Windows 11「Unable to load Pluton‑Windows firmware」イベントの正体とLAN瞬断の切り分け完全ガイド

Windows 11 をプリインストールした最新の Dell OptiPlex を導入した途端、システム イベント ログに「Unable to load Pluton‑Windows firmware」という聞き慣れないメッセージが大量に記録され、不安を感じている管理者は少なくありません。しかも記録直後に Intel Ethernet I219‑LM が一瞬だけリンクを失い “LAN の瞬断” を伴うケースまで報告されるため、ハードウェア故障やセキュリティ リスクを疑うのは当然でしょう。本稿では「Pluton とは何か」「イベントの正体と無視できる根拠」「LAN 瞬断との切り分け手順」「将来的に問題が再燃しないための設計ポイント」まで、企業 IT 担当者が気になる疑問を一つずつ解消します。

目次

1. まず結論:エラーではなく “通知” なので慌てる必要はない

観点要点補足・操作例
問題の性質イベントのレベルは Information。Pluton セキュリティ プロセッサが物理的に載っていない、または UEFI/BIOS で無効化されている場合、Windows 11 が「ファームウェアをロードできない」と“状態報告”するだけ。Pluton は Microsoft と CPU ベンダーが共同開発した次世代セキュリティ チップ(TPM 2.0 互換+α)。搭載されていなければファームウェアも存在しないため、この通知は正常挙動。
システムへの影響OS の安定性・パフォーマンスに影響なし。業務利用を継続して問題ない。イベント ビューアー →「Windows Logs ➔ System」で レベル=Information をフィルタアウトすれば視界に入らなくなる。
LAN の瞬断との関連性現時点で因果は確認されていない。多くは NIC ドライバの電源管理やリンク自動再交渉が原因。切り分け手順は後述。まず BIOS とドライバを最新版に統一し、電力効率のイーサネットを無効化すると再発率が下がる。
ログを出さない方法一部機種は BIOS 設定に “Pluton Security Processor” 項目があり、Disabled でイベント消滅。一方、項目自体が無いモデルでは対処不要。例: Security ➔ Intel Platform Trust Technology / Pluton Security Processor など。
将来の注意点Pluton が Windows 機能(Credential Guard, BitLocker, cloud‑attestable 管理など)と連動する日は近い。企業ポリシーや BitLocker 運用要件を事前に整理しておくと安心。Pluton を BIOS で無効化する場合は展開済み端末の状態を CMDB に記録し、運用手順書に反映する。

2. Pluton セキュリティ プロセッサの基礎知識

2‑1. TPM との違いと後継としての位置付け

Trusted Platform Module (TPM) はマザーボード上のチップまたは CPU 内蔵機能として長年利用されてきました。一方、Pluton はもともと Xbox One や Azure Sphere で採用された“攻撃面を極限まで縮小した SoC 直結型セキュリティ ブロック”であり、ファームウェア改竄やバス盗聴を物理的に防ぎます。TPM 2.0 互換 API を提供しつつ、マイクロコード更新で新しい暗号アルゴリズムを追加できる柔軟性が特徴です。

2‑2. なぜ Dell OptiPlex に載っていないことがあるのか

AMD Ryzen 7xxx や Intel Core 14th Gen 以降はプラットフォーム設計の都合で Pluton を統合する場合がありますが、企業向けビジネス PC では「TPM 2.0 + Intel vPro」の既存運用を崩したくない・海外政府調達要件でサードパーティ TPM を選択したい、などの理由から Pluton ブロックをハード的に無効化して出荷する例が多いのが現状です。

2‑3. Windows 11 の認識フロー

Windows 11 は起動時に ACPI テーブル内の Pluton デバイス ノードを探します。見つからなければ “Pluton のファームウェア イメージを読み込めなかった” と Information ログを残します。逆に Pluton が有効でもファームウェア バージョン差異があると Warning/Evtx 101 イベントが出ることがありますが、今回の 106 番台は完全な情報レベルの通知です。

3. イベント 106「Unable to load Pluton‑Windows firmware」が出るまでの内部処理

  1. BIOS POST 後、Windows Boot Manager が起動。
  2. Phase 0 初期化で ACPI デバイス オブジェクト MSFT0101 (TPM) と MSFT0103 (Pluton) を列挙。
  3. MSFT0103Present=No の場合、Plug and Play で TPM_PF クラスを登録後、ファームウェア読み込みがスキップ。
  4. tpm.sys から TPMWMI_EVENT ストラクチャが Event Tracing for Windows (ETW) へ渡り、System ログに Information イベント 106 が記録。

つまりハードウェアの有無チェック → “無いので読み込まない” の正常フローを追跡するためのログであり、ディスク エラーやドライバ例外のような“異常”を示すものではありません。

4. Intel I219‑LM のリンク瞬断との関係を検証する

4‑1. 典型症状と観測方法

同時に発生するとして報告される症状は次のとおりです。

  • Teams 通話中に 1 ~ 2 秒フリーズ、直後に復帰
  • 「メディアの切断、次に接続」ログが System に記録 (e2fexpress ドライバ)
  • 同じタイムスタンプでイベント 106 が見える

紐付きを疑うのは自然ですが、Windows のイベント タイムスタンプはミリ秒単位で丸められるため、同一秒内に複数ドライバ イベントが集中しても実際には独立していることが多々あります。以下の手順で切り分けましょう。

4‑2. 切り分けフローチャート

手順操作期待結果 / 次のアクション
① BIOS & NIC ドライバを最新Dell SupportAssist または support.dell.com の Service Tag から最新版を適用改善する場合 → 物理層の再交渉バグが修正、終了/改善しない → 手順②へ
② 電源管理の最適化デバイス マネージャー → Intel Ethernet I219‑LM → 電源管理 タブ
・「省電力のためにコンピューターで…」をオフ
・「電力効率のイーサネット (EEE)」オフ
瞬断頻度が低減すれば 802.3az 関連の問題が原因
③ 高負荷テストiPerf3 や SMB 大容量コピーを 30 分継続し、Event ID 27/32 を監視再現しなければスリープ復帰/節電関連のみ影響。タスク スケジューラでスリープ解除直後に NIC 再初期化スクリプトを仕掛けるなどで回避
④ ファームウェアイベント抑止BIOS で Pluton を Disabled (設定がある場合)完全に消えるなら“同一秒内に記録されるだけ”だったと確認可。消えない場合は独立事象

4‑3. PowerShell で相関を確認するワンライナー


Get-WinEvent -FilterHashtable @{LogName='System'; ID=27,32,106} |
  Select TimeCreated, Id, Message |
  Sort TimeCreated |
  Export-Csv "$env:TEMP\EventCorr.csv" -NoTypeInformation

出力 CSV を Excel のピボット テーブルに食わせれば、ID 27/32(NIC ログ)と ID 106(Pluton ログ)が“同一ミリ秒”か“±5 秒以上離れているか”を視覚化できます。

5. Pluton 関連イベントを今後も気にせず運用するためのベスト プラクティス

5‑1. 情報レベル ログの取り扱いポリシー

運用監視ツール(例:System Center OpsMgr, Zabbix, Datadog)には「重大度=Information は収集しない」「EventID オプションで 106 を除外」といったフィルタ ルールを設定します。集中監視サーバーのストレージ肥大や誤アラートを防げます。

5‑2. CMDB への属性追加

Pluton 有無を CMDB のハードウェア属性として追加し、将来 Microsoft が Pluton 必須機能 (例: “Kernel Live Patching with Pluton”) を展開した際に適用可否を一目で判断できる仕組みを作ることを推奨します。

5‑3. グループ ポリシー/Intune での BitLocker 自動回復キー管理

Pluton が Disabled 状態でも TPM 2.0 が搭載されていれば BitLocker は問題なく動作します。ただし RequireAdditionalAuthentication ポリシーで「TPM + PIN」を必須にしていると、CPU 世代アップグレード時に Pluton のみ有効で TPM 無効という珍しい構成が紛れ込む可能性があります。工場出荷イメージのバリエーションを監査するスクリプトを用意しましょう。

6. BIOS 画面での Pluton 無効化手順(Dell OptiPlex 7020/9020 例)

  1. 起動後 F2 で BIOS Setup Utility へ。
  2. Security ➔ Intel Platform Trust Technology を選択。
  3. Intel PTTOn のまま、下段の Pluton Security ProcessorDisabled に切り替え。
  4. 変更を保存して再起動。
  5. Windows 起動後、イベント ビューアーで Event ID 106 が消えたことを確認。

※モデルによりメニュー階層は若干異なりますが、キーワードは「Pluton」「PTT」「Security Processor」の 3 つです。

7. 企業環境で押さえるべきコンプライアンスとセキュリティ ポイント

7‑1. 米国 NIST SP 800‑193 “Platform Firmware Resiliency” との関係

Pluton は Platform Firmware Resiliency (PFR) 指針の要件をハードウェア単体で充たす設計です。将来「PFR 準拠証明」が調達条件になる場合、Disabled 運用は再考が必要になるかもしれません。

7‑2. サプライ チェーン 攻撃対策

ファームウェア サプライ チェーン攻撃の検知/封じ込めは TPM だけでは不十分と言われます。Pluton は CPU ダイ直結のため、中間業者が PCIe バス経由でマルウェアをフラッシュする攻撃手法を大幅に難しくします。

7‑3. ゼロトラスト ネットワーク アーキテクチャとの連携

Intune + Azure AD Conditional Access では「デバイスが Pluton によって attestation されたか」を評価対象にするプレビュー機能が既に限定公開されています。将来的に一般利用が始まった場合、Pluton 無効の端末は Compliant にならずメール制限される可能性がある点を頭に入れておきましょう。

8. FAQ:よくある質問と回答

Q1. 「警告 (Warning)」や「エラー (Error)」ではなくても放置で本当に大丈夫? A1. 情報レベル (Information) は “状態がこうだった” という記録です。OS やアプリがリトライを要する異常ではありません。 Q2. Pluton を BIOS で有効にしたらログは消える? A2. 有効にすると Event ID 103 (Initialization) が 1 件出るだけで、以後 106 は出なくなります。ただし有効化と同時にセキュア ブート署名が再計算されるため、古いイメージ バックアップからの bare‑metal リストアが失敗するリスクに注意してください。 Q3. OptiPlex 以外でも発生する? A3. HP EliteDesk、Lenovo ThinkCentre、Intel NUC など Pluton 無効で出荷される法人モデルは同じ事象が確認されています。

9. まとめ

  • 「Unable to load Pluton‑Windows firmware」はエラーではなく通知。Pluton チップが無い/無効の環境では仕様通り。
  • Intel I219‑LM の一時的なリンク切断は多くの場合、電源管理とリンク自動再交渉の組合せが原因で、Pluton とは無関係。
  • 気になる場合は BIOS で Pluton を無効化、またはイベント ビューアーのフィルタで除外。
  • 将来的な Pluton 必須機能を見据え、CMDB とポリシーで“有効/無効”の混在を管理する運用体制を整えておくと安心。

コメント

コメントする

目次