Slack と Microsoft Teams は、ともに企業のデジタルコラボレーションを支える代表的なチャットツールです。しかし、料金体系や機能、使いやすさ、セキュリティなどの観点から見ると両者には大きな違いがあります。2025年現在の最新動向を踏まえ、比較ポイントを詳しく解説します。
1. 価格
Slack と Teams のいずれも無料プランがあり、手軽に試せる点は共通しています。しかし無料版の機能制限や有料版の料金体系をチェックすると、両者のコスト構造は大きく異なります。
無料プランと有料プランの違い
Slack の無料プランは「直近 90 日間のメッセージ履歴」しか閲覧できず、古い履歴は見られません。また外部アプリ連携は 10 件まで、音声・ビデオ通話は 1 対 1 のみです。一方、Teams の無料版はメッセージ履歴に制限がなく、最大 100 人までのグループ通話が可能(通話は最長 60 分)となっています。
有料プランの料金体系
Slack は「プロ(スタンダード)」や「ビジネスプラス」、大企業向けの「Enterprise Grid」を展開。日本円ではプロが月額約 925 円、ビジネスプラスが約 1,600 円ほどとなっています。
Teams は Microsoft 365 に含まれることが多く、単体プランの「Teams Essentials」は月額約 550 円。また Business Basic(約 825 円)や Business Standard(約 1,716 円)といった Microsoft 365 プランに含めると、ストレージや Office アプリ込みのため割安感があります。
コストパフォーマンスと追加コスト
大規模組織ほど Teams のコスパが高いとされる理由は、Office アプリや OneDrive ストレージなどを含められるからです。Slack は純粋なチャットツール単体で料金設定されている一方、Teams は Microsoft 365 の一部として利用でき、大企業向けの管理機能やファイル共有容量が充実しています。
また Slack の有料プランではストレージがプランごとに制限され(プロプランで 1 ユーザーあたり 10GB など)、容量超過時はプラン変更が必要です。Teams は有料版なら 1 ユーザーあたり 1TB のクラウドストレージが標準で付与され、追加ストレージ不要で利用できる点も魅力と言えます。
2. 機能
Slack と Teams はいずれもチャットベースのコミュニケーションを中心に据えていますが、ビデオ会議の規模やファイル管理方法など、細かな部分に違いが現れます。
チャットとコミュニケーション機能
双方ともチャンネル制でメッセージをやり取りし、スレッドやメンション、検索、リアクションなど基本機能は共通しています。ただし、Slack はカスタム絵文字やスラッシュコマンド(/remind など)など、細かいカスタマイズ機能が充実しています。
Teams はチャンネル会話がデフォルトでスレッド形式になっており、やり取りの流れが見やすい点が特長です。
音声・ビデオ通話機能
Teams は無料版でも最大 100 人、有料版なら最大 300 人規模のビデオ会議が可能です。録画やホワイトボード、手を挙げるボタン、ライブ字幕など Web 会議ツール並みに充実した機能があります。
一方、Slack は無料版では 1 対 1 通話のみ、有料版でも従来の通話機能では最大 15 人程度(ハドルでは最大 50 人)の制限があるため、大人数の会議にはあまり向きません。必要な場合は Zoom や Google Meet を外部連携して使う運用が一般的です。
ファイル共有とドキュメント共同作業
Slack ではファイルアップロード分が Slack 側ストレージを消費し、Office 文書のリアルタイム編集機能はありません。Google Drive や OneDrive と連携することで対応します。
Teams では SharePoint/OneDrive 上にファイルが保存され、Office 文書を複数人で同時編集することが可能です。議事録などを作成する「Wiki」機能も用意され(最近は OneNote に置き換え)、Slack の「Slack Canvas」と似たメモ機能も存在しますが、Microsoft 365 アプリの統合力はやはり強力です。
タスク管理機能
Teams は「タスク」アプリ(Planner や To Do 連動)があり、チャットからそのままタスク化・進捗管理が可能です。Outlook の予定表とも連携しやすいので一気通貫で管理できます。
Slack は標準のタスク管理機能がなく、/remind コマンドによるリマインダーや、外部アプリ(Trello、Asana、JIRA など)連携による対応が中心です。
AIアシスタント・ボットの活用
Slack には「Slackbot」をはじめとした多彩なボットが昔から存在し、OpenAI の ChatGPT アプリも利用できます。さらに近年は「Slack AI」と呼ばれる生成 AI 機能をエンタープライズ向けに提供開始しており、チャンネルの内容要約や質問回答まで可能になる見込みです。
Teams でも「Microsoft 365 Copilot」を統合し、会議の要約やアクションアイテム抽出など高度な AI 機能が利用できます。ただしどちらも AI 機能は有料アドオンとして提供されるケースが多く、全プランで標準搭載というわけではありません。

執筆者のコメント:Slack も Teams も、今後は AI を使って膨大な会話から必要な情報を自動で要約・抽出する機能がますます強化されるはずです。
3. 使いやすさ
ユーザーインターフェース(UI)の違い
Slack はカジュアルでシンプルなデザインが特長。左サイドバーにチャンネルや DM がフラットに並び、切り替えが直感的です。一方、Teams は「チャット」「チーム」「会議」「ファイル」など機能がタブ分けされ、画面構成がやや複雑。ただ大規模組織で部署ごとのチームとチャンネルを階層管理できるため、組織構造が大きいほど情報整理がしやすい利点があります。
モバイルアプリ・デスクトップアプリの利便性
両者ともスマホや PC アプリからリアルタイムに通知を受け取り、外出先でもやり取り可能です。一般的には Slack の方が軽快、Teams はやや重いというイメージがありましたが、2023 年に「新しい Teams(Teams 2.0)」の最適化が進み、パフォーマンスも改善されています。
Slack はチャンネルごとに細かく通知設定を制御可能で、Teams はやや一括管理寄りです。通知の柔軟度合いは Slack に軍配が上がります。
設定の柔軟性とカスタマイズ性
Slack はテーマカラー変更やカスタム絵文字追加、/コマンドによるワークフロー自動化などユーザーが自由にカスタマイズできる部分が豊富です。Teams は見た目の変更や不要な機能を隠すなどの柔軟性は低めですが、企業規模でのセキュリティポリシー設定やアクセス制御など、管理者向けの統制機能が充実しています。



執筆者のコメント:エンジニアやクリエイティブ職が多い環境では Slack の自由度の高さが受け入れられやすく、管理部門が多い大規模組織では Teams が重宝される印象です。
4. 統合性
他ツールとの連携(サードパーティ統合)
Slack の最大の強みのひとつが豊富な外部サービス連携です。公式アプリディレクトリには 2,400 種以上ものサードパーティアプリが登録されており、Google Workspace、Zoom、GitHub、Salesforce など主要サービスとの連携もボタン一つで簡単に行えます。
Teams も 2,000 種以上のアプリが用意され、Asana などさまざまな外部ツールを統合できますが、特に Microsoft 365 アプリとの連携に強みがあります。逆に言うと、他社サービスをハブ的にまとめるなら Slack の方が柔軟と感じる場面もあるかもしれません。
Microsoft 365/Office との統合
Teams の最大の特徴は Word や Excel など Office ドキュメントを Teams 内から直接開き、共同編集できる点。Outlook の会議予定と連動したビデオ会議の予約や、OneDrive のファイル共有などがワンストップで完結します。
Slack も Office との連携は可能ですが、リアルタイム編集まで踏み込んだ統合は Teams に及びません。反対に Google Workspace との親和性は Slack の方が高く、Google ドライブの権限設定などがスムーズです。
APIや拡張機能の開発
Slack は Web API や Webhook を活用して社内専用 Bot やカスタムアプリを作りやすく、エンジニアに人気があります。Teams でも Microsoft Graph や Bot Framework で独自拡張が可能ですが、Azure AD まわりの認証などで初期設定が複雑な印象です。
ノーコードの Power Automate を使えば Teams から Salesforce など他システムへ自動的にデータ連携するなど柔軟なワークフローを構築できますが、Slack のコミュニティほど Bot 事例が多くはないかもしれません。
Slack と Salesforce の統合
Slack が Salesforce に買収されたことで、Salesforce データを Slack 上で参照・更新したり、AI を活用した商談支援機能が急速に拡充されています。さらに「Slack Connect」で社外の Slack ユーザーともチャンネルを共有できるなど、企業の垣根を越えたコラボレーションが盛んに行われています。
Teams にも「Teams Connect」という共有チャンネル機能が登場しつつありますが、まだ普及段階。Microsoft 365 の利用範囲内で閉じて完結しやすい Teams と、外部サービス・外部企業連携に積極的な Slack という構図が見られます。
5. セキュリティ
データ保護と暗号化
Slack と Teams はいずれも TLS やサーバー側の暗号化を施し、アカウントは多要素認証に対応しています。特に Teams は Azure AD と連携したセキュアなユーザー管理が可能で、企業側が厳格なパスワードポリシーやシングルサインオン(SSO)を設定できます。
Slack も SSO 対応ですが、上位プランで提供されるオプションが多い点には注意が必要です。
管理機能とログ監査
Teams は Microsoft 365 管理センターから、ユーザー権限管理、デバイス認証、モバイル管理、ログ監査、e ディスカバリなどエンタープライズ向けの統制機能を網羅しています。Slack も Enterprise Grid であれば監査ログ API などが利用できますが、Pro プラン以下ではエクスポート機能などに制限があるため、大規模企業では Teams の方が導入しやすい場合があります。
法規制・コンプライアンス対応
医療関連の HIPAA コンプライアンスは、Teams は有料プラン全てで対応可能なのに対し、Slack は Enterprise Grid プランのみの対応となるなど、厳しい規制のある業界ほど Teams の方がスムーズに要件を満たせるケースが多いです。
政府向けの FedRAMP 認証でも、Microsoft Teams は High レベルまで取得しており、Slack は Moderate 止まりです。ただし金融機関向けに FINRA 規則に準じたログ保存を提供するなど、Slack も安全性に注力している点は変わりません。
6. 業種・企業規模別の適性
中小企業・スタートアップ向け
Slack は初期導入のハードルが低く、UI が直感的で、Google Workspace など他の最新 SaaS と連携しやすい点から、スタートアップや小規模組織にとても向いています。カスタマイズ自由度も高いため、スピード重視で文化に合った運用をしたい場合に最適です。
IT・ソフトウェア開発環境では特に Slack の採用例が多く、GitHub や CI/CD ツールと連動させるなどエンジニアが使いこなしやすい基盤として知られています。
大企業・エンタープライズ向け
Teams はすでに Microsoft 365 を導入している企業にとって追加コストなく利用でき、Office アプリや Outlook のメール・予定表と一体運用しやすいことから、大規模組織での導入が進んでいます。
会議やライブイベント、従来の Skype for Business からの移行など、人数が多いほど Teams のメリットが出やすく、セキュリティやコンプライアンス面でも Microsoft 365 が提供する機能をフル活用できます。



執筆者のコメント:公的機関や金融・医療などコンプライアンスが厳しい業種は Teams を選ぶケースが圧倒的です。
7. 2025年版最新情報
利用ユーザー数の動向
Teams は 2024 年時点でアクティブユーザー数 3 億 2,000 万人と発表され、Slack の数千万 DAU(デイリーアクティブユーザー)を大きく引き離しています。特に 2020 ~ 2021 年のコロナ禍で急拡大し、大企業への一斉導入が進みました。
一方 Slack も堅調に利用者を伸ばしており、IT・ベンチャー界隈を中心に根強い人気があります。今後も両者が市場を二分する状況が続くと予想されます。
新機能やアップデート情報
Slack は 2023 年に「Slack Canvas」を正式リリースし、Slack 内でドキュメントやメモを共有・作成しやすくなりました。Salesforce 買収の影響もあり、毎年「Dreamforce」で新機能が発表され、Salesforce データとの連携や AI 機能が強化されています。
Teams は 2023 年春に「新しい Teams(Teams 2.0)」をプレビュー公開し、アプリ起動が 2 倍速、メモリ使用量 50%減などパフォーマンス向上を実現。さらに「Microsoft 365 Copilot」の登場により、議事録要約やチャットへのインテリジェント返信など AI を活かした効率化が見込まれます。
今後の展望
両プラットフォームは「デジタル HQ」の座をめぐって競い合っています。Slack は Salesforce の総合力と広大な連携網を武器に、ユーザー主導の柔軟なコミュニケーション基盤へ進化。Teams は Microsoft 365 の包括的な機能を軸に、企業全体の業務を統合するプラットフォームとして地位を固めています。
組織の規模や使っている他ツール、セキュリティ要件などを踏まえたうえで最適な方を導入し、常に最新アップデートをウォッチしながら活用していくことが重要になるでしょう。



執筆者のコメント:Slack は自由な発想が欲しい現場・小規模組織、Teams は Office とがっちり連携したい大企業という住み分けが続きそうです。
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