Azure Elastic SANのリージョン追加で確認すべき点|公式ドキュメント更新「Add new regions」を解説

Azure Elastic SANの公式ドキュメント更新「Add new regions to elastic-san-regions.md」は、AzureでElastic SANを設計・運用している担当者が、対応リージョン、LRS/ZRSの選択、移行計画を見直すきっかけになる更新です。結論から言うと、今回確認すべき中心は「新しいリージョンが使えるか」だけではありません。既存環境を自動的に移せるわけではないため、SKUの実利用可否、冗長化方式、ネットワーク設計、バックアップ・DR方針までセットで確認する必要があります。

2026年4月30日のMicrosoftDocs/azure-docsのコミットでは、includes/elastic-san-regions.mdに対して「Add new regions to elastic-san-regions.md」という変更が行われ、差分上はElastic SANのリージョン一覧に複数リージョンが追加されています。該当コミットは1ファイル変更、10行追加・5行削除として記録されています。(GitHub)

目次

Azureの公式ドキュメント更新「Add new regions to elastic-san-regions.md」で何が変わったか

今回の更新は、Azure Elastic SANの提供リージョン一覧を更新するものです。コミット差分を見ると、実質的に新たに追加された確認対象は次の5リージョンです。

追加されたリージョンドキュメント上の冗長化対応実務上の確認ポイント
Italy NorthLRS & ZRS欧州向けワークロードの近接配置、データ所在地要件
Mexico CentralLRS & ZRS北米・中南米向けの遅延改善、地域分散
Poland CentralLRS & ZRSEU圏内の配置選択肢、DR候補
Spain CentralLRS & ZRS南欧向けワークロード、コンプライアンス要件
Qatar CentralLRS & ZRS中東向けワークロード、地域要件

Microsoft Learnの現行ドキュメントでも、Elastic SANが利用可能なリージョンと、LRS/ZRSの対応状況が一覧化されています。そこにはItaly North、Mexico Central、Poland Central、Spain Central、Qatar Centralがいずれも「LRS & ZRS」として掲載されています。(Microsoft Learn)

ここで重要なのは、「リージョンがドキュメントに追加された」ことと「自社サブスクリプションで即座に問題なく本番投入できる」ことは同じではない点です。Azureでは、リージョン、SKU、容量、クォータ、組織のAzure Policy、ネットワーク設計によって実際の利用可否が変わる場合があります。まずはドキュメントの更新を入口にし、実環境で確認する流れを作るべきです。

そもそもAzure Elastic SANとは何か

Azure Elastic SANは、Azure上で利用できるマネージド型のブロックストレージサービスです。SANの容量と性能をプールとして確保し、その中にボリュームグループやボリュームを作成して、VMやアプリケーション基盤から利用します。

個別ディスクを1台ずつ設計・拡張するよりも、共有ストレージ基盤として容量や性能をまとめて管理しやすい点が特徴です。特に、複数の仮想マシン、データベース、Azure VMware Solution、コンテナ基盤などで、低遅延のブロックストレージをまとめて扱いたいケースで検討されます。

ただし、Elastic SANは「作れば終わり」のサービスではありません。リージョン、冗長性、ネットワーク接続、容量単位、IOPS、スループット、バックアップ、DRを最初に決める必要があります。今回のリージョン追加も、単なる選択肢の増加ではなく、設計判断に影響する更新として見るべきです。

LRSとZRSの違いを先に理解しておく

今回追加されたリージョンは、いずれもドキュメント上ではLRSとZRSの両方に対応しています。Elastic SANの設計では、この違いを必ず押さえてください。

項目LRSZRS
正式名称Locally Redundant StorageZone-Redundant Storage
データの複製範囲1つのデータセンター内のストレージクラスター同一リージョン内の複数の可用性ゾーン
主な目的ハードウェア障害への保護可用性ゾーン障害への耐性
コストZRSより低くなりやすいLRSより高くなる
レイテンシZRSより低くなりやすい同期レプリケーションにより書き込み遅延が増える可能性
向いている用途開発、検証、ゾーン障害許容度が低くてもよい用途本番、重要データ、可用性重視の用途

Microsoftの信頼性ドキュメントでは、LRSは単一データセンター内のストレージクラスターに3回複製し、ZRSはリージョン内の3つの可用性ゾーンに同期レプリケーションすると説明されています。また、ZRSはLRSより信頼性を高める一方で、書き込みレイテンシが増える可能性があるため、実ワークロードでのベンチマークが推奨されています。(Microsoft Learn)

今回の更新で既存環境にすぐ影響はあるか

既存のElastic SAN環境に対して、今回のドキュメント更新だけで自動的な変更が入るわけではありません。既存のSANが別リージョンに移動されることも、LRSからZRSへ自動変換されることもありません。

特に注意したいのは、Elastic SANでは作成後に冗長化オプションを変更できない点です。Microsoftの信頼性ドキュメントでは、既存のLRS Elastic SANをその場でZRSへ変換することはできず、移行するにはスナップショットを作成し、マネージドディスクスナップショットへエクスポートし、新しいZRSのElastic SANをデプロイして、そこへボリュームを作成する流れが示されています。(Microsoft Learn)

つまり、今回の更新を受けて行うべきことは「既存環境をすぐ変更する」ことではありません。まずは、新しいリージョンを利用することで、次のような改善余地があるかを評価することです。

  • 利用者やアプリケーションに近いリージョンへ配置できるか
  • データ所在地や規制要件を満たしやすくなるか
  • 災害対策用のセカンダリ候補として使えるか
  • LRSではなくZRSを選ぶ価値がある本番ワークロードか
  • ネットワーク遅延、コスト、運用負荷のバランスが取れるか

日本のAzure利用者が特に見るべきポイント

日本国内の担当者にとって、今回の追加リージョンは日本リージョンの追加ではありません。現行ドキュメントでは、Japan EastはLRS & ZRS、Japan Westは可用性ゾーン非対応のLRSリージョンとして掲載されています。(Microsoft Learn)

そのため、日本向けワークロードだけを運用している場合、今回の更新によって直ちにリージョン選択が変わるとは限りません。一方で、グローバル展開を行っている企業では見方が変わります。たとえば、欧州、中東、中南米に拠点やユーザーがある場合、Italy North、Spain Central、Poland Central、Qatar Central、Mexico Centralが候補に加わることで、既存のWest EuropeやNorth Europe、UAE Northなどに集中していた配置を見直せる可能性があります。

判断基準は「新しいリージョンだから使う」ではなく、「そのリージョンを使うことで、遅延、法規制、障害分離、運用コストのどれが改善するか」です。

実務で確認すべきチェック項目

Azure管理者、開発者、ソリューションアーキテクトが今回の更新後に確認すべき項目を整理すると、次のようになります。

確認項目見るべき内容見落とすと起きる問題
リージョン可用性対象リージョンでElastic SANが作成できるかIaCやデプロイ時に失敗する
SKUPremium_LRS、Premium_ZRSが利用できるか想定した冗長化方式で作れない
クォータ・容量サブスクリプション単位の制限、リージョン別の上限本番移行時に容量不足になる
Azure Policy許可リージョン、許可SKU、タグ強制組織ポリシーで作成がブロックされる
ネットワークPrivate Endpoint、Service Endpoint、VNet設計フェールオーバーや接続経路に影響する
可用性ゾーンワークロードとSANのゾーン配置LRS利用時に遅延や可用性設計が崩れる
性能IOPS、スループット、ベース容量容量だけ増やしても性能が足りない
DRリージョン障害時の復旧方法ZRSでもリージョン障害には対応できない
移行手順スナップショット、再作成、切り替え既存LRSをその場でZRS化できると誤解する

この中でも、SKUとクォータは早めに確認してください。Azure CLIではaz elastic-san list-skuでElastic SANのSKU一覧を取得でき、--filterでロケーション条件を指定できます。(Microsoft Learn)

az extension add -n elastic-san

az elastic-san list-sku \
  --filter "location eq qatarcentral" \
  -o table

上記はQatar Centralを例にした確認コマンドです。Italy Northならitalynorth、Mexico Centralならmexicocentral、Poland Centralならpolandcentral、Spain Centralならspaincentralを指定して確認します。実際の本番判断では、Azure Portal、CLI、IaCのデプロイテストを組み合わせて確認するのが安全です。

新リージョンを使うべきケース、使わない方がよいケース

新しいリージョンが追加されると、つい「近いリージョンへ移せばよい」と考えがちです。しかし、Elastic SANはストレージ基盤なので、移行にはアプリケーション停止、データ同期、ネットワーク再設計、監視変更が伴う場合があります。

判断向いているケース慎重に見るべきケース
新リージョンを採用する新規システム、現地ユーザー向け、データ所在地要件がある既存本番の即時移行
ZRSを選ぶ本番、ミッションクリティカル、ゾーン障害に備えたい書き込み遅延に非常に敏感
LRSを選ぶ検証環境、コスト優先、ゾーン障害を別方式で吸収できる重要データを単一リージョン・単一ゾーン前提で置く
移行を見送る既存リージョンで遅延・法規制・可用性の問題がない「新しいから」という理由だけで移す

たとえば、中東向けの業務システムをUAE Northで運用していた場合、Qatar Centralが選択肢に入ることで、現地要件やネットワーク遅延の観点から再評価する価値があります。一方、日本国内ユーザー向けのシステムをJapan Eastで安定運用している場合、今回の更新だけを理由に構成変更する必要はありません。

IaCやAzure Policyで見直すべき設定

実務で見落としやすいのが、Azure Portalでは作成できても、Bicep、ARMテンプレート、Terraform、Azure Policyでブロックされるケースです。

特に次の設定は確認してください。

  • 許可リージョンのリストに新リージョンが含まれているか
  • Premium_ZRSやPremium_LRSの指定が環境別に正しいか
  • タグ付けルールが新リージョン用リソースにも適用されるか
  • DR用リソースグループやVNetの命名規則に新リージョンが反映されているか
  • 監視、アラート、バックアップジョブがリージョン固定の条件で書かれていないか

BicepやTerraformでリージョンを変数化している場合、単にlocationを追加するだけでは不十分です。SKU、容量、ネットワーク、Private Endpoint、診断設定、ロール割り当てまで同じテンプレートで通るかを確認しましょう。

ネットワーク設計ではPrivate Endpointを優先して検討する

Elastic SANでは、ネットワーク接続方式が可用性にも影響します。Microsoftの信頼性ドキュメントでは、ZRS Elastic SANに接続する場合、Private Endpointは自動フェールオーバーをサポートする一方、Service Endpointでは手動対応が必要になる可能性があると説明されています。(Microsoft Learn)

本番環境で新リージョンを採用する場合は、次の順番で確認すると実装ミスを減らせます。

| 手順 | 確認内容 |
| -: | ——————————————- |
| 1 | 対象リージョンにVNet、Subnet、Private Endpointを作成できるか |
| 2 | ワークロードのVM、AKS、AVSなどと同一リージョンまたは適切な接続経路にあるか |
| 3 | DNS解決がPrivate Endpoint向けに正しく構成されているか |
| 4 | iSCSI接続の再接続、タイムアウト、MPIO設定を検証する |
| 5 | ゾーン障害や接続断を想定した運用手順を作る |

「ZRSにしたから可用性は十分」と考えるのは危険です。ZRSはストレージのゾーン耐性を高めますが、アプリケーション、ネットワーク、認証、監視、バックアップが単一障害点になっていると、全体の可用性は上がりません。

性能と容量はリージョン追加後に必ず再評価する

Elastic SANでは、容量の増やし方によって性能への影響が変わります。Microsoft Learnでは、ベース容量を増やすとIOPSとスループットも増える一方、追加容量を増やしても合計容量だけが増え、IOPSやスループットは増えないと説明されています。(Microsoft Learn)

そのため、新リージョンに移す場合は、単に「同じTiB数を用意する」だけでは不十分です。次の観点でサイジングをやり直してください。

  • 現在のピークIOPS
  • 現在のピークスループット
  • 平均レイテンシと許容レイテンシ
  • 書き込み比率
  • ZRS選択時の書き込み遅延影響
  • 将来6〜12か月の容量増加見込み
  • 複数ボリューム間で性能をどう共有するか

特にZRSは、データを複数の可用性ゾーンへ同期的に書き込むため、LRSと同じ性能感で使えるとは限りません。データベース、ログ基盤、VDI、分析処理のように書き込みが多いワークロードでは、本番移行前に小さなPoCを作り、実データに近い負荷で検証しましょう。

移行準備で失敗しやすいポイント

今回のようなリージョン追加で最も多い失敗は、「新しいリージョンが使える」と「既存環境を簡単に移せる」を混同することです。

Elastic SANの移行では、既存ボリュームをそのまま別リージョンへドラッグして移すような考え方はできません。スナップショット、マネージドディスクスナップショット、再作成、アプリケーションの切り替えを含む移行計画が必要です。

Microsoftのスナップショットドキュメントでは、Elastic SANボリュームのスナップショットは増分のポイントインタイムバックアップであり、スナップショットはSANの容量を消費します。また、ボリューム削除後もデータを保持したい場合は、マネージドディスクスナップショットへエクスポートする必要があります。(Microsoft Learn)

移行計画では、次の点を事前に決めておきます。

項目決める内容
移行方式新規作成、スナップショット利用、アプリ側レプリケーション
停止時間完全停止、短時間停止、段階移行
データ整合性ファイル整合性、アプリケーション整合性
ロールバック旧リージョンへ戻す条件と手順
DNS・接続先iSCSI接続先やアプリ設定の切り替え方法
監視新旧リージョン両方のメトリック確認
コスト移行中の二重稼働、スナップショット容量、ZRS差額

特にデータベースや業務アプリケーションでは、スナップショット取得前に書き込みを止める、保留中の書き込みをフラッシュする、複数ボリュームの整合性を取るといった作業が重要です。手順を曖昧にしたまま移行すると、起動はできてもデータ不整合が後から発覚することがあります。

DR設計では「ZRSだけで十分」と考えない

ZRSは可用性ゾーン障害への耐性を高める仕組みですが、リージョン全体の障害に対する自動的なクロスリージョンフェールオーバーを提供するものではありません。Microsoftの信頼性ドキュメントでも、Azure Elastic SANは単一リージョンサービスであり、リージョンが利用できなくなるとElastic SANリソースも利用できなくなるため、リージョンレベルの回復性が必要な場合はユーザー側でマルチリージョンDRを設計する必要があると説明されています。(Microsoft Learn)

新しく追加されたリージョンをDR候補にする場合は、次のように役割を分けて考えると整理しやすくなります。

目的推奨される考え方
ゾーン障害対策同一リージョン内でZRSを選ぶ
リージョン障害対策別リージョンに復旧先Elastic SANを準備する
データ保護スナップショットを定期取得し、必要に応じて別リージョンへコピーする
RPO短縮スナップショット頻度やアプリ側レプリケーションを検討する
RTO短縮復旧先リージョンにネットワーク、権限、テンプレートを事前準備する

たとえば、Spain Centralを本番リージョンにするなら、DR候補としてWest EuropeやNorth Europeなどを比較します。Qatar Centralを本番候補にする場合も、UAE Northや他の利用可能リージョンとの距離、法規制、ネットワーク経路を見て判断します。

開発者・管理者・意思決定者ごとのアクション

今回の更新は、立場によって見るべきポイントが異なります。

立場取るべきアクション
開発者アプリの接続先、レイテンシ許容値、再接続処理、タイムアウト設定を確認する
クラウド管理者SKU、クォータ、Azure Policy、Private Endpoint、監視設定を確認する
ソリューションアーキテクトLRS/ZRS、リージョン選定、DR、移行方式を設計に反映する
技術意思決定者コスト、規制要件、事業継続性、グローバル展開計画と照合する

最初にやるべきことは、更新されたリージョン一覧を眺めることではありません。自社のワークロード一覧を作り、「どのシステムが新リージョン追加の恩恵を受けるか」を仕分けることです。

まず行うべき確認手順

実務では、次の順番で進めると判断が早くなります。

| 手順 | 作業 | 完了条件 |
| -: | ——————————— | ————————- |
| 1 | 公式コミットとMicrosoft Learnのリージョン一覧を確認 | 追加リージョンとLRS/ZRS対応を把握 |
| 2 | Azure CLIまたはPortalでSKU可用性を確認 | 自社サブスクリプションで候補リージョンが見える |
| 3 | Azure PolicyとIaCの許可リージョンを確認 | デプロイがブロックされない |
| 4 | 小規模PoCを作成 | 作成、接続、性能測定が通る |
| 5 | LRS/ZRSの比較 | コスト、レイテンシ、可用性の判断材料が揃う |
| 6 | 移行・DR手順を作成 | RPO/RTO、ロールバック、監視が定義されている |
| 7 | 本番採用を判断 | 技術要件とビジネス要件の両方を満たす |

今回の「Add new regions to elastic-san-regions.md」は、Azure Elastic SANの利用可能リージョンが広がったことを示す重要な更新です。ただし、実務での価値は「新しいリージョン名を知ること」ではなく、「自社のワークロードをどこに、どの冗長性で、どの復旧設計で置くべきか」を見直すことにあります。

まずは候補リージョンでSKUと作成可否を確認し、次にLRS/ZRS、ネットワーク、性能、DRを評価してください。そのうえで、新規システムには新リージョンを積極的に検討し、既存本番環境の移行はPoCとロールバック手順を用意してから進めるのが安全です。

この記事を書いた人

実務の現場で詰まりがちなポイントを地図にするITブログ「IT trip」を運営。Windows/Office(Teams・Excel)からSQL、サーバ運用、ガジェットまで、再現性のある手順と“なぜそうなるか”を丁寧に解説します。読んだらすぐ試せること、そして迷った人の次の一歩が見えることを大切にしています。

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