Rustのスレッド作成を徹底解説:std::thread::spawnの使い方と応用例

Rustは安全性とパフォーマンスを重視したシステムプログラミング言語です。その中でも、並行処理や並列処理を効率的かつ安全に扱える点が大きな特徴です。マルチスレッドプログラミングを行うことで、複数のタスクを同時に実行でき、アプリケーションのパフォーマンスを向上させることができます。

本記事では、Rustでスレッドを作成するための基本的な方法であるstd::thread::spawnの使い方について詳しく解説します。スレッドの作成方法だけでなく、データの共有、エラーハンドリング、さらに効率的なタスク処理についても紹介します。これを学ぶことで、Rustで並行処理を安全に実装し、アプリケーションを効率的に動かすスキルが身につきます。

目次
  1. Rustにおけるスレッドの基本概念
    1. スレッドとは何か
    2. Rustの並行処理の特徴
  2. `std::thread::spawn`の基本構文
    1. 基本的な`std::thread::spawn`の構文
    2. コードの解説
    3. 注意点
  3. スレッド間のデータ共有と`move`キーワード
    1. クロージャと所有権
    2. 例:データを共有しない場合
    3. `move`キーワードでデータを移動する
    4. 解説
    5. 複数のスレッドでデータを共有する方法
    6. まとめ
  4. スレッドの終了と`join`メソッド
    1. スレッドの終了を待つ仕組み
    2. 基本的なjoinの使い方
    3. コードの解説
    4. スレッドがパニックした場合の処理
    5. 複数のスレッドの`join`
    6. まとめ
  5. 複数スレッドの同時実行
    1. 複数のスレッドを作成する基本例
    2. コードの解説
    3. スレッドが同時に実行されることの確認
    4. スレッド間のデータ競合に注意
    5. 例:複数スレッドで共有データを操作
    6. まとめ
  6. スレッドでのエラーハンドリング
    1. スレッド内でのパニックと`join`
    2. 基本的なエラーハンドリングの例
    3. コードの解説
    4. 複数スレッドでのエラーハンドリング
    5. スレッドパニックの詳細情報を取得
    6. パニックを回避するためのベストプラクティス
    7. まとめ
  7. 共有データの保護と`Mutex`の利用
    1. `Mutex`とは何か
    2. `Mutex`の基本構文
    3. コードの解説
    4. 複数スレッドで`Mutex`を使用する例
    5. コードの解説
    6. デッドロックに注意
    7. デッドロックの例
    8. まとめ
  8. スレッドプールと効率的なタスク処理
    1. スレッドプールとは何か
    2. スレッドプールの基本例
    3. threadpoolクレートを使ったスレッドプールの例
    4. コードの解説
    5. 出力例
    6. スレッドプールの利点
    7. スレッドプール使用時の注意点
    8. まとめ
  9. まとめ

Rustにおけるスレッドの基本概念


スレッドはプログラムの中で並行して実行される処理の単位です。Rustでは、標準ライブラリに含まれているstd::threadモジュールを使用してスレッドを作成し、並行処理を行います。

スレッドとは何か


スレッドは、プロセス内で独立して実行される最小のタスク単位です。複数のスレッドを活用することで、複数のタスクを同時に処理することが可能になります。例えば、あるタスクで計算を行いながら、別のタスクでファイルの読み書きを並行して実行することができます。

Rustの並行処理の特徴


Rustの並行処理には以下の特徴があります:

  1. 安全性:Rustの所有権システムにより、データ競合やメモリの安全性が保証されます。
  2. 効率性:軽量なスレッドで効率的にタスクを実行できます。
  3. 明示的なデータ共有:データを共有する際は、ArcMutexといった安全な抽象化を用いるため、予期しないエラーが発生しにくいです。

Rustは、並行処理における安全性とパフォーマンスを両立するための仕組みが整っており、スレッドを安心して利用できます。

`std::thread::spawn`の基本構文


Rustで新しいスレッドを作成するためには、std::thread::spawn関数を使用します。この関数は、スレッドで実行するクロージャまたは関数を引数として取り、新しいスレッドを生成します。

基本的な`std::thread::spawn`の構文


以下が、std::thread::spawnを使ったシンプルなスレッド作成の例です。

use std::thread;
use std::time::Duration;

fn main() {
    let handle = thread::spawn(|| {
        for i in 1..5 {
            println!("スレッドでの処理: {}", i);
            thread::sleep(Duration::from_millis(500));
        }
    });

    for i in 1..3 {
        println!("メインスレッドでの処理: {}", i);
        thread::sleep(Duration::from_millis(500));
    }

    handle.join().unwrap(); // スレッドの終了を待つ
}

コードの解説

  1. thread::spawn:新しいスレッドを作成し、クロージャ内に処理内容を記述します。
  2. thread::sleep:スレッドを一時停止させるためにDurationを指定しています。
  3. handle.join().unwrap():メインスレッドが子スレッドの処理完了を待つためのメソッドです。エラーが発生した場合にはunwrapでパニックします。

注意点

  • クロージャ内の変数:スレッド内で使用する変数はクロージャに移動(move)させる必要がある場合があります。
  • joinの呼び出しjoinを呼ばないと、メインスレッドが終了した際に子スレッドも強制的に終了する可能性があります。

これで、Rustにおける基本的なスレッドの作成方法を理解できました。次はデータ共有やエラー処理について見ていきましょう。

スレッド間のデータ共有と`move`キーワード

Rustでは、スレッド間でデータを共有する場合、安全性を確保するために特別な仕組みが必要です。スレッドにデータを渡すには、所有権やクロージャの動作について理解する必要があります。ここでは、データ共有の基本とmoveキーワードについて解説します。

クロージャと所有権

std::thread::spawnに渡すクロージャは、スレッドが生成されるときに引数として扱われます。しかし、クロージャ内で外部の変数を参照する場合、Rustの所有権ルールにより、データ競合が発生する可能性があります。

例:データを共有しない場合

以下は、スレッド内で外部変数を参照しようとした場合のエラー例です:

use std::thread;

fn main() {
    let message = String::from("こんにちは、Rust!");

    let handle = thread::spawn(|| {
        // 外部変数 `message` への参照はエラーになる
        println!("{}", message);
    });

    handle.join().unwrap();
}

このコードはコンパイルエラーになります。なぜなら、messageの所有権がスレッドに移動していないためです。

`move`キーワードでデータを移動する

クロージャにmoveキーワードを付けることで、外部変数の所有権をスレッドに移動できます。

use std::thread;

fn main() {
    let message = String::from("こんにちは、Rust!");

    let handle = thread::spawn(move || {
        // `message` の所有権がスレッドに移動するため、エラーが解消される
        println!("{}", message);
    });

    handle.join().unwrap();
}

解説

  • moveキーワード:クロージャ内で使う変数の所有権をクロージャに移動します。これにより、スレッド内で安全に変数を使用できます。
  • 所有権移動の注意点:一度スレッドに所有権が移動した変数は、元のスコープでは使用できなくなります。

複数のスレッドでデータを共有する方法

複数のスレッドで同じデータを共有する場合、Arc(参照カウント付きスマートポインタ)とMutex(相互排他ロック)を併用することで安全に共有できます。

use std::sync::{Arc, Mutex};
use std::thread;

fn main() {
    let data = Arc::new(Mutex::new(0));

    let mut handles = vec![];

    for _ in 0..5 {
        let data_clone = Arc::clone(&data);
        let handle = thread::spawn(move || {
            let mut num = data_clone.lock().unwrap();
            *num += 1;
        });
        handles.push(handle);
    }

    for handle in handles {
        handle.join().unwrap();
    }

    println!("最終結果: {}", *data.lock().unwrap());
}

まとめ

  • moveキーワードを使用してクロージャに変数の所有権を移動する。
  • 複数のスレッドでデータを共有する場合は、ArcMutexを利用することで安全性を確保する。

これで、スレッド間のデータ共有に関する基本的な知識が身につきました。次は、スレッドの終了とjoinメソッドについて解説します。

スレッドの終了と`join`メソッド

Rustにおいてスレッドの終了を待つためには、joinメソッドを使用します。スレッドが正常に終了するのを保証することで、並行処理中の予期しないエラーを防ぐことができます。

スレッドの終了を待つ仕組み

std::thread::spawn関数で作成されたスレッドは、JoinHandle型を返します。このJoinHandlejoinメソッドを呼ぶことで、そのスレッドの終了を待つことができます。

基本的なjoinの使い方

use std::thread;
use std::time::Duration;

fn main() {
    let handle = thread::spawn(|| {
        for i in 1..5 {
            println!("スレッドでの処理: {}", i);
            thread::sleep(Duration::from_millis(500));
        }
    });

    println!("メインスレッドで待機中...");
    handle.join().unwrap(); // スレッドの終了を待つ
    println!("スレッドが終了しました。");
}

コードの解説

  1. thread::spawn:新しいスレッドを生成します。
  2. handle.join():このメソッドを呼び出すことで、メインスレッドが子スレッドの終了を待ちます。
  3. unwrap()joinメソッドはResult型を返すため、エラーが発生した場合にパニックするようにしています。

スレッドがパニックした場合の処理

スレッド内でパニックが発生すると、joinメソッドはエラーを返します。そのため、joinの結果を適切に処理することが推奨されます。

use std::thread;

fn main() {
    let handle = thread::spawn(|| {
        panic!("スレッド内でパニック発生!");
    });

    match handle.join() {
        Ok(_) => println!("スレッドが正常に終了しました。"),
        Err(e) => println!("スレッドがパニックしました: {:?}", e),
    }
}

複数のスレッドの`join`

複数のスレッドを作成し、それぞれの終了を待つ場合は、joinを複数回呼び出します。

use std::thread;

fn main() {
    let handles: Vec<_> = (0..3)
        .map(|i| {
            thread::spawn(move || {
                println!("スレッド {} が開始しました。", i);
            })
        })
        .collect();

    for handle in handles {
        handle.join().unwrap();
    }

    println!("すべてのスレッドが終了しました。");
}

まとめ

  • joinメソッドを使用してスレッドの終了を待つ。
  • スレッドがパニックする可能性があるため、エラーハンドリングを行うと安全。
  • 複数スレッドを待つ場合は、各JoinHandleに対してjoinを呼び出す。

これでスレッドの終了とjoinメソッドの使い方を理解しました。次は、複数スレッドの同時実行について解説します。

複数スレッドの同時実行

Rustでは、複数のスレッドを同時に実行することで効率的な並行処理を行えます。これにより、複数のタスクを並列で処理し、プログラムのパフォーマンスを向上させることが可能です。

複数のスレッドを作成する基本例

以下は複数のスレッドを生成して同時にタスクを実行するシンプルな例です。

use std::thread;
use std::time::Duration;

fn main() {
    let mut handles = vec![];

    for i in 1..4 {
        let handle = thread::spawn(move || {
            println!("スレッド {} 開始", i);
            thread::sleep(Duration::from_millis(1000));
            println!("スレッド {} 終了", i);
        });
        handles.push(handle);
    }

    for handle in handles {
        handle.join().unwrap();
    }

    println!("すべてのスレッドが終了しました。");
}

コードの解説

  1. forループ:3つのスレッドを作成し、それぞれのスレッドで異なるタスクを実行します。
  2. thread::spawn:各スレッドでタスクが開始され、1秒間スリープしてから終了します。
  3. handles.push(handle):スレッドのハンドルをhandlesベクタに保存します。
  4. handle.join():全てのスレッドが終了するまで待機します。

スレッドが同時に実行されることの確認

上記のコードを実行すると、複数のスレッドが並行して動作する様子が確認できます。出力結果の例は以下のようになります:

スレッド 1 開始  
スレッド 2 開始  
スレッド 3 開始  
スレッド 1 終了  
スレッド 2 終了  
スレッド 3 終了  
すべてのスレッドが終了しました。

スレッドが同時に動いているため、開始メッセージはすぐに出力され、1秒後に各スレッドの終了メッセージが出力されます。

スレッド間のデータ競合に注意

複数スレッドでデータを共有する場合、データ競合が発生しないよう注意が必要です。安全にデータを共有するには、ArcMutexを使用します。

例:複数スレッドで共有データを操作

use std::sync::{Arc, Mutex};
use std::thread;

fn main() {
    let counter = Arc::new(Mutex::new(0));
    let mut handles = vec![];

    for _ in 0..5 {
        let counter_clone = Arc::clone(&counter);
        let handle = thread::spawn(move || {
            let mut num = counter_clone.lock().unwrap();
            *num += 1;
        });
        handles.push(handle);
    }

    for handle in handles {
        handle.join().unwrap();
    }

    println!("最終カウント: {}", *counter.lock().unwrap());
}

まとめ

  • 複数のスレッドをthread::spawnで同時に生成し、タスクを並行実行できる。
  • スレッドの終了を待つためにjoinメソッドを使用する。
  • 共有データを操作する場合は、ArcMutexを活用してデータ競合を防ぐ。

次は、スレッドでのエラーハンドリングについて解説します。

スレッドでのエラーハンドリング

Rustでは、スレッド内で発生するエラーやパニックを適切に処理することで、プログラムの安全性と安定性を向上させることができます。ここでは、スレッドでのエラーハンドリングの方法や、パニックが発生した場合の対処法について解説します。

スレッド内でのパニックと`join`

スレッドがパニックすると、そのスレッドはクラッシュしますが、親スレッド(メインスレッド)はその影響を受けません。スレッドがパニックしたかどうかは、joinメソッドの戻り値で確認できます。

基本的なエラーハンドリングの例

use std::thread;

fn main() {
    let handle = thread::spawn(|| {
        panic!("スレッド内でパニック発生!");
    });

    match handle.join() {
        Ok(_) => println!("スレッドが正常に終了しました。"),
        Err(e) => println!("スレッドがパニックしました: {:?}", e),
    }
}

コードの解説

  1. thread::spawn:新しいスレッドを生成し、スレッド内でパニックを発生させます。
  2. handle.join():スレッドの終了を待つとともに、パニックが発生した場合はErrを返します。
  3. エラーハンドリングmatch式を使い、パニックが発生した場合にエラーメッセージを表示します。

複数スレッドでのエラーハンドリング

複数のスレッドがある場合、それぞれのスレッドのエラーを個別に処理する必要があります。

use std::thread;

fn main() {
    let mut handles = vec![];

    for i in 0..3 {
        let handle = thread::spawn(move || {
            if i == 1 {
                panic!("スレッド {} でパニック発生!", i);
            }
            println!("スレッド {} は正常に終了しました。", i);
        });
        handles.push(handle);
    }

    for (i, handle) in handles.into_iter().enumerate() {
        match handle.join() {
            Ok(_) => println!("スレッド {} が正常に終了しました。", i),
            Err(e) => println!("スレッド {} がパニックしました: {:?}", i, e),
        }
    }
}

スレッドパニックの詳細情報を取得

パニック時のエラー情報は、Box<dyn Any + Send>型として返されます。downcast_refを使用することで、パニックメッセージの詳細を取得できます。

use std::any::Any;
use std::thread;

fn main() {
    let handle = thread::spawn(|| {
        panic!("パニックメッセージ");
    });

    if let Err(err) = handle.join() {
        if let Some(message) = err.downcast_ref::<&str>() {
            println!("パニックメッセージ: {}", message);
        } else {
            println!("パニックの詳細が取得できませんでした。");
        }
    }
}

パニックを回避するためのベストプラクティス

  • エラー処理を明示的に行うResult型を使用してエラーを返し、パニックを避ける。
  • スレッド内の処理を最小限にする:複雑な処理は避け、スレッド内で起こり得るエラーを最小限に抑える。
  • ロギングと監視:スレッドの状態をログに記録し、異常を検知する仕組みを導入する。

まとめ

  • joinメソッドを使用してスレッド内のパニックを検出する。
  • エラーハンドリングを適切に行い、プログラムの安定性を高める。
  • パニック時の詳細情報を取得し、デバッグに役立てる。

次は、共有データを保護するためのMutexの利用について解説します。

共有データの保護と`Mutex`の利用

複数のスレッドが同じデータにアクセスする場合、データ競合が発生しないように保護する必要があります。Rustでは、Mutex(相互排他ロック)を使用することで、安全にデータを共有・操作できます。

`Mutex`とは何か

Mutexは「Mutual Exclusion(相互排他)」の略で、ある時点で1つのスレッドのみがデータを操作できるようにする仕組みです。これにより、複数のスレッドが同時にデータを変更しようとする際に起こるデータ競合を防ぎます。

`Mutex`の基本構文

以下はMutexを使用して共有データを安全に操作する基本的な例です。

use std::sync::Mutex;

fn main() {
    let counter = Mutex::new(0);

    {
        let mut num = counter.lock().unwrap();
        *num += 1;
    }

    println!("カウンターの値: {}", *counter.lock().unwrap());
}

コードの解説

  1. Mutex::new(0):カウンターとして0を初期値に持つMutexを作成します。
  2. counter.lock().unwrap()lockメソッドでロックを取得し、データへの排他的アクセスを得ます。unwrapでエラー処理を行います。
  3. データ操作:ロックされたデータに対して加算操作を行います。
  4. スコープの終了:ロックはスコープを抜けると自動的に解除されます。

複数スレッドで`Mutex`を使用する例

複数のスレッドで共有データを安全に操作する場合、Arc(参照カウント付きスマートポインタ)とMutexを併用します。

use std::sync::{Arc, Mutex};
use std::thread;

fn main() {
    let counter = Arc::new(Mutex::new(0));
    let mut handles = vec![];

    for _ in 0..5 {
        let counter_clone = Arc::clone(&counter);
        let handle = thread::spawn(move || {
            let mut num = counter_clone.lock().unwrap();
            *num += 1;
        });
        handles.push(handle);
    }

    for handle in handles {
        handle.join().unwrap();
    }

    println!("最終カウント: {}", *counter.lock().unwrap());
}

コードの解説

  1. Arc::new(Mutex::new(0)):複数のスレッドで共有するため、ArcMutexを包みます。
  2. Arc::clone(&counter):各スレッドにArcのクローンを渡し、所有権を共有します。
  3. counter_clone.lock().unwrap():ロックを取得してカウンターの値を更新します。
  4. handle.join().unwrap():全てのスレッドの終了を待ちます。

実行結果:

最終カウント: 5

デッドロックに注意

Mutexを使用する際に、複数のスレッドが互いにロックを待ち続けるデッドロックが発生する可能性があります。デッドロックを避けるためには、ロックの取得順序を一定に保つなどの工夫が必要です。

デッドロックの例

use std::sync::{Arc, Mutex};
use std::thread;

fn main() {
    let a = Arc::new(Mutex::new(0));
    let b = Arc::new(Mutex::new(0));

    let a1 = Arc::clone(&a);
    let b1 = Arc::clone(&b);
    let handle1 = thread::spawn(move || {
        let _lock_a = a1.lock().unwrap();
        let _lock_b = b1.lock().unwrap();
    });

    let a2 = Arc::clone(&a);
    let b2 = Arc::clone(&b);
    let handle2 = thread::spawn(move || {
        let _lock_b = b2.lock().unwrap();
        let _lock_a = a2.lock().unwrap();
    });

    handle1.join().unwrap();
    handle2.join().unwrap();
}

このコードはデッドロックの可能性があります。解決するには、ロックの順序を統一する必要があります。

まとめ

  • Mutexはスレッド間でデータの排他的アクセスを保証する。
  • 複数スレッドでMutexを使用する場合はArcと併用する。
  • デッドロックを避けるためにロックの順序や設計に注意する。

次は、大量のタスクを効率的に処理するためのスレッドプールについて解説します。

スレッドプールと効率的なタスク処理

大量のタスクを効率的に処理するために、Rustではスレッドプールを利用する方法があります。スレッドプールを使用することで、タスクごとに新しいスレッドを作成するオーバーヘッドを避け、パフォーマンスを向上させることができます。

スレッドプールとは何か

スレッドプールは、あらかじめ一定数のスレッドを作成し、それらを再利用して複数のタスクを処理する仕組みです。スレッドの生成と破棄にはコストがかかるため、大量のタスクがある場合に効率的です。

スレッドプールの基本例

Rustでは、threadpoolクレートや、標準ライブラリの代替として提供されるrayonクレートを利用してスレッドプールを簡単に導入できます。ここではthreadpoolクレートを使用する例を紹介します。

threadpoolクレートを使ったスレッドプールの例

  1. Cargo.tomlthreadpoolクレートを追加します。
[dependencies]
threadpool = "1.8"
  1. コード例:
use threadpool::ThreadPool;
use std::sync::mpsc::channel;
use std::time::Duration;
use std::thread;

fn main() {
    // スレッドプールの作成(4つのスレッドを保持)
    let pool = ThreadPool::new(4);
    let (sender, receiver) = channel();

    for i in 0..8 {
        let sender = sender.clone();
        pool.execute(move || {
            println!("タスク {} 開始", i);
            thread::sleep(Duration::from_secs(2));
            println!("タスク {} 終了", i);
            sender.send(i).unwrap();
        });
    }

    drop(sender); // 全てのsenderが送信を完了するのを待つ

    for result in receiver.iter() {
        println!("タスク {} 完了通知を受信", result);
    }

    println!("すべてのタスクが完了しました。");
}

コードの解説

  1. ThreadPool::new(4):4つのスレッドを持つスレッドプールを作成します。
  2. pool.execute:タスクをスレッドプールに渡して実行します。
  3. channel:タスク完了通知を受信するためのチャネルを作成します。
  4. drop(sender):すべてのタスクが送信を完了した後、送信側をドロップします。
  5. receiver.iter():完了通知を受信し、タスクの終了を確認します。

出力例

タスク 0 開始  
タスク 1 開始  
タスク 2 開始  
タスク 3 開始  
タスク 0 終了  
タスク 4 開始  
タスク 1 終了  
タスク 5 開始  
タスク 2 終了  
タスク 6 開始  
タスク 3 終了  
タスク 7 開始  
タスク 4 終了  
タスク 5 終了  
タスク 6 終了  
タスク 7 終了  
タスク 0 完了通知を受信  
タスク 1 完了通知を受信  
タスク 2 完了通知を受信  
タスク 3 完了通知を受信  
タスク 4 完了通知を受信  
タスク 5 完了通知を受信  
タスク 6 完了通知を受信  
タスク 7 完了通知を受信  
すべてのタスクが完了しました。

スレッドプールの利点

  1. 効率的なリソース管理:スレッドの再利用により、生成と破棄のオーバーヘッドを削減します。
  2. 並行処理の最適化:タスクが多数ある場合、スレッドプールによりCPUリソースを有効活用できます。
  3. シンプルなAPI:タスクの投入が簡単であり、並行処理を手軽に導入できます。

スレッドプール使用時の注意点

  • 適切なスレッド数:スレッド数はシステムのCPUコア数やタスクの性質に応じて調整する必要があります。
  • デッドロックの回避:共有リソースへのアクセスが複数のスレッドで行われる場合、ロックの取得順序に注意してください。
  • パニック処理:タスク内でパニックが発生すると、スレッドプール全体がクラッシュする可能性があります。適切なエラーハンドリングを行いましょう。

まとめ

  • スレッドプールを使うことで、大量のタスクを効率的に処理できる。
  • threadpoolクレートrayonクレートを活用すると簡単に導入可能。
  • スレッド数の適切な設定やエラーハンドリングが重要。

次は、Rustにおけるスレッドの基本から応用までの内容を総括するまとめセクションです。

まとめ

本記事では、Rustにおけるスレッド作成の基本から応用までを解説しました。std::thread::spawnを使用したスレッドの生成方法から、データ共有のためのmoveキーワード、スレッドの終了を待つjoinメソッド、複数スレッドの同時実行、エラーハンドリング、そして共有データを保護するMutexの利用方法について詳しく説明しました。

さらに、大量のタスクを効率的に処理するためのスレッドプールの導入方法も紹介しました。これにより、並行処理を安全かつ効率的に行える技術が身についたはずです。

Rustの安全な並行処理機能を活用することで、パフォーマンスの高い、エラーの少ないプログラムを構築できます。並行処理はシステムプログラムやWebサーバーなど、さまざまな分野で重要な技術ですので、ぜひ今回の知識を活かして実際のプロジェクトに取り組んでみてください。

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目次
  1. Rustにおけるスレッドの基本概念
    1. スレッドとは何か
    2. Rustの並行処理の特徴
  2. `std::thread::spawn`の基本構文
    1. 基本的な`std::thread::spawn`の構文
    2. コードの解説
    3. 注意点
  3. スレッド間のデータ共有と`move`キーワード
    1. クロージャと所有権
    2. 例:データを共有しない場合
    3. `move`キーワードでデータを移動する
    4. 解説
    5. 複数のスレッドでデータを共有する方法
    6. まとめ
  4. スレッドの終了と`join`メソッド
    1. スレッドの終了を待つ仕組み
    2. 基本的なjoinの使い方
    3. コードの解説
    4. スレッドがパニックした場合の処理
    5. 複数のスレッドの`join`
    6. まとめ
  5. 複数スレッドの同時実行
    1. 複数のスレッドを作成する基本例
    2. コードの解説
    3. スレッドが同時に実行されることの確認
    4. スレッド間のデータ競合に注意
    5. 例:複数スレッドで共有データを操作
    6. まとめ
  6. スレッドでのエラーハンドリング
    1. スレッド内でのパニックと`join`
    2. 基本的なエラーハンドリングの例
    3. コードの解説
    4. 複数スレッドでのエラーハンドリング
    5. スレッドパニックの詳細情報を取得
    6. パニックを回避するためのベストプラクティス
    7. まとめ
  7. 共有データの保護と`Mutex`の利用
    1. `Mutex`とは何か
    2. `Mutex`の基本構文
    3. コードの解説
    4. 複数スレッドで`Mutex`を使用する例
    5. コードの解説
    6. デッドロックに注意
    7. デッドロックの例
    8. まとめ
  8. スレッドプールと効率的なタスク処理
    1. スレッドプールとは何か
    2. スレッドプールの基本例
    3. threadpoolクレートを使ったスレッドプールの例
    4. コードの解説
    5. 出力例
    6. スレッドプールの利点
    7. スレッドプール使用時の注意点
    8. まとめ
  9. まとめ