Azure Kubernetes Service(AKS)のFree、Standard、Premiumは、単純な機能差ではなく、KubernetesコントロールプレーンのSLA、対応規模、バージョンサポート期間を選ぶための料金レベルです。
日本時間2026年7月7日に反映された公式ドキュメント更新では、AKS Automaticが料金レベルの説明に明確に組み込まれ、「多くの本番ワークロードではAKS Automaticを標準的な選択肢とする」という方針が示されました。一方で、新しい料金レベルが追加されたわけではなく、既存クラスターが自動的に変更される内容でもありません。
実務上、優先して確認すべきなのは、本番環境をFreeで運用していないか、PremiumのLTSが本当に必要か、AKS AutomaticとStandard tierを混同していないかの3点です。(Microsoft Learn)
2026年7月更新で何が変わったのか
Microsoft Learn上の最終更新日は2026年7月6日です。公式GitHubの更新コミットは米国太平洋夏時間の7月6日12時31分で、日本時間では7月7日に相当します。
更新履歴には「Adding AKS Automatic」と明記されており、主な変更はAKS Automaticに関する説明の追加と、料金レベル比較の再整理です。(GitHub)
AKS Automaticが料金レベルの説明に組み込まれた
更新後のページは、対象を次の2つに明示しています。
- AKS Automatic
- AKS Standard
さらに、AKS Automaticについて次の条件が追加されました。
- 作成時にStandard tierが事前設定される
- 最大5,000ノードをサポートする
- クラスター稼働時間SLAが含まれる
- 条件を満たすPod準備処理の99.9%が5分以内に完了するPod readiness SLAが含まれる
- 多くの本番ワークロードで、運用準備済みの標準的な選択肢として推奨される
これまでのFree、Standard、Premiumの説明に、AKS Automaticという運用モデルを結び付けたことが、今回の更新の中心です。(Microsoft Learn)
新しい料金レベルの追加ではない
公式差分を見る限り、今回の更新は以下を意味するものではありません。
- 第4の料金レベルが追加された
- FreeまたはStandardが廃止された
- 既存のBase SKUクラスターがAKS Automaticへ強制移行される
- 既存クラスターの料金レベルが自動的に変更される
Free、Standard、Premiumという3つの料金レベル自体は従来どおりです。今回の変更は、AKS Automaticを本番環境の標準的な選択肢として位置付け、料金レベルとの関係を分かりやすくしたドキュメント更新と判断できます。(GitHub)
「AKS Standard」と「Standard tier」は別の意味
AKSの選定で特に混乱しやすいのが、AKS StandardとStandard tierです。同じ「Standard」という名称が使われていますが、選択する軸が異なります。
| 分類 | 選択肢 | 主に決まるもの |
|---|---|---|
| AKSのクラスター運用モデル | AKS Automatic、AKS Standard | ノード管理、スケーリング、アップグレード、ネットワーク設定などをどこまでAzureに任せるか |
| クラスター管理の料金レベル | Free、Standard、Premium | コントロールプレーンのSLA、対応規模、LTSの有無 |
| SKU | Automatic、Base | 料金レベルとクラスター構成の組み合わせ |
Base SKUのクラスターでは、Free、Standard、Premiumのいずれも選択できます。一方、Automatic SKUはクラスター作成時にStandard tierが事前設定されます。(Microsoft Learn)
つまり、「AKS Standardを利用しているからStandard tierである」とは限りません。AKS Standard側のBase SKUでFree tierを使っているケースもあります。
反対に、AKS Automaticは運用モデルの名称であり、料金レベルとしてはStandard tierを使用します。この2軸を分けて考えることが、構成や費用を正しく判断する第一歩です。
AKSのFree、Standard、Premiumを比較
| 料金レベル | 主な用途 | クラスター管理料金 | SLA | ノード規模 | バージョンサポート |
|---|---|---|---|---|---|
| Free | 開発、テスト、学習、評価、非本番環境 | クラスター管理は無料。利用したAzureリソースは課金 | 金銭的保証のあるSLAなし | 最大1,000ノード。推奨は10ノード未満 | 通常のコミュニティサポート範囲 |
| Standard | 本番、企業システム、可用性保証が必要な環境 | 従量課金 | 可用性ゾーンありでAPIサーバー99.95%、なしで99.9% | 最大5,000ノード | 通常のコミュニティサポート範囲 |
| Premium | LTSが必要な本番、規制対応、長い移行期間が必要な環境 | 従量課金。LTS期間はPremium料金 | Standardと同じAPIサーバー稼働時間SLA | 最大5,000ノード | KubernetesバージョンをGAから合計約2年間サポート |
公式比較表では、Freeは10ノード未満の開発・テスト環境向け、StandardとPremiumは最大5,000ノードの本番環境向けと整理されています。Premiumは24か月のLTSと、コミュニティサポート終了後のMicrosoftによるメンテナンスを追加する料金レベルです。(Microsoft Learn)
Freeは機能制限版ではなく、SLAのない非本番向け
Free tierでも、料金レベル比較上は現行のAKS機能を利用でき、最大1,000ノードまでサポートされます。ただし、10ノードを超える規模や高可用性が必要なワークロードには推奨されていません。
FreeとStandardの重要な違いは、単なる機能数ではなく、コントロールプレーンの信頼性プロファイルと金銭的保証のあるSLAです。(Microsoft Learn)
なお、個別機能には料金レベル固有の前提条件があります。たとえばAKS Cost AnalysisアドオンはStandardまたはPremiumが必要で、Freeでは有効化できません。「FreeにはすべてのAKS機能がある」という比較表の表現だけで判断せず、利用予定のアドオンごとに要件を確認する必要があります。(Microsoft Learn)
Standardは本番環境の基本選択
Standard tierは、Kubernetes APIサーバーの稼働時間SLAが必要な本番環境向けです。
可用性ゾーンを使用する場合は99.95%、使用しない場合は99.9%のAPIサーバー可用性が示されています。最大5,000ノードまで対応し、AKS Automaticでも作成時の料金レベルとして利用されます。(Microsoft Learn)
次のような環境では、Standardを基本候補にします。
- 外部ユーザーが利用するWebサービス
- 業務時間中の停止が許容されない社内システム
- デプロイやスケール操作の可用性が重要な環境
- 10ノードを超える可能性があるクラスター
- Kubernetesの通常のリリースサイクルに合わせて更新できる組織
Premiumは「Standardより高可用」ではなく「LTS付き」
Premiumを、Standardより上位の可用性プランとだけ考えるのは適切ではありません。StandardとPremiumのAPIサーバー稼働時間SLAは同じです。
Premiumの主な追加価値は、KubernetesバージョンのLong Term Supportです。通常のコミュニティサポート約1年に加え、Microsoftがさらに約1年のセキュリティ修正を提供し、バージョンのGAから合計約2年間の移行期間を確保できます。(Microsoft Learn)
次のような事情がある場合に検討します。
- Kubernetesのマイナーバージョンを毎年更新することが難しい
- 年1回など、限られた時期にしか基盤を更新できない
- 規制、監査、認証の都合で変更承認に時間がかかる
- 廃止予定APIや古いミドルウェアへの依存を解消する期間が必要
- 多数のアプリケーションを段階的に検証する必要がある
ただし、Premiumはアップグレードを不要にする仕組みではありません。移行期限を延ばして計画と検証の時間を確保するための選択肢です。
AKS Automaticはどのようなユーザー向けか
AKS Automaticでは、ノード管理、スケーリング、セキュリティ、アップグレードなどの一般的な運用設定があらかじめ構成されます。Microsoftは、多くの本番ワークロードでAKS Automaticを出発点として推奨しています。(Microsoft Learn)
特に適しているのは、次のようなチームです。
- Kubernetes専任のプラットフォームチームが小さい
- ノードプールの設計や調整に時間をかけたくない
- 本番向けの標準設定を早く導入したい
- オートスケールやアップグレードを自動化したい
- チームごとの設定差を減らしたい
一方、ネットワーク、ノードプール構成、スケーリング動作、アップグレード手順を細かく制御したい場合は、AKS Standardが適しています。公式の大規模環境向けガイダンスでも、AKS Standardはクラスター構成を明示的に制御したい場合の選択肢とされています。(Microsoft Learn)
AKS Automaticは料金レベルではなく、運用モデルです。Standard tierが事前設定されるからといって、AKS StandardのStandard tierと運用方法まで同一になるわけではありません。
また、公式価格ページではAKS AutomaticのHosted Componentとコンピュート料金が別の要素として示されています。料金レベルだけを見て同額と判断せず、実際のリージョン、契約、ノード構成をAzure料金計算ツールで見積もる必要があります。(マイクロソフト アジュール)
今回の更新で対応が必要なユーザー
本番環境をFreeで運用している場合
最も優先度が高いのは、本番クラスターをFree tierで運用しているケースです。
Freeには金銭的保証のあるAPIサーバーSLAがなく、公式には開発、評価、非本番環境向けです。特に10ノード以上、高頻度のデプロイ、急なスケール処理がある場合は、Standardへの変更を検討すべきです。(Microsoft Learn)
Standardで本番運用している場合
既存のStandard tierを直ちに変更する必要はありません。
通常のKubernetesサポート期間内にアップグレードでき、現在のクラスター運用に問題がなければ、Standardを継続できます。ただし、新規環境の構築時には、AKS Automaticによる運用負荷削減も比較対象にします。
PremiumまたはLTSを利用している場合
Premium利用者は、料金レベルよりも次の項目を確認する必要があります。
- 現在のKubernetesバージョン
- コミュニティサポート終了日
- LTS終了日
- 自動パッチ更新の設定
- LTS非対応のアドオン
- 次のLTSバージョンへの移行計画
LTSでは、各マイナーバージョンの最新2つのパッチバージョンだけがサポート対象です。LTSを選んでもパッチ更新を止めてよいわけではありません。(Microsoft Learn)
開発・検証専用でFreeを利用している場合
非本番環境で、障害時に再作成でき、SLAも不要であれば、今回の更新だけを理由にStandardへ変更する必要はありません。
ただし、FreeであってもノードVMなどの費用は発生します。停止可能な環境は、不要時の停止や削除、ノード数の縮小まで含めて管理します。
導入・運用前に確認すべきポイント
SLAが保証する範囲を確認する
StandardとPremiumの稼働時間SLAは、主にKubernetes APIサーバーの可用性を対象とします。
これは、アプリケーション自体の応答時間や、すべてのワーカーノードが常に稼働することを保証するものではありません。エージェントノードはVM側のSLA、アプリケーションはレプリカ数、ゾーン分散、PodDisruptionBudget、ロードバランサーなどの設計に依存します。(マイクロソフト アジュール)
AKS AutomaticにはAPIサーバーの稼働時間SLAに加えて、条件を満たすPod準備処理の99.9%が5分以内に完了するPod readiness SLAがあります。ただし、これもエンドユーザーから見たアプリケーション全体の可用性を直接保証するものではありません。(Microsoft Learn)
FreeでもAzure利用料は発生する
Freeで無料になるのは、クラスター管理部分です。
AKSクラスターでは、次のようなAzureリソースの料金が発生します。
- ノードとして利用する仮想マシン
- マネージドディスク
- ロードバランサー
- パブリックIPアドレス
- ネットワークとストレージ
- ログやメトリックの保存・取り込み
AKS Cost Analysisでは、仮想マシン、ディスク、ロードバランサー、パブリックIPなどを含むクラスターコストを確認できます。料金レベルの管理費だけではなく、クラスター全体の月額費用で比較することが重要です。(Microsoft Learn)
なお、Cost Analysisアドオンを有効にしたクラスターをFreeへ下げる場合は、先にCost Analysisを無効化する必要があります。
PremiumとLTSはセットで変更する
Premiumを作成または有効化する場合、--tier premiumだけでは不十分です。LTSサポートプランとして、AKSLongTermSupportも同時に設定します。
反対に、PremiumからFreeまたはStandardへ戻す場合は、サポートプランをKubernetesOfficialへ変更します。(Microsoft Learn)
LTSをコミュニティサポート期間中に先行設定した場合、直ちにPremiumのLTS料金が始まるわけではありません。対象のKubernetesマイナーバージョンがコミュニティサポートを終了し、LTS期間に入った時点でPremium料金へ移行します。(Microsoft Learn)
LTS非対応アドオンを確認する
LTSでは、一部のアドオンや機能を有効にしたままPremiumへ移行できません。
2026年5月時点の公式情報では、次の項目が非対応として挙げられています。
- Calico
- Key Management Service
- DaprのAKS拡張機能
- Application Gateway Ingress Controller
- Open Service Mesh
- AAD Pod Identity
- Azure Confidential Compute SGX
利用中の機能が含まれる場合は、代替方式への移行を先に完了させる必要があります。対応状況は変更される可能性があるため、Premiumへの切り替え直前に最新のLTSドキュメントを確認してください。(Microsoft Learn)
リージョンとCLIバージョンを確認する
Free、Standard、Premiumは、AKSがサポートされるパブリックリージョンとAzure Governmentリージョンで提供されます。パブリックリージョンのプライベートAKSクラスターでも3つの料金レベルを利用できます。
公式手順の前提となるAzure CLIは2.47.0以降です。(Microsoft Learn)
IaCで料金レベルを明示する
本番環境では、ポータル上の手動設定だけに依存せず、Bicep、ARMテンプレート、TerraformなどのInfrastructure as CodeでSKU、料金レベル、サポートプランを明示します。
特にPremiumでは、料金レベルとLTSサポートプランの組み合わせが重要です。片方だけを変更する構成にすると、意図した状態と実際のクラスター設定がずれる可能性があります。
既存AKSクラスターの料金レベルを確認する手順
Azure CLIのバージョンを確認する
az --version
2.47.0未満の場合は、料金レベルの変更前にAzure CLIを更新します。
現在のSKU、料金レベル、サポートプランを確認する
az aks show \
--resource-group <リソースグループ名> \
--name <クラスター名> \
--query "{skuName:sku.name,tier:sku.tier,supportPlan:supportPlan,kubernetesVersion:kubernetesVersion}" \
--output table
最低限、次の4項目を確認します。
skuNametiersupportPlankubernetesVersion
skuNameとtierを分けて確認することで、AKSの運用モデルと料金レベルの混同を防げます。az aks showは既存のマネージドKubernetesクラスターの詳細を取得する公式Azure CLIコマンドです。(Microsoft Learn)
FreeからStandardへ変更する
az aks update \
--resource-group <リソースグループ名> \
--name <クラスター名> \
--tier standard
本番環境をFreeで運用している場合は、SLA、料金、変更手順を確認したうえでStandardへの移行を検討します。
StandardからFreeへ変更する
az aks update \
--resource-group <リソースグループ名> \
--name <クラスター名> \
--tier free
本番クラスターのコスト削減だけを目的にFreeへ下げることは推奨されません。非本番化、Cost Analysisの無効化、ノード規模、SLA不要の確認を先に行います。
PremiumとLTSを有効にする
az aks update \
--resource-group <リソースグループ名> \
--name <クラスター名> \
--tier premium \
--k8s-support-plan AKSLongTermSupport \
--auto-upgrade-channel patch
--auto-upgrade-channel patchは、LTSでサポートされる最新のパッチ範囲を維持するために有効です。MicrosoftもLTS環境でパッチ自動更新チャネルを推奨しています。(Microsoft Learn)
LTSの有効化は構成変更であり、公式情報ではノードの再イメージやワークロード停止は想定されていません。ただし、本番環境では通常の変更管理と事後確認を実施します。(Microsoft Learn)
PremiumからStandardへ戻す
az aks update \
--resource-group <リソースグループ名> \
--name <クラスター名> \
--tier standard \
--k8s-support-plan KubernetesOfficial
コミュニティサポート終了後のバージョンでは、LTSを無効化できない場合があります。先にアップグレード可能なバージョンを確認してください。(Microsoft Learn)
az aks get-upgrades \
--resource-group <リソースグループ名> \
--name <クラスター名>
利用シーン別の選び方
| 利用シーン | 適した選択 | 判断理由 |
|---|---|---|
| 3ノード程度の短期検証環境 | Free | SLA不要で、障害時に再作成できる |
| 社外向けWebサービス | StandardまたはAKS Automatic | APIサーバーSLAが必要。運用負荷を減らすならAutomatic |
| 社内の重要業務システム | Standard | 通常の更新サイクルに追従できるならLTSは不要 |
| 年1回しか基盤を更新できない規制対象システム | Premium | Kubernetesバージョンの移行期間を約2年間確保できる |
| 独自ネットワークやノード構成を細かく制御したい | AKS StandardとStandard tier | 運用の自由度と本番SLAを両立できる |
| Kubernetes専任担当が少ない新規本番環境 | AKS Automatic | Standard tierと本番向けの運用設定が事前構成される |
| 20ノードの本番環境をFreeで運用中 | Standardへの変更を優先検討 | Freeは10ノード未満の非本番用途が推奨されている |
対応要否を判断するための最終チェック
今回の更新だけを理由に、すべてのAKSクラスターを変更する必要はありません。まず、既存クラスターのSKU、料金レベル、サポートプラン、Kubernetesバージョンを確認します。
そのうえで、次の基準で判断します。
- 非本番でSLA不要ならFreeを継続する
- 本番でAPIサーバーSLAが必要ならStandardを選ぶ
- 多くの新規本番環境ではAKS Automaticも比較する
- 通常の更新サイクルに追従できない場合だけPremiumを検討する
- Premiumへ移行する前にLTS非対応アドオンを確認する
- 料金レベルではなく、VM、ストレージ、ネットワーク、監視を含む総額で比較する
- 決定したSKU、料金レベル、サポートプランをIaCへ反映する
特に、本番環境をFreeで運用している場合は、今回の更新を機にStandardへの変更要否を確認すべきです。新規の本番クラスターでは、運用をAzureに任せるAKS Automaticと、構成を細かく制御できるAKS Standardを比較し、必要なSLAと運用体制に合う構成を選びましょう。

コメント