人は新しいサーバーを構築するとき、まず「評価版で試してみる」というケースが多いかと思います。ところが、実際に運用段階へ移行しようとした際にライセンス認証のエラーでつまずいてしまい、原因が分からずに時間を費やしてしまうことも少なくありません。本記事では、そのようなトラブルを未然に防ぐために、Windows Server 2022 評価版から正規版へスムーズに移行する方法や注意点を分かりやすくまとめました。
Windows Server 2022 評価版のライセンス認証が失敗する理由
Windows Server 2022 評価版は、ダウンロードとインストール自体が容易で、試用目的に非常に便利です。しかしながら、正式なライセンスキーをそのまま入力すると認証がうまくいかないケースがあります。主な理由としては、評価版と正規版でエディション情報が異なるために「サーバーのエディションが認証対象外」と判断され、エラーが発生しやすいことが挙げられます。特にエラーコード 0x80070032 は「要求がサポートされていない」旨を示すことがあり、評価版から直接ライセンス認証を行おうとする際に顕著です。
エラーコード 0x80070032 の原因
エディションの不一致
評価版 (Evaluation) は、Windows Server Standard や Datacenter のような正規版 (Full Edition) とは別物として扱われます。そのため、IT 部門や販売店などから提供されたライセンスキーが「正規版向け」のものである場合、評価版エディションに対しては認証できずにエラーが返ることがあります。
ネットワークや通信の問題
オンライン認証を行う際、インターネット接続が不安定だったり、ファイアウォール設定で認証サーバーへの通信がブロックされていると、プロダクトキー自体が正しくても認証エラーにつながる可能性があります。特に企業ネットワークなどのセキュリティが厳しい環境では、認証ポートが閉じられているケースにも注意が必要です。
KMS (キー管理サービス) 環境との混在
組織内で KMS サーバーを運用している場合、評価版のまま KMS 環境の影響を受けてエディション切り替えができず、認証に失敗することがあります。評価版は KMS クライアントではなく、まずフルエディションへ変換してから KMS によるライセンス認証を行う必要があります。
評価版から正規版への変換が必要な理由
ディスクイメージ (ISO) の違い
Windows Server 2022 の評価版と正規版では、もともと配布されている ISO ファイルが異なる場合があります。したがって、単にプロダクトキーを入力するだけでは「別のエディション」に対するライセンスキーとして認識されてしまい、認証に失敗するわけです。DISM コマンドなどを使ってエディションを変換することで、この不一致を解消します。
ライセンス管理情報の再設定
評価版から正規版へ変換すると、ライセンス管理に関するレジストリやシステム設定が再構成されます。これにより、正規ライセンスキーがきちんと認識され、Microsoft の認証サーバーや KMS 環境と正常にやり取りできるようになるのです。
具体的な解決策と手順
ここからは、実際に評価版から正規版(Standard や Datacenter)へ移行するためのコマンドや手順について、できるだけ分かりやすく解説します。エラーを解決するために必要なポイントを表やコードを交えて確認していきましょう。
1. プロダクトキーとネットワーク環境の確認
プロダクトキーの確認
誤ったキーを入力していないか、文字の打ち間違いがないか、全角・半角が混在していないかなどを再チェックしてみてください。ライセンスキーを提供してくれた担当部署やベンダーに再度問い合わせることで、キーの有効性も併せて確認できます。
ネットワーク設定の確認
- インターネット認証の場合:
プロキシ設定やファイアウォールのルール、DNS の正引きが正常に機能しているかを確かめましょう。 - オフライン認証(電話認証)の場合:
後述する slui 4 の手順を使うので、電話回線を使ったアクティベーションに支障がないかを確認します。
2. DISM コマンドによるエディション変換
評価版を正規版に変換するには、管理者権限でコマンドプロンプトまたは PowerShell を立ち上げて、DISM コマンドを実行します。以下のように表でコマンドの例を示します。
操作 | コマンド例 | 説明 |
---|---|---|
エディションの変換 | DISM /online /Set-Edition:ServerStandard /AcceptEula /ProductKey:XXXXX-XXXXX-XXXXX-XXXXX-XXXXX | ServerStandard の部分を必要なエディションに変更できます。ProductKey には実際のライセンスキーを指定します。 |
/online
オプションにより、現在起動している OS をターゲットにすることを示します。/Set-Edition:ServerStandard
は、評価版を Windows Server 2022 Standard エディションに切り替える際に用いる指定です。Datacenter 版に切り替えたい場合はServerDatacenter
を使用します。- 変換後にシステムの再起動を求められる場合があります。再起動後に次のステップに進みましょう。
エディションの変換がうまくいかない場合
- もしコマンドが失敗する場合は、評価版のビルド番号とライセンスキーが対応していない可能性があります。正式版と評価版のビルド番号の違いにより、DISM コマンドでの変換が失敗することもあるため、最新の更新プログラムを適用したうえで再度試すのが望ましいです。
- また、一部のボリュームライセンスキー(KMS/MAK)を使っている場合、評価版からの変換に対応していないキーであることも考えられます。その際は適切なキーを改めて用意するか、正式版のインストールメディアを使用して上書きインストールするなど、別の方法を検討します。
3. ライセンス認証コマンドの実行
エディションを正規版に変換したら、次にライセンス認証を行います。以下のコマンドを管理者権限で実行してください。
slmgr.vbs /ato
- このコマンドは「Windows のライセンス認証(Activate Online)」を実行するものです。
- 成功すれば数秒以内に「ライセンス認証に成功しました」というダイアログ、もしくはコマンド結果が表示されます。
slmgr.vbs の主なオプション
オプション | 機能 |
---|---|
/ato | オンライン認証を実行 |
/ipk <プロダクトキー> | 新しいプロダクトキーをインストール |
/dlv | ライセンスの詳細情報を表示 |
/dli | 現在のライセンスの簡易情報を表示 |
上記のようなオプションを組み合わせることで、現在のライセンス状態を把握したり、別のプロダクトキーを再入力したりできます。万が一、/ato でエラーが出る場合は /dlv
や /dli
を使ってライセンスの状態を確認し、エディション変換が成功しているかどうかを再度チェックすると良いでしょう。
4. 電話認証(オフライン認証)の実施
ネットワークの設定上、オンライン認証がうまくいかない環境もあるかもしれません。その場合、電話によるオフライン認証が可能です。
- 管理者権限でコマンドプロンプトを開きます。
- 以下のコマンドを実行します。
slui 4
- ウィザードが起動するので、国または地域を選択します。
- 表示された電話番号に連絡し、音声ガイダンスまたはオペレーターの指示に従ってインストール ID を入力します。
- 最終的に得られる確認 ID を、画面に表示される入力欄へ入れて認証を完了します。
オフライン認証は多少手間がかかりますが、ネットワークが制限された厳しいセキュリティ環境下でも確実にライセンスをアクティベートする手段として非常に有効です。
トラブルシューティングと追加の対策
ここでは、ライセンス認証でよくあるトラブルへの対処法をいくつか紹介します。
評価版の使用期限が切れた場合
Windows Server の評価版には使用期限があります。通常 180 日程度ですが、使用期限が切れるとライセンス認証が行われない状態になる可能性があります。その場合は評価版からのアップグレードができないケースもあるため、期限が切れる前に正規版へ切り替えることを推奨します。
バックアップとスナップショット
評価版から正規版へ変換する前に、システムのバックアップや仮想マシン環境であればスナップショットを作成しておきましょう。万が一、変換後に不具合が生じたときに、迅速に元の状態へロールバックできます。特に本番環境で作業する際は、事前のリスク管理が不可欠です。
公式ドキュメントやサポートの活用
Microsoft の公式ドキュメントには、評価版から正規版への切り替え手順やトラブルシューティングが詳しく記載されています。手順に従ってもうまくいかない場合は、Microsoft のサポートに連絡するのも一つの方法です。エラーコードや状況を具体的に伝えることで、より的確なアドバイスを得ることができます。
メリット・デメリットを把握してスムーズに移行しよう
メリット
- 評価版から正規版への変換に成功すれば、正式なサポートや制限解除された機能をフルに活用できるようになります。
- 運用上のライセンスリスクを回避し、コンプライアンス面でも安心です。
デメリット
- エディション変換手順はやや複雑で、コマンドの入力ミスやキーの誤入力があると作業が難航する可能性があります。
- ネットワーク環境やライセンスキーの種類によっては、電話認証や追加の手間が発生することがあります。
まとめ:評価版は早めの正規版移行がベスト
Windows Server 2022 の評価版を導入し、実際に機能や運用テストを行ったうえで本格稼働へ移行するのは理にかなった流れです。しかし、評価版のままライセンス認証を試みてもエラーが出るケースが多いので、実運用を開始する前に早めの段階で正規版へ変換するのがおすすめです。エディションの変換には DISM コマンドが不可欠であること、そして変換後には slmgr.vbs /ato や slui 4 を使った認証が必要になることをしっかり押さえておきましょう。
もし依然として認証が失敗する場合は、IT 部門やライセンスを提供しているベンダー、または Microsoft サポートへ問い合わせてみてください。評価版から正規版への移行でつまずきそうなところをあらかじめ把握しておくことで、トラブルを大幅に減らし、安全・確実に Windows Server 2022 の運用を開始できるでしょう。
コメント