Microsoft 365 Copilot のエージェント開発で Microsoft Copilot Studio を使っている場合、今回まず確認すべきポイントは「エージェントごとに主AIモデルを選ぶ運用」が明確化されたことです。2026年7月3日に更新された Microsoft Learn の「Select a primary AI model for your agent」では、Copilot Studio のエージェントに対して、既定モデル、一般提供モデル、プレビュー/実験的モデル、外部モデルをどう選ぶかが整理されています。特に管理者は、モデル選択そのものよりも、本番利用に適したモデルか、地域外データ処理が発生する可能性があるか、プレビューや外部モデルを誰に許可するかを先に確認する必要があります。(Microsoft Learn)
Microsoft 365 Copilot のエージェントで何が変わるのか
今回の更新は、Microsoft 365 Copilot 全体の会話モデルをユーザーが自由に切り替える話ではありません。対象は、Microsoft Copilot Studio で作成するエージェントの「primary AI model」、つまりエージェントの生成オーケストレーションに使う主モデルの選択です。
Copilot Studio では、エージェントの Overview ページにある Model セクションから主モデルを選択できます。公式ドキュメントでは、エージェントは通常、ほとんどのシナリオ向けに最適化された既定モデルから開始し、必要に応じてモデルを変更できると説明されています。(Microsoft Learn)
実務上の意味は大きく、同じエージェントでも、FAQ対応、社内ヘルプデスク、契約書確認、複数システムをまたぐトラブルシューティングなど、用途に応じてモデルを選び分ける余地が出てきます。一方で、モデルの選択肢が増えるほど、管理者側のガバナンスも重要になります。
「Select a primary AI model for your agent」の要点
公式情報で押さえるべき要点は、次の4つです。
| 確認項目 | 内容 | 実務上の見方 |
|---|---|---|
| 主モデルの選択 | エージェント単位で主AIモデルを選択できる | エージェントの用途ごとに精度、速度、コスト、安定性を比較する |
| モデルの種類 | General、Deep、Auto など用途別のタグがある | 単純なFAQなら General、複雑な判断なら Deep、混在業務なら Auto を検討する |
| リリース状態 | Default、GA、Preview、Experimental、Retired などがある | 本番環境では原則として Default または GA を優先する |
| 管理者制御 | プレビュー/実験的モデル、外部モデル、地域外データ移動を管理できる | 環境単位・環境グループ単位で許可範囲を決める |
Microsoft は、実験的モデルは調査やテスト向けであり、本番利用は推奨されないと明記しています。また、実験的モデルで処理されるデータは、組織の地理的境界外で処理・保存される可能性があるため、グローバル企業や規制業種では特に注意が必要です。(Microsoft Learn)
影響範囲:対応が必要な組織
この更新の影響を受けやすいのは、次のような組織です。
- Copilot Studio で社内向けまたは顧客向けエージェントを作成している
- Microsoft 365 Copilot から利用するエージェントを展開している
- 複数地域に Power Platform 環境を持っている
- プレビュー機能や実験的AIモデルを検証環境で使っている
- Anthropic、Mistral、xAI などの外部モデル利用を検討している
- 金融、医療、公共、製造など、データ所在地や監査要件が厳しい業務でエージェントを使う
逆に、通常の Microsoft 365 Copilot Chat を使っているだけで、Copilot Studio のエージェントを作成・管理していない組織では、すぐに設定変更が必要になるケースは限定的です。ただし、今後 Copilot Studio エージェントを Microsoft 365 Copilot に組み込む予定があるなら、早めに管理ポリシーを決めておくべきです。
主AIモデルの選び方:General、Deep、Auto の違い
Copilot Studio のモデルは、用途に応じたタグで分類されています。公式ドキュメントでは、General、Deep、Auto というモデル利用カテゴリが示されており、それぞれ得意領域、待ち時間、コスト、推論の深さが異なります。(Microsoft Learn)
| モデルカテゴリ | 向いている用途 | 強み | 注意点 |
|---|---|---|---|
| General | FAQ、文章作成、要約、翻訳、軽い自動化 | 応答が速く、コストを抑えやすい | 複雑な多段推論や厳密な分析には不向きな場合がある |
| Deep | 契約書確認、ポリシー分析、複雑なトラブルシューティング、長文資料の統合 | 多段階の推論やツール連携に強い | 待ち時間とコストが高くなりやすい |
| Auto | 社内ヘルプデスク、問い合わせ内容が幅広いエージェント、複雑度が読みにくい業務 | 入力内容に応じて動的に処理を調整できる | コストや応答時間が一定になりにくい |
実務では、いきなり高性能な Deep モデルを全エージェントに使うのではなく、業務の複雑さで分けるのが現実的です。
たとえば、社内規程の「休暇申請の締切を教えて」といった問い合わせが中心なら General で十分な場合があります。一方、「この契約条項が自社の購買ポリシーに反していないか確認し、関連規程も引用して説明して」という用途なら Deep を検討する価値があります。問い合わせ内容が日によって大きく変わるヘルプデスク型エージェントでは Auto が候補になります。
本番環境で重視すべきモデルの状態
モデル名だけで判断すると、運用上のリスクを見落とします。特に管理者は、モデルのリリース状態を必ず確認してください。
| 状態 | 意味 | 本番利用の判断 |
|---|---|---|
| Default | 既定モデル。通常は一般提供モデルの中で推奨されるモデル | 標準候補。迷った場合の第一候補 |
| GA | 一般提供モデル | 本番利用の候補。地域別の利用可否は確認が必要 |
| Preview | 将来一般提供される可能性があるが、現時点では本番向けではない | 検証環境で評価する |
| Experimental | 実験・評価向けのモデル | 本番環境では避ける |
| Retired | 新しい既定モデルに置き換えられた旧モデル | 速やかに移行計画を立てる |
| Cross-geo | 地域外で処理や保存が発生する可能性がある | データ所在地・契約・社内規程を確認する |
| Early access environment | 早期リリースサイクル環境で利用されるモデル | 先行検証向け。標準環境とは分けて扱う |
公式ドキュメントでは、Default は定期的に新しい高性能モデルへアップグレードされる場合があり、選択したモデルが無効または利用不可になった場合のフォールバックにも使われると説明されています。また Retired モデルは、新しいモデルが既定になった後、一定期間だけ継続利用できる扱いです。(Microsoft Learn)
2026年7月3日時点のモデル可用性で注意すべき点
2026年7月3日更新の公式表では、地域ごとに利用できるモデル、既定モデル、一般提供、プレビュー、実験的モデル、Retired の状態が整理されています。たとえば Public availability の表では、GPT-4.1 が Default として示され、GPT-4o は Retired とされています。また GPT-5 Chat、GPT-5.5 Chat、Claude 系モデル、Mistral 系モデルなども、地域や状態によって GA、Preview、Experimental、cross-geo などの扱いが異なります。(Microsoft Learn)
ここで重要なのは、「自社テナントで見えるモデル」と「公式表で一般的に示されているモデル」が常に同じとは限らないことです。モデルの表示可否は、地域、環境、管理者設定、早期アクセス環境、外部モデルの許可状態によって変わります。
特にグローバル企業では、次のような確認が必要です。
| 確認対象 | 確認する理由 |
|---|---|
| 日本、アジア、欧州、米国などの環境リージョン | 同じモデルでも地域によって GA、Preview、cross-geo の扱いが変わるため |
| Government cloud | Public availability とは別の表で確認する必要があるため |
| cross-geo 表示 | 入出力データが地域外で処理される可能性があるため |
| Early access environment | 早期リリースモデルが標準環境と異なる可能性があるため |
| 外部モデル | Microsoft 365 管理センターと Power Platform 管理センターの両方で許可が必要な場合があるため |
設定変更の手順:Copilot Studioで主AIモデルを選ぶ
エージェント作成者が主AIモデルを変更する流れはシンプルです。
| 手順 | 操作 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 1 | Copilot Studio で対象エージェントを開く | 本番エージェントか検証エージェントかを確認する |
| 2 | Overview ページを開く | 設定対象が正しいエージェントか確認する |
| 3 | Model セクションで主モデルを選択する | Default、GA、Preview、Experimental、外部モデルの状態を確認する |
| 4 | テスト会話を実行する | 精度、応答時間、意図認識、ツール実行、引用の品質を確認する |
| 5 | 公開前レビューを行う | 管理者ポリシー、データ所在地、コスト影響を確認する |
公式ドキュメントでは、エージェントの Overview ページに移動し、Model セクションで primary model を選択する手順が示されています。実験的モデルと本番向けモデルは切り替えられますが、実験的モデルは本番利用に適さない点に注意が必要です。(Microsoft Learn)
管理者が確認すべき設定
モデル選択は作成者だけの問題ではありません。Copilot Studio のエージェントを組織で使う場合、管理者は Power Platform 管理センターと Microsoft 365 管理センターの両方を確認する必要があります。
プレビュー/実験的AIモデルの許可
Power Platform 管理センターでは、環境の機能設定として「Preview and experimental AI models」を制御できます。この設定がオフの場合、その環境では Copilot Studio や AI prompts、AI Builder のモデルタイプでプレビューまたは実験的AIモデルにアクセスできません。公式ドキュメントでは、この設定の既定値は On とされていますが、実際の運用では環境ごとに確認すべきです。(Microsoft Learn)
おすすめの運用は、本番環境では原則オフ、検証環境ではオンにする分離です。これにより、作成者は新モデルを試しつつ、本番エージェントに不安定なモデルが入るリスクを抑えられます。
地域外データ移動の許可
cross-geo と表示されるモデルや一部の生成AI機能では、環境の地域外でデータ処理が発生する可能性があります。Microsoft は、地域外データ移動を許可した場合、入力プロンプトや出力結果が生成AI機能のホスト地域へ移動する可能性があると説明しています。(Microsoft Learn)
Power Platform 管理センターでは、Generative AI features の設定から Move data across regions を確認します。公式ドキュメントでは、地域外データ移動が必要になるのは、必要なモデルがローカルに展開されていない場合、容量不足時のオーバーフロー、またはローカルモデルに信頼性上の問題がある場合などと説明されています。(Microsoft Learn)
特に注意したいのは、地域外データ移動を許可していた期間に発生したデータ移動は、後からチェックを外しても取り消せない点です。(Microsoft Learn)
外部モデルの許可
Copilot Studio では、Anthropic、Mistral、xAI などの外部モデルを主モデルとして選べる場合があります。ただし、外部モデルを使うには Power Platform 管理センターで外部モデルを許可するだけでなく、Microsoft 365 管理センター側で各プロバイダーへのアクセス許可が必要になる場合があります。(Microsoft Learn)
外部モデルは選択肢を広げる一方で、契約条件、データ処理条件、地域制約、監査要件を必ず確認する必要があります。公式情報では、Mistral や xAI のモデルは Microsoft 外部でホストされ、それぞれの条件やデータ取り扱いの対象になると説明されています。また xAI モデルは米国テナント向けなどの制約も示されています。(Microsoft Learn)
管理者向けの推奨設定例
組織で混乱を避けるには、環境ごとにモデル利用ルールを分けるのが効果的です。
| 環境 | 推奨方針 | 理由 |
|---|---|---|
| 本番環境 | Default または GA を原則利用 | 安定性、サポート、品質を優先するため |
| 検証環境 | Preview、Experimental を限定的に許可 | 新モデルの品質やコストを事前評価するため |
| 早期アクセス環境 | 専任チームだけが利用 | 仕様変更や機能差分を管理しやすくするため |
| 機密データを扱う環境 | cross-geo と外部モデルを慎重に制限 | データ所在地、契約、監査要件への影響があるため |
| グローバル共通テンプレート環境 | 地域ごとのモデル可用性を前提に設計 | 日本、欧州、米国などで同じ動作を保証できない場合があるため |
よくある失敗は、検証環境で試したモデルをそのまま本番環境へ持ち込むことです。プレビューや実験的モデルは、応答品質、待ち時間、メッセージ消費、可用性にばらつきが出る可能性があり、タイムアウトや利用不可が発生する場合もあります。公式ドキュメントでも、プレビュー/実験的モデルは本番利用を避けるよう説明されています。(Microsoft Learn)
移行期限:全体一律の期限より「Retiredモデル」に注意
今回の更新情報から読み取れる重要な移行ポイントは、Retired モデルの扱いです。公式ドキュメントでは、新しいモデルが既定モデルになると古い既定モデルは Retired となり、Retired モデルは退役後最大1か月利用できると説明されています。(Microsoft Learn)
別の公式ページでは、Retired モデルを自動アップグレード後30日間継続利用できる設定として「Continue using retired models」が紹介されています。この設定をオンにすると、30日間は退役モデルとアップグレード後モデルを切り替えられるとされています。(Microsoft Learn)
つまり、管理者が取るべき行動は「期限が来たら対応する」ではなく、「Retired 表示を見つけた時点で30日以内の検証・切替計画を作る」ことです。
Retiredモデルが見つかったときの対応手順
| 手順 | 対応内容 |
|---|---|
| 1 | Retired モデルを使っているエージェントを一覧化する |
| 2 | 影響が大きい本番エージェントから優先順位を付ける |
| 3 | 新しい Default または GA モデルで同じテストケースを実行する |
| 4 | 回答精度、応答時間、コスト、ツール実行、引用品質を比較する |
| 5 | 問題がなければモデルを切り替える |
| 6 | 問題がある場合はプロンプト、ナレッジ、アクション定義を調整する |
| 7 | 変更内容と判断理由を管理台帳に残す |
特に、契約書確認や問い合わせ対応など、回答品質が業務判断に直結するエージェントでは、モデル変更だけで回答トーンや根拠の出し方が変わることがあります。移行時は「同じ質問に同じ品質で答えられるか」を必ず確認してください。
本番公開前に確認すべきテスト項目
モデルを変更したら、最低限次の観点でテストします。
| テスト項目 | 確認内容 | 例 |
|---|---|---|
| 正確性 | 業務ルールに沿った回答になっているか | 社内規程の条件を誤って解釈していないか |
| 根拠提示 | 必要な資料やデータを参照できているか | SharePoint 上の最新資料をもとに回答しているか |
| 応答時間 | 業務で許容できる速度か | ヘルプデスク用途で待ち時間が長すぎないか |
| コスト | 利用量が想定を超えないか | Deep モデルで不要に高コスト化していないか |
| 安全性 | 不適切な出力や過剰な断定がないか | 法務・人事・医療的な助言を断定していないか |
| 地域・契約 | cross-geo や外部モデルの利用条件を満たすか | 日本環境のデータが国外処理される可能性を把握しているか |
| フォールバック | 選択モデルが使えない場合の挙動を把握しているか | Default モデルへ切り替わった場合でも破綻しないか |
おすすめは、実際の問い合わせログから20〜50件程度を抽出し、旧モデルと新モデルで比較する方法です。単発の会話テストだけでは、言い換え、曖昧な質問、複数条件を含む質問、ツール実行を伴う質問の差が見えません。
よくある誤解と注意点
モデルを新しくすれば必ず良くなるとは限らない
新しいモデルは性能が高い場合がありますが、すべての業務で最適とは限りません。FAQや短い定型回答では、軽量な General モデルの方が応答速度やコスト面で適していることがあります。
PreviewやExperimentalは検証用と考える
Preview や Experimental は、早く試せることがメリットです。一方で、可用性、品質、レイテンシ、将来のサポートに制約がある場合があります。本番業務では、例外的に使う場合でも、リスク承認と代替手段を用意しておくべきです。
外部モデルとプレビューモデルの設定は別物
外部モデルを許可していても、プレビュー/実験的モデルを許可しているとは限りません。逆に、プレビュー/実験的モデルを許可していても、外部モデルが使えるとは限りません。公式ドキュメントでも、この2つは別の設定として扱われると説明されています。(Microsoft Learn)
地域外データ移動は「機能を使うための前提」になる場合がある
地域外データ移動を許可しない場合でも、すべての Copilot や生成AI機能が無効になるわけではありません。ただし、一部機能は地域内容量や提供状況に依存し、使えない場合があります。グローバル展開では、環境ごとに Move data across regions の状態を確認してください。(Microsoft Learn)
管理者が今すぐ確認すべきチェックリスト
最後に、Microsoft 365 Copilot と Copilot Studio を運用する管理者が確認すべき項目を整理します。
| チェック項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 利用中エージェントの棚卸し | どのエージェントがどの主AIモデルを使っているか |
| Retired モデルの有無 | GPT-4o など Retired 表示のモデルを使っていないか |
| 本番環境のモデル方針 | Default/GA を原則にしているか |
| 検証環境の分離 | Preview/Experimental を本番と分けて検証しているか |
| Power Platform 管理センター設定 | Preview and experimental AI models、External models、Move data across regions を確認したか |
| Microsoft 365 管理センター設定 | 外部モデルプロバイダーへのアクセス許可を確認したか |
| 地域・データ所在地 | cross-geo モデル利用時の社内承認を取っているか |
| テストケース | モデル変更前後の回答品質を比較できるテストを用意しているか |
| 変更管理 | モデル変更日、理由、影響範囲、承認者を記録しているか |
Copilot Studio の主AIモデル選択は、エージェントの品質を高める便利な機能である一方、管理を誤ると本番環境に不安定なモデルを入れたり、意図せず地域外データ処理を許可したりするリスクがあります。まずは既存エージェントのモデル状態を棚卸しし、本番環境では Default または GA を基本方針にします。そのうえで、Preview、Experimental、外部モデル、cross-geo を検証環境で評価し、利用条件と承認フローを明文化することが、今回の更新への最も現実的な対応です。

コメント