TypeScriptの開発において、依存関係の管理とインスタンスの生成は、アプリケーションの規模が大きくなるほど重要な課題となります。これに対処するために、TypeScriptには「デコレーター」という強力な機能があります。デコレーターを使用すると、コードの可読性を保ちながら、依存関係を自動的に解決し、インスタンス管理を効率的に行うことが可能です。本記事では、デコレーターを使った依存関係の自動解決と、インスタンスの管理方法について、具体的な実装例を交えながら解説していきます。
デコレーターとは
デコレーターとは、TypeScriptでクラスやメソッド、プロパティに対して、追加の処理や機能を付与するための特殊な構文です。JavaScriptのエコシステムで一般的に使われる「アノテーション」に似ており、メタプログラミングを実現する手段の一つです。
デコレーターの基本的な仕組み
デコレーターは、クラスの宣言に付与することで、そのクラスの動作を変更したり、拡張したりできます。デコレーター関数は、クラスやメソッド、プロパティの宣言時に実行され、カスタマイズされたロジックを追加するために利用されます。
デコレーターの種類
TypeScriptでは、以下のようなデコレーターが使用できます:
- クラスデコレーター: クラスの定義に対して処理を追加します。
- メソッドデコレーター: メソッドの定義に追加処理を付加します。
- プロパティデコレーター: プロパティの動作を拡張するために使用されます。
- パラメータデコレーター: メソッドのパラメータに対して特別な操作を施します。
デコレーターはTypeScriptで依存関係の自動解決やインスタンス管理を行うために非常に便利です。次に、その実装方法について具体的に見ていきます。
依存関係の自動解決とは
依存関係の自動解決とは、クラスやオブジェクトが必要とする他のクラスやオブジェクト(依存)を、手動で明示的に渡すことなく、プログラムが自動的に提供する仕組みのことです。これにより、コードの可読性が向上し、依存関係の管理が簡素化されます。
依存関係の管理の課題
複雑なアプリケーションでは、多くのクラスが他のクラスに依存しています。手動で依存を解決する場合、コードの保守が困難になり、依存関係が変更された場合にはすべてのインスタンス生成箇所を修正する必要があります。これが、開発のスピードを大幅に低下させる原因となります。
依存関係自動解決のメリット
依存関係の自動解決を導入することで、以下のような利点があります:
- 保守性の向上: 依存関係を明示的に定義せず、クラス間の結合度を下げることで、変更に柔軟に対応できます。
- 可読性の向上: 必要な依存関係を自動的に注入できるため、クラス定義がシンプルになります。
- 効率の向上: 依存関係の解決を自動化することで、開発者の手間を削減し、コード全体の効率を高めます。
依存関係の自動解決は、特に大規模なアプリケーションにおいて、複雑な依存関係の管理を簡素化するための強力な手段です。次に、インスタンス管理と自動解決の関連について説明します。
インスタンス管理の重要性
インスタンス管理とは、クラスのオブジェクト生成(インスタンス化)を適切に管理し、必要なタイミングでインスタンスを提供するプロセスを指します。大規模なアプリケーションにおいて、効率的なインスタンス管理はシステムのパフォーマンスやメモリ使用量に大きな影響を与えるため、非常に重要です。
インスタンス管理と依存関係の関係
依存関係の解決において、インスタンスの生成が自動化されている場合、クラス間の結合度が低くなり、柔軟性が向上します。しかし、インスタンスをいつ、どのように生成するかを適切に管理しないと、不要なインスタンスが作られ、メモリリークやパフォーマンスの低下を引き起こす可能性があります。
インスタンス管理の手法
インスタンス管理にはいくつかのパターンがあります。例えば、同じインスタンスを複数のクラスで共有する場合には、シングルトンパターンがよく使われます。一方、毎回新しいインスタンスを作成する場合には、プロトタイプパターンが適しています。これらのパターンを活用することで、必要なインスタンスを適切に生成し、パフォーマンスと効率性を両立させることができます。
インスタンス管理のメリット
- リソースの効率化: 不要なインスタンス生成を防ぐことで、システムのメモリやリソースの使用を最適化できます。
- クリーンなコード設計: インスタンス管理を適切に行うことで、クラスの責務が明確になり、コードが整然と保たれます。
- 柔軟な拡張性: 新しい機能の追加や変更に柔軟に対応できるため、開発のスピードが向上します。
次に、デコレーターを使って依存関係を自動的に解決し、インスタンスを管理する具体的な実装方法を紹介します。
デコレーターを使った依存関係解決の実装
デコレーターを使って、TypeScriptで依存関係を自動的に解決する方法は、シンプルかつ強力です。デコレーターを利用すると、クラスやプロパティに依存関係を注入し、そのクラスが必要とするインスタンスを自動的に生成・管理できます。
基本的な実装例
以下の例では、デコレーターを使って依存関係を自動的に解決する方法を示しています。
function Injectable(target: any) {
// このデコレーターは、クラスが依存関係注入されることを示す
DependencyContainer.register(target);
}
class DependencyContainer {
private static dependencies = new Map();
static register(target: any) {
this.dependencies.set(target, new target());
}
static resolve<T>(target: new (...args: any[]) => T): T {
const instance = this.dependencies.get(target);
if (!instance) {
throw new Error(`${target.name} が見つかりません`);
}
return instance;
}
}
@Injectable
class ServiceA {
hello() {
return "Hello from ServiceA!";
}
}
@Injectable
class ServiceB {
constructor(private serviceA: ServiceA) {}
greet() {
return this.serviceA.hello();
}
}
// 依存関係の解決と使用
const serviceA = DependencyContainer.resolve(ServiceA);
const serviceB = DependencyContainer.resolve(ServiceB);
console.log(serviceB.greet()); // "Hello from ServiceA!"
解説
この例では、@Injectable
デコレーターを使って、ServiceA
とServiceB
のクラスを依存関係コンテナに登録しています。DependencyContainer
は、クラスごとのインスタンスを管理し、他のクラスが依存するオブジェクトを自動的に提供します。
- Injectableデコレーター: クラスが依存関係として登録されることを表し、依存関係コンテナにそのクラスを追加します。
- DependencyContainer: 依存関係を管理し、必要に応じてインスタンスを生成し、提供します。
- resolveメソッド: 登録された依存関係を解決し、必要なクラスのインスタンスを返します。
依存関係の注入のメリット
この方法を使うことで、依存関係の注入が自動化され、コードの可読性と保守性が向上します。また、開発者は依存関係を意識する必要がなくなり、インスタンス管理が効率化されます。
次に、コンストラクタインジェクションの仕組みについてさらに深掘りしていきます。
コンストラクタインジェクションの仕組み
コンストラクタインジェクションとは、クラスのコンストラクタを通じて依存関係を注入する設計パターンです。TypeScriptでのデコレーターと依存関係解決を組み合わせることで、依存関係がコンストラクタ経由で自動的に注入されるように設定できます。この仕組みにより、クラスが必要とする依存オブジェクトを外部から提供し、クラス内で直接依存を管理する必要がなくなります。
コンストラクタインジェクションのメリット
コンストラクタインジェクションを使用することで、以下の利点が得られます:
- 明示的な依存の宣言: コンストラクタを使用して依存を明確に定義することで、コードの可読性が向上します。
- テストの容易さ: コンストラクタ経由で依存関係を注入するため、ユニットテストの際にモックオブジェクトを簡単に差し替えることができます。
- 依存関係の柔軟な管理: 依存関係の変更や追加が容易に行えるため、プロジェクトの成長に合わせたスケーラビリティが確保されます。
コンストラクタインジェクションの実装例
次に、TypeScriptにおけるコンストラクタインジェクションの具体的な実装例を示します。
@Injectable
class ServiceC {
getMessage() {
return "Message from ServiceC!";
}
}
@Injectable
class ServiceD {
constructor(private serviceC: ServiceC) {}
showMessage() {
return this.serviceC.getMessage();
}
}
// 依存関係の解決と利用
const serviceD = DependencyContainer.resolve(ServiceD);
console.log(serviceD.showMessage()); // "Message from ServiceC!"
実装のポイント
ServiceD
のコンストラクタでは、ServiceC
が引数として渡されています。これにより、ServiceD
はServiceC
に依存していることが明示され、外部からその依存を注入できるようになります。- 依存関係コンテナ (
DependencyContainer
) は、ServiceC
のインスタンスを自動的に生成し、ServiceD
に提供します。このようにして、依存オブジェクトの生成が手動で行われる必要がなくなります。
依存関係の注入と単一責任の原則
コンストラクタインジェクションは、クラスにおける単一責任の原則(Single Responsibility Principle, SRP)を保つのに役立ちます。依存関係をコンストラクタに渡すことで、クラスが自身の内部でオブジェクトを生成する責務から解放され、よりシンプルで再利用可能なクラス設計が可能になります。
次に、依存関係の管理においてよく用いられるSingletonパターンによるインスタンス管理方法について解説します。
Singletonパターンによるインスタンス管理
Singletonパターンは、クラスのインスタンスを1つだけ生成し、そのインスタンスを使い回す設計パターンです。特定のクラスのインスタンスが複数存在すると問題が生じる場合や、リソースの効率的な使用が求められる場面でよく使われます。デコレーターと組み合わせることで、依存関係の解決とともに、効率的なインスタンス管理が実現できます。
Singletonパターンの利点
- リソースの節約: インスタンスを1つだけ作成し、それを再利用するため、メモリや処理の無駄を減らすことができます。
- 一貫した状態の保持: 同じインスタンスが常に使用されるため、状態を共有する場合に有効です。例えば、設定オブジェクトやキャッシュなど、アプリケーション全体で一貫した状態が求められる場合に便利です。
- 依存関係の管理が簡素化: 依存関係を持つオブジェクトが常に同じインスタンスを参照するため、クラス間で一貫した動作が保証されます。
Singletonパターンの実装例
次に、Singletonパターンを利用したインスタンス管理の実装例を示します。
function Singleton(target: any) {
let instance: any;
return new Proxy(target, {
construct: (target, args) => {
if (!instance) {
instance = new target(...args);
}
return instance;
}
});
}
@Singleton
@Injectable
class ConfigService {
private config = { appName: "MyApp", version: "1.0" };
getConfig() {
return this.config;
}
}
@Injectable
class AppService {
constructor(private configService: ConfigService) {}
getAppDetails() {
return `App: ${this.configService.getConfig().appName}, Version: ${this.configService.getConfig().version}`;
}
}
// 依存関係の解決と利用
const appService1 = DependencyContainer.resolve(AppService);
const appService2 = DependencyContainer.resolve(AppService);
console.log(appService1.getAppDetails()); // App: MyApp, Version: 1.0
console.log(appService1 === appService2); // true (同じインスタンスを使用)
実装のポイント
- Singletonデコレーター: クラスに
@Singleton
デコレーターを付与すると、同じクラスのインスタンスが初回の生成時にのみ作成され、以降はそのインスタンスが使い回されます。 - Proxyオブジェクトの利用: JavaScriptの
Proxy
を利用して、インスタンスがすでに存在するかをチェックし、存在しない場合のみ新しいインスタンスを生成します。 - 状態の共有: この例では、
ConfigService
がアプリケーション全体で共通の設定情報を保持しています。同じインスタンスが常に使われるため、設定の変更がすべての依存クラスに反映されます。
Singletonパターンの適用例
Singletonパターンは、特に以下のような場面で役立ちます。
- 設定管理: アプリケーション全体で一貫した設定情報を保持する必要がある場合。
- キャッシュサービス: 一度計算された結果を再利用するキャッシュ機能。
- 接続管理: データベース接続や外部APIクライアントなど、コストの高いリソースのインスタンスを共有する場合。
次に、TypeScriptで依存関係の自動解決にリフレクションAPIを活用する方法について解説します。
TypeScriptのリフレクションAPIの活用
TypeScriptで依存関係の自動解決を実現するためには、リフレクションAPIの活用が非常に有効です。リフレクションAPIを利用することで、クラスがどのような依存関係を持っているかを実行時に取得し、それを基に適切なインスタンスを生成することが可能になります。
リフレクションAPIとは
リフレクションAPIは、クラスやメソッドのメタデータを実行時に動的に取得するための仕組みです。TypeScriptでは、reflect-metadata
ライブラリを使用して、クラスのコンストラクタやメソッドに関する情報を取得できます。このライブラリを使うことで、依存関係の自動解決を効率化できます。
リフレクションを使った依存関係の自動解決
リフレクションAPIを使用すると、クラスのコンストラクタで必要な依存関係を自動的に解析し、それに基づいてインスタンスを生成することが可能になります。次に、その具体例を示します。
import 'reflect-metadata';
// インジェクション用デコレーター
function Injectable(target: any) {
DependencyContainer.register(target);
}
class DependencyContainer {
private static dependencies = new Map();
static register(target: any) {
this.dependencies.set(target, target);
}
static resolve<T>(target: new (...args: any[]) => T): T {
const paramTypes = Reflect.getMetadata("design:paramtypes", target) || [];
const dependencies = paramTypes.map((param: any) => this.resolve(param));
return new target(...dependencies);
}
}
// 依存関係を持つクラス
@Injectable
class DatabaseService {
connect() {
return "Connected to database";
}
}
@Injectable
class UserService {
constructor(private dbService: DatabaseService) {}
getUser() {
return this.dbService.connect();
}
}
// 依存関係の解決と利用
const userService = DependencyContainer.resolve(UserService);
console.log(userService.getUser()); // "Connected to database"
リフレクションの仕組み解説
- reflect-metadataライブラリ:
reflect-metadata
は、TypeScriptのリフレクションを利用するために必要なライブラリです。このライブラリを使って、コンストラクタパラメータの型情報を実行時に取得できます。 Reflect.getMetadata
: このメソッドを使用して、クラスのコンストラクタで定義された依存関係(パラメータの型情報)を取得します。- 依存関係の再帰的な解決:
resolve
メソッドは、依存関係の型情報に基づき、再帰的にインスタンスを解決・生成します。これにより、複雑な依存関係でも自動的に解決できるようになります。
リフレクションAPIを使うメリット
- 依存関係の自動解決: リフレクションAPIを使えば、依存関係を解析し、手動でインスタンスを渡す必要がなくなります。
- コードの簡素化: 自動解決により、依存関係を注入するコードが簡潔になり、可読性が向上します。
- 柔軟な拡張性: 新しい依存関係が追加された際も、リフレクションAPIが自動的に対応するため、変更に柔軟です。
リフレクションAPIを活用することで、TypeScriptの依存関係解決はさらに効率化されます。次に、これを応用して簡易的なDI(Dependency Injection)コンテナを構築する方法について解説します。
実装例:簡易DIコンテナの構築
DI(Dependency Injection)コンテナは、依存関係を自動的に解決し、クラス間の結合度を下げるために使用される設計パターンです。TypeScriptで簡易的なDIコンテナを構築することで、複雑な依存関係でも効率的に管理できるようになります。このセクションでは、リフレクションAPIを利用した簡易的なDIコンテナの実装方法を解説します。
DIコンテナとは
DIコンテナは、クラスやモジュールの依存関係を管理し、自動的にインスタンスを生成・提供する仕組みです。依存関係の管理をコンテナに委譲することで、クラス間の結合度が下がり、コードの柔軟性やテストのしやすさが向上します。
簡易DIコンテナの実装
以下に、リフレクションAPIを使った簡易的なDIコンテナの実装例を示します。
import 'reflect-metadata';
// デコレーター: クラスをコンテナに登録
function Injectable(target: any) {
DIContainer.register(target);
}
class DIContainer {
private static dependencies = new Map();
// クラスを登録
static register(target: any) {
this.dependencies.set(target, target);
}
// インスタンスを解決
static resolve<T>(target: new (...args: any[]) => T): T {
const paramTypes = Reflect.getMetadata("design:paramtypes", target) || [];
const dependencies = paramTypes.map((param: any) => this.resolve(param));
return new target(...dependencies);
}
}
// サービスクラス
@Injectable
class LoggerService {
log(message: string) {
console.log("Log:", message);
}
}
@Injectable
class UserService {
constructor(private logger: LoggerService) {}
getUser() {
this.logger.log("User fetched.");
return { name: "John Doe" };
}
}
// 依存関係の解決と使用
const userService = DIContainer.resolve(UserService);
const user = userService.getUser(); // コンソールに "Log: User fetched." と表示
console.log(user); // { name: "John Doe" }
実装の解説
Injectable
デコレーター: クラスをDIコンテナに登録します。これにより、コンストラクタ内の依存関係も自動的に解決されます。DIContainer
クラス: 依存関係を管理するコンテナです。register
メソッドでクラスを登録し、resolve
メソッドで依存関係を解決してインスタンスを生成します。Reflect.getMetadata
を使ってコンストラクタパラメータの型情報を取得し、必要な依存関係を自動的に生成しています。
簡易DIコンテナの利点
- 依存関係の自動解決: コンストラクタで必要な依存関係を手動で渡す必要がなくなり、開発の効率が向上します。
- クリーンな設計: 依存関係を外部から注入することで、クラスの責務が明確になり、コードの保守性が向上します。
- 拡張性: 追加の依存関係が発生しても、DIコンテナにクラスを登録するだけで対応でき、柔軟な拡張が可能です。
課題と改善点
この実装は簡易的なものであり、実際のプロジェクトでは以下の改善が考えられます。
- スコープ管理: 複数のインスタンスが必要な場合や、シングルトンで管理すべきオブジェクトの扱いを拡張する必要があります。
- ライフサイクル管理: オブジェクトの生成・破棄を管理する仕組みを追加すると、より複雑なシステムでも対応できるようになります。
この簡易的なDIコンテナを拡張すれば、より大規模なアプリケーションの依存関係管理も効率化できます。次に、複雑な依存関係を持つ場合の管理方法について解説します。
応用例:複雑な依存関係の管理
大規模なアプリケーションでは、依存関係が複雑になり、単一のクラスが多くの依存オブジェクトに依存することがよくあります。このセクションでは、複雑な依存関係を持つクラスの管理と、それを効率的に解決する方法について解説します。特に、DIコンテナを使用して複数の依存関係を扱う実装例を紹介します。
複雑な依存関係とは
複雑な依存関係は、クラスが多くのサービスやモジュールに依存している場合や、依存するクラス自体がさらに他のクラスに依存している場合を指します。例えば、UserService
がAuthService
やDatabaseService
など複数の依存を持ち、これらのクラスもさらに別のサービスに依存しているようなケースです。
複雑な依存関係の管理方法
複雑な依存関係を効率的に管理するためには、DIコンテナの力を活用し、すべての依存関係を自動的に解決するのが最善です。以下に、複数の依存関係を管理する実装例を示します。
@Injectable
class AuthService {
login(user: string, password: string) {
// 認証ロジック
return `User ${user} authenticated.`;
}
}
@Injectable
class DatabaseService {
query(sql: string) {
// データベースクエリ実行ロジック
return `Executing query: ${sql}`;
}
}
@Injectable
class UserService {
constructor(
private authService: AuthService,
private dbService: DatabaseService
) {}
authenticateAndFetchUser(user: string, password: string) {
const authMessage = this.authService.login(user, password);
const userData = this.dbService.query(`SELECT * FROM users WHERE name = '${user}'`);
return `${authMessage}\n${userData}`;
}
}
// 依存関係の解決と利用
const userService = DIContainer.resolve(UserService);
console.log(userService.authenticateAndFetchUser("JohnDoe", "password123"));
実装のポイント
- 複数の依存関係をコンストラクタに注入:
UserService
はAuthService
とDatabaseService
の2つに依存しています。コンストラクタインジェクションを使って、必要な依存オブジェクトを自動的に注入しています。 - DIコンテナによる解決:
DIContainer.resolve
は、依存するオブジェクトを再帰的に解決し、最終的にUserService
にすべての必要な依存関係を注入します。
複雑な依存関係の利点
- 自動的な依存関係解決: コンストラクタ内で複数の依存関係を宣言するだけで、DIコンテナがそれらを解決してくれます。
- 再利用性の向上: 各サービス(
AuthService
,DatabaseService
など)は他の部分でも再利用でき、依存関係の注入が柔軟に行えます。 - 管理の一元化: DIコンテナがすべての依存関係を管理するため、クラスごとに個別に依存を解決する必要がなくなり、コードが簡潔になります。
複雑な依存関係の解決における課題
- 依存関係の循環: 依存するクラス同士が互いに依存している場合(循環依存)は、解決が難しくなります。このような場合、設計を見直し、依存関係を最小化する必要があります。
- パフォーマンスの問題: 大量の依存関係があると、DIコンテナがインスタンスを解決する際にオーバーヘッドが発生する可能性があります。この問題を解消するには、適切なキャッシュやシングルトンパターンを導入するのが有効です。
複雑な依存関係を管理するためのDIコンテナは、アプリケーションが成長するにつれてその利便性を発揮します。次に、テスト環境における依存関係のモック化について解説します。
テストにおける依存関係のモック化
依存関係を持つクラスのテストでは、実際の依存オブジェクトを使用することは望ましくない場合があります。特に、外部APIやデータベースに依存するクラスのテストでは、実行するたびに実際の外部リソースにアクセスすると、テストが遅くなり、結果が不安定になることがあります。そのため、テストでは依存オブジェクトの「モック化」を行い、動作をシミュレートするのが一般的です。
モック化とは
モック化とは、実際のオブジェクトの代わりに、テスト専用の仮のオブジェクト(モック)を使用することです。モックオブジェクトは、特定の振る舞いをシミュレートするために作成され、依存するオブジェクトが実際に動作するかのように振る舞います。
モック化のメリット
- テストの独立性: 依存関係の動作に左右されず、クラスの動作を検証できる。
- テスト速度の向上: 外部リソースにアクセスしないため、テストが迅速に実行できる。
- 信頼性の向上: 外部依存による不安定な結果を防ぎ、テスト結果の一貫性を保てる。
モックを使ったテストの実装例
次に、TypeScriptで依存関係をモック化してテストを行う方法を示します。この例では、UserService
クラスをテストするために、AuthService
とDatabaseService
をモック化しています。
import { expect } from 'chai';
import { spy } from 'sinon';
// モックの作成
class MockAuthService {
login(user: string, password: string) {
return `Mocked login for ${user}`;
}
}
class MockDatabaseService {
query(sql: string) {
return `Mocked query result for ${sql}`;
}
}
// テスト対象クラス
@Injectable
class UserService {
constructor(
private authService: AuthService,
private dbService: DatabaseService
) {}
authenticateAndFetchUser(user: string, password: string) {
const authMessage = this.authService.login(user, password);
const userData = this.dbService.query(`SELECT * FROM users WHERE name = '${user}'`);
return `${authMessage}\n${userData}`;
}
}
// モックを使ったテスト
describe('UserService', () => {
let userService: UserService;
beforeEach(() => {
const mockAuthService = new MockAuthService();
const mockDbService = new MockDatabaseService();
userService = new UserService(mockAuthService, mockDbService);
});
it('should authenticate and fetch user data using mocks', () => {
const result = userService.authenticateAndFetchUser('JohnDoe', 'password123');
expect(result).to.equal(`Mocked login for JohnDoe\nMocked query result for SELECT * FROM users WHERE name = 'JohnDoe'`);
});
});
実装のポイント
- モックオブジェクトの作成:
AuthService
とDatabaseService
のモックを作成し、それぞれが特定の振る舞いを模倣します。実際のクラスの代わりに、モックがテスト時に利用されます。 - テスト対象へのモックの注入:
UserService
のコンストラクタにモックオブジェクトを渡すことで、実際の依存オブジェクトの代わりにモックを使用します。これにより、外部リソースへのアクセスが行われないテストが可能になります。 - テストフレームワーク:
chai
を使用してアサーション(結果の検証)を行い、sinon
のspy
で依存オブジェクトの呼び出しを監視することもできます。
依存関係モック化の利点
- ユニットテストの独立性: 各テストが外部要因に影響されず、単体で動作するようになります。
- 柔軟なテスト環境: 依存関係が変更された場合でも、テスト用のモックを簡単に修正できます。
- 問題の切り分けが容易: 実際の依存関係を無視して、特定のクラスやメソッドの動作をピンポイントで検証できます。
モックを使ったテストは、依存関係が複雑な大規模アプリケーションで特に重要です。テスト環境において、依存関係をモック化することで、安定したテスト結果を得ることができ、品質の高いコードベースを維持できます。
次に、この一連の記事を総括し、学んだ内容を簡潔にまとめます。
まとめ
本記事では、TypeScriptのデコレーターを使った依存関係の自動解決とインスタンス管理の実装方法について解説しました。デコレーターの基本から、コンストラクタインジェクション、Singletonパターン、リフレクションAPIの活用、そして簡易DIコンテナの構築まで、依存関係管理のさまざまな方法を紹介しました。また、複雑な依存関係の管理やテスト環境におけるモック化の重要性についても説明しました。
これらの技術を活用することで、TypeScriptを使った開発において、依存関係を効率的に管理し、保守性と柔軟性の高いコードを実現できます。
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