企業や団体で告知・案内を行う際、Microsoft Teamsを通じて個別にメッセージを送るケースは多いものです。しかし、受信者ごとに内容を微妙に変えたい場合や、Excelで管理している大量の宛先へ一括配信したい場合、ひとつひとつ手動でコピペする作業は非常に手間がかかります。そこで今回は、Excelの情報を活用してMicrosoft Teams上で一括かつ個別メッセージ送信を行う方法について解説します。特にMicrosoft Graph APIの活用や代替手段としてのメール差し込み印刷など、具体的なアプローチを詳しくご紹介します。
Teamsで個別メッセージを一括送信したい背景と課題
多くの企業では、コミュニケーションプラットフォームとしてMicrosoft Teamsを利用しています。そこでは部署内や取引先など、特定のグループに同報する場合だけでなく、1対1のチャットで連絡したいケースも珍しくありません。たとえば、社内アンケートのリマインドや、受講案内、業務連絡など、同じタイミングで多くの人に個別メッセージを送信したいシーンは意外に多いです。
しかし、手動で一件ずつチャットウィンドウを開き、文面をコピペして送信する作業は非効率的です。以下のような課題がしばしば発生します。
- 作業時間が大幅にかかる
大量の宛先に対してコピー&ペーストを繰り返す作業は、単純作業ながら莫大な時間を要します。 - 人為的なミスが発生しやすい
宛先を誤ったり、内容がズレたりするミスが起きやすく、対策としてのダブルチェックにも時間と労力を取られます。 - やり取りの履歴を管理しづらい
スレッドとして一覧化できるならまだしも、1対1のチャットが大量に増えていくため、後からの追跡が困難になりがちです。
こうした課題を解消する方法として、Microsoft Graph APIを利用した一括送信や、場合によってはメールの差し込み印刷機能を活用する方法が考えられます。
ExcelからTeamsへのメッセージ送信を自動化する意義
Excelに受信者の「名前」「メールアドレス」「個別メッセージ」が整理されているならば、それを自動的に読み込んでTeamsに送信できれば、以下のメリットがあります。
- 処理の自動化による効率化
一度設定を行えば、たとえ100名、500名といった大規模な宛先リストでも短時間で送信が終わります。 - メッセージのパーソナライズが容易
名前や部署、その他差異のある情報をExcel上に入れておけば、その分の文面を動的に変えて送信可能です。 - 履歴管理がしやすくなる
開発方法によっては、送信したメッセージのログや履歴を記録して後から参照する仕組みづくりが可能です。
ただし、Teamsへの一括メッセージ送信は、標準機能としては実装されていません。そこで、次章以降では具体的な実装方法や代替策について深掘りしていきます。
Microsoft Graph APIでの一括送信:概要とメリット
Microsoft Graph APIは、Microsoft 365サービス全般(Teams、Outlook、SharePointなど)に対してプログラム経由でアクセス・操作を行うためのAPI群です。このGraph APIを使うと、Teamsのチャットやチャンネルに直接メッセージを投稿できます。
Graph API活用のメリット
開発スキルまたは開発者に相談できる環境があれば、Graph APIを利用するメリットは非常に大きいです。
- Teamsチャットへの直接送信が可能
手作業でTeamsを開かなくても、プログラムから自動でチャットを送信できます。 - Excelの情報を動的に活用可能
受信者名や部署名など、Excelに入れたカスタム情報を文面へ自動挿入できます。 - やり取りの継続管理ができる
送信したチャットはTeamsの履歴として個別に残るので、その後のやり取りも同じチャットスレッドで行うことができます。 - 高度な拡張性
Botとしての応答機能を実装したり、Webhookを組み合わせたりなど、将来的な拡張が可能です。
Graph API利用に必要な準備
Graph APIを使うためには、以下の点を押さえておく必要があります。
- アプリの登録・認証
Azure Active Directory(Azure AD)にアプリを登録し、必要な権限(スコープ)を設定します。特にTeamsのチャットに書き込みを行うためには、「Chat.ReadWrite」などの適切な権限が必要になります。 - アクセス トークンの取得
登録したアプリケーションを通じてOAuth 2.0フローでアクセストークンを取得し、そのトークンを用いてGraph APIを呼び出します。 - APIエンドポイントの把握
Teamsのチャットにメッセージを送信する場合、たとえば「POST /users/{user-id}/chats」や「POST /chats/{chat-id}/messages」など、目的に応じたエンドポイントを確認し、必要なパラメータを添えてリクエストします。
具体的な実装フロー例
- Excelのデータを読み込む
VBAやPowerShell、C#などの開発言語を使って、Excelの「メールアドレス」「名前」「個別メッセージ」情報を取得します。 - 個人チャットを作成または取得
受信者との1対1のチャットをまだ持っていない場合は、Graph APIを利用して新規にチャットを作成します。既にある場合はチャットIDを取得します。 - メッセージを送信する
取得したチャットIDに対して、テキストや添付ファイルなどをPOSTリクエストし、個別メッセージを送信します。 - ログの保存
送信結果やエラー情報をExcelやデータベースに記録すると、後から送信漏れを確認できて便利です。
実装の際の注意点
- 権限設定が複雑
組織のセキュリティポリシーによっては、アプリによるチャット送信に必要な権限を得るのが難しい場合があります。事前に管理者と相談しておくことが重要です。 - 開発コスト・スキル
Graph APIは高機能ですが、基本的にはプログラミングが必要です。スクリプト開発や認証の実装に慣れていない場合は、若干ハードルが上がります。 - 利用制限・レートリミット
Microsoft Graphにはレート制限があり、大量のメッセージを短時間で送る場合、実行エラーやパフォーマンス低下が起こる可能性があります。実装時は適切な間隔やバッチ処理の考慮が必要です。
Power AutomateやCopilot Studioとの比較
一括メッセージ送信といえば、最初に検討されるケースとしてPower AutomateやCopilot Studio(Botの開発ツール)があります。これらとの比較を表にまとめてみました。
項目 | Power Automate | Copilot Studio | Graph API |
---|---|---|---|
導入・設定難易度 | 比較的容易(ノーコードで構築可能) | Bot開発の知識や追加コストが必要 | 中程度〜高(プログラミングが必要) |
コスト | 既存のMicrosoft 365契約範囲で利用可(フロー数制限有) | 開発コストやBotの維持費用などがかかる場合あり | プログラミング環境さえあれば追加費用は少なめ |
履歴管理・可視化 | チャット履歴はTeams標準画面で確認が難しい | Bot上での管理が可能だが、開発での実装が必要 | Teamsチャット画面を利用可。ログ収集も実装次第 |
柔軟性・拡張性 | 定型フロー向き。分岐や条件設定はそこそこ可能 | Bot機能として高度な自動応答など拡張性は高い | 自由度が高く幅広い実装が可能 |
実現できる主な機能 | OutlookやSharePointとの連携、基本的な自動化処理 | 自動応答Botの開発、言語モデルの活用など | 任意のチャット送信、Teams管理、Webhook連携 |
このように、Power AutomateやCopilot StudioはGUIベースで比較的わかりやすいですが、チャット履歴を視認しづらかったり開発コストが高かったりという課題もあります。それらを踏まえると、プログラミングリソースを確保できるならGraph APIで実装するのが最も柔軟で効果的なケースが多いといえるでしょう。
メール差し込み印刷(Mail Merge)の活用:Teams以外の選択肢
「Teamsでの個別メッセージ送信」にこだわらず、目的が単なる「個別通知」であれば、OutlookとWordの差し込み印刷機能を使ったメール送信が非常に便利です。以下のような特徴があります。
メール差し込み印刷のメリット
- 初心者でも使いやすい
WordとExcel、Outlookを連携させて差し込み印刷を行うため、特別なプログラミングスキルは不要です。 - Excelの情報をダイレクトに差し込める
差し込み文面に「宛先の名前」「部署」「個別メッセージ」などを自由にレイアウトし、メールの件名にも差し込みが可能です。 - 一括かつ個別送信が簡単
大量の宛先でも数クリックで一括送信され、受信側には「一人ずつ送られたメール」として表示されます。 - 送信履歴がOutlook上で確認できる
送信フォルダーにまとめてログが残るため、何かあったときに参照しやすいです。
メール差し込み印刷の手順
- Excelでデータを整理
下記のように行と列を整え、「メールアドレス」「名前」「個別メッセージ」を含む形で情報を入力します。 - Wordで差し込み文書を作成
[差し込み文書]タブから差し込み印刷ウィザードを開き、差し込み先として先ほどのExcelファイルを指定します。 - 差し込みフィールドをレイアウト
差し込みたい箇所(本文、件名など)に「<<名前>>」「<<個別メッセージ>>」などのフィールドを配置します。 - 送信実行
最後に、[完了と差し込み]から電子メールメッセージとして送信する設定を行い、Outlookを通じて一括送信します。
列 | データ例 | 備考 |
---|---|---|
メールアドレス | taro@example.com | 差し込み送信先のアドレス |
名前 | 山田 太郎 | 本文中に差し込みたい場合に使用 |
個別メッセージ | 会議資料のご確認をお願いいたします | 宛先ごとに文面を自由に変更可能 |
メール差し込み印刷の注意点
- リアルタイムでのやり取りには不向き
メールはチャットのような即時性が低く、返信を待ったり会話形式の履歴を追うには不便です。 - Teams上のチャットに誘導したい場合
メール本文でTeamsへのリンクを案内するなど、一手間かける必要があります。 - 複雑な条件分岐には対応しづらい
分岐ロジックが多い場面や自動返信が必要な場面では、Power AutomateやBotなどの別の方法が適しています。
導入時の検討ポイントとおすすめアプローチ
ここまでご紹介したGraph APIとメール差し込み印刷は、それぞれに特徴があります。導入の際は以下のポイントを踏まえて検討することが大切です。
社内ポリシーと開発リソース
- 権限が取得できるか
Teamsのチャットにメッセージを自動送信するには、管理者権限やAzure ADへのアプリ登録許可が必要です。社内ポリシーを確認し、セキュリティやComplianceに抵触しない範囲で実装可能かどうかを事前に調整します。 - 開発者リソースがあるか
Graph APIによる実装には最低限のプログラミング知識が必要です。外注する場合のコスト、内製する場合の工数などを見積もっておくことが大切です。
メッセージ送信の目的と頻度
- 1対1チャットを頻繁に送るか
週に1回程度の簡単な連絡であれば、メール差し込み印刷で十分かもしれません。逆に、Teams上での即時応答や、履歴を追いながらのコミュニケーションが必須ならば、Graph APIの利用を検討したほうがよいでしょう。 - 大量配信や定期配信があるか
毎日のように大量の個別メッセージを送るならば、手作業の限界を超えてしまいます。自動化のメリットが大きいため、Graph APIなどのプログラム実装を前向きに検討すべきです。
費用対効果
- Bot開発など高度な機能が不要な場合
Teams Botとして高度な応答機能やAI連携が不要で、「単純に一括送信がしたいだけ」なら、メール差し込み印刷で代用できるかもしれません。 - 拡張性が必要な場合
将来的にチャットボットとの連携やワークフローの自動化を拡大していきたいなら、最初からGraph APIを活用したほうが良い場合があります。
Microsoft Graph API導入ステップ:もう少し詳しい解説
ここでは、実際にMicrosoft Graph APIを用いてTeamsの個別メッセージ一括送信を行う場合のステップをもう少し詳しく紹介します。
1. Azure ADでアプリ登録
- Azureポータルにアクセスし、「アプリの登録」を開く
- 「新規登録」でアプリ名を入力
例:TeamsMessageBulkSender などのわかりやすい名前にする - リダイレクトURIやプラットフォームを設定
デスクトップアプリかWebアプリかなど、実装に合ったものを選択する - 必要なAPIの権限を追加
Microsoft Graphの「Chat.ReadWrite」「TeamsAppInstallation.ReadWriteForUser」などの権限を設定し、場合によっては管理者の同意を取得する
2. 認証フローの実装
- OAuth 2.0の認証コードフローかクライアントクレデンシャルフローか選択
- 対話型でユーザーがログインする場合は認証コードフロー
- バックエンドでサーバーがジョブとして動く場合はクライアントクレデンシャルフロー
- アクセストークンの取得
アプリID、テナントID、シークレットキーなどを使い、トークンエンドポイントからトークンを取得する
3. 受信者とのチャットIDを取得
- 既存のチャットIDを探す
すでに受信者とチャットした履歴がある場合、Graph API経由で一覧を取得し、相手ユーザーIDを照合してチャットIDを特定する - チャットが存在しない場合
POSTリクエストで1対1のチャットを新規に作成し、チャットIDを取得する
4. メッセージ送信
- POST /chats/{chat-id}/messages
- リクエストボディにはテキストのほか、可能であればAdaptive Cardなどを入れてもよい
- Excelでループ処理
VBAやその他のスクリプトでExcel行を1行ずつ読み込み、上記の送信APIを繰り返す - エラーハンドリング
宛先不明や権限エラーが起きた場合、適宜ログ出力を行う
5. 運用と保守
- レートリミットへの対策
一度に大量送信する場合、間隔をあけたりバッチ分割を行うなど配慮が必要 - セキュリティ更新
アプリのシークレットキーが期限切れになる前にローテーションするなど、定期メンテナンスが重要 - 追加機能の拡張
返信内容を取得し、Excelに記録する仕組みなどを構築していくと、より高度な運用が可能となる
運用上の注意点:送信履歴の取り扱い
Teamsで個別メッセージを一括送信すると、既読管理や返信状況のトラッキングができる反面、膨大なチャットがユーザーのTeams画面上に並ぶことになります。そのため、受信者に対して次のような配慮を行うことをおすすめします。
- 最初に目的を明示する
「大量送信の背景」「不明点があれば○○へ返信してください」など、メッセージの意図を一言添えるだけで相手の混乱を防げます。 - 返信方法をシンプルに提示する
「このチャットに返信してください」「部署単位でまとめて回答してください」など、組織の運用ルールに合わせたガイドを示すとスムーズです。 - 過度なスパム送信を避ける
定期的に短期間で大量送信すると、受信者側のTeams通知が煩雑になり、重要な情報を見逃す可能性があります。
よくある質問と回答
Q: Excelに数百名のデータがある場合、すぐにレートリミットにかかってしまうのでは?
A: Graph APIにはレート制限があるため、数百〜数千件のメッセージを短時間で送るとエラーが返ってくる可能性があります。対策としては、数十〜数百件ごとに処理を区切って一定時間待機したり、バックエンドジョブとして分割送信するなどが有効です。
Q: Power AutomateでTeamsメッセージを送るアクションがあるが、それではダメなのか?
A: Power AutomateのTeams連携アクションは、あらかじめ固定された宛先やチャンネルにメッセージを送るケースには便利です。しかし、本記事のように受信者ごとに異なる文面を大量に送る場合、処理の流れやロジックを組むのがやや複雑になり、履歴の確認もしづらくなります。Graph APIやメール差し込み印刷のほうが適しているケースが多いです。
Q: チャットボットを使って一括送信するのはどうか?
A: Botを通じてメッセージを送信することも可能ですが、Bot登録や開発が必要です。費用対効果やメンテナンス負荷を考慮したうえで、単純な一括送信だけが目的なら、よりシンプルな実装のほうが良い場合もあります。
まとめと最適解の提案
Excelの「受信者の名前」「メールアドレス」「個別メッセージ」を元にTeamsで個別メッセージを一括送信したい場合、最も柔軟で実績ある方法は、Microsoft Graph APIを利用した実装です。開発や権限設定といった初期ハードルこそありますが、一度仕組みができれば大量のメッセージ送信を効率化でき、受信者との1対1チャット履歴もTeams上で追跡しやすくなります。
一方、「そこまで開発リソースをかけられない」「リアルタイムの会話でなくともよい」という場合は、Outlookの差し込み印刷でメールを一括送信する手段を検討しても十分でしょう。特に短期的なアナウンスや人数が少ないケースなら、メール差し込み印刷が最小限の手間で実現可能です。
運用の目的や組織の開発体制、セキュリティ要件を踏まえつつ、自社に最適な方法を選んでください。もしTeams上でのチャット履歴やリアルタイム性を重視するならGraph API、より手軽なアプローチとしてはメール差し込み印刷という棲み分けがおすすめです。
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