企業でWindows ServerやSQL Serverのライセンス管理を行う際、契約更新後にMicrosoft 365 Admin Centerのライセンス数が0と表示されて戸惑うケースがあります。実は永続ライセンス(パーペチュアルライセンス)とサブスクリプション型ライセンスの仕組みが異なるため、このような表示が起こり得ます。本記事では、その理由と解決方法、さらにボリュームライセンスやVLSCの活用に至るまで、分かりやすくご紹介します。
永続ライセンスがAdmin Centerで表示されない背景
永続ライセンスを所持しているはずなのに、Microsoft 365 Admin Centerでは該当のライセンス数が0と表示されてしまう状況は一見不可解です。まずはこの現象が生じる理由を正確に理解しておくことが重要です。
永続ライセンスとサブスクリプション型ライセンスの仕組み
永続ライセンス(パーペチュアルライセンス)とサブスクリプション型ライセンスでは、ライセンス管理の基本的な仕組みが大きく異なります。
- 永続ライセンス(パーペチュアルライセンス)
- 一度購入したバージョンに対して、原則として無期限に利用できる権利
- ソフトウェアアシュアランス(SA)を購入していない場合、製品のアップグレード保証は基本的になし
- 企業のライセンス管理では、導入したサーバー台数やユーザー数に応じてライセンス保有数を証明する必要がある
- サブスクリプション型ライセンス(Microsoft 365など)
- 月額・年額などの継続課金で利用するモデル
- Microsoft 365 Admin Center上で管理しやすく、ライセンス数や契約更新期限などの情報が可視化される
- 課金サイクルに応じてソフトウェアの利用継続が可能で、更新をやめると利用権が失効する
Admin Centerは主にサブスクリプション契約に基づくライセンスの管理を想定しています。そのため、永続ライセンスについては更新の有無にかかわらず、有効であるにもかかわらず表示数が0になってしまうケースがあるのです。
Enterprise Agreement契約での更新漏れの影響
エンタープライズ契約(EA)を結んでいる場合、以下のようなシナリオでこの問題が顕在化しやすいです。
- 契約更新時の製品選定
- Windows Server Data CenterやSQL Serverなどは、エンタープライズ契約時に一緒に購入しているケースが多い
- 次回更新時に、実は永続ライセンスをそのまま継続して利用できるにもかかわらず、更新対象から外した(またはサブスクリプション型ライセンスを新規に追加した)
- ソフトウェアアシュアランス(SA)の扱い
- SAを更新しない場合、アップグレード保証などの特典は失われる
- しかしライセンスそのものが消滅するわけではなく、該当バージョンを使い続ける権利は保持している
これらの背景によってAdmin Center上では「ライセンスが0」と表示されてしまい、管理者が混乱してしまうというわけです。
Microsoft 365 Admin Centerではなぜ正確に表示されないのか
Admin Centerは主にMicrosoft 365やAzure Active Directoryなど、クラウドサービス系のライセンスを一括管理するポータルです。永続ライセンス(オンプレミス製品を含む)のカウント表示に完全には対応していません。
ライセンス表示のロジックの違い
Admin Centerのライセンス表示ロジックは下記のように、基本的にサブスクリプション契約を前提としています。
flowchart LR
A[永続ライセンス] --> B(オンプレミス製品)
A --> C(Microsoft 365 Admin Center)
B --> C
C --> D{ライセンス数表示}
D -->|サブスクリプション契約| E[数が反映]
D -->|永続ライセンス| F[0と表示される可能性]
永続ライセンスは「契約が切れた」状態だとしても、製品利用権自体が消えるわけではありません。ところがAdmin Centerでは契約状態に基づいて表示をしているため、更新をやめた永続ライセンスは「現在契約がない」とみなされ、ライセンス数0とカウントされる場合があります。
正確なライセンス数を把握するための方法
この問題を解消し、正しいライセンス数を把握するにはいくつかの方法があります。以下に代表的な対処法を解説します。
Microsoft Volume Licensingサポートチームへの問い合わせ
最も確実なアプローチは、ボリュームライセンスに特化したサポートチームに直接問い合わせることです。Microsoft 365 Admin Centerから「サポートリクエスト」を作成するか、国や地域別のサポート電話番号に問い合わせることで、以下の情報を確認できます。
- 保有している永続ライセンスの正確な数量
- エンタープライズ契約の更新状況
- ソフトウェアアシュアランスの有無と有効期限
- 契約上の詳細(再開やアップグレードの可否など)
このようにサポート窓口であれば契約ベースでの詳細情報にアクセスできるため、正しいライセンス数を再確認できます。
VLSC(ボリュームライセンスサービスセンター)の活用
企業でMicrosoft製品のボリュームライセンスを扱う場合、VLSC(Volume Licensing Service Center)を通じてライセンスの割り当てやステータスを確認できます。VLSCを定期的にチェックすることで、更新忘れや数量の齟齬が生じていないか把握しやすくなります。
- VLSCの主な機能
- ライセンスIDと契約IDの確認
- 製品のダウンロードやキーの管理
- 契約状況やライセンスの有効性の確認
VLSC上でライセンスの割り当てがしっかりされていれば、Admin Centerと表示が異なる場合でも実際のライセンス保有数は正しい状態であると判断できます。
VLSCでのライセンス確認手順
- VLSC にアクセスし、管理者アカウントでサインイン
- 「Licenses」タブを選択し、所有しているライセンス一覧を表示
- Windows ServerやSQL Serverなどの製品欄をチェックし、数量を確認
- 最新の更新や契約状態が反映されているかを確認
もし「数量が正しいにもかかわらずAdmin Centerで0と出ている」という場合は、表示ロジックの違いによるものだと判断できます。
運用上の注意点とトラブルシューティング
永続ライセンスの管理はオンプレミス運用も絡むため、サブスクリプションライセンスほど可視化が容易ではありません。以下のような運用上の注意点と、万が一表示が異なる場合のトラブルシューティングを把握しておくと安心です。
オンプレミス製品の監査対策
エンタープライズ契約であれ、Open Licenseであれ、オンプレミス製品のライセンスは適切に運用・監査されていることを証明できる体制づくりが重要です。
- サーバー台数やインスタンス数の管理
- ライセンス適用範囲(コア単位やユーザーCALなど)の把握
- 権利行使のルール(ダウングレード権など)の確認
たとえば、Windows Server Data Centerライセンスは物理コア数に基づいているため、搭載コア数が増えているハードウェアに適切にライセンスを割り当てないと監査の際に問題となる可能性があります。定期的にハードウェア構成の変更や仮想マシン数を見直し、ライセンス消費量が合致しているかチェックしておきましょう。
ハイブリッド環境でのライセンス表示
昨今の多くの企業がオンプレミスとクラウド(Azure)を併用するハイブリッド環境を構築しています。その場合、以下のようにライセンスが複雑化することがあります。
- Azure上でWindows Server仮想マシンを動かす場合のHybrid Use Benefit (HUB)
- SQL Serverライセンスをオンプレミスとクラウドで分割利用するケース
- Azure ADとオンプレミスADを同期させる環境でのCAL管理
これらのシナリオでは、Admin Center単独でライセンス数を確認しようとしても不十分です。VLSCやAzure Portal、あるいはオンプレミスのライセンスファイルなど複数の情報源を突き合わせてライセンスの整合性をチェックするようにしましょう。
サブスクリプションライセンスとの併用時の注意
一部のユーザーにはMicrosoft 365 E3やE5を付与しながら、サーバー製品に対しては永続ライセンスを使用しているケースもあります。このようなハイブリッドライセンス運用では、Admin Center上ではMicrosoft 365ライセンスのみが正確にカウントされ、Windows ServerやSQL Serverは表示されない場合があります。
下記のような表で、どのライセンスがどのポータルで管理されるかを整理しておくと便利です。
製品 | 管理ポータル | 備考 |
---|---|---|
Microsoft 365 E3 / E5 | Microsoft 365 Admin Center | サブスクリプションライセンス |
Windows Server DataCenter | 主にVLSC | 永続ライセンス。Admin Centerでは管理されない場合あり |
SQL Server | VLSC or SQL License Portal | 永続ライセンスもしくはSA保守契約の有無により表示が異なる |
Azure サービス | Azure Portal | サブスクリプションとしてAzureクレジットが消費される |
このような形で明確化することで、Admin Centerでは表示されないライセンスがあっても混乱を防ぎやすくなります。
実践的な対策:社内のライセンス管理フロー構築
永続ライセンスの表示揺れを機に、社内のライセンス管理体制を見直すのもおすすめです。以下のような管理フローを構築することで、今後のライセンス関連トラブルを未然に防げます。
ステップ1:ライセンスの棚卸し
まずは現時点でどの製品のライセンスを保有しているのかを洗い出します。Admin Center、VLSC、その他管理台帳など、複数の情報源をリストアップしましょう。
- サーバーOS(Windows Server 2016/2019/2022 など)
- SQL Server (Standard, Enterprise など)
- ユーザーCAL / デバイスCAL
- デスクトップOS (Windows 10/11) のボリュームライセンス
- Microsoft 365 サブスクリプション(E3/E5など)
ステップ2:契約情報との突合
次に、エンタープライズ契約(EA)やOpen License、Microsoft製品のリセラーからの購入履歴などと照らし合わせます。ライセンスIDや契約IDが不明な場合は、リセラーやMicrosoftサポートに問い合わせて確認することが重要です。
ステップ3:管理台帳の作成・更新
Excelや専用のライセンス管理ツールなどを使い、現状のライセンスを一覧化し、下記の項目を含めると便利です。
- 製品名:Windows Server 2022 Datacenter など
- バージョン:2022、2019、2016…
- ライセンス形態:永続、サブスクリプション
- 保有数:物理コア数、ユーザー数、台数など
- 購入時期・契約ID:いつ、どの契約番号で購入したか
- サポート/SA有無:SA期間やアップグレード権など
サンプルコード:管理台帳のJSONイメージ
{
"licenses": [
{
"productName": "Windows Server 2022 Datacenter",
"version": "2022",
"licenseType": "Perpetual",
"quantity": 10,
"contractID": "EA-123456",
"supportCoverage": "SA until 2025"
},
{
"productName": "SQL Server 2019 Enterprise",
"version": "2019",
"licenseType": "Perpetual",
"quantity": 4,
"contractID": "EA-654321",
"supportCoverage": "No SA"
},
{
"productName": "Microsoft 365 E3",
"version": "N/A",
"licenseType": "Subscription",
"quantity": 50,
"contractID": "M365-987654",
"supportCoverage": "Subscription renewal 2024"
}
]
}
こうした形でライセンスの情報を一元的に管理するようにすると、監査時や更新時にも素早く情報を提供できます。
ステップ4:定期的なチェックとアラート設定
Admin Centerに表示されないからといって放置するのではなく、VLSC上でのライセンス数を定期的にチェックし、もし異常があればアラートを出す仕組みを設けることも有効です。ソフトウェアアシュアランスの期限が近づいた際のリマインドメールや、ライセンス管理ツールでのアラート機能を活用すると良いでしょう。
コミュニティフォーラムでの相談時の注意
Microsoftの公式コミュニティフォーラムで質問するケースもあるでしょう。ただしフォーラムのモデレーターはユーザー個別のライセンス詳細や契約情報にはアクセスできません。そのため、問題の原因特定まではサポートしてくれますが、最終的に契約ベースでライセンス数を正確に確認するにはサポートチームに問い合わせる必要があります。
- 個人情報や契約情報は開示しない:コミュニティ上で契約番号や個人情報を共有しないようにしましょう
- 一般的なトラブルシュート方法を得る:フォーラムはユーザー同士の知見を共有する場として活用すると良い
- 詳細確認はサポート窓口へ:正確なライセンス数の把握や契約内容の照合はサポートが必須
まとめ:Admin Centerに表示されなくてもライセンスは失効していない
Microsoft 365 Admin Centerに表示されないからといって、所有している永続ライセンスが無効になるわけではありません。永続ライセンスは購入したバージョンを利用し続ける権利があり、契約更新をしなくても使用自体は継続できます。ただし、Admin Centerのライセンス欄が実態を正しく反映しないことから、管理者は勘違いを起こしやすいため注意しましょう。
- 正しいライセンス数を確認するにはサポートやVLSCの利用が必須
- エンタープライズ契約の更新時には、SAの有無やアップグレードの条件をよく確認
- ハイブリッド環境や複数形態のライセンス管理には、社内管理台帳の整備が欠かせない
こうした対策を講じておけば、Windows ServerやSQL Serverのライセンス管理がスムーズになり、企業運用の安定化にもつながります。
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