Windows Server 2012 R2からWindows Server 2019へのアップグレード完全ガイド

Windows Server 2012 R2からWindows Server 2019へアップグレードすると、新機能やセキュリティ機能の強化により、サーバー運用の安定性や効率化が期待できます。しかし、実際にはライセンスの問題やアップグレード手順の煩雑さ、互換性チェックなど、事前に把握しておくべきポイントも多く存在します。スムーズな移行を実現するために必要な知識や対策を、この記事で詳しくご紹介します。現行環境のリスクを最小化しながら、新バージョンの魅力を最大限に活用しましょう。

目次

Windows Server 2012 R2からWindows Server 2019へアップグレードするメリット

Windows Server 2012 R2もまだ運用可能なOSではありますが、Windows Server 2019はセキュリティ強化や仮想化機能の拡張など、多くの改良が施されています。ビジネス要件が高度化する中で、システム管理者としては新バージョンへの移行を検討する意義は大いにあります。

セキュリティ面の強化

サイバー攻撃が年々高度化・複雑化している現状では、OSレベルで提供されるセキュリティ機能を最新化しておくことが重要です。Windows Server 2019ではWindows Defenderの機能が拡張されており、脅威を検知・防御する仕組みが強化されています。

高度な脅威対策

  • Exploit Guard: 攻撃者が脆弱性をついてくる前に、OSレベルで保護を実施する仕組み。
  • Windows Defender ATP(Advanced Threat Protection): クラウド連携で脅威情報を集約し、高度な攻撃手法にも対応。

仮想化機能の向上

仮想マシンを大規模に運用している環境では、Hyper-Vの機能拡張が特に魅力的です。Windows Server 2019ではDockerやKubernetesなど、コンテナ技術との連携も強化され、アプリケーションのデプロイやスケーラビリティがさらに向上しています。

コンテナによるリソースの効率化

  • Windowsコンテナ: 既存アプリケーションをコンテナ化しやすく、オーバーヘッドを削減。
  • Hyper-Vコンテナ: セキュリティをより強化した形でコンテナを運用可能。

最新機能による運用効率の向上

Windows Admin Centerの活用など、運用管理面での負荷軽減も大きなポイントです。新バージョンではリモート管理のUIが改善され、複数サーバーの集中管理がより容易になっています。

ライセンスに関する基本的な考え方

Windows Serverをアップグレードする際に多くの方が悩むのがライセンス形態です。無償アップグレードがあるのか、有償の場合はどのように手配すればよいのかを明確にしておくことが重要です。

無償でアップグレードできるのか?

一般的には、Windows Server 2012 R2からWindows Server 2019へのアップグレードにはライセンスの購入が必要です。

  • 例外パターン: ソフトウェアアシュアランス(SA)を結んでいる場合やボリュームライセンス契約でアップグレード特典が含まれている場合は、追加費用なしでアップグレードできるケースもあります。
  • 評価版の利用: エバリュエーションエディションをダウンロードしてテストすることは可能ですが、本番運用には正規ライセンスへ移行する必要があります。

ライセンス購入の具体的な流れ

  1. 既存ライセンスの種類を確認: ボリュームライセンスなのか、OEM版なのか、リテール版なのかを把握します。
  2. SAの契約状況を確認: ソフトウェアアシュアランスが有効であれば、追加コストなしでアップグレード可能な場合があります。
  3. 新規ライセンスの購入: SA契約がない場合やボリュームライセンス契約範囲外なら、新たにWindows Server 2019のライセンスを購入します。

ISOファイルの入手方法

アップグレード用にISOファイルが必要となるケースは多いです。ISOファイルは主にMicrosoft公式サイトの評価版ダウンロードページから入手できます。

評価版(エバリュエーションエディション)のダウンロード

  • Microsoft Evaluation Center:
    Windows Server 2019 | Microsoft Evaluation Center
    上記ページから必要なISOイメージをダウンロードします。ダウンロードできるイメージは評価版ですが、ライセンスキーを入力することで製品版として移行可能です。
  • ISOの検証: ダウンロード完了後、ハッシュ値を確認してファイル破損や改ざんがないかをチェックすることをおすすめします。

ボリュームライセンスサービスセンター(VLSC)の利用

ボリュームライセンス契約をしている組織の場合、VLSC(Volume Licensing Service Center)から正規版のISOをダウンロードできます。

  • 契約IDの管理: 組織内でVLSCにアクセスできる担当者を明確にし、必要なISOイメージを取得します。
  • 言語やエディション: StandardかDatacenterかなど、目的のエディションに応じてダウンロードファイルを選択しましょう。

アップグレード前に確認しておくべきポイント

アップグレードを実施する前に、いくつか事前にチェックしておくべき重要事項があります。これを怠ると、予期せぬシステムトラブルやライセンス上の問題に直面しかねません。

ハードウェア要件

Windows Server 2019は、Windows Server 2012 R2より要求スペックが高くなっています。

  • メモリ: 最小要件は少ないですが、快適に動作させるには十分な容量を確保しましょう。
  • CPU: x64プロセッサが必須です。最新のCPUであればパフォーマンスの向上を期待できます。
  • ディスク容量: OS領域のほか、ログファイルやアップグレード時の一時ファイルも考慮した余裕を持ったストレージ設計が必要です。

バックアップの実施

アップグレード作業中に予期しないエラーやトラブルが発生する可能性はゼロではありません。

  1. システムイメージの作成: OSごとバックアップを取得し、万が一トラブル時にロールバックできるようにしておきます。
  2. データバックアップ: 重要データは別のストレージやクラウドへコピーするなど、複製を確保してください。
  3. アプリケーション設定のエクスポート: 特定のサーバーアプリケーション(例: SQL Serverなど)の構成情報やデータベースも個別にバックアップを行います。

アプリケーションやドライバの互換性

  • ソフトウェアの対応状況: ウイルス対策ソフトや業務アプリケーションがWindows Server 2019に対応しているか事前に調査します。
  • ドライバのアップデート: NICドライバやストレージコントローラなど、OSレベルで依存度の高いドライバは最新版に更新しておきましょう。

アップグレード方法の種類

Windows Serverを新バージョンにする方法は大きく分けて「インプレースアップグレード」と「クリーンインストール(新規インストール)」の2つがあります。組織の要件やリスク許容度に応じて方法を選択することが大切です。

インプレースアップグレード

既存のWindows Server 2012 R2環境をそのまま引き継ぎつつ、OSを上書きする形でアップグレードを行う手法です。

  • メリット: アプリケーション設定やユーザーデータを引き継げるため、移行の手間が少なく済む。
  • デメリット: 障害が発生した際に切り戻しが難しい場合がある。また、長期間運用している環境でレジストリや設定が複雑化していると、トラブルが起こりやすい。

インプレースアップグレード時の注意点

  1. エディションの一致: Standard → Standard、Datacenter → Datacenterのように、同じエディションでしかインプレースアップグレードはサポートされません。
  2. 言語やビット数の確認: Windows Serverの言語が異なるとアップグレードできません。また、32bitから64bitへはインプレースアップグレードできません。
  3. 役割と機能の確認: Active DirectoryやIISなどの役割がインストールされている場合、Windows Server 2019側がそれらの役割に対応していることを事前に確認しましょう。

クリーンインストール(新規インストール)

新しいサーバーを用意してWindows Server 2019をクリーンインストールし、既存サーバーからデータや設定を移行する方式です。

  • メリット: システムを一からセットアップするので、不要な設定ファイルやレジストリを引きずるリスクが低い。
  • デメリット: 移行作業が煩雑になりやすく、構成の再設定やアプリケーションの再インストールが必要。

評価版(エバリュエーションエディション)から製品版への切り替え方法

ダウンロードしたISOが評価版の場合、一定期間(180日程度)は試用できますが、本番運用にはライセンスキーによる正規版への切り替えが不可欠です。

ライセンスキーの入力

アップグレード後もしくはセットアップ完了後に、以下の手順でライセンスキーを入力できます。

DISM /online /Set-Edition:ServerStandard /AcceptEula /ProductKey:XXXXX-XXXXX-XXXXX-XXXXX-XXXXX
  • ServerStandardServerDatacenterなど、実際に導入するエディションに合わせてパラメータを指定します。
  • コマンド実行後、再起動を促されるので、システム再起動を行います。

プロダクトアクティベーションの実施

OSが起動したら、コマンドプロンプトやWindows PowerShell、あるいはGUI上からアクティベーションを実行します。

  • slmgr.vbsコマンドの利用:
  slmgr.vbs /ipk XXXXX-XXXXX-XXXXX-XXXXX-XXXXX
  slmgr.vbs /ato


これにより、キーの入力とライセンス認証を行います。

トラブルシューティングとリカバリ策

アップグレード作業でよくあるトラブルと、その対処方法をあらかじめ理解しておくと安心です。

インプレースアップグレードの途中でエラーが発生した場合

  • 原因切り分け: ドライバの不一致やファイルの破損が多い原因です。ログファイルを確認し、問題となるドライバを特定したら一度削除・更新して再試行します。
  • ロールバック: 重大エラーが発生した場合は、事前に取得しておいたシステムイメージから復元し、クリーンインストールを検討するのも手段の一つです。

ライセンス認証エラー

  • 異なるエディションのキーを使用: Standard版にDatacenterのキーを入力したりすると弾かれます。エディションを間違えていないか確認しましょう。
  • ネットワーク接続の確認: オフライン環境ではアクティベーションできない場合があります。手動電話認証を検討する、またはオンライン環境に一時的に接続するなどの対応が必要です。

アプリケーションの動作不良

  • 互換モード設定: 旧バージョンでしか動作しないアプリケーションは、Windows Server 2019で互換モードを有効にするか、ソフトウェアの最新版にアップグレード可能か確認します。
  • エラーログの分析: イベントビューアに出力されるログを確認し、特定のモジュールのクラッシュや依存関係の問題を洗い出します。

アップグレードを成功させるためのベストプラクティス

安定した本番環境を維持しつつ、アップグレードを円滑に進めるためのポイントをまとめます。

段階的な検証環境の構築

  • テストサーバーの用意: 本番と同等の環境を仮想マシン上に用意し、アップグレード手順を事前に試す。
  • アプリケーションテスト: テストサーバーで各業務ソフトやカスタムアプリケーションの動作確認を行い、互換性問題がないかチェック。

アップグレード手順のドキュメント化

  • 手順書の作成: コマンドや設定項目、トラブルが発生した際の復旧手順を明文化。
  • 実施スケジュールの策定: 業務時間外や利用が少ないタイミングにアップグレードを行い、ビジネスへの影響を最小化。

冗長構成やクラスター環境への配慮

  • クラスター環境の場合: フェールオーバークラスターを組んでいる場合、ノードを順次アップグレードしてダウンタイムを削減する方法が考えられます。
  • ロードバランサーと連携: Webサーバーなどを複数台運用している環境では、ロードバランサーでトラフィックを切り分けながら順次アップグレードを実施します。

アップグレード後の運用管理ポイント

OSをアップグレードした後も、安定的に運用するためには継続的なメンテナンスや監視が必要です。

最新アップデートの適用

  • Windows Update: セキュリティパッチや機能更新プログラムを定期的に適用し、脆弱性を放置しない。
  • 推奨の再起動スケジュール: システムへの影響を考慮しつつ、アップデート後の再起動タイミングを計画立てて実施する。

リソース監視とログ管理

  • イベントビューア: システムログやアプリケーションログ、セキュリティログなどを随時チェック。
  • パフォーマンスモニタ: CPU、メモリ、ディスクI/Oの使用状況を把握し、ボトルネックやリソース不足を早期検知する。

セキュリティポリシーの再設定

  • グループポリシー: Windows Server 2019では新しいポリシーや設定項目が追加されている場合があります。アップグレード後に整合性をとるため、グループポリシー設定を見直します。
  • ファイアウォール設定: ポートや通信ルールがデフォルトで変更されている場合もあるため、業務に必要なルールを適切に設定しておきましょう。

エディション別の特徴と選択基準

同じWindows Server 2019でも、StandardエディションとDatacenterエディションなどで機能やライセンス形態が異なります。要件に合ったエディションを選ぶことが重要です。

エディション主な特徴適した環境
Standard仮想マシン2台までライセンスに含まれる
必要最低限の機能が揃う
小~中規模のサーバー運用
Datacenter仮想マシン数無制限
Storage Spaces Directなどの高度機能が利用可能
大規模仮想化・高可用性が必要な環境
Essentialsユーザー数25名までなど制限あり
簡易管理機能が特徴的
小規模企業や部門サーバー向け
  • アップグレードパスの注意: 例えば、EssentialsからStandardやDatacenterへのインプレースアップグレードはサポートされていないケースがあるため、公式ドキュメントを確認のうえ選択しましょう。

まとめ:スムーズな移行のために必要なアクション

最後に、Windows Server 2012 R2からWindows Server 2019へ移行を進める上での重要ポイントを整理します。

  1. ライセンス形態を確認する: ボリュームライセンスかOEMか、ソフトウェアアシュアランスの契約有無などをまず明確化。
  2. アップグレード方法を検討する: インプレースアップグレードかクリーンインストールか、システム要件やリスクを見極めて選択。
  3. バックアップと検証環境を整備する: 十分なバックアップを取得し、テストサーバーで事前検証を行う。
  4. 実施計画と手順書を作成する: ダウンタイムに配慮したスケジュールを組み、緻密な手順書を準備。
  5. アップグレード後の運用監視を強化する: 最新パッチの適用やログモニタリングを徹底し、万が一のトラブルを早期発見・対処。

これらを踏まえれば、Windows Server 2019の新機能や強化されたセキュリティを活かして、より安定性・安全性の高いサーバー環境を実現できるはずです。ライセンスコストとダウンタイムのバランスを取りながら、スムーズにアップグレードを進めることで、ビジネスへのインパクトを最小限に抑えながら最大のメリットを享受できるでしょう。

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