SharePointやTeamsにおけるコンテンツ承認機能は、多くの組織がワークフローを効率化するために活用しています。ところが、突然「Submit for Approval」ボタンが表示されなくなり、一時的に承認依頼が送れないトラブルが発生しました。
SharePointとTeamsで起きた「Submit for Approval」ボタンの不具合
SharePoint OnlineとTeamsの連携によって、多くの企業や団体がスムーズな承認フローを実現しています。通常であれば、コンテンツ承認を有効にしたライブラリにアップロードした文書やファイルに対して、「Submit for Approval」ボタンを使い、必要な関係者へ承認依頼を送る流れが想定されているでしょう。しかし、2024年3月上旬に、この「Submit for Approval」ボタンが突如消えてしまう事象が発生しました。権限の変更やライブラリ設定の変更をしていなくても同様の状態となり、多くのユーザーが「原因不明の不具合ではないか?」と混乱を招きました。
この時期にSharePoint Online上でコンテンツ承認を有効にしていたライブラリをお持ちの方は、承認依頼が行えないため業務に支障をきたし、「仕方なく暫定的に別の承認フローを用意せざるを得ない状況」に追い込まれたケースもありました。なぜボタンが消えてしまったのか、そしてMicrosoftはどのように対応したのかをここで解説します。
不具合の背景と原因
今回の「Submit for Approval」ボタン消失の原因は、Microsoftが提供するサービス更新(アップデート)に起因していました。SharePoint Onlineの新機能追加や既存機能の最適化の過程で、何らかのコード変更が行われ、その副作用としてコンテンツ承認ボタンの表示制御に影響を及ぼしたと考えられています。実際、Microsoft 365の管理センターにある「Service Health」では、下記のような情報が掲載されていました。
- 発生事象: SharePoint Onlineライブラリにおける「Submit for Approval」ボタンが表示されない
- Service Health ID: SP732908
- 影響範囲: コンテンツ承認機能が有効なライブラリを使用しているユーザー全般
- 原因: 新規コード更新による不具合
Microsoftはこういったサービス面でのトラブルが起きた場合、Service HealthやMessage Centerにて影響範囲や対応状況をアナウンスします。今回はID「SP732908」で報告されており、詳細な経緯が確認可能でした。
不具合の発生時刻と解消時刻
今回の不具合は2024年3月6日18時頃(UTC)に始まり、3月12日11時25分(UTC)頃に解消が確認されています。日本時間(JST)ではUTC+9時間のため、時差を考慮すると以下のように捉えられます。
時刻 | UTC | 日本時間(JST) |
---|---|---|
不具合発生 | 3月6日 18:00 | 3月7日 3:00 |
不具合解消 | 3月12日 11:25 | 3月12日 20:25 |
日本国内では3月7日の早朝から問題が顕在化し、3月12日の夜に解決が確認されたという流れです。Microsoft側で問題を特定し、該当する更新プログラムをリバートする(元に戻す)ことで、ボタンの表示が復活しました。
「Submit for Approval」ボタン消失への具体的な影響
コンテンツ承認ボタンが表示されない間、SharePointライブラリを通じて行う通常の承認フローが滞り、以下のような混乱が生じました。
- 承認手続きの遅延
一時的に承認業務が止まるため、社内外の回覧や承認に遅れが出る可能性がありました。 - 代替手段の模索
Power Automateを使ったフローで代用したり、メールやTeamsチャットを用いた承認依頼を行ったりする企業もありました。ただし、組織によっては「承認プロセスが正式な文書化手順と連動している」ため、一時的な代替措置では不十分な場合もあったようです。 - IT管理者やサポート部門への問い合わせ増加
「ボタンが消えてしまった」「設定を変えていないのにおかしい」といった問い合わせが増え、管理者やサポート担当者に大きな負担がかかりました。
こうした問題は一時的なトラブルにとどまらず、業務効率の低下やコミュニケーションロスにも繋がるため、被害は小さくありませんでした。
Microsoftの対応と再発防止策
Microsoftは問題を認識すると、「原因の特定」→「修正パッチの検証」→「展開・ロールバック」の手順で対応を実施します。今回の場合は、サービスアップデートの一部をリバート(取り消し)する形で不具合を解消しました。また、Service Healthには「再発防止に向けてコードの検証プロセスを強化し、今後同様のトラブルを回避する」といった趣旨のコメントも見受けられます。
実際、クラウドサービスであるSharePoint Onlineでは、新機能や既存機能の改善が頻繁に行われており、ユーザーが何も設定を変えていないにもかかわらず機能の一部が動かなくなるケースがごくまれに起きます。多くの場合、Microsoftがすぐに気付き対応を行うため、一時的な混乱はあるものの長期間にわたって機能が停止することは少ないでしょう。
同様の事態を見越して準備しておくには
クラウドサービスは利便性が高い反面、予期せぬトラブルや仕様変更が発生する可能性があります。そこで、IT管理者としては以下のような点を押さえておくと安心です。
- Service Healthダッシュボードの監視
定期的にMicrosoft 365管理センターのサービスステータスをチェックし、問題が報告されていないかを確認する習慣をつける。 - メール通知設定
Service HealthやMessage Centerの通知をメールなどで受け取れるようにすることで、トラブル発生時にいち早く情報をキャッチできる。 - 代替承認フローの用意
Power Automateなどを使って、簡易的に承認を回せるフローを用意しておく。万が一のときはそちらに切り替えることで業務を止めない工夫をする。 - 影響範囲の把握
どのサイトやライブラリがコンテンツ承認を有効にしているのか、利用部門や担当者をリストアップしておき、トラブル時に迅速に周知できる体制を整える。
現在も「Submit for Approval」が見つからない場合の対処法
一部のユーザー環境やタイミングによっては、今回の不具合が解消されたはずなのにまだ問題が続いているように見えるケースもあるかもしれません。以下の手順で状況を確認しましょう。
- ブラウザキャッシュのクリア
クライアント環境側で古いキャッシュが残っていると、UIが更新前の状態になってしまうことがあります。まずはブラウザのキャッシュとCookieを削除してから再度SharePointやTeamsにアクセスしてみてください。 - ライブラリ設定の再確認
何らかの原因でコンテンツ承認設定が無効化されていないか、ライブラリのバージョン管理や承認プロセスの設定を見直してみましょう。管理者権限がある場合は、SharePointの「ライブラリの設定」→「バージョン設定」から確認できます。 - 権限の見直し
特定のユーザーやグループのみボタンが表示されない場合は、そのユーザーが「編集権限」や「承認権限」を正しく持っているか確認してください。誤って権限が制限されていたり、ユーザーが異なるグループに所属している可能性もあります。 - サービスステータスの再度チェック
Microsoft 365管理センターにアクセスし、Service Healthの最新情報を確認します。もし今回の問題とは別の原因で同種の不具合が発生しているなら、新たなIDで報告が上がっている可能性があります。 - サポートへの問い合わせ
どうしても問題が解消しない場合は、Microsoftサポートへの問い合わせを検討しましょう。問い合わせの際には、いつ頃から問題が起きているのか、どのサイトやライブラリで発生しているのか、具体的なスクリーンショットなどを用意しておくとスムーズです。
トラブルシューティングのプロセスを分かりやすく表にまとめる
問題が起きた際、どこから手をつければよいかを整理することでスピーディに解決できる場合があります。以下のような表を作って自社のITヘルプデスクや社員に周知しておくと、問い合わせの段階で状況を素早く把握することができます。
トラブルシュート手順 | 詳細内容 | 優先度 |
---|---|---|
1. ブラウザキャッシュの削除 | ユーザー側の環境要因の排除。再ログインしてUIが正常に読み込まれるか確認する。 | 高 |
2. 承認およびバージョン管理設定の確認 | SharePointライブラリの「バージョン設定」を開き、コンテンツ承認が有効か確認。 | 中 |
3. 権限確認 | 「編集」「承認」権限が適切に付与されているかチェック。グループ設定も点検。 | 中 |
4. Microsoft 365 Service Healthの確認 | 同様の事象が報告されていないか、管理センターで最新情報をチェック。 | 高 |
5. 他のユーザー環境での再現性テスト | 他のPCやブラウザ、アカウントでも問題が同様に起こるかテストする。 | 低 |
6. Microsoftサポートへ問い合わせ | 自力での解決が難しい場合は問い合わせ。状況の詳細をできる限り伝える。 | 中 |
このように手順を可視化しておくと、ユーザーは対処を始める際に「どこから確認していけばよいのか」を把握しやすくなり、管理者も問い合わせを一括で受けて必要な情報を集めやすくなります。
再発防止と企業が取るべき対策
SharePoint OnlineやTeamsなど、クラウドベースのサービスを利用していると、今回のような突然のUI変更や機能不具合に遭遇することがまれにあります。しかし、そのリスクを最小限に抑えるために、企業や組織としては以下のような取り組みが大切です。
- 変更管理ポリシーの確立
大規模な組織の場合、OfficeアプリケーションやMicrosoft 365環境の更新について事前に情報を共有し、更新が行われるたびに影響度を調査する体制を整えておくことが望ましいです。 - 運用ルールの文書化
何か問題が発生した際に、誰が、いつ、どのチャンネルで情報共有すればよいかを明確にし、マニュアル化しておくことで対応の抜け漏れを防ぎます。 - 代替フロー・バックアップの検討
クリティカルな業務であればあるほど、本来想定する承認ワークフローが利用できなくなった場合の代替策をあらかじめ用意しておくことが重要です。 - ユーザー教育の強化
「クラウドサービスは突然仕様が変わる可能性がある」ことをユーザー側も理解しておくと、問題発生時の対応スピードや冷静さが変わります。定期的に研修や情報発信の場を作るのも効果的です。
さらに知っておきたいSharePoint Onlineの特徴
SharePoint Onlineは、クラウドベースでのドキュメント管理やチームコラボレーションを強力にサポートする反面、以下のような特徴を持ちます。
- 頻繁なアップデート
常に新機能が追加されたり既存機能の改良が行われたりしているため、「いつの間にか管理画面の表示やメニューが変わっている」ということもよくあります。 - ユーザー数が莫大
全世界で多くの企業が利用しているため、トラブルやバグが発生すれば広い範囲に影響します。その分、対応は迅速化が図られる一方で、一部ユーザーだけ影響を受け続けるケースも存在します。 - 検証環境の整備が難しい
オンプレミスであればテスト環境を作り、更新の影響を事前検証できますが、SharePoint Onlineはクラウドであるがゆえに完全に同一のテスト環境を用意することは難しい面があります。
ユーザー視点での便利な対処アイデア
- TeamsチャットやYammerでの情報共有
社内で利用しているコミュニケーションツールを活用し、SharePointの更新状況やトラブル情報をすぐ周知する仕組みを作りましょう。 - 自動化ツールの活用
Power Automateで承認プロセスをカスタマイズしておけば、SharePointの標準ボタンが使えなくなっても、カスタムフローを呼び出す形で業務を回し続けられます。 - 機能変更リリースノートを追う
Microsoft 365に関する機能追加や変更は、公式ドキュメントやMicrosoft 365 Message Centerに随時発信されます。こまめにチェックすることで、突然の変更にも心の準備ができるでしょう。
まとめ: 今回の教訓と今後の備え
「Submit for Approval」ボタンが消えるという一見単純な不具合が、承認業務の大きなストップを招いてしまうことは、クラウドサービスならではのリスクを再認識させます。最終的にMicrosoftが問題を特定し、更新をリバートすることで解決されましたが、それまでに多くのユーザーが困惑したのも事実です。
クラウドサービスは便利な反面、このような事象がいつ再度起きるかはわかりません。だからこそ、Service Healthの監視や代替フローの整備など、事前の準備が重要です。万が一のときに素早く対応できるよう、情報共有の体制や管理者向けドキュメントを充実させるなどの取り組みを進めましょう。また、ユーザー教育として「クラウドサービスの特徴」や「トラブル対応の基本ステップ」を啓蒙することも、長期的に見て企業や組織のITリテラシー向上に寄与します。
問題が再発してしまった場合や、今回と似たような事象に直面した場合は、Service Healthや管理センターのお知らせをまずは確認し、それでも解決しないときはMicrosoftサポートに連絡してみてください。その際に具体的な症状や環境情報を詳細に伝えることで、サポート担当者も正確に状況を把握できます。迅速に原因を突き止めて運用を正常化できれば、ビジネスの継続性を高いレベルで保つことが可能です。
今後もSharePoint OnlineやTeamsなどのMicrosoft 365サービスでは、多数のアップデートや新機能リリースが続くはずです。便利な機能を取り入れつつ、こうしたトラブルが起きるリスクにも備え、IT管理者やユーザーが協力してスムーズなビジネス基盤を保っていくことが、現代のワークスタイルには欠かせません。
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