導入文章:
忙しいビジネスシーンや日々の作業で欠かせないExcel。効率よく使いこなしたいという気持ちは、誰もが抱くものではないでしょうか。特に、セルに設定された書式をサッと消去したい場面は意外と多いはず。しかしながら、標準のショートカットキーは存在しないのが現実です。そこで本記事では、書式を即座に消去する方法や、独自のショートカットを作って作業効率をぐんと高めるテクニックをご紹介します。自分好みにカスタマイズし、よりストレスフリーなExcel環境を手に入れてみませんか。
Excelで書式クリアを行う標準方法
書式をクリアしたいと思ったとき、まず思い浮かぶのは「ホーム」タブ→「編集」グループ→「クリア」→「書式のクリア」というリボン経由の操作です。これはメニューをたどるだけなので、初心者でも分かりやすい手順といえます。一方で、一度に大量のセル書式を解除するようなケースでは、いちいちリボン操作を開いて選択するのが面倒に感じられることも少なくありません。
そこで活用したいのが、キーボードでのリボン操作です。Excelには、各タブやコマンドにアクセスキーが割り当てられており、Alt
キーを押すと画面上にアルファベットなどが表示されます。たとえば「ホーム」タブはH
、そこから「クリア」はE
、そして「書式のクリア」はF
という順番で操作可能です。実際にキーボードで入力する場合は、次のような手順となります。
Alt + H
を押すと、「ホーム」タブに切り替わります。- 続けて
E
を押すと、「クリア」の選択メニューが表示されます。 - 最後に
F
を押すと、「書式のクリア」が実行されます。
これはあくまで「アクセスキー」であって、いわゆる「Ctrl+○○」のような単独ショートカットではありません。しかし、標準機能の範囲内で瞬時に書式をクリアする方法として、覚えておくと作業効率が上がります。
ショートカットが存在しない理由とその背景
Excelには数多くのショートカットキーが用意されていますが、その中に「書式のクリア」専用のショートカットが存在しないのは少し不思議に思うかもしれません。これは、Excelのショートカットキーが「一般的によく使われる操作」に割り当てられる一方、「機能としては利用頻度がそこまで高くない」と判断されたものが標準ショートカットから外されているためだと考えられます。
また、ショートカットキーはExcelだけでなくWindows全体で重複しないよう一定の配慮が必要な場合もあります。例えば、最も有名な「Ctrl+C」「Ctrl+V」「Ctrl+Z」などはWindowsや他のMicrosoftアプリケーション全体で共通認識として利用されています。こうした事情から、書式のクリア機能をデフォルトショートカットで提供するよりも、他のよく使われる機能にキーを割り当てた方が利便性が高いという判断があったのかもしれません。
独自ショートカットを作成するメリット
標準で「書式のクリア」機能にショートカットが設定されていないのであれば、独自にショートカットを作ればいい——これはExcelをはじめ、Microsoft Officeを使いこなす上で非常に有効な考え方です。メリットとしては以下のような点が挙げられます。
- 作業効率が大幅に向上する
自分が頻繁に使う操作に即座にアクセスできるようになると、日々の作業スピードが飛躍的にアップします。 - 繰り返し操作がラクになる
書式のクリアを頻繁に行う職種や、データ整理で一括クリアする機会が多い環境では、手間が削減されてストレスを感じにくくなります。 - 自分のワークフローをカスタマイズできる
各人が行う作業内容やクセは異なります。独自ショートカットを設定することで、自分の癖や作業手順に合わせて最適化しやすくなります。
このように、独自ショートカットを設定することで自分だけの最強ワークフローを構築できるのが、Excelの醍醐味ともいえます。特にマクロを使って細かな自動化を進めるうちに、Excel操作そのものがまるで自分好みに仕立てられた環境と感じられるでしょう。
VBAでマクロを作成してショートカットを割り当てる方法
自分好みのショートカットを作成するには、VBA(Visual Basic for Applications)でマクロを作成し、それに対してキーを割り当てる方法が一般的です。ここでは基本的な手順を3ステップに分けて詳しく解説します。
ステップ1:マクロの作成
まず、ExcelのVBAエディターを開いて、書式のクリアを実行するためのマクロを作成します。以下の例では、選択セルの書式をすべてクリアする簡単なコードを示しています。
Sub ClearFormatting()
On Error Resume Next
Selection.ClearFormats
End Sub
On Error Resume Next
は、万が一セルが選択されていないなどのエラーが起きても、処理を中断せずに次の行へ進めるための記述です。Selection.ClearFormats
が選択範囲の書式をクリアするメソッドとなります。非常にシンプルですが、これで書式の削除は十分カバーできます。
ステップ2:ショートカットキーの割り当て
マクロを作成したら、次にそのマクロに対して任意のショートカットキーを割り当てます。ExcelのVBAには Application.OnKey
というメソッドが用意されており、以下のように記述すると「Ctrl + \」でマクロを呼び出せるようになります。
Sub SetClearFormatShortcut()
Application.OnKey "^\", "ClearFormatting"
End Sub
Application.OnKey
の第一引数にはキーの組み合わせを文字列で指定します。ここで「^」は「Ctrl」を表し、「\」は「バックスラッシュ」を指します。- 第二引数には先ほどの
ClearFormatting
というマクロ名を指定します。
実際に「Ctrl + \」キーを押すたびに ClearFormatting
マクロが呼び出され、選択セルの書式がクリアされます。もし他のキーに割り当てたい場合は、第一引数を変更すればOKです。例えば「Ctrl + Shift + C」にしたい場合は "^+C"
となります。
ステップ3:実行確認と動作テスト
設定が終わったら、以下の手順でショートカットが正しく機能するかを確認します。
- Excelでシートを開き、適当なセルに文字や背景色などの書式を設定しておく。
- 「Alt + F8」や「開発」タブから
SetClearFormatShortcut
マクロを実行。 - 対象の書式をクリアしたいセルを選択し、「Ctrl + \」を押す。
- 書式がクリアされれば設定完了です。
このテストがスムーズに行えれば、以降はショートカットキーを押すだけで書式を瞬時に消せるようになります。
PERSONAL.XLSBを使用してすべてのブックで適用する
前述のマクロとショートカットの設定は、そのマクロが保存されたブックでしか有効になりません。しかし「個人用マクロブック(PERSONAL.XLSB)」を活用すれば、新規作成ブックや過去に作成されたファイルなどでも、共通してショートカットを利用できるようになります。
PERSONAL.XLSBとは何か
PERSONAL.XLSBは、ユーザーのPCに一つだけ存在する「個人用マクロブック」です。通常のExcelファイルとは異なり、Windowsの特定のフォルダーに保存され、起動時に自動的に読み込まれます。ここにマクロやユーザー定義関数を登録しておくと、どのExcelブックからでもそれらの機能を呼び出せるようになります。
- 通常パス
C:\Users\<ユーザー名>\AppData\Roaming\Microsoft\Excel\XLSTART\PERSONAL.XLSB
※バージョンやインストール構成によって保存場所が若干異なる場合もあります。
個人用マクロブックの作成手順
PERSONAL.XLSBが存在しない場合は、以下の手順で簡単に作成できます。
- Excelを開き、「開発」タブ(なければ「ファイル」→「オプション」→「リボンのユーザー設定」で表示させる)から「マクロの記録」をクリック。
- 「記録するマクロ名」として適当に名前を付け、「保存先」を「個人用マクロブック」に変更する。
- 何か適当にセルをクリックするなど軽い操作をしたら、「マクロの記録の停止」を実行。
- これで自動的にPERSONAL.XLSBが作成される。
以降は、VBAエディターで「VBAProject (PERSONAL.XLSB)」を展開し、新しいモジュールを追加してコードを貼り付ければ、PERSONAL.XLSB経由でマクロを使い回せます。
個人用マクロブックの管理と編集
PERSONAL.XLSBにマクロやショートカット登録を行う場合、VBAエディター(Visual Basic Editor)から該当のプロジェクトを開いて編集します。手順は以下の通りです。
- Excelを開いた状態で
Alt + F11
を押し、VBAエディターを起動。 - 左側の「プロジェクト」ウィンドウで「VBAProject (PERSONAL.XLSB)」を探して展開。
- 「標準モジュール」または新規作成したモジュールにマクロコードを貼り付ける。
- 設定が終わったらVBAエディターを閉じ、Excelを終了する際に保存確認のダイアログが表示されたら「はい」を選ぶ。
このように、PERSONAL.XLSBにマクロを格納しておけば、Excelを立ち上げるたびに自動的に読み込まれ、独自に設定したショートカットがどのブックでも利用できるようになります。
トラブルシューティングとよくある質問
カスタマイズを行うと、さまざまなトラブルが起こる可能性も否定できません。ここでは、よくある質問やつまずきやすいポイントについて解説します。
ショートカットが効かない場合の対処法
- PERSONAL.XLSBが正しく読み込まれていない
Excel起動時にPERSONAL.XLSBが自動読み込みされていない可能性があります。Excelのオプションで、マクロのセキュリティ設定などを確認し、必要に応じて信頼済みドキュメントのフォルダーに登録しておきましょう。 - OnKey設定を実行していない
ショートカット割り当てを行うには、「SetClearFormatShortcut」などのマクロを最初に実行する必要があります。これはExcelを起動するたびに動作させる必要があるため、必要に応じてThisWorkbookやAuto_Openに記述する方法も検討してください。 - キーが別の機能や他のアプリとバッティングしている
他のソフトウェアで同じショートカットキーがグローバル設定されている可能性もあります。その場合は、キーを変えるか、干渉を回避する設定を行いましょう。
マクロが保存されない場合のチェック項目
- ファイル形式が「.xlsx」になっている
Excelの通常保存形式「.xlsx」ではマクロが保存できません。マクロ対応形式の「.xlsm」か、「個人用マクロブック」のような特別なファイルに保存しないとマクロは保持されません。 - 保存先が正しく設定されていない
PERSONAL.XLSBにマクロを登録したつもりが、別のブックに保存していたために読み込まれないケースもあります。VBAエディターの「プロジェクト」ウィンドウで対象のモジュールがPERSONAL.XLSB配下にあるか確認しましょう。 - マクロのセキュリティレベル
Excelのオプションの「セキュリティ センター」でマクロ設定が「すべて無効にする」など厳しい設定になっていると、マクロがブロックされる可能性があります。
Mac版Excelでの注意点
Mac版Excelでは、Windows版とキーボード配列やショートカットの挙動が異なる部分があります。Application.OnKey
に渡す文字列の書き方が少々変わる場合や、Commandキーを使ったショートカット設定になるなど、環境に合わせて調整が必要です。また、VBAは基本的に動作しますが、一部Windows固有のAPI呼び出しを行っているコードはエラーの原因となる場合があります。Mac環境で実行する際は、事前にテストして動作を確認しましょう。
まとめ
書式のクリアを高速に行いたい場合、標準ショートカットは存在しませんが、リボン操作のアクセスキーを活用する方法、あるいはVBAマクロを使って自由にショートカットを割り当てる方法があります。特にVBAを使った方法は、一度設定すれば自分に合ったキーコンビネーションで書式クリアを瞬時に実行でき、作業効率が劇的に向上します。さらに、個人用マクロブック(PERSONAL.XLSB)にマクロを登録すれば、あらゆるブックで共通してショートカットを使えるようになるので便利です。Excelを使いこなすうえで、自分のワークフローにフィットするショートカットを整備し、ストレスの少ない作業環境を手に入れてみてはいかがでしょうか。
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