Azure VPN Gateway / ExpressRoute Gateway をレガシー SKU から新しい SKU(可用性ゾーン対応)へ移行する時、「静的割り当てのパブリック IP は本当に維持できるのか?」は運用・接続設計の核心です。本記事では、VPN と ExpressRoute それぞれの挙動差、IP が変わる条件、Basic Public IP 廃止に向けた現実的な進め方をまとめます。
結論:静的でも「変わる」と「変わらない」がある
先に結論だけ整理すると、Public IP が「静的割り当て」でも、移行方式によって IP の扱いが分かれます。
- VPN Gatewayは、SKU アップグレードやポータルの移行機能で済む場合、Public IP を維持できるケースが多い。
- 一方で、削除→再作成が必須になる移行(代表例:旧レガシー SKU から新 SKU へ)では、静的でも Public IP は変わる。
- ExpressRoute Gatewayのガイド付き移行は、新しいゲートウェイを並行作成して切り替える方式のため、Public IP は新規割り当てになりやすい(=変わる前提で計画する)。
まず整理:ゲートウェイ SKU と Public IP SKU は別レイヤー
混乱の原因になりやすいのが、「ゲートウェイの SKU」と「Public IP の SKU(Basic/Standard)」が別物だという点です。ゲートウェイの SKU を変えても、Public IP の SKU を放置していると、廃止・非推奨の影響を受けます。
| 項目 | 何を表す? | 移行時に効いてくるポイント |
|---|---|---|
| ゲートウェイ SKU(例:VpnGw1 / VpnGw1AZ / Standard / ErGw1Az など) | ゲートウェイの性能・冗長性(AZ 対応など) | 「アップグレードで済むか」「再作成が必要か」で Public IP の扱いが変わる |
| Public IP の SKU(Basic / Standard) | Public IP リソースの機能・可用性・セキュリティモデル | Basic の廃止(Retire/Deprecate)により、同じ IP を使い続けたいなら早期に Standard 化が重要 |
VPN Gateway:SKU 変更・AZ 対応で Public IP はどうなる?
VPN Gateway は「移行方式」が複数あり、ここを取り違えると “静的なのに IP が変わった” が起きます。以下の表で、現場で遭遇しやすいパターンを整理します。
| 変更パターン | Public IP は変わる? | ダウンタイム目安 | 運用上の要点 |
|---|---|---|---|
| 同系列の SKU アップグレード(例:VpnGw1 → VpnGw2 など) | 変わらない | 約 45 分(目安) | オンプレ側の IP 変更は不要。ウィンドウ確保と再接続確認を実施 |
| 同 tier で非 AZ → AZ(例:VpnGw1 → VpnGw1AZ) | 変わらない | 原則なし(同 tier の AZ 切替はダウンタイムなしの扱い) | 「AZ SKU =必ず作り直し」と決めつけない。アップグレード対象か確認 |
| Basic Public IP → Standard Public IP(ポータルの移行機能を利用) | 変わらない | 最大 10 分程度(顧客操作の移行) | 要件(GatewaySubnet の空き IP など)を満たすと IP 維持しやすい |
| レガシー SKU(Standard / High Performance)→ 新 SKU(VpnGw1AZ 等) | 変わる | 削除→再作成のため停止 | 同じ Public IP オブジェクトを指定しても IP が変わる挙動が明記されている |
| VPN Gateway Basic SKU → 他 SKU | 変わる | 削除→再作成のため停止 | Basic Gateway SKU はアップグレード不可(作り直し前提) |
「AZ SKU にすると必ず IP が変わる」は、今は正しくないケースがある
古い情報では「AZ SKU へ移行すると再作成されるので Public IP は変わる」と説明されがちですが、VPN Gateway の新しい運用では、アップグレードで AZ SKU へ切り替えできる経路が明示されており、その場合は Public IP は変わらない扱いです(例:VpnGw1 → VpnGw1AZ)。
逆に、レガシー SKU(Standard / High Performance)から新 SKU へ「変更」する場合は、削除→再作成が必要であり、さらに同じ Public IP リソースを指定しても IP は変わると明記されています。ここが “静的なのに変わった” 事故の典型です。
VPN Gateway:非 AZ SKU(VpnGw1-5)から AZ SKU への流れと、作成制限・自動移行の考え方
VpnGw1-5 の非 AZ SKU は、冗長性の観点から AZ SKU へ寄せる方針が明確になっています。重要なのは「いつまでに何が起きるか」を把握し、IP 維持が必要なら先に手を打つことです。
- 非 AZ の VpnGw1-5 は、新規作成が 2025 年 11 月 1 日以降できなくなる旨が案内されています。
- 2025 年 9 月~2026 年 9 月の期間に、既存の非 AZ ゲートウェイは AZ SKU へ移行され得る(目標は 2026 年 9 月 16 日)。
- Standard Public IP を使っている非 AZ SKU の AZ 移行は、ダウンタイムなしが想定と記載されています。
VPN Gateway:Basic Public IP を「同一 IP のまま」Standard 化する実務ポイント
「Public IP を変えたくない」場合、最優先で検討したいのがVPN Gateway 向けの Basic→Standard 移行機能(ポータルの移行エクスペリエンス)です。通常の Public IP 単体アップグレードは “リソース未関連付け” が条件になりがちですが、VPN Gateway は関連付け解除が難しいため、専用の移行導線が用意されています。
- VPN Gateway の Basic Public IP 移行は、移行エクスペリエンスを使うことでゲートウェイ IP が変わらない前提で設計されています。
- 一方、手動で削除→再作成を選ぶと、結果としてIP が変わる可能性が高く、オンプレ機器の再設定が必須になります。
- 移行中は最大 10 分程度のダウンタイムが見込まれる点は、変更管理に組み込んでおくべきです。
移行の前提条件でよく詰まるポイント(GatewaySubnet)
VPN Gateway の Basic→Standard 移行(ポータル移行)は、事前チェックに通るかどうかで勝負が決まります。特に GatewaySubnet です。
- 移行エクスペリエンスの前提として、GatewaySubnet に最低 3 つの空き IPが必要(不足時はサブネット拡張が必要)。
- 既存が /28 などで窮屈な場合は、/27 以上へ拡張(もしくは追加プレフィックス)を検討します。
Azure ポータル上で「Migrate(移行)」タブが出るかどうかは環境差があるため、まずはゲートウェイの Configuration で移行 UI の有無を確認し、表示されない場合は(機能ロールアウトや条件未達の可能性があるので)別経路の計画が必要です。
ケーススタディ:VpnGw1(non-AZ)+ Basic Public IP の本番環境を「IP維持」で守る
ここでは、質問で挙がっている構成を “現場のあるある” として扱い、判断の勘所を具体化します。
| 要素 | 例 | リスク/論点 |
|---|---|---|
| VPN Gateway 名 | prod-vpn-gateway | オンプレ側がこの Public IP を対向先として参照している可能性が高い |
| ゲートウェイ SKU | VpnGw1(non-AZ) | AZ SKU へ集約される流れ。作成制限・移行期間の影響を受ける |
| Public IP | vpn-gateway-ip(Basic / Static) | Basic IP の廃止・非推奨の影響を受ける。IP維持には移行経路が鍵 |
推奨アプローチ(IP を変えたくない場合)
IP 維持を最優先にするなら、考え方はシンプルです。「削除→再作成」に落ちないルートを選びます。
- まず Public IP を Standard 化する(可能なら移行エクスペリエンス)
- VPN Gateway の移行機能を使えるなら、そのルートが “IP維持” の王道です。
- GatewaySubnet の空き IP やサイズ要件を先に潰します(ここを後回しにすると当日詰みます)。
- 次に SKU を AZ へ(アップグレードで済むならアップグレードで)
- 同 tier の非 AZ → AZ(例:VpnGw1 → VpnGw1AZ)は、ダウンタイムなし・Public IP 不変の扱いが明記されています。
- 非 AZ SKU の自動移行が走る期間があるため、手動で先回りする場合は “何を目的に先回りするのか(性能UPなのか、期限回避なのか)” を決めて実施します。
- 移行後の検証(ここが抜けると結局障害になる)
- S2S:IKE/IPsec トンネル状態、BGP(使用している場合)の再収束、スループットとパケットロス
- P2S:クライアント配布方式(証明書/Entra ID など)ごとの再接続
- 監視:ゲートウェイのメトリック、ログ、アラートの継続性
運用メモ:最低限ここだけは “事前に見える化” しておく
当日バタつきがちなため、移行前に「現状の SKU と Public IP の紐づき」をコマンドで残しておくと、関係者説明が一気に楽になります。
az network vnet-gateway show -g <RG> -n <VPNGW_NAME> \
--query "{gatewayType:gatewayType,sku:sku.name,ip:ipConfigurations[].publicIPAddress.id}" -o json
この “before/after” を残しておくと、IP が変わっていないことの証跡にも、変わってしまった時の調査の入口にもなります。
VPN Gateway の Basic Public IP 廃止:いま押さえるべき期限感
Basic Public IP 自体は 2025 年 9 月 30 日に Retire とされつつも、実運用上は「サービスごとの移行猶予」「移行機能の提供状況」が絡みます。Microsoft Learn のガイダンスでは、Retire 後も Basic IP を使い続けることは可能だが非サポート(SLA 対象外)になる点が明記されています。
VPN Gateway に関しては、移行ツール提供と合わせて廃止時期が延長され、少なくとも2026 年 3 月末までの延長が示されています(ただし “タイムラインは変更され得る” 旨の注記もあります)。
| テーマ | 主な日付(目安) | 何が起きる? | 推奨アクション |
|---|---|---|---|
| Basic Public IP の全体方針 | 2025/09/30 | Retire とされ、以後は非サポート(SLA 外)になり得る | Standard 化を前提に移行計画を確定 |
| VPN Gateway の Basic IP(移行ツールあり) | ~2026 年 3 月末(目安) | VPN 向け Basic→Standard 移行を進めるための猶予が示されている | IP 維持が必要なら、ポータル移行エクスペリエンスを優先検討 |
| VpnGw1-5(非 AZ)の新規作成制限 | 2025/11/01 | 非 AZ の VpnGw1-5 が新規作成不可 | 新規は AZ SKU を前提に設計 |
| 非 AZ → AZ への移行フェーズ | 2025/09~2026/09 | 既存ゲートウェイが AZ SKU へ移行され得る(目標日 2026/09/16) | Standard IP 化を先行し、移行後検証を手順化 |
ExpressRoute Gateway:Public IP の考え方が VPN と根本的に違う
ExpressRoute Gateway の Public IP は、VPN のように “対向機器が叩くエンドポイント” ではありません。Microsoft の説明では、Public IP はコントロールプレーン用途(内部用途)として言及されることが多く、データパスはあくまでプライベートに流れます。
さらに近年は、ExpressRoute ゲートウェイの Public IP を “ユーザーが管理するリソース” として扱わない方向へ進んでおり、Microsoft が Public IP をバックエンドで自動割り当て・管理する(Auto-assigned public IP)という記載も追加されています。これにより、作成・運用の手間は減りますが、運用側は「Public IP を固定資産として扱う」発想を捨てる必要が出てきます。
ExpressRoute Gateway の移行:なぜ IP が変わる前提になるのか
ExpressRoute のガイド付き移行は、仕組みとして “置き換え” です。ドキュメントでは、移行ツールが2 台目のゲートウェイをデプロイし、そこへ新しい Public IP が自動割り当てされることが明記されています。つまり、同じ Public IP を握り続ける設計ではないのが前提です。
また、ExpressRoute 側では Basic Public IP の retirement(2025/09/30)が明記されており、Basic を使っている構成は早急な移行が必要です(現時点ではすでに期限を過ぎているため、動いていても “未対応のまま温存” は避けるべきです)。
ExpressRoute ガイド付き移行の流れ(現場目線の要点)
| フェーズ | 何が起きる? | 影響 | 現場の注意点 |
|---|---|---|---|
| Validation | 移行要件(GatewaySubnet など)をチェック | 影響なし | /27 以上のサブネットなど、ネットワーク設計が原因で落ちやすい |
| Prepare | 2 台目のゲートウェイを作成し、並行稼働の準備 | 最大 45 分程度かかり得る | “時間がかかる=止まっている” ではない。進捗監視と説明が重要 |
| Migrate | 切り替え。新ゲートウェイへ移行 | 最大 15 分程度の停止があり得る | Private Endpoint など影響が出やすい通信は事前周知と停止計画が有効 |
| Commit | 旧ゲートウェイを削除し、新構成を確定 | 最終確定 | Commit を最大 15 日保留できるため、検証と承認のために使える |
「Public IP が変わる」ことで実際に困るのはどこ?
ExpressRoute はデータパスがプライベートなので、VPN のように “対向装置の接続先 IP を書き換える” 事故は起きにくい一方、次のような運用があると影響が出ます。
- 監視・棚卸しが Public IP リソース(または Public IP の表示値)に依存している
- 運用バッチや IaC が「Public IP リソースを前提」にしている(Auto-assigned 化で見え方が変わる)
- セキュリティ運用で “ゲートウェイの Public IP” を許可リスト的に扱ってしまっている(実態はコントロールプレーン用途)
このため ExpressRoute では、移行前に「誰が何のためにその IP を参照しているか」を棚卸しし、参照を “ゲートウェイリソース” 側へ寄せるのが安全です。
VPN と ExpressRoute:変更影響の比較(現場での“面倒さ”はここが違う)
| 観点 | VPN Gateway | ExpressRoute Gateway |
|---|---|---|
| Public IP の役割 | インターネット越しの VPN エンドポイント(対向装置が参照) | 主にコントロールプレーン用途(データはプライベート) |
| IP が変わると致命傷? | なりやすい(対向装置・FW・NAT・許可設定が連鎖) | なりにくい(ただし運用・監視・IaC の参照があると影響) |
| IP を維持する現実的手段 | アップグレード or Basic→Standard 移行エクスペリエンス | 移行ツールが新 IP を割り当てるため、基本は “変わる前提” で運用設計を見直す |
| ダウンタイムの出方 | SKU により 0~45 分+(移行ツールは最大 10 分程度の記載) | Prepare に時間がかかり、切替(Migrate)で最大 15 分程度の停止があり得る |
実務チェックリスト:失敗しないための準備と検証
共通(VPN/ExpressRoute 共通)
- 現状棚卸し:ゲートウェイ SKU / Public IP SKU / GatewaySubnet のサイズと空き / 監視・IaC の依存先
- 変更管理:影響範囲、切替手順、ロールバック/ロールフォワード方針、連絡網
- 事前検証:可能なら検証環境で同じ移行を一度やる(特に ExpressRoute は手順が長い)
VPN Gateway(IP維持を狙う場合)
- Public IP が Basic の場合:ポータルの移行エクスペリエンスが使えるか確認(Configuration 画面)
- GatewaySubnet の空き IP(最低 3)を確保/不足なら拡張
- 移行後:S2S トンネル、BGP、P2S の再接続、スループット、ログ/メトリックの継続性を確認
ExpressRoute Gateway(移行後の“見え方”変更に備える)
- GatewaySubnet は /27 以上を推奨(移行要件として言及がある)
- 切替時の停止(最大 15 分程度)を前提に、Private Endpoint など影響の出やすい通信を事前に周知・抑制
- Auto-assigned public IP の記載があるため、移行後は「Public IP リソース前提」の運用をやめ、ゲートウェイリソース中心の監視へ寄せる
よくある落とし穴と回避策
落とし穴: “静的 IP だから絶対変わらない” と信じてしまう
静的は “その Public IP リソース内では固定” という意味であって、移行方式が削除→再作成に落ちれば別 IP になる可能性があります。レガシー SKU から新 SKU へ切り替えるケースでは、同じ Public IP を指定しても IP が変わる旨が明記されています。
落とし穴: GatewaySubnet を放置して当日 Validation で落ちる
VPN も ExpressRoute も、移行は “サブネット設計” に強く依存します。/27 以上の推奨や空き IP の要件に早めに着手し、当日はゲートウェイ側の作業に集中できる状態にしておくのが安定です。
落とし穴: ExpressRoute の Public IP を許可リスト運用している
ExpressRoute の Public IP は内部用途として語られることが多く、さらに自動割り当て・Microsoft 管理の方向へ進んでいます。特定 IP を “固定資産” として許可リストに組み込む運用は、長期的に破綻しやすいので、参照点を「ゲートウェイリソース」「回線・BGP・ルートの健全性」に寄せるのが安全です。
まとめ:期限対策は「Public IP を守る」より「変わっても困らない運用」を作る
VPN Gateway は、移行方式を正しく選べば Public IP を維持できる余地があります(アップグレード、または Basic→Standard 移行エクスペリエンス)。一方、ExpressRoute Gateway は新ゲートウェイへの置き換えが前提になりやすく、Public IP を固定資産として扱う発想を捨てた方が安全です。どちらも共通して言えるのは、Basic Public IP 廃止の流れの中で「いま動いているから放置」ではなく、手順化・検証・監視の見直しまで含めて移行を完了させることが、最終的に運用コストと障害リスクを下げます。

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