Microsoft Entra ID レガシーMFA/SSPR廃止でSMS・音声通話は止まる?認証方法ポリシー移行手順(2025年9月30日)

Microsoft Entra ID で旧(レガシー)MFA/SSPR ポリシーによる認証方法管理が 2025年9月30日に廃止されます。未移行のままだと SMS や音声通話の本人確認が止まるのか、そして止めないために何をすべきかを、実務目線で整理します。

目次

結論:SMS/音声通話は「移行しないと止まる」可能性が高い

結論から言うと、レガシー(旧)MFA/SSPR ポリシーだけで SMS/音声通話を許可している環境は、移行しない限り“止まる”リスクが高いです。理由はシンプルで、Microsoft は 2025年9月30日以降、旧ポリシーでは認証方法を管理できないため、新しい『認証方法ポリシー(Authentication methods policy)』へ移行することを推奨しているからです。

さらに Microsoft Learn の Q&A(コミュニティ回答)では、未移行の場合に2025年10月1日から SMS/音声通話の検証が止まる旨の回答が付いています。

もちろん Q&A は公式発表そのものではありませんが、公式ドキュメントでも移行状態が Migration Complete になるとレガシー設定は無視(ignored)されると明記されています。つまり、SMS/音声通話をレガシー側の許可に依存していた場合、新ポリシー側で SMS/音声通話を有効化していない限り、サインインや SSPR で詰まるのが構造的に自然です。

押さえておきたいタイムライン

日付起きること実務の意味
2023年3月レガシー MFA/SSPR での認証方法管理の廃止が告知される将来的に管理の置き場を統合する前提で計画が必要
2025年9月30日レガシー MFA/SSPR では認証方法を管理できなくなる新しい認証方法ポリシーへ移行していないと、方式の継続利用が危うい
2025年10月1日未移行だと SMS/音声通話が止まる可能性がある(コミュニティ回答)“10月から急に困る” を避けるなら、9月中に新ポリシーで許可を揃えておく

まずやるべき最短アクション

  • Microsoft Entra 管理センターで Entra ID > Authentication methods > Policies を開き、SMS と Voice calls(音声通話) を必要なユーザー(またはグループ)に対して有効化する
  • SSPR で Mobile phone(携帯電話) を使っているなら、原則として SMS と音声通話の両方を有効化する
  • Migration Complete にする前に、新ポリシー側の許可が揃っていることをテストで担保する

「期限を過ぎたけど、とりあえず今ログインできるから後で…」が一番危険です。旧設定が尊重される状態から、ある日突然 “無視される状態” に移ると、影響が一気に顕在化します。

何が廃止されるのか:旧 MFA/SSPR ポリシーと新しい「認証方法ポリシー」

旧(レガシー)の MFA/SSPR では、同じ「認証方法」でもMFA と SSPR が別々の画面・別々のロジックで管理されていました。加えて、レガシー側では「誰に使わせるか」「どう使わせるか」を細かく制御しづらいという制約があります。

この分断を解消するのが、認証方法ポリシー(Authentication methods policy)です。ユーザー/グループ単位で方式を割り当てられ、登録体験や運用の一貫性も取りやすくなります。

観点レガシー(旧)MFA/SSPR ポリシー認証方法ポリシー(新)
管理場所MFA(Multifactor authentication settings)、SSPR(Password reset settings)などに分散Entra ID > Authentication methods > Policies に集約
有効化の単位主にテナント全体・SSPR 対象範囲などユーザー/グループ単位で割り当て可能
期限2025年9月30日以降、認証方法を管理できない移行ウィザード/手動移行で集約(移行は戻せる)
電話系の扱いSSPR の Mobile phone は SMS/音声通話をまとめて許可しがちSMS と Voice calls を別々に明示制御できる

「SMS/音声通話が使えなくなる?」が起きるメカニズム

そもそも “有効化の判定” は複数ポリシーをまたぐ

公式ドキュメントでは、ポリシー間で設定は同期されず、Microsoft Entra ID はいずれかのポリシーで有効になっていればユーザーが登録・利用できる、と説明されています。逆に言えば、Migration in Progress などの併用期間は、意図せず広い範囲に方式が使えてしまうことがあります。

移行ステータスが “レガシー設定を無視するスイッチ” になる

移行には 3 つの状態があり、特に重要なのが Migration Complete です。この状態では認証方法ポリシーのみが参照され、レガシー設定は無視されます。

移行ステータスサインイン(MFA)SSPRレガシー設定の扱い運用上の意味
Pre-migration認証方法ポリシーが参照される従来の SSPR 設定が中心尊重される段階導入の準備期間
Migration in Progress認証方法ポリシーが参照される認証方法ポリシーも参照される尊重される新旧併用で安全に切替テスト
Migration Complete認証方法ポリシーのみ認証方法ポリシーのみ無視される旧設定に頼る方式は使えなくなる

SSPR の “Mobile phone” は SMS/音声通話をまとめて許可し得る

公式ドキュメントでは、レガシー SSPR の Mobile phone は「携帯電話へ音声通話またはテキスト(SMS)を送る」オプションで、Office phone は音声通話のみと説明されています。加えて、ポリシーが独立していることで、Mobile phone を使うユーザーは想定より広い電話系オプションを使えることがある、と注意喚起されています。

コミュニティ回答が示す “10月1日停止” は、実務上かなり現実的

Q&A の回答は「10月1日に止まる」と明言しています。

繰り返しになりますが、Migration Complete で旧設定が無視される以上、レガシーにしか許可がない方式が動かなくなるのは構造的に説明できます。したがって実務では、「Microsoft がどのタイミングで旧ポリシーを無効化/無視に寄せるか」を待つより、先回りで新ポリシーへ許可を写すほうが安全です。

影響を受けやすいユーザーと、見落としがちなパターン

「SMS/音声通話を使っている人だけが影響」と思われがちですが、実務ではもう少し広い範囲に波及します。次のどれかに当てはまる場合、移行の優先度は高いです。

  • 多要素認証で SMS または 電話(音声通話) を許可している(スマホ未配布の現場、ガラケー運用など)
  • SSPR で Mobile phone / Office phone を主要手段にしている
  • 本人確認の “最後の砦” が電話系で、他の代替手段(Authenticator、TAP、FIDO2 など)が整っていない
  • 管理者(特に Global Administrator)も電話系に寄っており、緊急用アカウント(ブレークグラス)設計が弱い
  • グループ単位で方式を制御したい(拠点や雇用形態で MFA の現実が違う)

旧→新の対応関係を先に押さえる

移行で詰まりやすいのが「旧画面の名称と、新ポリシーの名称が一致しない」点です。公式の移行ガイドに、対応表が用意されています。

旧(レガシー MFA)新(認証方法ポリシー)補足
Call to phoneVoice calls(音声通話)会社電話(固定)/ 携帯に通話
Text message to phoneSMS携帯番号宛ての SMS
Notification through mobile appMicrosoft Authenticatorプッシュ通知など
Verification code from mobile app or hardware tokenThird party software OATH tokens / Hardware OATH tokens / Microsoft Authenticator新ポリシーでは細分化
旧(レガシー SSPR)新(認証方法ポリシー)実務上の推奨
Mobile phone(携帯電話)Voice calls + SMS“携帯電話で本人確認” を継続するなら両方を有効化し、段階的に強い方式を増やす
Office phone(会社電話)Voice calls固定電話が主なら音声通話を有効化
EmailEmail OTPSSPR の補助としては有効だが、過信しない
Security questions(未対応)当面はレガシー SSPR 側で管理が必要

手順:SMS/音声通話を継続しつつ「認証方法ポリシー」へ移行する

事故を起こさない順番(先に新、後から旧を閉じる)

  1. 現状把握:旧 MFA/SSPR でどの方式を許可しているか、SSPR 対象範囲、管理者の認証手段を棚卸しする
  2. 新ポリシーで先に許可:SMS/音声通話を含め、必要な方式を新ポリシー側で有効化する(対象は “いきなり全員” でなくてもよい)
  3. Migration in Progress にして併用状態でテストする
  4. レガシー側の方式を段階的に外す(外す→テスト→次を外す、の繰り返し)
  5. 問題がなければ Migration Complete に切り替える

この順番が安全です。認証方法ポリシー側の許可が揃っていないのに Migration Complete に入ると、旧設定が無視されるため “方式が消える” 事故になりやすいです。

ウィザード(自動移行ガイド)を使う場合

公式の移行ウィザードは、レガシー MFA/SSPR で有効な方式を検出し、同等の方式を認証方法ポリシー側でも有効にする構成を提案します。確認して問題がなければ Migrate を実行し、移行後はレガシー側の設定がグレーアウトして適用されなくなります。

またウィザードは、パスキー、Temporary Access Pass、Microsoft Authenticatorなどのモダンで安全性の高い方式の有効化も推奨しています。電話系を残す事情がある場合も、並行して強い方式を増やしておくと将来の設計が楽になります。

手動移行でやる場合(日本企業で多い “段階移行” に向く)

部署や雇用形態で現実の端末事情が違う場合、手動移行が向きます。公式手順では、まず旧設定を監査(audit)し、その後 Migration in Progress を選んで新ポリシーを SSPR にも効かせる流れが示されています。

なお新規テナントは、認証方法ポリシーが “全て Off” から始まります。既存テナントでも「新ポリシーを触っていない=電話系がオンになっていない」ことは珍しくないので、必ず新ポリシー側の On/Off を確認してください。

実務のチェックリスト(移行前)

チェック項目ねらい具体例
レガシー MFA の許可方式SMS/音声通話が “旧だけで許可” になっていないか確認レガシー MFA の service settings
レガシー SSPR の対象範囲SSPR が全社/特定グループ/無効か把握Password reset の Properties
レガシー SSPR の認証方法Mobile phone / Office phone の利用有無を確認Password reset の Authentication methods
管理者の代替手段切替で管理者がロックアウトしないようにするブレークグラス、TAP の準備、Authenticator/FIDO2 の優先

実務のチェックリスト(移行中〜移行後)

フェーズやることありがちな失敗回避策
移行中認証方法ポリシーで SMS/音声通話を必要な範囲に有効化“一部ユーザーにだけ許可したつもり” が広がる併用期間は旧設定も尊重されるため、旧側の許可を併せて確認
移行中Migration in Progress でテストユーザーを使い、サインインと SSPR を実測SSPR だけ後で気づくテストは「サインイン」「リセット」を必ず両方実施
移行後段階的にレガシー側の方式を外し、最後に Migration CompleteMigration Complete にした瞬間に電話系が消える新側で SMS/音声通話が On、対象グループが正しいかを事前確認

Migration Complete は “切り替えスイッチ” だが、ロールバックも可能

公式ドキュメントでは、移行は段階的に進められ、Migration Complete にした後でも Migration in Progress に戻してレガシー設定を再度有効化できることが示されています。とはいえ、ロールバックはあくまで緊急避難として考え、基本は「新ポリシーで成立する状態」を先に作ってから切り替えるのが安全です。

Security questions を使っている場合の注意

SSPR のセキュリティの質問(Security questions)は、現時点では認証方法ポリシー側で管理できず、レガシー SSPR 側に残ります。もし運用上どうしても必要なら、レガシー SSPR で有効のままにしておき、他の方式(SMS/音声通話、Authenticator、Email OTP など)だけを先に移行するのが現実解です。

移行後も残る SSPR 側の設定がある

すべての認証方法を移行した後でも、レガシー SSPR には「リセットに必要な認証方法数(Number of methods required to reset)」や「SSPR 管理者ポリシー(SSPR administrator policy)」など、一部の要素が残ることが説明されています。移行後に SSPR の挙動が変わったと感じたら、ここも合わせて確認すると切り分けが早くなります。

トラブルシューティングは “Usable / non-usable” 表示が早い

ユーザーが「登録はできたのに使えない」「突然使えなくなった」という場合、Entra 管理センターでユーザーの認証方法を確認すると、Usable(利用可能)とnon-usable(利用不可)が分けて表示され、利用不可の理由(例:TAP の期限切れ等)が説明されることがあります。ヘルプデスク対応の一次切り分けに有効です。

よくある落とし穴:許可したのに “想定外の人が使える/使えない”

Voice calls をグループ限定で有効にしたのに、他のユーザーも使える

公式ドキュメントに、音声通話をグループに対して有効化したのに、グループ外ユーザーも音声通話でサインインできてしまう例が紹介されています。原因は、レガシー SSPR の Mobile phone やレガシー MFA の Call to phone が残っていることが多い、という説明です。

狙いどおりに制御したい場合は、旧側の許可を整理するか、最終的に Migration Complete を目指します。併用期間は “どれか1つで許可されると使える” ため、設計通りに締まりません。

認証方法ポリシーは “収束(converged)登録体験” とセットで考える

公式ドキュメントには、認証方法ポリシーを正しく認識するのは収束(converged)登録体験だけという注意書きがあります。登録体験が古いままだと「ポリシーで許可したはずの方式がユーザーに表示されない」などのズレが起き得るため、移行の現場ではここも見落としがちです。

グループを増やしすぎると登録が失敗することがある

既知の制限として、認証方法ポリシーや登録キャンペーンで多数のグループを対象にすると登録が失敗する場合がある、と説明されています。実務では「方式ごとに 1 グループへ集約する」設計に寄せると、運用が安定しやすいです。

SMS/音声通話を残すべきか?セキュリティと現場の折り合い

SMS や音声通話は「導入しやすい」一方で、フィッシングや SIM スワップなどの攻撃に弱い側面があります。Microsoft も、移行の流れの中でパスキー、Temporary Access Pass、Microsoft Authenticatorなどのモダンな方式を有効化することを推奨しています。

ただし現場の現実として、全員がすぐにアプリを入れられない/個人端末が使えない/固定電話しかない、といった事情もあります。そこでおすすめは、次の二段構えです。

  • 短期:停止事故を避けるため、新ポリシーに SMS/音声通話を移し替え、ログインと SSPR を確実に動かす
  • 中期:Authenticator やパスキー等を増やし、電話系は例外扱いへ寄せる(管理者や重要操作は強い方式へ)

「移行=電話を捨てる」ではありません。まずは管理の置き場を新ポリシーへ移すことが最優先です。

まとめ:期限後は “管理できない” ではなく “使えない” に直結する

  • 2025年9月30日以降、旧 MFA/SSPR ポリシーでは認証方法を管理できないため、認証方法ポリシーへ移行が推奨される
  • Migration Complete ではレガシー設定が無視されるため、SMS/音声通話を新ポリシーで許可していないと詰まる
  • Q&A でも「10月1日から止まる」という回答があり、未移行の放置はリスクが高い
  • 併用期間は “どこかで許可されていれば使える” ため、旧側の残りが想定外の挙動を生む

参考資料(一次情報)

  • Manage authentication methods – Microsoft Entra ID
  • How to migrate to the Authentication methods policy – Microsoft Entra ID
  • Configure Microsoft Entra multifactor authentication settings
  • Enable Microsoft Entra self-service password reset
  • Microsoft Q&A: Legacy authentication methods deprecation on September 30th

この記事を書いた人

実務の現場で詰まりがちなポイントを地図にするITブログ「IT trip」を運営。Windows/Office(Teams・Excel)からSQL、サーバ運用、ガジェットまで、再現性のある手順と“なぜそうなるか”を丁寧に解説します。読んだらすぐ試せること、そして迷った人の次の一歩が見えることを大切にしています。

コメント

コメントする

目次