「10分で画面は消えてほしいけれど、復帰のたびにPIN入力はしたくない」。Windows 11では“画面オフ(ディスプレイの消灯)”と“自動ロック(サインインの再要求)”が別の仕組みで動くため、既定のままだと両方が同時に起きがちです。本記事では、Windows 11 Home 22H2を前提に、動的ロックの無効化・サインイン要求の見直し・レジストリ/ポリシー設定・PowerToysの活用まで、手順と注意点を徹底解説します。
前提と症状の整理
対象環境は Windows 11 Home 22H2。次の症状が出ているケースを想定します。
- 「電源 & バッテリー」で10分無操作で画面がオフになるよう設定している。
- 画面を点灯(マウス/キーボード/電源ボタン等)すると、ロック画面が表示され毎回PIN入力を求められる。
- 理想は「画面は節電のためオフになるが、復帰時はロックされない」。
この「勝手にロックされる」挙動は、次の要因のいずれか(または複合)で起きます。
- 動的ロック(Dynamic Lock)が有効:ペアリング端末が離れたと判断すると自動ロック。
- サインインの再要求設定:離席後に復帰した際の再認証タイミングが厳しめ。
- 機械の無操作ロック(Machine inactivity):一定時間の無操作で自動ロックするポリシー/レジストリ。
- スクリーンセーバーの「再開時にログオン画面に戻る」チェック。
- 組織/MDM配布のセキュリティポリシー(Intune/ドメイン)による強制。
解決策の全体像(早見表)
| 方法 | 手順 | 備考・補足 |
|---|---|---|
| A. 動的ロック(Dynamic Lock)の無効化 | 1. 設定 → アカウント → サインイン オプション → 動的ロック 2. 「Windows がデバイスが離れたと検出したら自動的にデバイスをロックする」のチェックを外す | Bluetooth端末の切断でもロック。使わないならOFFが無難 |
| B. サインイン要求タイミングを「再要求しない」に変更 | 1. 設定 → アカウント → サインイン オプション 2. 追加設定 内「離席していた場合、Windows にいつサインインを再要求させるか」→ 再要求しない(Never) | 22H2以降の新UI。Homeでも可。睡眠(スリープ)復帰時の挙動にも影響 |
| C. グループポリシー/レジストリで無操作ロックを無効 | Pro/Enterprise:「Interactive logon: Machine inactivity limit」を0秒 Home:レジストリ InactivityTimeoutSecs (DWORD)を0に | UIに選択肢が出ない/効かない際の最終手段。編集前にバックアップ |
| D. PowerToys Awakeの活用 | PowerToys → Awake をON(必要に応じて一時的に) | スリープ抑止が主目的。「画面だけ消す」要件とはややズレる |
仕組みを理解する:画面オフ / スリープ / ロックの違い
言葉が似ていますが、内部的には別機能です。狙いどおりの構成にするため、まずは挙動を分解して把握しましょう。
| 項目 | 何が起こるか | どこで設定 | ロックとの関係 |
|---|---|---|---|
| 画面オフ(ディスプレイ消灯) | 液晶の電源のみ落とす。アプリは動き続ける | 設定 → システム → 電源とバッテリー → 画面とスリープ | ロックは別。無操作ロックやサインイン要求設定が有効だと復帰時にPIN |
| スリープ | メモリ維持で低消費電力(Modern Standby含む) | 同上(スリープ時間) | 既定で復帰時にサインイン要求。設定で「再要求しない」可 |
| ロック | ユーザーセッションがロック画面へ。アプリは動作継続 | Win+L / 動的ロック / 無操作ロック / スクリーンセーバー | これを避ければPIN不要で画面復帰できる |
A. 動的ロック(Dynamic Lock)を無効化する
Bluetoothでペアリング済みのスマホ等がPCから離れたと推定されると、Windowsが自動ロックします。意図せずロックされる原因になり得るため、不要ならOFFにしましょう。
- 設定 を開く。
- アカウント → サインイン オプション。
- 下部の 動的ロック を展開し、
「Windows がデバイスが離れたと検出したら自動的にデバイスをロックする」のチェックを外す。
補足:
- ペアリングが不安定なBluetoothデバイス(イヤホン等)でも誤検知によるロックが起こり得ます。
- 外出時は自動ロックが便利なので、状況に応じてON/OFFを切り替える運用もアリです(Win+Lの手動ロック併用がおすすめ)。
B. 「離席時のサインイン再要求」を“再要求しない(Never)”に
22H2以降は「離席していた場合、Windows にいつサインインを再要求させるか」という分かりやすい項目が追加されています。これを 再要求しない にすることで、画面オフや短時間スリープの復帰でPIN入力を求められなくなります。
- 設定 → アカウント → サインイン オプション。
- 追加設定 を開き、
「離席していた場合、Windows にいつサインインを再要求させるか」を 再要求しない(Never) に変更。
実務上のポイント:
- この設定はスリープ復帰時の再認証にも関係します。スリープからの復帰でPIN不要にしたい場合にも有効です。
- 職場や共有PCではセキュリティリスクが高まるため、席を離れるときはWin+Lで手動ロックを習慣化しましょう。
- 項目が表示されない場合は、組織ポリシーやWindows Hello要件が影響している可能性があります(後述の「よくある躓き」参照)。
C. グループポリシー / レジストリで「無操作ロック」を止める
「画面だけオフにしたいのに毎回ロックされる」最大の原因は、Machine inactivity系の設定(一定時間の無操作でロック)です。UIの変更や組織ポリシーの影響で見つけにくい場合は、次のアプローチで確実に止めます。
Pro/Enterprise:ローカルセキュリティポリシー
- Windows + R →
secpol.mscを実行。 - ローカル ポリシー → セキュリティ オプション。
- Interactive logon: Machine inactivity limit(機械の無操作制限)を開き、0 秒に設定して適用。
これで無操作による自動ロックが無効になります。
Home(またはポリシーUIが無い環境):レジストリで設定
Homeエディションにはsecpol.mscがありませんが、同等の効果をレジストリで得られます。編集前に必ず復元ポイント/バックアップを作成してください。
- Windows + R →
regeditと入力しレジストリエディターを開く。 - 次のキーへ移動:
HKEY_LOCAL_MACHINE\SOFTWARE\Microsoft\Windows\CurrentVersion\Policies\System - 右ペインで 新規 → DWORD (32ビット) 値 を作成し、名前を
InactivityTimeoutSecsにする。 - 値をダブルクリックし、10進数で 0 を入力してOK。
- PCを再起動。
注意:
- 整数(秒)指定。0で自動ロック無効、正の値で秒数後にロック。
- 組織ポリシーにより上書きされる場合があります。その際は管理者に相談を。
コマンドで一括適用(管理者権限のターミナル)
reg add "HKLM\SOFTWARE\Microsoft\Windows\CurrentVersion\Policies\System" ^
/v InactivityTimeoutSecs /t REG_DWORD /d 0 /f
上記を実行後、再起動すると反映されます。元に戻すには /d の値を希望秒数に変えるか、当該値を削除してください。
D. PowerToys Awakeを“必要なときだけ”使う
PowerToysのAwakeは、本来「スリープをさせない」ためのユーティリティです。作業中の一時的な抑止に有効ですが、「画面だけ消したい」要件とはズレる点に注意しましょう。
- AwakeのトグルをONにするとPCが起き続けます。
- Awake設定に「Keep screen on」があります。これをOFFにすれば、PCは起きたままでも画面オフは許可されます。
- ただし無操作ロックやサインイン再要求が有効なら、復帰時にPINが必要になる点は変わりません。Awakeはあくまで補助と考えましょう。
スクリーンセーバーによるロックを無効化する
古い設定が残っていてスクリーンセーバーが動作し、「再開時にログオン画面に戻る」がONだと復帰でPINを要求されます。併用時は次を確認します。
- 設定 → 個人用設定 → ロック画面 → スクリーンセーバー を開く。
- 「再開時にログオン画面に戻る」のチェックを外す。
- そもそもスクリーンセーバーを使わない場合は、種類を「なし」に。
おすすめ構成(画面は消す・ロックはしない)
「画面オフで省電力、復帰時のPINは不要」のバランスを取りたい場合、以下の組み合わせが実用的です。
| 設定箇所 | 推奨値 | 目的 |
|---|---|---|
| 設定 → システム → 電源とバッテリー → 画面とスリープ | 画面:10分、スリープ:しない(または長め) | 画面だけ消してPCは動かし続ける |
| 設定 → アカウント → サインイン オプション → 追加設定 | 再要求しない(Never) | 復帰時のPINを省略 |
| 動的ロック | OFF | 誤検知による自動ロックを防ぐ |
| (必要に応じて)レジストリ | InactivityTimeoutSecs=0 | 無操作ロックを完全に無効化 |
| スクリーンセーバー | ログオン画面へ戻る:OFF | 復帰でPIN要求を回避 |
検証フロー(設定が効いているか素早く確認)
- 上記の設定を適用後、PCを再起動。
- 何も触らず10分待って画面がオフになることを確認。
- マウスを動かす/キーを押すなどで画面を点灯。ロック画面が出ずに、そのままデスクトップへ復帰すれば成功。
- スリープも併用する場合は、スリープに入れてから復帰してもPIN不要か確認。
よくある躓きと回避策
「再要求しない」が表示されない / グレーアウト
- 組織(ドメイン/MDM)でセキュリティポリシーが配布されていると、ユーザー側で変更不可になります。管理者に確認を。
- Windows Helloの要件や、会社のCIS準拠ポリシーが影響することもあります。個人端末であればローカルアカウントへ切り替える等で一時的に回避可能な場合があります。
コントロールパネルの「スリープ解除時のパスワード」が見当たらない
従来の「電源オプション → システム設定 → スリープ解除時のパスワードを要求する」は、Windows Helloデバイスや組織ポリシー環境では非表示になることがあります。Windows 11 22H2では、基本的にサインイン オプションの“再要求しない”で代替できます。
画面はオフのはずなのにスリープへ入ってしまう
- 「画面」と「スリープ」を別々に設定します。画面=短め、スリープ=長め(または無効)に。
- Modern Standby対応機では、デバイス/アプリがスリープへ誘導する場合があります。PowerToys Awakeを一時的にONにして挙動を切り分けると原因特定に役立ちます。
Bluetooth機器の一時切断でロックされる
動的ロックをOFFにするか、ペアリング端末の電源管理(省電力のための切断)を見直してください。イヤホン/スマホ側の自動切断でもロックが走ることがあります。
セキュリティとのバランス設計
「復帰時にPIN不要」は便利ですが、リスクも伴います。おすすめ運用は以下のとおりです。
- 在宅や個人環境では「再要求しない」。外出先や共有スペースでは Win+L で手動ロックを徹底。
- 離席時間が長いワークスタイルなら、InactivityTimeoutSecs を 0 ではなく「30〜60分」程度に設定し、画面オフ短め+無操作ロックは長めの“ゆるやかな二段構え”にする。
- BitLockerと自動ログインは別物。起動時の保護は維持しつつ、離席時の利便性のみ調整しましょう。
トラブルシューティング深掘り
1. それでもロックされるときの点検チェックリスト
| 確認ポイント | 具体的な見直し |
|---|---|
| 動的ロックがON | サインイン オプション → 動的ロック → チェックを外す |
| サインイン再要求が「すぐ/1分」など | サインイン オプション → 追加設定 → 再要求しないへ |
| 無操作ロックのポリシーが有効 | InactivityTimeoutSecs に 0 を設定(または秒数を延長) |
| スクリーンセーバーのログオン要求 | 「再開時にログオン画面に戻る」のチェックを外す |
| 会社/学校アカウントのポリシー | 変更不可の場合あり。管理者に方針を確認 |
2. 便利なPowerShell/コマンド
管理者のターミナル(Windows Terminal/PowerShell)で、現在値の確認や適用を素早く行えます。
:: 無操作ロックの現在値を確認(存在しなければ未設定)
reg query "HKLM\SOFTWARE\Microsoft\Windows\CurrentVersion\Policies\System" /v InactivityTimeoutSecs
:: 無操作ロックを無効(0秒)に設定
reg add "HKLM\SOFTWARE\Microsoft\Windows\CurrentVersion\Policies\System" /v InactivityTimeoutSecs /t REG_DWORD /d 0 /f
3. 既定に戻す(復元)
- 動的ロック:チェックを入れ直す。
- サインイン再要求:運用に合わせて「1分/3分/15分」に戻す。
- レジストリ:
InactivityTimeoutSecsを削除、または適切な秒数へ。 - スクリーンセーバー:「再開時にログオン画面に戻る」をONに。
ケース別ベストプラクティス
在宅ワーク(家族と共用しないPC)
- 画面オフ:10分、スリープ:30〜60分(または無効)。
- サインイン再要求:再要求しない。
- InactivityTimeoutSecs:0 または長め(3600=60分)。
個室オフィス(第三者の出入りが少ない)
- 画面オフ:5〜10分、スリープ:30分。
- サインイン再要求:15分。
- InactivityTimeoutSecs:1800(30分)。
- 離席時はWin+Lで手動ロック。
共用スペース(セキュリティ優先)
- 画面オフ:2〜5分、スリープ:10〜15分。
- サインイン再要求:1分またはすぐ。
- InactivityTimeoutSecs:300〜600。
動作確認のコツ(“画面オフだけ”を確実に再現)
- テスト中はバックグラウンドで音楽/動画を再生し、アプリが動いている状態でディスプレイだけ消えることを確認。
- 無操作ロックを無効にしていれば、画面点灯直後にアプリの続きをすぐ操作できます。
- AwakeをONにしている場合でも、サインイン再要求や無操作ロックが有効だとPINを求められます。混同しないこと。
よくある質問(FAQ)
Q. PIN入力を完全に無くしても大丈夫?
利便性は向上しますが、リスクも上がります。自宅以外では席を立つ前にWin+Lでロックしましょう。起動時のセキュリティ(BitLocker/TPM)は別設定なので、そのまま維持を。
Q. 画面オフ→すぐ復帰でもロックされることがある?
はい。InactivityTimeoutSecs が短い、動的ロックが効いている、スクリーンセーバーのログオン要求がON、のいずれかが原因です。本文のチェックリストを順に確認してください。
Q. Homeエディションでポリシーが使えない…
Homeではsecpol.mscがありません。レジストリの InactivityTimeoutSecs を使えば同等の効果が得られます。
Q. 会社PCで項目が触れない
MDM/グループポリシーで固定されている可能性が高いです。管理者の方針に従ってください。
まとめ
「画面はオフ、でもロックはしない」を安定して実現するカギは、(1)動的ロックをOFF、(2)サインイン再要求を“再要求しない”、(3)無操作ロック(InactivityTimeoutSecs)を0 の3点です。加えて、スクリーンセーバーのログオン画面へ戻るをOFFにすることで、復帰のたびのPIN入力から解放されます。環境やセキュリティ要件に合わせて秒数を微調整し、作業の集中力を切らさない最適な省電力設定を作り込みましょう。
参考:一括適用用の .reg サンプル(自己責任)
メモ帳に貼り付けて DisableInactivityLock.reg などの名前で保存し、管理者として実行します。適用後は再起動してください。
Windows Registry Editor Version 5.00
[HKEY_LOCAL_MACHINE\SOFTWARE\Microsoft\Windows\CurrentVersion\Policies\System]
"InactivityTimeoutSecs"=dword:00000000
復元する場合は値を削除するか、必要な秒数(16進)に書き換えてください(例:00000e10 は 3600秒)。
安全に編集するためのバックアップ手順
- 設定 → システム → バージョン情報 → システムの保護 から復元ポイントを作成。
- レジストリエディターで対象キーを右クリック → エクスポート し .reg を保存。
- 問題発生時は復元ポイントに戻すか、エクスポートした.regで元に戻す。
最後に:設定が効かないときのエスカレーション
- 個人端末:他のチューニング系アプリ(省電力/セキュリティスイート)が上書きしていないか確認。
- 会社端末:Intune/グループポリシーの「機械の無操作制限」「サインイン再要求」「動的ロック」関連を管理者へ提示して相談。
以上の手順で、多くの環境で「画面オフはするがロックはしない」を再現できます。快適さと安全性のバランスを取りながら、あなたの使い方に最適化してみてください。

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