TypeScriptにおいて、関数オーバーロードは、異なる型の引数を受け取る関数を効率的に設計できる強力な機能です。さらに、ユニオン型を組み合わせることで、複数の型を柔軟に扱い、型安全性を保ちながら汎用性の高いコードを書くことが可能になります。本記事では、TypeScriptのユニオン型を使った関数オーバーロードの実装方法について、基礎から応用まで詳しく解説します。これにより、関数の柔軟性とコードの可読性を向上させるスキルを習得できるでしょう。
関数オーバーロードの概要
関数オーバーロードとは、同じ名前の関数を複数定義し、それぞれ異なる引数の型や数に応じて異なる処理を行わせる仕組みです。これは、1つの関数で複数の異なるケースを扱いたい場合に非常に便利です。TypeScriptでは、関数のオーバーロードを定義することで、異なる型や引数に対して適切な処理を行う関数を作成できます。例えば、数値を受け取る場合と文字列を受け取る場合で異なる処理をしたいとき、オーバーロードを活用することで関数の柔軟性が向上します。
TypeScriptのユニオン型とは
ユニオン型は、TypeScriptにおいて複数の型を1つの型として扱うことができる機能です。特定の変数や引数が複数の異なる型のいずれかを受け入れる場合に使用されます。ユニオン型を定義するには、|
(パイプ)を使って、例えば「number | string
」のように複数の型を並べます。これにより、その変数が数値または文字列のいずれかを取ることができることを示します。
ユニオン型の使用例
function printValue(value: number | string): void {
if (typeof value === "number") {
console.log("数値: " + value);
} else {
console.log("文字列: " + value);
}
}
この例では、引数value
が数値か文字列かによって異なる処理が行われています。ユニオン型を使うことで、コードの柔軟性が向上し、異なる型に対応した関数を簡単に作成できるようになります。
ユニオン型を使用した関数オーバーロードの実装
TypeScriptでは、ユニオン型を活用して関数オーバーロードを柔軟に実装することができます。関数オーバーロードは、同じ関数名で複数の引数型に対応できる機能ですが、ユニオン型を組み合わせることでさらに幅広い型に対応可能な関数を作ることができます。
ユニオン型を使用した関数オーバーロードの基本例
まず、オーバーロードの宣言を行い、その後に実装を定義します。例として、文字列や数値の配列を受け取り、それらを結合して出力する関数を作成します。
// オーバーロードの宣言
function combine(input: number[]): number;
function combine(input: string[]): string;
// 実際の実装
function combine(input: number[] | string[]): number | string {
if (typeof input[0] === "number") {
return input.reduce((acc, cur) => acc + cur, 0); // 数値の配列を合計
} else {
return input.join(""); // 文字列の配列を結合
}
}
// 使用例
console.log(combine([1, 2, 3])); // 出力: 6
console.log(combine(["a", "b", "c"])); // 出力: abc
実装の解説
このコードでは、combine
関数は引数としてnumber[]
またはstring[]
のいずれかを受け取ります。関数オーバーロードによって、引数の型に応じた異なる処理が行われます。具体的には、数値の配列ならその合計を、文字列の配列ならその結合結果を返すように設計されています。関数の実装ではユニオン型を使い、型ガード(typeof
)を利用して型の違いに応じた処理を行っています。
このようにユニオン型とオーバーロードを組み合わせることで、柔軟で拡張性の高い関数を実装することができます。
関数オーバーロードのパフォーマンスへの影響
TypeScriptにおける関数オーバーロードは、開発者にとって便利なツールですが、パフォーマンスへの影響にも注意が必要です。特に、関数オーバーロードを大量に使う場合や、ユニオン型と併用して複雑な処理を行う場合は、実行時の効率性を考慮することが大切です。
コンパイル時の影響
TypeScript自体は型システムがコンパイル時に動作し、オーバーロードの処理もコンパイル時に行われます。したがって、JavaScriptにコンパイルされた後のコードは、オーバーロードの有無に関わらず、通常のJavaScript関数として動作します。これにより、実行時のパフォーマンスに大きな影響は与えません。ただし、オーバーロードの実装が複雑であれば、コンパイル時間が増加する可能性があります。
実行時のパフォーマンス
実行時にパフォーマンスに影響を与える可能性があるのは、オーバーロードされた関数内部での型ガードや条件分岐の部分です。例えば、ユニオン型を使用した場合、引数の型を確認する処理が増えるため、その分の計算コストが発生します。
function processInput(input: number | string): string {
if (typeof input === "number") {
return `Number: ${input}`;
} else {
return `String: ${input}`;
}
}
このような型判定を行う処理が複雑になればなるほど、処理時間も増えるため、実行時のパフォーマンスに影響を与える可能性があります。
パフォーマンスの最適化方法
オーバーロードを使用する際にパフォーマンスを最適化するためには、以下の点を考慮する必要があります。
- 型ガードの最小化: 型判定や条件分岐を必要最低限に抑えることで、パフォーマンスの低下を防ぎます。
- 関数のシンプル化: オーバーロードされた関数を複雑にしすぎないことが重要です。場合によっては、関数を分割するなどして責務を明確にするのも一つの方法です。
- 適切なデータ構造の選択: 特にパフォーマンスが重要な場合、配列やオブジェクトなどのデータ構造の選択に注意を払い、処理効率の高いものを選びます。
総じて、関数オーバーロードによるパフォーマンスの影響は通常大きくはありませんが、大規模なプロジェクトでは最適化を意識することが必要です。
実際の開発での使用例
TypeScriptの関数オーバーロードは、日常的なソフトウェア開発で非常に役立つ場面が多々あります。特に、異なる型の引数に対して異なる処理を行う必要があるケースでは、関数オーバーロードがコードをシンプルにし、柔軟に対応することを可能にします。
APIレスポンス処理の例
Webアプリケーションで、APIから受け取るレスポンスの形式が状況によって異なる場合があります。例えば、ユーザー情報を取得するAPIが、単一のユーザー情報または複数のユーザー情報を返すことがあります。こうした場合、関数オーバーロードを使って、どちらのケースにも対応できる関数を実装できます。
// ユーザー情報の型定義
interface User {
id: number;
name: string;
}
// 関数オーバーロードの定義
function getUserInfo(id: number): User;
function getUserInfo(ids: number[]): User[];
// 実装
function getUserInfo(idOrIds: number | number[]): User | User[] {
if (Array.isArray(idOrIds)) {
// 複数のユーザー情報を返す
return idOrIds.map(id => ({ id, name: `User${id}` }));
} else {
// 単一のユーザー情報を返す
return { id: idOrIds, name: `User${idOrIds}` };
}
}
// 使用例
const singleUser = getUserInfo(1); // 出力: { id: 1, name: "User1" }
const multipleUsers = getUserInfo([1, 2, 3]); // 出力: [{ id: 1, name: "User1" }, { id: 2, name: "User2" }, { id: 3, name: "User3" }]
この例では、getUserInfo
関数が単一のIDまたはIDの配列を受け取り、それぞれに応じて適切な型のレスポンスを返すように設計されています。オーバーロードされた関数の使い方により、異なるパターンのレスポンス処理を1つの関数で管理できるため、コードの再利用性とメンテナンス性が向上します。
フォーム入力の検証例
別の実例として、Webフォームの入力データを検証する関数を考えてみます。入力されるデータが異なる場合、例えば数値の入力や文字列の入力に対して、異なる検証処理が必要です。関数オーバーロードを使用すれば、異なる入力形式に対応した検証関数を簡潔に実装できます。
// オーバーロードの定義
function validateInput(value: string): boolean;
function validateInput(value: number): boolean;
// 実装
function validateInput(value: string | number): boolean {
if (typeof value === "string") {
return value.length > 0; // 文字列は空でないことを確認
} else {
return value >= 0; // 数値は0以上であることを確認
}
}
// 使用例
console.log(validateInput("TypeScript")); // 出力: true
console.log(validateInput(123)); // 出力: true
console.log(validateInput("")); // 出力: false
console.log(validateInput(-10)); // 出力: false
この関数では、引数が文字列であればその長さをチェックし、数値であれば0以上であるかどうかをチェックしています。関数オーバーロードを使うことで、異なる入力形式を一貫して処理できるようになります。
実務での利点
関数オーバーロードは、以下のような利点を開発にもたらします:
- 可読性の向上: 同じ関数名で異なる引数を処理するため、コードが簡潔で直感的になります。
- メンテナンスの容易さ: 1つの関数名で異なる型の処理を管理できるため、メンテナンスがしやすくなります。
- コードの再利用: 汎用的な関数を1つ定義することで、異なるシチュエーションで同じ関数を再利用できます。
このように、TypeScriptの関数オーバーロードは、現実のプロジェクトで非常に役立ち、開発効率を高める強力なツールとなります。
関数オーバーロードと型の安全性
TypeScriptの関数オーバーロードでは、異なる型に対して異なる処理を行えるため、非常に柔軟なコードが書けます。しかし、同時に、型の安全性をどのように保つかが重要なポイントになります。型の安全性を確保することで、コードが意図した通りに動作し、予期せぬバグを防ぐことができます。
型安全性の確保の重要性
型安全性を確保するとは、引数として受け取る型や返り値の型が期待されるものであることを保証することです。TypeScriptは静的型付け言語であり、コンパイル時に型の不整合を検出できるため、型の安全性を担保することが可能です。しかし、関数オーバーロードやユニオン型を使う際には、しっかりとした型チェックを行わないと、期待しない型が渡されたり、誤った返り値が発生する可能性があります。
関数オーバーロードでの型安全性の例
以下は、TypeScriptで関数オーバーロードとユニオン型を使って、型の安全性を保ちながら実装する例です。
// 関数オーバーロードの定義
function processValue(value: number): number;
function processValue(value: string): string;
// 実装
function processValue(value: number | string): number | string {
if (typeof value === "number") {
return value * 2; // 数値の場合は2倍にする
} else if (typeof value === "string") {
return value.toUpperCase(); // 文字列の場合は大文字に変換する
}
}
// 使用例
const doubledNumber = processValue(5); // 出力: 10
const upperCaseString = processValue("typescript"); // 出力: TYPESCRIPT
この例では、processValue
関数が引数に応じて適切な処理を行うため、型の安全性が保たれています。もし、型ガード(typeof
チェック)を行わなければ、数値や文字列以外の型が処理される可能性があり、予期しない動作が発生する可能性が高まります。
型ガードの活用
関数オーバーロードとユニオン型を組み合わせる際、型ガードを使用することで、型安全性を確保します。TypeScriptの型ガードは、typeof
やinstanceof
を使って引数の型をチェックし、処理を安全に分岐する仕組みです。
function printInfo(value: string | Date): string {
if (typeof value === "string") {
return `String value: ${value}`;
} else if (value instanceof Date) {
return `Date value: ${value.toDateString()}`;
}
}
この例では、typeof
とinstanceof
を用いた型ガードにより、関数が正しい型で処理されることを保証しています。
型の不整合を防ぐためのポイント
関数オーバーロードで型安全性を保つためには、いくつかのポイントに注意する必要があります。
- 適切な型ガードの実装:
typeof
やinstanceof
、カスタム型ガードを利用して、正確に型を判定することで、型の不整合を防ぎます。 - 明示的な型注釈: 関数の引数や返り値に明示的な型注釈を行い、関数の動作が期待通りであることを明確にします。
- オーバーロードの順序に注意: 関数オーバーロードの定義が複数ある場合、より具体的な型のオーバーロードを先に定義し、一般的な型を後に定義することで、型チェックが正しく行われるようにします。
型エラーとトラブルシューティング
もし型エラーが発生した場合、TypeScriptのコンパイラはエラーメッセージを通じて詳細な情報を提供してくれます。エラーの内容に従い、関数オーバーロードや型ガードの実装を見直すことで、問題を迅速に解決することができます。
総じて、型の安全性を確保することで、TypeScriptの強力な型システムを活かしつつ、バグの少ない堅牢なコードを書くことが可能になります。
関数オーバーロードのデバッグ方法
TypeScriptにおける関数オーバーロードは、コードの柔軟性を高める一方で、複雑な実装になるとデバッグが難しくなることもあります。特にユニオン型や多くのオーバーロードを組み合わせた場合、型の判定や処理の分岐が増え、デバッグが重要なステップとなります。ここでは、関数オーバーロードのデバッグ方法と、一般的なエラーの解消法について解説します。
型ガードの活用によるデバッグ
ユニオン型を使った関数オーバーロードでは、適切な型ガードが正しく動作しているかを確認することが重要です。デバッグ時には、型ガードが正しく機能しているかを確認するために、console.log
やデバッガを利用して、処理が正しい分岐に入っているかチェックします。
function processValue(value: number | string): number | string {
if (typeof value === "number") {
console.log("Processing number:", value); // デバッグ用の出力
return value * 2;
} else {
console.log("Processing string:", value); // デバッグ用の出力
return value.toUpperCase();
}
}
console.log(processValue(5)); // "Processing number: 5" → 10
console.log(processValue("hello")); // "Processing string: hello" → "HELLO"
この例では、console.log
を使用して、引数がどの分岐に入っているかを明示的に表示しています。これにより、デバッグ中に型ガードが期待通りに動作しているかを確認することができます。
型エラーの追跡
TypeScriptでは、コンパイル時に型エラーを検出してくれるため、関数オーバーロードに関連する問題は通常、コンパイル時に特定できます。しかし、特にオーバーロードされた関数の実装が複雑な場合、エラーメッセージがわかりにくいこともあります。その場合、次の手順でエラーを解消していきます。
- エラーメッセージを確認: TypeScriptが出力するエラーメッセージをよく確認します。TypeScriptはエラーの箇所と期待される型を詳細に説明してくれるため、エラーメッセージに従って修正を行います。
- オーバーロードの順序を見直す: より具体的なオーバーロードを先に定義し、一般的なオーバーロードを後に定義しているか確認します。オーバーロードが正しい順序でないと、意図した型がマッチしない場合があります。
// より具体的な型のオーバーロードを先に
function processInput(value: number): number;
function processInput(value: string): string;
function processInput(value: number | string): number | string {
if (typeof value === "number") {
return value * 2;
} else {
return value.toUpperCase();
}
}
- 型の確認と注釈: 明示的に型注釈を追加することで、TypeScriptコンパイラに対して意図を明確に伝えることができます。型注釈がない場合、推論によって意図しない動作を引き起こすことがあるため、特に複雑な関数オーバーロードでは型注釈を積極的に活用します。
条件分岐のデバッグと最適化
関数オーバーロードでは、条件分岐が多くなるほどデバッグが複雑になります。そのため、条件分岐が増えすぎないようにすることも重要です。冗長な条件分岐が発生している場合は、以下のようにリファクタリングを検討します。
// 冗長な条件分岐
function handleInput(value: number | string): void {
if (typeof value === "number") {
console.log("Number:", value);
} else if (typeof value === "string") {
console.log("String:", value);
}
}
// リファクタリング後
function handleInput(value: number | string): void {
console.log(typeof value === "number" ? "Number:" : "String:", value);
}
リファクタリングすることで、デバッグのしやすさやコードの読みやすさが向上し、誤りが少なくなります。
一般的なエラーとその解決策
- オーバーロードと型の不一致:
- 例えば、関数オーバーロードの引数や戻り値の型が一致しない場合、型エラーが発生します。この問題は、明示的な型注釈とオーバーロードの順序を確認することで解決できます。
- ユニオン型の未処理ケース:
- ユニオン型のすべてのケースを処理していない場合、実行時エラーが発生する可能性があります。すべての型に対して処理を行うか、
never
型を利用して未処理ケースを明示的に示すことが推奨されます。
- 型推論の誤り:
- TypeScriptの型推論が意図した通りに機能しない場合があります。その場合、明示的に型を指定することで、意図通りの動作を保証します。
総じて、関数オーバーロードをデバッグする際には、適切な型ガード、型注釈の使用、条件分岐の整理を行うことで、効率的に問題を特定し、解決できます。
応用編:ユニオン型を使用した複雑な関数オーバーロード
TypeScriptのユニオン型と関数オーバーロードを組み合わせることで、単純な型の処理だけでなく、複雑なデータ構造や高度なロジックを扱う関数も柔軟に実装できます。このセクションでは、より高度なユニオン型の活用方法や、複雑なシナリオに対応する関数オーバーロードの実装方法を紹介します。
ユニオン型を使った複雑な関数オーバーロードの例
まず、複雑なデータ構造に対して、ユニオン型と関数オーバーロードを使って柔軟に処理を行う例を考えてみましょう。ここでは、ユーザー情報を管理するシステムで、ユーザーのデータが異なる形式で提供される場合に、適切な処理を行う関数を実装します。
// ユーザーの基本データ
interface User {
id: number;
name: string;
}
// 拡張ユーザー情報
interface AdminUser extends User {
permissions: string[];
}
// オーバーロードの定義
function getUserInfo(user: User): string;
function getUserInfo(user: AdminUser): string[];
// 実装
function getUserInfo(user: User | AdminUser): string | string[] {
if ("permissions" in user) {
// AdminUserの場合は、権限リストを返す
return user.permissions;
} else {
// 通常のUserの場合は、名前を返す
return `User: ${user.name}`;
}
}
// 使用例
const regularUser: User = { id: 1, name: "John Doe" };
const adminUser: AdminUser = { id: 2, name: "Jane Smith", permissions: ["read", "write"] };
console.log(getUserInfo(regularUser)); // 出力: "User: John Doe"
console.log(getUserInfo(adminUser)); // 出力: ["read", "write"]
実装の解説
この例では、通常のユーザー (User
) と管理者ユーザー (AdminUser
) を区別して処理するために、ユニオン型を使用しています。AdminUser
には追加のプロパティであるpermissions
があり、これを判別するためにin
演算子を使用しています。
関数オーバーロードにより、通常のユーザーには文字列、管理者ユーザーには権限リスト(文字列配列)を返すように設計されています。これにより、複雑なデータ構造に対しても柔軟かつ型安全な処理が可能です。
リッチなデータ構造を扱う場合の関数オーバーロード
次に、さらに複雑なデータ構造を扱うケースを見てみましょう。例えば、同じIDに基づいて異なる種類のデータを取得するAPIレスポンスの処理を行う関数です。
// レスポンスの型定義
interface Product {
id: number;
name: string;
price: number;
}
interface UserDetails {
id: number;
name: string;
email: string;
}
// オーバーロードの定義
function fetchData(type: "product", id: number): Product;
function fetchData(type: "user", id: number): UserDetails;
// 実装
function fetchData(type: "product" | "user", id: number): Product | UserDetails {
if (type === "product") {
return { id, name: "Laptop", price: 1200 }; // 商品データを返す
} else {
return { id, name: "John Doe", email: "john@example.com" }; // ユーザーデータを返す
}
}
// 使用例
const productData = fetchData("product", 1); // 出力: { id: 1, name: "Laptop", price: 1200 }
const userData = fetchData("user", 2); // 出力: { id: 2, name: "John Doe", email: "john@example.com" }
この例では、fetchData
関数がリクエストの種類に応じて異なるデータ構造を返しています。"product"
というリクエストタイプであればProduct
型のデータが、"user"
というリクエストタイプであればUserDetails
型のデータが返されるようになっています。
ユニオン型を使った動的なデータ処理
さらに、動的なデータ処理にもユニオン型と関数オーバーロードが有効です。次の例では、複数の異なる型のデータを動的に受け取り、それに応じた処理を行います。
// 異なる型のデータを扱うユニオン型
type InputData = number | string | boolean;
// オーバーロードの定義
function processInput(data: number): string;
function processInput(data: string): string;
function processInput(data: boolean): string;
// 実装
function processInput(data: InputData): string {
if (typeof data === "number") {
return `数値データ: ${data}`;
} else if (typeof data === "string") {
return `文字列データ: ${data}`;
} else {
return `ブールデータ: ${data}`;
}
}
// 使用例
console.log(processInput(42)); // 出力: "数値データ: 42"
console.log(processInput("Hello")); // 出力: "文字列データ: Hello"
console.log(processInput(true)); // 出力: "ブールデータ: true"
このように、複数の型を扱う動的な処理を行う場合でも、ユニオン型と関数オーバーロードを使うことで、柔軟かつ安全な処理を実現できます。
まとめ
複雑なデータ構造や多様な型の処理を行う際、ユニオン型と関数オーバーロードは非常に強力なツールとなります。これにより、コードの再利用性やメンテナンス性が向上し、型安全性を保ちながら柔軟な開発が可能となります。応用編では、より複雑なシナリオに対する実装例を紹介しましたが、実際のプロジェクトでもこの技術は非常に役立つでしょう。
関数オーバーロードを避けるべきケース
関数オーバーロードは非常に便利で柔軟なツールですが、全てのケースにおいて最適な解決策ではありません。場合によっては、オーバーロードを使用することでコードが複雑化し、メンテナンスや理解が難しくなることがあります。ここでは、関数オーバーロードを避けるべきケースと、代替手法について考察します。
1. 単純な処理で済む場合
関数オーバーロードは、異なる型や処理をまとめて1つの関数で扱う際に非常に役立ちますが、処理が非常にシンプルな場合には、オーバーロードを使うことが過剰になる場合があります。たとえば、特定の型に対する処理が非常に簡単な場合、ユニオン型と単純な条件分岐で十分なことが多いです。
// オーバーロードを使わないシンプルな例
function processData(input: number | string): string {
return typeof input === "number" ? `Number: ${input}` : `String: ${input}`;
}
このように、簡単な条件分岐だけで目的を達成できる場合には、関数オーバーロードを使用する必要はなく、シンプルな実装の方が可読性やメンテナンス性が向上します。
2. 複数のオーバーロードが増えすぎる場合
関数オーバーロードを多用しすぎると、関数のバリエーションが増えすぎて複雑化し、将来的にメンテナンスが困難になることがあります。特に、多くの引数型や返り値を処理する必要がある場合、オーバーロードの定義が複雑化していきます。これにより、他の開発者がコードを理解するのに時間がかかったり、バグが発生しやすくなったりします。
// オーバーロードが複雑化しすぎた例
function handleRequest(method: "GET", url: string): Response;
function handleRequest(method: "POST", url: string, data: object): Response;
function handleRequest(method: "PUT", url: string, data: object): Response;
function handleRequest(method: "DELETE", url: string): Response;
// 代替案としてオブジェクトリテラルを使用
function handleRequest({ method, url, data }: { method: string; url: string; data?: object }): Response {
// 実装
return new Response();
}
この場合、オーバーロードを避けて、オプションの引数としてオブジェクトリテラルを受け取るデザインにすることで、オーバーロードの複雑さを回避し、コードのメンテナンス性を向上させることができます。
3. 関数の責務が曖昧になる場合
関数オーバーロードを使用すると、1つの関数が複数の異なる責務を持つことになりがちです。これは、関数の目的が曖昧になり、可読性やテストの難易度が上がる原因となります。関数は1つの明確な責務を持つべきであり、オーバーロードを使って複数の異なる責務を持たせると、関数が大きくなりすぎるリスクがあります。
// 責務が混在した関数
function handleData(input: number | string): string | number {
if (typeof input === "number") {
return input * 2; // 数値の処理
} else {
return input.toUpperCase(); // 文字列の処理
}
}
このようなケースでは、関数を分割し、それぞれが明確な責務を持つようにすることが推奨されます。
function processNumber(input: number): number {
return input * 2;
}
function processString(input: string): string {
return input.toUpperCase();
}
これにより、各関数の役割が明確になり、テストやメンテナンスが容易になります。
4. 関数オーバーロードの管理が困難な場合
大規模なプロジェクトでは、オーバーロードされた関数が多すぎると、引数や戻り値の管理が非常に複雑になります。特に、異なる開発者が関数を使用する場合、どのオーバーロードが適切なのかがわかりにくくなることがあります。さらに、IDEでの補完や型チェックが意図通りに動作しない場合もあります。
このような場合、インターフェースやジェネリクスを使った設計に切り替えることが、より管理しやすいアプローチとなります。
// ジェネリクスを使った例
function processData<T>(input: T): T {
return input;
}
ジェネリクスを使用すると、型の安全性を維持しつつ、より柔軟でシンプルな関数定義が可能になります。
まとめ
関数オーバーロードは強力なツールですが、すべてのケースで使用するのは最適ではありません。オーバーロードを使うことでかえってコードが複雑化したり、責務が曖昧になったりする場合があります。そのため、単純な処理にはユニオン型やオブジェクトリテラル、ジェネリクスを使用するなど、より簡潔で分かりやすい方法を選択することが望ましいです。適切なケースでオーバーロードを使うことで、コードの品質と保守性を高めることができます。
演習問題:ユニオン型と関数オーバーロードの実装
ここまで、TypeScriptのユニオン型と関数オーバーロードについて学びました。理解を深めるために、実際に手を動かしてコードを書いてみましょう。以下の演習問題を通じて、ユニオン型と関数オーバーロードの実装スキルを強化してください。
演習1: 商品情報を取得する関数の実装
次の要件に基づいて、関数オーバーロードを使って商品情報を取得する関数を実装してください。
要件:
- 関数
getProductInfo
を定義し、引数として商品のID(数値)または商品の名前(文字列)を受け取ります。 - 商品のIDを渡された場合は、商品の詳細(
name
とprice
)を返します。 - 商品の名前を渡された場合は、商品の価格だけを返します。
期待する動作:
const productById = getProductInfo(1); // 出力: { name: "Laptop", price: 1200 }
const productByName = getProductInfo("Laptop"); // 出力: 1200
ヒント: 関数オーバーロードと型ガード(typeof
)を使って、それぞれの型に応じた処理を行いましょう。
演習2: 異なるデータ型を処理する関数
次に、数値・文字列・配列を処理する関数processData
を実装してください。この関数は以下の動作を行います。
要件:
- 数値を受け取った場合は、その数値の2倍を返します。
- 文字列を受け取った場合は、その文字列をすべて大文字にして返します。
- 数値の配列を受け取った場合は、その配列の要素の合計を返します。
期待する動作:
const result1 = processData(5); // 出力: 10
const result2 = processData("hello"); // 出力: "HELLO"
const result3 = processData([1, 2, 3]); // 出力: 6
ヒント: ユニオン型(number | string | number[]
)と型ガードを使って、それぞれのケースに応じた処理を行いましょう。
演習3: APIレスポンスを処理する関数の実装
APIからのレスポンスを処理する関数handleApiResponse
を実装してください。この関数は、次の2つの型のレスポンスを受け取ります。
- ユーザー情報レスポンス:
UserResponse
型。id
とname
を含むオブジェクト。 - エラーレスポンス:
ErrorResponse
型。errorCode
とmessage
を含むオブジェクト。
関数の動作:
- ユーザー情報が渡された場合は、
"User: {name}"
という文字列を返します。 - エラー情報が渡された場合は、
"Error {errorCode}: {message}"
という文字列を返します。
期待する動作:
const userResponse = { id: 1, name: "John Doe" };
const errorResponse = { errorCode: 404, message: "Not Found" };
console.log(handleApiResponse(userResponse)); // 出力: "User: John Doe"
console.log(handleApiResponse(errorResponse)); // 出力: "Error 404: Not Found"
ヒント: in
演算子を使って、オブジェクトがUserResponse
かErrorResponse
かを判定します。
まとめ
これらの演習問題を通じて、TypeScriptにおけるユニオン型と関数オーバーロードの理解を深めることができます。さまざまなデータ型を効率的に処理するためのスキルを磨き、実務で役立つ関数を自信を持って実装できるようにしましょう。
まとめ
本記事では、TypeScriptのユニオン型を使った関数オーバーロードの実装方法について、基礎から応用まで詳しく解説しました。関数オーバーロードの概要や型安全性の確保、パフォーマンスの影響を理解し、実際の開発での使用例や複雑なデータ処理にも対応できるようになりました。また、オーバーロードを避けるべきケースや代替手法も学び、適切な場面でこの機能を活用するための知識を得ました。TypeScriptの強力な型システムを最大限に活用し、柔軟かつメンテナンス性の高いコードを書けるようにしましょう。
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