Office LTSCとAzure Information Protection labeling clientの今後|2026年更新から読む移行方針

2026年4月20日の Microsoft Partner Center 更新で注目すべき点は、Office LTSC 2021 のサポート終了だけではありません。Microsoft が同じ移行ガイダンスの中で、永続版 Office 向け Azure Information Protection labeling client の廃止にも触れたことです。つまり、Office LTSC を使い続けるかどうかの判断は、単なる「Office の買い替え」ではなく、秘密度ラベル、情報保護、Copilot 対応、運用ポリシーまで含めた中期ロードマップとして見直す必要があります。

結論から言うと、標準的な業務端末は Microsoft 365 Apps への移行を第一候補にし、Office LTSC は「クラウド接続が難しい端末」「機能更新を避けたい固定用途端末」に限定して設計するのが現実的です。特に AIP の Office アドインに依存している環境では、Microsoft Purview の組み込み秘密度ラベルと Microsoft Purview Information Protection クライアントへ役割を分けて移行する計画が必要です。Microsoft は Office LTSC 2021、Project LTSC 2021、Visio LTSC 2021 のサポート終了日を 2026年10月13日と案内し、AIP labeling client for perpetual Office は retired と明記しています。 (Microsoft Learn)

目次

2026年4月20日の更新で何が示されたのか

今回の発表は、Office LTSC 2021、Project LTSC 2021、Visio LTSC 2021 が 2026年10月13日にサポート終了を迎えるという移行案内です。サポート終了後は更新、セキュリティ修正、技術サポートを受けられなくなるため、Microsoft は Microsoft 365 への移行を推奨しています。 (Microsoft Learn)

ただし、Product owners や IT decision-makers が見落としてはいけないのは、発表の中にある次の文脈です。

  • Microsoft 365 Copilot は、Microsoft 365 スイートに含まれるクラウド連携型アプリでのみサポートされる
  • オンプレミス版 Office は Copilot の対象ではない
  • 永続版 Office 向けの Azure Information Protection labeling client は廃止済み
  • クラウド利用が難しい場合の代替として Office LTSC 2024、Project LTSC 2024、Visio LTSC 2024 が挙げられている

この並びから読み取れるのは、Microsoft の製品方向性が「Office LTSC を完全に廃止する」ではなく、Office LTSC の利用範囲を限定し、通常業務の中心は Microsoft 365 Apps と Microsoft Purview に寄せるというものだという点です。

Office LTSC は今後も使えるが、主役ではなくなる

Office LTSC は、Long Term Servicing Channel の名前どおり、固定された機能セットを長期間安定して使うための Office です。頻繁な機能追加が困る環境、インターネット接続が制限される環境、検証済み構成を長く維持したい環境では今後も意味があります。

一方で、Microsoft 365 Apps とは性格が大きく異なります。Microsoft Learn では、Office LTSC 2024 はリリース後に新機能を受け取らず、継続的に新しい Office 機能を使いたい場合は Microsoft 365 プランへの移行を検討するよう案内されています。 (Microsoft Learn)

観点Microsoft 365 AppsOffice LTSC 2024
主な用途一般的な業務端末、共同作業、クラウド連携固定用途端末、制限環境、検証済み構成の維持
機能更新継続的に追加されるリリース後の新機能追加は基本的にない
セキュリティ更新継続提供サポート期間内で提供
Copilot 連携対象になり得るオンプレミス版 Office は対象外
秘密度ラベル運用Office 組み込みラベルを中心に設計組み込み対応の範囲と制約を確認して設計
向いている端末標準業務 PC、VDI、モバイル利用者工場端末、閉域端末、ラボ端末、規制上クラウド接続できない端末

ここで重要なのは、Office LTSC を「安いから」「買い切りだから」という理由だけで選ばないことです。LTSC はコスト削減策というより、変化を抑えるための運用設計です。継続的なセキュリティ機能、クラウドベースの情報保護、AI 活用を重視する部門では、LTSC を標準にすると将来の選択肢が狭くなります。

Azure Information Protection labeling client の廃止が意味すること

Azure Information Protection labeling client、特に Office アドインに依存していた組織では、今回の発表を「AIP が使えなくなる」という単純な話として捉えると誤解が生まれます。

Microsoft の現在の方向性は、AIP の Office アドインを継続するのではなく、Office アプリに組み込まれた秘密度ラベルと Microsoft Purview Information Protection クライアントへ移行することです。Microsoft Learn では、AIP unified labeling client は Microsoft Purview Information Protection client に置き換えられ、Word、Excel、PowerPoint、Outlook 用の Office ラベル付けアドインは廃止されたと説明されています。 (Microsoft Learn)

つまり、今後の情報保護運用は次のように分けて考える必要があります。

旧来の役割今後の考え方
Office アプリ上で AIP アドインを使ってラベル付けOffice に組み込まれた秘密度ラベルを使う
エクスプローラーからファイルにラベル付けMicrosoft Purview Information Protection クライアントを使う
ファイルサーバーや SharePoint Server 上のファイルを検出・ラベル付け情報保護スキャナーを使う
保護されたファイルの閲覧Information Protection Viewer を使う
スクリプトや自動処理Microsoft Purview Information Protection PowerShell モジュールを検討する

Microsoft Purview Information Protection クライアントは、Microsoft 365 アプリやサービスに組み込まれたラベル機能を拡張する位置づけです。Windows 上で動作し、スキャナー、ファイル ラベラー、ビューアー、PowerShell モジュールなどのコンポーネントを提供します。ただし、Office アドインは含まれません。 (Microsoft Learn)

AIP アドイン依存環境で確認すべきポイント

AIP の廃止影響を判断するには、「AIP を使っているか」ではなく、どの機能を、どの画面で、誰が使っているかを棚卸しする必要があります。

確認すべき代表的な利用パターン

確認項目影響の見方対応方針
Office リボン上に AIP アドインが表示されている旧アドイン依存の可能性が高いOffice 組み込みの秘密度ラベルへ移行
グループポリシーで AIP アドイン利用を有効化している組み込みラベルの利用を阻害する可能性がある設定の見直しが必要
ファイルサーバー上の既存ファイルを自動分類しているスキャナー運用の継続確認が必要Purview Information Protection スキャナーへ移行・更新
エクスプローラー右クリックでラベル付けしているOffice アドインではなくファイル ラベラーの領域Purview クライアントで代替可能か検証
オフライン端末でラベル付けしている暗号化やポリシー取得に制約が出やすい接続条件、ラベル種別、監査要件を確認
独自スクリプトでラベル操作しているコマンドレットや認証方式の変更に注意PowerShell モジュールと権限設計を再検証

特に注意したいのが、Office 側のポリシー設定です。Microsoft Learn では、AIP unified labeling client の Windows Office アドインは廃止されサポートされておらず、Office アプリに組み込まれた秘密度ラベルに置き換えられたと説明されています。また、Office ポリシーの「Use the Azure Information Protection add-in for sensitivity labeling」は未構成または無効にする必要があり、有効だと Office アプリで秘密度ラベルを使えないと案内されています。 (Microsoft Learn)

この設定は移行時の典型的な落とし穴です。AIP アドインを残したまま「新しいラベル機能が表示されない」「ユーザーごとに挙動が違う」といった問い合わせが発生することがあります。

Office LTSC 2021 からの移行先はどう選ぶべきか

Office LTSC 2021 のサポート終了を機に、全端末を Office LTSC 2024 へ機械的に上げるのは最適とは限りません。判断軸は、ライセンス形態ではなく業務要件です。

移行先の判断基準

業務・端末の条件推奨候補理由
一般社員が日常的に Word、Excel、PowerPoint、Outlook を使うMicrosoft 365 Apps新機能、セキュリティ、共同編集、クラウド連携を取り込みやすい
Copilot 活用を検討しているMicrosoft 365 Apps を含む対象プランLTSC では Copilot 活用の前提を満たしにくい
秘密度ラベル、DLP、監査を強化したいMicrosoft 365 + Microsoft Purviewラベル、監査、ポリシー管理を統合しやすい
インターネット接続が制限された専用端末Office LTSC 2024固定機能セットの方が運用しやすい
工場、医療、ラボなどアプリ検証が厳しい端末Office LTSC 2024更新による業務影響を抑えやすい
Project / Visio もサポート期限を迎えるProject Plan / Visio Plan または LTSC 2024クラウド利用可否と共同作業要件で分ける

Microsoft は Office LTSC 2021 のサポート終了に対して、企業向けには Microsoft 365 E3 を主な推奨パスとして挙げ、Office 365 E3 や Microsoft 365 Apps for enterprise をニーズに応じた選択肢として示しています。中小規模の顧客向けには Microsoft 365 Business Premium、Business Standard、Microsoft 365 Apps for Business などを挙げています。 (Microsoft Learn)

Product owners が見るべきロードマップの読み方

Product owner の視点では、今回の更新は「Office のバージョン更新」ではなく、社内プロダクトとしてのエンドユーザー環境をどう設計するかという問題です。

見るべきポイントは次の3つです。

標準端末と例外端末を分ける

すべての端末を同じ Office 構成にする必要はありません。むしろ、今後は標準端末と例外端末を明確に分けるべきです。

標準端末は Microsoft 365 Apps を前提にし、秘密度ラベル、条件付きアクセス、監査、Copilot 対応を継続的に取り込める構成にします。一方、例外端末は Office LTSC を使う理由を明文化し、対象台数、用途、サポート期限、代替計画を管理します。

「買い切り Office の維持」を目的にしない

Office LTSC 2024 は 2029年10月9日までのサポートが示されています。Microsoft Lifecycle では、Office LTSC 2024 は Fixed Lifecycle Policy に従い、サポート終了日は 2029年10月9日とされています。 (Microsoft Learn)

ただし、これは「2029年まで安心して放置できる」という意味ではありません。セキュリティや情報保護、Copilot、クラウドサービス連携の要件はその間にも変わります。Office LTSC 2024 を選ぶ場合でも、2028年前半には次の更新判断を始めるくらいの計画が必要です。

情報保護を Office の付属機能として扱わない

AIP labeling client の流れを見ると、情報保護は Office アドイン中心の運用から、Microsoft Purview を中心にしたポリシー運用へ移っています。Product owner は「Office にラベルボタンがあるか」だけでなく、次の観点で要件を定義する必要があります。

  • どの情報を機密として扱うか
  • 誰がラベルを手動適用するか
  • 自動ラベル付けを使うか
  • 暗号化を伴うラベルをどこまで使うか
  • 外部共有時の例外承認をどうするか
  • 監査ログを誰が確認するか
  • 既存ファイルの棚卸しと再ラベル付けをどう進めるか

この設計を後回しにすると、Office 移行は完了しても、情報保護の運用だけ旧方式のまま残ります。

IT decision-makers が押さえるべき投資判断

IT decision-makers にとっての論点は、ライセンス費用だけではありません。Office LTSC を残すことで避けられるコストと、Microsoft 365 へ移行することで得られる統制・自動化・セキュリティ価値を比較する必要があります。

判断に使える比較軸

比較軸Office LTSC 維持で起きやすいことMicrosoft 365 Apps 移行で得やすいこと
セキュリティ固定機能のため新しい保護機能を取り込みにくい継続的なセキュリティ更新とクラウド連携
管理端末単位の配布・更新管理が中心Intune、クラウドポリシー、グループ単位制御と相性がよい
情報保護AIP 旧アドイン依存が残ると移行負債になるPurview の秘密度ラベルを標準化しやすい
AI 活用Copilot 利用の前提を満たしにくいCopilot 導入検討の土台になる
監査・コンプライアンス個別運用が増えやすいラベル、監査、DLP と連携しやすい
予算短期的には買い切りに見える継続費用は発生するが機能更新と運用統制を含めて評価できる

短期予算だけを見ると、Office LTSC 2024 への更新が分かりやすい選択に見える場合があります。しかし、AIP アドイン廃止、Copilot 非対応、クラウドベースの情報保護強化という流れを踏まえると、標準業務環境まで LTSC に寄せるのは将来コストを増やす可能性があります。

Technical strategists が設計すべき移行アーキテクチャ

Technical strategist の役割は、単に移行先を決めることではなく、将来の変更に耐えられる構成にすることです。今回のテーマでは、Office、ID、端末管理、情報保護を分けずに設計する必要があります。

推奨する設計単位

設計領域検討内容
IDMicrosoft Entra ID 連携、SSO、MFA、条件付きアクセス
端末Windows 11 / Windows 10、VDI、RDS、共有端末、閉域端末
OfficeMicrosoft 365 Apps、Office LTSC 2024、Project / Visio の配置
ラベル秘密度ラベル、ラベルポリシー、既定ラベル、自動ラベル
保護暗号化、外部共有、ゲストアクセス、例外処理
管理Intune、グループポリシー、Cloud Policy service
移行AIP アドイン削除、Purview クライアント展開、スキャナー更新
監査Microsoft Purview 監査、ラベル利用状況、誤適用のレビュー

特に、Microsoft Purview Information Protection クライアントはクラウドベースのサブスクリプション、Microsoft Entra ID、対象 OS などの前提条件があります。対応 OS には Windows 11、Windows 10 x64、Windows Server 2019、Windows Server 2016 などが挙げられています。 (Microsoft Learn)

このため、Office の移行計画だけを先に決めると、後から「古いサーバー OS 上のスキャナーが対応しない」「VDI で認証が安定しない」「閉域端末で暗号化ラベルが使えない」といった問題が出やすくなります。

実務で使える移行ステップ

Office LTSC と AIP labeling client の移行は、棚卸し、方針決定、技術検証、段階展開の順で進めると失敗しにくくなります。

フェーズ実施内容成果物
棚卸しOffice バージョン、Project / Visio、AIP クライアント、アドイン、GPO、端末用途を確認現状一覧、影響端末リスト
分類標準端末、例外端末、閉域端末、共有端末に分類移行方針マトリクス
方針決定Microsoft 365 Apps と Office LTSC 2024 の使い分けを決める標準構成、例外基準
ラベル設計秘密度ラベル、暗号化、既定ラベル、外部共有ルールを見直すラベルポリシー設計書
検証Office 組み込みラベル、Purview クライアント、スキャナー、PowerShell を検証検証結果、既知の制約
展開AIP アドイン削除、Office 更新、Purview クライアント展開展開手順、ユーザー通知
運用問い合わせ対応、監査、ラベル利用状況の確認運用手順、改善バックログ

最初に実施すべき棚卸しコマンド・確認項目

実務では、次のような観点で端末とポリシーを確認します。

  • Office LTSC 2021 / Office 2021 / Office 2019 が残っている端末
  • Project LTSC 2021 / Visio LTSC 2021 の利用者
  • Azure Information Protection unified labeling client のインストール有無
  • Office アドイン一覧
  • グループポリシーまたは Cloud Policy service の Office セキュリティ設定
  • 秘密度ラベルが表示されないユーザーの共通点
  • ファイルサーバー、SharePoint Server、NAS 上の保護対象データ
  • オフライン利用が必要な端末の数と用途

この棚卸しをせずに移行すると、標準端末は移行できても、Project / Visio 利用者、旧 AIP アドイン利用者、閉域端末だけが後から問題化します。

失敗しやすいポイントと回避策

Office LTSC 2024 を全社標準にしてしまう

Office LTSC 2024 は有効な選択肢ですが、全社標準にすると Microsoft 365 Apps の継続的な機能強化、Copilot、クラウドベースの情報保護を取り込みにくくなります。

回避策は、Office LTSC を例外扱いにすることです。例外端末には、利用理由、責任者、サポート期限、更新判断日を持たせます。

AIP アドインを残したまま秘密度ラベルを移行する

旧 AIP アドインと Office 組み込みラベルの設定が混在すると、ユーザー体験が不安定になります。ラベルが表示されない、ボタンの場所が違う、暗号化の挙動が違うといった問い合わせにつながります。

回避策は、AIP アドイン依存端末を特定し、Office ポリシー設定を確認したうえで、組み込み秘密度ラベルへ移行することです。

ラベル設計をそのまま引き継ぐ

旧環境のラベル体系をそのまま移すと、分類が多すぎる、説明が曖昧、暗号化の適用範囲が広すぎる、といった問題が残ります。

回避策は、ラベルを「ユーザーが選べる分類」と「管理者が自動適用する分類」に分けることです。たとえば、一般ユーザー向けには「公開可」「社外秘」「機密」程度に絞り、法務・人事・財務などの高度な分類は自動ラベルや部門別ポリシーで補う設計が現実的です。

オフライン要件を後から確認する

Office LTSC を選ぶ環境では、オフラインや閉域の要件が多くなります。しかし、秘密度ラベルや暗号化、監査はクラウド接続を前提にする部分があります。

回避策は、端末ごとに「完全オフライン」「定期接続あり」「常時接続」の3段階で分類し、ラベル取得、暗号化、監査送信、ファイル閲覧の可否を検証することです。

今後の運用方針は「標準化」と「例外管理」が鍵になる

Office LTSC / Azure Information Protection labeling client のロードマップを読むうえで、最も重要なのは、Microsoft が Office と情報保護を別々の製品としてではなく、Microsoft 365 と Microsoft Purview の一体運用へ寄せている点です。

今後の方針は、次のように整理できます。

  • 一般業務端末は Microsoft 365 Apps を標準にする
  • Office LTSC は固定用途・制限環境に限定する
  • AIP Office アドイン依存を解消する
  • 秘密度ラベルは Office 組み込み機能と Microsoft Purview を中心に再設計する
  • Project / Visio も LTSC 更新かクラウド版移行かを個別判断する
  • Copilot 活用を考える部門は、LTSC ではなく Microsoft 365 Apps 前提で計画する
  • 例外端末には期限、責任者、次回見直し日を設定する

今回の 2026年4月20日の更新は、サポート終了の通知であると同時に、Office LTSC と AIP labeling client を取り巻く製品方向性を確認する材料でもあります。まずは Office LTSC 2021 と AIP アドインの利用状況を棚卸しし、標準端末は Microsoft 365 Apps へ、例外端末は Office LTSC 2024 へという切り分けを明文化してください。そのうえで、秘密度ラベルを Microsoft Purview ベースに再設計することが、2026年以降の安全で拡張しやすい運用につながります。

この記事を書いた人

実務の現場で詰まりがちなポイントを地図にするITブログ「IT trip」を運営。Windows/Office(Teams・Excel)からSQL、サーバ運用、ガジェットまで、再現性のある手順と“なぜそうなるか”を丁寧に解説します。読んだらすぐ試せること、そして迷った人の次の一歩が見えることを大切にしています。

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