calculator->multiply(2, 3);
    $this->assertEquals(6, $result);
}

テスト内容

  • Calculatorクラスにmultiplyメソッドがあることを前提にしています。
  • multiplyメソッドが引数23を受け取り、結果として6を返すことを期待しています。

ステップ2: 必要な最小限の実装でテストを通過させる

次に、multiplyメソッドを実装し、テストが通過するようにします。この段階では、最小限の実装を行い、テストケースが期待する動作のみを満たします。

class Calculator
{
    public function add($a, $b)
    {
        return $a + $b;
    }

    public function subtract($a, $b)
    {
        return $a - $b;
    }

    public function multiply($a, $b)
    {
        return $a * $b;
    }
}

ステップ3: リファクタリングとテストの再実行

掛け算機能を追加した後、テストを再実行してすべてのテストケースが通過するか確認します。ここで、冗長なコードがないか、命名が適切であるかなどを確認し、必要に応じてリファクタリングを行います。

ステップ4: 新しいテストの増設と反復サイクルの継続

TDDのプロセスは反復的であり、新たな機能(たとえば割り算や複雑な計算機能)を追加する際も、同様のサイクルを繰り返します。たとえば、割り算機能の追加をする場合、次のようなテストケースを作成します。

public function testDivide()
{
    $calculator = new Calculator();
    $result = $calculator->divide(10, 2);
    $this->assertEquals(5, $result);
}

失敗するテストを通じて新たな機能を実装し、リファクタリングとテストを繰り返すことで、コードの拡張性と保守性が向上します。この繰り返しによって、計算機クラスは確実に機能し、将来的な変更にも対応しやすい堅牢なクラスとなります。

TDDを活用した効果的なコード設計のポイント

TDDは単にテストを通過させるための手法ではなく、効果的なコード設計にもつながります。TDDを実践することで、無駄のないシンプルなコードを保ちながら、堅牢で拡張性の高いコードを構築できるようになります。ここでは、TDDを通じて得られるコード設計のメリットと、意識すべき設計のポイントを紹介します。

1. 単一責任の原則に基づく設計

TDDのプロセスでは、各テストが特定の機能や要件に対してのみ焦点を当てています。このため、自然とコードも「単一責任の原則」に沿った設計が促され、1つのクラスやメソッドが1つの責任に限定されるようになります。例えば、計算機クラスにおいても各メソッドが独立して加算、減算、掛け算、割り算の機能を果たすように設計されます。

2. 拡張性を意識した構造

TDDによって、既存のテストが通過することを常に確認しながら新機能を追加するため、コードが柔軟に拡張しやすくなります。例えば、計算機クラスに新しい演算機能(例えば累乗計算など)を追加する際も、既存のテストで要件がすでに保証されているため、追加のテストと実装に集中できます。これにより、機能追加の際のリスクが軽減され、保守性の高いコードを保てます。

3. 明確で意図の伝わるコード

TDDのテストケースは、そのままドキュメントとしても機能します。各テストケースが期待する動作や仕様を明示しているため、コードを読み返した際に「このメソッドは何をするべきなのか」が明確に伝わります。また、意図の明確なテストケースを設計することで、コードレビューや後から読み返す際にも理解が容易になります。

4. フィードバックループによる設計の改善

TDDの反復プロセスを通じて、コードにフィードバックを得ながら設計を改善する機会が生まれます。テストが失敗したり、コードが複雑すぎると感じたときは、設計を見直す合図となります。このようにして、テストからのフィードバックに基づいてコードを改善することが、長期的にコードの品質を高める鍵となります。

5. テストが設計に与える影響

TDDでは、テストがそのままコード設計に影響を与えます。例えば、テストしやすいコードを実現するために依存性の注入(Dependency Injection)やインターフェースの導入など、設計レベルでの工夫が求められる場合があります。これにより、クラス間の結合度を下げ、疎結合な設計が自然と生まれるため、メンテナンスがしやすいコード構造が作られます。

TDDはコードを信頼性の高いものにするだけでなく、設計そのものを改善し、より優れたコードを生み出す効果的な手法です。継続的にTDDを活用することで、設計の質を高めながら保守性のあるコードを実現できます。

TDDで注意すべき落とし穴と対処法

TDDは効果的な開発手法ですが、実践する際にはいくつかの落とし穴があります。これらの落とし穴を理解し、対処法を知ることで、TDDをよりスムーズに進めることが可能です。ここでは、よくあるTDDの問題点とその対処法について解説します。

1. テストが仕様と異なる場合の問題

TDDでは、テストがそのまま仕様を示す役割を果たします。しかし、テストが誤った仕様を想定していると、コードも誤った方向に実装されるリスクがあります。特に要件が変更された場合には、テストケースを見直すことが必要です。

対処法

テストケースが実際の要件を正確に反映しているか、テストを書く際に仕様書や要件定義と照らし合わせることが重要です。また、要件が変更された際は、必ずテストケースを修正し、テストが実際の期待値を反映しているか確認しましょう。

2. 過度なテストケースの追加による複雑化

TDDに慣れてくると、テストケースを必要以上に増やしてしまい、テストが複雑化してメンテナンスが難しくなる場合があります。テストが多すぎると、変更時に多数のテストケースを修正する必要があり、作業効率が低下します。

対処法

テストケースは「シンプルかつ明確」を心がけ、過剰に詳細なテストや重複するテストは避けましょう。基本的な機能の動作確認やエッジケースの検証に集中し、意図の重複するテストケースは省くようにします。また、コードカバレッジを参考にしつつ、必要な範囲に限定したテスト設計を行います。

3. テストに依存した実装のリスク

テストを通過することばかりに注力すると、テストケースの通過が目的になり、実際の要件を満たさない実装になりかねません。テストを通すためのコードに偏ると、機能が曖昧で保守性が低下するリスクがあります。

対処法

テストケースが通過するだけでなく、コードが要件を確実に満たしているかを再確認しましょう。開発者は、テストが「実装のための指針」であることを常に意識し、テスト自体が仕様通りかを慎重に確認します。

4. リファクタリングを怠ることによるコードの劣化

TDDの一環として、リファクタリングはコードを改善する大切なステップです。しかし、テストが通過したからといってリファクタリングを怠ると、コードが次第に複雑化し、可読性や保守性が損なわれていきます。

対処法

各サイクルで必ずリファクタリングの時間を設け、コードを最適化する習慣をつけましょう。リファクタリング後はテストを再実行し、コードの品質を保ちながら改善することが大切です。

5. エッジケースや例外処理の見落とし

基本的な機能だけに集中しすぎると、エッジケースや例外処理のテストが見落とされがちです。これにより、特定の状況下でエラーが発生する可能性があります。

対処法

仕様を確認し、通常の動作だけでなく、異常ケースや例外処理も含めてテストケースを設計することが必要です。例えば、ゼロでの除算や無効な引数に対するテストなど、予想されるエッジケースも含めて検証します。

TDDを正しく実践するためには、これらの落とし穴を意識しながら、コードとテストの両方を改善していく姿勢が重要です。

まとめ

本記事では、PHPでのテスト駆動開発(TDD)の基本的な流れについて解説しました。TDDの3つの主要ステップである「失敗するテストの作成」「テストを通す最小限の実装」「リファクタリングとテストの再実行」を繰り返すことで、信頼性の高いコードを構築できます。さらに、TDDはコードの設計を洗練し、拡張性や保守性の向上に寄与します。今回の内容を参考に、TDDを用いて品質の高いPHPコードを効率的に開発していきましょう。

コメント

コメントする

目次
  1. テスト駆動開発(TDD)とは
    1. 1. 失敗するテストを作成する
    2. 2. テストを通過するためのコードを書く
    3. 3. コードをリファクタリングする
  2. TDDにおけるテストケースの設計
    1. テストケース設計の基本原則
    2. テストケース作成時の注意点
  3. テストフレームワークの選択とセットアップ
    1. テストフレームワークの選択基準
    2. PHPUnitのセットアップ方法
  4. TDDの第一ステップ:失敗するテストを作成する
    1. 失敗するテストを作成する意義
    2. 失敗するテストの作成方法
    3. 失敗するテストの確認
  5. 必要な最小限のコードを書いてテストを通過させる
    1. 最小限のコードを実装する意義
    2. 最小限のコードの実装例
    3. テストの再実行と成功の確認
  6. コードのリファクタリングとテストの再実行
    1. リファクタリングの目的とポイント
    2. リファクタリングの実例
    3. リファクタリング後のテストの再実行
  7. 実例:簡単な計算機クラスのTDD実装
    1. ステップ1: 加算機能の失敗するテストを作成
    2. ステップ2: 最小限のコードを実装してテストを通過させる
    3. ステップ3: 減算機能の追加とテストの作成
    4. ステップ4: 減算機能の実装
    5. ステップ5: テストの再実行と確認
  8. 失敗するテストの増設と改善の繰り返し
    1. ステップ1: 掛け算機能の失敗するテストを追加
    2. ステップ2: 必要な最小限の実装でテストを通過させる
    3. ステップ3: リファクタリングとテストの再実行
    4. ステップ4: 新しいテストの増設と反復サイクルの継続
  9. TDDを活用した効果的なコード設計のポイント
    1. 1. 単一責任の原則に基づく設計
    2. 2. 拡張性を意識した構造
    3. 3. 明確で意図の伝わるコード
    4. 5. テストが設計に与える影響
  10. TDDで注意すべき落とし穴と対処法
    1. 1. テストが仕様と異なる場合の問題
    2. 2. 過度なテストケースの追加による複雑化
    3. 3. テストに依存した実装のリスク
    4. 4. リファクタリングを怠ることによるコードの劣化
    5. 5. エッジケースや例外処理の見落とし
  11. まとめ