C++の型推論でコードを簡潔にする方法:基礎から応用まで

C++は強力な静的型付け言語ですが、コードの可読性や保守性を向上させるために、C++11から導入された型推論機能を利用することができます。型推論を使うことで、変数の型を明示的に指定することなく、コンパイラに自動的に推論させることができます。この記事では、C++の型推論の基本から応用までを解説し、どのようにして効率的で簡潔なコードを書くことができるかを示します。型推論を上手に活用することで、コードの読みやすさやメンテナンス性を大幅に向上させることが可能です。

目次

型推論とは何か

型推論とは、プログラミング言語において、変数や式の型を明示的に指定することなく、コンパイラが自動的にその型を推定する機能を指します。C++における型推論は、コードの可読性を向上させ、開発者の負担を軽減するために導入されました。

型推論の利点

型推論を利用することで、次のような利点があります。

  1. コードの簡潔化:型を明示的に指定する必要がないため、コードが短くなります。
  2. 可読性の向上:型情報を推測するためのコードが少なくなるため、コード全体の可読性が向上します。
  3. メンテナンスの容易さ:型が自動的に推論されるため、型の変更が必要になった場合でも影響範囲が限定されます。

型推論の仕組み

型推論は、コンパイラがコードを解析する過程で行われます。コンパイラは、変数や式のコンテキストに基づいて最適な型を推論し、適用します。これにより、開発者は具体的な型を明示することなく、変数や関数の定義を行うことができます。

型推論の基本的な使い方

C++での型推論は、主にautodecltypeというキーワードを使って行われます。これらのキーワードを用いることで、コンパイラに型の推論を任せることができます。ここでは、基本的な使い方について具体的な例を交えて紹介します。

autoキーワードの基本的な使い方

autoキーワードを使うことで、変数の型を自動的に推論させることができます。例えば、以下のようなコードが考えられます。

int main() {
    auto x = 10;        // xはint型として推論される
    auto y = 3.14;      // yはdouble型として推論される
    auto s = "Hello";   // sはconst char*型として推論される
    return 0;
}

このように、autoを使うことで、変数の型を明示的に書く必要がなくなり、コードが簡潔になります。

範囲ベースのforループとの組み合わせ

autoは範囲ベースのforループとも相性が良く、要素の型を自動的に推論してくれます。

#include <vector>
#include <iostream>

int main() {
    std::vector<int> numbers = {1, 2, 3, 4, 5};
    for (auto num : numbers) {
        std::cout << num << " ";
    }
    return 0;
}

この例では、autoを使うことで、ループ内の変数numの型を明示的に書かなくても、int型として推論されます。

関数の戻り値型推論

C++14以降では、関数の戻り値の型もautoを使って推論させることができます。

auto add(int a, int b) {
    return a + b;  // 戻り値の型はintとして推論される
}

このように、関数の戻り値の型をautoにすることで、関数定義をよりシンプルにすることができます。

autoキーワードの使い方

autoキーワードは、C++における型推論の中心的な機能です。変数宣言の際にautoを使用することで、コンパイラに型の推論を任せることができます。これにより、コードの可読性が向上し、開発者の負担が軽減されます。

基本的な使用例

autoを使って変数の型を推論させる基本的な例を示します。

int main() {
    auto integer = 10;       // integerはint型として推論される
    auto floating = 3.14;    // floatingはdouble型として推論される
    auto text = "Hello";     // textはconst char*型として推論される
    auto isTrue = true;      // isTrueはbool型として推論される
    return 0;
}

この例では、autoを使うことで変数の型を明示的に書く必要がなくなり、コードがシンプルになります。

複雑な型の推論

autoは、複雑な型やコンテナ内の要素の型も推論できます。

#include <vector>
#include <map>
#include <string>

int main() {
    auto vec = std::vector<int>{1, 2, 3};  // vecはstd::vector<int>型として推論される
    auto map = std::map<std::string, int>{{"one", 1}, {"two", 2}}; // mapはstd::map<std::string, int>型として推論される
    return 0;
}

この例では、std::vector<int>std::map<std::string, int>といった複雑な型も、autoによって簡単に推論されます。

関数の戻り値型の推論

関数の戻り値の型もautoを使用して推論させることができます。

auto sum(int a, int b) {
    return a + b;  // 戻り値の型はintとして推論される
}

auto concatenate(const std::string& a, const std::string& b) {
    return a + b;  // 戻り値の型はstd::stringとして推論される
}

このように、autoを使うことで関数の戻り値の型を簡潔に記述することができます。

範囲ベースのforループとの併用

autoは、範囲ベースのforループと併用することで、ループ内の変数の型を自動的に推論できます。

#include <vector>
#include <iostream>

int main() {
    std::vector<int> numbers = {1, 2, 3, 4, 5};
    for (auto number : numbers) {
        std::cout << number << " ";
    }
    return 0;
}

この例では、autoを使うことで、ループ内の変数numberの型をintとして推論しています。

まとめ

autoキーワードを活用することで、C++のコードを簡潔にし、読みやすくすることができます。変数宣言や関数の戻り値、範囲ベースのforループなど、様々な場面でautoを使うことで、型の明示的な指定を省略し、コードの可読性と保守性を向上させることができます。

decltypeキーワードの利用方法

decltypeキーワードは、指定した式や変数の型を取得するために使用されます。これにより、型を明示的に指定することなく、型推論を行うことができます。decltypeは、autoとは異なり、特定の変数や式に基づいて型を決定するため、より柔軟に型情報を取得することができます。

基本的な使用例

decltypeを使って変数の型を推論する基本的な例を示します。

int main() {
    int x = 10;
    decltype(x) y = 20;  // yはint型として推論される
    double z = 3.14;
    decltype(z) w = 6.28;  // wはdouble型として推論される
    return 0;
}

この例では、decltypeを使うことで、変数xzの型を基に新しい変数ywの型を推論しています。

関数の戻り値型としての利用

関数の戻り値の型をdecltypeで推論させることもできます。

int add(int a, int b) {
    return a + b;
}

auto sum(int a, int b) -> decltype(add(a, b)) {
    return a + b;
}

この例では、sum関数の戻り値の型を、add関数の戻り値の型を基にdecltypeで推論しています。

複雑な式に対する型推論

decltypeは複雑な式の型を推論するのにも役立ちます。

int main() {
    int a = 5;
    double b = 3.14;
    decltype(a + b) result = a + b;  // resultはdouble型として推論される
    return 0;
}

この例では、a + bという式の型をdecltypeで推論し、その型を持つ変数resultを宣言しています。

メンバ関数とdecltype

クラス内でメンバ関数の戻り値の型をdecltypeで推論する方法もあります。

class MyClass {
public:
    int getValue() { return 42; }
};

auto getResult(MyClass& obj) -> decltype(obj.getValue()) {
    return obj.getValue();
}

この例では、MyClassgetValueメンバ関数の戻り値の型をdecltypeで推論し、getResult関数の戻り値の型として使用しています。

まとめ

decltypeキーワードは、特定の変数や式に基づいて型を推論するために非常に便利です。これを使用することで、コードの柔軟性と可読性が向上し、より強力な型推論を実現することができます。特に関数の戻り値型や複雑な式に対する型推論において、decltypeは重要な役割を果たします。

ラムダ式と型推論

C++11以降では、ラムダ式が導入され、関数オブジェクトを簡潔に定義できるようになりました。ラムダ式と型推論を組み合わせることで、より柔軟で読みやすいコードを書くことができます。

ラムダ式の基本構文

ラムダ式は、以下のような構文で記述します。

auto lambda = [](int a, int b) -> int {
    return a + b;
};

この例では、ラムダ式が2つの整数を受け取り、それらの合計を返す関数オブジェクトとして定義されています。

autoを使ったラムダ式の引数型推論

C++14以降では、ラムダ式の引数に対してautoを使用することで、引数の型を自動的に推論することができます。

auto lambda = [](auto a, auto b) {
    return a + b;
};

int main() {
    int result1 = lambda(2, 3);           // result1はint型
    double result2 = lambda(2.5, 3.5);    // result2はdouble型
    return 0;
}

この例では、autoを使ってラムダ式の引数の型を推論しており、異なる型の引数に対しても柔軟に対応できます。

ラムダ式の戻り値型推論

C++14以降では、ラムダ式の戻り値の型も自動的に推論されます。これにより、戻り値の型を明示的に指定する必要がなくなります。

auto lambda = [](int a, int b) {
    return a + b;  // 戻り値の型はintとして推論される
};

この例では、ラムダ式の戻り値の型がintとして自動的に推論されます。

キャプチャによる型推論

ラムダ式は、外部の変数をキャプチャすることもできます。この場合、キャプチャされた変数の型も自動的に推論されます。

int main() {
    int x = 10;
    auto lambda = [x](int a) {
        return x + a;  // xはキャプチャされ、aは引数
    };
    int result = lambda(5);  // resultは15
    return 0;
}

この例では、ラムダ式が外部変数xをキャプチャし、引数aとの合計を返しています。キャプチャされたxの型は自動的に推論されます。

まとめ

ラムダ式と型推論を組み合わせることで、コードをさらに簡潔かつ柔軟に記述することができます。autoを使った引数や戻り値の型推論、外部変数のキャプチャによる型推論など、様々な方法でラムダ式の利便性を向上させることができます。これにより、C++の強力な機能を最大限に活用した効率的なプログラミングが可能になります。

テンプレートと型推論

C++のテンプレート機能は、型に依存しない汎用的なコードを書くために非常に強力なツールです。テンプレートと型推論を組み合わせることで、より柔軟で再利用可能なコードを作成できます。

テンプレート関数での型推論

テンプレート関数を使うことで、関数の引数の型を自動的に推論することができます。以下に基本的なテンプレート関数の例を示します。

template<typename T>
T add(T a, T b) {
    return a + b;
}

int main() {
    int result1 = add(1, 2);           // Tはintとして推論される
    double result2 = add(1.5, 2.5);    // Tはdoubleとして推論される
    return 0;
}

この例では、テンプレート関数addの引数の型が呼び出し時に自動的に推論されます。

テンプレートクラスでの型推論

テンプレートクラスを使うことで、クラスのメンバ関数や変数の型をテンプレート引数として定義することができます。

template<typename T>
class MyClass {
public:
    MyClass(T value) : value(value) {}
    T getValue() const { return value; }

private:
    T value;
};

int main() {
    MyClass<int> intObj(10);            // Tはintとして推論される
    MyClass<double> doubleObj(3.14);    // Tはdoubleとして推論される
    return 0;
}

この例では、MyClassの型がテンプレート引数として指定され、クラスのメンバ関数や変数の型が自動的に決定されます。

関数テンプレートの特殊化

関数テンプレートは、特定の型に対して特殊化することができます。これにより、特定の型に対して異なる実装を提供することが可能です。

template<typename T>
T multiply(T a, T b) {
    return a * b;
}

// 特殊化
template<>
const char* multiply<const char*>(const char* a, const char* b) {
    return "Cannot multiply strings";
}

int main() {
    int result1 = multiply(2, 3);         // int型に対する通常の実装が呼ばれる
    const char* result2 = multiply("a", "b"); // const char*型に対する特殊化が呼ばれる
    return 0;
}

この例では、multiply関数が特定の型const char*に対して特殊化され、異なる実装が提供されています。

テンプレートの型推論によるコンテナの利用

STLコンテナとテンプレート型推論を組み合わせることで、様々な型のデータを柔軟に扱うことができます。

#include <vector>
#include <iostream>

template<typename T>
void printElements(const std::vector<T>& vec) {
    for (const auto& elem : vec) {
        std::cout << elem << " ";
    }
    std::cout << std::endl;
}

int main() {
    std::vector<int> intVec = {1, 2, 3, 4, 5};
    std::vector<std::string> strVec = {"a", "b", "c"};

    printElements(intVec);  // Tはintとして推論される
    printElements(strVec);  // Tはstd::stringとして推論される
    return 0;
}

この例では、printElements関数がテンプレートとして定義され、std::vectorの要素の型が自動的に推論されます。

まとめ

テンプレートと型推論を組み合わせることで、C++のコードをより柔軟で再利用可能にすることができます。テンプレート関数やテンプレートクラス、特殊化などを活用することで、様々な型に対応した汎用的なコードを書くことが可能になります。これにより、効率的でメンテナンス性の高いプログラムを作成することができます。

型推論の応用例

型推論を応用することで、C++のコードはさらに簡潔で効率的になります。ここでは、型推論を利用したいくつかの実践的な応用例を紹介します。

スマートポインタと型推論

C++11で導入されたスマートポインタ(std::unique_ptrstd::shared_ptr)は、メモリ管理を自動化するために非常に有用です。autoを使うことで、スマートポインタの型推論も簡単に行えます。

#include <memory>

int main() {
    auto ptr = std::make_unique<int>(10);  // std::unique_ptr<int>型として推論される
    auto sharedPtr = std::make_shared<int>(20);  // std::shared_ptr<int>型として推論される
    return 0;
}

この例では、make_uniquemake_sharedを使用してスマートポインタを作成し、autoによって型を推論しています。

STLアルゴリズムと型推論

STLアルゴリズムと型推論を組み合わせることで、コードがさらに簡潔になります。

#include <vector>
#include <algorithm>
#include <iostream>

int main() {
    std::vector<int> numbers = {1, 2, 3, 4, 5};

    auto it = std::find(numbers.begin(), numbers.end(), 3);  // イテレータの型を推論
    if (it != numbers.end()) {
        std::cout << "Found: " << *it << std::endl;
    }
    return 0;
}

この例では、std::findの戻り値であるイテレータの型をautoによって推論しています。

ジェネリックプログラミングにおける型推論

ジェネリックプログラミングは、テンプレートを使って型に依存しないコードを記述する技術です。型推論を使うことで、テンプレートの柔軟性がさらに向上します。

#include <iostream>
#include <vector>

template<typename Container>
auto getFirstElement(const Container& container) -> decltype(container.front()) {
    return container.front();
}

int main() {
    std::vector<int> vec = {10, 20, 30};
    std::cout << "First element: " << getFirstElement(vec) << std::endl;  // int型として推論
    return 0;
}

この例では、getFirstElement関数がジェネリックに定義されており、コンテナの要素型をdecltypeで推論しています。

関数オブジェクトと型推論

関数オブジェクトやファンクタを使用する際にも、型推論を利用できます。

#include <functional>
#include <iostream>

int main() {
    std::function<int(int, int)> add = [](int a, int b) { return a + b; };
    auto result = add(5, 3);  // int型として推論
    std::cout << "Result: " << result << std::endl;
    return 0;
}

この例では、std::functionによって定義された関数オブジェクトaddの型をautoによって推論しています。

コンテナ内の複雑なデータ構造

型推論を使うことで、コンテナ内の複雑なデータ構造の型も簡単に扱えます。

#include <map>
#include <string>
#include <iostream>

int main() {
    std::map<std::string, std::vector<int>> data = {
        {"one", {1, 2, 3}},
        {"two", {4, 5, 6}}
    };

    for (const auto& [key, value] : data) {
        std::cout << key << ": ";
        for (const auto& num : value) {
            std::cout << num << " ";
        }
        std::cout << std::endl;
    }
    return 0;
}

この例では、autoを使うことで、std::mapstd::vectorの要素の型を自動的に推論し、簡潔に記述しています。

まとめ

型推論を応用することで、C++のコードはさらに簡潔で効率的になります。スマートポインタやSTLアルゴリズム、ジェネリックプログラミングなど、様々な場面で型推論を活用することで、コードの可読性と保守性を向上させることができます。

型推論の制約と注意点

型推論はC++のプログラムを簡潔にし、開発者の負担を軽減する強力な機能ですが、いくつかの制約や注意点があります。これらを理解しておくことで、型推論をより安全かつ効果的に活用することができます。

型の不一致によるエラー

型推論を使用する際に、意図しない型が推論されることがあります。これにより、予期しないエラーが発生する可能性があります。

auto x = 0.5; // xはdouble型として推論される
auto y = 1 / 2; // yはint型として推論されるため、結果は0になる

この例では、yがint型として推論されるため、計算結果が期待と異なります。このような場合には、型キャストを明示的に行う必要があります。

読みやすさの低下

型推論を過度に使用すると、コードの読みやすさが低下することがあります。特に、大規模なコードベースや複雑なアルゴリズムでは、型が明示されていないとコードの理解が難しくなることがあります。

auto result = complexFunctionCall(); // resultの型が不明瞭

この例では、complexFunctionCallの戻り値の型が明示されていないため、resultの型が不明瞭です。重要な部分では型を明示することを検討してください。

テンプレートメタプログラミングとの組み合わせ

テンプレートメタプログラミングと型推論を組み合わせる場合、型の推論が複雑になることがあります。適切な型推論が行われない場合、コンパイルエラーや意図しない動作が発生する可能性があります。

template<typename T>
auto add(T a, T b) {
    return a + b; // Tが適切に推論されない場合がある
}

この例では、Tの型が適切に推論されない場合があります。このような場合には、型推論の使用を慎重に検討する必要があります。

デフォルト引数と型推論

デフォルト引数を持つ関数と型推論を組み合わせる場合、デフォルト引数の型が適切に推論されないことがあります。

template<typename T>
void func(T value = 0) {
    // デフォルト引数の型が適切に推論されない可能性
}

int main() {
    func(); // エラー: デフォルト引数の型が不明瞭
    return 0;
}

この例では、func関数のデフォルト引数0の型が適切に推論されないため、コンパイルエラーが発生します。デフォルト引数を使用する場合には、型を明示的に指定することが推奨されます。

コンパイラ依存性

型推論の挙動は、使用するコンパイラによって異なる場合があります。特に、異なるバージョンのコンパイラ間での互換性に注意が必要です。

auto lambda = [](auto a, auto b) {
    return a + b;
};

この例のように、C++14以降の機能を使用する場合、古いコンパイラではサポートされていない可能性があります。使用するコンパイラのバージョンに依存しないように注意してください。

まとめ

型推論は便利な機能ですが、その制約と注意点を理解しておくことが重要です。型の不一致や読みやすさの低下、テンプレートメタプログラミングとの組み合わせ、デフォルト引数、コンパイラ依存性などに注意を払いながら、適切に型推論を利用することで、安全で効率的なプログラムを書くことができます。

型推論を使ったリファクタリング

型推論を利用することで、既存のC++コードをより簡潔で読みやすくリファクタリングすることができます。ここでは、型推論を活用したリファクタリングの方法とその効果を紹介します。

冗長な型宣言の削減

型推論を使うことで、冗長な型宣言を削減し、コードを簡潔にすることができます。

リファクタリング前:

std::vector<int> numbers = {1, 2, 3, 4, 5};
std::map<std::string, int> scores = {{"Alice", 90}, {"Bob", 85}};

リファクタリング後:

auto numbers = std::vector<int>{1, 2, 3, 4, 5};
auto scores = std::map<std::string, int>{{"Alice", 90}, {"Bob", 85}};

このようにautoを使うことで、型宣言を簡潔に記述できます。

ループ内の型宣言の簡略化

範囲ベースのforループとautoを組み合わせることで、ループ内の型宣言を簡略化できます。

リファクタリング前:

std::vector<int> numbers = {1, 2, 3, 4, 5};
for (std::vector<int>::iterator it = numbers.begin(); it != numbers.end(); ++it) {
    std::cout << *it << " ";
}

リファクタリング後:

std::vector<int> numbers = {1, 2, 3, 4, 5};
for (auto it = numbers.begin(); it != numbers.end(); ++it) {
    std::cout << *it << " ";
}

この例では、イテレータの型をautoにすることで、コードがシンプルになります。

複雑な戻り値型の関数

関数の戻り値型が複雑な場合、autoを使って推論させることで、関数定義を簡潔にすることができます。

リファクタリング前:

std::map<std::string, std::vector<int>> createData() {
    std::map<std::string, std::vector<int>> data;
    data["Alice"] = {90, 85, 88};
    data["Bob"] = {75, 80, 78};
    return data;
}

リファクタリング後:

auto createData() {
    std::map<std::string, std::vector<int>> data;
    data["Alice"] = {90, 85, 88};
    data["Bob"] = {75, 80, 78};
    return data;
}

このように、戻り値の型をautoにすることで、関数定義が簡潔になります。

ラムダ式の型推論

ラムダ式の引数や戻り値の型もautoを使って簡略化できます。

リファクタリング前:

std::function<int(int, int)> add = [](int a, int b) -> int {
    return a + b;
};

リファクタリング後:

auto add = [](auto a, auto b) {
    return a + b;
};

この例では、ラムダ式の引数と戻り値の型をautoにすることで、コードがより柔軟かつ簡潔になります。

テンプレート関数のリファクタリング

テンプレート関数でも、autoを使うことでコードを簡略化できます。

リファクタリング前:

template<typename T>
T multiply(T a, T b) {
    return a * b;
}

リファクタリング後:

template<typename T>
auto multiply(T a, T b) {
    return a * b;
}

このように、テンプレート関数の戻り値型をautoにすることで、コードが簡潔になります。

まとめ

型推論を使ったリファクタリングは、コードの可読性を向上させ、開発効率を高める効果があります。冗長な型宣言の削減、ループ内の型宣言の簡略化、複雑な戻り値型の関数、ラムダ式、テンプレート関数など、様々な場面で型推論を活用することで、より効率的でメンテナンス性の高いコードを作成することができます。

型推論の利点と欠点

型推論はC++のプログラムを簡潔にし、開発者の負担を軽減する強力なツールですが、使用する上での利点と欠点があります。これらを理解することで、型推論を適切に活用し、プログラムの質を向上させることができます。

利点

1. コードの簡潔化

型推論を利用することで、コードを短く、シンプルにすることができます。特に、複雑な型を扱う場合には、その利点が顕著です。

auto numbers = std::vector<int>{1, 2, 3, 4, 5};

このように、autoを使うことで、長い型名を書く手間が省けます。

2. 可読性の向上

型推論により、コードの可読性が向上します。型名を省略することで、ロジックに集中しやすくなります。

auto result = calculateComplexResult();

この例では、戻り値の型に気を取られることなく、関数の役割に集中できます。

3. メンテナンスの容易さ

型推論を利用することで、コードのメンテナンスが容易になります。型が自動的に推論されるため、型の変更が必要になった場合でも、影響範囲が限定されます。

auto sum = a + b;

このように、変数の型が自動的に推論されることで、コード変更時の影響を最小限に抑えられます。

4. 汎用性の向上

テンプレートと組み合わせることで、より汎用的なコードを書くことができます。異なる型に対しても同じコードを適用できるため、再利用性が高まります。

template<typename T>
auto add(T a, T b) {
    return a + b;
}

この例では、異なる型に対しても同じ関数を使用できます。

欠点

1. 型の不明瞭さ

型推論を過度に使用すると、コードを読んだ際に型が不明瞭になることがあります。特に、他の開発者がコードを読む場合に、型が明確に示されていないと理解が難しくなることがあります。

auto data = getData();

この例では、dataの型が明確にわからないため、コードを理解するのが難しくなります。

2. デバッグの難易度

型推論を使用すると、デバッグが難しくなることがあります。推論された型が期待と異なる場合、バグの原因を特定するのに時間がかかることがあります。

auto result = calculateSomething();

このように、resultの型が不明瞭な場合、デバッグ時に問題が発生する可能性があります。

3. コンパイラ依存性

型推論の挙動は、使用するコンパイラに依存することがあります。異なるコンパイラやコンパイラのバージョン間で互換性がない場合、予期しない動作が発生する可能性があります。

auto lambda = [](auto x, auto y) { return x + y; };

この例では、コンパイラのバージョンによってはサポートされていない場合があります。

4. 誤った型推論のリスク

型推論が意図しない型を推論することがあります。特に、計算式やテンプレートを使用する場合、期待する型が推論されないことがあります。

auto value = 1 / 2;  // int型として推論され、結果は0になる

この例では、valueがdouble型として推論されることを期待しても、実際にはint型として推論されます。

まとめ

型推論は、コードを簡潔にし、開発者の負担を軽減する多くの利点を持っていますが、使用する上での欠点も理解しておく必要があります。型の不明瞭さやデバッグの難易度、コンパイラ依存性、誤った型推論のリスクなどに注意しながら、適切に型推論を活用することで、安全で効率的なプログラムを書くことができます。

まとめ

型推論は、C++のコードを簡潔にし、可読性と保守性を向上させる強力なツールです。autodecltypeを使用することで、変数の型を明示的に記述することなく、コンパイラに自動的に推論させることができます。これにより、コードの冗長さを減らし、より効率的にプログラムを開発できます。

型推論の利点としては、コードの簡潔化、可読性の向上、メンテナンスの容易さ、汎用性の向上があります。一方で、型の不明瞭さ、デバッグの難易度、コンパイラ依存性、誤った型推論のリスクといった欠点も存在します。これらの点を理解し、バランスよく型推論を活用することが重要です。

型推論を適切に利用することで、C++のプログラム開発がより効率的で快適になります。今後の開発プロジェクトで型推論を積極的に取り入れ、効果的に活用してみてください。

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