Windows Server 2022 の RDS 環境で運用していると、プレビュー版の新しい Teams (New Teams) をサインイン後に自動起動するとき「The parameter is incorrect」や「Something went wrong and we couldn’t open the new Teams」といったエラーが発生し、作業効率が下がってしまうケースがあります。本記事では、このエラーの原因と解決策を中心に、快適に New Teams を利用するためのポイントをご紹介します。
New Teams の自動起動エラーが発生する背景
Windows Server 2022 の RDS 環境では、複数ユーザーが同じホスト上で動作しながらプロファイルを管理するため、FSLogix などのプロファイルコンテナ技術を利用することが多いです。従来のクラシック Teams は問題なく起動できるのに、New Teams に切り替えた瞬間にエラーが出るという状況は、多くの管理者にとって悩ましいものです。
クラシック Teams と New Teams は根本的なアーキテクチャが異なります。特に New Teams は UWP(Universal Windows Platform)アプリとして動作しており、WindowsApps ディレクトリの管理やフィルタードライバとの兼ね合いが重要になります。加えて、ウイルス対策ソフトが実行ファイルにフックを掛ける際、想定外の干渉が発生する場合もあります。
ここでは主に想定される原因と、それぞれに対する具体的な解決策を整理していきます。
主な原因と考えられる要因
1. アンチウイルス(AV)ソフトウェアの干渉
アンチウイルス製品や EDR (Endpoint Detection and Response) ツールによるスキャンやフックが、New Teams の自動起動を阻害している可能性があります。SentinelOne や Cortex、Bitdefender、TrendMicro Apex One、Symantec など、さまざまなセキュリティ製品で類似の報告があります。
特に下記のような動きが考えられます。
- New Teams の起動に必要な「msteams_autostarter.exe」などの実行ファイルをブロックする
- ファイルへのアクセスをリアルタイムでスキャンする際にタイミングが悪く、Teams が正常に読み込みを行えない
- フィルタードライバレベルで競合が起こり、「The parameter is incorrect」が返される
2. FSLogix のバージョンや不具合
FSLogix はユーザープロファイルをコンテナ化する強力なソリューションですが、バージョンによっては New Teams と相性が悪いものがあります。特に FSLogix 2210 (2022 年 10 月リリース) 以前や、その後のホットフィックス(HF)が未適用の場合、New Teams をサーバー OS で動作させるときに不具合が生じることが報告されています。
FSLogix 2210 HotFix4 (HF4) のリリースノートには「New Teams の起動時に ‘The parameter is incorrect’ エラーが表示される問題を修正」と明記されており、これを適用することで多くの環境で問題が解消したケースがあります。
3. 他のフィルタードライバーとの競合 (Citrix UPM など)
Citrix 環境で使用する UPM (User Profile Management) がインストールされていたり、過去に導入してアンインストールしきれていない場合、ドライバーやレジストリ設定が残存していると競合を起こすことがあります。
具体的には、下記のようなドライバーが影響を与えているかもしれません。
- UPMAction
- upmjit
これらはユーザープロファイルの管理を行うためにフィルタードライバレベルで動作しますが、FSLogix と同時に動作するときに衝突が起きることがあります。
4. WindowsApps フォルダーの権限問題 (C:\Program Files\WindowsApps)
WindowsApps フォルダーは、UWP アプリが格納される特殊ディレクトリです。本来、所有者 (Owner) が「NT Service\TrustedInstaller」となっており、厳密に管理されています。しかし、何らかの事情でこの所有権を変更したり、アクセス権を手動で書き換えた環境では、New Teams の起動時に問題が発生することがあります。
また、Server OS 環境では「ストアアプリは想定外」という意識から、権限設定をいじったりクリーンアップをしたりするケースもあるかもしれません。しかし、New Teams は事実上この WindowsApps ディレクトリを使うため、アクセス権が正しい状態であることが必須です。
5. INetCache や FSLogix のキャッシュリダイレクト設定
FSLogix で特定のフォルダーをリダイレクトしている場合 (Temp フォルダや INetCache など)、この設定が New Teams の動作を阻害しているケースがあります。特に大きなキャッシュファイルや一時ファイルをリダイレクト先で管理しているとき、速度低下やアクセス不良によりエラーが出る場合があります。
具体的な対策・解決策
1. FSLogix の最新バージョンを導入する
多くの環境で最も効果的かつ優先度の高い対策です。FSLogix の 2210 HotFix4(HF4)以降を適用することで、New Teams の「The parameter is incorrect」エラーに関して修正が含まれていることが公式に言及されています。
もし旧バージョンを使用している場合は、まず FSLogix のアップデートを実施し、現行バージョンとの整合性を確認することを強く推奨します。
アップデート時の注意点
- アップデート前に、念のため現在の FSLogix 設定ファイルやグループポリシー設定をバックアップ
- アップデート後は、FSLogix サービスの動作とログファイル(C:\Program Files\FSLogix\Logs など)を確認し、エラーがなくなったか検証
- 新バージョンのインストール完了後にサーバーを再起動してから、ユーザーが再サインインするときの動作をチェック
2. アンチウイルス製品での除外設定
アンチウイルスや EDR が、New Teams の起動ファイルをスキャンまたはフックすることでエラーに発展する事例が多々報告されています。
特に以下のファイル・パスを除外対象に設定してみてください。可能であれば限定的な範囲で実施し、セキュリティリスクを最小限に抑えつつ効果を確認しましょう。
除外推奨パス例 | 説明 |
---|---|
\Program Files\WindowsApps\MSTeams_*\ms-teams.exe | New Teams 本体の実行ファイル |
\Program Files\WindowsApps\MSTeams_*\ms-teamsupdate.exe | Teams 更新用の実行ファイル |
\Program Files\WindowsApps\MSTeams_*\msteams_autostarter.exe | 自動起動用のプロセス |
\Program Files\FSLogix\Apps\frxsvc.exe | FSLogix のサービスプロセス(可能なら除外は慎重に) |
SentinelOne を使用している場合は、ベンダーから推奨される「hook exclusion」設定を行い、一時的にフックを解除してエラーが消えるかどうかテストすると、原因を切り分けやすくなります。
3. Citrix UPM ドライバーのアンインストールまたは無効化
Citrix Virtual Apps and Desktops (旧 XenApp/XenDesktop) を使っていないのに UPM 関連ドライバーがインストールされたままになっている場合、無用な干渉が発生する恐れがあります。
Citrix UPM は強力なプロファイル管理機能を持つ一方、FSLogix と競合を起こすシナリオが存在します。もし環境上で Citrix UPM が必要でないのであれば、以下を検討してください。
- Citrix UPM に関するプログラムやドライバーをアンインストール
- レジストリ上でドライバーが残っていないか確認 (
HKEY_LOCAL_MACHINE\SYSTEM\CurrentControlSet\Services\UPMAction
など) - VDA コンポーネントを含む不要なモジュールがないかチェック
4. WindowsApps フォルダーの所有権・権限をリセット
New Teams のインストール先である C:\Program Files\WindowsApps の所有者が変更されていたり、アクセス権限に問題がある環境では、エラーが発生しやすくなります。デフォルトでは「NT Service\TrustedInstaller」が所有者であり、細かい ACL (アクセス制御リスト) が設定されています。
フォルダ権限をリセットする際には、以下のコマンドが有効です。ただし、実行前にテスト環境で十分に検証してください。
icacls "C:\Program Files\WindowsApps" /reset /t /c /q
上記を実行すると、WindowsApps フォルダ内のすべてのファイルとディレクトリに対して、既定の ACL が再適用されます。サーバー環境では取り扱いに注意が必要ですが、手動で書き換えたアクセス権が原因であれば、問題が解決する可能性があります。
5. FSLogix のキャッシュリダイレクト設定を見直す
FSLogix で INetCache や Temp フォルダーをリダイレクトしている場合、New Teams の動作と衝突するケースがあります。次のような対策を検討してください。
- INetCache のリダイレクトを行わない設定に変更する
- 必要であれば New Teams の動作確認が取れるまで一時的にリダイレクト設定を無効化
- リダイレクト先のストレージが高速アクセス可能な領域か、アクセス権に問題がないか確認
FSLogix のプロファイル構成ファイル(例:Registry [HKEY_LOCAL_MACHINE\SOFTWARE\FSLogix] など)を見直し、一部の設定値を調整することで改善した事例も報告されています。
参考となるコードや運用上のポイント
権限リセットのサンプルコード
WindowsApps フォルダーだけでなく、その他のフォルダーやファイルにも権限リセットを行いたい場合の一例です。
# 注意: 実行前に必ずバックアップとテストを行ってください
$folders = @(
"C:\Program Files\WindowsApps",
"C:\Program Files\SomeOtherApp"
)
foreach ($folder in $folders) {
Write-Host "Resetting ACL for $folder..."
icacls $folder /reset /t /c /q
Write-Host "Done!"
}
上記のようにリストを作成し、複数のディレクトリに対して一括で ACL をリセットすることも可能です。ただし、システムに大きく影響するため実運用環境では注意が必要です。
除外設定のグループポリシー(GPO)管理例
アンチウイルス製品で除外設定を配布する際、GPO(グループポリシー)を活用すると、複数台の RDS ホストやファイルサーバーへ一括でポリシーを適用できます。
- GPO のコンピューターの構成からアンチウイルス製品の admx テンプレートを取り込み
- 除外パスとして上記の WindowsApps ディレクトリなどを設定
- ポリシーの適用対象をOU (組織単位) 単位で指定し、段階的にロールアウト
このようにすることで、一貫した設定を複数サーバーに適用しやすくなります。
まとめ
New Teams の「The parameter is incorrect」エラーは、複数の要因が絡み合って発生するため、以下の対策を総合的に行うことが大切です。
- FSLogix のバージョンアップ
- FSLogix 2210 HF4 以降を導入することで、エラーが解消する可能性が高いです。
- アンチウイルス製品の除外設定
- msteams_autostarter.exe をはじめとする主な実行ファイルをスキャン・フック対象外にしてテストを行いましょう。
- Citrix UPM ドライバーなどの不要なフィルタードライバーを除去
- 環境に合わないドライバーが残っていないかチェックし、競合を避けることで安定します。
- WindowsApps フォルダーの権限を初期状態に戻す
- 所有者が「NT Service\TrustedInstaller」に戻っているか、正しい権限が設定されているかを確認してください。
- FSLogix のキャッシュリダイレクト設定を見直す
- INetCache などをリダイレクトしないようにすると改善する場合があります。
実際に運用している環境では、これらの項目を段階的に検証しながら適用し、問題の原因を切り分けることがポイントになります。特にセキュリティ製品やフィルタードライバーの設定は重要ですが、その一方でサーバー全体のセキュリティや可用性とのバランスも考慮しながら設定を微調整していく必要があります。
本記事で紹介した対策を行うことで、New Teams の自動起動エラーを解消し、快適なリモートデスクトップ環境を実現する一助となれば幸いです。
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