Swiftには、配列や辞書のようなデータ構造において、要素にアクセスするための直感的な方法としてサブスクリプト機能が備わっています。しかし、この機能は配列や辞書に限らず、クラスや構造体にも適用することが可能です。サブスクリプトを活用することで、複雑なデータのアクセス方法を簡素化し、直感的かつ可読性の高いコードを実現できます。本記事では、サブスクリプトの基本的な使い方から、クラスや構造体での実装方法、さらには実際のプロジェクトでどのように活用できるかを詳しく解説していきます。
サブスクリプトとは
サブスクリプトとは、Swiftにおける特殊な構文で、配列や辞書のようなコレクション型のデータに対して、キーやインデックスを指定して要素にアクセスする方法を指します。通常、サブスクリプトはインデックスを角括弧 [] で囲む形式を取ります。例えば、配列の特定の要素にアクセスする際に array[index] と書くのが一般的です。
しかし、サブスクリプトは配列や辞書だけでなく、独自に定義したクラスや構造体にも実装でき、独自のロジックに基づいた直感的なデータアクセスを可能にします。これにより、クラスや構造体のプロパティやメソッドに簡単にアクセスできるようになり、コードの可読性と使いやすさが向上します。
次のセクションでは、サブスクリプトの具体的な定義方法について見ていきましょう。
サブスクリプトの基本構文
Swiftでサブスクリプトを定義するには、subscript キーワードを使用します。サブスクリプトはメソッドに似ていますが、引数を指定して値を取得したり設定したりできる点が特徴です。基本的な構文は以下の通りです。
subscript(index: Int) -> String {
get {
// 指定されたインデックスに基づいて値を返す
}
set(newValue) {
// 指定されたインデックスに基づいて新しい値を設定する
}
}この例では、subscript キーワードを使って、整数のインデックスを受け取り、String 型の値を返すサブスクリプトを定義しています。get ブロックでは、指定されたインデックスに基づいて値を取得し、set ブロックでは新しい値を設定します。読み取り専用のサブスクリプトを作成したい場合は、get ブロックだけを定義すれば良いです。
簡単な例
以下は、サブスクリプトを使った簡単なクラスの例です。
class Example {
var data = ["A", "B", "C"]
subscript(index: Int) -> String {
get {
return data[index]
}
set(newValue) {
data[index] = newValue
}
}
}
let example = Example()
print(example[0]) // "A"
example[1] = "Z"
print(example[1]) // "Z"この例では、Example クラスにサブスクリプトが定義されており、配列に簡単にアクセスすることができます。このようにして、クラスや構造体に対して配列のようなアクセス方法を実装できます。
次のセクションでは、クラスに対するサブスクリプトの実装方法をさらに詳しく解説していきます。
クラスでのサブスクリプトの実装
クラスにサブスクリプトを実装することで、クラスのプロパティやメソッドに対して配列や辞書のように直感的にアクセスできるようになります。これにより、複雑な内部データ構造へのアクセスが簡素化され、コードがよりシンプルで読みやすくなります。
クラスでのサブスクリプトの例
以下は、Person クラスにサブスクリプトを追加して、人物の情報にアクセスできるようにした例です。
class Person {
var info: [String: String] = [
"name": "John",
"age": "30",
"occupation": "Engineer"
]
subscript(key: String) -> String? {
get {
return info[key]
}
set(newValue) {
info[key] = newValue
}
}
}
let person = Person()
print(person["name"] ?? "No data") // "John"
print(person["age"] ?? "No data") // "30"
// 値を更新
person["occupation"] = "Designer"
print(person["occupation"] ?? "No data") // "Designer"解説
この Person クラスでは、人物の基本的な情報（名前、年齢、職業）を辞書型で保持しています。サブスクリプトを使って、key を受け取り、対応する値を取得または更新できるようにしています。
- 読み取り: サブスクリプトの
get部分では、渡されたkeyに対応する値を返します。もしキーが存在しない場合はnilを返します。 - 書き込み: サブスクリプトの
set部分では、新しい値を設定します。キーがすでに存在する場合はその値を更新し、存在しない場合は新しいキーと値を追加します。
利用シーン
クラスにサブスクリプトを実装すると、内部データ構造が辞書や配列であっても、ユーザーは簡単に特定の値にアクセスできるようになります。これにより、オブジェクト指向プログラミングの特性を活かしつつ、効率的なデータ操作が可能です。
次に、構造体におけるサブスクリプトの実装方法を見ていきます。
構造体でのサブスクリプトの実装
構造体でも、クラスと同様にサブスクリプトを定義してデータに簡単にアクセスできるようにすることが可能です。構造体は値型であり、変更されるとコピーされる特性がありますが、それでもサブスクリプトを使えば直感的なデータアクセスを実現できます。
構造体でのサブスクリプトの例
以下は、2次元のグリッド状のデータを保持する Grid 構造体にサブスクリプトを実装した例です。
struct Grid {
var data: [[Int]]
// サブスクリプトで2次元配列にアクセス
subscript(row: Int, col: Int) -> Int {
get {
return data[row][col]
}
set(newValue) {
data[row][col] = newValue
}
}
}
var grid = Grid(data: [[1, 2, 3], [4, 5, 6], [7, 8, 9]])
// 値の取得
print(grid[0, 1]) // 2
// 値の設定
grid[1, 2] = 10
print(grid[1, 2]) // 10解説
この例では、Grid 構造体に2次元配列 data を持たせ、サブスクリプトを使って行と列を指定することで特定の値にアクセスできるようにしています。
- 読み取り: サブスクリプトの
get部分では、指定された行 (row) と列 (col) の位置にある値を返します。 - 書き込み: サブスクリプトの
set部分では、指定された位置の値を新しい値に更新します。
このように、構造体でもサブスクリプトを用いることで、複数の引数を受け取りつつ、データの読み書きを柔軟に行うことができます。例えば、2次元配列や多次元配列を操作する場面で非常に便利です。
構造体でのサブスクリプトの利点
構造体にサブスクリプトを実装することによって、データへのアクセスがシンプルになり、コードの可読性が向上します。特に多次元データやカスタムデータ構造を扱う場合、サブスクリプトを活用することでコードが明確でわかりやすくなります。
次に、読み取り専用のサブスクリプトの実装方法について見ていきます。
読み取り専用サブスクリプトの作成
サブスクリプトは、値を取得するためだけに使用したい場合もあります。その際、読み取り専用のサブスクリプトを定義することができます。読み取り専用サブスクリプトは、set ブロックを定義せず、get ブロックだけを実装します。これにより、外部からは値を取得できるが、変更はできないようにすることが可能です。
読み取り専用サブスクリプトの例
以下は、Matrix 構造体において読み取り専用のサブスクリプトを実装した例です。この例では、2次元配列のデータを保持し、そのデータを読み取ることができますが、外部から直接変更することはできません。
struct Matrix {
private var grid: [[Int]]
init(rows: Int, columns: Int) {
grid = Array(repeating: Array(repeating: 0, count: columns), count: rows)
}
// 読み取り専用サブスクリプト
subscript(row: Int, col: Int) -> Int {
get {
return grid[row][col]
}
}
}
let matrix = Matrix(rows: 3, columns: 3)
// 値の取得
print(matrix[0, 1]) // 0
// 値の変更はできない (コンパイルエラー)
// matrix[0, 1] = 5解説
この Matrix 構造体は、3×3の2次元配列 grid を持ち、外部からはそのデータを読み取ることができますが、値の変更はできません。サブスクリプトでは get ブロックのみが定義されているため、読み取り専用のアクセスが提供されます。
- 読み取り専用の利点: データの整合性やセキュリティを守りたい場合に、値を外部から変更されないように制限できるのが大きな利点です。特定の値や計算結果を公開したいが、外部から操作されたくない場面で有用です。
利用シーン
- 安全なデータ公開: クラスや構造体の内部データを外部に公開する際に、読み取り専用サブスクリプトを使用すれば、内部のデータが変更されるリスクを避けながら、必要な情報だけを提供できます。
- 計算結果の公開: サブスクリプトで計算した結果を提供する場合も、変更されないように読み取り専用にすることが一般的です。
次に、書き込み可能なサブスクリプトの実装方法を見ていきます。
書き込み可能サブスクリプトの作成
サブスクリプトは、値の読み取りだけでなく、書き込みもサポートできます。これにより、外部からクラスや構造体の内部データを簡単に更新することが可能です。書き込み可能なサブスクリプトを作成するためには、set ブロックを定義し、外部から渡された新しい値を適切に設定できるようにします。
書き込み可能サブスクリプトの例
以下は、書き込み可能なサブスクリプトを使って、単純なポイントデータを管理する Point 構造体を作成する例です。
struct Point {
private var coordinates: [String: Int] = ["x": 0, "y": 0]
// 書き込み可能なサブスクリプト
subscript(axis: String) -> Int? {
get {
return coordinates[axis]
}
set(newValue) {
if let value = newValue {
coordinates[axis] = value
}
}
}
}
var point = Point()
// 値の設定
point["x"] = 10
point["y"] = 20
// 値の取得
print(point["x"] ?? 0) // 10
print(point["y"] ?? 0) // 20解説
この Point 構造体は、coordinates 辞書を持ち、"x" や "y" の軸に対する値を管理します。サブスクリプトを使うことで、axis に "x" または "y" を指定し、その値を簡単に取得したり、更新したりすることができます。
- 読み取り:
getブロックでは、辞書から指定された軸 (axis) の値を返します。軸が存在しない場合はnilを返します。 - 書き込み:
setブロックでは、新しい値を受け取り、それを辞書の対応する軸に設定します。ここではnewValueを使って、書き込まれた値がnilでないか確認した上で設定しています。
利用シーン
書き込み可能なサブスクリプトは、内部データを外部から簡単に更新できる点で非常に便利です。辞書や配列などのデータ構造を扱うクラスや構造体に適用すれば、柔軟にデータの操作を行うことができます。また、カスタムロジックに基づいた値の検証や変換をサブスクリプト内で実行することも可能です。
書き込み可能サブスクリプトの注意点
- データの整合性: サブスクリプトでデータを変更可能にする場合、誤ったデータが入力されないようにロジックを適切に構築する必要があります。値の検証や制約を追加することが推奨されます。
次に、サブスクリプトを用いた応用例について解説します。
サブスクリプトの応用例
サブスクリプトは、単純なデータへのアクセスだけでなく、複雑なデータ構造や動的なデータ操作にも利用できます。ここでは、サブスクリプトを使った応用的な例をいくつか紹介します。これらの例を通じて、より柔軟で高度なデータ管理を実現するための方法を学びます。
1. 辞書型データ構造の操作
サブスクリプトは、辞書型のデータに対して非常に便利に利用できます。以下は、サブスクリプトを使って辞書型データに動的にアクセスする方法の例です。
struct Settings {
private var config: [String: String] = [:]
// 設定項目へのサブスクリプトアクセス
subscript(key: String) -> String? {
get {
return config[key]
}
set(newValue) {
config[key] = newValue
}
}
}
var settings = Settings()
// 設定の追加
settings["theme"] = "dark"
settings["font"] = "Arial"
// 設定の取得
print(settings["theme"] ?? "default") // "dark"
print(settings["font"] ?? "default") // "Arial"解説
この Settings 構造体では、アプリケーションの設定項目を管理するためにサブスクリプトを使用しています。キーを指定することで、対応する設定項目を動的に追加したり、取得したりすることが可能です。これにより、設定項目の追加・削除・変更を直感的に行えるようになります。
2. カスタムデータ構造へのアクセス
次に、カスタムデータ構造へのアクセスにサブスクリプトを活用する例を紹介します。以下では、サブスクリプトを使ってカスタムデータ型 Vector3D を操作しています。
struct Vector3D {
var x: Double
var y: Double
var z: Double
// サブスクリプトで軸ごとのアクセスを提供
subscript(index: Int) -> Double? {
get {
switch index {
case 0: return x
case 1: return y
case 2: return z
default: return nil
}
}
set(newValue) {
guard let value = newValue else { return }
switch index {
case 0: x = value
case 1: y = value
case 2: z = value
default: break
}
}
}
}
var vector = Vector3D(x: 1.0, y: 2.0, z: 3.0)
// 値の取得
print(vector[0] ?? 0.0) // 1.0
print(vector[1] ?? 0.0) // 2.0
print(vector[2] ?? 0.0) // 3.0
// 値の設定
vector[0] = 10.0
print(vector[0] ?? 0.0) // 10.0解説
Vector3D 構造体は、3次元ベクトルを管理しています。サブスクリプトを使用することで、x、y、z 軸に対応する値を配列のようにインデックスでアクセスできるようにしています。このような実装により、ベクトルの各要素に対して簡単にアクセスし、必要に応じて値を更新することが可能です。
3. カスタム計算結果へのアクセス
サブスクリプトは、カスタム計算結果を返す場合にも使用できます。例えば、あるプロパティの計算結果に基づいて特定の値を返す場面では、サブスクリプトを使って動的に計算結果を提供することが可能です。
struct TemperatureConverter {
private var celsius: Double
init(celsius: Double) {
self.celsius = celsius
}
// サブスクリプトで温度変換を提供
subscript(scale: String) -> Double? {
switch scale {
case "Fahrenheit":
return (celsius * 9/5) + 32
case "Kelvin":
return celsius + 273.15
default:
return nil
}
}
}
let temp = TemperatureConverter(celsius: 25.0)
print(temp["Fahrenheit"] ?? 0.0) // 77.0
print(temp["Kelvin"] ?? 0.0) // 298.15解説
この TemperatureConverter 構造体では、サブスクリプトを使って摂氏温度を異なる温度単位（華氏やケルビン）に変換しています。scale に基づいて動的に計算結果を返すため、外部からはインデックスのように指定するだけで、必要な温度変換結果を取得できます。
応用例のメリット
これらの応用例は、データに対して柔軟かつ効率的なアクセスを提供し、コードの複雑さを軽減します。さらに、サブスクリプトを使うことで、クラスや構造体の内部ロジックを外部から見えにくくし、データの安全性とカプセル化を強化できます。
次のセクションでは、マルチパラメータを使用したサブスクリプトについて解説します。
マルチパラメータのサブスクリプト
サブスクリプトでは、複数の引数を受け取ることができ、これによりさらに柔軟なデータアクセスを実現できます。通常のサブスクリプトは1つの引数でアクセスすることが多いですが、マルチパラメータを使用すれば、2次元配列や複数条件をもとにしたデータ取得が可能になります。
マルチパラメータのサブスクリプトの例
次に、マルチパラメータを使用して2次元のグリッドデータにアクセスできるサブスクリプトの例を紹介します。
struct Grid {
private var data: [[Int]]
init(rows: Int, columns: Int) {
data = Array(repeating: Array(repeating: 0, count: columns), count: rows)
}
// 複数の引数を受け取るサブスクリプト
subscript(row: Int, column: Int) -> Int {
get {
return data[row][column]
}
set(newValue) {
data[row][column] = newValue
}
}
}
var grid = Grid(rows: 3, columns: 3)
// 値の取得
print(grid[1, 1]) // 0
// 値の設定
grid[1, 1] = 42
print(grid[1, 1]) // 42解説
この Grid 構造体は、2次元配列 data を持ち、サブスクリプトを使って行 (row) と列 (column) を指定してアクセスできるようになっています。2つの引数をサブスクリプトで受け取り、該当する位置のデータを取得したり、設定したりすることができます。
- 読み取り:
getブロックでは、行と列を指定してデータを返します。 - 書き込み:
setブロックでは、指定された位置に新しい値を設定します。
利用シーン
- 2次元配列の管理: マルチパラメータのサブスクリプトは、2次元配列や行列のようなデータ構造に非常に有用です。行と列を指定することで簡単に値にアクセスできます。
- 座標や地図データの操作: 座標系を扱うアプリケーションやゲームで、2次元や3次元の位置情報にアクセスする際にも役立ちます。
複数の引数を使った柔軟な操作
サブスクリプトに複数の引数を渡すことで、データ構造へのアクセスがより柔軟になります。また、これにより配列や辞書以外のカスタムデータ構造も簡単に扱えるようになります。例えば、3次元配列や多次元データ構造を管理する場面でも同じようにサブスクリプトを使うことができます。
高度な例：複数条件のデータ取得
次に、より高度な例として、複数の条件に基づいて値を取得するサブスクリプトを見てみましょう。
struct Person {
private var details: [String: [String: String]] = [
"John": ["age": "30", "city": "New York"],
"Alice": ["age": "25", "city": "San Francisco"]
]
// マルチパラメータのサブスクリプト
subscript(name: String, detail: String) -> String? {
get {
return details[name]?[detail]
}
}
}
let person = Person()
// 値の取得
print(person["John", "age"] ?? "Not found") // "30"
print(person["Alice", "city"] ?? "Not found") // "San Francisco"解説
この例では、Person 構造体にサブスクリプトを実装し、2つの引数（名前と詳細項目）を使って人物の情報を取得しています。これは、複数のキーに基づいて動的にデータを取得する場合に非常に便利です。ここでは、name と detail を指定することで、辞書の中の辞書にアクセスしています。
マルチパラメータサブスクリプトのメリット
- 複雑なデータ構造の管理: マルチパラメータを使うことで、複数条件に基づいた柔軟なデータアクセスが可能になります。
- データの直感的な操作: サブスクリプトで複数の引数を使用すると、コーディングがシンプルになり、データアクセスがより直感的になります。
次のセクションでは、クラスと構造体の違いにおけるサブスクリプトの挙動について解説します。
クラスと構造体の違いにおけるサブスクリプトの挙動
Swiftでは、クラスと構造体の両方にサブスクリプトを実装することができますが、これら2つの型にはいくつかの重要な違いがあります。特に、クラスは参照型であり、構造体は値型であるという点で、サブスクリプトを使った操作における挙動が異なります。この違いを理解することは、サブスクリプトを適切に活用するために重要です。
クラスのサブスクリプトの挙動
クラスは参照型であり、同じインスタンスを複数の変数から参照できます。クラスに対してサブスクリプトを使用した場合、インスタンスのプロパティが変更されると、それを参照している他の変数にも変更が反映されます。
クラスのサブスクリプトの例
class Person {
var data: [String: String] = ["name": "John", "city": "New York"]
subscript(key: String) -> String? {
get {
return data[key]
}
set(newValue) {
data[key] = newValue
}
}
}
let person1 = Person()
let person2 = person1
person1["name"] = "Alice"
print(person2["name"] ?? "No data") // "Alice"解説
この例では、person1 と person2 は同じ Person クラスのインスタンスを参照しています。そのため、person1 でサブスクリプトを使用して "name" を "Alice" に変更すると、person2 でも同じ変更が反映されます。これは、クラスが参照型であるため、同じメモリ領域を共有していることによります。
構造体のサブスクリプトの挙動
一方、構造体は値型であり、コピーが作成されます。サブスクリプトを使って構造体のプロパティを変更しても、それが他の変数に影響を与えることはありません。これは、構造体がコピーされて操作されるためです。
構造体のサブスクリプトの例
struct Point {
var coordinates: [String: Int] = ["x": 0, "y": 0]
subscript(key: String) -> Int? {
get {
return coordinates[key]
}
set(newValue) {
coordinates[key] = newValue
}
}
}
var point1 = Point()
var point2 = point1
point1["x"] = 10
print(point2["x"] ?? 0) // 0 (変更は反映されない)解説
この例では、point1 と point2 はそれぞれ Point 構造体の異なるコピーです。point1 でサブスクリプトを使って "x" の値を変更しても、point2 の値には影響しません。これは、構造体が値型であり、操作が実行されるたびに独立したコピーが作られるためです。
クラスと構造体の違いのまとめ
- クラス（参照型）: 同じインスタンスを複数の変数から参照可能。1つの変数でプロパティを変更すると、他の変数にも影響が及ぶ。
- 構造体（値型）: コピーされるため、1つの変数で変更しても他の変数には影響が及ばない。
この違いを理解することで、サブスクリプトを使用する際に意図通りの挙動を得られるようになります。たとえば、クラスでは複数のオブジェクトが同じデータを共有する場合に便利ですが、構造体ではコピーを作成して安全にデータを分離する場合に適しています。
次のセクションでは、実際のプロジェクトでサブスクリプトを活用するシーンについて解説します。
実際のプロジェクトでの利用シーン
サブスクリプトは、実際のプロジェクトにおいてデータへのアクセスを効率化し、直感的なコードを実現するために広く活用されています。ここでは、サブスクリプトを使用することでプロジェクトの管理や操作を簡素化できる具体的なシーンをいくつか紹介します。
1. データ構造のカプセル化
サブスクリプトは、クラスや構造体の内部データを外部から安全に操作できるようにするために役立ちます。例えば、配列や辞書を使った複雑なデータ構造を、サブスクリプトを用いることで簡単に操作できるようにカプセル化することができます。これにより、ユーザーはデータの内部構造に関する詳細を意識せずに、直感的にアクセスできるようになります。
例: 設定管理システム
アプリケーションの設定管理システムにおいて、設定項目にアクセスするためにサブスクリプトを利用できます。これにより、設定項目に対してキーを指定して値を取得・更新でき、設定の管理が簡単になります。
struct Settings {
private var config: [String: Any] = [:]
subscript(key: String) -> Any? {
get {
return config[key]
}
set(newValue) {
config[key] = newValue
}
}
}
var appSettings = Settings()
// 設定の追加
appSettings["theme"] = "dark"
appSettings["volume"] = 0.8
// 設定の取得
print(appSettings["theme"] ?? "default") // "dark"
print(appSettings["volume"] ?? 1.0) // 0.8このように、設定項目の管理をサブスクリプトで抽象化することで、コードの可読性を向上させ、開発者が複雑な操作をする必要がなくなります。
2. カスタムデータ構造の操作
サブスクリプトを用いることで、カスタムデータ構造に対して配列や辞書のようにアクセスできるため、プロジェクト内でのデータ操作がシンプルになります。例えば、ゲーム開発では座標系データやグリッドベースのシステムでサブスクリプトを活用することができます。
例: 2Dグリッドベースのゲーム
ゲーム開発では、2次元グリッドの管理にサブスクリプトを活用することで、プレイヤーの位置やオブジェクトの配置などを効率的に管理できます。
struct GameBoard {
private var grid: [[Int]]
init(rows: Int, columns: Int) {
grid = Array(repeating: Array(repeating: 0, count: columns), count: rows)
}
subscript(row: Int, column: Int) -> Int {
get {
return grid[row][column]
}
set(newValue) {
grid[row][column] = newValue
}
}
}
var board = GameBoard(rows: 10, columns: 10)
// プレイヤーの位置を設定
board[5, 5] = 1
// プレイヤーの位置を取得
print(board[5, 5]) // 1この例では、2次元グリッドのセルに簡単にアクセスできるため、プレイヤーの動きやオブジェクトの配置管理が容易に行えます。これにより、ゲームの複雑なデータ管理が大幅に簡素化されます。
3. APIレスポンスのデータ抽象化
サブスクリプトは、APIレスポンスやJSONデータの抽象化にも役立ちます。サブスクリプトを使って、キーに基づいてデータを取得したり操作したりすることで、APIからのレスポンスを柔軟に扱うことができます。
例: APIレスポンスの処理
APIから取得したデータを扱う際、サブスクリプトを用いて辞書のようにデータにアクセスすることで、可読性の高いコードを実現できます。
struct ApiResponse {
private var response: [String: Any]
init(response: [String: Any]) {
self.response = response
}
subscript(key: String) -> Any? {
return response[key]
}
}
let apiData = ApiResponse(response: ["status": "success", "data": ["id": 123, "name": "Product A"]])
// レスポンスのステータスを確認
print(apiData["status"] ?? "no status") // "success"
// データの内容を取得
if let data = apiData["data"] as? [String: Any] {
print(data["name"] ?? "no name") // "Product A"
}このように、サブスクリプトを活用してAPIレスポンスを抽象化することで、開発者はデータの構造を意識せずに扱えるようになり、処理の効率が向上します。
まとめ
実際のプロジェクトでは、サブスクリプトを活用することで、データへのアクセスをシンプルにし、コードの可読性とメンテナンス性を向上させることができます。設定管理、ゲームのグリッドデータ操作、APIレスポンスの抽象化など、さまざまなシーンでサブスクリプトは強力なツールとして機能します。次のセクションでは、これまでのポイントをまとめます。
まとめ
本記事では、Swiftにおけるサブスクリプトの活用方法について、基本的な構文から実際のプロジェクトでの応用例までを詳しく解説しました。サブスクリプトを使うことで、クラスや構造体に対して配列や辞書のように直感的にアクセスできる機能を追加でき、データの操作がよりシンプルで可読性の高いものになります。
また、クラスと構造体の違いや、読み取り専用・書き込み可能なサブスクリプト、複数パラメータを受け取る応用例を通して、サブスクリプトがいかに柔軟に活用できるかを学びました。プロジェクトに合わせてこれらのテクニックを適用することで、コードの効率性や保守性が向上するでしょう。
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