Windows 11 24H2 へアップグレードした直後から「数秒ごとに OS 全体が固まる→しばらく動く→再び固まる」という症状に悩まされるユーザーが増えています。本稿では実際に発生した事例をもとに、OS・ドライバー・ハードウェア・電源管理など多角的な観点から原因を切り分け、最終的に問題を解決するまでのプロセスを詳細にまとめました。同様のトラブルで困っている方は、ここで紹介するチェックリストと対処手順を上から順に実施すれば高確率でフリーズを解消できます。
症状の特徴と再現条件
- 約 3〜4 秒完全に入力を受け付けず、マウスもキー入力も停止
- その後 10 秒ほど正常動作するが、何度でも同じ周期で再発
- タスク マネージャーの「パフォーマンス」タブを開くと、フリーズ中は CPU 使用率とディスク アクティビティがほぼ 0 % に落ち込む
- イベント ビューアーの
System
ログには該当タイミングで「Kernel‑Processor‑Power 37」「Disk 129」などランダムなエラーが散見されるが、一貫性はない
検証環境
項目 | 値 |
---|---|
CPU | Intel® Core i5‑12450HX |
メモリ | 12 GB(DDR5‑4800 MHz、オンボード 4 GB+モジュール 8 GB の混在) |
GPU | NVIDIA® GeForce RTX 2050 Laptop GPU |
ストレージ | PCIe 4.0 NVMe SSD 512 GB |
OS ビルド | Windows 11 Pro 24H2 (Build 26100.xxx) |
原因候補を俯瞰するマトリクス
カテゴリ | 主な要因 | チェック方法 | 優先度 |
---|---|---|---|
ソフトウェア | レジストリ破損 / Windows コンポーネント破損 / サービス競合 | DISM と sfc / クリーンブート | 高 |
デバイス ドライバー | 古い GPU/VGA ドライバー / DCH 版⇔標準版のミスマッチ | DDU で完全削除→公式最新版 | 高 |
ファームウェア | BIOS 旧版によるマイクロコード不足 / DPC レイテンシ | メーカーサイトでリリースノートを確認 | 中 |
ハードウェア | RAM 不良 / SSD 不良セクター / 過熱 | メモリ診断 / chkdsk / HWiNFO 温度ログ | 中 |
電源管理 | Intel® DTT / NVIDIA BatteryBoost / Modern Standby | UEFI と GPU コントロール パネルで無効化 | 低 |
ステップバイステップの解決フロー
以下の手順は「簡単・安全・短時間でできる」順に並んでいます。途中でフリーズが止まった時点で作業を終了して構いません。
1. システム イメージとファイルの整合性を修復
DISM /Online /Cleanup-Image /RestoreHealth
sfc /scannow
24H2 では新機能の追加に伴う差分パッチが多く、途中でレジストリや WinSxS
が壊れるケースが増えています。まずは DISM でイメージを検証・修復し、その後 sfc でファイル システム レベルを修復します。軽度の破損ならこの段階でフリーズが収束することも珍しくありません。
2. メモリとストレージの健全性チェック
- RAM:検索バーに「メモリ診断」と入力し
MdSched.exe
を実行 → 再起動後、拡張テストを選択 - SSD:管理者権限の PowerShell で
chkdsk C: /f /r
を入力 → 再起動時に論理/物理セクターのチェック
2 GB 単位でエラーが大量発生した場合はメモリ モジュール抜き差し・増設・交換を検討しましょう。NVMe SSD で「代替処理済みブロック数」が増えていれば、SSD 健康度 90 % 以上でもリフレッシュが必要です。
3. クリーンブートでサービス競合を断定
システム サービスやスタートアップ アプリが大量に動くゲーミング ノートでは、不要プロセスの競合で DPC レイテンシが 3000 µs 超に跳ね上がり、周期的フリーズを誘発することがあります。
msconfig
を起動→「サービス」タブ- 「Microsoft のサービスを隠す」にチェック→「すべて無効」→OK
- タスク マネージャーの「スタートアップ」で 有効 になっているすべてを 無効
- 再起動して 30 分程度使用し、フリーズが再発するか監視
問題が解消した場合、無効化した項目を 3〜5 件ずつ戻しながら原因サービスを特定します。特に次の 3 つは要警戒です。
- 独自ユーティリティ(例:MSI Center、Legion Zone、OMEN Gaming Hub)
- 常駐型バックアップ ソフト(例:Acronis Cyber Protect)
- RGB コントローラー(例:ASRock Polychrome、ASUS Armoury Crate)
4. BIOS/ファームウェアアップデートでマイクロコードを刷新
Intel 第 12 世代 HX 系列は初期マイクロコードで電力制御ロジックが不安定なバージョンが存在し、C‑State 遷移のたびにシステムが短時間応答不能になることがあります。メーカーが公開している 2024 年 12 月以降 の BIOS にはこの不具合を回避するマイクロコードが含まれているので、必ず適用しましょう。
※BIOS 更新時は AC アダプターを抜かずに実施し、失敗した場合のリカバリー イメージを USB に用意しておくと安心です。
5. 温度と電力リミットのリアルタイム監視
HWiNFO または GPU‑Z の「Sensors」タブでログ出力を有効にし、フリーズ前後の CPU Package 温度・GPU Hot Spot 温度・P‑State 遷移を CSV で記録します。下記のいずれかに該当する場合はクーリングの強化やパワー リミット調整が必要です。
指標 | 危険水準 | 対策例 |
---|---|---|
CPU 温度 | 90 °C 超が 5 秒以上連続 | 高性能ファン曲線/熱伝導グリス塗り直し |
GPU 温度 | 87 °C 超 | NotebookFanControl でファン速度固定 |
VRM 温度 | 100 °C 超 | 金属製ヒートシンクを追加 |
DPC Latency | 2000 µs 超 | ACPI 無効化 or BIOS 電源設定を「静音」→「高性能」 |
6. GPU 電源管理ポリシーの最適化
NVIDIA Control Panel → 3D Settings → “Power management mode” を「Optimal Power」または「Adaptive」に変更します。「Prefer maximum performance」を選ぶとアイドル→負荷への遷移でクロックが急変し、サーマルリミットとの干渉でカーネル レベルのスタッターが発生しやすくなります。
7. Intel® Dynamic Tuning Technology(DTT)と BatteryBoost の一時無効化
ノート PC 専用の省電力機能はバッテリー使用時の快適度を上げますが、AC 接続でもスロットリングを有効にすることがあり、Windows カーネル タイマー(clock‑interrupt)と衝突してフリーズを誘発する報告があります。デバイス マネージャーで Intel Dynamic Tuning Device を無効にし、NVIDIA GeForce Experience → Settings → BatteryBoost をオフにして症状が改善するか確認してください。
8. 最終手段:Windows のリセット
- 設定 → システム → 回復
- 「この PC をリセット」→「個人用ファイルを保持」→「クラウド ダウンロード」
- 30 GB 以上の空き容量を確保し、リセット処理(約 20〜40 分)を待つ
今回の検証機ではここまでの全手順を試しても改善せず、リセットを実行したところフリーズが完全に消失しました。アプリの再インストールは手間ですが、システム核心部に深く食い込んだ破損を一掃できるため、短期間で確実に復旧したい場合は有効な選択肢です。
リセット後に実施すべき再発防止策
- Windows Update:24H2 用の累積更新と .NET 更新をいち早く適用
- GPU ドライバー:OEM 版ではなく NVIDIA 公開の DCH 版を使用
- 常駐ソフト:ユーティリティやゲーム ランチャーは必要最小限に絞る
- UEFI 設定:Advanced → Power Management で C1E を無効化すると周期的スタッターが抑制されるケースがある
よくある質問(FAQ)
Q. Windows イベント ログに「WHEA‑Logger 17」が大量に出ていますが、ハード故障でしょうか? A. PCI Express の正しい電力状態遷移ができていないだけで、必ずしも物理破損ではありません。BIOS で ASPM をオフにすると警告が消える場合があります。 Q. 12 GB の変則メモリ構成(オンボード+増設)は問題ありますか? A. デュアル チャネルが一部シングル動作に落ちるためベンチマーク値は下がりますが、フリーズの主因になることは稀です。MemTest86+ で 3 パス以上エラーがなければそのままで構いません。 Q. SSD のファームウェアアップデートは必須ですか? A. NVMe コントローラー固有の TRIM 処理バグが原因で OS が一瞬応答停止する例が報告されています。メーカーが新 FW を出しているなら更新してください。
まとめ
Windows 11 24H2 環境で数秒周期のフリーズが発生した場合、まずは DISM と sfc でシステム整合性を修復し、メモリ・ストレージ診断、クリーンブートの順に切り分けるのが最短ルートです。BIOS・GPU ドライバー・電源管理機能が複雑に絡み合って症状を引き起こしているケースも珍しくなく、単一の“銀の弾丸”は存在しません。複合的な視点でチェックを進め、改善が得られなければ Windows リセットでクリーンな状態へ戻す——この王道フローを覚えておけば、次に同種のトラブルに遭遇しても落ち着いて対処できるでしょう。
追加 Tips:プロフェッショナルが実践する深掘り診断
Performance Recorder と Analyzer でスパイクを可視化
Windows Performance Toolkit(無料)を使えば、フリーズ中の CPU Idle → Active 遷移やストレージ I/O キューの停滞をミリ秒単位で視覚化できます。イベント トレースを 60 秒程度キャプチャし、CPU Usage (Precise) グラフでギャップが連鎖していないか確認しましょう。
プロセス エクスプローラーでハンドル リークを監視
Process Explorer の Find → Handle or DLL で \Device\HarddiskVolumeShadowCopy
が数万件開きっぱなしになっているバックアップ アプリは要注意です。影響範囲を即時に把握できます。
Latencymon でオーディオ ドロップアウトを検出
周期フリーズが短時間かつ高速サウンド転送中に集中する場合、オーディオ スタックの DPC 遅延が原因であることが多いです。Latencymon の「Drivers」タブで nvlddmkm.sys
や ACPI.sys
が 1 ms 以上を記録していれば、GPU ドライバーや電源管理が主犯です。
UEFI の ACPI 設定とスリープ ステート
一部のノート PC では Modern Standby (S0ix) が強制 ON になっており、高負荷アプリ実行後にスリープ/復帰を繰り返すとメモリ帯域競合が残留してフリーズを誘発することがあります。UEFI で「S3 Sleep」を許可し、S0ix を無効化すると回復する事例が数多く報告されています。
おわりに
本記事では Windows 11 24H2 の断続的フリーズを題材に、原因の網羅的チェックリストと具体的な修復ステップを解説しました。OS 自体の安定性は年々向上していますが、ドライバーやファームウェア、電源管理機構が複雑化した現行世代では、わずかな歯車の噛み合わせが乱れるだけでシステム全体が停止するリスクが残ります。この記事が読者の皆様のトラブルシューティング時間を短縮し、大切な作業時間とデータを守る一助となれば幸いです。
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