Windows Server 2019 RDSのプリンターリダイレクトエラー解消ガイド

Windows Server 2019のRDS環境でプリンターリダイレクトが突然利用できなくなると、本来なら便利なリモート印刷が一気に業務を止める深刻な課題になり得ます。本記事では、更新プログラム適用後に生じるエラーの原因と多角的な解決策をご紹介します。

RDS環境でのプリンターリダイレクトが動作しない問題の概観

リモートデスクトップサービス(RDS)でプリンターリダイレクトを利用すると、ユーザーはクライアント側のプリンターをサーバーセッション上でも利用できるため、業務効率が格段に向上します。しかしながら、Windows Update後に「ハンドルが無効(The Handle is invalid)」といったエラーで印刷が失敗する報告が増えています。特にWindows Server 2019の2024年3月累積アップデート(KB5035849)および、Out-of-band (OOB) 更新プログラム(KB5037425やKB5039705など)を適用したタイミングで問題が顕在化しやすい傾向にあります。さらに管理者権限(mstsc /admin)でログインすると一部環境では正常に動作し、そうでない環境もあるため原因の特定が難しく、対処に苦慮されているケースが多く見受けられます。

プリンターリダイレクトが停止すると起こる影響

  • リモート印刷が不可能になり、業務フローが滞る
  • プリンターのドライバー問題や権限周りの設定変更が影響し、他の機能にも波及する可能性
  • エラー再現が不安定で、明確な再現手順を特定しづらい

既知の主な不具合のポイント

2024年3月のアップデートやOOBパッチ適用後の報告が多数集まっていることから、Windows Updateによる不具合の可能性が高いと推測されます。一方で、アンインストールやバックアップ復元で問題が解決する環境と、しない環境の双方があるため、単純に特定KBの除去だけでは対処しきれない場合もあります。

原因の可能性を探る

プリンターリダイレクトが機能しなくなる背景は多岐にわたります。ここでは特に指摘の多い要因を列挙し、それぞれ対策の糸口を考えます。

1. Windows Updateによる不具合

KB5035849やそれに続くOOBパッチ(KB5037425、KB5039705など)が根本原因と疑われています。特に大規模なセキュリティ修正やLSASS(ローカルセキュリティ機関)関連の変更など、Windows内部的に大きな改修が入った可能性が指摘されています。

  • 特定の環境だけが大きく影響を受ける一方、別の環境では問題なく動作するケースもある
  • 既存のドライバーやレジストリ設定との競合が疑われることもある

2. ドライバーやアクセス権の問題

「mstsc /admin」でログインした場合のみ正常に印刷できるという報告から、リダイレクトされたプリンターのドライバー権限に問題がある可能性があります。通常モードでアクセスすると、RDSセッション内のユーザー権限では必要なドライバーリソースにアクセスできない、という推測が成り立ちます。

  • GPO(グループポリシー)によって制限されているドライバーインストール権限
  • サーバー側でのプリンターリダイレクト設定が無効化されている
  • クライアント側のドライバーとサーバー側のドライバーの不一致

3. 印刷スプーラーサービス関連の不具合

Windows Serverで印刷を制御する上で欠かせないのが「Print Spooler」サービスです。更新プログラムによるスプーラー動作の変更やレジストリ設定の変更が、意図しない形でリダイレクト動作に干渉している可能性もあります。

  • Print Spoolerサービスがクラッシュやハングアップを起こす
  • イベントビューアでスプーラー関連のエラーが記録されている

試された対策とその結果

すでに多くの管理者が様々な対処を試みており、その中で成功事例や失敗事例が混在しています。以下に代表的な例を列挙します。

1. 問題のある更新プログラムのアンインストール

2024年3月の累積アップデート(KB5035849)を含め、影響が疑われる更新プログラムをアンインストールする方法です。しかし、以下のようなリスクや注意点があります。

  • 一部の環境ではアンインストールしても改善されない
  • セキュリティ修正が失われるため、脆弱性リスクが増す
  • その他のシステム要件で再度更新が必要になる

2. Out-of-band(OOB)更新プログラムの適用

MicrosoftからはOOBパッチとしてKB5037425やKB5039705がリリースされています。これらはメモリリークやLSASS関連の問題に対処するとされていますが、プリンターリダイレクトの問題が必ずしも解消されるわけではありません。すでに適用しても不具合が改善しなかったという報告もあり、万能な解決策とは言い切れません。

3. バックアップからの復元とサーバーの再構築

最も根本的かつ確実な対策は、問題発生前の状態に復元する、もしくは新規にサーバー環境を構築することです。

  • バックアップからロールバック: 問題が解消する可能性が高い
  • 新規サーバー構築: Windows Server 2022等、より新しい環境での再構築
  • 運用停止期間や移行コストは大きいが、長期的安定性を得られる

具体的なトラブルシューティング手順

ここでは、現時点で考えられるトラブルシューティングの具体的なプロセスを示します。問題の切り分けに役立つよう、可能な限りステップを細かく書き出しています。

ステップ1: イベントビューアの確認

まずはサーバーのイベントビューア(Windowsログ → システム/アプリケーション)を確認し、印刷に関連するエラーや警告が記録されていないかを調べます。特に以下のイベントIDに注目してください。

  • イベントID 2xxx台: Print Spooler関連のエラー
  • イベントID 7xx台: ドライバーインストール関連の失敗ログ

イベントログの内容から、どのドライバーやサービスでエラーが発生しているかの手掛かりが得られます。

ステップ2: RDP-Tcpプロパティとグループポリシー設定

サーバーマネージャー → リモートデスクトップサービス → RDP-Tcpプロパティを開き、「クライアント設定」タブでプリンターリダイレクトに関するチェックボックスが無効になっていないか再確認します。

また、グループポリシーオブジェクト(GPO)でプリンターリダイレクトの制限がかかっていないか確認します。特に以下のGPOが有効になっていないかチェックしましょう。

コンピューターの構成
 ┗ 管理用テンプレート
    ┗ Windowsコンポーネント
       ┗ リモートデスクトップサービス
          ┗ リモートデスクトップセッションホスト
             ┗ プリンター
                ・クライアントプリンターのリダイレクトを許可しない

ステップ3: ドライバーの再インストール・汎用ドライバーの利用

特定のプリンターモデル固有のドライバーが問題を起こしている場合があります。テストとして、以下のような汎用ドライバーに切り替えてみるのも有効です。

  • Microsoft XPS Document Writer
  • Microsoft Print to PDF
  • 汎用プリンタードライバー (Universal Print Driver)

一時的にこれらのドライバーでプリンターを構成し、リダイレクトが成功するかを確認します。もし正常に印刷できる場合、元のドライバーに問題がある可能性が高いです。

ステップ4: Print Spoolerサービスの再起動とレジストリ確認

印刷スプーラーを再起動することで、一時的に問題が解消されることがあります。以下のコマンドで操作可能です。

net stop spooler
net start spooler

また、レジストリの以下のキー周辺で不自然なエントリがないかを確認します。誤った設定はバックアップをとった上で削除・修正を行ってください。

HKEY_LOCAL_MACHINE\SYSTEM\CurrentControlSet\Control\Print

ステップ5: 更新プログラムの適用状況を再評価

すべての更新プログラムを最新まで適用し、その後にプリンターリダイレクトが復旧するかを確認します。もし問題が続く場合、アンインストールできるKBを一度外してみるのも一つの手ですが、セキュリティ面のリスクがあるため慎重に判断してください。

KB5037425やKB5039705などのOOBアップデート

これらは印刷機能や認証関連の不具合に対する修正が含まれている可能性があります。公式ドキュメントを確認の上、依存関係や既知の問題をチェックしながら導入を検討してください。

根本的な解決策と今後の見通し

現時点で「これをやれば必ず直る」という万能解は存在しません。複数の環境要因やドライバー、セキュリティ設定、Windows内部の変更が複合的に影響していると考えられます。以下では長期的な視点からみた対策を整理します。

1. バックアップ・新規環境への移行

緊急性が高く、かつサーバーの再起動や構築に時間を割ける場合、最も確実な解決策はバックアップからの復元、またはWindows Server 2022などへの新規構築です。長期サポートを見据える場合は、より新しいOSやクラウド環境(RDS on Azureなど)の活用も一考です。

2. Microsoftサポートやコミュニティとの連携

不具合が長期化・複雑化している場合、Microsoftサポートに直接問い合わせるのが早道です。情報を集約することで、最適なホットフィックスや回避策が得られる可能性があります。また、国内外の技術コミュニティやフォーラムで同様のケースを探し、最新の情報収集に努めることも重要です。

3. 定期的な検証とベストプラクティスの確立

RDS環境は複数の要素(クライアントOS、ネットワーク、プリンターメーカー、Windows Serverのバージョンなど)が絡み合うため、定期的なテスト環境での更新プログラム検証が欠かせません。特に大型の累積アップデートがリリースされるタイミングでは、テスト環境でリダイレクト印刷をチェックし、本番環境への適用リスクを評価する体制を整えましょう。

対策項目内容メリットデメリット
問題KBのアンインストールKB5035849などを削除手軽に実施可能セキュリティリスクが高まる
OOBパッチ適用KB5037425やKB5039705を導入MS公認の修正を受けられる必ずしも問題が直る保証はない
ドライバー切替汎用ドライバーを利用部分的な問題切り分けに有効完全解決に至らないケースも
バックアップ・新規構築以前の状態に戻す、または新OSに乗り換え確実性が高い時間とコストが大きい

より深い検証と注意点

RDSのプリンターリダイレクトはWindowsの内部機構に依存するため、一箇所の修正だけでは不十分な場合が多々あります。ドライバーやGPOだけでなく、認証情報の取り扱いやネットワーク越しのセキュリティ設定が複雑に絡むことも珍しくありません。

ドライバーの署名とホワイトリスト化

企業環境では、署名のないドライバーや不審なドライバーのインストールを制限している場合があります。こうしたポリシーと今回のアップデートの組み合わせで、正常なプリンタードライバーが誤ってブロックされている可能性も考慮しましょう。

LSASS関連のアップデートと影響

2024年3月のアップデートでLSASSの動作に大きな変更があったとされるレポートもあり、認証処理とプリンタードライバーのハンドオーバーで問題が起きている可能性があります。これらは通常、OS内部の挙動なのでユーザー側で細かく制御しづらい部分ですが、関連ログ(セキュリティログなど)を精査することが対策の一歩となります。

結論と推奨アクション

RDSでのプリンターリダイレクトが動作しなくなる問題は、2024年3月以降のWindows Server 2019の更新プログラム適用を機に多発しており、アンインストールやOOBパッチ適用でも解消しない事例が少なくありません。根本原因が複数の要因からなるため、状況に応じて以下のアクションを組み合わせて対処する必要があります。

  • 最新のOOBアップデート確認・適用: KB5039705など、今後も追加の修正パッチがリリースされる可能性あり。
  • ドライバーの検証と汎用ドライバーのテスト: モデル依存のドライバーに問題がないか切り分けを行う。
  • バックアップまたは新規環境への移行: 長期的な安定稼働を優先するなら早めの移行を検討。
  • Microsoftサポートやコミュニティへの問い合わせ: 最新の情報とケーススタディを入手し、ホットフィックスの有無をチェック。

最終的には、やむを得ずアンインストールや新規環境構築まで踏み込む覚悟が必要なケースもあるでしょう。ただし、セキュリティ上の観点からは古い更新プログラムのまま運用するリスクは大きいため、最新パッチの動向に注意を払いつつ、慎重に対応を進めることが肝要です。今後、Microsoft側から公式な修正や追加のパッチが出てくることが期待されますが、それまでの間は各種検証やコミュニケーションを通じてトラブルシューティングを進めることが求められます。

コメント

コメントする