Azure Databricks の Supervisor API (Beta) は、モデル・ツール・指示を1回のAPIリクエストで渡すと、モデル呼び出しやツール実行、最終回答の生成までをAzure Databricksが処理する機能です。
2026年6月17日更新時点では、既存環境へ自動適用される変更ではありません。Beta機能として管理者が明示的に有効化する必要があり、正式な移行期限やGA日程も案内されていません。一般ユーザーがすぐ対応する必要はありませんが、AIエージェントの開発者と管理者は、対応リージョン、Unity Catalog、権限、料金の確認が必要です。(Microsoft Learn)
2026年6月17日版のSupervisor APIで確認すべき変更点
Supervisor API自体は、2026年4月20日にBeta機能としてリリースノートへ掲載されました。2026年6月17日は公式リファレンスの最終更新日であり、この日から全ユーザーへ強制適用されたわけではありません。(Microsoft Learn)
また、2026年6月3日には、公開Webの情報を検索するweb_searchツールへの対応が追加されています。6月17日版のドキュメントでは、こうした追加機能を含む現在の対応範囲や制限事項を確認できます。(Microsoft Learn)
| 確認項目 | 2026年6月17日時点の内容 |
|---|---|
| 提供状態 | Beta。原則として初期状態は無効 |
| 主な対象者 | AIエージェント開発者、Azure Databricks管理者、セキュリティ担当者 |
| API | OpenResponses互換のPOST /ai-gateway/mlflow/v1/responses |
| 主な変更 | エージェントループをAzure Databricks側で実行可能 |
| 長時間処理 | バックグラウンドモードに対応 |
| 既存環境への影響 | 自動更新や強制移行ではない |
| 移行期限 | 公式情報に記載なし |
| 料金 | Unity AI GatewayのBeta機能自体は追加料金なし。ただしモデル推論などは別途課金対象 |
| 本番利用 | Betaのため、原則として検証用途向け |
Supervisor APIとは
従来のツール呼び出し型AIエージェントでは、アプリケーション側に次のような処理を実装する必要がありました。
- ユーザーの入力をモデルへ送る
- モデルが利用するツールを選ぶ
- アプリケーションがツールを実行する
- 実行結果を再びモデルへ渡す
- 必要に応じて処理を繰り返す
- 最終回答を生成する
Supervisor APIを利用すると、モデル、ツール、指示をリクエストへ指定するだけで、この一連のエージェントループをAzure Databricksが代行します。開発者は、ツール選択や再実行を制御する定型コードを減らし、アプリケーション固有の処理へ集中できます。(Microsoft Learn)
Azure Databricksでエージェントを作る3つの方法
| 方法 | 適しているケース | 制御範囲 |
|---|---|---|
| Agent Bricks Supervisor Agent | 宣言的に構築し、専門家のフィードバックで品質を改善したい | Azure Databricks側の管理が中心 |
| Supervisor API | リクエストごとにモデルやツールを選びつつ、エージェントループは任せたい | 中程度 |
| Unity AI Gatewayの統合API・ネイティブAPI | ツール実行や状態管理を含むループ全体を独自実装したい | 高い |
Supervisor APIは、完全なノーコード機能ではありません。一方、エージェントループをすべて自作する方法よりも実装量を抑えられるため、「プログラムから柔軟に設定したいが、オーケストレーション処理は管理したくない」というケースに向いています。(Microsoft Learn)
Azureで何ができるようになるのか
多様なツールを1つのリクエストから利用できる
Supervisor APIでは、tools配列へ利用可能なツールを定義します。2026年6月17日版では、主に次のツールが案内されています。
- Genie Spaces
- AI/BIダッシュボード
- Unity Catalog関数・テーブル・ボリューム
- Knowledge Assistant
- Model Servingエンドポイント
- AI Searchのインデックス
- Databricks Apps
- MCPサーバーやUnity Catalog接続
- Web検索
- サンドボックス
- クライアント側で実行する独自関数
モデルがユーザーの依頼を解析し、必要なツールを選択して実行します。たとえば、顧客レビューをGenie Spaceで分析し、緊急度の高いレビューだけをUnity Catalog関数で登録する、といった複数ステップの処理を構築できます。(Microsoft Learn)
Google DriveやGitHubなどと接続できる
システム管理接続を利用すると、Google Drive、GitHub、Atlassian、SharePoint、Gleanなどの外部サービスをツールとして追加できます。
ユーザー単位の認証を利用する場合、初回リクエストではOAuth認証を求めるエラーが返ることがあります。表示されたログインURLで認証を完了した後、同じリクエストを再実行する必要があります。外部サービスとの接続を導入する際は、この認証フローをアプリケーション側で扱えるようにしてください。(Microsoft Learn)
長時間処理をバックグラウンドで実行できる
background=Trueを指定すると、処理の完了を同期的に待たず、レスポンスIDを受け取れます。その後、responses.retrieve()を使ってステータスを確認します。
複数のデータソースを検索する調査エージェントや、複数ツールを順番に呼び出す処理に適しています。ただし、バックグラウンド処理の実行時間は最大30分です。レスポンスは最大30日間保持されます。(Microsoft Learn)
エージェントループのトレースを保存できる
trace_destinationへカタログ名、スキーマ名、テーブルのプレフィックスを指定すると、モデル呼び出しやツール実行の流れをUnity Catalogテーブルへ記録できます。
指定しなければトレースは保存されません。検証時だけでなく、回答品質の分析、ツール選択の誤りの調査、監査対応にも役立つため、業務利用を想定する場合は早い段階で保存先を設計しておくとよいでしょう。(Microsoft Learn)
誰に影響するのか
AIエージェントの開発者
最も影響が大きいのは、独自のエージェントループを実装している開発者です。
現在のコードが「モデルを呼ぶ」「ツール呼び出しを判定する」「結果をモデルへ戻す」という定型処理に偏っている場合、Supervisor APIへ置き換えることでコードを大幅に簡略化できる可能性があります。
Azure Databricksの管理者
管理者は、Beta機能の有効化に加えて、次の項目を確認する必要があります。
- Supervisor APIとUnity AI Gatewayのプレビュー設定
- 利用するワークスペースのリージョン
- Unity Catalogの有効化状況
- モデルとツールに対する権限
- 外部コネクターの利用可否
- レート制限やフォールバックの設定
- トレースの保存先と閲覧権限
セキュリティ・コンプライアンス担当者
Web検索や外部MCPサーバー、第三者サービスとの接続を使う場合、入力データがどこへ送られるかを確認する必要があります。
web_searchは、HIPAA/BAAコンプライアンスが有効なワークスペースでは利用できません。また、対応モデルやクロスジオ処理の設定によっても利用可否が変わります。(Microsoft Learn)
一般ユーザー
通常のNotebook、SQL、ジョブなどを利用しているだけであれば、直接的な変更はありません。管理者が機能を有効化し、Supervisor APIを利用するアプリやエージェントを導入した場合に初めて影響します。
Supervisor APIを有効化する前の確認手順
プレビュー設定を確認する
Beta機能は通常、初期状態で無効です。
アカウント管理者はAzure Databricksのアカウントコンソールを開き、サイドバーの「Previews」からアカウント単位の機能を確認します。ワークスペース単位の機能は、ワークスペース管理者がユーザーメニューから「Previews」を開いて確認します。(Microsoft Learn)
Supervisor APIでは、少なくとも次の関連機能が必要です。
- Unity AI Gateway for agents and LLMs
- Unity CatalogへのOpenTelemetryトレース保存
- Supervisor APIのBeta機能
プレビューによって管理単位が異なるため、アカウントコンソールとワークスペースの両方を確認してください。
対応リージョンを確認する
Supervisor APIは、対応リージョンにあるワークスペースでのみ利用できます。
日本東部を含め、Custom Agents、Supervisor Agent、Unity CatalogへのMLflowトレースは、それぞれ対応状況が異なります。クロスジオルーティングを有効にした場合だけ利用できる機能もあるため、「Azure Databricksが利用できるリージョンだからSupervisor APIも使える」とは限りません。公式のリージョン対応表と、実際のPreviews画面を併せて確認してください。(Microsoft Learn)
Unity Catalogと権限を確認する
ワークスペースではUnity Catalogが有効である必要があります。
さらに、Supervisor APIへ指定するテーブル、関数、Genie Space、AI Searchインデックス、MCPサーバーなどは、事前に作成され、APIを実行するユーザーまたはサービスプリンシパルからアクセスできなければなりません。
ツール名を正しく指定していても、基になるデータや関数への権限がなければ処理は失敗します。開発者の個人権限だけで検証せず、本番実行に使うIDでテストすることが重要です。(Microsoft Learn)
Pythonパッケージを導入して最小構成で試す
Pythonから利用する場合は、databricks-openaiパッケージをインストールします。
pip install databricks-openai
最初はツールを追加せず、1回のモデル呼び出しが成功することを確認します。
from databricks_openai import DatabricksOpenAI
client = DatabricksOpenAI(use_ai_gateway=True)
response = client.responses.create(
model="databricks-claude-sonnet-4-5",
input=[
{
"type": "message",
"role": "user",
"content": "Azure Databricksの特徴を簡潔に説明してください。"
}
],
stream=False
)
print(response.output_text)
モデルIDは変更される可能性があります。実装時には、公式ページに掲載されている最新の対応モデルを選択してください。(Microsoft Learn)
既存エージェントから移行すべきか
Supervisor APIへの強制移行は案内されていません。既存のUnity AI Gateway統合APIや各モデルプロバイダーのネイティブAPIも引き続き選択肢として整理されています。(Microsoft Learn)
移行を検討しやすいケース
次の条件に当てはまる場合は、Supervisor APIとの相性がよいでしょう。
- エージェントループのコードを減らしたい
- リクエストごとにモデルを切り替えたい
- 利用可能なツールを動的に変更したい
- Genie SpaceやUnity Catalog関数を中心に構成したい
- 長時間処理をバックグラウンドで実行したい
- モデル呼び出しとツール実行のトレースをまとめて残したい
既存実装を維持したほうがよいケース
次の要件がある場合は、独自のエージェントループを維持したほうが柔軟です。
- ツール呼び出しの間に複雑なPython処理を挟みたい
- 独自の分岐やワークフロー制御が必要
- 厳密な会話状態や永続的な実行状態を管理したい
temperatureなどの推論パラメーターを制御したい- ストリーミング内容を細かく制御したい
- 障害時の自動復旧やExactly Once実行が必要
Supervisor APIは会話状態をリクエスト間で保持しません。クライアント側関数を使う場合も、関数呼び出しを受け取り、アプリ側で実行し、履歴と実行結果を付けて再度APIを呼ぶ必要があります。(Microsoft Learn)
安全な移行手順
本番コードを一度に置き換えるのではなく、次の順番で進めると安全です。
- 現在のエージェントループで実行している処理を一覧化する
- 各ツールをSupervisor APIの対応ツールへ割り当てる
- 会話履歴とアプリ固有の状態を外部へ分離する
- 同一プロンプトで現行版とSupervisor API版を比較する
- 回答精度、実行時間、ツール呼び出し回数、料金を測定する
- 問題があれば現行版へ戻せる構成で段階的に切り替える
料金はどう変わるのか
2026年6月17日時点で、Supervisor API単体の追加料金は公式リファレンスに明記されていません。Unity AI Gatewayの各機能については、Beta期間中は追加料金が発生しないと案内されています。(Microsoft Learn)
ただし、無料になるのはGateway機能そのものです。Supervisor APIから呼び出すモデル推論や、関連するAzure Databricksサービスまで無料になるわけではありません。
Foundation Model APIsには、主に従量課金のPay-per-tokenと、処理能力を確保するProvisioned throughputがあります。利用するモデル、入力・出力トークン数、ツールの実行内容によって費用が変わります。(Microsoft Learn)
概算時は、次の考え方が実用的です。
総コスト ≒ モデル推論費用 × エージェントループ回数 + ツール側の処理費用
Supervisor APIでは、1件のユーザー入力から複数回モデルを呼び出す場合があります。そのため、単純な1往復のチャットAPIよりもトークン消費量が増える可能性があります。
また、Supervisor APIではBeta期間中、Unity AI Gatewayのusage trackingがサポートされていません。検証時はAPIの利用量表示だけに頼らず、請求情報、Model Servingのコスト、ツール側の利用量も確認してください。(Microsoft Learn)
期限とサポート範囲
2026年6月17日時点の公式情報には、次の期限は記載されていません。
- Supervisor APIへの移行期限
- Betaの終了日
- Public Previewへの移行日
- GAの提供日
- 既存APIの廃止日
一方、Beta機能は本番利用を想定した提供段階ではありません。SLAや正式サポートの対象外であり、予告なく変更または終了する可能性があります。重要な本番処理へ導入する場合は、組織内でリスクを承認し、代替経路を残しておく必要があります。(Microsoft Learn)
なお、バックグラウンドレスポンスの「最大30日保持」は、移行期限や廃止期限ではありません。取得が必要な結果は、アプリケーション側のデータストアへ保存してください。
利用モデルの廃止スケジュールもSupervisor APIとは別に管理されます。モデルIDをコードへ固定する場合は、Serving画面の警告とFoundation Model APIsのモデル廃止情報を定期的に確認しましょう。(Microsoft Learn)
導入時に失敗しやすいポイント
| 症状 | 主な原因と対処 |
|---|---|
| Previewsに機能が表示されない | 管理者権限、アカウント単位の有効化、リージョンを確認する |
| ツール呼び出しが失敗する | Unity Catalogや接続先サービスの権限を、本番実行IDで確認する |
| クライアント関数の結果が回答へ反映されない | 関数呼び出し、実行結果、元の履歴を含めて2回目のリクエストを送る |
| バックグラウンド処理をストリーミングできない | backgroundとstreamは同時に有効化できないため、IDをポーリングする |
| トレースが保存されない | trace_destinationが未指定、またはカタログ・スキーマ権限が不足している |
| MCPツールが途中で停止する | バックグラウンドモードではMCPツール実行前の明示的な承認が必要 |
| サンドボックスから外部APIへ接続できない | サンドボックスでは外向きインターネット通信が遮断される |
| Databricks Appsで認証エラーになる | Supervisor APIはOBO認証に未対応。システム認証とツール権限を設定する |
これらはコードの問題ではなく、Beta設定、認証、リージョン、権限が原因であることも少なくありません。APIリクエストを変更する前に、管理設定から確認すると切り分けやすくなります。(Microsoft Learn)
まず実施すべきこと
Supervisor APIは、Azure DatabricksでカスタムAIエージェントを構築する際の定型コードを減らせる一方、Beta特有の制限があります。
一般ユーザーは、現時点で対応する必要はありません。管理者と開発者は、まず検証用ワークスペースで次の項目を確認してください。
- Supervisor APIと関連プレビューを有効化できるか
- 利用リージョンがすべての必須機能へ対応しているか
- Unity Catalogとツール権限が設定されているか
- 現在のエージェントループを置き換えられるか
- 1リクエスト当たりのモデル呼び出し回数と費用が許容範囲か
- Betaの変更に備えたロールバック手段があるか
最初から複数ツールを組み込まず、単一モデル、単一ツール、固定プロンプトで動作と費用を測定するのが安全です。その結果を基に、Supervisor APIへ任せる範囲と、アプリケーション側に残す処理を決めましょう。

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