ビジネス規模に関わらず、リモートデスクトップサービス(RDS)は業務効率を高める上で欠かせない機能です。しかし、Windows Server 2016のRDS環境からWindows Server 2019へ移行する際にライセンス周りで戸惑うケースは多々あります。そこで本記事では、RDSライセンスの正しい移行手順や注意点、そして実運用で役立つ情報をまとめてご紹介します。
RDS CALの基礎知識とライセンスの互換性
RDSを円滑に運用するためには、まずRDS CAL(Client Access License)の仕組みをしっかり理解することが重要です。RDS CALにはユーザー単位の「ユーザーCAL」と端末単位の「デバイスCAL」があり、それぞれ運用環境によって使い分けます。
RDS CALの仕組みとは?
RDS CALを簡単に言うと、リモートデスクトップサービスへアクセスする権利を与えるライセンスです。Windows ServerはOS自体のライセンスとは別に、RDS機能を利用するユーザーまたはデバイスに対して追加のCALが必要になります。
- ユーザーCAL: ユーザー単位でライセンスを割り当てる。1人が複数端末を使うケースが多い場合に有利。
- デバイスCAL: デバイス(PCやシンクライアント端末等)単位でライセンスを割り当てる。共有端末が多い環境などに適している。
バージョン互換性のポイント
RDS CALは「上位のWindows Serverバージョン」には基本的に使えないという重要な制約があります。例えば、Windows Server 2016用のRDS CALは2019サーバーでのRDSアクセスには非対応です。
RDS CALバージョン | アクセス可能なWindows Serverバージョン |
---|---|
Windows Server 2016 RDS CAL | Windows Server 2016まで |
Windows Server 2019 RDS CAL | Windows Server 2019まで |
Windows Server 2022 RDS CAL | Windows Server 2022まで |
上記のように、RDS CALは下位互換のみが認められています。つまり、あるバージョンのCALは同じバージョンかそれ以下のWindows Serverバージョンにのみアクセス可能ということです。
Windows Server 2019へのRDSライセンス移行が必要になるケース
一般的に、以下のようなケースでRDSライセンスの移行またはアップグレードが必要になります。
サーバーOSバージョンアップによる移行
既存のWindows Server 2016をWindows Server 2019にリプレースする際、新しいサーバーOSに合わせてRDS CALもアップグレードまたは新規購入する必要があります。ライセンスを移行せずにそのまま2016のCALを使おうとすると、ライセンス認証エラーが発生してRDS機能が正しく動作しない恐れがあります。
新しいサーバー群の追加導入
サーバーを増強したり、新規に追加導入する際に2019を採用するケースもあるでしょう。このときも、古いバージョンのRDS CALでは2019サーバーへの接続が認められません。結果として、新規に2019用のRDS CALを手配しなければならない状況になります。
運用要件の変化に伴うCAL形態の見直し
利用ユーザー数が増えたり、端末形態が変わったりする場合は、ユーザーCALからデバイスCALへ、あるいはデバイスCALからユーザーCALへの切り替えを検討することがあります。これに合わせてサーバーOSも刷新するときには、ライセンス種別とバージョンの両方を考慮して再設計する必要があります。
RDSライセンスをアップグレードまたは再購入する手順
実際にWindows Server 2016から2019へRDSライセンスを移行する場合、主に「アップグレード」か「新規購入」という2つの選択肢があります。以下ではその手順例を詳しく見ていきます。
1. ボリュームライセンスサービスセンターでの手続き
マイクロソフトのボリュームライセンス契約を結んでいる場合は、ライセンス認証や管理を「ボリュームライセンスサービスセンター(VLSC)」で一括して行えます。VLSCで2019向けのRDS CALを追加またはアップグレードするには、契約内容に基づいたライセンス購入手続きが必要です。
VLSCでの主な操作手順
- ボリュームライセンスサービスセンターにログインする
- 「ライセンス」または「ダウンロードとキー」等の項目から保有ライセンス情報を確認
- 追加購入またはアップグレードオプションが適用できるライセンスを選択
- 必要なCAL数や種類(ユーザーCAL/デバイスCAL)を指定して購入手続きを完了
- 新しいRDS CALのキー情報を取得し、後述のライセンス マネージャーに登録
2. ライセンスサーバーの構築・役割のインストール
Windows Server 2019でRDSライセンスを正しく管理するためには、ライセンスサーバーの役割をインストールし、CALを認証する必要があります。ここではPowerShellを使ったインストール例を示します。
# PowerShellを管理者権限で実行
Install-WindowsFeature RDS-Licensing -IncludeAllSubFeature -Restart
上記コマンドを実行すると、リモートデスクトップライセンス関連の役割がインストールされます。必要に応じてGUIの「サーバーマネージャー」からインストールすることも可能です。
ライセンスサーバーのアクティブ化
役割インストール後に「リモートデスクトップライセンスマネージャー」を起動し、ライセンスサーバーをアクティブ化します。アクティブ化ウィザードでは「自動登録」「Webブラウザ」「電話」などの認証方法が選択できますが、オンライン環境がある場合は「自動登録」が簡単です。
アクティブ化が完了すると、ライセンスサーバーが正式に稼働し、新規で取得したRDS CALをインストール可能になります。
3. 新しいRDS CALのインストールと割り当て
ライセンスサーバーをアクティブ化したら、取得したWindows Server 2019用のRDS CALを登録します。具体的には以下の手順です。
- 「リモートデスクトップライセンスマネージャー」を開く
- 対象のライセンスサーバーを右クリック →「ライセンスのインストール ウィザード」
- 表示されるウィザードで認証方法とCAL種類を選択
- VLSCまたは購入先から提供されたライセンスキーを入力
- インストール完了後、ユーザーCAL / デバイスCALが正しく表示されることを確認
旧ライセンスをどう扱うべきか
Windows Server 2016用のRDS CALはWindows Server 2019には流用できないため、単純に再利用はできません。しかし、以下の点を考慮すると運用やコスト面で有利になるケースがあります。
旧サーバーの再構築や検証環境での活用
2016サーバーを引き続き運用する場合や、別の環境で検証用に使う場合は、2016のRDS CALを活かすことが可能です。何らかの用途で2016を維持するなら、ライセンスを破棄する必要はありません。
Software Assuranceによるアップグレード権
MicrosoftのボリュームライセンスでSoftware Assurance(SA)を付与している場合、契約期間内であれば新バージョンへのアップグレード権が認められることがあります。購入時にSAを含めていれば、2016から2019へのバージョンアップが追加費用を抑えて可能な場合もあります。ライセンスの形態や契約時期、製品ライフサイクルにも依存するので、事前にマイクロソフトや販売代理店へ確認しましょう。
RDSライセンス移行時のよくあるトラブルと対処法
実際の運用現場では、ライセンス移行に伴うトラブルも起こりがちです。代表的な症状と対処法を整理しておきましょう。
ライセンスサーバーが認識されない
移行作業後、新しいライセンスサーバーがクライアントから正しく検出されないことがあります。
- 対処策:
- DNSの登録を確認する(_tcp や _tls レコードの問題がないか)
- グループポリシー (GPO) でライセンスサーバーを強制指定する
- ファイアウォールのポート (TCP 135, 3389など) を開放する
ライセンス不足警告が表示される
アップグレード作業後に、想定以上にライセンスが消費されているケースがあります。
- 対処策:
- 実際に必要なユーザー数・デバイス数を見直し、CALの追加購入を検討
- ユーザーCALの場合、重複割り当てが発生していないかライセンスマネージャーで確認
- クライアントが古いRDSのトークンを保持している場合は強制リリース(レジストリ編集や再接続)
ライセンス認証サーバーがオフラインの場合
インターネットに接続できない閉域環境でライセンス認証を行う場合、電話やWebブラウザ認証を選ぶ必要があります。
- 対処策:
- 「電話」を選択すると、ウィザードに表示されるガイダンスに従ってライセンスキーを取得・入力
- オフライン環境であっても、インターネットに接続可能なPCなどを利用し、手動でMicrosoftにライセンス情報を送受信
移行後の運用で押さえておきたいポイント
ライセンスを移行してRDS環境が整った後も、安定した運用を続けるためにはいくつかのチェックポイントがあります。
定期的なライセンスの監査・アクティブ化状況の確認
ライセンスサーバーのアクティブ化は一度行えば良いわけではなく、環境の変更や再インストールのタイミングで再認証が必要になる場合があります。
- サーバーマネージャーやライセンスマネージャーでライセンスの状況を定期的に確認
- イベントビューアーでRDS関連のエラーログを監視
CALの割当状況レポートを活用
ユーザーCALの場合、誰がどのくらいライセンスを消費しているか見えにくいことがあります。ライセンスサーバーのコンソールやスクリプトを用いて、定期的に割当状況をレポート化し、不要なCAL割り当てが生じていないかチェックしましょう。
まとめ: RDSライセンスをスムーズに移行し、最新環境を最大限活用しよう
Windows Server 2016向けのRDS CALは、そのままWindows Server 2019へ移行して使用することはできません。バージョンが上がると新しいRDS CALが必要になるため、まずはライセンスのアップグレードや新規購入を検討することが最善策です。
移行手続きやライセンスサーバーの構築、そして日常的なライセンス監査をしっかり行うことで、RDS環境を安定的に運用し、最新のサーバーOSがもたらす新機能やパフォーマンス向上を余すことなく享受できます。ライセンス関連の不備によるサービス停止や法的リスクを回避するためにも、正しい移行手順を踏むことは非常に重要です。
もしソフトウェア アシュアランス(SA)を契約しているのであれば、アップグレードにかかるコストを大幅に抑えられる可能性もあります。自社の利用形態やユーザー数に応じて、ユーザーCALかデバイスCALかを選択し、最適なライセンスプランを構築してください。正しい運用管理によって、リモートワークや多様化する業務スタイルを支える強力な基盤として、RDSを活用できるはずです。
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