Windows Server 2019を運用中に突然「Not enough memory resources are available to process this command.」というエラーが表示されると驚くものです。物理メモリにはまだ十分な空きがあるように見えるのに、なぜメモリ不足とみなされるのでしょうか。本記事ではその原因と対処法を詳しく解説します。
Windows Server 2019における「メモリ不足エラー」の概要
Windows Server 2019は高い安定性とパフォーマンスを備えたOSですが、アプリケーションを長期間稼働させていると、「Not enough memory resources are available to process this command. (HRESULT: 0x80070008)」というエラーが出現するケースがあります。サーバー側の物理メモリ使用量はまだ余裕があるように見えるにもかかわらず、OSがメモリ不足と判断してしまうため、運用管理者としては原因を突き止めるのが難しく感じられます。
こうした現象は、単に物理メモリの容量だけではなく、カーネルのリソースやページファイルの設定、さらにアプリケーションが利用するハンドル数やプロセスのビット数など複数の要因が複雑に絡み合って発生します。以下では、よく見られる原因と具体的な対策を順を追って解説します。
考えられる主な原因
Windows Server 2019上で「Not enough memory resources are available to process this command.」というエラーが発生する原因は多岐にわたります。代表的な例を以下の表にまとめました。
原因 | 概要 | 対処の方向性 |
---|---|---|
システムファイルの破損 | OSの重要ファイルが破損または不整合を起こし、メモリ管理周りで異常が発生 | DISMやSFCによるシステムファイル修復 |
Windowsアップデート不足 | 既知の不具合が修正パッチで解決されていないケース | 最新の累積アップデートやパッチ適用 |
32ビットプロセスの制限 | アプリケーションが32ビット動作の場合、アプリケーション単位で利用可能メモリが制約 | 64ビットアプリケーションの導入、または分割運用 |
仮想メモリ設定(ページファイル) | ページファイルサイズが小さい、または無効にしている | 適切なサイズに設定し直す |
メモリリークまたはハンドルリーク | 特定のサービスやアプリがメモリやハンドルを増大し続ける | パフォーマンスモニターやデバッグツールで追跡し修正 |
カーネルリソースの枯渇 | Non-paged PoolやPaged Pool、システムハンドルなどの枯渇 | poolmonなどで原因を特定し、設定変更やアプリ修正 |
上記のうちどれか一つだけが原因というケースは稀で、実際には複数の要因が絡んでいる場合もあります。そのため、対処法としては一通りの基本的なチェックを行ったうえで、問題が再現しやすい環境を作りつつ深堀りしていくことが重要です。
トラブルシューティングのポイント
1. システムファイルの破損を疑う
Windowsのコアコンポーネントやシステムファイルに破損があると、正常なメモリ管理機能が損なわれてしまう可能性があります。そこで、まずは以下の手順でDISMツールとSFC(システムファイルチェッカー)を実行し、必要であれば破損を修復してください。
DISM.exe /Online /Cleanup-image /Scanhealth
DISM.exe /Online /Cleanup-image /Restorehealth
sfc /scannow
この作業によって、OSの基盤となるファイルの不整合が解消されると、原因がシステムファイルの破損であった場合には解決することがあります。また、修復作業後にサーバーを再起動することで変更が反映されるので忘れずに実施しましょう。
2. Windowsアップデートとパッチの適用
Windows Server 2019における既知の不具合は、定期的にリリースされる累積アップデートや修正パッチによって解決されることが多いです。特にメモリ管理やカーネル周りの不具合が発見された場合、すぐにパッチが出るケースがあるため、以下をチェックしてください。
- Windows Updateの「更新プログラムの確認」を行い、すべての重要・推奨アップデートを適用
- オフライン環境の場合はMicrosoft Updateカタログから手動で更新プログラムをダウンロード
- 重要な更新プログラムのみならず、累積更新プログラムなども積極的に導入
また、該当するアプリケーション側のアップデートも怠らないようにしましょう。ミドルウェアやドライバのアップデートが原因でエラーが解消されることもあります。
3. 32ビットアプリケーションの制限を確認
Windows Server 2019自体は64ビットOSとして大容量のメモリを扱えますが、もしホストしているアプリケーションが32ビット版として動作している場合、1プロセスあたり約2GB~3GB程度のユーザーモードメモリ空間が最大となります。この制限により、物理メモリがどれだけ豊富にあってもプロセスが使用できる領域は頭打ちになります。
- アプリケーションが32ビットでしか提供されていないかを確認
- 64ビット版が提供されている場合は切り替えを検討
- 一つのプロセスで大量のデータを扱う設計であれば、マイクロサービス化や分散化も視野に入れる
4. 仮想メモリ(ページファイル)の設定を見直す
OSは物理メモリだけでなく、ページファイル(仮想メモリ)を使ってメモリ領域を拡張しており、これが適切に設定されていないと、実メモリの使用率に余裕があってもエラーが発生することがあります。特にページファイルを過度に小さく設定している、あるいは無効化していると問題を引き起こしやすくなります。
- 「システムのプロパティ」→「パフォーマンス」→「設定」→「詳細設定」→「仮想メモリ」で確認可能
- 推奨サイズは物理メモリと同等か、運用状況に合わせて数GB多めに確保
- 重要サーバーの場合、問題発生時のメモリダンプ採取を考慮し、システム管理サイズまたは物理メモリと同等以上を設定するケースも多い
5. メモリリークやハンドルリークを疑う
サーバーを長期間稼働させていると、ある特定のプロセスが徐々にメモリやハンドルを占有し続ける「リーク」が原因でメモリ不足を誘発する場合があります。WindowsではパフォーマンスモニターやSysinternalsのツールを用いて詳細な調査が可能です。
5-1. パフォーマンスモニターでの監視
Windowsの標準機能として提供されるパフォーマンスモニター(PerfMon)を使い、疑わしいプロセスのメモリ使用量、ハンドル数、スレッド数などを定期的にログ収集します。特定のプロセスだけが時間経過とともに以上に増加しているかどうかを把握すると原因特定に役立ちます。
5-2. Sysinternalsツールの活用
Microsoftが提供しているSysinternalsのツールは、より詳細な情報を取得する際に非常に便利です。
- Process Explorer (procexp.exe)
リアルタイムでCPU・メモリ・ハンドル情報を確認可能。リークを起こしているプロセスがないか調べるのに役立ちます。 - Handle (handle.exe)
プロセスごとのハンドル情報を一覧表示し、どのオブジェクトタイプのハンドルが多いのかを調べることができます。 - VMMap (vmmap.exe)
プロセス内のメモリ割り当て状況を可視化し、ヒープやスタック、DLLロード領域などを詳細に把握できます。 - PoolMon (poolmon.exe)
Paged PoolやNonpaged Poolといったカーネルプールの使用状況を監視し、どのドライバやタグがメモリを大量消費しているか特定できます。
以下は簡単なpoolmonの使い方例です:
poolmon
PoolMonを起動すると、Paged PoolとNonpaged Poolの使用状況、タグ名などが一覧表示されます。特定のタグが異常に増加しているようであれば、そのタグに関連したドライバやサービスを特定し、アップデートやパッチ適用を検討してください。
6. カーネルリソースの枯渇
メモリ不足エラーは、物理メモリやユーザーモードの仮想メモリが原因ではなく、カーネルモードで使用するリソース(Nonpaged PoolやPaged Pool)が不足しているケースも考えられます。特に長時間稼働しているサーバーや、数多くのファイルハンドルを扱うファイルサーバー、マルチメディア系アプリなどが動作している環境では要注意です。
- Nonpaged Pool: ページングアウトできないメモリ領域
- Paged Pool: ページングアウトが可能なメモリ領域
カーネルメモリリークがある場合、サーバーを再起動しない限りどんどん消費が増加していきます。PoolMonによる監視やイベントビューアによるエラー確認を通して枯渇の兆候を発見したら、当該ドライバやサービスのアップデート、または設定の見直しが必要です。
具体的な対策方法
1. システムファイル修復でのアプローチ
前述のとおり、まずはシステムファイルの修復を行うことが大切です。DISMとSFCの手順は比較的簡単なうえ、システムの安定性向上にも寄与するため、定期メンテナンスとしても有効です。
2. Windowsの更新プログラム適用
累積アップデートでカーネルレベルのバグや不具合が修正されている可能性は高いです。運用現場では安定性を重視して更新を遅らせることもありますが、重大な不具合を解消するパッチが含まれている場合は早めの適用を検討しましょう。
3. 64ビットアプリケーションの検討
アプリケーションが32ビットで提供されている場合は、ベンダーに64ビット版がないかを確認します。もし提供されているなら可能な限り64ビット化することで、より多くのメモリをアプリケーションが利用できるようになり、メモリ不足エラーを回避できる可能性が高まります。
4. ページファイルの適切な設定
ページファイルを無効化している、または初期サイズがあまりにも小さい場合は、以下のように適切なサイズに見直します。
- 「システムのプロパティ」→「パフォーマンス」→「設定」
- 「詳細設定」タブの「仮想メモリ」セクションで「変更」をクリック
- 「自動的に管理する」をオンにして様子を見る、あるいは手動で十分なサイズを指定
- 適用後、念のためサーバーを再起動
5. メモリリーク・ハンドルリークの原因を追及
SysinternalsのHandleやProcess Explorerを使って、リークを起こしているプロセスがあれば特定し、アプリケーションベンダーに相談するか、ソースコードを修正して対応します。ハンドルリークが原因の場合、再起動すれば一時的に解消されますが、根本的な解決にはアプリやドライバの更新が必要です。
5-1. Handleコマンド例
handle -a
このコマンドで全プロセスのハンドルを一覧表示できます。特定のファイル名やキー名でフィルタをかけたい場合は、たとえば下記のように行います。
handle <ファイル名またはキー名>
漏れが疑われるハンドルが見つかったら、プロセスID(PID)を手掛かりに原因を絞り込みましょう。
6. カーネルプールの監視と調整
PoolMonでカーネルプールの使い過ぎが判明したら、タグ名から関連するドライバやサービスを特定します。問題のあるドライバの場合は、最新バージョンへアップデートするか、構成を変更して利用を減らすなどの対策を取りましょう。多数の接続や巨大なファイル操作を行うサーバーでは、レジストリでカーネルメモリのリソース割り当てを最適化するテクニックもありますが、安易に設定を変更すると別の不具合を生む可能性があるため、慎重に進めてください。
7. イベントログの活用
Windows Event Viewer(イベントビューア)には、システム領域に重要な警告やエラーが記録されることが多いです。メモリ不足時には以下のようなログが確認される可能性があります。
- イベントID 2019や2020 (Nonpaged PoolまたはPaged Pool不足に関するエラー)
- イベントID 333 (Application Popup: I/Oエラー/ページングエラー関連)
- イベントID 26, 1000, 1001 (アプリケーションエラー、システムエラー関連)
ログが示す内容をヒントに追加で対策を検討し、原因を段階的に絞り込みましょう。
運用上の注意点とベストプラクティス
1. 定期的な再起動の検討
Windows Serverは連続稼働に耐えうる設計ですが、メモリリークを抱えたアプリケーションを動かしている場合、定期的な再起動スケジュールを設定しておくことが現実的な対処法となる場合もあります。夜間や休日などサービスが利用されないタイミングで再起動を行うことで、リソースをリフレッシュし、突然のエラーを防止できます。
2. サーバーロールや役割の分割
1台のサーバーに複数の機能を詰め込みすぎると、カーネルリソースの消費が大きくなり、メモリ不足を引き起こしやすくなります。
- AD DSやファイルサーバー、SQL Serverなどの役割を分散
- VMやコンテナ技術を活用してワークロードを分割
これにより、個々の役割でのリソースの枯渇リスクを減らし、トラブルシューティングもシンプルになります。
3. パフォーマンスカウンターの継続的モニタリング
サーバー運用のベストプラクティスとして、パフォーマンスカウンターの定期的なログ収集を推奨します。Windows Serverでは、以下のカウンターを継続的に計測すると有益です。
- Memory
- Available MBytes / Available Memory
- Pages/sec
- Process
- Private Bytes
- Virtual Bytes
- Handle Count
- System
- Handles
- Threads
- Paging File
- % Usage
- Processor
- % Processor Time
こうして得られたログをグラフ化・可視化することで、異常発生の兆候(メモリやハンドル数の急増、ページング率の増加など)を把握しやすくなります。
4. ベンダーやコミュニティへの問い合わせ
どうしても原因が不明瞭な場合は、アプリケーションベンダーやMicrosoftサポートへの問い合わせも検討しましょう。時には非公開の修正パッチ(Hotfix)が存在する場合がありますし、コミュニティフォーラムで同様の現象を報告しているケースから解決策を得られることがあります。
まとめ
Windows Server 2019で「Not enough memory resources are available to process this command. (HRESULT: 0x80070008)」というエラーが発生すると、物理メモリにはまだ大きな空きがあるように見えても、実際にはカーネルリソースやページファイル、アプリケーションのメモリ管理などが複合的に絡み合い、OSが「リソース不足」と判断してしまう状況が起きています。
以下のポイントを重点的に見直すことで、多くの場合は問題解決の糸口を掴めるはずです。
- DISMやSFCを用いたシステムファイル修復
- Windowsアップデートやドライバ、アプリケーションのバージョンを最新化
- 32ビットアプリのメモリ制限を確認
- ページファイルの適切な設定
- メモリリーク、ハンドルリークの有無をSysinternalsやパフォーマンスモニターで解析
- カーネルプール(Nonpaged Pool、Paged Pool)の監視
トラブルが解決しない場合は、ログやイベントビューアから情報を収集し、さらに深い解析を行うことが重要です。ベンダーやMicrosoftのサポート、コミュニティフォーラムなどを活用しながら、根本原因を究明していきましょう。長期安定稼働のために、定期的なメンテナンスやモニタリングを続けることが何よりも大切です。
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