Microsoft Purview の「Search for and delete AI application data in eDiscovery」は、Microsoft Copilot やその他の AI アプリで発生したプロンプト、応答、AI 関連アクティビティを eDiscovery で検索し、Microsoft Graph Explorer または Microsoft Graph API で削除するための手順です。2026年6月29日に更新された公式情報で特に重要なのは、AI アプリの活動データはユーザーのメールボックスに保存されること、削除前に保持ポリシーやホールドの確認が必要なこと、そしてこの機能は大量削除ではなくデータ漏えい対応向けの限定的な削除手段であることです。(Microsoft Learn)
管理者が最初に確認すべきことは、「誰の、どの AI アプリの、どの期間のデータを、なぜ削除するのか」を明確にすることです。検索条件を広くしすぎると、必要な証跡まで削除対象に含めてしまう可能性があります。逆に、保持ポリシーや eDiscovery ホールドを確認しないまま削除を実行しても、対象データが保持され続ける場合があります。
Microsoft Purview の「Search for and delete AI application data in eDiscovery」とは
「Search for and delete AI application data in eDiscovery」は、Microsoft Purview eDiscovery を使って Copilot やその他の AI アプリケーションの活動データを検索し、Microsoft Graph Explorer から削除処理を実行するための公式手順です。
対象になるのは、たとえば次のようなケースです。
- ユーザーが Copilot に機密情報を入力してしまった
- AI アプリの応答に不適切な内容や社外秘情報が含まれた
- 生成 AI 利用時のデータスピル、つまり意図しない情報流出への対応が必要になった
- 調査対象ユーザーの AI 利用履歴を eDiscovery で確認し、必要に応じて削除したい
Microsoft の公式説明では、このワークフローは「機密情報や不適切なコンテンツを含む Copilot および AI アプリケーション活動を見つけて削除する」用途に使えるとされています。特に、データスピル対応のように、AI 関連アクティビティ経由で秘密情報や悪意ある情報が放出された場合の対応手段として位置付けられています。(Microsoft Learn)
重要なのは、この機能が「Copilot の履歴を気軽に一括削除するための管理画面」ではない点です。実務では、インシデント対応、法務・コンプライアンス対応、情報漏えい時の限定的な除去作業として扱うべき機能です。
今回の更新で押さえるべきポイント
2026年6月29日更新の公式情報を読むうえで、管理者がまず押さえるべきポイントは次のとおりです。
| 確認項目 | 実務上の意味 |
|---|---|
| AI 活動データの保存場所 | Copilot やその他 AI アプリのプロンプトと応答は、ユーザーのメールボックスに保存される |
| 検索方法 | eDiscovery の検索で、Item class 条件やキーワード、日付範囲を使って対象を絞り込む |
| 削除方法 | eDiscovery の検索結果をもとに、Microsoft Graph Explorer または Graph API の purgeData を実行する |
| 権限 | 検索には eDiscovery Manager、削除には Search And Purge などの権限が必要 |
| 保持ポリシー・ホールド | 対象メールボックスに保持やホールドがあると削除対象データが保持されるため、事前確認が必須 |
| 削除上限 | AI データ削除ワークフローでは、公式手順上「メールボックスごとに一度に最大 10 アイテム」とされている |
| 削除後の動作 | ユーザーには目に見える通知はなく、削除データは一時的に hidden folder に移動した後、タイマージョブで完全削除される |
Microsoft Graph の一般的な ediscoverySearch: purgeData API では、場所ごとに最大 100 アイテムを消去できると説明されています。一方で、今回の AI アプリケーションデータ削除に関する Purview の公式手順では「メールボックスごとに一度に最大 10 アイテム」とされています。したがって、この AI データ削除シナリオでは、一般 API の上限だけを見て大量削除できると判断せず、AI データ削除手順側の制限を前提に運用設計するのが安全です。(Microsoft Learn)
影響範囲:どの AI アプリのデータが対象になるのか
この更新の重要な点は、対象が Microsoft 365 Copilot だけに限られないことです。公式情報では、Microsoft Copilot やその他 AI ソリューションのユーザープロンプト、応答、活動データが、サポート対象アプリケーションとサービスに応じて eDiscovery で検索できると説明されています。(Microsoft Learn)
代表的な対象は次のとおりです。
| 対象サービス・アプリ | 管理者が見るべきポイント |
|---|---|
| Microsoft 365 Copilot | Microsoft 365 Chat、Copilot Chat などの利用履歴を調査対象にできる |
| Word、Excel、PowerPoint、Outlook、OneNote、Loop | 各アプリ内 Copilot の利用履歴が対象になる |
| Teams | Teams チャット、会議、チャネル、AI notes などの文脈で確認が必要 |
| Microsoft Copilot for Bing / Microsoft 365 Copilot Chat | 業務利用の Web ベース AI チャットとして調査対象になり得る |
| Copilot Studio | 組織が作成した Copilot やエージェントの利用履歴確認に関係する |
| Copilot in Fabric | データ分析・BI 領域での AI 利用確認に関係する |
| Microsoft Security Copilot | セキュリティ運用上の調査ログや入力内容の扱いに注意が必要 |
| Microsoft Foundry | Azure AI 系のアプリ連携や AI アプリ開発環境での利用確認に関係する |
| ChatGPT Enterprise やその他 AI アプリ | コネクタやブラウザー経由の AI アプリ活動が対象になり得る |
公式情報では、AI アプリのユーザープロンプトと応答はユーザーのメールボックスに保存されると説明されています。つまり、SharePoint や OneDrive の元ファイルそのものを削除する機能ではなく、AI アプリとのやり取りとして記録された活動データをメールボックス側から検索・削除する仕組みだと理解すると整理しやすくなります。(Microsoft Learn)
管理者が注意すべき「Copilot メモリ」の扱い
見落としやすいのが、Copilot personalization and memory、つまり Copilot のパーソナライズやメモリに関するデータです。
公式情報では、Copilot memory data は eDiscovery 上で IPM.Contact の item class として扱われ、連絡先として一致する場合があると説明されています。また、Microsoft Purview や eDiscovery から会話やメッセージを削除しても、関連する Copilot memory が削除されるわけではないとされています。(Microsoft Learn)
実務では、次のように分けて考える必要があります。
| 削除したいもの | 確認すべきこと |
|---|---|
| Copilot との会話・応答履歴 | eDiscovery の検索結果に含まれる AI 活動データとして削除対象にできる |
| Copilot が推論したメモリ | 通常の会話削除だけでは消えない可能性があるため、別途確認が必要 |
| 元になった業務ファイル | AI 活動データの削除では消えないため、SharePoint、OneDrive、Teams 側の管理も必要 |
たとえば、ユーザーが「A社との未発表案件」を Copilot に入力してしまった場合、eDiscovery で該当するプロンプトや応答を削除できる可能性があります。しかし、その内容が Copilot のメモリや別のファイル、Teams 投稿、メール本文にも残っている場合は、AI 活動データだけを削除しても対応は完了しません。
必要な権限と事前設定
この機能を使うには、Microsoft Purview eDiscovery と Microsoft Graph の両方で適切な権限が必要です。公式情報では、eDiscovery ケースの作成や AI 活動データの検索には eDiscovery Manager role group、削除には Search And Purge role が必要とされています。Search And Purge role は Data Investigator と Organization Management role group に既定で含まれると説明されています。(Microsoft Learn)
また、Graph Explorer で操作する場合は、eDiscovery.Read.All や eDiscovery.ReadWrite.All への同意が必要になる場合があります。Microsoft Graph の ediscoverySearch: purgeData API では、職場または学校アカウントの委任アクセス、またはアプリケーション権限として eDiscovery.ReadWrite.All が示されています。(Microsoft Learn)
| 項目 | 必要な確認 |
|---|---|
| eDiscovery の利用権限 | 管理者が eDiscovery Manager または適切な eDiscovery ロールを持っているか |
| 削除権限 | Search And Purge role を持つアカウントで実行しているか |
| Graph 権限 | Graph Explorer または API クライアントに必要な権限が同意されているか |
| 条件付きアクセス | Graph Explorer や管理ポータルへのアクセスが制限されていないか |
| ライセンス | eDiscovery 機能を使う管理者・対象ユーザーに必要な Microsoft 365 ライセンスがあるか |
| 操作承認 | 法務、セキュリティ、情報管理部門の承認フローがあるか |
eDiscovery 関連機能では、管理者と eDiscovery ケースを扱うユーザーに Microsoft 365 Enterprise E3 または E5 ライセンスが必要と説明されています。一部の eDiscovery 機能では追加の課金設定が必要になる場合もあるため、本番作業前に自社テナントの契約と機能利用可否を確認しておくべきです。(Microsoft Learn)
削除前に保持ポリシーとホールドを確認する
この機能で最も失敗しやすいのが、保持ポリシーやホールドの扱いです。
公式手順では、対象メールボックスに割り当てられている hold や retention policy を削除前に外す必要があると説明されています。外さない場合、削除しようとしている AI データは保持されます。また、外した hold や retention policy は記録し、削除完了後に再適用する必要があります。(Microsoft Learn)
ここで注意したいのは、「削除したいから保持ポリシーを外す」という作業自体が、法務・監査上のリスクを持つことです。特に訴訟ホールド、eDiscovery ホールド、長期保存が必要な規制対象データに関係する場合、IT 管理者だけの判断で外すべきではありません。
実務では、次のような手順にしておくと安全です。
| 手順 | 実施内容 |
|---|---|
| 影響範囲の確認 | eDiscovery の Top Locations などで、対象データが存在するメールボックスを特定する |
| 保持設定の棚卸し | 対象メールボックスに Litigation Hold、eDiscovery hold、retention policy があるか確認する |
| 承認取得 | 法務、コンプライアンス、セキュリティ責任者の承認を得る |
| 一時解除の記録 | 解除したポリシー名、対象ユーザー、日時、作業者、理由を記録する |
| 削除実行 | Graph Explorer または Graph API で purgeData を実行する |
| 再適用 | 削除確認後、外した保持ポリシーやホールドを必ず戻す |
Microsoft の保持原則では、保持は削除に優先します。eDiscovery hold の対象アイテムは、hold が解除されるまで完全削除できないため、削除処理が成功したように見えても、保持側の条件によってデータが残る場合があります。(Microsoft Learn)
実行手順:eDiscovery で AI アプリデータを検索して削除する流れ
公式手順は、大きく分けると「ケース作成」「検索」「確認」「保持設定の調整」「Graph Explorer で削除」「削除確認」「保持設定の再適用」という流れです。(Microsoft Learn)
eDiscovery ケースを作成する
最初に Microsoft Purview の eDiscovery でケースを作成します。ケースは、検索、削除、証跡、関係者のアクセス管理をまとめる単位です。
ケース名は、後から監査しやすい名前にしておくと実務で役立ちます。
例:
AI Data Spillage - Copilot - 2026-07 - Project Alpha
ケース名に日付、対象サービス、インシデント名を入れておくと、Graph Explorer で case ID を探すときにも識別しやすくなります。
AI アプリデータを検索する
次に、削除対象となる AI アプリケーションデータを eDiscovery で検索します。
公式情報では、広く AI データを収集する場合、eDiscovery の検索クエリ作成時に Item class condition で「Copilot activity」を選択する方法が推奨されています。さらに、日付範囲やキーワードを加えて、削除対象を調査に関係するアイテムに絞り込むことが重要です。(Microsoft Learn)
実務での検索条件例は次のとおりです。
| 条件 | 例 |
|---|---|
| Item class | Copilot activity |
| 期間 | インシデント発生日の前後 1〜3 日など |
| キーワード | 顧客名、案件名、機密ラベル名、社外秘コード、製品コード |
| 対象ユーザー | 影響を受けた可能性があるユーザーのメールボックス |
| 対象アプリ | Word、Teams、Outlook、Microsoft 365 Copilot Chat など |
最初から全ユーザー、全期間、広いキーワードで検索すると、削除対象が膨らみすぎます。データスピル対応では、「再現性のある狭い条件」で検索し、結果を確認しながら必要に応じて広げる方が安全です。
検索結果を確認する
削除処理では、検索結果に返ってきた AI 関連アイテムが削除対象になります。したがって、削除前のレビューは必須です。
確認すべきポイントは次のとおりです。
- 削除したいプロンプトや応答だけが含まれているか
- 関係ないユーザーの AI 利用履歴が含まれていないか
- 日付範囲が広すぎないか
- キーワードが曖昧すぎないか
- Copilot memory や元ファイルなど、別途対応が必要なデータがないか
- Top Locations で対象メールボックスを把握できているか
Microsoft 365 Copilot のやり取りは、eDiscovery の検索結果やエクスポートで、ユーザーと Copilot アプリケーション ID のやり取りとして表示されます。Copilot アプリケーション ID はメールを受信できる通常のメールボックスではなく、やり取りに参加した Copilot アプリを識別するための表示です。(Microsoft Learn)
この仕様を知らないと、「見慣れない差出人・宛先がある」と誤解しやすくなります。レビュー担当者には、Copilot の From / To 表示の見え方を事前に説明しておくと混乱を防げます。
Graph Explorer で case ID と search ID を取得する
検索結果を確認したら、Microsoft Graph Explorer で eDiscovery case ID と eDiscovery search ID を取得します。
公式手順では、次のような流れで ID を取得します。
| 取得する ID | 使う目的 |
|---|---|
| eDiscovery case ID | 削除対象の検索が含まれるケースを指定する |
| eDiscovery search ID | 削除対象アイテムを返す検索を指定する |
Graph Explorer では、対象ケースや検索の displayName を見て該当 ID を確認します。ケース ID は Purview ポータルのケース URL から確認する方法もあります。(Microsoft Learn)
purgeData を実行する
ID を取得したら、Microsoft Graph の purgeData を実行します。
エンドポイントは次の形式です。
POST https://graph.microsoft.com/v1.0/security/cases/ediscoveryCases/{ediscoveryCaseId}/searches/{ediscoverySearchId}/purgeData
Microsoft Graph の purgeData では、削除対象領域を表す purgeAreas と、削除方法を表す purgeType を指定できます。purgeAreas には mailboxes または teamsMessages、purgeType には recoverable または permanentlyDelete などが用意されています。(Microsoft Learn)
AI アプリケーションデータはユーザーのメールボックスに保存されるため、Copilot や AI アプリのメールボックス内アイテムを対象にする場合は、対象データの性質を確認したうえで mailboxes を使う設計になります。Teams メッセージそのものを対象にする場合は teamsMessages の扱いも確認してください。
{
"purgeType": "recoverable",
"purgeAreas": "mailboxes"
}
本番環境では、いきなり permanentlyDelete を選ぶのではなく、社内の法務・監査要件、保持ポリシー、復旧可能性を確認したうえで判断することが重要です。
削除結果を確認する
purgeData が受け付けられると、Microsoft Graph API は 202 Accepted を返します。応答には purge data operation の場所を示す Location ヘッダーが含まれ、その URL に GET 要求を送ることで操作状態を確認できます。(Microsoft Learn)
公式情報では、削除後にユーザーへ目に見える通知や確認は表示されないとされています。また、削除された Copilot や AI データは hidden mailbox folder である SubstrateHolds フォルダーへ移動し、少なくとも 1 日保持された後、通常 1〜7 日のタイマージョブ実行タイミングで完全削除されます。(Microsoft Learn)
つまり、削除を実行した直後に「完全に消えた」と判断するのは早すぎます。運用上は、次の確認を行うべきです。
- Graph の operation status を確認する
- eDiscovery 検索を再実行し、対象アイテムが残っていないか確認する
- 保持ポリシーやホールドにより削除が妨げられていないか確認する
- 削除対象外の関連データが別の場所に残っていないか確認する
- 作業後に一時解除した保持設定を再適用する
グローバル環境での注意点
この機能はグローバル向けの Microsoft 365 運用で特に重要になります。生成 AI の利用範囲が広がるほど、Copilot、Teams、Office アプリ、外部 AI アプリ、AI 開発基盤にまたがってプロンプトや応答の調査が必要になるためです。
ただし、クラウド環境によって使える手段が異なる点には注意が必要です。
Microsoft Graph の ediscoverySearch: purgeData API は、グローバルサービス、US Government L4、US Government L5 で利用可能とされていますが、21Vianet が運営する中国環境は対象外とされています。(Microsoft Learn)
また、公式手順では、Graph Explorer が一部の US Government クラウドで利用できない場合、PowerShell を使う必要があると説明されています。政府機関向けクラウドや国別クラウドを運用している場合は、Graph Explorer 前提の手順書をそのまま使わず、PowerShell または Graph API 実行環境を含めて事前検証する必要があります。(Microsoft Learn)
移行期限はあるのか
今回の「Search for and delete AI application data in eDiscovery」自体について、公式情報上、新たな移行期限や強制切り替え期限は示されていません。したがって、この更新は「期限までに設定を移行しないと使えなくなる」というタイプの変更ではなく、AI アプリケーションデータ削除に関する運用手順の整備として捉えるのが現実的です。
ただし、eDiscovery 全体では注意が必要です。Microsoft は classic eDiscovery experiences を 2025年8月31日に廃止しており、classic Content Search、classic eDiscovery Standard、classic eDiscovery Premium が含まれます。21Vianet が運営する中国環境以外では、新しい Microsoft Purview portal の eDiscovery experience を使う前提です。(Microsoft Learn)
そのため、まだ古い手順書や運用メモに次のような記載が残っている場合は、見直しが必要です。
- classic Content Search から検索する手順
- 旧コンプライアンスポータルの画面名や URL を前提にした操作手順
- eDiscovery Standard / Premium の旧 UI を前提にした教育資料
- 古い PowerShell や Graph beta API を前提にした削除スクリプト
- AI アプリデータを「Teams メッセージだけ」として扱う古い説明
今後の運用では、新しい Microsoft Purview portal の eDiscovery、Microsoft Graph の security 名前空間、そして Copilot / AI アプリごとの item class を前提にした設計へそろえるべきです。
管理者が確認すべきチェックリスト
本番運用前に、最低限次の項目を確認してください。
| チェック項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 対象サービス | Microsoft 365 Copilot、Teams、Office アプリ、Copilot Studio、外部 AI アプリなど、どの AI 活動が対象か |
| 対象ユーザー | 削除対象のメールボックスを特定できているか |
| 検索条件 | Item class、日付範囲、キーワードで十分に絞り込めているか |
| レビュー | 削除対象アイテムを人の目で確認したか |
| 権限 | eDiscovery Manager、Search And Purge、Graph 権限が適切か |
| 保持設定 | Retention policy、Litigation Hold、eDiscovery hold を確認したか |
| 承認 | 法務・監査・セキュリティ責任者の承認があるか |
| 削除上限 | AI データ削除手順の 10 アイテム / メールボックス制限を考慮しているか |
| 実行方法 | Graph Explorer、Graph API、PowerShell のどれで実行するか決めているか |
| 削除後確認 | Operation status、再検索、保持設定の再適用を行う手順があるか |
| 監査証跡 | 作業者、日時、理由、検索条件、実行結果を記録するか |
特に重要なのは、保持設定の一時解除と再適用です。削除作業のために保持ポリシーを外したままにすると、本来保持すべきデータが失われるリスクがあります。削除対象の最小化と同じくらい、「削除後に元の保護状態へ戻す」作業が重要です。
よくある失敗と回避策
検索条件が広すぎる
「Copilot activity」だけで広い期間を検索すると、削除対象が想定以上に増える可能性があります。日付、ユーザー、キーワード、対象アプリを組み合わせ、まずは狭い検索から始めるべきです。
たとえば、特定案件の社外秘情報が 2026年7月1日に入力された可能性があるなら、最初は対象ユーザーと当日前後の日付、案件コードや顧客名を組み合わせて検索します。
保持ポリシーを確認せずに削除する
保持ポリシーやホールドがあると、削除しようとしたデータが保持されます。削除処理だけを見て成功・失敗を判断せず、対象メールボックスに適用されている保持設定を必ず確認してください。
Copilot memory を見落とす
会話やメッセージを削除しても、関連する Copilot memory が削除されるとは限りません。メモリに残る可能性がある情報を扱う場合は、会話履歴とメモリを分けて確認する必要があります。(Microsoft Learn)
API の一般上限をそのまま当てはめる
Microsoft Graph の一般的な purgeData 説明では場所ごとに最大 100 アイテムとされていますが、AI アプリケーションデータ削除の公式手順ではメールボックスごとに一度に最大 10 アイテムと説明されています。AI データ削除の運用では、対象手順の制限を優先して計画しましょう。(Microsoft Learn)
削除後すぐに完全削除されたと判断する
削除後のデータは SubstrateHolds に移動し、少なくとも 1 日保持された後、タイマージョブによって完全削除されます。削除直後の再検索結果だけで結論を出さず、時間差を考慮して確認する必要があります。(Microsoft Learn)
企業での活用シーン
この機能は、単なる管理者向けの削除ツールではなく、AI ガバナンスの運用に組み込むと効果的です。
生成 AI への機密情報入力時の初動対応
ユーザーが誤って未発表情報、顧客情報、認証情報、個人情報などを Copilot や AI アプリに入力した場合、eDiscovery で該当アクティビティを検索し、必要に応じて削除できます。
このとき、削除だけで終わらせず、次の対応もセットで行うべきです。
- 入力された情報の種類を分類する
- 外部送信や二次利用の可能性を評価する
- DLP、Insider Risk Management、監査ログと突き合わせる
- ユーザー教育やプロンプト入力ルールを見直す
AI 利用ポリシー違反の調査
社内ルールで禁止している情報を AI に入力した疑いがある場合、eDiscovery を使って対象ユーザー、対象期間、キーワードを絞り込んで確認できます。
ただし、従業員の AI 利用履歴はプライバシーや労務管理にも関係します。調査の根拠、対象範囲、承認者を明確にし、必要最小限の検索にとどめることが重要です。
Copilot 展開前の運用設計
Copilot を全社展開する前に、この削除ワークフローをインシデント対応手順に組み込んでおくと、実際のトラブル時に迷わず動けます。
展開前に準備すべきものは次のとおりです。
- AI データスピル時の連絡フロー
- eDiscovery ケース作成手順
- AI 活動データ検索テンプレート
- Graph Explorer / PowerShell の実行手順
- 保持ポリシー一時解除の承認ルール
- 削除後の再確認と監査記録テンプレート
まず管理者が取るべき次のアクション
Microsoft Purview の「Search for and delete AI application data in eDiscovery」は、Copilot 時代のデータ漏えい対応に欠かせない機能です。ただし、削除対象はユーザーのメールボックスに保存された AI 活動データであり、元ファイル、Copilot memory、Teams や SharePoint 上の関連データまで自動的に消えるわけではありません。
管理者は、まず次の 3 点から着手するとよいでしょう。
- 自社で利用している Copilot と AI アプリを棚卸しする
- eDiscovery と Search And Purge の権限、Graph 実行環境を確認する
- データスピル発生時の検索、承認、削除、再確認、保持設定の復元手順を文書化する
この機能は、強力である一方、誤用すると必要な証跡や保持対象データに影響する可能性があります。検索条件を狭く作り、レビューしてから削除し、削除後に保持設定を戻す。この一連の流れを運用ルールとして固めておくことが、Microsoft Purview による AI データ管理の実務上のポイントです。

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