Active Directory環境でグループポリシーを更新した際、「RPCサーバーを利用できません」というエラーが出ると、運用上のストレスやセキュリティ面の懸念が高まります。本記事では、このエラーが起こる原因を具体的に洗い出し、より実践的な対策を解説します。
「RPCサーバーを利用できません」エラーの概要
Windows ServerやActive Directoryで管理を行っていると、グループポリシーの更新時に「RPCサーバーを利用できません」あるいは「リモート プロシージャ コールが取り消されました」というメッセージに遭遇することがあります。これは、主にRPC(Remote Procedure Call)通信の不具合が原因となり、ドメイン コントローラーとの通信に支障をきたしている可能性が高いです。RPCはWindowsの多くの機能で利用されており、特にActive Directory関連の操作で頻繁に使われます。そのため、RPCが正常に動作しないと、グループポリシーの更新やレプリケーションなどに大きな影響が出るのです。
RPCエラーがもたらす具体的な影響
- グループポリシー更新(
gpupdate
)に失敗する - Active Directoryのレプリケーションが停止・遅延する
- ユーザーやコンピューターの認証が不安定になる
- イベントビューアーにエラーや警告が頻発する
RPCエラーが放置されると、ドメイン環境全体の信頼性やセキュリティに影響が及ぶため、早期の原因特定と対策が肝要です。
主な原因とその詳細
原因は多岐にわたりますが、以下に代表的な項目を挙げます。
1. RPCサービスの停止または設定ミス
Windowsの基本サービスである「Remote Procedure Call (RPC)」や「RPC Endpoint Mapper」が停止している、または起動タイプが手動に設定されている場合、RPC通信が正しく機能しなくなります。
- Remote Procedure Call (RPC)
- RPC Endpoint Mapper
これらが正常に稼働していないと、グループポリシーの更新時に必須の通信が行えません。
サービス状態を確認するPowerShell例
Get-Service -Name RpcSs, RpcEptMapper | Format-Table Name, Status, StartType
上記のようなコマンドで状態を確認し、Status
がRunning
(実行中)、StartType
がAutomatic
(自動)であるかをチェックしましょう。
2. ネットワーク接続の問題
LANケーブルの不良やスイッチのポート不良、IPアドレスの競合や重複があると、通信が途切れたり不安定になったりします。また、仮想環境であれば仮想スイッチの設定なども影響を及ぼすことがあります。
ping
コマンドでDCに疎通がとれるか- IPアドレスやサブネットマスク、ゲートウェイ設定の整合性
- スイッチやルーターのログ
これらを確認して異常がないかをチェックしましょう。
3. ファイアウォールやセキュリティソフトによるRPCブロック
Windowsファイアウォールやサードパーティ製セキュリティソフトにより、RPC通信に必要なポートがブロックされているケースは頻繁に発生します。特にDomain ProfileやPrivate Profileが誤って構成されている場合や、組織で運用しているセキュリティポリシーでRPC関連ポートが閉じられている場合です。
RPC通信で使用される代表的なポート一覧
ポート番号 | 用途 | プロトコル |
---|---|---|
135 | RPC Endpoint Mapper | TCP |
49152~65535 | ダイナミックRPCポート (実際にはもっと範囲が狭い場合も) | TCP |
上記に加えて、SMB(TCP 445)やLDAP(TCP 389)など他のプロトコルも関わる場合があるため、必要に応じて確認してください。
4. DNSなどの名前解決の問題
Active DirectoryはDNSを基盤として動作するため、名前解決ができないと即座にRPCエラーを引き起こすことがあります。
nslookup <DCのホスト名>
で正しいIPが返ってくるか- DNSサーバーのゾーン設定や転送先の構成
- PTRレコード(逆引き)の整合性
ドメインコントローラーの正引き・逆引き両方で問題がないかを入念に確認しましょう。
5. 認証や権限設定の不備
グループポリシー更新を実行するアカウントがドメイン管理者やエンタープライズ管理者など、適切な権限を有していない場合、エラーが発生することがあります。さらに、GPOオブジェクト自体に対する権限が正しく設定されていないケースも考えられます。
- 実行ユーザーのグループメンバーシップ
- GPMC(グループポリシー管理コンソール)でのオブジェクト権限
- OU構造とリンク設定の再確認
これらの点を見落とさないようにしましょう。
対策と具体的な手順
ここからは、前述の原因別に対処法を解説していきます。
1. RPCサービスの起動と設定確認
- Windowsキー + Rで「
services.msc
」を起動 - Remote Procedure Call (RPC) と RPC Endpoint Mapper を確認
- ステータスが「実行中」かつ起動の種類が「自動」になっていない場合は修正
サービスを変更した場合は、OS再起動も視野に入れてください。サービスが適切に起動していてもエラーが継続する場合は、Windowsイベントログ(システムログやアプリケーションログなど)を参照し、より詳細な原因を特定します。
2. ネットワーク接続の健全性チェック
ping <DCのIPアドレス>
やping <DCのホスト名>
で応答を確認ipconfig /all
で自ホストのアドレス設定を再確認- 必要に応じて、ルーターやスイッチのログ、仮想ネットワーク設定を見直す
物理的なLANケーブルの抜けや断線、ネットワーク機器の不良が疑われる場合は、予備のケーブルや他のポートを試してみるのも手です。
ネットワークトラブルシューティングの一例
- スイッチやルーターのログを確認し、エラーパケットやポートダウンの履歴がないかを見る。
- 仮想環境であれば仮想スイッチやvNICの設定を再点検し、必要なVLANが通っているか確認。
- パケットキャプチャツール(Wiresharkなど)を用いてRPCパケットが実際にどう処理されているかを調査する。
3. ファイアウォール設定の見直し
Windows Defender Firewallやサードパーティ製ファイアウォールを導入している場合、TCP 135や動的RPCポート(49152~65535)の通信が制限されていないかを確認します。必要に応じて以下のようなコマンドで例外を追加します。
# 例: ポート135を開放する場合
New-NetFirewallRule -DisplayName "Open Port 135 for RPC" -Direction Inbound -Protocol TCP -LocalPort 135 -Action Allow
また、グループポリシーでファイアウォール設定を一括管理している場合は、Domain Profileの設定を確認し、RPC通信がブロックされていないかを見直します。
4. DNSや名前解決の再設定
nslookup <DCのホスト名>
を実行し、期待したIPアドレスが返るか確認。- DNSサーバーのゾーン設定をチェックし、正引き・逆引きにミスがないか検証。
- レプリケーションの遅延や障害がないか、
dcdiag /test:DNS
やdcdiag /v
コマンドで確認。
DNSの設定に問題があれば、DC同士の通信も正常に行えず、グループポリシーの更新だけでなくActive Directory全体の機能に影響が出るため、綿密なチェックが必要です。
5. 権限と認証設定の整合性確認
- ドメイン管理者権限を持つアカウントで
gpupdate /force
を実行し、エラーが再現するかを確認 - GPMC上で問題のあるグループポリシー オブジェクト(GPO)のセキュリティフィルターや委任設定を再確認
- DC上でActive Directoryユーザーとコンピューター(dsa.msc)を開き、該当ユーザーの所属グループに漏れがないかを検証
権限が原因の場合は、ユーザーのグループメンバーシップやGPOの委任権限を修正すれば大抵は解決します。
その他のトラブルシューティングやヒント
イベントビューアーの活用
サーバー上の「イベントビューアー」からシステムログやアプリケーションログ、さらにはディレクトリサービスログを確認すると、より詳細なエラーコードや原因が表示されることがあります。特にイベントIDを手掛かりに、Microsoftの公式ドキュメントやTechNetの情報を参照することでトラブルシューティングが加速します。
グループポリシー検証ツールの使用
- Group Policy Results (gpresult.exe): GPOの適用状況を確認するコマンドラインツール。
- Group Policy Modeling (GPMC): 特定のユーザーとコンピューターに対してGPOがどう適用されるかをシミュレーションできる機能。
これらを活用して、どの段階でエラーが起こっているかを把握しましょう。
Advanced: Active Directory レプリケーションの確認
RPCエラーによっては、レプリケーションの失敗が原因でグループポリシーの情報自体が最新でない可能性もあります。repadmin /replsummary
やrepadmin /showrepl
などを使って、ドメインコントローラー間のレプリケーション状態を可視化しましょう。
repadmin /replsummary
repadmin /showrepl
もし大きな遅延やエラーが頻発している場合は、まずレプリケーション障害を解決するところから着手する必要があります。
具体例: 典型的な対処フロー
以下は、運用現場でよく行われる一連の手順例です。
- イベントログ確認: システムログおよびアプリケーションログで関連するエラーIDを特定
- DNS疎通確認:
nslookup
でDCのホスト名を引けるか、逆引きが正しいかをチェック - RPCサービスとファイアウォール確認: サービスステータスやWindows Defender Firewall、サードパーティ製ファイアウォールの設定を点検
- 物理ネットワーク確認: ケーブルやスイッチポートの障害がないかチェック
- GPO権限・リンク再確認: 該当するGPOのセキュリティフィルタリングとリンク先を点検
- レプリケーション確認:
repadmin
コマンドでDC間の同期状況を検証 - 再試行:
gpupdate /force
を実行してエラーが解消されたか確認
このフローを順守すると、原因の切り分けがスムーズに行えます。
まとめ: 早期発見と多角的アプローチがカギ
「RPCサーバーを利用できません」エラーは、一見すると単一の問題のように見えても、背後にはネットワーク環境やサービス設定、DNS、ファイアウォールなど複数の要素が絡み合っているケースが少なくありません。早期にイベントログやネットワークログを確認し、サービスやファイアウォール、DNSの構成を見直すことで、より迅速に問題を解決できます。また、レプリケーションの同期確認や権限設定の精査など、多角的にチェックしていく姿勢が大切です。
Active Directoryの基盤環境を安定運用するためには、日頃からDNSやファイアウォール、ネットワーク機器の監視を行い、問題が起きた際にすぐ対処できるような体制づくりを意識しましょう。障害を未然に防ぐには、バックアップや監査ログの定期的なチェック、パッチ適用なども重要なポイントです。
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