Rustで学ぶ!マルチスレッドタスクの効率的なロードバランス設計

マルチスレッドプログラムにおけるタスクのロードバランスは、効率的な処理性能を引き出すために欠かせない要素です。Rustは安全性と高パフォーマンスを重視する言語であり、マルチスレッド処理を行う際の安全性を保証する仕組みが整っています。

しかし、複数のスレッドでタスクを並行実行する場合、タスクが均等に分配されていなければ、一部のスレッドに負荷が集中し、パフォーマンスが低下することがあります。本記事では、Rustを用いたマルチスレッド環境でのロードバランスの設計方法について解説します。ロードバランスの概念から実装方法、よく使われるライブラリや具体例まで詳しく取り上げ、効率的な並行処理を実現するための知識を提供します。

目次
  1. ロードバランスとは何か
    1. ロードバランスの基本概念
    2. ロードバランスが必要な理由
  2. マルチスレッド処理のメリットと課題
    1. マルチスレッド処理のメリット
    2. マルチスレッド処理の課題
  3. Rustにおけるマルチスレッド処理の基本
    1. スレッドの作成方法
    2. データ共有の安全性
    3. スレッドのライフタイム管理
    4. Rustのマルチスレッドの特徴
  4. 効率的なタスク分配の設計原則
    1. 1. タスクの粒度を適切にする
    2. 2. 静的ロードバランスと動的ロードバランスの選択
    3. 3. タスク依存関係の管理
    4. 4. 負荷分散のモニタリング
    5. 5. スレッド数の最適化
  5. Rust標準ライブラリによるスレッド分配
    1. 基本的なスレッド分配の実装
    2. スレッド間でデータを共有する
    3. タスクキューを用いた動的ロードバランス
    4. まとめ
  6. rayonを活用した並行処理
    1. rayonの導入方法
    2. rayonの基本的な使い方
    3. 並行マップ処理の例
    4. 並行フィルタ処理の例
    5. ロードバランスの自動管理
    6. パフォーマンス比較
    7. まとめ
  7. 実装例:データ処理タスクのロードバランス
    1. シナリオ:大規模データの数値計算
    2. コードの解説
    3. 実行結果の例
    4. 処理時間の比較:逐次処理 vs 並行処理
    5. ロードバランスのポイント
    6. まとめ
  8. よくあるエラーとトラブルシューティング
    1. 1. 競合状態(Race Condition)
    2. 2. デッドロック
    3. 3. スレッドパニック
    4. 4. コンパイルエラー:所有権の問題
    5. 5. パフォーマンスのボトルネック
    6. まとめ
  9. まとめ

ロードバランスとは何か


ロードバランス(Load Balancing)とは、複数のタスクを効率よく複数のスレッドやプロセッサに分配することで、システムのリソースを最大限に活用するための手法です。特に並行処理や並列処理を行う際に、特定のスレッドにタスクが偏らないようにするために重要です。

ロードバランスの基本概念


ロードバランスの主な目的は、すべてのスレッドが均等に処理を行うことです。タスクの分配が不均衡だと、一部のスレッドがタスクを抱えすぎて遅延が発生する「ボトルネック」が生じます。

ロードバランスの種類

  • 静的ロードバランス:タスクの分配があらかじめ決められている方法。タスクの実行時間が予測可能な場合に適しています。
  • 動的ロードバランス:実行中にタスクの負荷に応じて動的に分配を調整する方法。タスクの実行時間が予測困難な場合に有効です。

ロードバランスが必要な理由


ロードバランスが適切に設計されていると、以下のようなメリットがあります:

  • 処理時間の短縮:リソースを無駄なく使うことで全体の処理時間が短縮されます。
  • システムの安定性:負荷が均等なら一部のスレッドやリソースが過負荷になるリスクを低減します。
  • スケーラビリティ:スレッドやリソースを追加した際に効率的に活用できます。

Rustでマルチスレッドタスクを設計する際には、ロードバランスの概念をしっかり理解し、適切な分配戦略を選択することが重要です。

マルチスレッド処理のメリットと課題

マルチスレッド処理は、複数のタスクを並行して実行することで、プログラムの効率とパフォーマンスを向上させる手法です。しかし、適切に設計しないと逆に問題が発生することもあります。ここでは、マルチスレッド処理のメリットとよくある課題について解説します。

マルチスレッド処理のメリット

1. 処理の高速化


複数のタスクを同時に実行することで、全体の処理時間を短縮できます。特にCPUをフル活用できる計算処理に有効です。

2. リソースの効率的な利用


I/O待ち(ディスクアクセスやネットワーク通信)と計算処理を並行して行うことで、CPUの無駄な待機時間を減らせます。

3. 応答性の向上


ユーザーインターフェースを提供するプログラムでは、バックグラウンドで処理を行うことで、UIの応答性を維持できます。

マルチスレッド処理の課題

1. 競合状態(Race Condition)


複数のスレッドが同じリソースに同時にアクセスすると、予期しない動作が発生する可能性があります。Rustはこの問題をコンパイル時に検出しやすい言語ですが、依然として注意が必要です。

2. デッドロック


複数のスレッドがお互いのリソースの解放を待ち続け、処理が停止する状態です。スレッド間のロック順序を考慮する必要があります。

3. ロードバランスの不均衡


タスクの分配が偏ると、一部のスレッドに負荷が集中し、全体の処理が遅くなります。ロードバランス設計が不適切な場合に発生します。

4. デバッグの難しさ


マルチスレッドプログラムは並行処理が行われるため、バグの再現が難しく、デバッグが困難です。

マルチスレッドのメリットを活かすためには、これらの課題を理解し、適切な設計と対策を講じることが重要です。Rustの安全性を活かしながら、効率的な並行処理を実現しましょう。

Rustにおけるマルチスレッド処理の基本

Rustは安全性とパフォーマンスを重視した言語であり、マルチスレッド処理に関してもコンパイル時に多くの問題を防ぐ仕組みを提供しています。ここでは、Rustでのスレッドの作成と管理の基本について解説します。

スレッドの作成方法

Rustでは標準ライブラリのstd::threadモジュールを使用してスレッドを作成できます。以下は簡単なスレッド作成の例です。

use std::thread;

fn main() {
    let handle = thread::spawn(|| {
        println!("別スレッドでの処理");
    });

    println!("メインスレッドでの処理");

    handle.join().unwrap(); // スレッドの終了を待つ
}
  • thread::spawn:新しいスレッドを作成し、クロージャで指定された処理を実行します。
  • handle.join():スレッドの終了を待機します。

データ共有の安全性

Rustではスレッド間でデータを共有する際に安全性が保証されており、共有データにはArc(Atomic Reference Count)やMutex(相互排他ロック)を利用します。

ArcとMutexの組み合わせの例

use std::sync::{Arc, Mutex};
use std::thread;

fn main() {
    let counter = Arc::new(Mutex::new(0));
    let mut handles = vec![];

    for _ in 0..10 {
        let counter_clone = Arc::clone(&counter);
        let handle = thread::spawn(move || {
            let mut num = counter_clone.lock().unwrap();
            *num += 1;
        });
        handles.push(handle);
    }

    for handle in handles {
        handle.join().unwrap();
    }

    println!("カウンタの値: {}", *counter.lock().unwrap());
}
  • Arc:複数のスレッド間でデータを安全に共有するためのスマートポインタです。
  • Mutex:データへのアクセスをロックすることで競合状態を防ぎます。
  • lock():ロックを取得し、データにアクセスするための安全な方法です。

スレッドのライフタイム管理

Rustでは、スレッドのライフタイムが厳密に管理されており、スレッドが終了する前にデータが破棄されることはありません。これにより、データの安全性が保証されます。

Rustのマルチスレッドの特徴

  • 安全性:コンパイル時にデータ競合を防ぐ仕組みがあります。
  • 所有権システム:データの所有権を明示的にすることで、エラーを減少させます。
  • 豊富な標準ライブラリ:マルチスレッド処理のためのstd::threadArcMutexが標準で提供されます。

Rustでマルチスレッド処理を行う場合、これらの基本概念を理解して、安全かつ効率的な並行処理を実装しましょう。

効率的なタスク分配の設計原則

マルチスレッド処理における効率的なタスク分配は、システム全体のパフォーマンス向上に直結します。タスク分配が不適切だと、スレッド間の負荷が偏り、ボトルネックが発生する可能性があります。ここでは、Rustでの効率的なタスク分配を設計するための原則について解説します。

1. タスクの粒度を適切にする


タスクの粒度(Granularity)は、各スレッドに割り当てる処理の大きさです。

  • 粗粒度タスク:タスクが大きすぎると、スレッド間の負荷が均等になりにくくなります。
  • 細粒度タスク:タスクが小さすぎると、スレッドの切り替えコスト(オーバーヘッド)が増大します。

適切な粒度の設定が効率的な分配のカギです。

2. 静的ロードバランスと動的ロードバランスの選択

静的ロードバランス


あらかじめタスクをスレッドに分配する方法です。タスクの処理時間が予測可能な場合に有効です。
例:配列のデータを均等に分割して並行処理する

動的ロードバランス


タスクの分配を実行時に動的に調整する方法です。処理時間が不確定な場合に有効です。
例:タスクキューを用意し、スレッドが処理可能なタスクを順次取得する

3. タスク依存関係の管理


並行処理するタスクが互いに依存しないように設計することが重要です。依存関係がある場合、スレッドが待ち状態になり、パフォーマンスが低下します。

依存関係を避ける設計例

use std::thread;

fn main() {
    let data = vec![1, 2, 3, 4];
    let handles: Vec<_> = data.into_iter().map(|num| {
        thread::spawn(move || {
            println!("処理結果: {}", num * 2);
        })
    }).collect();

    for handle in handles {
        handle.join().unwrap();
    }
}

4. 負荷分散のモニタリング


タスク分配後もシステムのリソース利用状況をモニタリングし、不均衡が見られる場合は分配方法を調整します。ツールを活用してCPU使用率や処理時間を確認しましょう。

5. スレッド数の最適化


スレッド数が多すぎると、コンテキストスイッチのオーバーヘッドが増大します。システムのCPUコア数に応じた適切なスレッド数を選択しましょう。

CPUコア数の取得方法

let num_cpus = num_cpus::get();
println!("使用可能なCPUコア数: {}", num_cpus);

効率的なタスク分配を設計することで、マルチスレッド処理のパフォーマンスが向上し、リソースを最大限に活用できます。

Rust標準ライブラリによるスレッド分配

Rustの標準ライブラリは、シンプルで安全なマルチスレッド処理をサポートするための機能を提供しています。ここでは、Rust標準ライブラリを活用してタスクを効率的にスレッド分配する方法について解説します。

基本的なスレッド分配の実装

標準ライブラリのstd::threadモジュールを用いることで、手軽に複数のスレッドでタスクを分配できます。以下の例は、複数のスレッドで配列の要素を並行して処理するシンプルな方法です。

use std::thread;

fn main() {
    let data = vec![1, 2, 3, 4, 5, 6];
    let mut handles = vec![];

    for chunk in data.chunks(2) {
        let chunk = chunk.to_vec();
        let handle = thread::spawn(move || {
            for num in chunk {
                println!("処理中: {}", num);
            }
        });
        handles.push(handle);
    }

    for handle in handles {
        handle.join().unwrap();
    }
}

解説

  • data.chunks(2):配列を2要素ごとのチャンクに分割します。
  • thread::spawn:各チャンクごとに新しいスレッドを作成し、処理を並行して実行します。
  • handle.join():各スレッドの処理が完了するまで待機します。

スレッド間でデータを共有する

スレッド間でデータを安全に共有するには、Arc(参照カウント付きスマートポインタ)とMutex(排他制御ロック)を組み合わせます。

use std::sync::{Arc, Mutex};
use std::thread;

fn main() {
    let counter = Arc::new(Mutex::new(0));
    let mut handles = vec![];

    for _ in 0..5 {
        let counter_clone = Arc::clone(&counter);
        let handle = thread::spawn(move || {
            let mut num = counter_clone.lock().unwrap();
            *num += 1;
            println!("カウンタ: {}", *num);
        });
        handles.push(handle);
    }

    for handle in handles {
        handle.join().unwrap();
    }

    println!("最終カウンタ値: {}", *counter.lock().unwrap());
}

解説

  • Arc::new(Mutex::new(0)):カウンタを共有するためにArcMutexを使用します。
  • Arc::cloneArcの参照をクローンして各スレッドに渡します。
  • lock().unwrap():排他制御でカウンタに安全にアクセスします。

タスクキューを用いた動的ロードバランス

タスクの負荷が均等でない場合、タスクキューを用いることでスレッドが動的にタスクを処理できます。

use std::sync::{Arc, Mutex};
use std::thread;
use std::collections::VecDeque;

fn main() {
    let tasks = Arc::new(Mutex::new(VecDeque::from(vec![1, 2, 3, 4, 5, 6])));
    let mut handles = vec![];

    for _ in 0..3 {
        let tasks_clone = Arc::clone(&tasks);
        let handle = thread::spawn(move || {
            while let Some(task) = tasks_clone.lock().unwrap().pop_front() {
                println!("スレッド {:?} がタスク {} を処理中", thread::current().id(), task);
            }
        });
        handles.push(handle);
    }

    for handle in handles {
        handle.join().unwrap();
    }
}

解説

  • VecDeque:タスクキューとして双方向キューを使用します。
  • pop_front():キューの先頭からタスクを取り出して処理します。
  • 複数スレッド:各スレッドがキューからタスクを取り出し、処理が終わったら次のタスクを処理します。

まとめ

Rustの標準ライブラリには、シンプルで安全なマルチスレッド処理をサポートする機能が揃っています。thread::spawnでスレッドを作成し、ArcMutexで安全にデータを共有しながら、効率的なタスク分配を実現できます。

rayonを活用した並行処理

Rustの標準ライブラリによるマルチスレッド処理は強力ですが、大量のデータを効率よく並行処理する場合、手動でスレッドを管理するのは煩雑です。そこで役立つのが、データ並列処理を簡単に実装できるライブラリrayonです。rayonを使えば、シンプルなコードでタスクを自動的にスレッドに分配し、ロードバランスを効率的に行えます。

rayonの導入方法

Cargo.tomlにrayonを追加します。

[dependencies]
rayon = "1.5"

rayonの基本的な使い方

rayonを使えば、配列やベクタに対する反復処理を並行して実行できます。iter()の代わりにpar_iter()を使うだけで並行処理が可能です。

use rayon::prelude::*;

fn main() {
    let numbers = vec![1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8];

    // 並行処理で各要素を2倍にする
    numbers.par_iter().for_each(|n| {
        println!("処理中: {}", n * 2);
    });
}

解説

  • par_iter():並行反復処理を行うメソッドです。
  • for_each:各要素に対してクロージャの処理を並行で実行します。

並行マップ処理の例

map()関数もpar_iter()と組み合わせることで並行実行が可能です。

use rayon::prelude::*;

fn main() {
    let numbers = vec![1, 2, 3, 4, 5];

    let squared_numbers: Vec<_> = numbers.par_iter()
        .map(|&n| n * n)
        .collect();

    println!("結果: {:?}", squared_numbers);
}

出力

結果: [1, 4, 9, 16, 25]

並行フィルタ処理の例

条件に合致する要素のみを並行処理でフィルタリングします。

use rayon::prelude::*;

fn main() {
    let numbers = vec![1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8];

    let even_numbers: Vec<_> = numbers.par_iter()
        .filter(|&&n| n % 2 == 0)
        .collect();

    println!("偶数のリスト: {:?}", even_numbers);
}

出力

偶数のリスト: [2, 4, 6, 8]

ロードバランスの自動管理

rayonは、タスクの負荷を自動的に分散するため、スレッドごとのロードバランスを意識する必要がありません。タスクが大きくても小さくても、効率よくスレッドに分配されます。

パフォーマンス比較

以下は、rayonを使用する並行処理と標準の逐次処理の速度比較です。

use rayon::prelude::*;
use std::time::Instant;

fn main() {
    let numbers: Vec<u64> = (1..=100_000).collect();

    let start = Instant::now();
    let sum: u64 = numbers.iter().map(|&n| n * n).sum();
    println!("逐次処理の合計: {} (時間: {:?})", sum, start.elapsed());

    let start = Instant::now();
    let par_sum: u64 = numbers.par_iter().map(|&n| n * n).sum();
    println!("並行処理の合計: {} (時間: {:?})", par_sum, start.elapsed());
}

結果例

逐次処理の合計: 333328333350000 (時間: 150ms)
並行処理の合計: 333328333350000 (時間: 40ms)

まとめ

rayonを使えば、シンプルなコードでマルチスレッド並行処理が可能になり、タスク分配やロードバランスの管理を自動化できます。特にデータ並列処理が必要な場合、rayonはRustの開発において非常に便利なライブラリです。

実装例:データ処理タスクのロードバランス

ここでは、Rustを使って複数スレッドでデータ処理タスクを並行実行し、効率的にロードバランスを行う実装例を紹介します。具体的には、rayonライブラリを活用して、大量のデータを複数のスレッドに分配し、処理時間を短縮する例を示します。

シナリオ:大規模データの数値計算

たとえば、大量の数値データに対して複雑な計算を行うシナリオを考えます。以下の例では、数値データの各要素の2乗を計算し、その後、条件に合うデータのみをフィルタします。

コード例

use rayon::prelude::*;
use std::time::Instant;

fn main() {
    // 大量のデータセットを生成
    let data: Vec<u64> = (1..=1_000_000).collect();

    // 並行処理を開始
    let start = Instant::now();
    let processed_data: Vec<u64> = data.par_iter()
        .map(|&n| n * n)           // 各要素を2乗
        .filter(|&n| n % 2 == 0)  // 偶数のみフィルタ
        .collect();

    let duration = start.elapsed();
    println!("並行処理が完了しました。処理時間: {:?}", duration);
    println!("処理結果の最初の10個: {:?}", &processed_data[..10]);
}

コードの解説

  1. データセットの生成
    dataには1から1,000,000までの数値が格納されています。
  2. 並行処理
  • par_iter()rayonの並行イテレータを使用して、データを並行処理します。
  • map(|&n| n * n):各要素を2乗します。
  • filter(|&n| n % 2 == 0):2乗した結果が偶数のみをフィルタします。
  1. 処理時間の測定
    Instant::now()で処理開始時刻を記録し、処理が完了するまでの時間を測定しています。
  2. 結果表示
    処理結果の最初の10個を表示しています。

実行結果の例

並行処理が完了しました。処理時間: 50.42ms
処理結果の最初の10個: [4, 16, 36, 64, 100, 144, 196, 256, 324, 400]

処理時間の比較:逐次処理 vs 並行処理

逐次処理と並行処理のパフォーマンスを比較してみます。

逐次処理のコード

use std::time::Instant;

fn main() {
    let data: Vec<u64> = (1..=1_000_000).collect();

    let start = Instant::now();
    let processed_data: Vec<u64> = data.iter()
        .map(|&n| n * n)
        .filter(|&n| n % 2 == 0)
        .collect();

    let duration = start.elapsed();
    println!("逐次処理が完了しました。処理時間: {:?}", duration);
    println!("処理結果の最初の10個: {:?}", &processed_data[..10]);
}

比較結果の例

逐次処理が完了しました。処理時間: 210.75ms  
並行処理が完了しました。処理時間: 50.42ms  

ロードバランスのポイント

  • 自動ロードバランスrayonはタスクを複数のスレッドに自動で均等に分配します。これにより、負荷が偏らず効率的に並行処理が行えます。
  • タスクの粒度:タスクが適度な粒度で分割されているため、スレッド間の処理時間が大きく偏ることがありません。

まとめ

rayonを活用することで、大量のデータに対する計算処理を効率よく並行実行でき、ロードバランスも自動で管理されます。手動でスレッドを管理する必要がないため、シンプルなコードで高パフォーマンスなアプリケーションを実現できます。

よくあるエラーとトラブルシューティング

Rustでマルチスレッド処理やロードバランス設計を行う際には、いくつかの典型的なエラーや問題に遭遇することがあります。ここでは、よくあるエラーとその解決方法について解説します。

1. 競合状態(Race Condition)

問題:複数のスレッドが同じデータに同時にアクセス・変更しようとすることで、予期しない挙動が発生することがあります。

use std::thread;

fn main() {
    let mut counter = 0;
    let mut handles = vec![];

    for _ in 0..5 {
        let handle = thread::spawn(|| {
            counter += 1; // 競合状態が発生
        });
        handles.push(handle);
    }

    for handle in handles {
        handle.join().unwrap();
    }

    println!("カウンタ: {}", counter);
}

解決方法MutexArcを使ってデータへのアクセスを保護します。

use std::sync::{Arc, Mutex};
use std::thread;

fn main() {
    let counter = Arc::new(Mutex::new(0));
    let mut handles = vec![];

    for _ in 0..5 {
        let counter_clone = Arc::clone(&counter);
        let handle = thread::spawn(move || {
            let mut num = counter_clone.lock().unwrap();
            *num += 1;
        });
        handles.push(handle);
    }

    for handle in handles {
        handle.join().unwrap();
    }

    println!("カウンタ: {}", *counter.lock().unwrap());
}

2. デッドロック

問題:複数のスレッドが互いのリソースのロックを待ち続ける状態になり、プログラムが停止します。

use std::sync::{Arc, Mutex};
use std::thread;

fn main() {
    let resource1 = Arc::new(Mutex::new(1));
    let resource2 = Arc::new(Mutex::new(2));

    let r1 = Arc::clone(&resource1);
    let r2 = Arc::clone(&resource2);

    let handle1 = thread::spawn(move || {
        let _lock1 = r1.lock().unwrap();
        let _lock2 = r2.lock().unwrap();
    });

    let handle2 = thread::spawn(move || {
        let _lock2 = r2.lock().unwrap();
        let _lock1 = r1.lock().unwrap();
    });

    handle1.join().unwrap();
    handle2.join().unwrap();
}

解決方法:ロックの取得順序を統一することでデッドロックを防ぎます。

3. スレッドパニック

問題:スレッド内でエラーが発生すると、スレッドがパニック状態になり、プログラムが異常終了します。

use std::thread;

fn main() {
    let handle = thread::spawn(|| {
        panic!("スレッド内でパニック発生");
    });

    if let Err(e) = handle.join() {
        println!("スレッドがパニックしました: {:?}", e);
    }
}

解決方法join()の戻り値をチェックし、エラー処理を行います。

4. コンパイルエラー:所有権の問題

問題:スレッド間でデータを渡す際、所有権が移動してしまい、エラーが発生します。

use std::thread;

fn main() {
    let data = vec![1, 2, 3];

    let handle = thread::spawn(|| {
        println!("{:?}", data); // コンパイルエラー: 所有権の問題
    });

    handle.join().unwrap();
}

解決方法:データをクローンするか、Arcを使用します。

use std::sync::Arc;
use std::thread;

fn main() {
    let data = Arc::new(vec![1, 2, 3]);

    let data_clone = Arc::clone(&data);
    let handle = thread::spawn(move || {
        println!("{:?}", data_clone);
    });

    handle.join().unwrap();
}

5. パフォーマンスのボトルネック

問題:スレッドが増えすぎることでコンテキストスイッチのオーバーヘッドが発生し、パフォーマンスが低下します。

解決方法

  • システムのCPUコア数に合わせたスレッド数に制限します。
  • rayonを使い、タスクの自動分配に任せます。

まとめ

マルチスレッド処理では競合状態、デッドロック、パニック、所有権の問題など、いくつかのエラーが発生しがちです。Rustの安全性機能やArcMutexrayonを適切に活用することで、これらの問題を防ぎ、効率的で安全な並行処理を実現できます。

まとめ

本記事では、Rustにおけるマルチスレッドタスクのロードバランス設計について解説しました。ロードバランスの基本概念から、Rust標準ライブラリやrayonを使った効率的なタスク分配方法、さらによくあるエラーとそのトラブルシューティングまでを網羅しました。

マルチスレッド処理を行う際には、競合状態やデッドロックを防ぐためにArcMutexを活用し、データの安全性を確保することが重要です。また、rayonライブラリを使えば、シンプルなコードで自動的にロードバランスを管理でき、高パフォーマンスなデータ並列処理を実現できます。

効率的なロードバランス設計を理解し適用することで、Rustプログラムのパフォーマンスと安定性が向上し、複雑な並行処理タスクもスムーズに実行できるようになります。

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目次
  1. ロードバランスとは何か
    1. ロードバランスの基本概念
    2. ロードバランスが必要な理由
  2. マルチスレッド処理のメリットと課題
    1. マルチスレッド処理のメリット
    2. マルチスレッド処理の課題
  3. Rustにおけるマルチスレッド処理の基本
    1. スレッドの作成方法
    2. データ共有の安全性
    3. スレッドのライフタイム管理
    4. Rustのマルチスレッドの特徴
  4. 効率的なタスク分配の設計原則
    1. 1. タスクの粒度を適切にする
    2. 2. 静的ロードバランスと動的ロードバランスの選択
    3. 3. タスク依存関係の管理
    4. 4. 負荷分散のモニタリング
    5. 5. スレッド数の最適化
  5. Rust標準ライブラリによるスレッド分配
    1. 基本的なスレッド分配の実装
    2. スレッド間でデータを共有する
    3. タスクキューを用いた動的ロードバランス
    4. まとめ
  6. rayonを活用した並行処理
    1. rayonの導入方法
    2. rayonの基本的な使い方
    3. 並行マップ処理の例
    4. 並行フィルタ処理の例
    5. ロードバランスの自動管理
    6. パフォーマンス比較
    7. まとめ
  7. 実装例:データ処理タスクのロードバランス
    1. シナリオ:大規模データの数値計算
    2. コードの解説
    3. 実行結果の例
    4. 処理時間の比較:逐次処理 vs 並行処理
    5. ロードバランスのポイント
    6. まとめ
  8. よくあるエラーとトラブルシューティング
    1. 1. 競合状態(Race Condition)
    2. 2. デッドロック
    3. 3. スレッドパニック
    4. 4. コンパイルエラー:所有権の問題
    5. 5. パフォーマンスのボトルネック
    6. まとめ
  9. まとめ