小規模事業所のIT管理では、フォルダーリダイレクトやドメインコントローラー(DC)の移行は見過ごせない重要事項です。特にWindows Server 2012 Essentialsから2019 Essentialsへの移行には、ライセンスや会計ソフトの設定など多くの課題があります。本記事では、具体的な手順と対策を詳しく解説します。
Serverフォルダーリダイレクトの解除とDC移行・削除の全体像
Windows Server 2012 Essentialsと2019 Essentialsの混在環境で、フォルダーリダイレクト機能をオフにしたり、ドメインコントローラーを移行・削除したりする場合、事前に押さえておくべきポイントは以下の3つに集約されます。
- フォルダーリダイレクトの設定確認と無効化手順
- 2012 Essentialsから2019 Essentialsへのドメインコントローラー(FSMOロール)移行またはドメイン解除
- 会計ソフト(Drakeなど)のデータ移行およびライセンス上の注意点
これらを正しく理解し、順序よく進めることで、予期せぬトラブルやダウンタイムを最小限に抑えられます。
フォルダーリダイレクトの基本
フォルダーリダイレクトとは、ユーザーのドキュメントやデスクトップといったフォルダーをクライアントPCからサーバー上の共有フォルダーへ移動させる機能です。これにより、以下のメリットがあります。
- ユーザープロファイルのサイズを小さく抑え、ログオン時間を短縮
- データの集中管理とバックアップの容易化
- ユーザーが異なる端末にログオンしても同じファイルへアクセス可能
ただし、サーバーを切り替えたりドメインコントローラーを降格したりする際は、フォルダーリダイレクトの設定をしっかり確認しておかないと、ユーザーデータが予期せぬ場所に残ったり、クライアントPC側のプロファイルに競合が起こったりする恐れがあります。
フォルダーリダイレクト解除の詳細手順
ここでは、Windows Server 2012 Essentialsで構成されたフォルダーリダイレクトを無効化する手順を詳しく見ていきます。
1. グループポリシー(GPO)の設定確認
Windows Server Essentialsにおいてフォルダーリダイレクトは、主に以下のいずれか、または両方で設定されています。
- Essentialsコンソール(ダッシュボード)のポリシー
- グループポリシー管理コンソール(GPMC)のユーザー設定
まずは現在の設定がどちらで行われているかを確認します。一般的には、Essentials環境では「ダッシュボード上のユーザーフォルダー管理」から設定しているケースが多いですが、実際にはGPMCでも細かい制御をしている可能性があります。
確認の手順は以下の通りです。
1. 2012 Essentialsサーバーに管理者アカウントでサインイン
2. 「サーバーマネージャー」を開く → 「ツール」 → 「グループ ポリシーの管理」を選択
3. 「<ドメイン名>」配下の「ドメインポリシー」や「組織単位」別に設定されているGPOを確認
4. Essentialsダッシュボードの場合は、「Users」や「Devices」などのセクションでフォルダーリダイレクトが有効化されているかをチェック
2. フォルダーリダイレクトの無効化とユーザーデータの扱い
フォルダーリダイレクトが有効になっているGPOを無効化することで、ユーザーのドキュメントやデスクトップフォルダーがクライアントPCのローカルに戻るようになります。無効化の設定は以下のように行います。
- GPMCでの設定変更
- 該当のグループポリシーを右クリック→「編集」
- 「ユーザーの構成」 → 「ポリシー」 → 「Windowsの設定」 → 「フォルダーリダイレクト」
- リダイレクトしている各フォルダー(ドキュメント、デスクトップ、ピクチャなど)のプロパティを開き、設定を「ベーシック – フォルダーをユーザーアカウントの場所にリダイレクトする」から「フォルダーのリダイレクトをしない(無効)」に変更
- Essentialsダッシュボードでの設定解除
- ダッシュボードの「Users」タブまたは「Devices」タブに移動し、既存のフォルダーリダイレクトポリシーをオフにするオプションがあればそちらでも操作を行う
これらを行うと、新しいポリシーがクライアントに適用され、ユーザーがサインアウト→サインインをした際にフォルダーリダイレクトが解除されます。必要に応じて以下のコマンドで早期にポリシーを反映させることも可能です。
gpupdate /force
データの移行・バックアップの注意点
フォルダーリダイレクトをオフにしたタイミングで、サーバー側にあるユーザーのファイルをクライアントのローカルフォルダーへコピーする動作が自動で行われる場合があります。ただし、環境によっては正常にコピーされないケースや競合が発生する可能性があるため、以下の対策を推奨します。
- 念のためサーバー側のリダイレクトフォルダーをバックアップ
- クライアントPCのユーザー用プロファイルフォルダー(例: C:\Users\ユーザー名\Documents など)にファイルがきちんと戻っているか確認
- 同期の競合が起こったファイルは手動でコピーまたはマージする
万が一リダイレクトフォルダーからローカルへの移動がスムーズにいかない場合は、ユーザーごとに手動でファイルをコピーし、フォルダーの整合性を保つ必要があります。
ドメインコントローラー(DC)の移行・削除手順
次に、Windows Server 2012 Essentialsから2019 EssentialsへDCを移行する、もしくはドメイン自体を廃止して全デバイスをスタンドアロン化する場合の流れを詳しく解説します。
1. FSMOロール移行の確認
ドメインを維持する場合、ADドメイン環境には5つのFSMO(フレキシブル・シングル・マスタ・オペレーション)ロールが存在し、通常はドメイン内で唯一のWindows Server Essentialsに集約されています。2019 Essentialsを新たなDCにするなら、以下のコマンドでFSMOロールの所在を確認し、必要に応じて2019サーバーへロールを移行する作業を行います。
netdom query fsmo
移行が必要なロールは、
- スキーママスター
- ドメイン名マスター
- RIDマスター
- PDCエミュレーター
- インフラストラクチャマスター
これらが2019サーバーに移行されていない場合は、Active DirectoryユーザーとコンピューターやActive Directoryドメインと信頼関係などの管理ツール、もしくはPowerShellコマンドでロールを移行します。
2. 2012 Essentialsの降格手順
2012 Essentialsをドメインコントローラーから降格するには、通常以下の手順を踏みます。
- ドメインのDNS設定を2019サーバー側へ切り替える
- AD CS(認証局)やRAS(リモートアクセスサービス)、ファイルサーバーなどの役割を別のサーバーに移行
- サーバーマネージャー→「役割と機能の削除」からActive Directoryドメインサービスを削除し、dcpromoウィザードを実行(または自動実行)してDCを降格
- 降格が完了したら、ADから2012サーバーを削除
Essentialsには制限が多く、1ドメインにつき1台のEssentialsサーバーが基本となります。2台のEssentialsを同じドメイン内で長期運用することはライセンス上も制約があるため、できるだけ早期に旧サーバーを降格して退役させるのが望ましいです。
3. ドメイン自体を解除しスタンドアロン化する場合
もし「ドメイン運用が必要ない」という判断に至った場合は、ドメインを丸ごと廃止して各PCやサーバーをワークグループモードに戻す手段があります。具体的には、以下のように進めます。
- 全クライアントPCでローカルユーザーアカウントを準備
- 旧ドメインから各PCをワークグループに切り替え
- DCサーバーを降格し、ドメインを削除
- 各PCで必要な共有フォルダーを設定し直す
この際、会計ソフトなどドメインアカウントを参照していたアプリケーション設定を再度調整する必要があります。また、以前ドメイン経由でアクセスしていたフォルダーやプリンターのパスも、ワークグループ環境に合わせて再設定しなければなりません。
会計ソフト(Drake、AMI等)の移行とライセンス問題
フォルダーリダイレクトやドメインの移行作業に加えて、会計ソフトのデータベース移行にも慎重さが求められます。
1. ベンダー推奨のバックアップ&再インストール
DrakeやAMIなどの会計ソフトは、単純にプログラムフォルダーとデータベースファイルをコピーしただけでは正常に動作しない場合がほとんどです。多くのベンダーは、以下のプロセスでの移行を推奨しています。
- 現行サーバー上でアプリケーション内から正式なバックアップを作成
- 新サーバー(または同サーバー上の異なるパス)に会計ソフトを新規インストール
- バックアップからデータをリストア
- ライセンスキーや設定ファイルを再適用
これにより、レジストリやソフト内部の設定を正しく反映できるため、移行後のトラブルを大幅に減らせます。
注意: 共有フォルダーやUNCパスの変更
サーバー名やドメインが変わると、ソフト側の設定で指定されている共有パス(UNCパス)も変更が必要です。以下の点に気を配りましょう。
- 新サーバーのコンピューター名またはIPアドレスで設定するか
- ワークグループ環境なら、サーバー名ではなくIPアドレスを利用したほうが安定する場合もある
- ネットワークドライブの割り当てを利用する場合、使用するユーザーごとに再度ドライブレターを設定する
2. Windows Server Essentialsのライセンス制限
2019 Essentialsが4日おきに強制シャットダウンするという問題は、評価版(または試用版)のライセンス期間やEssentialsのライセンス要件に合致していない可能性が考えられます。正式な製品版ライセンスやCAL(クライアントアクセスライセンス)が正しく適用されているか再確認しましょう。また、Essentialsでは同一ドメインに2台以上のEssentialsサーバーを永続的に置けない制限があるため、速やかに旧サーバーを退役させることが必要です。
実務で役立つポイントとトラブルシューティング
ここでは、移行作業全般における実務的なポイントと、ありがちなトラブルへの対処法をいくつか紹介します。
ポイント1: 段階的な移行テスト
いきなり本番環境のフォルダーリダイレクトを無効化したり、DCを降格すると、ユーザー作業が中断する恐れがあります。以下のような段階的テストを行うと安心です。
- テスト用のユーザーアカウントとクライアントPCを用意し、先行してポリシーを適用して動作確認
- 必要に応じて夜間や休日など業務時間外に作業し、ユーザーの混乱を回避
ポイント2: バックアップポリシーの見直し
フォルダーリダイレクトを解除した結果、ユーザーデータが各PCに分散することになります。サーバー上で一元管理できなくなる分、定期的なバックアップやクラウドストレージの活用など、新たなバックアップポリシーを考慮すべきです。
ポイント3: DNS設定の整合性
DC移行やドメイン廃止に伴い、クライアント側のDNS設定が古い情報を参照し続けると、共有フォルダーに繋がらない、あるいは認証が上手くいかないといったトラブルが起きやすくなります。必要に応じて以下を実施してください。
ipconfig /flushdns
ipconfig /registerdns
また、DHCPサーバーが別途ある場合は、DNSサーバーアドレスの配布先を新サーバーに変更することも大切です。
ポイント4: 会計ソフトの依存サービス
会計ソフトがデータベース(例: SQL Server Express)を利用している場合、SQLインスタンスの移行やサービスアカウントの再設定が必要なケースもあります。以下のようにチェックしましょう。
項目 | 確認すべき内容 |
---|---|
SQL Server インスタンス名 | 旧サーバーと同じか、変更が必要か |
サービスアカウント | ローカルシステムか、ドメインアカウントか |
TCP/IPポート番号 | デフォルト(1433)以外を使用していないか |
ファイアウォールの許可設定 | 新サーバー側で開放されているか |
バックアップおよび復元のフォルダー | 正しく設定されているか |
移行後にアクセスできない場合は、これらの項目を一つひとつ確認すると、問題点を特定しやすくなります。
まとめ: 安全な移行を成功させるための一連のステップ
フォルダーリダイレクト解除とDCの移行・削除は、複数のステップと注意点が存在します。下記のフローを参考に、段階を踏んで確実に行ってください。
- 事前調査・バックアップ
- 現在のフォルダーリダイレクト設定(GPO/Essentialsコンソール)の確認
- 会計ソフト(Drake、AMIなど)のバックアップ作成
- サーバー全体のスナップショットやバックアップを取得
- テスト環境または限定ユーザーでのポリシー変更
- フォルダーリダイレクトの無効化テスト
- データがローカルに戻ることを確認
- トラブルがないか検証
- 本番適用
- 全ユーザーに対してフォルダーリダイレクトを無効化
- 必要に応じてgpupdate /force でポリシーを反映
- ユーザーごとにデータ移行状況を確認
- DCの移行またはドメイン廃止
- 2019 EssentialsへのFSMOロール移行(ドメインを継続運用する場合)
- 2012 Essentialsの降格とADからの削除
- ドメイン廃止の場合は全クライアントをワークグループ化
- 会計ソフトの再インストールと設定変更
- 新サーバー上にソフトウェアをインストール
- バックアップからデータを復元
- 共有パスやUNCパスの再設定
- ライセンス問題の最終確認
- 2019 Essentialsが正常稼働しているか、ライセンスの認証が済んでいるか
- 必要に応じてマイクロソフトやソフトベンダーに問い合わせ
結論と今後の運用ポイント
フォルダーリダイレクトの解除やDC移行は一見シンプルに思えますが、実際には複数のサーバー役割やライセンス、ソフトウェア設定が密接に関連しています。特にEssentials環境では制限事項が多いため、計画的な移行とバックアップの徹底が欠かせません。
今後の運用では、ドメイン内での役割分担を明確化し、ライセンス面をクリアに保つことが重要です。ローカルバックアップやクラウドとの二重バックアップなど、ユーザーデータを守る仕組みを再度見直してみると、より安心してシステムを維持できるようになります。
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