予期せぬタイミングでサーバーを新調しなければならなくなったとき、既存のWindows Serverライセンスをどう使うかは悩ましい問題です。特にWindows Server 2019 Standardのライセンスを所有していて、最新のWindows Server 2022 Standardへアップグレードできるかどうかは多くの企業やエンジニアが気にするポイントでしょう。この記事では、OEMライセンスとOpenライセンス（Volumeライセンス）の違いや、2022へのアップグレード方法、さらにCAL（Client Access License）の扱いなどを包括的に解説していきます。これを読めば、自身のライセンス形態とニーズに合わせた最適なアップグレード戦略を見出せるはずです。
Windows Serverライセンスの基本：OEMとVolume（Open）ライセンス
Windows Serverのライセンスには複数の形態が存在しますが、中でもよく挙げられるのがOEMライセンスとVolume（Open）ライセンスの2種類です。まずは両者の概要を把握することで、自分が所有しているライセンスがどのような権利を持っているかを確認しましょう。
OEMライセンスの特徴
OEM（Original Equipment Manufacturer）ライセンスは、サーバーベンダーやPCメーカーなどがハードウェアとセットで販売しているライセンス形態です。たとえば、メーカー製のサーバーを購入した際に、最初からWindows Serverがインストールされているケースが該当します。
- ハードウェアにひも付いている：原則として、そのサーバー機器とライセンスが一体となり、別のハードウェアに移動することはできません。
- アップグレード権は通常付与されない：OEMライセンスには、基本的にメジャーバージョンアップ（2019→2022など）を無料で行う権利は含まれないことが多いです。
- 費用は安いが柔軟性に欠ける：新規導入時にはVolumeライセンスより低コストな場合もありますが、バージョンアップやライセンス移行には制限がかかりやすい傾向があります。
Volumeライセンス（Openライセンス）の特徴
Volumeライセンスは、企業や組織がまとまった数のライセンスを一括で取得する形態です。中小規模向けに提供されるOpenライセンスも含め、一括管理しやすいのが利点です。
- ライセンスの管理が中央集権的：MicrosoftのVolume Licensing Service Center（VLSC）などでライセンス認証やISOイメージのダウンロードを一元管理できます。
- アップグレードの柔軟性：OEMに比べてアップグレードパスが多彩。ソフトウェアアシュアランス（SA）を付けていれば、最新バージョンへのアップグレード権も付与されます。SAなしの永久ライセンスでも、一度取得していれば特定バージョンを利用する権利があるかどうかを確認できます。
- CALの共通利用が可能：ユーザーCALやデバイスCALなどクライアントアクセスライセンスもVolumeライセンス形態で一括管理しやすいです。
Windows Server 2019 StandardのライセンスでWindows Server 2022へアップグレードは可能か？
実際に「Windows Server 2019 Standardのライセンスを持っているが、Windows Server 2022 Standardにアップグレードして使えるのか？」という疑問はよく見受けられます。結論から言うと、ライセンス形態によって回答は大きく異なります。
OEMライセンスの場合
OEM版Windows Server 2019 Standardの場合、原則としてWindows Server 2022への無償アップグレードはできません。これはMicrosoftのライセンスポリシーで明確に定められており、OEM版にはメジャーバージョンアップの権利が付いていないことがほとんどです。もしOEMライセンスを保有していて、2022を新たに導入したい場合は、2022のライセンスを別途購入する必要があります。
Openライセンス（Volumeライセンス）の場合
Volumeライセンス（Openライセンス）形態でWindows Server 2019 Standardを保有している場合、以下の観点でアップグレードが可能かどうかを検討します。
- ソフトウェアアシュアランス（SA）の有無 SA付きで契約しているなら、最新バージョンへのアップグレード権が付与されます。そのため追加費用なしでWindows Server 2022を使用可能です。
- SAなしの永続ライセンス SAを付けていない場合でも、時期や契約内容によっては、すでに「2019または2022を使用する権利を含むライセンス」として認証されているケースがあります。具体的には、購入したOpenライセンスの内容をVLSCで確認し、Windows Server 2022のライセンスキーやダウンロード権限があるかどうかをチェックしましょう。
場合によっては、自分の持っているライセンスが「ダウングレード権」として2019を使っていただけで、実は2022を含むライセンス範囲内だったという可能性もあります。そのため、一度Microsoftやライセンスの購入代理店に問い合わせることをおすすめします。
クライアントアクセスライセンス（CAL）の扱い
Windows Serverを運用する上で欠かせないのがCAL（Client Access License）です。ユーザー単位（User CAL）やデバイス単位（Device CAL）で接続数を管理する形態が一般的ですが、ServerのバージョンアップとCALのバージョンはどのように関連するのでしょうか。
CALバージョンの互換性
原則として、サーバーOSのバージョンと同じかそれより新しいCALが必要です。たとえば、Windows Server 2022にアクセスするにはWindows Server 2022用のCAL（または2019/2022に共通で使えるCAL）が推奨されます。とはいえ、Windows Server 2019と2022のCALは統合されており、「2019/2022 CAL」として扱われるケースが多いです。
もし手元のCALが「Windows Server 2019 CAL」などになっていて、2022でも継続して使用できるか不安がある場合は、ライセンスドキュメントやMicrosoft公式サイト、あるいは購入先の販売代理店を通じて確認しましょう。
Windows Server 2022への実際のアップグレード手順
ライセンス的にWindows Server 2022を使えることが確認できたら、次は具体的な移行プランを考えます。大きく分けて「インプレースアップグレード」と「クリーンインストール」の2パターンが存在します。
インプレースアップグレード
インプレースアップグレードとは、現在のサーバーOSをそのまま残しつつ、上書きする形でWindows Server 2022へ移行する方法です。アプリケーションや設定を引き継げるため、手間が少なくダウンタイムを抑えられるメリットがあります。ただし、以下の点に注意が必要です。
- サーバーOSのビット数やエディションが同一であること（今回はStandard同士）。
- 事前に十分なバックアップを取得すること。イメージバックアップやスナップショット（仮想環境なら）を用意しておくと安心です。
- アンチウイルスソフトやドライバ、運用中のアプリケーションとの互換性を事前に確認すること。
インプレースアップグレード手順の例
- Windows Server 2022のインストールメディアを準備
VLSCからISOイメージをダウンロードし、USBやISOとしてマウントするなどして利用可能な状態にします。 - 重要データとシステムのバックアップ
wbadminコマンドやサードパーティのバックアップソリューションを使い、システム全体および重要ファイルのバックアップを取得します。 - セットアップの実行
既存のWindows Server 2019でISOをマウントし、setup.exeを実行します。インストールの種類で「アップグレード」を選択します。 - 設定の引き継ぎの選択
アプリケーションや設定を保持するオプションを選びます。必要に応じて管理者アカウントの情報やライセンスキーの再入力を行います。 - アップグレード完了後の確認
インストールが終わったら、イベントログやサービスの状態を確認し、エラーがないかチェックします。またライセンス認証（slmgr.vbsコマンドなど）で正しくアクティベーションされているか確認するとよいでしょう。
# インプレースアップグレード後のライセンス認証確認例
slmgr.vbs /dlv
slmgr.vbs /atoクリーンインストール
クリーンインストールとは、サーバーOSを一旦新規にセットアップし、その後アプリケーションやデータを再構築する方法です。インプレースアップグレードに比べると手間はかかりますが、レジストリの残骸や古い設定を一掃できるため、環境がより安定する可能性が高いメリットがあります。
- 新規ハードウェアに直接インストールする場合は、特にクリーンインストールが定番。
- 設定やアプリケーションを一から導入し直すため、手戻りや工数の見積りが重要。
- 並行稼働による切り替えができるため、ダウンタイムを最小化しやすい。
クリーンインストール時のポイント
- できればテスト環境を用意して、アプリケーションの動作確認を先に行う。
- データ移行計画を立てる。特に共有フォルダやデータベースの移行手順を明確化する。
- CALの再割り当てが必要な場合もあるので、ライセンス管理ツールやエクスポートしたライセンス情報を活用して整理する。
ライセンス形態の確認方法
ライセンスを持っているはずなのに、OEMかVolume（Open）ライセンスかはっきりしないというケースも少なくありません。そんなときは、以下の手順で確認しましょう。
- 購入時の証書・請求書を確認 OEMライセンスの場合、サーバー本体と一緒にライセンス証書が添付されていることが多いです。Volumeライセンスの場合、マイクロソフトや代理店から送付される「ライセンス認証書」や「OPEN License詳細」があるはずです。
- Microsoft Volume Licensing Service Center（VLSC）を確認 Volumeライセンスを所有しているなら、VLSCにアクセスし、アカウントに紐づいているライセンス一覧をチェックします。ここで契約IDやライセンスのバージョン情報も確認できます。
- 代理店やMicrosoftに問い合わせ どちらにしても不明点が多い場合は、ライセンスを購入した代理店やMicrosoftサポートに直接問い合わせ、ライセンス種別と使用権を確認しましょう。
アップグレードせずに新規ライセンスを購入すべきケース
一見、アップグレード（特にインプレース）が簡単そうに思えるかもしれません。しかし、サーバーの役割や組織のポリシーによっては、新規ライセンスを購入してWindows Server 2022を新規構築したほうが結果的にメリットが大きい場合もあります。
ハードウェア更新周期と合わせたい場合
サーバーハードウェアは数年ごとにリプレースするのが一般的です。ハードウェアごと入れ替えるタイミングで最新OSを導入し、OEM版をセットで購入するほうが初期コストを抑えられることもあります。また、ハードウェア保守の視点でも、新しいサーバーに最新版のOSを合わせることは運用上のトラブルを減らすうえで有効です。
既存サーバーの構成が複雑でトラブルリスクが高い場合
インプレースアップグレードは、現在の設定をそのまま引き継ぐため便利ですが、長期間にわたりさまざまな修正やアップデートを重ねたサーバーほど、設定ファイルの不整合やレジストリエラーが潜んでいる可能性があります。これらが原因でアップグレード後に不安定になったり、深刻な障害を引き起こすリスクもゼロではありません。
こうした場合、潔くクリーンインストールを行い、新しいライセンスを購入してゼロから環境を構築したほうが安全で、結果的に運用コストを下げられることがあります。
ライセンス関連のトラブルシューティング：よくある質問と対策
最後に、ライセンス周りでよくあるトラブルとその対策をまとめます。Windows Serverのアップグレードに着手する前に、こうしたパターンを知っておけばトラブルを回避しやすくなります。
VLSCで2022ライセンスが確認できない
- 登録しているアカウントが正しいか確認する。
- ライセンスの割り当てがまだ完了していない場合があるので、契約IDとライセンス番号を再度チェックする。
- 代理店やMicrosoftに直接問い合わせて、契約状況を改めて確認してもらう。
ライセンス認証に失敗する
- インターネットに接続されているか、ファイアウォールで認証用の通信がブロックされていないかを確認。
- Volumeライセンスの場合、KMSホストキーやMAKキーが正しく入力されているかをチェック。
- サーバーの日付と時刻が正確かどうかも見落としがちなので確認する。
CALの数が足りないと警告が出る
- ユーザー数・デバイス数とCALライセンス数の整合性を見直す。
- ライセンス認証サーバー（RDSなど）を導入している場合は、ライセンスプールの状態を確認する。
- 一時的にユーザーの移動が多いとCALが逼迫することもあるので、増設を検討するか、状況に応じてライセンス形態をUser CAL/Device CALで切り替える手段を考える。
まとめ：ライセンス形態の把握がアップグレードの成否を左右する
Windows Server 2019から2022へアップグレードする際は、まず自分の所有しているライセンス形態（OEMかVolumeか、Openライセンスか）をしっかり把握することが最重要です。OEMライセンスであれば、基本的に無償アップグレードは不可で、新規にWindows Server 2022のライセンスを購入しなければなりません。一方、Volume（Open）ライセンスであればソフトウェアアシュアランス（SA）の有無や契約時期次第ではWindows Server 2022へのアップグレードが可能となります。
また、CALも2019と2022は統合されているケースが多いとはいえ、互換性を必ず確認しましょう。アップグレード方法においては、既存環境を引き継ぐインプレースアップグレードと、新たに環境を構築するクリーンインストールの2パターンが存在します。どちらが自社のサーバー運用にマッチするかを慎重に見極めることが大切です。
ライセンス周りは難解な部分が多いですが、購入先やMicrosoftに問い合わせる、あるいはVolume Licensing Service Centerを活用することで情報を整理できます。サーバーOSのバージョンアップは、セキュリティとパフォーマンスの両面で大きなメリットがあるため、早めにライセンスを正しく把握して、安全かつ効率的に移行を進めましょう。
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