Azure Virtual WAN Overviewの変更点まとめ|2026年更新で管理者が確認すべき設定と移行ポイント

Azure Virtual WAN Overviewを確認する読者がまず押さえるべき結論は、Azure Virtual WANは「拠点、Azure仮想ネットワーク、ExpressRoute、リモートユーザーVPN、セキュリティ機能をVirtual Hub中心に集約する広域ネットワーク基盤」だという点です。2026年5月27日更新の公式情報では、基本概念そのものが別サービスに置き換わったわけではありませんが、運用上は Azure Virtual Network Manager連携、Connection Policy、強制トンネル、NVA関連、Linux向けAzure VPN Clientの廃止予定 を確認すべき段階に入っています。特に複数拠点・複数VNet・複数リージョンを扱う管理者は、ルーティング設計、P2S VPNクライアント、Basic/StandardのSKU、Virtual Hub容量を早めに棚卸ししておく必要があります。

目次

Azure Virtual WAN Overviewとは何か

Azure Virtual WANは、拠点間接続、サイト間VPN、リモートユーザーVPN、ExpressRoute、VNet間の推移的接続、Azure Firewall、ルーティングなどを一つの運用インターフェースで扱うためのAzureネットワークサービスです。Microsoft LearnのOverviewでは、SD-WANやVPN CPEなどのパートナーデバイスによるブランチ接続自動化、Site-to-Site VPN、Point-to-Site VPN、ExpressRoute、VNet間接続、ExpressRouteとVPNの相互接続、プライベート接続の暗号化などが主要機能として整理されています。(Microsoft Learn)

従来のAzureネットワーク設計では、各VNetにVPN Gatewayを置いたり、VNet PeeringやUDRを個別に組み合わせたりする構成がよく使われます。一方、Azure Virtual WANでは、各リージョンに配置する Virtual Hub を中心に、拠点、VNet、ExpressRoute、P2S VPNユーザーを接続します。Standard Virtual WANではハブ同士がフルメッシュで接続され、Microsoftのバックボーンを使ったany-to-any接続を構成しやすくなります。(Microsoft Learn)

つまりAzure Virtual WAN Overviewの読みどころは、「VPNを張るための単機能サービス」ではなく、グローバル規模のハブ&スポーク型ネットワークをAzure上で標準化・自動化するサービスとして理解することです。

2026年5月27日更新で注目すべき変更点

2026年5月27日に更新された公式の「What’s new in Azure Virtual WAN」では、Recent releases、Preview、Known issues、Deprecated functionalityが整理されています。管理者が特に確認すべきポイントは次の5つです。(Microsoft Learn)

注目点内容主な影響
Azure Virtual Network Manager連携Virtual WAN HubをAzure Virtual Network Managerのハブ&スポーク構成で利用できるPublic Preview大量のVNet接続やルーティング設定を一括管理しやすくなる
Connection Policy複数のVirtual Network Connectionに共通のルーティング設定を適用するPublic Preview個別設定のばらつきを減らせるが、Previewのため本番適用は慎重に判断
Forced Tunnelの拡張Azure Firewallに加え、Firewall NVAやSaaSソリューションでも強制トンネルが一般提供範囲として整理インターネット向け通信をセキュリティ製品経由に集約する設計で確認が必要
NVA/SD-WAN関連HPE Aruba Networking EdgeConnect SD-WANのGA、Aruba VMware SD-WANのリブランドなど利用中または新規導入予定のNVA・SD-WAN製品の対応状況を確認
Azure VPN Client for Linuxの廃止予定Linux向けAzure VPN Client Previewは2026年8月31日に廃止予定LinuxからP2S VPNを使うユーザーはOpenVPN clientやstrongSwanへの移行計画が必要

特に注意したいのは、これらがすべて「いますぐ全環境を変更しなければならない」という意味ではない点です。変更の中心は、既存のAzure Virtual WANの基本構成ではなく、運用自動化、ルーティング制御、セキュリティ経路、クライアント移行 にあります。

Azure Virtual WANが向いている環境

Azure Virtual WANは、すべてのAzure利用者に必須のサービスではありません。小規模な単一VNet構成や、単純なSite-to-Site VPNだけで十分な環境では、通常のVPN GatewayやVNet Peeringのほうが分かりやすい場合があります。

一方で、次のような環境ではAzure Virtual WANのメリットが出やすくなります。

利用シーンAzure Virtual WANが有効な理由
国内外に複数拠点がある拠点ごとのVPNやSD-WAN接続をVirtual Hub中心に集約できる
Azureリージョンを複数使っているStandard Virtual WANのハブ間接続により、リージョンをまたぐ接続を設計しやすい
VNet数が増え続けているHub-to-VNet接続やVirtual Network Manager連携でスポーク管理を標準化しやすい
ExpressRouteとVPNを併用しているExpressRoute、S2S VPN、P2S VPNを同じVirtual Hub設計に取り込める
セキュリティ検査を集中管理したいAzure Firewall、NVA、SaaS型セキュリティ製品をHubに配置する設計を取りやすい
SD-WAN製品とAzureを接続したいパートナー製品によるBranch IPsec接続自動化を利用できる場合がある

MicrosoftのOverviewでも、Virtual WANは最初からすべてのユースケースを満たす必要はなく、1つのユースケースから始めてネットワークの成長に合わせて調整できるとされています。(Microsoft Learn)

BasicとStandardの違いを先に確認する

Azure Virtual WANを設計するときは、最初にBasicとStandardの違いを確認します。ここを曖昧にしたまま構築すると、あとから「ExpressRouteをつなぎたい」「VNet間の推移接続を使いたい」「Azure FirewallをHubに置きたい」となったときに設計変更が必要になります。

Virtual WANタイプ主な用途利用できる構成
BasicシンプルなSite-to-Site VPN中心Site-to-Site VPNのみ
Standard複数接続・複数VNet・セキュリティ統合向けExpressRoute、P2S User VPN、S2S VPN、Hub間接続、VNet-to-VNet transit、Azure Firewall、Virtual WAN内NVA

BasicからStandardへのアップグレードは可能ですが、StandardからBasicへ戻すことはできません。Microsoft Learnのアップグレード手順でも、BasicからStandardに変更するとVirtual WAN内のすべてのHubがStandard Hubに更新され、元に戻せないことが明記されています。(Microsoft Learn)

実務では、次のように判断すると安全です。

小規模な検証や単純な拠点VPNだけならBasicも候補になります。ただし、将来的にExpressRoute、P2S VPN、Azure Firewall、複数VNetの推移接続、NVA連携を使う可能性があるなら、初期段階からStandardを前提に設計したほうが手戻りを減らせます。

Virtual Hub設計で確認すべきポイント

Azure Virtual WANの中心はVirtual Hubです。Virtual HubはMicrosoft管理の仮想ネットワークで、S2S VPN、P2S User VPN、ExpressRouteなどの接続エンドポイントを含みます。Virtual WANではオンプレミス拠点からVNetへ直接VPN接続するのではなく、Virtual Hub Gatewayを経由して通信します。(Microsoft Learn)

Hubのリージョン配置

Virtual Hubはリージョン単位で配置します。拠点、ユーザー、ワークロードの地理的な位置を考慮し、通信遅延、可用性、データ転送コスト、運用体制を踏まえてリージョンを選びます。

たとえば日本国内の利用者とAzure Japan East上のワークロードが中心なら、まずJapan EastにHubを置く構成が候補になります。海外拠点や海外リージョンのワークロードも多い場合は、各地域にHubを置き、Standard Virtual WANのハブ間接続を活用する設計を検討します。

Hubのアドレス空間

Virtual Hubのアドレス空間は作成後に変更できません。Microsoft Learnでは、最小は/24ですが、将来の拡張を考える場合は/23以上が推奨され、Azure FirewallをVirtual WAN内で使う場合は最大スループットへスケールするために少なくとも/22が必要とされています。(Microsoft Learn)

失敗しやすいのは、「とりあえず小さなアドレス空間で作る」ことです。後からAzure FirewallやNVAを追加する予定がある場合、Hubの再作成が必要になるリスクがあります。オンプレミス、他のVirtual Hub、接続予定のVNetとアドレスが重複しないよう、IPアドレス設計表を作ってから作成してください。

Hub容量とスケール

Virtual Hub Routerは、既定で2 Routing Infrastructure Unitsとして構成され、3Gbpsの集約スループットと2,000台の接続VMをサポートします。新規Hub作成時には追加のRouting Infrastructure Unitsを指定でき、1Gbps、1,000 VM単位で容量を増やせます。(Microsoft Learn)

ただし、オートスケールは即時ではありません。Microsoft Learnでは、Hub Routerのスケールアウトに最大25分かかる可能性や、Routing Infrastructure Units数に関係なく単一TCPフローが1.5Gbpsを超える場合に性能劣化が起きる可能性が示されています。(Microsoft Learn)

業務システムの移行や大容量バックアップをVirtual WAN経由で流す場合は、平均トラフィックだけでなく、ピーク時、夜間バッチ、DR同期、ファイル転送の単一フロー特性まで確認しましょう。

2026年時点で重要度が上がった運用自動化

2026年5月時点の更新で実務的に重要なのは、Azure Virtual WANが「個別に接続を作るサービス」から「多数の接続をポリシーで管理するサービス」へ寄っている点です。

Azure Virtual Network Manager連携

Azure Virtual Network ManagerとVirtual WANの連携はPublic Previewです。この連携により、Azure Virtual Network Managerのネットワークグループを使ってVNetを動的にグループ化し、Virtual WAN Hubへ接続する構成を展開できます。Microsoft Learnでは、このPreviewはSLAなしで提供され、本番ワークロードには推奨されないと説明されています。(Microsoft Learn)

実務上のメリットは、VNetが増えるたびに手作業でHub接続とルーティング設定を行う必要が減ることです。たとえば、開発環境、本番環境、リージョン別のネットワークグループを作り、それぞれに異なる接続ポリシーを段階的に適用できます。

ただし、Previewである以上、本番環境にそのまま全面展開するのは避けるべきです。まずは検証用サブスクリプションや影響範囲の小さいVNetグループで、接続作成、削除、再デプロイ、ルート反映、ロールバックを確認してください。

Connection Policy

Connection PolicyもPublic Previewです。複数のVirtual Network Connectionをグループ化し、Enable internet security、関連付けるRoute Table、伝播先Route TableやLabel、Inbound/Outbound Route Mapsなどを共通設定として適用できます。設定の優先順位は、Routing Intent管理設定、Connection Policy、Connection単位の設定の順です。(Microsoft Learn)

Connection Policyの利点は、接続ごとのルーティング設定ミスを減らせることです。特にVNetが数十、数百に増える環境では、個別設定のばらつきが障害原因になります。

一方で、Connection Policyは万能ではありません。静的ルートのように接続ごとのNext Hop IPが必要な設定は、共通ポリシーに向きません。また、Virtual Network Connectionにのみ適用され、S2S VPNやExpressRoute接続を直接まとめる用途ではありません。

強制トンネルとインターネット向け通信の確認

Azure Virtual WANのRouting Intentでは、Private trafficやInternet trafficをVirtual Hub内のセキュリティソリューションへ送る設計ができます。公式情報では、インターネット向け通信の扱いとしてDirect AccessとForced Tunnelが整理されています。Direct Accessは検査後に直接インターネットへ出す方式、Forced Tunnelは検査後にオンプレミスやNVAなどから学習した0.0.0.0/0、またはVNet接続上の静的ルートへ転送する方式です。(Microsoft Learn)

Forced Tunnelは、Azure Firewall、Virtual WAN Hub内のFirewall NVA、SaaS型セキュリティソリューションで一般提供範囲として整理されています。(Microsoft Learn)

ただし、Forced Tunnelには注意点があります。0.0.0.0/0の経路がオンプレミスやNVA、静的ルートから存在しない場合、インターネット向け通信はセキュリティソリューションに転送されず、Azureプラットフォーム側でドロップされます。また、0.0.0.0/0はVirtual Hub間で伝播しないため、Forced Tunnelを使うHubではローカル接続からデフォルトルートを受ける必要があります。(Microsoft Learn)

導入前に確認すべき項目は次の通りです。

確認項目見るべきポイント
0.0.0.0/0の学習元ExpressRoute、S2S VPN、Hub内NVA、Spoke内NVA、VNet接続の静的ルートのどれを使うか
DNAT利用有無Forced Tunnel構成ではVirtual WAN Hub内セキュリティ製品のDNATが非対応となる制約がある
Storage Accountへの経路同一リージョンのStorage Account Public IP宛通信がVirtual WANルーティングをバイパスする既知問題に注意
Hub間設計デフォルトルートはHub間伝播しないため、各Hubで出口設計を行う
Azure Firewall Manager表示Forced Tunnel構成時に表示や変更操作に制約があるため、実際のEffective Routesも確認する

Route-mapsでルーティング制御を細かく行う

Route-mapsは2025年4月に一般提供として整理されている機能で、Virtual WAN Virtual Hubの経路広報やルーティングを制御できます。S2S VPN、P2S VPN、ExpressRoute、VNet Connectionに対して、ルート集約、フィルタリング、AS-PATHやBGP CommunityなどのBGP属性変更を行えるのが特徴です。(Microsoft Learn)

たとえば、オンプレミスから多数の細かなプレフィックスがAzureへ広報されている場合、Route-mapsで10.2.1.0/24、10.2.2.0/24、10.2.3.0/24を10.2.0.0/16へ集約するような設計が可能です。ルート数の上限や運用の見通しを考えると、大規模環境では重要な選択肢になります。(Microsoft Learn)

ただし、Route-mapsには制限もあります。Microsoft Learnでは、ルート集約時にBGP CommunityやAS-PATH属性が取り除かれること、Azure予約ASNをAS prependingに使わないこと、Route-mapsとNATで同一プレフィックスを同時に変更できないこと、Route-mapsでより具体的なルートを作成しないことなどが示されています。(Microsoft Learn)

実務では、Route-mapsをいきなり本番Hubに適用するのではなく、次の順序で進めると安全です。

手順作業内容
事前確認現在のEffective Routes、BGP広報経路、AS-PATH、Communityを記録する
検証テストHubまたは影響範囲の小さい接続にRoute-mapを作成する
影響評価オンプレミス、ExpressRoute、S2S VPN、Spoke VNet間の到達性を確認する
段階適用1接続または1拠点から適用し、問題がなければ範囲を広げる
ロールバック準備適用前の経路表、Route-map設定、IaC定義を保存する

Linux向けAzure VPN Client廃止予定の影響

2026年時点で特に対応を急ぐべき項目は、Azure VPN Client for Linux Previewの廃止予定です。Microsoft Learnでは、LinuxマシンからAzure Virtual WANやVPN GatewayのPoint-to-Site接続に使うMicrosoft提供クライアントが、2026年8月31日に廃止されると説明されています。対象はLinux Previewクライアント、つまりmicrosoft-azurevpnclientパッケージです。Azure Virtual WAN VPN Gateway本体、Windows版Azure VPN Client、macOS版Azure VPN Client、Site-to-Site VPNは影響を受けません。(Microsoft Learn)

移行先としては、OpenVPN clientまたはstrongSwanが案内されています。OpenVPN clientはOpenVPNトンネルと証明書認証、strongSwanはIKEv2と証明書認証またはRADIUS認証を使います。(Microsoft Learn)

注意すべきなのは、代替のOpenVPNやstrongSwanでは、Azure P2S Gatewayに対するMicrosoft Entra ID認証をサポートしない点です。LinuxでEntra ID認証を前提にしていた環境では、証明書認証やRADIUS認証へ切り替えるか、Entra ID認証に対応するWindows/macOSクライアント経由の運用に変える必要があります。(Microsoft Learn)

Linux P2S VPN利用環境の移行チェック

確認項目対応内容
対象端末Linuxでmicrosoft-azurevpnclientを使っている端末を棚卸しする
認証方式Entra ID、証明書、RADIUSのどれを使っているか確認する
トンネル種別OpenVPNにするか、IKEv2/strongSwanにするか決める
Gateway設定必要なトンネル種別と認証方式をP2S Gatewayで有効化する
クライアント配布新しいVPNプロファイルを生成し、端末へ配布する
接続試験DNS、名前解決、社内リソース、Split Tunnel/Forced Tunnelを確認する
旧クライアント撤去移行完了後にAzure VPN Client for Linuxをアンインストールする

廃止日が近づいてから移行すると、認証方式の見直し、証明書配布、端末ごとの検証が間に合わない可能性があります。Linuxユーザーが少数でも、管理対象外の開発端末や踏み台端末に残っていないか確認してください。

NVAとパートナー製品を使う場合の確認点

Azure Virtual WANでは、Virtual WAN Hub内にNVAを展開する構成と、拠点側のSD-WAN/VPNデバイスからBranch IPsec connectivity automationを使って接続する構成があります。Microsoft Learnでは、Hub内NVAはMicrosoft Azureとサードパーティプロバイダーが共同管理するソリューションとして説明され、Branch IPsec connectivity automationでは、デバイス管理UIからAzure Virtual WAN Resource Groupへのアクセス、ブランチデバイス情報のアップロード、Azure接続情報の自動ダウンロード、オンプレミスデバイス設定などを自動化できます。(Microsoft Learn)

2026年5月時点のWhat’s newでは、Aruba VMware SD-WANのArista Velocloud SD-WANへのリブランド、古いVMware SD-WANでの新規展開ブロック予定、HPE Aruba Networking EdgeConnect SD-WANのVirtual WAN Hub内GAなどが整理されています。(Microsoft Learn)

NVAやSD-WAN製品を使っている場合、Azure側だけでなく、ベンダー側のリリースノート、Marketplaceイメージ、サポート期限、既存構成の扱いを確認してください。特に「既存展開は動くが、新規展開はブロックされる」タイプの変更は、DR環境の再作成や別リージョン展開時に問題化しやすいポイントです。

既知の問題として確認すべき項目

公式のWhat’s newにはKnown issuesも掲載されています。すべての環境に当てはまるわけではありませんが、設計レビューや障害調査で見落としやすい項目があります。

既知の問題影響しやすい環境対応の方向性
同一リージョンのStorage Account Public IP宛通信がVirtual WANルーティングをバイパスする場合があるStorage AccountへPublic IPでアクセスし、Hub上のセキュリティ製品で検査したい環境Private LinkでPrivate Endpointを使う設計を優先する
デフォルトルート0.0.0.0/0がHub間伝播しない複数HubでForced Tunnelを設計する環境各Hubでローカル接続から出口経路を設計する
Spoke VNetのアドレス空間更新が正しく反映されない場合があるVNetアドレス空間を頻繁に変更する環境複数変更を同時に行わず、Effective Routesへの反映を待つ
HubとGatewayが異なるResource Groupの場合、Portalでルート更新に失敗する場合があるResource Groupを分けて管理している環境Terraform、PowerShell、CLI、REST APIで管理する
BGPでローカル経路よりリモートHub経路が選ばれる場合がある複数Hub・複数拠点から同一経路を広報する環境AS-PATHの差を小さくする、Route-mapsを検討する

特にStorage AccountへのPublic IPアクセスは、セキュリティ経路の設計と監査に直結します。Private Linkが使える場合は、Public IP宛通信を前提にした検査設計よりも、Private Endpoint経由の設計を優先したほうが安全です。

管理者が確認すべき設定チェックリスト

既存のAzure Virtual WAN環境がある場合は、次の順序で確認すると抜け漏れを減らせます。

分類確認項目判断基準
SKUBasicかStandardかExpressRoute、P2S、Firewall、NVA、VNet transitを使うならStandardが必要
HubHubのリージョンとアドレス空間将来のFirewall/NVA追加、拠点増加、アドレス重複を考慮しているか
容量Routing Infrastructure UnitsVM数、集約スループット、ピークトラフィックに見合っているか
GatewayGateway scale unitsS2S、P2S、ExpressRouteそれぞれのスループットを個別に見積もっているか
RoutingRoute Table、Association、Propagation意図しない経路伝播や孤立VNetがないか
SecurityRouting Intent、Forced Tunnel0.0.0.0/0の学習元、DNAT制約、Storage Accountアクセスを確認したか
AutomationVirtual Network Manager、Connection PolicyPreview機能を本番に使っていないか、段階展開できるか
P2S VPNLinuxクライアント利用有無2026年8月31日までに移行できるか
NVA/SD-WANパートナー製品の対応状況Marketplaceイメージ、ベンダー名変更、新規展開可否を確認したか
運用Portal依存度既知問題に備え、CLI、PowerShell、Terraform、REST APIで再現可能か

開発者・IaC担当者が確認すべきポイント

開発者やPlatform Engineeringチームは、Azure Virtual WANを「ネットワークチームだけの設定」と見ないほうが安全です。アプリケーションの通信経路、DNS、Private Endpoint、デプロイ自動化、環境分離に影響するためです。

特にIaCで管理する場合は、次の点を確認してください。

項目注意点
VNet作成時の接続自動化VNetが作成されてもVirtual Hub接続やRoute Table伝播が漏れると通信できない
環境別ポリシー開発、検証、本番でConnection PolicyやRoute Tableを分ける
Preview機能の扱いAzure Virtual Network Manager連携やConnection Policyを本番コードに組み込む場合はFeature Flagや分岐を用意する
ルート変更のレビューRoute-mapsやRouting Intentの変更はアプリ通信断につながるため、Pull RequestでEffective Routesの差分を確認する
Private EndpointPrivate Link利用時はDNSゾーン、名前解決、Hub経由通信の経路をセットで検証する
ロールバックConnection Policy、Route-maps、Routing Intentの変更前状態をコードとエクスポートで残す

アプリ側から見ると「昨日まで接続できていたAPIに届かない」という障害でも、原因はVirtual Hubの経路伝播、デフォルトルート、Connection Policy、Private DNSにあることがあります。Azure Virtual WANを導入する環境では、アプリケーションの疎通確認項目に「経路」「DNS」「Private Endpoint」「Firewallログ」を含めてください。

移行・展開で失敗しやすいポイント

Azure Virtual WANの導入で失敗しやすいのは、ネットワーク構成そのものよりも、移行順序と検証不足です。

既存VPN Gatewayからの移行で経路を見落とす

従来のVPN Gateway構成からAzure Virtual WANへ移行する場合、オンプレミスからVNetへ直接接続する考え方から、Virtual Hub経由へ切り替わります。UDR、BGP、NSG、Firewall、DNSの依存関係を洗い出さずに切り替えると、一部サブネットだけ通信できない状態になりがちです。

移行前には、既存の有効経路、オンプレミス広報プレフィックス、VNet Peering、UDR、VPN Gateway接続、ExpressRoute回線を一覧化してください。移行後は、単純なICMP疎通だけでなく、アプリの実ポート、名前解決、認証、バックアップ、監視エージェント通信まで確認します。

Hubのアドレス空間を小さく取りすぎる

Virtual Hubのアドレス空間は後から変更できません。検証環境では問題なくても、本番でAzure FirewallやNVAを追加するとIP不足が問題になることがあります。将来的にセキュリティHubとして使う可能性があるなら、最初から余裕を持ったアドレス空間を確保しましょう。

Preview機能を本番標準にしてしまう

Azure Virtual Network Manager連携やConnection Policyは便利ですが、Public Previewです。Previewは仕様、可用性、提供リージョン、制約が変わる可能性があります。本番環境で使う場合は、公式のPreview条件を理解し、影響範囲を限定したうえで採用判断を行ってください。

Linux P2S VPNの移行を後回しにする

Linux向けAzure VPN Client Previewの廃止は、開発者端末や一部の管理用端末だけに見えるため、後回しになりがちです。しかし、Entra ID認証を使っていた場合、単純にOpenVPN clientへ入れ替えるだけでは済みません。証明書認証やRADIUS認証への変更、クライアントプロファイルの再配布、端末側設定の標準化が必要になります。

導入判断の実務的な基準

Azure Virtual WANを採用するか迷う場合は、次の基準で判断すると現実的です。

判断基準Azure Virtual WANを検討すべき状態
拠点数拠点が複数あり、VPNやSD-WAN接続を標準化したい
VNet数VNetが増え続け、個別PeeringやUDR管理が複雑になっている
リージョン複数Azureリージョンを使い、Hub間接続を整理したい
回線ExpressRouteとVPNを併用している
セキュリティインターネット向け通信やオンプレミス向け通信をHubで検査したい
運用ネットワーク接続をIaCやポリシーで一貫管理したい

逆に、単一リージョン、少数VNet、単純なS2S VPNだけの環境では、Azure Virtual WANを入れることで構成が過剰になる場合もあります。ネットワークの将来像が見えていない段階では、PoCでHub、VNet接続、ルート伝播、Firewall、P2S VPNを小さく試し、運用チームが理解できるかを確認してから本番展開するのが安全です。

まず実施すべきアクション

Azure Virtual WAN Overviewを読んだ後に管理者が取るべき行動は、機能の暗記ではなく、自社環境への影響確認です。

まず、既存のVirtual WAN、Virtual Hub、接続済みVNet、S2S VPN、P2S VPN、ExpressRoute、Azure Firewall、NVA、Route Tableを棚卸ししてください。次に、Basic/StandardのSKU、Hubアドレス空間、Routing Infrastructure Units、Gateway scale units、Routing Intent、Route-maps、Connection Policyの利用有無を確認します。

LinuxのP2S VPNユーザーがいる場合は、2026年8月31日の廃止日に向けてOpenVPN clientまたはstrongSwanへの移行計画を作成してください。Preview機能であるAzure Virtual Network Manager連携やConnection Policyは、まず検証環境で使い、VNet追加、削除、ポリシー変更、ロールバックまで試すことが重要です。

Azure Virtual WANは、導入すれば自動的にネットワークが整理されるサービスではありません。Hubの配置、アドレス設計、経路制御、セキュリティ検査、クライアント移行を丁寧に設計して初めて、複数拠点・複数VNetの運用負荷を下げられます。まずは現在のネットワーク図と有効経路を最新化し、どの接続をVirtual WANへ集約するのかを決めるところから始めましょう。

この記事を書いた人

実務の現場で詰まりがちなポイントを地図にするITブログ「IT trip」を運営。Windows/Office(Teams・Excel)からSQL、サーバ運用、ガジェットまで、再現性のある手順と“なぜそうなるか”を丁寧に解説します。読んだらすぐ試せること、そして迷った人の次の一歩が見えることを大切にしています。

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