Rustのライフタイム注釈を完全解説:基本から実践まで

Rustのライフタイムは、メモリ安全性を保証するために非常に重要な要素です。Rustでは、所有権システムによってメモリ管理が行われますが、参照がどれくらいの期間有効であるかを示すライフタイムが存在します。これにより、プログラムが無効なメモリを参照することを防ぎます。

しかし、初心者にとってライフタイム注釈('aなど)は少し理解しづらいかもしれません。本記事では、ライフタイムの基本的な概念から始め、関数や構造体でのライフタイム注釈の使い方、よくあるエラーとその解決方法について解説します。Rustのライフタイムを理解し、適切に活用することで、安全で効率的なコードを書けるようになります。

さあ、ライフタイムの世界を一緒に探求していきましょう。

目次
  1. ライフタイムとは何か
    1. ライフタイムが必要な理由
    2. ライフタイムの具体例
    3. ライフタイムとコンパイルエラー
  2. ライフタイム注釈の基本構文
    1. ライフタイム注釈の基本的な記法
    2. 関数におけるライフタイム注釈
    3. 複数の引数にライフタイム注釈を付ける
    4. ライフタイム注釈が必要な場面
  3. 関数におけるライフタイム注釈
    1. ライフタイム注釈の基本的な関数定義
    2. 複数の参照引数がある場合のライフタイム注釈
    3. 異なるライフタイムを持つ引数
    4. ライフタイム注釈が不要なケース
  4. 構造体とライフタイム
    1. ライフタイム付き構造体の基本
    2. 複数のフィールドに異なるライフタイム
    3. 構造体のメソッドでライフタイムを使う
    4. ライフタイム付き構造体の制限
    5. まとめ
  5. 複数のライフタイム注釈
    1. 複数のライフタイム注釈を関数で使用する
    2. 構造体で複数のライフタイムを使う
    3. ライフタイムの関係性を指定する
    4. ライフタイムエラーの回避
    5. まとめ
  6. ライフタイムのエラーと解決方法
    1. 1. 参照が借用中にデータが解放されるエラー
    2. 2. ライフタイムの不一致エラー
    3. 3. 構造体でライフタイムを忘れた場合のエラー
    4. 4. 静的ライフタイムエラー
    5. ライフタイムエラーを回避するためのポイント
    6. まとめ
  7. 具体例で学ぶライフタイムの活用
    1. 1. 文字列スライスの比較関数
    2. 2. 構造体内でのライフタイムの使用
    3. 3. ライフタイムとミュータブル参照
    4. 4. 複数ライフタイムの応用
    5. まとめ
  8. 高度なライフタイムのトピック
    1. 1. 静的ライフタイム (`’static`)
    2. 2. トレイトオブジェクトとライフタイム
    3. 3. 関数ポインタとライフタイム
    4. 4. 複雑なライフタイムパターン
    5. 5. Higher-Ranked Trait Bounds (HRTB)
    6. まとめ
  9. まとめ

ライフタイムとは何か


Rustにおけるライフタイムとは、参照が有効である期間を示す概念です。Rustでは、メモリ安全性を保証するために、所有権システムとともにライフタイムが導入されています。

ライフタイムが必要な理由


Rustでは、他の言語のようにガベージコレクションがないため、コンパイル時にメモリの安全性をチェックします。その際、ライフタイムがないと、参照が無効なメモリを指してしまう可能性が生じます。これを防ぐためにライフタイムを使い、参照が安全に使用できる期間を定義します。

ライフタイムの具体例


次の例を見てください。

fn longest<'a>(x: &'a str, y: &'a str) -> &'a str {
    if x.len() > y.len() { x } else { y }
}

fn main() {
    let str1 = String::from("hello");
    let str2 = String::from("world");
    let result = longest(&str1, &str2);
    println!("Longest string: {}", result);
}

このコードのlongest関数にはライフタイム注釈'aが付けられています。これにより、xyの参照が同じライフタイムを持ち、返り値もそのライフタイム内で有効であることが保証されます。

ライフタイムとコンパイルエラー


ライフタイムを正しく指定しないと、コンパイル時に次のようなエラーが発生します。

error[E0597]: `str1` does not live long enough

これは、str1のライフタイムが関数の返り値のライフタイムよりも短いことを示しています。

ライフタイムを理解することで、Rustのメモリ安全性を最大限に活用できるようになります。

ライフタイム注釈の基本構文


Rustにおけるライフタイム注釈は、参照が有効な期間をコンパイラに伝えるための記法です。ライフタイム注釈は、シンプルな構文で記述され、通常は'aのように短い名前で表されます。

ライフタイム注釈の基本的な記法


ライフタイム注釈の一般的な構文は以下の通りです:

&'a T
  • &:参照であることを示します。
  • 'a:ライフタイム注釈。参照が有効である期間を示します。
  • T:参照が指しているデータの型です。

関数におけるライフタイム注釈


関数の引数や戻り値にライフタイム注釈を付ける基本的な例です:

fn example<'a>(x: &'a str) -> &'a str {
    x
}
  • <'a>:この関数はライフタイム'aを受け取ることを示します。
  • x: &'a str:引数xはライフタイム'aを持つstr型への参照です。
  • -> &'a str:戻り値もライフタイム'aの参照です。

複数の引数にライフタイム注釈を付ける


複数の引数にライフタイムを付ける場合の例です:

fn longest<'a>(x: &'a str, y: &'a str) -> &'a str {
    if x.len() > y.len() { x } else { y }
}
  • <'a>:引数と戻り値が同じライフタイム'aを共有することを示します。
  • xy:どちらもライフタイム'aを持つ参照です。

この関数は、2つの参照のうち長い方を返しますが、返り値のライフタイムはxyのライフタイムのうち短い方に合わせられます。

ライフタイム注釈が必要な場面


ライフタイム注釈は、以下のような場面で必要です:

  1. 関数の引数と戻り値に参照を使用する場合
  2. 構造体に参照を保持する場合
  3. 複数の参照を比較・処理する場合

ライフタイム注釈を理解することで、Rustのメモリ管理をより適切に行うことができます。

関数におけるライフタイム注釈


Rustでは、関数が参照を引数や戻り値として扱う場合、ライフタイム注釈を用いて参照の有効期間を明示する必要があります。これにより、コンパイラはメモリ安全性を保証します。

ライフタイム注釈の基本的な関数定義


ライフタイム注釈を関数に適用する基本例を見てみましょう。

fn first_element<'a>(arr: &'a [i32]) -> &'a i32 {
    &arr[0]
}

fn main() {
    let numbers = vec![1, 2, 3];
    let first = first_element(&numbers);
    println!("First element: {}", first);
}
  • <'a>:関数がライフタイム'aを引数として取ることを示しています。
  • arr: &'a [i32]:引数arrはライフタイム'aを持つi32のスライスです。
  • -> &'a i32:戻り値はライフタイム'aを持つi32の参照です。

この関数は、arrの最初の要素への参照を返しますが、その参照の有効期間は引数arrと同じライフタイムであることを保証します。

複数の参照引数がある場合のライフタイム注釈


複数の参照引数を持つ関数にライフタイムを適用する場合の例です。

fn longest<'a>(x: &'a str, y: &'a str) -> &'a str {
    if x.len() > y.len() { x } else { y }
}

fn main() {
    let str1 = String::from("hello");
    let str2 = String::from("world!");
    let result = longest(&str1, &str2);
    println!("Longest string: {}", result);
}
  • <'a>xyが同じライフタイム'aを共有することを示します。
  • x: &'a stry: &'a str:両方の引数がライフタイム'aの参照です。
  • -> &'a str:返り値の参照もライフタイム'aに従います。

この関数は、xまたはyのうち長い方の参照を返しますが、返り値のライフタイムは引数のうち短い方に制限されます。

異なるライフタイムを持つ引数


引数ごとに異なるライフタイムが必要な場合もあります。

fn mix_references<'a, 'b>(x: &'a str, y: &'b str) {
    println!("x: {}, y: {}", x, y);
}

fn main() {
    let string1 = String::from("Rust");
    let string2 = String::from("Programming");
    mix_references(&string1, &string2);
}
  • <'a, 'b>:2つの異なるライフタイム'a'bを定義しています。
  • x: &'a stry: &'b str:引数xyがそれぞれ異なるライフタイムを持つことを示します。

ライフタイム注釈が不要なケース


関数が引数や戻り値として参照を扱わない場合、ライフタイム注釈は不要です。また、参照が関数内のローカルスコープで完結している場合、コンパイラがライフタイムを自動的に推論します。

Rustのライフタイム注釈を関数で適切に使うことで、メモリ安全性を損なうことなく、柔軟なコードが書けるようになります。

構造体とライフタイム


Rustでは、構造体が参照をフィールドとして持つ場合、ライフタイム注釈が必要です。これにより、構造体のフィールドが参照するデータが有効な期間をコンパイラに伝えます。

ライフタイム付き構造体の基本


参照を含む構造体には、次のようにライフタイム注釈を付けます。

struct Book<'a> {
    title: &'a str,
    author: &'a str,
}

fn main() {
    let book_title = String::from("Rust Programming");
    let book_author = String::from("John Doe");

    let my_book = Book {
        title: &book_title,
        author: &book_author,
    };

    println!("Title: {}, Author: {}", my_book.title, my_book.author);
}
  • <'a>:構造体Bookがライフタイム'aを持つことを示します。
  • title: &'a strauthor: &'a str:フィールドがライフタイム'aを持つ参照です。

このライフタイム'aは、book_titlebook_authorが有効な間、my_bookの参照フィールドも有効であることを保証します。

複数のフィールドに異なるライフタイム


フィールドごとに異なるライフタイムを持つ場合の例です。

struct Pair<'a, 'b> {
    first: &'a str,
    second: &'b str,
}

fn main() {
    let string1 = String::from("Hello");
    let string2 = String::from("World");

    let pair = Pair {
        first: &string1,
        second: &string2,
    };

    println!("First: {}, Second: {}", pair.first, pair.second);
}
  • <'a, 'b>:2つの異なるライフタイムを指定しています。
  • first: &'a strsecond: &'b str:それぞれ別のライフタイムを持つ参照です。

構造体のメソッドでライフタイムを使う


構造体のメソッド内でもライフタイムを指定する必要があります。

struct Message<'a> {
    content: &'a str,
}

impl<'a> Message<'a> {
    fn display(&self) {
        println!("Message: {}", self.content);
    }
}

fn main() {
    let text = String::from("Hello, Rust!");
    let msg = Message { content: &text };
    msg.display();
}
  • impl<'a> Message<'a>:ライフタイム'aを構造体Messageのメソッドにも適用しています。
  • &selfselfもライフタイム'aに従う参照です。

ライフタイム付き構造体の制限


ライフタイム付き構造体には次の制限があります:

  1. フィールドの参照が有効な間、構造体のインスタンスを保持する必要がある
  2. ライフタイムが異なる参照を混在させる場合、ライフタイムの関係性を正しく指定する必要がある

まとめ


構造体にライフタイム注釈を適用することで、データの参照が安全に扱えるようになります。これにより、構造体が保持する参照が無効なデータを指すことを防ぎ、Rustのメモリ安全性を確保します。

複数のライフタイム注釈


Rustでは、関数や構造体が複数の参照を扱う場合、それぞれに異なるライフタイムを指定できます。これにより、複数の参照が異なる有効期間を持つ状況でも安全にコードを書けます。

複数のライフタイム注釈を関数で使用する


複数の引数が異なるライフタイムを持つ場合の関数の例です。

fn compare_strings<'a, 'b>(s1: &'a str, s2: &'b str) -> &'a str {
    println!("Comparing: {} and {}", s1, s2);
    s1
}

fn main() {
    let string1 = String::from("Hello");
    let string2 = String::from("World");

    let result = compare_strings(&string1, &string2);
    println!("Result: {}", result);
}
  • <'a, 'b>:2つの異なるライフタイムを関数に定義しています。
  • s1: &'a strs1はライフタイム'aの参照です。
  • s2: &'b strs2はライフタイム'bの参照です。
  • 戻り値&'a str:この関数は'aライフタイムの参照を返します。

この場合、s1のライフタイム'aが返り値に適用されます。s2のライフタイム'bとは無関係です。

構造体で複数のライフタイムを使う


構造体のフィールドごとに異なるライフタイムを設定する例です。

struct References<'a, 'b> {
    first: &'a str,
    second: &'b str,
}

fn main() {
    let text1 = String::from("Rust");
    let text2 = String::from("Programming");

    let refs = References {
        first: &text1,
        second: &text2,
    };

    println!("First: {}, Second: {}", refs.first, refs.second);
}
  • <'a, 'b>:2つの異なるライフタイムを定義しています。
  • first: &'a strfirstはライフタイム'aの参照です。
  • second: &'b strsecondはライフタイム'bの参照です。

これにより、異なるライフタイムの参照を一つの構造体で安全に保持できます。

ライフタイムの関係性を指定する


関数の引数に異なるライフタイムを指定し、特定のライフタイムに依存した返り値を返す例です。

fn longest_with_announcement<'a, 'b>(x: &'a str, y: &'b str, announcement: &str) -> &'a str {
    println!("Announcement: {}", announcement);
    if x.len() > y.len() { x } else { y }
}
  • <'a, 'b>:2つのライフタイムを定義。
  • 戻り値&'a str:戻り値のライフタイムはxのライフタイム'aに依存します。

ライフタイムエラーの回避


複数のライフタイムを適切に指定しないと、以下のようなエラーが発生します。

error[E0623]: lifetime mismatch

これは、関数の引数や戻り値のライフタイムが一致しない場合に発生します。ライフタイムを正しく指定することで、このエラーを回避できます。

まとめ


複数のライフタイム注釈を使うことで、関数や構造体が複数の参照を安全に扱えるようになります。ライフタイムを正しく指定することは、Rustのメモリ安全性を維持し、エラーを防ぐために不可欠です。

ライフタイムのエラーと解決方法


Rustのライフタイムシステムはメモリ安全性を保証しますが、ライフタイムの誤った指定や推論が難しい状況ではコンパイルエラーが発生します。ここでは、よくあるライフタイムエラーとその解決方法を解説します。

1. 参照が借用中にデータが解放されるエラー


最もよく見られるエラーの一つが、参照が有効な期間中に所有者がスコープを抜けてデータが解放されるケースです。

エラー例:

fn main() {
    let result;
    {
        let s = String::from("Hello");
        result = &s;
    } // ここで`s`がスコープを抜ける

    println!("{}", result); // エラー:参照が無効
}

エラーメッセージ:

error[E0597]: `s` does not live long enough

解決方法:
データのライフタイムを参照のライフタイムよりも長くする必要があります。

fn main() {
    let s = String::from("Hello");
    let result = &s;
    println!("{}", result); // 問題なし
}

2. ライフタイムの不一致エラー


関数の引数や戻り値でライフタイムが一致しない場合に発生するエラーです。

エラー例:

fn longest<'a>(x: &'a str, y: &str) -> &'a str {
    x // yのライフタイムが指定されていないためエラー
}

エラーメッセージ:

error[E0623]: lifetime mismatch

解決方法:
すべての参照に同じライフタイムを指定するか、適切なライフタイムを付けます。

fn longest<'a>(x: &'a str, y: &'a str) -> &'a str {
    x
}

3. 構造体でライフタイムを忘れた場合のエラー


参照を含む構造体でライフタイム注釈を忘れるとエラーが発生します。

エラー例:

struct Person {
    name: &str, // ライフタイムが必要
}

エラーメッセージ:

error[E0106]: missing lifetime specifier

解決方法:
構造体にライフタイム注釈を追加します。

struct Person<'a> {
    name: &'a str,
}

4. 静的ライフタイムエラー


ライフタイムを'staticと誤って指定すると、コンパイルエラーになることがあります。

エラー例:

fn get_str() -> &'static str {
    let s = String::from("hello");
    &s // エラー:`s`は静的ライフタイムではない
}

エラーメッセージ:

error[E0716]: temporary value dropped while borrowed

解決方法:
'staticではなく、スコープ内のデータに適切なライフタイムを使います。

ライフタイムエラーを回避するためのポイント

  1. 参照がスコープ外になる前に利用する
  2. ライフタイム注釈を正しく指定する
  3. データの所有権と借用の関係を理解する
  4. コンパイラのエラーメッセージをよく確認する

まとめ


ライフタイムエラーはRust特有のものですが、メモリ安全性を確保するために重要です。エラーメッセージを正しく理解し、適切なライフタイム注釈を適用することで、安全で効率的なコードを書けるようになります。

具体例で学ぶライフタイムの活用


ライフタイムの概念を理解するために、具体的なサンプルコードを用いてライフタイム注釈の実践的な使い方を見ていきましょう。これにより、Rustのメモリ安全性とライフタイムの重要性がより明確になります。

1. 文字列スライスの比較関数


2つの文字列スライスのうち、長い方を返す関数の例です。

fn longest<'a>(x: &'a str, y: &'a str) -> &'a str {
    if x.len() > y.len() {
        x
    } else {
        y
    }
}

fn main() {
    let string1 = String::from("Hello");
    let string2 = String::from("Rust Programming");

    let result = longest(&string1, &string2);
    println!("Longest string: {}", result);
}

解説:

  • <'a>:2つの参照xyに同じライフタイム'aを指定。
  • &'a str:返り値も'aライフタイムの参照です。
  • ライフタイムの保証string1string2が有効である限り、resultも有効です。

2. 構造体内でのライフタイムの使用


構造体が参照を保持する場合のライフタイムの使い方です。

struct Book<'a> {
    title: &'a str,
    author: &'a str,
}

fn display_book(book: &Book) {
    println!("Title: {}, Author: {}", book.title, book.author);
}

fn main() {
    let title = String::from("The Rust Programming Language");
    let author = String::from("Steve Klabnik and Carol Nichols");

    let my_book = Book {
        title: &title,
        author: &author,
    };

    display_book(&my_book);
}

解説:

  • <'a>:構造体Bookにライフタイム'aを指定。
  • title: &'a strauthor: &'a str:参照が'aライフタイムで有効であることを示しています。
  • 安全性titleauthorが有効である限り、my_bookも安全に使用できます。

3. ライフタイムとミュータブル参照


ミュータブル参照とライフタイムを併用する例です。

fn update_value<'a>(s: &'a mut String) {
    s.push_str(" is awesome!");
}

fn main() {
    let mut text = String::from("Rust");
    update_value(&mut text);
    println!("{}", text);
}

解説:

  • <'a>:ミュータブル参照sにライフタイム'aを適用。
  • &'a mut String:ミュータブルな参照にライフタイムを指定。
  • 安全な変更update_value関数内でsを変更し、textが有効な間のみ変更が許されます。

4. 複数ライフタイムの応用


複数のライフタイムを関数に適用する例です。

fn combine<'a, 'b>(first: &'a str, second: &'b str) -> String {
    format!("{} {}", first, second)
}

fn main() {
    let word1 = String::from("Hello");
    let word2 = String::from("World");

    let result = combine(&word1, &word2);
    println!("{}", result);
}

解説:

  • <'a, 'b>:2つの異なるライフタイムを指定。
  • 戻り値:ライフタイムではなく、新たに生成されたStringを返すのでライフタイムは不要です。

まとめ


これらの具体例を通じて、ライフタイム注釈がRustのメモリ安全性を保証し、データの参照が安全に管理されることを理解できたと思います。ライフタイムを正しく適用することで、効率的で安全なプログラムを作成できます。

高度なライフタイムのトピック


Rustのライフタイムは基本的な使い方だけでなく、より高度な場面でも活用されます。ここでは、静的ライフタイムや複雑なライフタイムパターン、そして関数ポインタやトレイトオブジェクトでのライフタイムの使用について解説します。

1. 静的ライフタイム (`’static`)


'staticライフタイムは、プログラムの実行中ずっと有効な参照を意味します。通常、文字列リテラルや永続的に保持されるデータに使われます。

静的ライフタイムの例:

fn main() {
    let s: &'static str = "This string lives for the entire program";
    println!("{}", s);
}
  • 'staticsはプログラムの実行が終了するまで有効です。
  • 注意点:すべてのデータに'staticライフタイムを使うのは避けるべきです。動的データには適しません。

2. トレイトオブジェクトとライフタイム


トレイトオブジェクトにライフタイムを指定することで、参照が有効な間だけトレイトオブジェクトが利用可能になります。

例:

trait Message {
    fn display(&self);
}

struct Greeting<'a> {
    content: &'a str,
}

impl<'a> Message for Greeting<'a> {
    fn display(&self) {
        println!("{}", self.content);
    }
}

fn show_message(msg: &dyn Message) {
    msg.display();
}

fn main() {
    let greeting = Greeting { content: "Hello, Rust!" };
    show_message(&greeting);
}
  • &dyn Message:トレイトオブジェクトの参照。ライフタイムを指定することで安全に保持できます。

3. 関数ポインタとライフタイム


関数ポインタが参照を返す場合、ライフタイムを明示する必要があります。

関数ポインタのライフタイム指定:

fn make_greeting<'a>(name: &'a str) -> &'a str {
    name
}

fn main() {
    let name = String::from("Alice");
    let greet: fn(&str) -> &str = make_greeting;
    println!("Hello, {}!", greet(&name));
}
  • ライフタイム'amake_greeting関数が返す参照は、引数nameのライフタイムに依存します。

4. 複雑なライフタイムパターン


複数の参照を扱う関数で、異なるライフタイムを組み合わせる場合の例です。

fn multiple_lifetimes<'a, 'b>(x: &'a str, y: &'b str) -> (&'a str, &'b str) {
    (x, y)
}

fn main() {
    let first = String::from("First");
    let second = String::from("Second");

    let result = multiple_lifetimes(&first, &second);
    println!("{} and {}", result.0, result.1);
}
  • <'a, 'b>:2つの異なるライフタイムを指定。
  • 戻り値:それぞれ異なるライフタイムの参照をタプルで返します。

5. Higher-Ranked Trait Bounds (HRTB)


ジェネリック関数でライフタイムを柔軟に指定する場合、HRTBを使います。

例:

fn call_with_str<F>(f: F)
where
    F: for<'a> Fn(&'a str),
{
    let message = "Hello, HRTB!";
    f(message);
}

fn main() {
    call_with_str(|s| println!("{}", s));
}
  • for<'a>:すべてのライフタイムに対して関数fが適用できることを示します。

まとめ


高度なライフタイムの使い方を理解することで、Rustの強力なメモリ安全性をさらに活用できます。静的ライフタイム、トレイトオブジェクト、関数ポインタ、HRTBなど、シチュエーションに応じたライフタイム指定をマスターしましょう。

まとめ


本記事では、Rustにおけるライフタイム注釈の基本から高度な使い方まで解説しました。ライフタイムは、メモリ安全性を保証するために重要な概念であり、参照が有効な期間をコンパイラに伝える役割を持ちます。

  • ライフタイムの基本'aのようなライフタイム注釈を使い、参照が有効な期間を明示する。
  • 関数や構造体への適用:関数や構造体の参照フィールドにライフタイムを指定することで、安全に参照を扱える。
  • よくあるエラーと解決方法:ライフタイムエラーを理解し、適切な修正を行う。
  • 高度なライフタイム:静的ライフタイム、トレイトオブジェクト、HRTBなど、複雑なシチュエーションでの活用法。

ライフタイムを正しく理解し適用することで、Rustのメモリ管理の強力な仕組みを最大限に活かし、安全かつ効率的なプログラムを作成できます。

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目次
  1. ライフタイムとは何か
    1. ライフタイムが必要な理由
    2. ライフタイムの具体例
    3. ライフタイムとコンパイルエラー
  2. ライフタイム注釈の基本構文
    1. ライフタイム注釈の基本的な記法
    2. 関数におけるライフタイム注釈
    3. 複数の引数にライフタイム注釈を付ける
    4. ライフタイム注釈が必要な場面
  3. 関数におけるライフタイム注釈
    1. ライフタイム注釈の基本的な関数定義
    2. 複数の参照引数がある場合のライフタイム注釈
    3. 異なるライフタイムを持つ引数
    4. ライフタイム注釈が不要なケース
  4. 構造体とライフタイム
    1. ライフタイム付き構造体の基本
    2. 複数のフィールドに異なるライフタイム
    3. 構造体のメソッドでライフタイムを使う
    4. ライフタイム付き構造体の制限
    5. まとめ
  5. 複数のライフタイム注釈
    1. 複数のライフタイム注釈を関数で使用する
    2. 構造体で複数のライフタイムを使う
    3. ライフタイムの関係性を指定する
    4. ライフタイムエラーの回避
    5. まとめ
  6. ライフタイムのエラーと解決方法
    1. 1. 参照が借用中にデータが解放されるエラー
    2. 2. ライフタイムの不一致エラー
    3. 3. 構造体でライフタイムを忘れた場合のエラー
    4. 4. 静的ライフタイムエラー
    5. ライフタイムエラーを回避するためのポイント
    6. まとめ
  7. 具体例で学ぶライフタイムの活用
    1. 1. 文字列スライスの比較関数
    2. 2. 構造体内でのライフタイムの使用
    3. 3. ライフタイムとミュータブル参照
    4. 4. 複数ライフタイムの応用
    5. まとめ
  8. 高度なライフタイムのトピック
    1. 1. 静的ライフタイム (`’static`)
    2. 2. トレイトオブジェクトとライフタイム
    3. 3. 関数ポインタとライフタイム
    4. 4. 複雑なライフタイムパターン
    5. 5. Higher-Ranked Trait Bounds (HRTB)
    6. まとめ
  9. まとめ